君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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オリジナル設定回
割と根幹を占めている設定なので受け入れて貰えたら嬉しいです。

今日1話目を加筆修正する予定でしたが親知らずに痛めつけられてるので、親知らずさんを退治できたらやります。死にそう。


好きなんだろぉ? ジャンプ漫画特有の無茶理論修行回がさぁ!

 出久くんは、身体能力に恵まれているとは言い難い。

 身長は男の子にしては低いし、筋肉はついてあるけれども身長と体重がないので打撃に威力があるとは言えない。

 スタミナもタフネスも、滅茶苦茶鍛えた一般人程度としか言いようがない。

 だから、出久くんが戦闘を行う際はとにかく防御に徹して、隙を見つけて一撃で相手を沈めるという方法しか取れない。

 

 フルカウルという個性の使い方を見つけ出すまでは。

 

 

 

(うざ……ったい!)

 

 瞬き1つの間隙を縫って迫りくる出久くんの拳を受け流す。

 完全に挙動を把握しているその突きは、以前のように受け流し1つで崩せるようなものではなかった。

 ボクの反撃の蹴りは、誰もいない場所をただ通り過ぎただけだった。

 しっかりと地面を踏みしめた状態だからこそ、出久くんはすぐさま相手の攻撃範囲外へ逃れる事ができる。

 しかも、それはただの回避ではなく次へと繋げる為の一手でもある。

 恐らくボクの癖を盗んだのだろう。出久くんが移動した先は『ボクが蹴りを繰り出した体勢からだと見え辛い場所』だ。

 

(来る……!)

 

 辛うじて視界の隅に見えた出久くんの挙動から動きを予測して、出久くんの拳を後ろ手に掴む。

 

「ーーいっ?!」

 

 虚を突いた事で気が緩んだのだろう、掴まれ硬直した出久くんを前に放り投げる。

 ぐるぐると漫画みたいに縦回転しながら宙を舞う出久くんに後から追い付いて、その首を掴んで地面に叩きつけた。

 当然腕の間接をしっかり極め、動きを封じた状態でだ。

 関節技というのは筋肉の硬直を利用する技なので、いくらフルカウル状態だったとしても動けないのだ。

 

 

 

 フルカウルという全身強化術は、その出力以上に出久くんの攻撃力と機動力を上げることとなった。

 本来、無手での攻撃というのは、体重移動によるエネルギーを拳や脚といった先端部分へと加速させて叩きつけるものだ。

 だが、フルカウル状態の出久くんは、上昇したその身体能力で体重以上の力で地面を掴む(しっかりと地面を踏みしめている状態)事ができる。

 重い物を押す時に強く踏ん張るという事は逆に強く踏ん張りさえすればその分強い力が出せるということだ。

 そしてその上、地面を踏みしめている状態は回避行動への移行がスムーズに行えるという事だ。

 見てから回避余裕でした、である。今やられたけど、けっこうムカつく。

 そして最後に、これだけの攻撃力強化がありながら『体重が軽いまま』だというのが一番のポイントだ。

 体重が軽いという事は、移動の際の保持エネルギーが少ないという事で、それはつまり『方向転換の為の力が少なくて済む』という利点となる。

 ただでさえ高攻撃力で高機動力だというのに、そこに体重の軽さが加わった出久くんは

 

『少ないモーションから重い打撃を繰り出すパワーファイター』で

 

『一瞬の内に距離を詰め、一撃を放った直後には手の届かないところに離脱しているアウトファイター』で

 

『近距離高機動による超回避のインファイトアウトファイター』とかいう意味の分からない存在になってしまっていた。5%の出力でこれである。

 

 勿論、まだボクの方が強い。予測と反射神経だけで割と捌けるし、そもそも全力で出久くんの攻撃を払えばその時点で出久くんの拳は粉砕骨折する。そして、いまだにボクは個性を使っていない。

 でも、それでも出久くんが飛躍的な進歩を遂げたことは間違いのないことだ。

 

「いやー、見違えたね。すごいよ」

 

 それから数度模擬戦をしてから、戦闘態勢を解いて出久くんに近寄る。

 出久くんも模擬戦が終わったことを悟って、頬を掻きながら近寄ってきた。

 

「いや、まだまだだよ。僕はまだ、遠藤さんに個性すら使わせられていないんだ」

 

 悔し気に歪められた表情は男の子していて、自分が失ったものを他の人が持っていることに嫉妬を覚えたりもした。けれどそれを押し殺して出久くんに笑いかける。

 

「赤ちゃんが走り回ってたら怖いでしょ? いまはよちよち歩きの時期だって」

 

 そう言うと、何故か出久くんは硬直し、その頬に一筋の汗が流れた。

 

「……それ、慰めてる? 慰めてない気がするんだけど」

 

 慰めてるよ、と反論してから、ドヤ顔で漫画で見た言葉を出久くんに送る。

 

「Baby steps to Giant stridesだよ」

 

 意味は『小さな一歩の積み重ねがやがて大きな躍進へとつながる』

 焦る気持ちはわかるけれど、今は小さな一歩を確実に歩んでいくべきなのだ。

 ボクの言葉に耳を傾けている出久くんに笑いかける。

 

「だから、今日中に確実に1000歩くらいはしようか」

 

「一瞬で矛盾してるんですけど?!」

 

 叫ぶ出久くん。

 いや、流石にちょっと人より遅れ過ぎだからね。

 普通なら躓くところを支えてあげて確実な1歩を踏み出させるのがボクと文書の役目だから、出久くんは安心して全力疾走していいんだよ? 

 と、ここまで冗談の言い合いを聞いているだけだった文書が近寄ってきた。

 黒縁の眼鏡をかけ、何故か丈の合っていない白衣を着て袖を余らせている文書さん。

 文書は別に身長低い訳ではないので、丈が合っていないのはわざとだ。

 なんでこう、文書はボクが男だった時の好みを直撃してくるのか。

 長い黒髪が一房白衣に掛かってるところとか地味にフェチを直撃してるんだよ!

 

「いい感じに個性が馴染んできてるらしいですね。これなら『発動認識』ができます」

 

「『発動認識』……?」

 

「なんで遠藤さんが疑問形なの……?」

 

 おっと出久くんが疑惑の視線を向けてきている。ので言い訳した。

 いや、初耳なので……いや、本当に聞いた事ないんですよ?

 出久くんの呆れた視線が強くなったことに動揺していると、文書が手を打ち鳴らした。

 

「初来は必要なかったので教えてなかっただけだそうですよ。とりあえず概要から話すらしいです。『ホログラム』」

 

 文書の言葉が世界を変える。

 光の粒子が集まり、出久くんと雄英の実技試験で出てきた大型敵の像が浮かび上がる。

 

「話によると、緑谷はこの50メートル超えの鉄塊を殴り倒したそうですね」

 

「あ、うん……その代わりに右腕と両足がバッキバキになっちゃったけど」

 

 出久くんの言葉にニヤリと文書が笑った。

 まるで出来の悪い生徒がお手本のような間違いをしたのを見るような、そんな笑み。

 

「そこで疑問が浮かばないのがダメなんですよ」

 

「結論は?」

 

 ダメなボクが先を急かすと、ジト目を向けられた。

 

「その性急過ぎるの、どうかと思うそうですよ? ……えっとですね、ここでは細かな数字は出しませんが」

 

 言葉が区切られ、再び像が形を結ぶ。浮かび上がったのは……側面に4tと書かれてあるトラック。

 そのトラックが、猛スピードで大型敵に突っ込んで大破、大型敵はぶっ飛ばされていた。

 

「まぁ仮に今のトラックがスポーツカー並みの速度が出ていたと仮定しましょう」

 

 今度は、出久くんとトラックがぶつかり合う。どちらも大破する。おいグロ画像やめろ!

 

「今のは映像は簡単な物理の話です。物体に力を加えた時、物体から同じ力がこちらにも掛かっている。作用反作用の法則ですね」

 

 ははーん、さては文書ボクを馬鹿にしているな?

 

「いくらなんでもそのくらい知ってるよ!」

 

 ボクの言葉に頷く文書。

 

「そうですね、当たり前の話らしいです。なのに皆そこから先の想像が出来てないらしいのですよ」

 

 再び像が形を結ぶ。今度は出久くんが2人。

 

「さて緑谷、『個性因子』とは何か答えられますよね」

 

「あ、うん……『個性』のあるなしを分ける全ての身体機能の総称だね」

 

 まぁ、ここら辺は誰でも知っている事だ、今更過ぎる。

 

「さて、ここからが本題らしいです」

 

 2人の出久くん像の内、1体が光を帯びる。

 

「ここに2人の緑谷が居ます。1人は個性のない緑谷。1人は個性『超パワー』を持った緑谷」

 

 光がトラックを2台創り、それぞれが向き合うように配置される。

 再びのグロ画像の予感に顔を顰める。

 予感を裏切らずにトラックが出久くん達に突っ込み……光を帯びた出久くんは大破、無個性の出久くんはーー血煙になって消えた。おい。

 

「……あっ!」

 

 声を上げる出久くん、ニヤリと笑う文書。

 

「そう、『普通』に考えたらわかるそうですが、普通の人間はスポーツカーの速度で突っ込んでくるトラックと衝突して腕がバッキバキになる程度じゃ済みません。即死します」

 

「そうか、そうだ当たり前だ! なのに常識に囚われて全然見えてなかった!」

 

 またしてもブツブツしだした出久くん。

 ちょっとー仲間外れにするのやめてよねー。

 ボクの表情から思考を読んだのか、文書が続きを説明してくれた。

 

「さっき、同じ人間の個性のある状態とない状態を隔てる全てが『個性因子』だと言ったらしいですよね?」

 

「あー、うん」

 

 まだわからないボクに、言い含めるように文書が説明を続ける。

 

「なら、『大型敵をぶっ飛ばすほどの力』という作用に対する反作用を『腕が壊れる程度に抑えた』のもまた個性の1つと認識するべき、という話です」

 

「……ん?」

 

 あー、つまり出久くんの個性は『超パワー』と『超パワーから身体を保護する』の2つの性質を持っているってことか。

 ボクの言葉に、今の例だけを見ればそうですね、と文書は笑う。

 

「他にも、身体能力を上げるといっても『瞬発力』『筋持久力』『最大筋力』がありますし、もしかしたら『動体視力』や『反射神経』も同様に上がるのかもしれません。上がらないのかもしれません」

 

 文書の指先の光が消え、像が消え失せる。

 ニッと笑い、軽いウィンクをする文書。

 

「もうわかりましたね? 『発動認識』は自身の個性と向き合う訓練だそうです。自分の個性がどういった物か、それを可能な限りの考察と実験の繰り返しで突き詰める。そこで得た情報が次の『限定強化』に繋がるそうです!」

 

「ドン!」

 

 文書の跳び蹴りを避ける。

 

「というか、なんでボクにそれを教えてくれなかったの?」

 

 そう聞くと、起き上がってきた文書は呆れたように口を開く。

 

「その先にある『限定強化』を普通に使っている初来がそれを言うのですか……それに、そもそも初来にとって『発動認識』は前提でしかないそうですよ」

 

 なるほど、ボクの個性創造は『個性を認識した形で創造する』から、その時点でもう『発動認識』を済ませている訳か。

 やっとこさ理解したボクに文書が笑い、復帰した出久くんが焦ったように話しかけてきた。

 

「つ、つまり僕のワン……個性の『耐久力を強化する力』を鍛えれば」

 

「緑谷の制御可能な最大出力が上昇するそうですね。ちなみに緑谷が言ったのは『限定強化』訓練ですね。今はまだそこまで行けませんが、いずれは訓練としての『限定強化』ではなく技法としての『限定強化』もやるつもりなので心してください」

 

 どうやら方針は固まったようだ。話を聞く限りボクが何か手を貸すような事もないので、手持ち無沙汰になったボクは前々から考えていた修行をすることにする。

 手を振り風を起こし、両の掌の中に渦を巻くように収束させる。

 そう、NARUTOの螺旋丸だ。

 そして、ここからが『限定強化』訓練だ。

 両手に持った小型の台風同士を接触させる。

 干渉し歪めあった流れ同士が、決められた形に戻ろうとしては再び触れ合い歪む。

 

「ぐぅっ……」

 

 ボクだけに見える、流れを視覚化した白い線が削られあっている。それを修復しつつ加速!

 もう既に、単純に風を操った時の反動はなくなっていた、にも関わらずこの訓練では既に反動が出始めている。

 抑えきれなくなった風の束が髪とジャージを揺らす。

 その風をすぐさま回収し、周囲に這わせていつでも流れを取り出せるようにする。

 保持力、制御力の『限定強化』訓練だ。

 少し離れた場所でこちらを窺っていた文書が「負けず嫌いだそうですね」とか言ってたけど、聞こえてるんだぞ!

 

 

 

 

 

「とりあえず、緑谷のやる事はたった1つだそうですね」

 

 初来から視線を外した文書の言葉に、出久は頷く。

 

「うん、まず何より『耐久力』の強化が急務だね」

 

 今のところ、出久は個性『ワン・フォー・オール』の出力を制御することで個性の行使を可能としている。

 つまり、出力ーー『瞬発力』及び『最大筋力』に関して言えば、鍛える段階ではないのだ。

 何より、出力の調整ミスが即座に自身の怪我に繋がる現状は看過できるものではない。

 先導する文書の後に続き、出久が地下への階段を降りる。

 今までいた体育館然とした訓練部屋から一変した、まるで地下牢へ続くような薄暗い階段。

 記憶を辿ると、初めてこの家に来た際に初来が地下に威力測定用の対衝撃用隔壁展開装置があると零していた。

 

(一体、僕は何をさせられるのだろうか……)

 

 未知への恐怖と戦っている出久に気付く様子もなく、頼りない明りに黒髪を映しながら、思い出したように文書が口を開く。

 

「あ、今から緑谷には耐久サンドバッグ殴りをして貰うのですが、例えエラーが出たとしても構わず殴り続けて欲しいそうです。……まぁ、現段階で『終末現象』はないとは思いますが」

 

「エラーって、それ放置しても大丈夫なーー」

 

 文書の発言にツッコミを入れてようとした出久の言葉が途切れる。

 階段が終わり、目の前に現れた隔壁としか言いようのないメカメカしい鉄の壁に目を奪われたからだ。

 歯車の嚙合わせのように凹凸が縦に伸び、機械壁の両横の壁には、機械壁を貫通しているレールが伸びている。

 

「ーーナニコレ」

 

「威力測定室の隔離壁だそうですよ。これを作らずに威力測定室で初来が全力を出した結果、逆流した衝撃がさっきの訓練施設を吹き飛ばして横穴が空いたそうです」

 

「えぇ……」

 

 何にどう突っ込めばいいのか迷う出久の目の前で文書が指先に光を灯す。

 

「『かいじょう』」

 

 言葉が世界を変える。

 鍵穴のなかった扉が開き、その先にある複数の扉までもが次々と道を譲ってゆく。

 その光景に目を奪われていた出久が、ふと気づいたように口を開いた。

 

「あ、レール……そうか、扉をレールで動かせるようにして衝撃を逃すのか」

 

「ご明察だそうですね。まぁ、今の緑谷に必要な装置ではないらしいです。40%くらいになれば必要になるかもしれないそうですね」

 

「40%、か。今の遠藤さんは、もうそんなところに居るんだね」

 

 そんな出久の独り言に、文書は答えない。

 開ききった隔壁の先で照明が瞬き、その更に先に置かれていた球体が浮かび上がった。

 壁面から出てきたコンソールの盤面を、文書はまるでアニメのような高速タイピングで操作する。

 余りまくった丈が邪魔じゃないのだろうかと、出久は現実逃避気味にそんな事を考えていた。

 

「……はい、できたらしいです。簡単に言うなら、あの球体は移動エネルギーを持つ物体に対して衝撃波を放つことで威力を相殺する性質があるそうです。今回は設定を変えて、反射する威力を5%分多くしてあるそうです」

 

 まず衝撃波を放つ装置の意味がわからなかった出久だったが、それを口に出すことはせずにただ建設的な質問をすることにした。

 

「つまり、現状威力と耐久力が同等になっている状態だから、耐久力を上回った分の衝撃が僕の身体に与えられるって事?」

 

「そうですね、その衝撃を完全に相殺できれば威力の5%分『耐久力を強化する力』が成長したという証拠になるそうですね」

 

 文書の言葉をゆっくりと咀嚼し、出久は首を傾げる。

 

「少し、上乗せする量が低い気がするけど……」

 

 現状、5%フルカウルの出せる威力はせいぜいコンクリートを砕く程度。その5%の威力となると、もう少し高くしても問題はないんじゃないかと出久は考えた。

 だからこそ、次の文書の言葉に凍り付くことになる。

 

「ですけど、5%でもこの修行が終わった時には50000%分のダメージが身体に与えられるそうです。これ以上の設定はお勧めできないらしいですよ」

 

「50000%……ごまん?!」

 

 叫ぶ出久の前で、文書が笑う。

 黒髪を揺らし、屈託なく笑うその様子があまりに恐ろしく感じられた。

 

「そうですよ? 5%掛ける10000回で50000%。終わるまでここから出られませんから」

 

「1万……回?」

 

 ようやく、遅まきながらようやく出久は気付く。

 先ほど感じた『地下牢へ続くような階段』という印象は間違いではなかったのだと。

 そして、初来がスパルタなのは間違いなく文書の指導を受けていたことが原因なのだと。

 

 

 

「あぁ、ちなみに、寝たりできないように意識レベルが一定以下になると直前の威力の25%分の衝撃波を周囲にまき散らす設定にしているそうです。人間、極限状態の方が生存本能を刺激されて成長するそうなので。……あ、安心してください、流石に食事とトイレの時だけは出してあげますので」

 

 

 

「Plus Ultra! だそうですよ緑谷」

 

 

 

 こうして、出久の地獄の修行が幕を開けた。

 

 

 

 

 

「……てめぇは」

 

「お、金髪くんこんばんは」

 

 地獄の修行を終え、気絶した出久くんを送ってゆく途中で金髪くんと鉢合わせした。

 やっぱりボクの事を苦手に思っているのか、露骨に嫌な顔をされた。

 薄暗く、星が見え始めた空の下での邂逅に一瞬だけ回れ右しそうになってしまった。

 

「……何してそうなってんのか知らねぇけど、女に送らせて自分はオヤスミとはいい身分じゃねぇか」

 

 開幕の罵倒もどこか力がなくて、前に煽り倒した時に思った『煽られ慣れてない』という印象が間違ってないと再確認した。

 

「これはボクが勝手にやってることだよ? それに頑張ってる人を馬鹿にする人のほうがいいご身分じゃないかな?」

 

「あ”ぁ”?!」

 

 ほらもうキレた。

 あまりに低い煽り耐性に内心で頭を抱える。

 人を殺せそうな目つきの金髪くん。あれだけ戦闘センスがあって、なんで今の出久くんにそんな敵愾心を抱くのだろうか。

 出久くんの為ではなく、金髪くんの為に、あえて踏み込む。

 

「出久くんは頑張ってるよ。今なら全力の君とやりあって2分……いや、3分は耐えられるようになってる。すぐに君に追い付いて追い越しちゃうよ?」

 

「俺がデクなんかに負けるワケがねぇ!」

 

 反射的に吠えるその姿は、どこか自分に言い聞かせているような印象で。

 

「今の出久くんが君と数分戦える、その事は想像できてた?」

 

「……!」

 

 金髪くんは何も言い返してこなかった。それはそうだ、出久くんを見ずに下だと決めつけた認識だけで、現実の出久くんをどうやって否定できるのだろうか。

 そしてその評価を下しているのが直前に両者と戦って力量を知っているボクなのだ。

 

「丸2日寝る事なく、食事とトイレの時以外ずっとずっと出久くんは自分の個性と向き合って、ひたすらに修行をしてたよ。3日目からは睡眠が許されたけど、寝てる時も個性を使用させられ続けてた。本気で地獄みたいな修行の5日間だったよ」

 

 虚ろな目をして「オールマイトがいる……他にも、7人……? もしかして、歴代の継承者……?」とかうわ言を呟いていたほどだ。かわいそうに、妄想と現実の区別がつかなくなるほど参ってたのだろう。

 

「……っ!」

 

 金髪くんの肩が揺れる。見開かれた目は、そこまでやっていたのかという驚愕の為か。

 

「ボクは、君が嫌いだ。威圧的な態度も言動も好きになれないよ。……けれど、そういった先入観なしでも、今の君より出久くんの方が凄いと思うよ」

 

「俺が……デクより劣ってるだと……!」

 

 食いしばった歯から震えた息が漏れていた。

 憎しみに歪んだ瞳が揺れ、その感情のままに1歩踏み出した金髪くんを。

 

 

 

ーー個性『言霊』発動

 

 

 

「敵わないと思ってるから貶めてるんじゃないの?」

 

 

 

 言葉で刺し貫く。

 瞳が揺れ、定まらない視界はきっと自分の劣等感を映しているのだろう。

 思った通り、金髪くんも劣等感を感じて、それを見ないようにする為に出久くんを貶めてるんだ。

 だったら、ボクが言えることはもう何もない。それは誰かに言われて納得できるようなものじゃないから。

 まるで時が止まったかのように動きを止める金髪くんの横を通り過ぎる。

 これから金髪くんがどう考えるかなんてわからないけれど、出久くんのような『ヒーロー』になれればいいな、と思った。

 歩みを進める。夜が深くなる。先ほどまで弱々しかった星の瞬きも力強さを増してゆく。

 雄英高校の入学式を前に、既に出久くんの前に問題が山積していた。

 

「けれど、それに負けないように背中を支え、押してあげるんだ。その為にボクが居るんだから」

 

 誰にも聞こえていない宣誓が静かに消える。

 流れ星はなかったけれど、ボクは出久くんが『最高のヒーロー』になれる事をそっと願うのだった。

 




「次回予告!」

「入学式の日が来た!」

「桜の季節は出会いの季節、気になるあの子との再会は春の予感?」

「それは知らないよ……気を取り直して。入学式を前に胸を高鳴らせる僕達に、さっそく試練が襲い掛かる!」

「個性把握テスト? しかも最下位は除籍処分?! それでも、やるしかないよ、出久くん!」

「うん、わかってるよ遠藤さん。僕達は、全力で前に進まないといけないんだ」

「「『最高のヒーロー』になるために!」」

「次回『スタートダッシュ』!」

「出久くん、君の努力の結果を皆に見せつけるんだ!」

「さらに向こうへ!」

「「Plus Ultra!」」
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