君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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2か月で改稿全部終わらせたいとか言っていた奴は誰だよ……もう12か月くらい経ってるぞ……?


物語の始まり(改稿済み)

夢を見ている、これはまだボクが渡世善継だった時。

 そしておそらく、ボクが遠藤初来になったときのこと。

 

「ふぅ……やっと涙が止まった」

 

 『緑谷出久:オリジン』の衝撃で止まらなくなった涙がようやく止まり、僕は大きく息を吸って、吐いた。

 逸る心と反対に、ゆっくりと開きっぱなしになっているページを捲る。

 次のサブタイトルに目を通そうとしたその瞬間、唐突にめまいが襲ってきた。

 

「ぐっ、なん……っ!」

 

 言い切る事も出来ずに、床に倒れ伏す。

 何かと繋がった。そうとしか表現できないような奇妙な感覚が全身を包む。

 そして、それだけでは終わらなかった。

 

(引っ張られてる……?)

 

 何か、不可思議な力で魂だけどこかに引き抜かれている感覚。

 物理的な力なら対処のしようもあっただろうけど、今まで体験したことのない感覚にその場で対応できるわけもなく。

 魂が肉体から引きはがされたような。

 ブチッ、という不吉な音を魂で聞いた瞬間、僕の意識は落ちた。

 

 

 

 深海から命からがら浮かび上がり、水面から顔を出したかのような意識の覚醒に、思わず呆然としてしまう。

 目の前に広がるのは天井。見たことのない天井だ。……いや、見覚えはある。というかいつもの見慣れた天井だ。

 

(……頭が、変になりそうだ)

 

 世界が揺れている。いや、揺れているのは僕自身だ。

 身体を起こそうと横に転がり、それ以上動けない。

 まるで思考と肉体が分離したかのような凄まじい違和感が意識をかき乱す。

 

「どうなって……なん、で、声が」

 

 気を落ち着けるために開いた口から零れたのは、明らかに僕のものではない……幼子の声。

 床についた腕が僕の腕じゃない。口から零れるのは僕の声じゃない。

 

(夢なら、醒めてくれ……)

 

「ぐっ……ぅ」

 

 抑えきれずに嘔吐する。

 吐瀉物の匂いが広がってゆく。

 異変に気付いたのか、誰かが走り寄ってくる気配がした。

 

「初来……? 初来っ、あんた吐いて……っ」

 

 背中を撫でられる。優しい手。ボクの好きな人の手。

 

(……好きな人? 何だそれ、知らない)

 

 見上げると、見知らぬ女性が目に涙を浮かべてこちらを見ている。

 --ボクのお母さんだ。

 

(あぁ……そうだ)

 

 お母さんを見た瞬間に、僕の記憶にボクの記憶が急激に流れ込んできた。

 ボクは力を抜き、意識を手放す。

 大好きなお母さんが傍にいてくれたから、それまで感じていた恐怖はきれいさっぱりなくなっていた。

 

 

 

 

 

 目を覚ます。

 久しぶりに見た、ボクがこの世界に(多分)生まれ変わった時の夢。

 最初は遠藤初来の記憶に戸惑うボクだったけど、別に不都合もないので気にしないことにした。

 転生か、憑依か。友人である文書に無駄に押し付けられた漫画やライトノベルの知識によると、ボクに起きた現象はそのどちらかだ。

 それ以上はわからないし、仮に分かったとしても何ができるわけでもなく。

 ボクは、男としての意識を持ちながら女として生活を送っていた。

 

「ん……髪、整えるの邪魔くさいな」

 

 立ち上がり、ぼさぼさの髪を撫でつけながらパジャマを脱ぐ。

 鏡の前に立つと、薄青のショーツのみ着けているボクの姿が映る。

 中学生になり、すでに身長165センチを越えたボク。その成長力は胸にも及んでおり、ブラを付けていないDカップが惜しみなく晒されている。ボクは就寝中ノーブラ派だ。

 くるくると明るい茶色の髪を指に巻き付けてみる。

 肩まで伸びた髪は毎日の手入れが非常に面倒で、加えて寝起きは爆発頭。

 鏡の向こうに立つボクは、心底面倒くさそうな表情でこちらを見ていた。

 

(あれから、2年か……)

 

 2年前の秋、ボクと文書が友人になった日。

 その日から、ボクは髪を伸ばすようになった。

 

(コンプレックスというか、なんというか)

 

 あの日本人形みたいな容姿と、女優でもそう見られない程の整った容姿。そして感情豊かに変わる表情。

 前世含めても並ぶ者のいない可愛さに、男なのに女という不安定な立場にあったボクは、憧れを抱いたのだ。

 女の子らしい仕草とか、オシャレとか、男にはわからない女の子同士の微妙なあれこれとか。

 死ぬほど面倒くさいそれらをなんとか身に着けてここまできた。

 

「はぁ……はやく用意しないと」

 

 呟くと同時に手を振って風を巻き起こし、その風で髪を撫でつける。

 ついでに、適当にブラを風で手繰り寄せる。

 今日のは……買った覚えのない紫色のブラ。

 そのカップ部分は縦に裂けていて、胸の先が隠れないようになっている。

 

「……?」

 

 ね、寝不足かなぁ……?

 目を擦り、手の中にある危険物をよく見る。

 前から見てもエロ下着。裏返して後ろから見てもオープンブラ。

 何度見ても変わらない手の中にあるセクシーランジェリーに、ようやく状況が飲み込めたボクは、大きく息を吸って。

 このブツを人の部屋に忍ばせた犯人の名を叫ぶ。

 

 

 

「文書ぁぁぁっあの、大バカっ!!!」

 

 

 

 

 

 伝聞文書(でんぶんふみか)

 ボクの友人で、長い艶やかな黒髪と感情豊かな表情が魅力の少女だ。

 一家揃って美形かつ超優秀で、父親と文書以外は例外なく医師免許を持っているという規格外の家柄。

 その中でもあらゆる意味で抜きんでている文書だが、血筋の悪い部分すらも抜きんでているのだ。

 伝聞家一族は全員性癖を拗らせている。

 その中でも文書は唯一の同性愛者で。

 かつ、ボクを狙っているっぽいのだ。

 

 

 

「おはようございます、初来」

 

「おはよう、文書」

 

 朝の通学路、学生の騒めきの中。

 文書と朝の挨拶を交わしたボクは、返す刀で文書の頭を鷲掴みにする。

 突然のボクの行動と襲い来る痛みに目を白黒させている文書に、ボクは優しい口調を意識しながら問いかける。

 

「あの、大事なところを隠せてないエロ下着はなんのつもりかなぁ?」

 

「ーー! ど、どうですか? 初来に似合うと思って買ったんですが!」

 

「似合う似合わない以前に友人にエロ下着送らないで欲しいんだけど!!」

 

 頬を染めながら、期待に目を輝かせてセクハラしてくる文書の頭を揺さぶりながら怒鳴りつける。

 まずボクに似合うかどうか考えながらエロ下着を物色してる時点でダメ過ぎる。

 それを実際に買ってボクにプレゼントしたってのが、もうね。

 伝聞家の血が濃すぎる。

 信じられるか? この子ついこの間まで小学生だったんだぜ……?

 無理だろうと諦めつつ、少しでもまともな元小学生にする為に文書の頭を掴む手に力を込めながら諭す。

 

「例え同性でも、友人にセクハラしちゃダメなんだよ?」

 

「嫌です」

 

 笑顔で言い切られた。これもう矯正無理ですね……。

 諦めて手を離すと、すぐさまその腕を文書に抱えられた。

 まだ少し寒さの残る陽光がたなびく黒髪に触れては散る。

 肩に乗せられた文書の頭を視界の端に映しながら、ボク達は今日から通うことになる錦百合中学へ歩みを進めるのだった。

 ……今のやり取りを同じ制服の子達に見られていたから、きっと噂になるんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 始業式が終わり、部活動見学に向かう生徒たちを横目に、ボクと文書は帰路につく。

 正確に言えば、向かう先は文書の家なので帰路についているのは文書だけだ。

 ふと、前々から思っていたことを口にする。

 

 

「生まれてからずっとカウンセリング受けてるけど、これもう実質遊びに行く口実だよね」

 

「今更ですね。でもお母さんも初来と会った後はつやつやしてるので、これからも来てくださいね」

 

「ボクから何か吸収してるのかな?」

 

 

 ボクは、生まれつき身体が弱かった。

 ボクが前世の記憶を取り戻すまでは高熱で寝込むなんてざらで、酷い時には意識を失って入院、なんてこともあった位だ。

 だからこそ、安定した後も定期的に(現在は個性学者だけど)医者の撮香先生に診て貰っているのだ。

 とはいえ、4歳の時に前世の記憶を取り戻して以降は風邪を引いたことがないので、実際はもう診察する必要はなかったりする。

 つまりカウンセリングはただのお茶会で、もっと言えば大人のお医者さんごっこをしようとする先生に鉄拳制裁するだけの会だ。

 伝聞家の闇は深い。

 ボクがこの後のカウンセリングに憂鬱になっていると、文書が意味深な笑みを浮かべてこちらを見上げてきた。

 

「なんなら、文書の家に住みますか? 毎回カウンセリングに来るのも不便じゃないですか」

 

 文書の冗談に思わず笑う。

 

「残念ながら妹がいるからね。まだ目が離せないんだよ。それに洋館は、住居としては肌に合わない感じかなぁ」

 

「奇遇ですね、文書も洋館より和風の家の方が好きなんですよ。 ……初来の家とか、凄くいいですよね」

 

「へぇ……いやでも、同じ敷地に洋館と日本家屋が並んでるのって違和感あるからやめといたほうがいいよ?」

 

 見慣れた豪邸が近づいてきているのを見ながらそう言うと、文書は何故か唖然とした表情でこちらを見つめてきた。

 しばらくボクを見つめていた文書は、ため息を1つ零してから自分の家に視線を向けた。

 

「……そういえば、ですけど。今日のお母さんはちょっと変だったので、気を付けた方がいいですよ」

 

「……今日の撮香先生『は』?」

 

 ボクの問いかけに、ゆっくりと視線を彷徨わせる文書。

 

「……今日のお母さんも、かなり変でした」

 

「その変な人とボクはお話するんだけど?」

 

「はい」

 

「はいじゃないが」

 

 一通り茶番を終えてから、目の前に迫った鉄柵門に手を伸ばし、押し開く。

 

「……?」

 

 ……今日の先生、本当に変っぽいな。

 

 

 

 

 

 伝聞家の敷地に入ると、まず正面に大きな西洋風の本館が小さく見える。

 敷き詰められた芝生の向こう側に建つその館に、初めて見た時は衝撃を受けたものだ。

 今では移動距離の長さに辟易するしかないが。

 遠くに見える館の向こうに、ちょこんと頭を出している山がある。

 その山の麓の部分に建てられた別館が、文書達が生活している場所だ。

 もっと言えば、その他にまた新しく建てられた研究棟(文書所有)があるけれども、それは今は置いておこう。

 撮香先生は医者でありながら個性研究者としても働いていて、本館は研究所として研究員が働いている。

 そして今日は平日なので、当然撮香先生は本館で働いている。

 形骸化しているとはいえ、一応ボクが撮香先生の許を訪れるのは経過観察の為だ。

 なので、いくら身内といえど文書についてきてとは言えないのだ。

 

「それじゃあ、文書は先に着替えて待ってますね」

 

 つまり、ボクは一人で変態と密室に籠らなければいけないのだ。

 ……こんな言い方をしているけれども、撮香先生は普通に好きだよ?

 命の恩人? だし。

 

「襲われたら救けに来てね」

 

「……」

 

「悩むな、即答して! 本当に救けに来てよ?!」

 

 そんなこんなで文書と別れたボクは本館に入り、先生の仕事部屋の前までたどり着いた。

 ……本当ならこのタイミングで、いつも『観て』いる撮香先生から声が掛けられるんだけども。

 不気味なまでに沈黙を保つ目の前の扉に、ボクは痺れを切らしてノックする。

 

「先生、初来です。……入りますよ?」

 

 受付で撮香先生がここにいることは確認しているので、ゆっくりと扉を押し開けて一歩踏み出す。

 部屋に入ってまず初めに目についたのが、全裸で股間の部分だけタオルが掛けられている状態の種馬(しゅうま)さんだ。

 文書のお父さんで、伝聞家の中では一般(的な変)人だ。

 その身体は、アニメ的表現をするなら枯れ木と見紛うかのようにぼろっぼろで、どれだけ激しい情事を繰り広げたのかと考えると頭痛が痛くなってくる。

 その安らかな寝顔に辟易しながら視線を移すと、こちらに背を向けターンチェアに座っている撮香先生がいた。

 

「撮香先生……?」

 

「よく来たわね、初来ちゃん」

 

 ボクの呼びかけにようやく撮香先生は言葉を発した。

 まるで鈴の音のように、身体に沁みるような涼やかな声と共に、椅子が回転して撮香先生がこちらを向いた。

 文書によく似た、優し気な目元。ふわりと舞う長い艶やかな黒髪に、10代でも通用しそうなきめ細かな肌。

 文書と姉妹だと言われたら信じてしまいそうな容姿でありながら、全てを受け入れてくれると錯覚しそうなほどの包容力を持つ慈愛の笑み。

 文書が年齢を重ねればこうなるのだろうと思える、まさに完成された美しさを撮香先生は持っていたーー

 

「…………」

 

 ーーの! 筈でしたがァ!

 振り返った撮香先生は何故か鼻血を垂れ流しにしていて、白衣の前部分が真っ赤に染まっていた。

 余りにも強烈なグロ映像に、ボクは思わず思考停止してしまう。

 

「せんせい……?」

 

 自分の声が震えているのを自覚する。

 初めて味わう殺人事件の第一発見者の心情を無理矢理押さえつけて、ニコニコと笑っている撮香先生に問い掛ける。

 

「頭大丈夫ですか?」

 

「鼻血の心配はしてくれないのかしら……?」

 

 どちらかというと頭の方が心配です、という言葉を飲み込んで手早く撮香先生の鼻にティッシュをねじ込む。

 そのままの勢いで白衣を剥ぎ取り、アンダーシャツにまで血が染みているのを見て驚愕しながら、それも脱がせる。

 

「あぁ~ん」

 

「はっ倒しますよ?」

 

 仕方がないので替えの白衣をロッカーから取ってきて着せる。

 文書と違って女性らしい丸みを帯びた肢体が目に映る。が、先ほどの弩級のインパクトのせいで心が麻痺していて何も感じなかった。

 もうそろそろ面倒くさくなってきたボクは先生をソファーに投げつけ、さささっとお茶を用意する。

 

「雑に扱われるのもしゅき」

 

「お母さんに言いつけます」

 

「ごめんなさい」

 

 そんなやり取りをしたことでようやく茶番は終わり、いつも通りの問診が始まる。

 と言っても、聞かれることと言えば基本的に個性を使った時の感覚の違い程度。自覚のある範囲での話しかしない以上、この時間は主治医としての体裁を整える為のものでしかないのだろう。

 さんざん繰り返したやり取りを終えて、お茶を飲んで一息つく。

 すると、唇を指でなぞっていた撮香先生がこちらに視線を向けて微笑んだ。

 

「初来ちゃんも、大きくなったわね」

 

「そうですね、もうすぐ霧裂(きりさき)姉さんに追い付きます」

 

「身長の話じゃなくて」

 

 苦笑すると、撮香先生はティーカップに口をつける。

 

「本当に、大変だったのよ? 形成(かたなし)ちゃんも風見(かざみ)さんも、ずっと初来ちゃんの心配をしてたわ」

 

 そう、らしい。

 薄っすらとだが、両親と共に病院に通った記憶も確かにある。

 記憶の中のボクは病院に行くのは嫌だと泣いているか、泣く気力すらもないまま緊急搬送されるかのどちらかだった。

 

(転生の弊害かな……?)

 

 文書に貸してもらったラノベ知識ではあるが、魂が身体に馴染んでないとかなんとか。

 まぁ実際のところがどうなのかは知りようがないんだけれども。

 

「そんな初来ちゃんが、もう中学生になったなんて……私も、歳を取る筈だわ」

 

「取ってないです。少なくとも見た目は」

 

 見た目が背伸びした高校生か大学生辺りで止まってる人が言うと違和感が凄い。

 頬を押さえて微笑んでいるその姿に、他人の精気でも吸ってるんじゃないかと思ってしまった。

 

(……まさかね)

 

 視線が自然と種馬さんのもとへ向いてしまう。

 搾り取られて枯れたその姿を見てから視線を撮香先生へと戻す。

 

「……どうかしたの?」

 

「……まさかね」

 

 先生の『個性』は情報系なので、今浮かんだ撮香先生サキュバス説はありえない。

 その筈だ。

 そんな風に思案していると、少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめながら、撮香先生は口を開いた。

 

「……ねぇ、初来ちゃん。もう文書ちゃんとはヤッちゃったの?」

 

「なんて事聞いてくるんですか?!」

 

 その、握りこぶしで人差し指と中指の間から親指を出す卑猥なジェスチャーをやめろぉ!

 ボクにも文書にも、親指に該当するモノはついてません!

 ボクの表情を見て現状を悟ったらしく、先生はやれやれと言わんばかりに首を振った。

 

「その様子だとまだみたいね」

 

「まだもなにも……文書にそういった感情は持ってませんよ」

 

 本人には言っていないけれどね。

 

「なら、男の子がいいの?」

 

 その質問も変なんだけどね。

 今まで先生とそういった話をしてこなかったので少し新鮮な気持ちになったボクは、少しだけ姿勢を正して答える。

 

「男も女も関係ないです、ボクは恋愛に興味がないので」

 

 というか、まだ中学生になったばっかりだ。

 そういったアレコレがまだなくても不思議でもなんでもないだろう。

 そんな考えで自分を納得させていると、急に先生はやらしい笑みを浮かべた。

 

 

 

「でも、エッチな事には興味があるんでしょう?」

 

 

 

 その言葉に思考が止まる。

 意味が分からず硬直するボクの傍に忍び寄ってきた先生は、そっと耳元に口を寄せた。

 ボクと先生の身長は同じなので、顔を寄せられた時自然と先生がボクに身体を預ける形になる。

 その女性らしい柔らかさに意識を奪われた瞬間、先生の零した言葉が耳を擽る。

 

 

 

「エッチな下着をつけて鏡の前で顔を真っ赤にするんだから、私も凄く興奮しちゃった」

 

 

 

「ーーはっ?!」

 

 

 

 耳に届いた言葉に、声を裏返らせて聞き返す。

 まさか、ちょっとまてまさか、今朝の、見られてーー

 

 

 

「最後まではシなかったみたいだけど……手伝ってあげましょうか?」

 

 

 

 

 

「っっっぴゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

「みっーー」

 

 

 

 

 

 今まで出したこともないような超高周波の悲鳴をまき散らしてソファーから転げ落ちたボクは、耳を押さえて「耳がぁーっ!」と叫んでいる先生を指さす。

 

 

 

「ふっ、文書に言いつけてやるからっっっ!」

 

 

 

「ま、待って初来ちゃん、本当に今耳が聞こえなーー」

 

 

 

 先生の言い訳も聞かずに部屋を飛び出すと、ボクは一目散に文書の部屋へと逃げ出すのだった。

 

 

 

 

 

「今日は早かったですね……なんでそんなに息が乱れてるんですか?」

 

「べ、別になにもなかったよ……?」

 

「?」

 

 文書に告げ口すると自動的にセクハラの内容も語らなくてはいけないという、至極当然のことに気付いたボクは文書の問いかけに曖昧に答えた。

 白い漆喰の壁に最低限しかない木色の家具、柔らかな感触を足裏に返す赤茶色の単色絨毯。天井から吊るされたシャンデリアが色数の少ないシンプルな部屋で異彩を放っていた。

 そんな部屋の奥、キングサイズのベッドに腰掛けてポテチをつまむ文書に近づく。

 

「いただきっ」

 

 ポテチを一枚さっと抜き取り食べる。

 噛むと同時に口の中に広がる塩味。指についた塩を舐め取りながら文書の横に腰掛けると、こちらを見ていた文書と目が合った。

 

「閃いた」

 

「通報した」

 

「逃走した」

 

「射殺した」

 

「警告なしに?!」

 

 そんな掛け合いが終わると同時に、文書はポテチを一枚つまみ、ボクの口元へと持ってきた。

 

「……あむ」

 

 遠慮なしに食べると、偶然……おそらく偶然、文書の指にボクの唇が触れた。

 ボクに餌をやり終えた文書は、ボクの唇に触れた指をじっと見つめて動かなくなった。

 ……おい。

 

「……文書さん?」

 

「……なんですか」

 

 こっち見ろし。

 静止画像と化した文書はしばらくそのままだったが、どうにか理性が勝ったらしくハンカチで手を拭ってからこちらを見た。

 

「さて……今日はいつもみたいに適当に遊ぶ為に呼んだ訳ではないんです」

 

「その割には無駄な時間を過ごしたんだけど」

 

「初来と過ごした時間に無駄なんてありませんよ」

 

 はぁ。

 曖昧に頷いて、続きを待つ。

 少しだけ残念そうな顔をした文書は、咳払いを一つ。

 真面目な表情になるのを見てボクも姿勢を正す。

 

 

 

「今日初来に来てもらったのは他でもない……初来の『個性』について、しっかりと話し合わないといけないと思ったからですよ」

 

 

 

 その言葉に、ボクは思わず渋面になる。

 その反応をする事は予想していたのか、文書は少しだけ身を乗り出してきた。

 

「初来が嫌がるのはわかってましたよ……それでも、これはきちんとしておかないといけないのです」

 

「ボクの『個性』はこれだよ」

 

 さっと手を振り、空気の流れを創り出して操る。

 部屋の中を巡る風が文書の髪を揺らしても、文書は静かに首を振るだけだった。

 

「役所に提出した『個性』という意味では正しいですが、私が言いたい事は違うってきちんとわかっていますよね?」

 

「うぐぅ……」

 

 文書の言葉にうめき声をあげ、ボクは顔を背ける。

 

「『個性』は……特に私や初来の持つ『個性』は人の身に余る力なんです。それは私が誰よりもわかっています。だからこそ、今だけでも向き合わないといけないんです」

 

 言いたい事はわかっている。それでもボクは文書の方を見ることができなくて。

 そして、ボクの隣に腰掛けていた文書が立ち上がり。

 ボクの前に跪いて、その両手でボクの頬を包んだ。

 

 

 

「私が傍にいます。だから一緒に向き合いましょう。初来の本当の個性

 

 

 

ーーーー『個性創造』と」




1年間小説ほったらかしにしていたクソ作者ですが、これからはちょくちょく更新していきたいと思いますので見捨てないでくださいお願いしますなんでもしますから!
1話改稿終了する毎に活動報告上げますので、1話毎に見たい方はお気に入りユーザー登録してください! 一気見する方はもうしばらくお待ちください。

あ、この話のカット部分(R18)を投稿しました、君だけの『ヒーロー』R18版というタイトルです。
18歳以上の人はよかったら見に来てくださいね。
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