君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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初来の『個性』説明回


個性『個性創造』(改稿済み)

 百年以上前、中国で突如異能の力を持った人間が生まれた。

 以降、次々と異能を持って生まれる人間が増えてゆき、現在はなんと世界総人口の8割の人間が異能の力を持つようになった。

 異能の力は人間が持つ当たり前の力になり、やがて『個性』と呼ばれるようになる。

 その在り方は千差万別で、全く同じ個性を持つ人間はいないとも言われている。

 

 ボクの持つ個性は『個性創造』、個性を創る『個性』だ。

 

 字面を見るとまさに最強の『個性』。

 強すぎて漫画などではまず主人公に採用されないような力。

 漫画やラノベの二次創作の主人公ならワンチャンありえるが、強過ぎて展開が単調になる程の力。

 まぁ、当然他の『個性』と同じくデメリットがあるんですけどね。しかも強烈なのが。

 

 最初の頃はボクも思い違いしていたのだけれど、『個性』というのは超常の力ではなくれっきとした人間の機能の一部。身体能力の一部なのだ。

 だからこそ腕を動かし続ければ疲れるように、『個性』を使用し続ければ何かしらの不具合が身体に現れる。

 例えば猛烈に鼻がむずがゆくなるデメリットだったり、無性にお腹が減るデメリットだったり。

 デメリットとはイコール『個性』行使の代償なので、基本的に『個性』行使によって失った、または蓄積したものがそれに当たる。

 そして、ボクの『個性創造』のデメリットとはーー

 

 

 

 

 

「初来、このまま現実逃避し続けるのならキスしますよ?」

 

 

 

 

 

 耳に届いた文書の声に、ボクは素早く現実回帰して迫りくる文書の顔を鷲掴みにする。

 

「警告からの実行が早すぎやしないかなぁ?!」

 

「んむむむむむむむっ!」

 

「こら、馬鹿やめなさい……っ!」

 

 顔を鷲掴みにされてなおこちらに迫りくる文書に、ボクはたまらずベッドの中央に後退する。

 細い小さい身体のどこに秘められているのか、文書は超が付くほどの馬鹿力だ。

 ボクも割と力が強い方ではあるが、それでも手加減している(であろう)文書を両手で押しのける事ができない。

 

(くっ、仕方ない……『身体強化』っ!)

 

 全身に巡らされた個性因子によって、筋力を引き上げる。

 そうすることでようやく、文書を片手で押しのけられるようになった。

 

「ぐっ……初来、身体強化を使いましたね……っ」

 

「こんな事で隠している方を使わせないで欲しいんだけどねっ!」

 

 言いながら、文書の身体をいなして横に転がす。

 ようやく諦めてくれたのか、文書はジト目になりながら起き上がりベッドの上に広がった自身の髪を纏める。

 

「ともかく……文書たちは中学生になりました。これから身体ももっと成長していって、『個性』の規模も否応なしに大きくなってしまいます」

 

「だから今のうちに、っていうのはわかってるんだけど」

 

 ボクの個性の反動は、吐き気と頭痛だ。

 風を操ったり身体能力を強化するだけなら頭痛で済むのだけど、『個性』を創ると途端に吐き気が襲ってくるのだ。

 ある程度までなら吐き気も耐えられなくはないのだけれども……

 

「大丈夫です、先っぽだけですから」

 

「大丈夫じゃないよね、それは」

 

 文書の軽口にツッコミながら、先ほどの文書の姿を思い返す。

 真っ直ぐにこちらを見つめる姿は、あの時の文書からは想像もできないもので。

 自分の弱さを乗り越えた彼女が、ボクの事を信頼しきった眼差しを向けているのだ。

 

(その眼は、反則だよ)

 

 文書の強さに惹かれているからこそ、文書の期待を裏切りたくないと思ってしまう。

 ボクは真っ直ぐに文書を見つめ返す。

 互いの視線が交わる。

 

「わかったよ……うん、やるよ」

 

「そうですか」

 

 ボクの言葉を聞いた文書の目が、細められる。

 眩しい物を見るように微笑む文書のチョロさに、期待に応えられた嬉しさと何故かはわからないが胸の痛みを感じつつ、ボクはやれやれと首を振る。

 

「吐くだろうから、エチケット袋だけは用意しておいてよ?」

 

「大丈夫です、手で受け止めますので」

 

「大丈夫じゃないよね、それも」

 

 そんな軽口を叩きながら、ボクは最初から気になっていたことを口にする。

 

「それで、具体的に何をするつもりなの?」

 

 自慢ではないけれど、ボクの『個性創造』は強度はともかくとして、出来る事の範囲は人類史の中で間違いなくトップだ。

 範囲を決めて『個性』を調べるのであればその範囲内の事しかわからず、全てを調べるなら十年単位で研究所に籠らなければいけないだろう。

 そんなものをどう調べるのかと、文書に尋ねる。

 

「心配無用なのですよ、当然方法は考えてあります」

 

 自慢気にその長い髪を揺らして文書は笑うと、おもむろに身体の前で掌を広げる。

 

「【アポート】」

 

 言葉が世界を変える。

 口から言霊が零れた瞬間に文書の指先が一瞬だけ淡く青く光る。

 そして次の瞬間には、文書の手に一冊の本が握られていた。

 

 口にした言葉が現実になる『個性』

 

 それが、文書の持つ『個性』。

 口にした言葉の数だけ指先に光が灯り、大体文書の半径10メートル以内で現実が改変される。

 発動範囲が少し狭いが、その範囲内ならば文書は言葉だけで世界を操る事が出来るのだ。

 

「先人の知恵を、借りるのですよ」

 

 そう言って不敵に笑う文書の手に握られている本のタイトルは

 

 ーーNARUTO、だった。

 

 

 

 ……どうやら、今日は忍者ごっこをして遊ぶようだ。

 

 

 

 

 

 何故か用意されているボク用の運動着(サイズぴったり)を着て、研究棟に移動する。

 正面から見た研究棟は普通の体育館のような外装で、大きさも大体同じだ。

 地上部分は二階まであり、一階に主な測定機材がある。

 二階は中央の大部分が吹き抜けになっていて、壁沿いにある機械制御室の横には昇降機が設置されている。

 正直これは無駄設計だろう、ロマンはわかるけれども。

 対して地下は少し深い場所に一階だけあり、そこでは威力測定用機材が置かれている。

 衝撃に対して同じ威力の衝撃を返すモノリスとかいう謎技術を初めて見た時は、思わず「こういう世界観だったっけ……?」と呟いてしまった。

 この研究棟は完全に文書の物で、当初は文書の『個性』でできる事を調べるために建てられたのだ。

 ……まぁ、これだけ大掛かりな建物を文書の為に建てたというのはちょっとヤベーなと思わなくもないけれども……まぁ、事情が事情か。

 

「さて、それでは始めましょうか」

 

 測定機材の起動を終えて帰ってきた文書の言葉にうなずく。

 事前の説明によると、今回調べるのはボクの『個性創造』がどの範囲まで『個性』を作れるのかという点について。

 要するに『個性』でできることの幅をとりあえず把握したいというのが今回の趣旨だ。

 

「それじゃあ行くよ……『個性創造』、『火遁豪火球』っ!」

 

 別に言葉に出す必要はないが、気合を入れるために『個性』名を叫ぶ。

 皆さんご存じの、NARUTOの火遁豪火球の術を『個性』として創り出す。

 全身の個性因子が起動し、身体がイメージに沿うように創り変えられる。

 自身の変容を拒むかのようにこみ上げる吐き気を抑えて、息を吹いて火球を吐き出す!

 

 

 

 出ない!

 

 

 

「まぁ、そうなるとは思っていました」

 

 近づいてきた文書は、そんな事を言いながらポケットから取り出した機械をボクに見せてくる。

 そこにはボクの姿を映したサーモグラフィーがあった。

 

「さっきのを再生しますね」

 

 そう言うなり再生ボタンを押す文書。

 映像の中のボクは『個性創造』を発動させてから、息を吹く動作をする。

 直後にボクの口元の色が一気に明るくなる。

 

「炎になるまでの熱量がなかっただけで、個性はしっかりと創られていますね」

 

 口元の温度は大体50度前後。世界一暑い場所であるルート砂漠の夏場の平均気温並みだ。

 ボクの『個性創造』の一番の問題点は、創った『個性』の強度が低すぎる事だ。

 せっかく吐き気を抑えて創り出したのに、殆どの『個性』が役に立つほどの力を発揮してくれないのだ。

 ダメ押しで、創った『個性』は基本的に1分と持たずに消えてしまう。

 創った『個性』は弱く、鍛えようにもすぐ消える。

 いくらなんでも、これで『個性創造』に期待しろという方が無理があるだろう。

 そんな事を考えている間に身体が元に戻るのを感じる。

 同時に吐き気も幾分か収まってきた。

 

「そうですね、個性『気炎』と言ったところでしょうか」

 

「たった今消えたけどね……次は何を創るの?」

 

「次はですね……初来にはチャクラを創って貰いましょうか」

 

 肩に掛かった長い髪を指で流しながら話す文書。ちょっとぐっと来てしまったのを誤魔化すようにボクは口を開く。

 

「ちょっと待ってよ、『個性創造』は無い物は創れないよ」

 

「ん……初来、チャクラはありますよ?」

 

「えっ……?」

 

 左手に持ったスマホに視線を落としたまま答えた文書。その言葉に思わず思考が止まってしまう。

 そんなボクに、文書は手に持ったスマホを差し出してきた。

 その画面には某インターネット百科事典の1ページが映されている。

 チャクラという項目で、内容にざっと目を通すとチャクラが実際に存在するといった事が書かれていた。

 そして驚くべきことに、なんとチャクラは『個性』の根幹であるらしいのだ。

 じゃあ創れるわ。『個性』由来のものであるなら、イメージできない物を除いてボクに創れない『個性』は無い。

 文書に目線で合図を送り、『個性創造』を発動させる。

 

「『個性創造』、『チャクラ』!」

 

 身体の奥から、微かにだが何かが湧き上がるような感覚。

 ともすれば吐き気に意識が向きそうになるのを抑えて、息を大きく吸う。

 

(『火遁豪火球』!)

 

 チャクラを口元に集め、発火させるイメージを脳内に描いてから、息を吐き出す!

 

 

 

 出ない!

 

 

 

「……さっきと同じように、初来の口元の温度は上がっていますね」

 

 無情に響く文書の言葉。それでもボクは先ほどのように気を落としてはいなかった。

 チャクラが『個性』の根幹であるなら、チャクラを操る感覚を覚える事が出来たならば、『個性創造』を自在に扱えるようになるかもしれない。

 きちんとした強度を持った『個性』を自在に操る未来のボクに思いを馳せていると、文書に服を引っ張られた。

 

「何?」

 

「すみません初来、嘘をつきました。チャクラは実在しないんですよ」

 

 申し訳なさそうな文書の表情に思考が止まる。

 ついでに創造したチャクラの『個性』が消えた。

 え、マジでどういう事……?

 そんなボクの内心を察したのか、文書はそっと右手を差し出した。その指先には4つの光が灯されていて。

 

「【げんわく】ですよ、初来」

 

 そんな言葉と同時に指先の光が消えた、文書が『個性』を解除した証拠だ。

 ふと、反対の手で差し出された文書のスマホに目をやると、そこに書かれていたチャクラの項目が先ほどから変化していた。

 チャクラが『個性』の根幹である等の記述は無くなっていて、ざっくりと言うとまだ生理学が発達していない時代の身体観だと書かれていた。

 

「え……?」

 

「初来が前から言っていた、『個性創造』は存在しないものは創造できない、というルールが本当か確かめたかったんですよ」

 

 ……あぁ、なるほど。

 『個性』というのは人が生まれる度に種類が増えていくのだから、存在するかしないかという縛りが本当にあるのか、って話か。

 

「文書はいつの間に『個性』を……?」

 

「初来が体操着に着替えている間にですよ」

 

 そんな前からか。

 確かに、事前にやることが決まってるのなら仕込みはできるよね。

 そこまで理解して、ボクは思わずしゃがみ込む。

 

「マジかぁ……」

 

「嘘をついてごめんなさい、初来」

 

「いや、それはいいんだけど……『個性創造』を使わずに『個性創造』を鍛えられるかと期待したのになぁ」

 

 ボクの言葉に、文書は不思議そうに首を傾げた。

 

「別に、一度創造した『個性』は二度と創造できないなんて事はなかったと思うのですが……?」

 

「いやー、感覚的にわかるんだけど、チャクラはもう創造できないよ」

 

 念のために、『個性創造』を発動させてみる。

 胃がひっくり返るような吐き気と共に先ほどの感覚が全身を覆うけれども。

 

「今チャクラを創ったんだけど……これは、さっき創ったのとは別物だね」

 

 例えるのなら、外側しかないパソコンがわかりやすいかな?

 見た目はパソコンでも中身がなければそれはただの箱だ。

 今ボクが創ったチャクラだって、感覚的には先ほど創ったチャクラと変わりがないけれども、チャクラとしての機能が備わっていないから、ただ身体を覆うだけのナニカになってしまっている。

 という事を文書に伝えたら、一瞬だけ考えこんだ後にわかりやすく顔を引き攣らせた。

 

「……初来の創造は初来のイメージを核に『個性』を創っているから、その核となるイメージの根拠を失ったら」

 

「『個性』として不完全になる、ってことだね」

 

 まぁ、簡単に言うと。

 嘘と知らずにチャクラを創っていた時はその嘘のイメージを核にした『個性』としてチャクラが存在できていたけれども、一旦それを嘘だと認識してしまえば『個性』の核にはならなくなってしまうという訳だ。

 そして更に悪いことに、今の検証結果からボクは「自分の認識を騙せばどんな『個性』でも創れてしまう」と認識してしまった。

 そう認識してしまったことで、逆に『個性』を創るときのイメージに疑いを持つようになってしまった。

 はっきり言おうか。

 この数分で『個性創造』は恐ろしい弱体化を遂げてしまったのだ。

 ……流石にこれは、文書に伝える訳にはいかない。

 気付くかもしれないけれども、言わなければ確証は持てない筈だ。

 

「まぁ別にチャクラなんてなくても大丈夫だよ、なんなら『個性創造』もなくて大丈夫なくらいだし」

 

「いえ、流石にそれはどうかと思いますが……とりあえず、次の検証に移りますか?」

 

 小首を傾げこちらを見る文書に、少しだけ待ったをかける。

 

「ねぇ文書、あと何回創造するかだけでも教えといてくれない? ちょっとやばいかも」

 

 正直なところ、今の2回の創造で結構きつい。

 胃がせり上がってきて、気を抜くと吐いてしまいそうだ。

 

「……そんなに、反動がきついんですか?」

 

 近寄ってきた文書の手が、ボクの頬に触れる。

 頬に感じるボクより高い体温に、少しだけ吐き気が収まる。

 

「多分あと1回……吐くの覚悟であと2回だと思う」

 

「そうですか……」

 

「……もう、大丈夫。次は何を創ればいいの?」

 

 文書の手の温かさに少しだけ気力が回復したボクは、文書に次に創造する『個性』を尋ねる。

 少しだけボクを気遣う様子を見せる文書だったけれど、基本的に自他に厳しい文書は『個性』の実験の続行を決めたのか、一つ頷く。

 

「次は螺旋丸ですね」

 

「螺旋丸……?」

 

 思いもしなかったチョイスに首を傾げてしまう。

 そのリアクションを想像していたのか、文書は薄く笑ってから口を開いた。

 

「あとで説明しますので、とにかく創造してみてください。……あ、ちなみに『個性』の内容は考えないようにしてくださいね?」

 

 どゆこと?

 ボクが口を開くより早く、文書が続きを口にする。

 

「今までは創造する時に具体的にイメージをしていましたよね、それをしないで『個性創造』して欲しいんです」

 

「まぁ、わかったよ」

 

 釈然としないまま、とりあえず言われた通りに『個性創造』を発動させる。

 開いた手のひらに螺旋が描かれて……あ。

 

「これ失敗だ。ボク今、風を操ってる」

 

 手を振って風を散らしながらそう伝える。

 今の螺旋丸は『個性創造』の際の気分の悪さがなく、完全にいつもの風を操るときの感覚だった。

 

「これは予想通りですね」

 

「そうなの?」

 

 予想が当たって少し嬉しそうな様子の文書に少し首を傾げつつ聞き返す。

 イメージを極力せずに、ということだったので、ボクの予想ではチャクラもどきを創って回転させると予想していたのだけれど。

 

「螺旋丸と似たような現象を起こせる『個性』を既に持っているのに、わざわざ新しく『個性』を作る必要はないと本能で理解しているのですよ」

 

 分かるような分からないような説明に疑問を覚えなくもないが、自信満々な文書の表情を見ているとそんな事はどうでもよくなった。

 

「次は何を創ればいい?」

 

 先を促すと、文書は顎に手を当てて思案した。

 

「そうですね……『個性』の反動もありますし、次で最後にしましょうか」

 

 そう呟き、文書はおもむろに手をこちらに伸ばしてきた。

 小さく呟かれた風という言葉と指先に灯る光を認識した直後に、文書からボクへとそよ風が流れてきた。

 これは別に文書の吐き出した息ではなく、文書の『個性』による現象だ。

 

「次に創るのは、文書の『個性』か……」

 

「『ハロー・ワールド』ですよ」

 

 正直、文書にネーミングセンスはないと思っている。

 ドヤ顔の文書にツッコミを入れることができないまま、ボクは改めて文書の『個性』の詳細を脳内で整理する。

 

 一つ目。言葉を口にすると、言葉の文字数だけ指先に光が灯る。

 

 二つ目。指先に光が灯ってから現実改変が始まる。

 

 三つ目。口にした言葉から外れた改変は行われない。風が吹いても桶屋は儲からないのだ。

 

 四つ目。範囲は半径10メートル程度と控え目。

 

 五つ目。改変された事象は、物質的であっても文書が『個性』を解除するか10分くらい経過すると消える。

 

 六つ目。改変された事象による影響は消えずに残る。『ハロー・ワールド』で創り出したナイフでつけられた傷は消えたりしないのだ。

 

 以上が文書の『個性』の詳細だ。

 正直な話、発動プロセスが意味不明なので創れるなんて欠片も思っていない。

 それでも、創れないという結果を出すことが大事なのだと理解しているので、呼吸を整える。

 何故か、今までになく緊張した様子の文書が気に掛かった。

 

 

 

「……『個性創造』」

 

 

 

 言葉と共に体中の個性因子を活性化させるが、まるでトラックを持ち上げようとした時のようにピクリとも反応しやしない。

 試しにそのまま「重力」と呟いてみたが、当たり前のように不発だった。

 

「やっぱり、文書の『個性』は創れないですか……」

 

 ほっとしたような表情でそう呟いた文書は、ボクの視線に気付いて慌てて詰め寄ってきた。

 

「ま、待ってください初来。今のは別にマウントを取ろうとしたとかそういう訳じゃ」

 

「いやー、まさか文書にマウント取られるとは思ってなかったなぁ……」

 

 そう呟いてから、ボクは揉み手でペコペコ頭を下げながら卑屈に笑う。

 

「流石強個性の文書さん、『個性』を創るしか能がないのにそれすら満足に出来なかったボクとは大違いーー」

 

「初来ぃ!」

 

「ーーだぁ?!」

 

 言い切るより早く飛びついてきた文書を受け止める。

 衝撃にふらつくボクに両手両足でしがみついた文書は、そっと耳元で囁いた。

 

「信じてくれるまで、初来の耳を舐り続けます」

 

「信じます、信じましたぁ!」

 

 ボクは文書を信じた。けれども文書はそんなボクを信じられなかったようだ。

 顔を近づけてくる文書を必死に手で押しのけようとする。くっ、力が強い……っ!

 

「大丈夫ですよ、性感帯が一つ増えるだけです」

 

「大丈夫じゃないよぶっ飛ばすよ?!」

 

 必死の抵抗を続けながら、ボクは安堵する。

 どうやら文書はボクの『個性』が弱体化したことに気付いていないようだ。

 さっきまでのボクだったら、『個性』として在るのならコピーできるでしょ、みたいな理由で創ってしまえていただろう。

 なんとか文書を振りほどき一息。

 

「でも、やっぱり悔しいなぁ」

 

 ボクはそんな言葉を口にした。

 やっぱり『個性創造』なんて自称(名付けたのは文書だけど)しておいて『個性』が創れなかったというのは、思うところがなくもなかったりする。

 

「いえ、そもそも一人一つしかない『個性』をポコポコ創れる時点でおかしいんですよ」

 

「まぁ、そうなんだけどね?」

 

 呆れたように言う文書に同意する。

 けれど悔しいものは悔しいので。

 ボクは何の気なしに口を開いた。

 

 

 

 

 

「文書みたいに言葉で世界は変えるなんて無理だよ

 

 

 

ーー言葉で人を動かすくらいならできるけど」

 

 

 

 

 

 その言葉を口にした瞬間、身体が変容する。

 自身の身体が変わる強烈な違和感と嫌悪感が脳を揺らし、湧き上がる猛烈な吐き気に崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

 

「は、初来?!」

 

「ふ、【袋】っ!」

 

「はいっ! 【ふくろ】! --えっ?」

 

 差し出されたビニール袋をひったくるようにして受け取り、吐瀉物をぶちまける。

 暫くして、吐き気が収まったのを見計らって文書が話しかけてきた。

 

「はい、これで口を濯いでください。……初来、何の『個性』を創ったんですか?」

 

「ーーん。別に、創ろうとはしてないんだけどね……」

 

 文書が差し出してくれた水で口を濯ぎ、そう答える。

 今の『個性創造』は、自分の意思で発動させてない。

 勝手に発動したせいか、普段よりも強い『個性』の反動に耐える事すらできなかった。

 

「か、勝手に? 自分の意思で、『個性』を創った訳じゃないんですか……?」

 

 文書も信じられないのだろう、動揺に瞳が揺れている。

 一呼吸、二呼吸。

 動揺を無理やり押さえつけた文書は、真剣な顔でボクを真っすぐに見つめる。

 

「……さっき、文書は初来の言葉に従って、何も考えずに『ハロー・ワールド』を発動させました」

 

 文書の話によると、『ハロー・ワールド』は言葉とイメージの二つで世界を変える『個性』だそうだ。

 それなのにイメージをすっ飛ばして言葉だけで発動したということは。

 

「初来の『個性』の影響でしょう。そして直前に初来が口にした言葉。言葉で人を動かすことはできる、でしたね」

 

 そこまで言われたら、流石のボクでも察しがつく。

 ボクの目を真っすぐに見つめ、文書は言った。

 

「自分のイメージを相手に伝え、相手を動かす。初来が創ったのは言葉の持つ力を……いいえ、言葉そのものを操る『個性』なんじゃないでしょうか」

 

 『個性創造』の事が少しだけわかり、もっとわからなくなった。

 おまけにどう考えても危険な『個性』を得て、ボクはただ途方に暮れる事しかできなかった。




『個性』劣化ノルマ達成
正直文書の『個性』名は納得いっていないので、何か案があったら変えます。

改稿前とは違う話の流れですが、最終的には同じ感じになります。
次は伏線仕込むもクソもない日常会なので早く改稿できる筈です。
その筈なんです……
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