君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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中学生日記 一年生編 ②(改稿済み)

 空気の流れを操り、汗ばむ肌を冷やす。

 夕凪特有の蒸した熱気に、暑さに弱いボクは憂鬱な気分でため息を吐く。

 茜に変わりゆく空と新緑に染まる山を眺めながら、ボクは文書との待ち合わせ場所である駅前の広場へとのんびりと歩を進めていた。

 きっかけは、ちょっとした噂話だった。

 なんでも、隣町にある鈴鳴神社は良縁を結ぶ事で有名な神社で、そこを訪れたカップル未満の男女が交際を始め、ついには幸せな家庭を築きましたとさ、というどこにでもあるような噂話。

 普通じゃないのは、それが『個性』によって成されたという事だ。

 良縁祈願を成しえる『個性』に興味を持ったボクは、文書と一緒に神社を見に行くことにしたのだ。

 ちなみに今日は鈴鳴神社でお祭りがあるらしい。日時を決めたのは文書だけど、普通に一緒にお祭りに行きたかっただけの可能性が……?

 

「それにしても、暑いなぁ」

 

 日中のうだるような暑さは無いが、湿度の高い、じっとりと纏わりつくような暑さに思考が浅くなる。

 いくら空気の流れを着物の中まで巡らせても、風そのものが生温いので効果は薄い。

 額を伝う汗をハンカチで拭い、ふと視線を車道へと向ける。

 ガードレールを挟んで歩道と並ぶ車道には、何台もの車が空を走る予定もなさそうに列をなしている。

 ボクの前世でもありふれた光景。

 時代的には100年以上も未来な筈なのに、だ。

 

 

 

 人類が『個性』に目覚めた後に、人類の文明は衰退した。

 人は異質な存在を排除したがる。

 当初は異能と称された『個性』、それを発現させた人は迫害の憂き目に遭った。

 迫害を受けた人々は集まり団結し、『個性』という力でそれに対抗。

 それが更に『個性』保持者に対する風当たりを強くするという負の連鎖を生んだ。

 そんな荒廃の時代を終わらせたのが、オールマイトなのだ。

 圧倒的な力で(ヴィラン)を倒し、存在そのものを抑止力とすることで日本の(ヴィラン)による犯罪数を激減させたのだ。

 

(それが健全なのかと言われると、違うんだけどね……)

 

 今の状況は、完全にオールマイトに頼り切った上で成り立っている。

 別に他のヒーロー達が頑張っていないとか言う訳ではなく、事実としてオールマイトの居ない海外での個性犯罪数はとんでもなく高いのだ。

 オールマイトだって人間だ。いつか必ずヒーローを引退する時が来る。

 その時に、きっと日本は荒れるだろう。

 ボクに一体何ができるのだろうか。

 ずっと前から考えている、自分自身への問い。

 その答えは、まだ出ない。

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

 駅前の広場が見えたと同時、ボクは思わず声を漏らしてしまう。

 普段はそこまで人が多くない場所の筈なのに、何故か今日は妙に人だかりができているのだ。

 なんというか、人口密度が広場中央の噴水前だけ高くなっているというか。

 

「……いや、まさか」

 

 ふと浮かんだ考えを口で否定しつつ、ボクは小走りになる。

 どんどん近づいている人だかり、その隙間から文書の姿が見えた時には既に、厄介事になっていると気付いた。

 

「ちょっ……と、通りまーす」

 

 人だかりはそれほど密集している訳ではないので、軽く声掛けをしてから間を通り抜けて中央にある噴水に腰掛ける文書と、文書に声を掛ける優男の下にたどり着いた。

 文書は『個性』を発動させ、薄青のバリアみたいなのを張って読書に勤しんでいる。ちなみに見ているのは医学書だった。色々やべぇ。

 一方、文書に声を掛けている高校生くらいに見える男の子は普通にイケメンで、これなら文書に声を掛けても無謀なチャレンジとは言えないな、などと一瞬考えてしまう程だった。

 

「別にひどい事しようとかそういうワケじゃないんだよ? ふつーに、キミと仲良くなりたいだけなんだって!」

 

「……」

 

「あはは、無視はひどいなぁ……あれ、これもしかして声とどいてなかったりするのかな?」

 

 完全無視の状態の文書に、男の子はそれでも余裕を崩さず笑っている。滅茶苦茶モテるんだろうなぁこの子。

 危害を加えるでもない普通のナンパなら、元男的には見守ってあげたい気持ちもあるが、今は文書の友人で、待ち合わせの約束をしている身だ。

 バリアに近寄りノックをする。

 

「お待たせ」

 

「ーー初来っ!」

 

 声を掛けた瞬間に文書は凄い勢いで顔を上げて『個性』を解除する。

 その瞬間にバリアと読んでいた本が消失した。それどういう『個性』の使い方?

 抱き着いてきた文書を抱きとめる。すると、男の子が話しかけてきた。

 

「あー、ちょっといい?」

 

「初来、行きましょう」

 

 スルーしているというよりは認識すらしていない風な文書。

 仕方なしに視線を向けると苦笑を返された。

 

「これ、連絡先なんだけど、もしよかったら」

 

「『しょうしつ』」

 

 文書の呟きが、男の子の差し出したメモを消失させる。

 目を見開いた男の子に醒めた目を向ける文書、その華奢な身体を抱きしめる腕に力を込める。

 

「まぁ、別に君に悪感情を抱いてはいないけれども。今のがこの子の答えだからね」

 

 言葉を発しながら、準備を終える。

 今から行うのは『個性』の行使ではない。文書の家にある『個性』反応測定機材でも感知できなかった、『個性』ではないボクの持つ力。

 ボクと文書に向けられている視線や感情を知覚して。

 

「だから、さようなら」

 

 その全てから、ボクらをズラした。

 その瞬間、男の子の視線が宙を彷徨う。

 見えてはいないけれども、ボクらの周囲に居る人たちは全員そうだろう。

 何故かは知らないけれども、ボクは他人の意識の中から抜け出す力を持っているのだ。

 意識の空白に呆然とする人たちの間を縫って、人ごみから抜け出す。

 

「初来……」

 

「ん」

 

 不安そうな文書の声に、手を握り返す事で返す。

 ボクの他者の意識を逸らす力を、文書は何故か嫌がる。

 自分にはその力を使わないでくれとはっきりと言われたほどだ。

 歩きながらもボクの方へと頻繁に視線を向けてくる文書。

 せっかく遊びにいくのにこのままのテンションではどうかと思うので、ボクは口を開いた。

 

「文書、その浴衣似合ってるね」

 

「……そ、そうですか?」

 

 頬を染めて視線を漂わせる文書。

 青の線で波を描く、夏にぴったりな浴衣。

 長い髪は後ろで纏められていて、そこにかんざしが挿されている。

 文書自身の線の薄さも合わさって文句なしの薄幸美少女(ワールドクラス)だというのに、その美少女が頬を染めて微笑んでいるのだ。

 当然ボクもちょっと心拍数が上がっている。

 すれ違う人たちも胸を押さえて蹲っている。

 

「お母さんが、初来のイメージカラーに合わせたって言ってました」

 

「なるほど」

 

 恥ずかしさを誤魔化すようにそんな事を言う文書に、頷きを返す。

 確かにボクのイメージカラーは青だ。

 ちなみに言うと、緑もボクのイメージカラーで、ボクの今日の浴衣は白地に3つの濃さの違う緑で線を引いた、風を模した紋様だ。

 ボクのイメージカラーに合わせたと言うのなら青と緑の2色を使うはずなので……。

 きっと撮香さんは、文書の為にウチにあった浴衣を確認(透視)したんだな!

 ボクは好意的に解釈した。

 

「その……初来も、似合っていますよ。とっても」

 

「うん、ありがとね」

 

 文書の手を軽く握る。

 たったそれだけのことで嬉しそうに笑う文書。

 その笑顔に、また少し心拍数が上がって

 それが少し気恥ずかしくなったボクは、視線を前へ向けて。

 

 

 

 その時にはボクは既に、さっき意識を外しきれなかった人がいた事なんて、忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

「あの人、私と同じ……」

 

 小さくなってゆく背中を目で追いながら、私は呟く。

 一瞬見失ってしまう程に強い意識外しの力に。

 自分より強い力に。

 それほどに強い力を持っているのに、隣に誰かが居るという事実に強い興味を抱いた。

 

「私も、あんな風になれるかな……」

 

 誰かと隣り合って、心の底から笑えるのなら、それはどれだけ素敵な事なのだろうか。

 そんな未来を想像して、私は笑ってーー両手で、思いっきり自分の頬を叩いた。

 

「痛い……」

 

 じんじんと痛む頬に顔を顰めながら、音に反応してこちらに向けられた意識を外す。

 この笑い方はダメだ、お父さんとお母さんに怒られてしまう。

 歯を見せないように、自然な笑みを浮かべる。

 視線を向けると、先程見えた背中は雑踏に紛れてもう見えなくなっていた。

 それでも、私と同じように頑張っている人が居ることがわかったから。

 

「私も、頑張らないと」

 

 あの人に背を向けて、私は歩き出した。

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