星々の淡い光が散りばめられた夏の夜の帳を、穏やかな陸風が揺らしている。
祭りに訪れた人々の喧騒の中、ボクは屋台で買ったタコ焼きを片手に、もう片方を文書と手を繋いで歩いていた。
なお、文書が自然に指を絡めてきたので考える暇もなく恋人繋ぎになってしまっていた。
女として生まれ変わって12年、前世の記憶を取り戻して9年。
それだけの年月を過ごしているというのに、いまだにふとした瞬間の女の子同士のボディタッチには慣れない。
……なんで普通に抱き着いたり胸を揉んだりしてくるんだろうか。
苦手、というより元男だという意識があるから反応に困ってしまう。
そんな事を考えながら、なんとなく見上げた夜空。
家から家へと張られたロープに、鈴を模した提灯が規則正しく並べられているのが目に入った。
一息つくために公園へと避難すると、同じ考えの人達が思い思いの食べ物を持ってベンチに腰掛けていた。
大通りと同じように鈴型の提灯がオレンジの明かりを放っており、淡い柔らかい色合いで染められた公園に、ボクは郷愁を覚えてしまう。
空いているベンチに文書と2人で腰掛け、眼前の光景をぼんやりと見ながら口を開く。
「知ってはいたけど、やっぱり変な神社だね」
ボクの言葉に、焼きそばを頬張っていた文書が頷く。
街中参道。
そう呼ばれる鈴鳴神社の参道は、なんと住宅街の大通りの名称なのだ。
鈴鳴神社の本殿は、普通に住宅街の真っただ中にあり、住宅街を含めたここら一帯が神社の敷地扱いとなっている。
鳥居の向こう側にならぶ住宅街を見て、流石に2人して言葉に詰まったのは今から30分は前の事だった。
超常黎明期に設立された神社である鈴鳴神社。
住宅街も含めて神社扱いされている奇妙な光景は、当時の混乱から身を護る為の団結の結果だそうだ。
なんだろう、自身の土地に結界を張るとかいう『個性』持ちでもいたのかな? ボク、気になります!
……そうだ、『個性』で思い出したけれども。
「ねぇ文書、そういえばなんだけど」
「はい?」
ボクの目を見て首を傾ける文書に、ボクは気になった事を尋ねる。
「この神社の神主さんの『個性』が知りたいって話だったと思うんだけど、なんで祭りの日に来たの?」
神社の資料を探すなら図書館だし、神社の人に聞くにしても祭りの日じゃないほうがいいと思うんだけど。
……あぁっ、暗がりでもわかるほど文書がジト目にっ?! 待って、誤解だ!
「違う違う、お祭りに遊びに来るのとは別に神社に来ればいいんじゃないかって話で!」
納得してくれたのか、文書さんの目が元に戻る。
一呼吸。
「この神社の公式サイトの祭りのページで、下に小さく『個性』使用許可届提出済と書かれていたんですよ」
「……つまり、どういうことだってばよ?」
「このお祭りで『個性』が使用されるということですよ」
文書の話によると、祭りの情報が載せられているページにだけその文言があるらしく。
それはつまり、この祭りの時にのみ神主の『個性』が使われるかもしれないとのこと。
「そういえば初来は、この神社の起源を知っていますか?」
文書の問い掛けに、ボクはにっこり笑う。
文書もにっこりと笑い返してきた。
「そもそも、1人の男が『個性』を発現させたのが始まりなんですよ」
文書の話によると、なんでもその『個性』を発現させた男性が鈴を鳴らすと、悪意や害意を持った相手が必ず不幸な目に合ったとのこと。
その『個性』で超常黎明期の混乱からこの地域の人たちを守り抜いたらしい。
それがこの神社の起源、穢れや厄災を払う鈴鳴信仰の始まりとのこと。
わかりやすい現象系の『個性』ばかりだった時代に、神の御業としか思えないような『個性』を持った人が生まれたのなら。
「鈴鳴信仰の信仰対象は鈴ではなく、初代の鈴鳴神社の神主ー-現人神の『個性』そのものなんですよ。そして鈴鳴神社の神主は血縁の中から、初代の『個性』と似た『個性』の持ち主が選ばれるんです」
「なるほど……」
その人が信仰の対象になるのも、まぁ納得できる話ではある。
文書の説明に頷く。
生き物や遺物を御神体とするのではなく、実際に人が起こした奇跡そのものを信仰するなんて聞いた事がなかった。
他にも色々と興味が惹かれる話で、面白かったんだけれども、やっぱりボクが一番興味を引かれたのは『個性』の話で。
いくら似た『個性』の持ち主が選ばれるとはいえ、親の『個性』と全く同じ『個性』を持つ子が生まれる確率は殆どないだろう。
つまり、初代の『個性』をボクが詳しく知る事は、恐らくできない。
「その、あらひとさんの『個性』……一体、どんな『個性』だったんだろう」
もしボクが死んだ後で、あの世であらひとさんに会えたらぜひ聞いてみたいな、なんて思いながらそう呟く。
……文書からの反応がなかったので顔を向けると、何故か信じられないものを見るような目でボクを見ていた。
数秒の間見つめ合うボク達2人。
ようやく再起動したらしく、はっとした文書。
「……文書は、そんな初来でも大好きですよ?」
生温い視線が非常に不愉快だったので、ボクは文書の口にたこ焼きをねじ込んだ。
「こんばんは。2人とも仲良しさんだね」
満足そうにたこ焼きを頬張っている文書の口を紙ナフキンで拭いてあげていると、そんな声が聞こえてきた。
視線を向けると、何故か巫女服姿の祓魔さんと、その後ろに隠れて顔だけ出してこちらを見ている不夜城さんが居た。
ちなみに、文書は一瞬で嫌そうな顔になった。
「こんばんは。祓魔さん達も仲良さそうだね」
「良くありませんわ! こっ、こんな辱めをわたくしに……っ!」
辱められているらしい不夜城さんが、顔を真っ赤にして叫ぶ。
自分より身長の低い祓魔さんの後ろに隠れている不夜城さんは、何故かその金髪を結い上げていて。
「あっ、もしかして浴衣着てるの?」
ふと気付いたことを口にすると、どうやらそれは正解だったらしい。
身体を硬直させ、真っ赤な顔でこちらを凝視している不夜城さんが震え出した。
「わっ、笑えばいいではありませんか?! こんな……こんな、ハーフのわたくしには似合わない姿っ!」
不夜城さんがハーフなのは初耳だった。
まぁ確かに先祖にヨーロッパの人がいそうとは思ってたんだけども。
……でも、外国の人が浴衣着てるのを見ても、似合わないと思った事ないんだけどなぁ。
どう言えばいいものかと思案していると、ふと意地悪な顔になった祓魔さんが、急に身体を横にずらした。
「おぉ……」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
姿を現した不夜城さんは黒地に金の線が波状を描く、大人っぽい浴衣を身に纏っていた。
中学生が着るには大人過ぎるかと思ってしまうが、それが逆に不夜城さんの幼さを引き出していて、大人っぽさと子供っぽさを両立させている。
【朗報】浴衣を着た中学生が可愛すぎる【浴衣美人】とかいうスレが立てられてもおかしくはない程だ。
身体を抱えるようにして縮こまる不夜城さんに声を掛ける。
「いやぁ、物凄い浴衣美人だね」
「でしょ? ちなみに私が浴衣を選んで着付けしました!」
「でかした」
「でかされました!」
得意げに胸を張って笑う祓魔さん。
その拍子に鈴の髪飾りが控え目に鳴った。
……もしかして。
いや、この場所で巫女服を着ているのだから気付いて然るべきだったんだけれども。
「祓魔さんは、鈴鳴神社の人なの?」
「そうだよー、鈴鳴の純巫女と呼ばれてます」
純巫女とは?
いや、バイトの巫女さんではないという事だろうけども。
春のあの件以降交流が増えた4人で、ベンチに並んで座る。
ちなみに文書は先程からそっぽを向いたまま、ボクの手をにぎにぎしている。
かまって欲しいのかな? かわいいの化身かよ。
最近とある小説を読んだせいで終わり方がLv1の語録になってしまった。
影響されてて可愛いね♡ 誇りがないのかよ。