君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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蠢いちゃったかー
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……マジか


闇に蠢く

 そっと、まるで恋人に甘えるかのように文書が身を寄せてきた。

 シーツが擦れる乾いた音と、微かな吐息だけが静かに響く。

 

「ん、はつきぃ……」

 

 弛んだ頬を黒髪が滑り落ち、ボクの胸に触れる。

 互いに産まれたままの姿で、触れた素肌は行為の余韻か、未だに熱を孕んでいた。

 妙に心地好い気だるさに身を委ねるように、ボクはそっと目を閉じる。

 

 

 

「はい、カットー」

 

 

 

 空間に響く声。艶やかさと可愛らしさが混ざる、耳掻きボイスに使われそうな声だ。

 

「マジで、何やってるんですか撮香さん……」

 

 頭痛に眉を寄せながら、語尾に音符が付きそうな調子で盗撮を自白した文書のお母さんにツッコミをいれる。

 伝聞撮香(とりか)さん。個性『一聞一見』という、認識した場所をリアルタイムで見ることのできる個性を持つ女性だ。

 それを盗撮に使わなければ。それ以前に実の娘すら範囲に納めてしまう広大な性の守備範囲さえなければ、と強く思う。

 ボクを婚約者として紹介した文書。そんな娘に対して「初夜は撮らせてね」と言い放った時の凍りついた空気は筆舌に尽くし難かった。

 

「残念ながら行為に到ってはいませんよ。危うかったですが未遂です」

 

 受けに回ってたらヤられてた。咄嗟に編み出した個性による必殺技『お休みのキス』で眠らせていなければ今頃は両方とも処女喪失してただろう。

 

「残念ながらそうみたいね」

 

 心底残念そうな声と共に、数回ドアノブを回す音。鍵が掛けられていることに思い至ったのか数秒音が止まる。

 再び音が鳴り出した。

 今度は軽い、金属同士が擦れ会う音……。おいまてまさか。

 

「文書ちゃんったらかわいい、こんなことしても無駄なのに」

 

「ぴ、ピッキングしやがった……」

 

 普通に真正面から娘の部屋に侵入してきた撮香さん。

 文書が成長したらこうなるだろうという正統派黒髪長身美女である(但しボクより低身長)

 普通にボクに覆い被さってこようとしたので拒絶すると、諦めて文書の側から布団の中に潜り込んできた。いやだからボクと文書二人とも裸なんですが。

 

「ありがとうね、初来ちゃん」

 

「へ、変態だ……」

 

 愕然としたボクの言葉に苦笑する撮香さん。

 そっと文書の頭を撫でる。その眼差しは慈愛に満ちていて、まさしく母親の顔だ。

 どうやら真面目な話らしい。

 

「この子がこんなに笑って、何かに一所懸命になれるのも。初来ちゃん、あなたがこの子を救けてくれたからよ」

 

 だから、ありがとうと。

 そう言って笑う撮香さん。

 だから、ボクも胸を張って言う。

 

「文書は、凄く強い子です」

 

 ボクが困った時に。前に進む方法が分からなかった時に。諦めそうになった時に。

 文書はいつだって、大丈夫だと笑って手を引き、前を向かせてくれるのだ。

 

「確かに、文書は自分の個性から逃げていました。だけど……ボクじゃない誰かが手を差し伸べていたとしても」

 

 ……いや、違うな。

 

「文書の傍には文書を想ってくれる人が居て、いつだって独りじゃないって。その事にさえ気付けたのなら、文書はきっと1人でだって自分と向き合えた、と思います。だから」

 

「自分は大したことはしてない、って?」

 

 撮香さんの瞳がボクを映す。

 問い質しているんじゃなくて、先を促す言葉。

 どうしてそんな優しい瞳を向けてくれるのか。そんな言葉を胸にしまい、答えを返す。

 

「文書と知り合えた事。笑い合えた事。親友と、呼べるようになった事。誇らしく思いますし、ボクの言葉が文書の心に届いて前を向く切っ掛けになれたのなら、それほど嬉しい事はないです」

 

 本音をそのまま撮香さんにぶつける。

 恥ずかしいけれど、向かい合っては絶対に言えないけれども。

 

「ボクが一番文書の強さを知っていて、ボクが一番文書を尊敬しているんです」

 

 これだけは、撮香さんにだって負けない。

 言い切ってから顔に熱が集まるのを感じる。ヤバい語りすぎた恥ずかしい。

 撮香さんはまるで無垢な少女のように笑うし。

 

「愛されてるけれど、まだまだ先は長そうよ?」

 

「ーーっひゃあ!」

 

 胸を鷲掴みにされて体が跳ね上がる文書。体を捻り、ボクの方へと逃げて来て叫ぶ。

 

「お母さん! 本当にそういうの止めてって言ってるじゃないですか!」

 

 ボクの胸に後頭部を預けて、耳まで真っ赤にした文書。

 ちなみに文書は家族の前では例の語尾は無しだ。かわいい。

 

「ああもうっ! 『たいしつ』!」

 

「あら、待ってお母さんも混ぜ」

 

 文字魔法が発動し、青白く光る文書の指が撮香さんを吹き飛ばす。ひとりでに開いたドアの向こうへ撮香さんが飛ばされた瞬間、撮香さんの言葉を遮るように閉まった。

 

「『みっしつ』」

 

 再び発動された文字魔法。

 部屋が完全に隔離され、入ることも出ることもできなくなる。

 

「……まったく、お母さんは」

 

「愛、ではあるんだよね」

 

「お断りだそうですよ」

 

 赤くなった頬を押さえ、溜め息1つ。文書が抱きついてくる。

 

「初来……緑谷出久が、好き……ですか?」

 

 抱きしめる力が強くなる。

 恐る恐るといった問い掛けに、正直に答える。

 

「ヒーローとしてならイエス。異性としてならノー」

 

「ばっさり、ですね」

 

「というか、ボクの事情が事情だし。男も女も関係なく誰に対しても恋愛感情はないよ」

 

 軽く言ってるけど、これ真面目に問題だ。

 前世の性別を取るか、今世の性別を取るか。成り行き任せ、という訳には行かない気がする。

 いつかは向き合わないといけないなぁ。

 

「わかりました。仕方ないから初来を手伝ってあげるそうですよ」

 

「手伝う?」

 

 物思いに更けるボクを現実に引き戻した文書の言葉。その意味を図りかねていると、今更隠すのかと言わんばかりにジト目でのし掛かられた。おいだからボク達裸だって……。

 

「緑谷出久だそうですよ。鍛えるらしいですよね?」

 

「あー……」

 

 正直、凄く助かる。ボクと出久くんだけじゃ迷走するのが目に見えてる。けれど、最初から頼まなかったのはそれなりの理由があった訳で。

 

「いいの? 出久くんの事、あんまり好いてないでしょ……?」

 

 所謂、恋愛感情をボクに向けている文書。そのボクが、例え恋愛感情がなかったとしても、興味を抱き仲良くしようとする相手に良い感情を持てるはずがない。

 

「信じて送り出して、後日ビデオレターだけ送られてくる、なんて事だけは避けたいですので」

 

「ごめん、言ってる意味がわからないよ」

 

 ビデオレター? いつの時代だ。

 しかも語尾消えてるし。

 

「とにかく、文書はずっと一緒にいるそうですよ。それに」

 

 言葉が区切られる。

 躊躇いの後、ボクの胸に顔を埋め、小さな声で文書が告げた。

 

「初来が見初めたヒーローを、見てみたくなっただけ、らしいです」

 

「……!」

 

 家族とボク以外の人に興味を持たない文書が、出久くんに興味を持っただと……!

 これは、まさか出久くんルート入りか?

 今まで考えた事もなかったけど、文書だって僕のヒーローアカデミアの登場人物である可能性も無くはないのだ。いや、文書ほどの強個性ならむしろ登場人物じゃない訳がない。

 出久くんのお相手ーーヒロインは、あの浮かす女の子だと思っていた。けれど文書がヒロインだっておかしくないし、サブヒロインという線もある。

 これは、来たか。親友の恋路を応援するイベントが。

 

「わかったよ文書、一緒に出久くんに会いに行こう!」

 

「……もし。文書と緑谷出久をくっ付けよう、とか考えているなら、監禁して文書の考え付くありとあらゆる性行為で初来を快楽漬けにして、片時も離れたくなくなるまで依存させますからね……?」

 

 胸に埋めていた顔をこちらに向ける文書。その瞳は暗く淀んでいる。所謂ヤンデレ目だ。

 

「まさか、そんな事考える訳がないでしょ?」

 

「……騙されてあげるそうですよ」

 

 仕方ないと瞼を伏せてそう呟き、文書はボクの鎖骨に舌を這わせた。

 

「ちょっ、やめ」

 

「相変わらず、ちゅっ、鎖骨が弱いそうですね」

 

 やめろ舐めるな吸うな唇で挟むな! このままだと非常によろしくない事になるので、脇腹を擽って反撃する。

 面白いように体を跳ねさせる文書。面白くなって暫く続けていると、一際大きく体が跳ねた。

 ヤバいやり過ぎた……?

 

「だ、大丈夫……?」

 

「……ふぁ、しゅごひ」

 

 紅潮した頬、潤んだ瞳。これはアウトだ。

 お休みのキス(必殺技)で強制的に眠りにつかせて、ボクも布団に潜り込む。

 今日は色々な事があった。

 ボクと文書と出久くんと、3人共に雄英に合格できた事。

 出久くんの家で、オールマイトグッズに囲まれて幸せだった事。

 帰り道で文書に拉致された事。

 文書の家で真っ裸に引ん剥かれた事。

 ベッドインからインされそうになった事。

 なんとか撃退できた事。

 ヤンデレ化の兆候を文書が見せた事。

 文書はしっかりと撮香さんの血を引いていると確信できた事。

 

 8割は文書の事で、しかもその内半分はエロだったけれども。

 明日はきっと、もう少し自重してくれるよね。ねぇ、文書。

 

「ーーくしゅっ」

 

 風を操り文書に服を着せてから、電気を消す。

 おやすみ、文書。

 

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