支えてくれた大切な家族を残して。
そして彼は、白い世界で神様に出会いました。
彼は、家族の幸せを望みました。
俺の名前は『佐藤 淳一』。この世に生まれて二十余年。俺は人生のターニングポイントに直面していた。
俺はこれまでの人生を振り返る。
父さんは俺が五歳の頃に交通事故で亡くなり、自立するまでは母さんが一人で俺を育ててくれた。
そのおかげで、俺は無事大学を卒業して社会人となった。
順風満帆な人生。
というよりかは、どこにでもあるありきたりな人生。
それも今さっき終わりを告げた。
死因は交通事故。詳しくは分からない。何せ歩道に突っ込んで来た車にぶつかったと思ったら、次の瞬間には体が動かなくなっていた。
ああ、父さんと一緒だ、と今気づいた。
思い起こされるのは、安らかに眠る父さんの顔。もう二度と目を覚ます事はない、大切だった家族の、冷たい亡骸。
母さんは悲しんでくれるだろう。同じ死に方で家族を二回も失うなんて、俺は耐えられない。きっと会社に行く気力も無くなってしまうだろう。
あの人には悪いことをしてしまった。ろくな親孝行も出来ずじまいだった。
こうなっては謝ることもできない。
だから…………
「神様、特典なんていらないから、どうか俺の母に幸せな未来を」
『……』
俺の目の前にいる不思議な存在。それは自らを神と名乗り、俺に特別な力、『特典』とやらを与えて別の世界に転生させてくれるらしい。
だが、俺は自分の力よりも、自分の大切な人の幸福を望んだ。
醜い罪滅ぼしかもしれない。意地汚い偽善かもしれない。しかし、俺はそう望まずにはいられなかった。
神様も俺の気持ちを汲んでくれたのか、何も言わずに頷いた。
『……しかし、そうなってはお前が今から行く世界で生きていけるかも怪しい。なにせ、その世界は今滅亡の危機にある』
「それなら、もっとふさわしい人が居るはず。俺はただの一般人。そんな覚悟、正直に言うと……ありません」
360度白色に包まれたこの不思議な空間の中で、俺は神様に本音を伝えた。
そう、俺には世界を救う覚悟なんてものはない。
テレビで見た紛争地帯、飢えた子供達。
いつどこで死ぬか分からない世界がそこにはあった。それを見て悲しみを感じることはあれど、行って人々を救おうなんて思ったことは一度たりとも無い。
そんな俺だ。たとえ特典を貰ったとしても、それを活かすことすら出来ないだろう。
『否』
「……え?」
『お前が選ばれた理由をまだ話していなかったな。まずは其処から話すとしよう』
「理由……」
気になってはいた。さっきも言ったが、世界を救うのなら、俺よりもふさわしい人は幾らでも居るだろう。なのに何故、この神様は俺を選んだのだろうか。
『お前をこの場所に呼んだ理由。それは……【心】だ』
「心、ですか……?」
『分からぬか。お前の持つ善良な心こそ、世界を救うに相応しいもの。並外れた運動神経でも、優れた知能でも、生まれ持った才能でもない。お前が歩んで来た人生で培われた正しく優しい心が、この神の目に止まったのだ』
「で、でも……」
『現にお前は、自分の力ではなく他者の幸福を願った。例えそれがお前の考えた罪滅ぼしだろうが、世間一般でいう偽善だろうが一切関係ない。お前は何の迷いもなくそれを選んだ。それが運命というものなのだ』
「!」
何故だろう。神様の声はとても落ち着く。遠く、懐かしい……
『そう、運命だった。全てはこの時のためだった。俺が、神となったのも……』
「………え?」
『…………お前がそう答えるだろうと確信していたぞ。そして、そんなお前には本来与える予定だった特典を授けよう。なに、恐れることはない。この力はお前の行く道を照らしてくれる。お前の……母さんのように……』
「あ、あなたは、もしかして……!」
『何も言うな。お前を選んだ理由は本当だ。お前は、世界を救うことだけを考えておけばいい。そうすれば自ずと道は拓けるだろう』
思い出した。この声は、この“人”は……!
『さらばだ。未来の勇者よ。今度は……死ぬなよ』
「待っ……!」
白い空間が光に包まれる。体がどこかへ行こうとしている。それでも、俺は光の中で見た。安らかに笑う、あの人の顔を。
『……大きくなったな、淳一』
静かに呟いた、大切な家族の声を。
ある日、男の人が不幸にも死んでしまいました。
支えてくれた大切な家族を残して。
そして彼は、白い世界で神様に出会いました。
神様の話を聞いて、彼はいずれここに来る家族を救うため、ここに残る事にしました。
彼は、家族の幸せを望みました。
この白い世界で、永遠に……