ダンジョンで誓いを果たすのは間違っているだろうか   作:ミキサ

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前章譚~Prologue~
前章譚”芽吹き”


 これはとある少年と少女の物語のプロローグ。

 

 ――を憧憬する絶望を未だ知らない無垢な時代。

 

 これはまるでありきたりな、――譚の序章だ。

 

 

 ダンジョン都市”オラリオ”、幾重もの冒険者たちがさまざまな目的のために人と神々の作り上げしバベルの塔からダンジョンへと潜る。

 神と契約しファミリアを形成し、それぞれの冒険譚を作り上げる。

 だけれど、そこに至るにはまだ彼らには時期が早い。これはまだ序章なのだから。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 オラリオから五日ほど歩いて北にあるとある村。そこに多くの冒険者たちが集まっている。彼らの防具や設置された旗にはどれも星と雷のシンボルが記されており、それは彼らがファミリアを形成していることを意味していた。

 彼らのファミリアの名はゼウスファミリアとヘラファミリアの混成軍。

 この世界でおそらく最強のファミリアの二つである。

 

 彼らは現在、本来の仕事の迷宮探索を一時中断しとあるミッションを行っている最中だった。

 それは世界三大クエストと呼ばれる、三体の大型モンスターの討伐である。

 

 「陸の王者」ベヒーモス。

 

 「海の覇王」リヴァイアサン。

 

 そして「空の暴君」邪眼の黒龍。

 

 村の広場の中央に立てられた少し大きめなテントの中は現在対策本部のようになっており、長テーブルの周りにゼウスファミリアとヘラファミリアの幹部たちが集まっていた。そしてテーブルに置かれた大きな革地図には×のマークが二つ。

 一つはベヒーモスと書かれた谷の場所。もう一つはリヴァイアサンと書かれた海の場所。

 

 テントの一番奥で地図を眺め大きく息を吐いた白髪の男は幹部の全員が集まったことを確認すると喋り出す。

 

「ようやく陸と海を倒した、あとは空。黒龍だけだ!」

 

 ゼウスファミリア団長アルはそう高らかに響く声で宣言する。

 白髪に金色の瞳を持つ美男子であるアルはまさに現代の英雄と言われるに相応しい実力を兼ね備えている。銀色に輝く鎧にはラインを則るかのようにして紅色が飾られており、腰に携えられた銀色の剣も目を引きかなりの業物だとわかる。

 

「おう団長!そのクソトカゲをぶっ倒せばようやくオラリオに帰れるな!」

 

「はぁ、久しぶりにあの店のご飯が食べたいわ」

 

「俺もようやく妻と息子に会えそうだな!」

 

 団員たちの士気が高まっているのを満足げにアルは確認すると、まじめな顔つきになった報告を聞く。

 

「それで、黒龍の状況はどうだ?」

 

「はい、遠視で確認したところ未だ黒龍は山の頂上付近で寝静まったかのように大人しく、すぐに暴れてくることはないでしょう」

 

 アルの傍らにいる小人族(パルゥム)の青年が水晶玉からその風景を見せた。彼の魔法の一つである使い魔による遠隔監視能力によるものである。

 その水晶に映っているのは、岩肌が荒れ尖った山の一角でその大きな体を丸めて動かない漆黒の巨体。凶悪そうな鋭さを持った漆黒の輝き一枚一枚が名匠の剣と同等の堅さと切れ味を持った鱗だなんて全く悪い冗談のような存在。それこそが今回の標的である黒龍だった。

 眠っていても溢れ出すその凶悪さに全員が息をのむのがわかる。

 

「そうか。だが油断もできない、全員気を引き締めておけよ?」

 

「わかってるよ!前回だって死にかけたんだ、今更あいつらを舐めたりなんてしないぜ!」

 

「まぁ、それでもなんだかんだで私たち生きてるしね。今回も生き残るわよ!」

 

 そんなドワーフとアマゾネスの言葉に全員頷き合い、集会は終わり各々がテントから出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おとーさん!!」

 

 そうしてアルもテントの幕を潜ると自分を呼ぶ可愛らしい少女の声に顔をほころばせる。

 そこにいたのはヒューマンの親子だ。

 二人とも金色の髪が長く垂らされ金色の瞳は宝石のように美しいまるで精霊のように整った容姿をしている。

 

「アイズ、アリアも一緒か」

 

「お疲れ様アル」

 

 アルは駆け寄ってきたアイズを抱き上げると、アリアとともにそっと抱きしめる。そんな何気ない温もりが彼に癒しを与えた。

 

「ねぇおとーさん見てみて!」

 

 そう言ってまだ6歳のアイズが小さな手で差し出してきたのは黄色と白の花で編み込まれたアイズの頭サイズの花冠だった。

 アイズがそんなものを見せてくれたが初めてだったのでアルは驚きながら褒めた。

 

「おぉ、きれいに作れたな!アリアに教わったのか?」

 

「違うわよ。私じゃなくて」

 

「ベルに教わったの!」

 

 そう、満面の笑みで告げる娘にアルはアイズの出した名前の少年を思い浮かべる。

 この村で出会った自分と同じ白髪と兎のような赤い目を持った少年のことを。

 

「そうか、彼に教わったのか」

 

 アイズの頭を撫でながらアルはこの村に来てアイズが彼と出会ってから笑顔が増えたことが嬉しかった。クエストのせいで各地を転々としている自分たちに連れまわされて来たアイズには初めての友人である。

 またベル自身は両親がおらず、村全体で彼の親代わりをしているらしく。アイズのおかげでベルも楽しそうだとお礼を言われたこともある。

 

「ベル君の方が年下なのに、アイズよりも物知りで器用よねー」

 

 少しからかうように微笑むアリアにアイズは顔を赤らめ口を尖らせながら叫ぶ。

 

「べ、ベルだって私よりもおっちょこちょいだもん」

 

「あらあら」

 

「アリア、その辺でやめといてやれ」

 

 顔を真っ赤にする娘を笑いながらアルはその場を諫める。

 アルは軽い動作でアイズを肩車すると、アリアの手を取り間借りしている家への帰路に着く。

 アイズは最初こそアリアのからかいに唸りながらアリアを睨んでいたが、アルの白髪を弄っているうちにそんなことを忘れたかのように上機嫌になった。

 

(こんだけ髪の毛引っ張られてて、俺将来禿げないかな……)

 

 とはいえ愛娘の機嫌のためだ。アルは将来の不安を素知らぬふりをする。

 アリアもそんなアルの心中を知ってかクスクス笑っている。そこには超級冒険者の影などなく、ただただ娘と妻を愛する夫があった。

 

 三人の影が揺れながら歩いていると、そこに一人の影が追加される。

 アル達の家の前に小さな影が一つ待っていた。

 まるでぴょこっと言う効果音が似合う、小柄で兎のような白髪と赤目の少年が三人を見つけると手を大きく振りながら駆け寄ってくる。

 

「アイズちゃんとアルさんとアリアさんー!」

 

「あ、ベル!」

 

 ベルが現れたことで頭の上のアイズの機嫌はよりよくなり、ベルに手を振っているのだろう。アルは少しだけ頭がこそばゆくなる。

 そしてアルも手を上げ振り返そうとすると、どうにもベルの小柄な体で手を振りながら走ってくるには体勢が不安定であり……

 

「おいおい、そんな走ると」

 

「あ!」

 

 足元にあった石に躓き転んでしまいそうになった。しかし痛みに耐えるために目をつぶったベルにはいつまで経っても痛みはなく、そっとベルが目を開けるとそこには逞しい腕が自分を支えていた。

 アルは自分の腕の中でキョトンとしているベルに苦笑いを浮かべる。

 

「ほら!ベルの方がおっちょこちょいだもん」

 

 これ然りと言わんばかりにアイズは嬉しそうにベルを指さしながらアリアに訴える。

 その言葉にベルは自分の状況を理解したのか恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「あ、うぅ……」

 

 そのなんとも庇護欲を注がれる子兎に、アリアはアイズの訴えを聞き流しながらベルに話しかける。

 

「それでベル君、家の前で待ってたみたいだけど何か用でもあったの?」

 

「えっと、その……レルバのおじちゃんが村を守ってくれてるアルさん達に野菜をって」

 

 ベルがアルの家を指さすと、玄関先に新鮮な野菜がざるに乗せられ置かれていた。

 黒龍討伐までの間この村を拠点にさせてもらっているアルたちはその軽い感謝のつもりで周辺のモンスターの討伐を行っていたためそのお礼だろう。

 

「お、ありゃ旨そうだな!ありがとなベル!」

 

 そう言ってアルはベルの頭をガシガシと力強く撫でる。

 少し痛そうではあるが、ベルは少し照れ臭そうに下をうつむいている。

 その光景に少しモヤモヤしたアイズはアルの肩から降りると、アルからベルの頭を奪い取るように力いっぱいに撫でだした。

 

「ア、アイズちゃん、痛いよー!」

 

「…………(ツーン」

 

「あらあら、アイズはアルもベル君も大好きだからねー」

 

「はは、そうだな」

 

「それにしても……そうやってるとベル君もうちの子みたいよね」

 

 アリアは指で額縁のような形を作り、その穴に白髪の夫と白髪の少年を映し込ませた。確かに瞳の色以外は傍から見れば親子のようであった。

 

「ベルは私のおとーと……?」

 

「そりゃ面白い!ベル、俺の息子になるか?」

 

 アイズは難しい顔をしながら考え込み、アルはアリアの言葉に悪乗りする。

 当然ベルは慌てふためき。

 

「あ、アルさんはおとーさんってじゃなくて、僕にとっては街を救ってくれた英雄で!だ、だから、えっと……あ、じゃなくてアルさんがおとーさんなのが、嫌ってことじゃなくて!」

 

 予想通りの慌てふためきようでアルとアリアは必死に笑いをこらえる。

 

「アルさんは僕にとって物語の英雄なんです!!!」

 

 そう息を荒げて締めくくったベルに、アイズは頬を膨らませながらアルの足に抱き着き。

 

「ダメ、おとーさんは私の英雄」

 

 ガーンという効果音が聞こえてきそうなほど、ベルの口が大きく開かれた後、悲愴に満ちて体育座りをしている。

 しかしそこにかぶせるようアリアは面白そうに続く。

 

「あらアイズ、お父さんは私の英雄だから、アイズのじゃないわよ?」

 

 これまたベルと同じような顔をしたアイズはそっとアルのことを見上げると、アルは仕方なさそうな顔で言う。

 

「そうだな、悪いが俺じゃアイズの英雄にはなれない」

 

 アイズの目が見開かれ、口も大きく開けてベル同様体育座りを始めた。

 

「だから」

 

 アルはそっとアイズの頭をやさしく撫でながら。

 

「アイズは、自分だけの英雄を見つけるんだ」

 

「私だけの…英雄」

 

 アイズはそこで先ほどのアイズの言葉にショックを受け座り込むベルを見て立ち上がり駆け寄る。

 

「?」

 

 アイズが近づいてきたことに気が付いたベルがそっと顔を上げると、アイズはその今はまだ頼りない少年の顔を頭ごと引き寄せて抱きしめた。

 

「あ、アイズちゃん!?」

 

 突然のことに驚き、顔を赤くして抜け出そうと体をよじるベルだがそれは余計にアイズのまだ未発達な胸に顔を擦り付けているようになっていることに気がついてはいない。アイズもそんなことは気にせずベルに聞く。

 

「ベルが、私の英雄になってくれる?」

 

「え?」

 

 その言葉にベルは何も言えず動けなくなる。ただ頭にあるのはアイズの言葉。

 

(僕が、アイズちゃんの英雄……?)

 

 ベルの体は次第に熱くなっていき、どこか顔もさらに赤くする。

 

「おーい、ベル!夕飯だぞ!」

 

 と、そこでベルを呼ぶ声が響く。先ほどベルに使いを任せたレルバだ。

 

「あ、うん!じ、じゃあねアイズちゃん!」

 

 ベルはその言葉に我を思い出し、アイズの拘束から抜け出し脱兎のごとく逃げ出した。

 

「あ、ベル……」

 

 残されたアイズはその行き場のない手をベルの去っていった方向に伸ばすだけだった。

 

 そんな光景を微笑ましく、しかし少し心配そうな目で二人は見ており、アルは思う。

 

(こんな幸せな日常がずっと続けばいいんだがな……いや、俺が守らなくちゃなこの家族(ファミリア)を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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