ダンジョンで誓いを果たすのは間違っているだろうか   作:匿名

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2話"門前払い"

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな子兎みてぇな野郎が冒険者になんてなれるわけがねえだろ!」

 

 自分を嘲笑う声とともに体が熱くなり泣き出しそうなベルはどうしてこうなったと思った。

 

 

 

 

 ようやくオラリオに着いたベルはレルバと別れてから始めに向かったのはギルドと呼ばれる建物だった。どうやらそこは冒険者になるために、ダンジョンに入るためにはそこで冒険者登録しなければいけないようだ。

 ファミリアに入ってからでも入る前でも行くのはどちらでもいいらしいが、ベルのように紹介状がある場合は大体は先にファミリアに入り先輩冒険者と共に冒険者登録をするようだが、ベルはあえて先にギルドに行くこととした。

 なぜなら。

 

「何で、僕のわかる文字で書いてくれなかったのお祖父ちゃん……」

 

 遺書に書かれていたのは確かに共通語だったのだが、肝心の紹介状に書かれていたのは神様の文字といわれる『神聖文字』だった。こんな言語をベルが読めるわけがない。そして、肝心のこの紹介状がどのファミリア宛ての紹介状すらもわからなかったのだ。

 それが判明した時は愕然としたものだ。とはいえ、神様じゃなくても『神聖文字』が読める人たちはいるので、ギルドに行けば封筒の表紙に書いてあるだろうファミリアの名前を読める人がいるかもしれないという思いでギルドに向かっているのだ。

 

 

 道行く人にギルドの場所を訪ねながらベルはギルドを見つけ中に入っていった。冒険者の場所という割には清潔感があり、事務的な施設として少し堅苦しさのある場所にベルは少しだけ緊張してしまう。

 もっとも、荒くれ者が集う場末の酒場のような場所であったら入ることすらできなかったかもしれないが。

 

 一方、見た目からして冒険者らしからぬ緊張に体を強張らせて入ってくる白髪の少年を他冒険者やギルド職員は心を一つにしてこう思った。

 

(あの兎、喰われないといいな......)

 

 眼鏡をかけたクール系ハーフエルフ職員のエイナ・チュールもまた同じことを考えていた。

 

(あ、こっちに来た)

 

 少し緊張しながらエイナのいるカウンターまで来たベルにエイナはいつも通り、とは言えいつもの冒険者に対する態度よりかは少し優しめに対応してあげることにした。

 

「ようこそギルドへ。今回は何の用でギルドに来たの?」

 

「えっと、冒険者の登録に来ました」

 

 エイナは目を細めてベルを観察する。冒険者志願の少年にしては小柄で、顔も中性的で細い。正直冒険者というよりも食堂でウェイターをやっていた方が似合いのではないかというイメージ。

 まぁとは言え見た目だけで判断してはいけないのもまた然り。ロキファミリアの”勇者”などがいい例だ。小人族(パルゥム)の体と柔らかいハニーフェイスをしときながらオラリオで5本の指に入るだろう実力者である。

 

「はいはいー冒険者登録ね。それじゃ必要書類とか質問とかあるから個室行こうか」

 

「は、はい!」

 

 既にファミリア所属の子であれば必要なことは先輩から聞けるのだが、おそらくこの少年はどこの眷属(ファミリア)にも属していないとエイナは長年の勘で感じ取り、その説明も含めて個室へと案内することにした。

 個室に入ったエイナはベルを机の対面に座らせ一枚の書類を差し出しながら話し始める。

 

「それじゃ今回あなたの冒険者アドバイザーをさせて貰うエイナ・チュールです」

 

「ベル・クラネルです!よろしくお願いします!」

 

「クラネル……?ベル君ね、よろしく」

 

 エイナは記入された書類を眺めながらふと名前の部分で目を止める。

 クラネルの名前にどこかで聞いたような気もするが、ちゃんと記憶に入っていない限り大した名前でもないだろうと切り捨て、エイナはベルの名前を覚える。

 

「それでベル君、君はもう既にどこかのファミリアに所属してるのかな?」

 

「まだどこのファミリアにも所属してないです。ただ」

 

「おーけー了解よ。ならまずは冒険者になるために知っておかなくちゃいけない基本的なことから学んでいこうか」

 

「え、はい!お願いします!」

 

 ベルが途中何か言いかけていたことに気がつかなかったエイナは初心者冒険者用の講座を開始することにした。ベルも話が止められたが、折角教えていただけるのだと元気よく返事する。

 そんなベルのようすはエイナに弟に勉強を教える姉のような立場を感じさせるのだった。

 

 それから数時間が経ち、途中お昼休憩を挟みながら講座は終わった。内容は基本的にギルドは中立な立場であり魔石やモンスターを倒したときに稀に落ちるドロップアイテムの買い取りを行っているだとか、ダンジョンに入るためにはギルドで登録しなければならずギルドに登録するにはどこかのファミリアに入りその背中に神の血《イコル》を刻まれ神の恩恵を貰わなければならない。ファミリアには探索系のファミリア以外にも鍛治系や商業系(何故かここを強く勧められた)などがあることを教わった。

 真剣に話を聞きどんどん知識を吸収していくベルにエイナはここまで人に何かを教えるには久しぶりだと調子に乗って本来まだ冒険者にもなっていないベルにダンジョンのことまで教え始めたのだ。無論その内容のほとんどはダンジョンがいかに恐ろしい場所かであり、決して無茶なことはしてはいけないと言うものに収まるのだったが、それすらもベルは真剣に聞き入っていた。

 

「以上で講座は終わりです。お疲れ様!」

 

「ありがとうございました!面白かったです!」

 

「そう、よかった。私の講座ってあまり他の冒険者には大変らしくて最後まで聞き終えたのは君が久しぶりよ」

 

「い、いや本当の面白かったですし」

 

「ふふ、ありがとう。それじゃ後はファミリア関連だけね」

 

 そう言ってエイナが差し出してきた書類はエイナお勧めのファミリアのリストだった。エイナの眼から見て悪い噂もなく、ベルのようなあまり冒険者に向いていなさそうな子であっても入れてくれそうなファミリアの名前と情報をまとめたものである。ちなみにベルの希望はダンジョン探索メインのファミリアなのだが、実は商業系のファミリアの方が多いのは内緒である。

 目の前に積み上げられた書類の山に圧巻させられていたベルだったが、ようやく本来の目的である紹介状のことを思い出し慌ててそれを取り出した。

 

「エイナさんこれ!」

 

 見せられた封筒をエイナは訝しげな眼で見ていたのでベルは慌てて説明する。

 

「えっとこれはお祖父ちゃんが残していってくれたもので、多分この町にあるファミリアへの紹介状らしいんですけど」

 

「紹介状があるの!?すごいじゃない!」

 

 エイナは驚いたように言うと顔を綻ばせて喜んでくれた。紹介状があるならとりあえずベルがファミリアに入ることは可能だと安心したのだ。

 

「けど、紹介状があるなら先にファミリアに入ってから来た方がよかったんじゃない?」

 

「そ、それが......」

 

 ベルは恥ずかしそうに少し笑い話にするように事情を説明したのだが、正直エイナは頭を抱えてしまう。

 

(ベル君のお祖父ちゃんって何者よ。たかが紹介状に神聖文字(ヒエログリフ)を使うだなんて)

 

 神聖文字(ヒエログリフ)はその名の通り神の文字であり、普通人に読むことはできない。エイナですら辛うじて読むことはできるが、紹介状のような長文を書くことはできない。それほどまでに高度な言語をベルのような田舎から出てきた少年の層が扱えるだなんておかしいとエイナは感じた。

 

「ベル君、その紹介状見せて!」

 

「は、はい!」

 

 エイナはベルからそれを受け取りあっけにとられる。なんと封筒の表紙にはでかでかと”紹介状!!”と馬鹿さ丸出しに神聖文字(ヒエログリフ)で書かれていたのだ。なんとも豪胆な祖父だこと。

 

(本当に誰が書いたのよ!!)

 

 そう溜息を吐きつつ封筒を裏返すと今度は固く息をのんだ。表紙のふざけさが嘘のように裏面には達筆にこう書かれていたのだ。

 

『我が××なる友×ロキ。そ×てロキファミ×アへ』

 

 ところどころ穴抜けして完全に読むことはできなかったが、それでもこの紹介状がロキファミリアへの紹介状であることはわかり驚く、何よりこの一文『我が××なる友×ロキ』。神であるロキを呼び捨てにしただけではなく友と言い切るこの人物、ベルの祖父は何者なのか、エイナの中で謎が深まっていく。この封筒を開ければその答えがわかるかもしれないが、紹介状が本人に渡される前に開けられているなど失礼極まりないのでそんな真似はできない。そもそも翻訳することなんてできない。

 それに、目の前の純朴そうな少年を見る限り、悪人ではないことは確かだろう。なら今はこの虎の尾を踏まないようにしようとエイナはどこのファミリアについて書かれていたかだけ教えることにした。

 

「あの、エイナさん?」

 

「あぁ、ごめんね。ちょっと書いてあったファミリアの名前に驚いちゃって」

 

「エイナさんが驚くほど名前。どこだろう……ガネーシャファミリアとか?」

 

「何でそこでガネーシャファミリアが出てきたかはともかく、ここに書いてあった名前はロキファミリアよ」

 

「………………」

 

 エイナ以上に衝撃に襲われたのかベルの顔が笑顔のまま硬直する。

 

「ロキ......ファミリア?」

 

「えぇそうよ」

 

「それってあのロキファミリアですか?」

 

「この都市に神ロキは一人しかいないわよ」

 

「えええええええええええええええええええええええ!!?」

 

 突然至近距離で叫ばれたエイナは思わずその耳を塞ぎ顔を歪めて叱責する。

 

「ベル君落ち着きなさい!」

 

「あぁ!ご、ごめんなさい!!」

 

 土下座しそうな勢いで頭を下げてくるベルにエイナは呆れつつも許しを出す。もしここが防音室で無ければ今頃人が駆け付けていただろう程の声だった。とはいえ、ロキファミリはオラリオ最強の二柱のファミリアの一柱、驚くのも無理ないだろう。

 

(それにしてもロキファミリアか……)

 

 別に悪評があるわけではない。それどころか幹部の方々は皆人徳者だし、”凶狼”を除きだけど。でも最大派閥だからこそ面倒ごとは多く付きまとう。果たしてベルはそんなファミリアに入れるのか......。

 

「それにしてもロキファミリアかぁ」

 

(あ、ダメだ)

 

 完全にロキファミリアには入れることへの嬉しさからどこか上の空になっている。

 

「あのねぇ君。紹介状があるからって絶対に入れるわけじゃないんだよ?」

 

 そう紹介状はあくまでも紹介するための繋ぎ、正確にファミリアに入るには本人の資質が求められる。果たしてベルにその資質があるのか。

 

「う、そうですよね……もしかしたらだめって言われるかもしない。でも、それでも少しでも可能性があるなら挑戦したいです。ロキファミリアに入るために!」

 

 真摯にエイナの眼を見つめるベルにエイナは折れた。いや、もともとエイナにベルがロキファミリアに行くことをだめだなんて言う権限などないわけなのだが。

 

「そう、ならいいわ。ロキファミリアのホーム、『黄昏の館』の場所を教えてあげるわ」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言ってエイナは教えられた地図を確認しながらギルドを離れていくベルを見送った。

 

「まぁロキファミリアには”勇者”やリヴェリア様といった人徳者が幹部だから無碍には扱われないわよね」

 

 と、そう言い切ったところでエイナはとある真実を思い出した。

 

「そういえば、ロキファミリアの幹部って遠征に行っててまだ帰って来てないんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

「なんだお前!ロキファミリアのホームの前で怪しげな挙動をして!!」

 

 ベルがエイナに教えてもらった北のメインストリートから一つ外れた道にある黄昏の館の前でいつ行くかとウロウロしていると、ダンジョン帰りなのか鎧を着込んだ一団がベルの元に近づいてきた。先頭を歩く戦士の鎧に着いたマークは道化のマーク、おそらくロキファミリアの冒険者の方々だろう。

 

「え、えっと僕はそのロキファミリアに」

 

「お前、ロキファミリアの入団希望者か?」

 

「は、はい!」

 

 パーティーの戦闘にいた戦士はベルを品定めするようにつま先から頭まで観察する。少し気まずさにベルの体が委縮する。

 

「悪いがロキファミリアは今現在団員の募集はしていない。当然、どこかの眷属(ファミリア)ですでに多くの経験を積んできて改宗(コンバージョン)するわけでも新人が入れるような場所ではない」

 

 ベルの完全な素人の佇まいから新人であることを察した戦士は、少し厳しめの言葉でベルの入団を拒む。

 

「ま、待ってください!」

 

 ここでおめおめと帰るわけにはいかないとベルはカバンの中から例の紹介状を出した。冒険者たちは訝しげな目でその封筒に視線を送る。

 

神聖文字(ヒエログリフ)で書かれた書状か。それで、これがいったい?」

 

「えっと、これは……ロキファミリアさんへの紹介状です」

 

 団員たちの鋭い視線に少し気まずそうに視線をそらしながら言うベルに戦士がまゆを動かし問う。

 

「紹介状だと?一体どこの派閥からだ?」

 

「えっと派閥とかじゃなくておじいちゃ……えっと、祖父からです」

 

 途端、戦士の後ろから複数の吹き出す音が響く。戦士は背後の反応に溜息を吐きながらなおも質問を続ける。

 

「お前の祖父の名前は何という?」

 

「え、お祖父ちゃんの名前ですか……そういえばなんて名前なんだろう?」

 

 そういえばベルは十年間祖父と暮らしてきて一度も祖父の名前を聞いたことがなかった。村の人たちもベルのお祖父ちゃんとしか言わなかったし。そう思い出し答えた瞬間、もう耐えきれないと言わんばかりに戦士の後方の盗賊らしき男が大声で笑いだし、他のメンバーも吹き出し小声で笑っている。

 

「おいイヴァンもうそんな奴ほっといていこうぜ!」

 

「し、しかし!」

 

「どう考えたって何かの間違いだって!だって、お祖父ちゃんがって!」

 

「ちょ、ちょっとププ、やめときなって」

 

「いいや、やめねーぜ!考えてもみろよ、こんな奴の爺ちゃんがあのロキ様へ繋ぎをできる訳ねぇだろ。どうせ孫のために必死になって神聖文字(ヒエログリフ)を学んで、少しでも形になってれば通してもらえるとでも思ったんだろ!」

 

 尊敬する祖父を馬鹿にされているというのにベルの意識はどこか遠くに飛んでいく。まるで自分を客観的に見ているかのような感覚だ。

 盗賊の男のなおも続くベルと祖父への罵詈雑言の言葉、聞こえてはいるが意識には入って来なかった。

 

 それもそうだ。なぜ自分はいくら尊敬する祖父が残したものだったとはいえ、あのロキファミリアに対する紹介状が本当に使える物だと思ったのだろうか。常識的に考えれば片田舎の老人が書いた紹介状がまともに取り合えって貰えるわけがないじゃないか。

 冒険者への憧れと祖父への尊敬で本当に周りが見えなくなっていたんだなと、ベルの顔が熱くなっていくのが感じられる。

 

「大体よぉ、こんな奴例え紹介状でロキ様まで繋がれたとしても眷属(ファミリア)にしてもらえるわけがねぇじゃないか!!」

 

「おい!」

 

 イヴァンと呼ばれた戦士が盗賊風の男を諫めようとしたがもう遅い。盗賊風の男は回った口が止まらないと言わんばかりに続ける。

 

「こんな子兎みてぇな野郎が冒険者になんてなれるわけがねえだろ!」

 

 ベルは顔のみならず体中が熱く煮えたぎっていくように感じた。身を引き裂かれそうなこの思いはなんだ。まるで自分の想い全てを否定されたかのようなこの感覚。

 気が付いた時にはベルは恥も外聞をも捨ててその場から逃げ出すように走り去っていってしまう。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「あははははははっはは!」

 

 イヴァンの呼び声もベルには届かず、イヴァン以外の者たちの笑い声をその場に残してベルは走った。途中北のメインストリートへと抜ける曲がり角で美しい金髪の少女とぶつかってしまった。いつものベルであれば直ぐにでも立ち止まり土下座をする勢いで謝るのだが、生憎今そんなことができるほどの余裕はなく、おそらく少女の仲間だろう人たちの怒る声をしり目に雑踏の中へと逃げ込み走った。

 

 

 

 

 

 そしてベルがぶつかってしまった金髪の少女は既にベルが紛れ込んでしまった雑踏を見つめながらそっとつぶやいた。

 

「まさか……ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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