「落ち着いたところで、
改めて自己紹介させていただきますわね」
召喚サークルが確立し、僕達は各々近くの倒木に腰掛け向かい合っていた。
「私の真名はマリー・アントワネット。
クラスはライダー。
どんな人間なのかは、どうか皆さんの目と耳で
じっくり吟味していただければ幸いです。」
マリー・アントワネット王妃は優雅に一礼して、自身の名とクラスを明かす。
本来の聖杯戦争ではありえないことだろう、サーヴァントの真名は自身と本人の逸話を繋げる。即ち、弱点を露呈するも同然なのだ。
「それと、召喚された理由は残念ながら不明なのです。
だって、マスターがいないのですから」
ーーーそう、これは人理焼却という異例の事態により起こったイレギュラーな聖杯戦争。そもそも、優勝賞品である聖杯が既に向こうのジャンヌ・ダルクの手に渡ってる時点で成り立ってないのだから、こういうこともあり得るのだろう。
続いて、彼女の隣に腰掛けている優男。おそらくはキャスターのクラスのサーヴァントが名乗る。
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
僕も、彼女と右に同じ。
なぜ、自分が呼ばれたのか、
そもそも自分が英雄なのか、まるで実感がない。
確かに僕は偉大だが、しかし、それでも数多くあった芸術家の一人に過ぎないんだが。
ま、音楽のために魔術も多少は嗜んでいたけど、
それだって、悪魔の奏でる音に興味があっただけなのに」
続いて、僕達の名乗りだ。先陣を切ったのはマシュからだった。
「私はマシュ・キリエライト。
デミ・サーヴァントで、真名はわかっていません。
そして、こちらがーーー」
「藤丸立花です。
マシュのマスターをしています。
よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。
同じ、非戦闘系だ、仲良くしよう。」
「は、はい、アマデウスさん」
「僕は海東大樹。彼らの協力者と考えてくれればいい
それで、こっちが……」
「ジャンヌ。
ジャンヌ・ダルクね」
僕が紹介するのを遮ってマリーは彼女の名を呼ぶ。
「フランスを救うべく立ち上がった救国の聖女。
生前から、お会いしたかった方の一人です。」
「……私は聖女などではありません」
落ち込んでいるな、目で見えるほどに。
まぁ、あんなものを見せられたあとで聖女なんて呼ばれても胸が苦しくなるだけだろう。
しかし、それを理解している上で王妃を言葉を続ける。
「ええ。貴女自身がそう思っているの事は
みなわかっていたと思いますよ。
でも、少なくとも貴女の生き方は真実でした。
その結果を私は知っています
だから、みなが貴女を讃え、憧れ、忘れないのです。
ジャンヌ・ダルク。オルレアンの奇跡の名を」
「………………。」
王妃の言葉にジャンヌは口を噤む。
マリー・アントワネット。
彼女が生きたのは18世紀後半、そして、ジャンヌが生きていたのがこの時代14世紀前半。その間、三百年もの間、彼女の名はこの国に深く染み付いていたのだろう。
『救国の聖女』としてのジャンヌ・ダルクの名が。
「ま、その結果が火刑であり、あの竜の魔女なワケだが。
良いところしか見ないのはマリアの悪い癖だ。
そうだろう、ジャンヌ・ダルク?
君の人生にはいささか変調がある。
”完璧な聖人"なんて呼ばれて傷つくのは
他ならぬジャンヌ自身だ。
いいかいマリア。君はいつも他人をその気にさせすぎる。
たまには相手を叱り、否定することも大切だよ」
「そ、そんなこと、アマデウスに言われなくても
わかっていますっ! いえ、毎日貴方に言われています!」
なんとなく、この二人の関係が見えてきた気がする。
ロマンチストな王妃様と、リアリストな天才音楽家。この二人は生前から知り合い、というより、とてもメジャーな逸話があったはずだが。
「この音楽バカ! 人間のクズ!
音階にしか欲情しなくなった一次元フェチニズム!
そんなに楽譜が恋しいなら、いっそ音符にでもなったらどう!」
「……自分で言っておいてなんだけど、君に罵倒されると。こう、なんとも言えない感情が湧き上がるな
だがまあ、やればできるじゃないか!
そんな感じでジャンヌにもかましてあげなさい
もっと早く。もっと強く。もっと辛辣に!
君が思うままの欠点を口にしてするんだ!」
「ノン、それは無理よアマデウス。
貴方のような人間のクズには欠点しかないけれど、
ジャンヌに欠点はないんだもの。」
「ーーー本気か。これは重症だ。
そこまで、ジャンヌ・ダルクが好きだったんだな、君は。」
確かに、これはアマデウスに同感だな。
この世界、いや、あらゆる世界においてただ一つで完璧なものなんてただの一つもない。少なくとも、僕は彼女の欠点を一つ知っている。彼女は自分の心、特にーーー恋愛に関するところが酷く鈍感なんだ。
誰がどう見ても、明白だったのに最終決戦でようやく、自分の気持ちに気づくような人だからなぁ。まっ、相手が相手だったから仕方ないような気もするけど。
「好き、というより信仰ね。
あとはちょっとの後ろめたさ。
……小さじ一杯分くらいの、ごめんなさい。
愚かな王族が抱く、聖女への当然の罪悪感」
「……マリー・アントワネット。
貴方の言葉は嬉しい。でも、だからこそ告白します
生前の私は聖女なんてものではなかった。
私はただ信じたことのために旗を降って、
その結果、己の手を血で汚しました。
勿論、そこに後悔はありません。
結果、異端審判で弾交されたこともーーー私の死も
ですが、流した血が多すぎた。
田舎娘は自分の夢を信じた。けれどーーー
その夢の行き着く先がどれほどの犠牲を生みものなのか、その時まで想像すらしていなかった。
後悔はなかったけれど、畏れを抱くこともしなかった。
……それが私のもっとも深い罪です」
「ーーーだからこそ、
自身の死すら『罰と救済』だった」
「……はい、そのとおりです。
私が聖女と呼ばれたのはあくまで結果論です。
そんな小娘を聖女と呼ぶのはどこか違うと思います」
その考え方自体が彼女を聖女足らしめてるっていうのに、なんで気が付かないのかなあ……。
「そう。
ねぇ、聖女ではないのよね?
それなら、
私は貴女をジャンヌと呼んでもいい?」
「……え、ええ。勿論です。
そう呼んでいたたげると、なんだか懐かしい気がします」
「良かった。
それなら私もマリーと呼んで。
貴方が聖女ではないただのジャンヌなら、
私も王妃ではない、ただのマリーになりたいわ。
ね、お願い、ジャンヌ。
どうか私をマリーと呼んでみて?」
「は、はい。
では、遠慮なく……ありがとう、マリー」
「こちらこそ、嬉しいわジャンヌ!」
マリー王妃は感極まったようにジャンヌに抱きついた。
「それとごめんなさい、私の気持ちばかり押し付けて。
貴方は自分を見失ってしまったのね。
何もわからなかったあの日の私と同じように。
ならそれは貴方が見つけるしかない事柄だわ。
私はジャンヌを思いっっきりエコひいきしたいけど、それをぐっとこらえて黙ります!
いっぽうてきに信じるんじゃなくて、支援する! これが女友達の心意気よね、アマデウス!」
「そうだね。いいんじゃないか? 女友達の心意気とか、スイーツな響き満ちていて大変空虚だ。」
「私達も信じていますよ。
ね、マスター?」
「もっちろん!」
生前のジャンヌ・ダルクに彼女のような、『聖女ジャンヌ・ダルク』としてではなく『ただのジャンヌ・ダルク』として同じ立場に立ってくれる、誰かがいたら、歴史は……どうなっていただろうか?
これは僕の考えるべきことじゃないしな。なにより、彼女は自身の人生に悔いはないと言っている、それを悲劇と断じるのはただのエゴでしかない。
どっちにしても、僕の話はあとになりそうだ。
僕は木から立ち上がり、彼女達に背を向ける。
「大樹さん、どこ行くの?」
「傷の手当のために近くに水辺がないか、探しに行くのさ。ついでに、偵察でもしてくるよ。」
「だったら、私達もーーー」
「生憎、僕は女性の前で肌を晒す趣味はないんだ。
君達はカルデアの説明と、ついでにガールズトークにでも花を咲かせ給え。」
「おいおい、僕は男だぜ?」
「だったら、男らしく僕がいない間の彼女達の警護でもしたまえよ」
「無理よ。アマデウスったら、とっても弱いもの」
「バッサリ言うなぁ。その通りだけど」
「じゃ、そういうわけだから。」
僕は指で銃の形を作り、バーンというポーズとともにその場をあとに、しようとした。
「そうそうそう、言い忘れていた。あの場にいた二人のサーヴァント、バーサーク・ランサーとバーサーク・アサシンの真名を伝えておこう。ロマンにでも詳しく聞くといい」
「そういえば、なんで大樹さんはあの二人の真名を知っていたのですか?」
「なに、旅の縁というのは奇妙なものでね。僕は彼らにあったことがあるのさ。
ランサーの御仁の名はヴラド・ツェペシュ。
アサシンの女性の名はエリザベート・パートリー。
対策はきちんと練っておくといい」
それだけ告げると、僕は今度こそその場をあとにした。
それにしても、まさか
僕は懐にしまってあった、緑色のライドウォッチを取り出す。そこには仮面ライダーのマスクではなく、サーヴァント・アーチャーの紋章が刻印されていた。
この中にはある英霊の力と願いが封印されている。僕が彼女から盗んだ品だ。もし、彼女が向こう側として呼ばれているのならば……僕は彼女をーーー。
「ーーー考え過ぎだろうか」
その不安を拭うように僕は再び森の中を歩み始めた。
「!!? しまった……! 僕としたことが!」
応急処置が終わった僕は一日の疲れが一気に出たのか、防御用の決済とトラップを張ったあと軽く休むつもりで岩に寄りかかっていたらどうやら寝落ちしてしまったらしい。
そして、最悪なことに遠くで炎が上がるのが見えた。どうやら、戦闘中らしい。ディエンドライバーを拾い上げ、彼女達と別れた場所まで全力で走り出す。
5分程走り続けると、視界に見慣れたワイバーンの群れが見えてきた。
「変身!」
『KAMENRIDE……DI・END!』
打ち出したライドプレートで、前方のワイバーンを打ち飛ばしようやく皆と合流する。
「大樹さん、無事だったんですね!」
「すまない、遅れてしまったようだ」
「安心してください、丁度終わったところです」
『待ってくれ! 近くにサーヴァント反応がある!
これは……ラ・シャリテにいたサーヴァントの一騎だ!』
ロマンの言葉に全員に緊張が走る。
そして、森の中から現れたのはーーー、
「今晩は皆様、寂しい夜ね」
現れたのは十字の杖を握った修道服の女性、バーサーク・ライダーが僕達の前に現れた。