旅の軌跡 海東大樹と衛宮士郎
ーーー僕があの世界に訪れたのは……そう、第四次聖杯戦争の世界で衛宮切嗣と協力してイリヤスフィールを救い出したあと、お迎えが来て世界を渡ったときだった。
僕は一つの武家屋敷の前に呼び出された。
「ここは……。」
人の気配を感じないその屋敷の表札を見てここがどこなのか思い出した。
『衛宮』
そこには確かにそう記されていた。そこは間違いなく、衛宮切嗣が拠点として用いていた場所の一つだった。そして、脳内に刻まれた知識を閲覧するとこの世界はどうやら衛宮切嗣によって聖杯が破壊された世界らしい。
僕がこの世界に呼び出されたということは僕にも役目があるということだ。そう考えていると、玄関の扉から一人の少年がひょっこり顔を出した。
「アンタ、誰だ……?」
赤銅色の髪の男の子が僕を怪しい人を見る目で見ている。
「すまない、ここは衛宮切嗣さんのお宅で合ってるかな?」
「アンタ、爺さんの知り合いか?」
「……まぁ、そんなところかな。切嗣さんはいるかな?」
「……爺さんなら、死んだよ。先週」
少年の言葉に僕は目を見開く。あの切嗣が……。
「ご病気、かな……?」
「お医者さんは、衰弱死って言ってた」
衰弱死……間違いない、泥を浴びたんだ。アンリマユによって汚された聖杯の泥を。知識と一緒に流れてきた日付からしてその呪いに2年間も耐えたのか……。本来なら、数日持てばいいほうだろうに。
いや、待て……。だとしたら、目の前のこの少年は何者だ? 息子? そんなはずはない。記録によれば彼の妻であるアイリスフィールも愛人である舞夜も既に故人の筈なのに。
「君の名前を教えてもらえるかな?」
「衛宮、士郎……。」
衛宮、やはり切嗣の縁者、となれば彼は切嗣の養子か。魔術師殺しと言われたあの彼が養子にしたということはつまり、聖杯による被害の生き残りである可能性が高い……。そう言えば、Fateの物語にそういう少年がいた気がする。
ーーーこの世界での僕の役割がわかった気がした。
「僕の名前は海東大樹、切嗣さんに頼まれて君を育てることになったものだ」
僕は敷地に入り、半開きになった扉の前まで歩み寄る。そして、シロウの頭にポンと手を置く。
「これからよろしく頼むよ、少年君」
そう言って僕は半ば強引にその家に居着いた。
そこからは……結構楽しい日々だった。
「カレーかい? う〜ん、だけどルーはあと二つは入れてみたほうがとろみが出ていいんじゃないか」
「そうか? これ以上入れると辛味が増すんじゃない……。」
「だったら、砂糖でもとろみが出るからそっちを入れてみようか?」
「シロ〜ウ、今日のご飯なぁにぃっ?」
「おや、大河君も来たみたいだね。」
転生前の記憶がほとんどない僕にとって『家族』との記憶なんて全くと言っていいくらいなかった。だから、シロウとの時間や近所の極道の娘さんとの日々は不思議と居心地が良かった。
「大樹さん、誰だその子?」
「ああ、この子? 今日から家で預かることになった間桐桜ちゃんだよ」
「……………。」
「大樹さん……自首してくれ」
「誘拐じゃないからね、決して!?」
色々あって、家族も増えていった。
「……大樹さん、その人達は?」
「ん? 君のお姉さんのイリヤちゃんと、そのおつきのメイドさん、セラさんとリズさんだよ」
「大樹さん、俺理解が追いつかない……。」
「貴方がシロウ?」
「お、おおう……。」
「わ〜い、お兄ちゃんだっ!!」
「わっ!!」
「お嬢様っ……!」
「イリヤ、楽しそう……。」
切嗣の最後の願いもきっちりこなしておいた。
「『正義の味方』になりたかった、か。切嗣さんは最後にそういったのかい?」
「ああ、だから俺が代わりになってやるって言ったんだ」
「……そんな必要ないじゃないか。だって彼はとっくに君にとっての『正義の味方』になれてたんだからね」
「…………そうだよな」
「だからね、少年君。忘れちゃいけない。『正義の味方』になりたいっていうのは誰かの夢ではなく自分の夢にさせる理由がいるんだ」
「理由……?」
「例えば……誰かを救いたいって気持ち、とかね?」
月夜に縁側で語ったりもした。
ーーーもしもあのとき、ちゃんと彼に道を示してあげていたら。そう後悔したのは次の世界に渡ったときだった。
「シロウ……貴方を、愛している」
最後の戦いの果にセイバーも消え、その場には僕とシロウしかいなくなった。そして、この世界での役割を終えたという証明であるオーロラが現れる。
「大樹さんも……行っちゃうんだよな……。」
「ああ、どうやら……この世界での僕の役目は終わったようだからね」
オーロラが迫ってくる中、僕とシロウは最後の会話をする。
「幸せだったよ。この世界に来て、シロウ、君と家族になれて……。なれよ、シロウ。自分が信じる、自分の願いのための『正義の味方』に」
その言葉を最後に僕は新たな世界へと旅立った。
ーーーまさか、そんな彼と別世界であんな形で再会するとは思わなかった。