ファンタジー要素のある世界に転生し、親友に恋のキューピッドを頼まれた主人公が前世の記憶と共に頑張る話。



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深い設定もない、ひたすら長い。
酔った勢いで書いたものを深夜テンションのみで書き上げた作品です。

それでも良いかたはどうぞご覧ください。


解説系男子の受難

 ここは、とある国の魔術学院。

 

「頼む! 協力してくれ!」

 

 ―――いつもの昼休憩、いつもの三人で集まっていたとき。

 

 全ては、この頭を下げた親友の一言から始まった。

 

 俺の親友はスポーツ万能、学勉のほうは微妙だがそれを補えるほどの厚い人望がある男だ。

 俺みたいな地味な奴とも仲良くしてくれているのは正直に有り難いと思っている。

 

 ちなみに名前はアルサーノという、愛称はアルだ。

 顔は当然、名前や性格もイケメンなのだ、畜生。

 

「お断りよ」

 

 すると、俺の隣にいた少女が呆れたように肩を竦める。

 

「ロレン、受けるまでもないわ。アルがこういう風に頼むときは、大体ロクでもない話なのよ」

 

 そう言ったのはアルの幼馴染のセナだ。

 アル同様に整った顔立ちの彼女、基本口は悪くて誤解されやすいけど根は良い子だ。

 

 アルとは小さい頃から一緒なので、大体こういったお願い事もされてきたのだろう。

 

「ま。まぁまぁセナ、アルがそこまで言うんだからよほどの理由があるんじゃないか?」

 

 しかし男女ではわかり合えない所もあるだろうし、話くらいは聞くべきだと思う。

 

「どうせ下らないに決まってるわよ………でも、まぁ一応聞くけど、理由ってなに?」

 

 訝しむ視線を向けられると、頭を下げていたアルが気恥ずかしそうに顔をあげた。

 

「それなんだけど……先日特待生がこの学院に来ただろ?」

「あぁ。来たな、時期的にも珍しいしクラスでも話題になってた」

「それで? そんな特待生がどうしたのよ?」

 

 アルは決心したようにすぅ、と息を吸う。

 

「――彼女に一目惚れして昨日告白したら『私強い人にしか興味無いんです』って言われたからすぐに決闘を申し込んだんだよ」

「……既に色々ツッコミ入れたいけど、それで?」

 

「俺は彼女との決闘に勝ちたい………だが、もし勝てたとしてもそれだけじゃ振り向いてくれない気がするんだ。彼女はもっと先を見ている……俺なんか見ていない、そんな気がするんだ」

「……で?」

 

「だからさ、俺思ったんだよ―――ならば勝って、しかもより明確に俺の強さをアピール出来さえすれば。それだけやれば彼女も振り向いてくれるんじゃないかって!」

「「バカなの?」」

「――ひどくないか二人とも?」

 

 ……要するに何故か強さに拘っている特待生に恋したから、勝つだけでなくさらにアピールがしたいと。

 

 いや、うん。理にかなってる………のかな? 

 随分と大胆に出たのは間違いないけど。

 

 セナから『な? 言ったろ?』的な目が痛い。

 少なくともロクでもある話ではなかった。

 

「アル。つまりは、俺達にその恋のアシストしてほしいんだな?」

「そうなんだよ、頼む!」

「………全く、思った以上に呆れたわ」

 

 流れを聞いたセナは、大きく息を吐く。

 

「アル。アンタの努力を知ってる人はちゃんと理解してくれているわ、それでいいじゃない? それが私達だけじゃなくて、今じゃなくてもその子も加わるかもしれないのよ? 急ぐ必要なんてない、何が不満なのかわからないわね」

「ぐっ……」

 

 おおっと手厳しいなセナさん。ちゃっかりフォローいれているのは流石だけどね。

 

 するとセナに断られたからか、今度は俺の方にアルの視線が来る。

 

「ロレン、駄目か?」

 

 捨てられそうな子犬のような目で見てきやがって。

 そんな目で見ても、俺の言うことは決まっている。

 

「………いいかアル、物事には順序ってものがあるんだ。勉強だってそう、ゲームだってそう、そして恋愛だってそうなんだ」

 

「あ、あぁ」

「恋愛経験の少ない俺でも、アルの行動はいくらなんでも早計ってわかるぜ? 本来ならばもう少し考えるべきだった」

 

 うんうんと、セナは頷く。

 

「いいか? アル。お前がこれからやることは一つだ」

 

 俺は立ち上がり、二人に背中を向けた。

 

「―――初めての彼女とのデートプランを用意をしとくんだな!」

「…………はい?」

「!!」

 

 たった今目を丸くしたセナは、きっと正しい。

 

 セナの言葉だって、きっと正しい。

 だが、駄目なのだ、その言葉は。

 

 一度好きな人が出来たら直ぐに好きになってほしい、いてもたってもいられない。だが恥ずかしくて声を掛けれないってのが男心ってやつよ。

 

 ―――そして悶々としている内に卒業まで声をかけるどころか挨拶すら出来ないのが俺みたいなやつよ。

 泣けるね全く。

 

 だが、アルは違う。

 勇気を出して言ったのだ。

 それはきっと誇らしいことで、とても素晴らしいことなのだろう。

 

「それになにより、アルは親友だ。その恋路を応援しない理由がないだろ?」

「っ……!! ロレン、心の友よ!」

「心の友と書いて心友(しんゆう)と読むのさ。ハッハッハ!」

 

 感激のあまりガバリと後ろから俺に抱き付いてこようとするアル。

 それを見ずにステップで華麗に避ける俺。

 

 ―――いくら親友といっても野郎のハグはお断りだぜ。それは未来にできる彼女に取っておいておくんだな! 

 

 

 しかし、心の友かぁ。

 困っているならば、手伝うのが友ってやつだろ? 

 

 昔の、ボッチの時の俺は手を貸してくれる存在がいなかった………そして、そんな俺とは既に決別したんだ! 

 

「ちなみになんか具体的な案とかある?」

「ない!」

「清々しいことに無計画で無茶振りしてきやがったな! 上等だ今度飯奢れよ!!」

 

「はぁ……もう知らないから、勝手にしなさいよバカコンビ」

 

 はしゃぐ俺達を見てセナはそう吐き捨て、やれやれと立ち去っていく。

 

 一見すれば呆れられた様にも見えるこの光景。

 こういう似た場面は多々あったが、しかしそれでもちゃっかり協力してくれたりするのがセナである。

 そんな良い奴なのを俺達は知っている。多分素直だったら波のような勢いで告白されているだろう。

 

 まぁ、ツンデレさんなのだ。今度動物のぬいぐるみをプレゼントしよう。

 

 可愛いものが好きなのはギャップというやつだね。

 

 

 

 

 

 ―――というわけ背景により、俺はウサギに似た動物のぬいぐるみを片手に親友の恋の手助けをする事にしたのだが。問題は山積みである。

 

 ぶっちゃけなくても俺は恋を知らない上に平々凡々な一般人だ。

 恋愛なんてサッパリ、だが力になりたい。

 

 

 ―――おっと。

 ここで遅れたが俺の紹介をしよう。

 

 俺の名前はロレン、ロレン・オリマー。

 

 この魔術学院に通う一般生徒だ。

 だがそんな平凡な俺には、唯一周囲の人間にはないある秘密がある。

 

 いわゆる『前世の記憶』というやつだ。

 

 つまりは転生者というやつであり、人生経験は同級生と比べればそれなりに豊かである。

 

 まぁ前世は魔術というファンタジーとは無縁の世界だったし、大した経験もなかったから今世で得したこと殆んどないけどな、ハッハッハ………ハァ(悲)。

 

 ―――知らないよ魔物とか、元々農民だったのよ俺? 

 魔術の才能があるとか言われておだてられてあれよあれよとこの学院に来ていたし………ちなみに初めての魔物はアルと出会ったときに遭遇したんだけど。

 

 昔は魔王とかもいて人類と争っていたらしいしね。

 

 

 

 さて話は戻り、そんな俺がいくら親友の頼みだからと無策に安請合いすると思うか―――しないんだなこれが。

 

 ちゃーんと策はある、正直諦めかけていたこの俺のアドバンテージを生かすときが来たんだ。

 

 

 ―――俺の親友は主人公感が凄い。

 

 人柄がよくて気遣いができて、イケメンで中性的な顔立ちときたもんだ。時々一人で突っ走ったり優しさに不器用な所もあるがそれはまぁギャップというか、愛嬌という奴だろう。

 完璧すぎても近寄りにくくなるだけだしね。

 

 そして様々な属性魔術が世界を支配するファンタジーな世界において、アルは全属性に適性がある。これは数十年に一人程の才能だ。

 

 更に親は英雄と讃えられ、俺とセナしか知らないが普段手袋で隠しているアルの右手には幾何学的な刺青がある。

 物心ついた頃にはあって、親も教えてくれないらしい。

 

 そして今、中々に珍しいタイミングで同年代の美少女と噂されている特待生が入学してきた。そして彼女に恋をしたと。

 

 ………これは、きっとあれだろう? 

 

 漫画でいうところのこれは物語の始まりのきっかけであり、実は特待生とは過去に会っていて、今回の決闘を通じて思い出して運命的な出会いを果たしワフワフな関係になって、ツンデレな幼馴染との修羅場を乗り越えつつ過去に因縁のある強大な敵――どうせ復活する魔王へと立ち向かっていくのだろう(早口且つ適当)

 

 ………いや、まぁ言わないけどね。

 元々俺があの二人と仲良くなったのも完全なる偶然だし。偶然同行して学院に行く道中に魔物に遭ったその拍子で手袋取れて、話している内に気が付いたら打ち解けて仲良くなったりしたのだから。

 

 俺は最初こそイケメンで美人な幼馴染とか超羨ましいなぁと思ってたけど、話す内にどんどんその主人公感に気づいていった。

 

 だからアルには悪いけど、これでフラグもなく平凡に学院生活とかもういっそ詐欺と言っていいと思うんだ。

 

 申し訳ないけど絶対にアルの人生に大きな壁は人一倍あると思うんだよ、卒業までには前例のない魔術とかを使って、多分格好良さに嫉妬した比較的仲の良い知り合いの誰かは闇堕ちする筈なんだよ(やはり適当)

 

 親友として出来る限りの障害は取り除こうとは思っているが、流石に限界はある。過去の血の争いとか言われたら俺どうしようもないもの。弱いし。

 

 ―――話が反れた、とにかくだ。

 

 しかしそんな親友の恋の行方、応援しないわけにはいかないだろう? せっかくの学生でしか味わえない青春だからな! 目一杯楽しませてあげたいというわけだ。

 

 さて。

 前世の記憶をもつ俺には、とある知識がある。

 記憶では物語の主人公の親友、もといそういう奴等に限ってとあるスキルがあるのだ。

 

 

 それは―――『解説ポジション』である。

 

 解説ポジションとは、まぁその名前の通りだ。

 決闘している時に「あ、あれは……!?」的な感じのリアクションをしながら、その魔術の効果や威力を解説する人間。

 

 名前は勝手に付けた。

 

 ちなみにレベルが高くなると「ほぅ、まだここも捨てたもんじゃねぇな―――」とか意味深な事言って、詮索される前にほくそ笑んで帰る高等テクニックをする者もいる。

 なんなら主人公と付き合いのある異性の好感度とか私生活とかも細かく知っていたりする強者もいる、業界では常識だな。ストーカーとは違うらしい。

 

 誰でも簡単に出来るように見えるかもしれないが、全くそんな事はない。

 

 説明するために必要な情報と知識、そしてその情報を得るために必要なコミュニケーション能力と言うタイミングを見計らう洞察力。

 

 ―――まぁ、前世から俺はバカな上に、この世界の友達もあの二人しかいないんだが。

 

 つまり俺はまだレベル1(推定数)というかマイナス値。

 これは誰かと誰かが付き合っているという浮わついた話が一足遅れて自分の耳に届くレベルだ。

 

 なんだこの基準(自問)

 

 つまり、今の俺は詰みかけている。

 だがまだ決闘には数週間ある、親友の為に地道にレベリングするとしよう。

 

 ………にしても羨ましいなぁ、俺も恋愛したいなぁ。

 

 だが、今は友情を優先するぜ! 

 見ていろ親友! 俺がお前の恋のキューピッドになってやるからな!! 

 

 

 

「………フン、ぬいぐるみに罪はないからね。せいぜい大切にしてあげるわよ―――な、何ニヤニヤしてんのよ? 気持ち悪いそんなんだから彼女出来ないの―――ご、ごめんなさい。流石に泣くことないでしょう? ほら。凄く嬉しかったから、だからすこーしだけなら手伝ってあげるから、ね?」

 

 泣いてねぇし、彼女出来ないの気にしてねぇし。

 

 

 

 

 

 ―――俺は努力した。

 

 

 しかし前世の経験があっても、この世界における情報は少ない。それなりにしか授業を受けていない俺はそれなりにしか知らないのだ。ファンタジーなんだなぁ位の感想しか抱いていなかった。

 

 だからまず俺は勉強することにしたんだ。

 

 決闘までの日時までに授業を真面目に受けて質問しまくり、図書室で書物という書物を読み漁った。

 

「おっロレン・オリマー。最近質問も増えてよく頑張ってるな、成績も相当上がってるし嬉しいぞ。だがまぁ無理ない程度に励めよ!」

 

 と先生に褒められたが、今はそれどころじゃない! 

 

 親友が決闘に勝つために弱点(ついでに好みとか)を知るべく特待生について情報収集するために慣れないながらも人と話した。

 こんなスパイのような真似はアルは好きじゃないだろうし、負けるとは思っていないが万が一がある。

 

 決闘に負けたりしたら本末転倒だからな。

 

「おっすロレン! 帰りに飯食いにでも行こうぜ!」

「ロレン君ってずっとあの二人といるイメージしかなかったけど、話すと意外に面白いんだね~」

 

 なんて言われて情報があっちから来るようにもなった。

 気兼ね無く話せる奴も増えたが今はそれどころじゃあないんだ! 

 

 

「―――最近付き合い悪いのね? ま、別にいいのよ? どこで何してようと勝手だからね? 友達が多いのは良いことだし? 私は気にしてませんけど? でも昔からの関係を疎かにするってどうなのかしらねぇ?」

 

 

 なんかセナに睨まれた。

 ……今はそれどころじゃないよな(疑問)

 

 

 

 

 苦労はあったが、ここ最近で一番驚いた事がある。

 

「すいません。ロレン・オリマーさんですね?」

 

 ―――なんと本人が来ました。

 

 容姿はかなり整っていてモテそうだが、時期が時期である特待生なこともあって、正直あまりクラスメイトと馴染めていない。

 

 ということはつまり、有益な情報が来ないということだ。

 

 それは困る。情報の為に四六時中尾いていくとか流石にストーカー紛いのことをする気はない、既にグレーゾーンな気もしているのだから。

 

「最近私の事を嗅ぎ回ってると聞きましたが?」

「うん? あぁ、そのこと」

「まったく、この学院は変な人が多いのですか? 初日に告白してくる人といい、何でもない私を嗅ぎ回るような行為をする人といい―――」

 

 何か言っているが、既に俺は自分の世界に入っていた。

 

 

 この俺に、天才的な発想が飛び込んでいたからだ。

 

 ……思えば軽く感覚が麻痺していたとも思えるけど。

 

 色々回りくどい事をしてきたが、よくよく考えれば彼女は特待生、情報など集まらない方が普通なのだ。

 それに根拠や裏がとれているかどうかなど尚更である。

 

 入って来た情報だって時々物憂げな顔をする事だったり、たまに『……父さん』って言ってる事だったりで、なんかフラグしか立ってない上に有益な情報ではない。

 

 ならば、と。ロレンは考えた。

 

 ―――もういっそ直接聞いた方が早くね? と。

 

「そりゃ聞くよ、お前の事が知りたいもん」

 

 しかし嘘をつける器用さはないので、素直に伝えることにした。

 

「―――はい?」

「好みの男性のタイプとか教えてくれたりする? 体格とか性格とか、髪型とかさ」

「好み? え? ………はぁぁぁぁ……!?」

「ついでに得意な魔術系統だったり戦闘スタイルも―――あれ? いない」

 

 速攻で逃げられた。悲しい。

 まぁそりゃ初対面で、しかも決闘相手と仲良いとは話したくないわな。

 

 やはり諦めて地道に情報収集かなぁ、しんどい。

 

 ………余談だが先程のやりとりをみていたらしい、廊下で会ったセナが般若になっていた。怖くて逃げた。

 

 女心って難しいね(確信)。

 

 

 

 ……さて。そんなこんなで多難ではあったものの俺は着実に、胸を張って解説できる自信をつけた。

 

 残念ながら弱点の方は聞けなかったので自分を棚に上げてアルの個癖を指摘する事くらいしかできなかったが、まぁ仕方無い。

 

 

 そして今、決闘前日を迎えたのだ! 

 

 俺の努力はこの為にあった! 既に俺の親友の戦闘スタイルも把握済み、これならば戦闘中の解説も大丈夫だろう。

 

 俺が事あるごとに凄さアピールをすれば良い。

 ちなみにアルの実力は教師からも太鼓判を押されるレベル、適当な事は言えない分更に頑張った。

 

 これがもしフィクション(二次元)ならばアルが負けそうになったりしたら、準ラスボスな敵が来たりして因縁つけられてうやむやになるかもな! ハッハッハなにそれやだ怖い。巻き添えくらいそう。

 

 ―――ま、これで特待生もアルの凄さにメロメロだな! 多分! 

 

 

 

 

 

 

 つーわけで、現在に至ります。

 

 ちなみにこの学院の創設者による特殊な結界内の戦闘なので、もし致死レベルの魔術を受けても問題ない。

 

 なんでも特殊な魔術師と、国の許可がないと出来ない仕様らしく国にも数えるほどしかないらしい。便利だなぁ。

 

 

 二人の戦闘は白熱していた。

 杖をもった二人は距離を取り、もしくはき

 

「―――喰らえ! フレイムトルネード!」

「出たなフレイムトルネード!! 風と火の複合された魔術! 熱を纏った風の刃となって相手に襲い掛かる!」

 

「アイスブリザード!」

「なに……あれはまさか氷と風の複合魔術だと!? 千人に一人と言われた才能をアルだけでなく特待生をも持つだなんて、何者なんだあの生徒は!」

 

 ―――何者なんだろうね、本当。

 

 決闘を見たり、噂を聞いたりすればあの特待生の謎が増える一方だ。

 基本無口だけどたまに「……父さん、母さん」と呟くらしいし。

 アルの属性魔術を冷静に対処している、しかも複合魔術も会得しているときた。

 

 最近目も合わせてくれないから直接聞けないし、聞くことも無いだろうけど一般の生徒では間違いなくないな。

 

 多分あの子も宿命背負ってるな(失礼)

 

 

 俺は今どこって? 俺は観客席から魔術に適性のない人でも使える拡声魔術道具――まぁ、マイクなんだけど。それを片手に叫んでいる。

 

 今は戦闘が始まって皆も慣れたけど、戦闘開始時なんて皆からの『え、何してんのお前?』的な目が凄かった。メンタル強くないんだからやめてほしい。

 

「これは見逃せない展開だぜ、なぁ実況のセナさん」

 

 そしてすかさず隣に座っていたセナにもう一つのマイクを手渡した。

 

「私いつ実況になったのよ? というかもう一つあったのね………うーん、足運びや動きだけを見るに二人とも魔術だけじゃなくて体術もある程度はかじってしてるみたいね―――誤解されやすいけど魔術師にもある程度の体力は必要だし、学生の今はいいけど近接もある程度は出来ないと、懐に来られたときに話にならないからね。学院生活が終わった先を見越した経験が生かされている感じね」

 

 周囲から、おぉ。と感嘆の声が漏れる中で、セナは怪訝な顔をした。

 

「ねぇロレン、実況ってこういうので大丈夫なの? 少し恥ずかしかったんだけど」

「あー………なんかごめん。本当に実況してくれるとは思ってなかった」

「焼くわよ?」

「まぁまぁ。あ、ジュース飲む? 柑橘ジュースでいいよな、好きだろ?」

「…………バカ」

 

 そっぽ向かれた、まぁそりゃそうか。

 あんまり気にしてないみたいだし良しとしよう、本気で怒ったらなんかオーラ出てくるのを最近になって知ったし。

 

 俺が二人分の飲み物を頼んだちょうどその後に、アルが杖を真上に掲げて叫んだ。

 

「喰らえ……!! 『アンデルセン・リクオート』!」

「っ! アクアシールド!」

 

 すかさず特待生は防御の魔術を行使して備える。

 しかし全員の注目は、その特待生の流れるような一連の動作ではなく、アルの魔術に向かった。

 

『なに? アンデルセン・リクオートだって!?』

『アンドルト・リクルート!?』

『まさかアンルセン・リクートを出すとはな……』

 

 ストローの付いたジュースを片手に持ったセナが、少し戸惑いながらアルの魔術に感心する周囲を見て、最後に俺に視線を移した。

 

「………ね、ねぇロレン」

「んー?」

「その『なんたら・リクオート』って………なに? 既存の魔術ではないわよね? さっきからアルも特待生もなにもしてないし、何が起きているの?」

「―――まだまだだな、セナ」

「その顔……まさか、知っているのね?」

 

 怪訝な顔をするセナにそう言ってやり、俺はほくそ笑んだ。

 

 

 

 ―――なんだろね? 

 

 

 

 いや本当に『なんたら・リクオート』って何? 

 聞いたことねぇよ言えるわけなくね? 復唱できないもん。

 今の今まで見たことないし、多分だけど急に作りおったよあの親友。

 

 その本人も警戒する特待生を目の前にしながら杖掲げたまま動かないしさ。何属性だよ? 火も水も名前に入ってないよなんだよリクオートって、投資か? 

 

 ………恋する俺の親友よ、今回ばかりはすまないが助力できないぞ。

 

 まぁだけど、周りの皆知ってるっぽいし解説する必要はなさそうだな。

 多分、ほぼ全員名前言えてないけど。

 

『………』

「ん?」

 

 ここまで来て、俺はあることに気付く。

 なんか、俺に視線が集まってきてない? 

 

 え? なんですか? 僕にできることなんて無いですよ? その場でジャンプしても何の音もしませんよ? 

 

 ―――ひょっとして解説しろと? 

 

 え、皆知ってるんじゃないの? 

 

 いや、まぁ確かに図書館の本を図書委員がドン引きする勢いで読み漁った俺が知らないのに皆知っているのも少し不思議だったけど。

 

「……」

『……』

 

 俺に向けられた視線が未だに反られる気配すらないのを見てなんとなくだが、俺は察した。

 

 ―――さては、こやつら知ったかぶりしたな? 

 

 知らないのに知ってますよ的な感じでリアクションしたんだな? おおむね俺が解説するから平気だと踏んだんだろ? 

 

 なんだなんだ、実は皆知っているのに俺知らなくてほんのちょっとショックだったけど、そういう訳じゃなかったんだな。

 

 ふぅ、やれやれ。知識勝負ならば先ずは図書委員から『アイツ滅茶苦茶来るんですけど、怖くない?』と噂になるくらいに本の虫になってからにしたまえよ諸君? 

 

 全く仕方無いクラスメイト達だ、しかしここは俺の責任も無い気がしないでもない、その尻を拭うとしよう。

 

「……ねぇロレン、今わかりやすく調子に乗ってない?」

「何の話だいセナさん? 僕は調子になんか乗ってないよ。ただ勉強不足の無知な皆にこのスーパー勉強マスターの僕がアルの凄さを伝えてあげたいだけさっ」

「―――へぇ。先に忠告しておくけど、そういうときのロレンって今までロクな目に遭ってないわよ? あと素直に気持ち悪い」

 

 ほほう、何をいっておられるんだこの人は。

 調子に乗るだって? そんなことはない。強いて言うならば知ったかぶりをして調子に乗ったのは周囲の方だろう―――気持ち悪いのはショック。

 

 

 だが俺はそれを頑張って弁解させようというのだから、良心の塊みたいなものだろ? 

 

 でも、まぁちょっと待ってほしい。

 何か起きないと解説のしようがないから。

 

 

 まだ杖を掲げたアルから何も起きてないから。

 

 

 

 …………………。

 ……………。

 …………。

 ………。

 ……。

 

 

 

 

 …(´・ω・`)? 

 

 

 

 

 ―――なんにも起きないな。

 

 え? もしかして俺が見えてないだけ? 

 視認しにくい風系統の魔術の応用とかか? いやそれなら動力源の魔力に動きがあるよな? 身体強化ならば体に薄い魔力を纏うし、そもそもそんな高等技術なんてアルといえどそうそう出来るわけもない。

 

 まさかの覚醒イベント的なアレか? 

 

 でもなにかに覚醒したにしても動きなくね。

 十秒くらい経ったと思うんだけど、ぶっちゃけて隙だらけなんだけど俺の親友。

 

 

 ということは………どういうことだ? 

 

 もしてかしてあれ、マジになにもしてないんじゃね。

 

 ―――なんか顔赤くなってね? 俺の親友。

 恥ずかしがってね? なんか小さく震えてね? 

 

 ………まさか失敗したのかな? 

 

 あ、アルが今凄い気まずそうに俺の方をチラッて見た。

 

 うん。確定だわこれ。

 

 

 

 ―――少し魔術について解説しよう。

 基本、魔術の発現は詠唱を用いるのだが短縮ないし簡略して発動させるか、無詠唱の魔術の使用する。それがさっき二人のやっていた魔術名だけで発動させるものだ。

 

 己のイメージと言葉によって魔術を発言させる。

 

 さらっとやってるけど、高等な技術と才能が必要だ。

 学院でも出来る者は少ないだろう。ちなみに俺は出来ないけどセナはできる。

 

 だが、難しい理論を抜いて言うと詠唱を間違えたりイメージが曖昧では発動しない。これは魔術を使う身から見ればかなり初歩的なミスだ。

 

 優等生のアルならほぼ間違いなくしないだろう。

 

 でも多分、今回のはそれだ。

 

 ………あれかな、模擬とは言っても戦闘でテンション上がり過ぎちゃったかな? 好きな人との今後も関わってくるから尚更に。あるよね考えすぎて空回りすること。

 

 さて、どうしよう。

 

 今から別の魔術を使ってもなんとなく『さっきのなんだったんだ?』って気になるし、それに俺への視線も痛い。

 

 つまり俺は遺恨を残さずにアルの失敗をどうにか揉み消す必要があるわけだ。

 

 中々に責任重大である、解説って大変だな。

 

「アンシェルン・オクレーヨは………時間稼ぎか」

『!』

 

 ―――だが、こういったピンチならば想定内! 

 

 ロクな目にあわないだと? そんなことはないんだよ。

 

「アルは今まで派手な動きをすることで魔術を発動させていた………今回のそれは違う。敢えてアルは先程と同様に大きく動き、聞いたことがないような魔術を名乗ることで相手の警戒を誘い、その間に一度自分の息や体勢を整え、さらに防御の魔術を行使した相手を疲労させたんだ………!」

 

『そ、そうだったのか!! 知ってたけどな!』

『流石アルサーノだぜ! 俺は理解していたぜ!』

『理屈では簡単だが、それを戦闘の場で堂々とやるなんてな、肝が据わってやがる。まぁ、マブの俺は通じあっていたけどよ』

『………やるじゃねぇか、まぁわかってたけどよ?』

 

 ―――おい誰だアルとマブって言ったやつ。

 視線がどんどんアル達の方に向かっていくので、俺はホッとした。

 

 中々に強引だがまぁ結果オーライとしましょうよ。

 前世の俺ならばなにこれ? って硬直したかもしれないがな、今は一皮も二皮も剥けているんだぜ。

 

 アルも一瞬凄く嬉しそうな顔をしていたし。

 決闘も再開した、次はしくじるんじゃないぞアル。

 

 

 

 ………うん、だからさ? やめてよセナさん。

 長い付き合いだから、なんとなく察したのはわかったから。

 

 なんかそんな、可哀想な奴等を見る目で見ないでよ。

 俺を巻き込まないでよ(切実)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、楽しそうね? 私も混ぜてくれるかしら?」

 

 

 

 

『っ』

 

 ―――観客全員が一瞬、凍りついたかのように固まった。

 

 黒いローブを纏った長い黒髪の女性、彼女はどこか禍々しさを放つ杖を片手に、妖艶な笑みで周囲を見渡していた。

 

「児戯につかうなんてねぇ、ここの結界って相当に価値があるのよ? 入るのは容易で、しかし内からでも外からでも結界を通した魔術ならばまるで空間を隔絶したかのように防ぐ……」

 

 そう言って、彼女は結界の中から観客へと魔術を放つ。

 悲鳴が上がったが、結界の外にいたクラスメイト達へその魔術は届かない。

 

「―――完全なる無詠唱の魔術、だと?」

「それに、あんな威力を……!」

 

 ―――空気を読んで言わないが、魔術はある練度まで達すると念じるだけで行使できるようになるらしい。

 しかしそんなものは世界でも一握りで、普通なら会うことすら無く人生を終えるものが多いだろう。

 

 しかしそれをなんてことないように。まるで出来るのが当たり前と言わんばかりの表情で結界を見ていた彼女は鼻を鳴らした。

 

「まぁ……こちらからも攻撃できないのは中々に痛いけど、最強の盾と言えるわね―――もしこれを改良出来れば、無敵の要塞が出来あがるのは間違いないか」

 

 そう、一人ごちり。

 ニタリと彼女は周囲を見て笑った。

 

「―――ついでに、将来邪魔になりそうな若芽を潰そうかしら?」

『っ』

 

 二人は咄嗟に杖の先を彼女に向けた。

 既に決闘なんて話じゃない。

 

 結界の中に入ったことすら誰も気づかなかった

 

「フン、無駄よ? 少し見てたけど、いくら強くても所詮学生の枠は越えられてないわ」

 

 確かに、実力の差は最初の攻撃で歴然としていた。

 二人もそれをわかっているのか、苦悶の表情を漏らす。

 そう言って、魔女は禍々しい杖を振り上げた。

 

「強いと言うのはね―――こういうことを言うのよ!!」

「マズイ! 逃げろアル!!」

「っ!」

 

 すると、魔女と呼ばれた彼女が何故かピタリと動きを止めた。

 

 ―――なんだ? 何かわからないがチャンスだ! 

 

「おいアル! 今がチャンスだ!! 逃げ……うん?」

 

 そこで、遅かったが俺もはじめて違和感に気付いた。

 

 

 ―――あり? なんか、皆が俺のことを見てないか。

 

 まるで時間が止まったかのように、俺の方に大量の視線が来ている。

 

 

 え? なに、皆のその物欲しそうな目。

 え? やだこれ、何これ。

 

 

 

 

 

 

 ……………解説しろと? 

 

 

 ―――いやいやいや!? 違うよな? そんな状況じゃねぇよな!? 

 

 や、やめてよ? 知らないものは知らないよ俺。

 根拠のないテキトーな事は言わない主義だからね? さっきのアルフォンス・ルートロクは例外としてさ! 

 

「……」

『……』

 

 …………え? だからなに、この間。

 

 なんで敵まで止まってこっち見てるんだよ。知らないから、お前の性能とか魔術適性とか。

 

 つーなバレてたらマズイだろ? バレてないから、片鱗も理解してないから。だから杖を振えよ、いや振るっちゃダメだわそのままでいて。

 

 アルと特待生はさっさと逃げて。

 

「………」

『………』

 

―――いぃや逃げろやあぁぁぁ!!!? 

 

 え? なんなの、俺が言わないと始まらないの!? 

 俺が一回解説的ななんかコメント挟まないと駄目なの? RPGなの!? なんでそんな空気読んでんの君達? 読めてないから逃げろよさっさと!! 

 

「………」

『………』

 

 

 

 

 

 

 

「………な」

『な?』

 

 

「な、なんだありゃあ…………!?」

『! ……(ゴクリ)』

 

 チクショウやってやらぁぁぁぁぁ!! 

 こうなりゃペテンもやむを得ないぜ!! 

 

……しかし改めてなんだこの状況。

 

 それっぽくやったら、なんか凄く期待度があがってやがる! 

 誰だ今生唾飲んだ奴、普通に遅いだろタイミング狙いすぎだろ。

 

 く、くそぉ。どうすればいいんだっ。

 

………とりあえず、魔術の威力を増幅させている杖に関して言ってみるか? 大体外れないだろ、魔術師にとっちゃあ生命線だし。

 

「つ、杖の先端に魔力が異常な程に濃くなっていやがる!? あんな濃度の魔術を使われたらっ」

 

『使われたら……!?』

「! へぇ」

「使われたらどうなるんだ、ロレン!?」

 

―――どうなるんだろうね?

 

 それ聞いちゃう? いやそりゃここまでいったら気になるよね。

 

 つーか『ほぅ? やるじゃねぇかお前』みたいな目で見ないでくれないかな魔女さん? 杖ずっと上に掲げてるけど。なに、お前余裕なの? それともバカなの? つかなに、適当に言ったけど当たってたの? 

 

 

「………つ、使われたら」

『………』

 

 

 

「学院ごと、ここら一帯が焼け野原になる―――かもしれない(小言)」

『な、なにぃぃぃぃ!!?』

 

 やっちゃったぜ(白目)

 いや俺そんなの知らないからね? 何てピュアな奴等だよ。

 

 つか教師陣どこいった――え? 多方向からの敵襲に反応して行っちゃったって? 残っている先生もなんかこっち見て驚いてるし。

 

―――えっ、色々ヤバくね? 

 

「意外ね……? まさか目覚めたばかりで加減を忘れていたとはいえ、一目でここまで私の魔術の威力を理解する人間がいるなんて」

「やめて待って、過大評価しないで魔女。偶然だから目を付けないで」

「ロレンは凄いんだぜ! お前の行動なんて全てお見通しだ!」

「だからやめろって。つーかそれどっちかと言えば俺がお前を持ち上げるときの台詞だから!」

 

「ふぅん、ロレン……ね、覚えたわ」

「覚えてんじゃねぇ忘れろ!! そして黙ってよ後々が怖いだろうが!! 杖叩き折るぞ!?」

 

 すると、魔女の目が見開かれた。

 

「なんですって……!? チッ、バレたなら仕方ないわね! そうよ! この肉体は偽物……本体はこの杖なの! まさか名のある魔導師ですら見破るのが難解な魔術を、学院の生徒ごときがここまで見破るなんてね!! これはあの方に報告する必要があるわね!」

「人の話きいてんのかぁぁぁ!!? どんな深読みだよ!? 誰だあの方って……いや言わなくて良いですもうホント黙っててください!!」

 

 すると、アルが覚悟を決めたように立ち上がった。

 

「そうだったのか! ならば心置きなく杖を破壊してこの騒動を止められる……!! 流石ロレンだぜ!!」

「なに……!? クソ! 見破られるとは思ってなかったわ、私はここでやられる訳にはいかないの! 私には復活する『魔王様』を補佐しなくてはいけないのよ―――ハッ!」

「―――ハッ! じゃねぇよバカなの!? バラすもなにもさっきから自爆しかしてねぇだろ!? つかアルなに闘おうとしてんのさっさと逃げろや!」

「そんな真似は出来ない! 皆を見捨てるなんて!」

「ここにきて主人公属性やめて!!」

 

 つかちゃっかり凄い情報来たよね? 

 

 え、魔王復活するの? そんでこの魔女(杖)は帰り次第アル達とセットで俺を報告するつもりなの? 多分そんな流れだよねこれ。

 

―――え、これもしかしなくてもヤバくない? 

 

 

「………っ!? ぐ、ぅ!!」

 

 すると、アルが唐突に苦悶の顔をして右手を抑え始めた。

 

「くっ、なんだ!? 右手が焼けるように熱い………っ!? まるで魔力が溢れ出てくる様だ―――ロレン! 何なんだこれは!?」

 

「………えっ? 俺に聞くのそれ」

 

「頼む! 解説してくれ!」

「相手と時と場所と場合も考えてくんない!?」

 

………いや、うん。

 魔王の復活が近付くに乗じて祖先の力が甦ってパワーアップ的なあれじゃないの? どれよ。

 

 言わないよ? もう、口は災いの元ってハッキリとわかったからね。知らないふりするからね? 口に戸を立ててやる。

 

「……成程、そういうことだったのか! 流石ロレンだぜ! これなら勝機がある!」

「え―――どゆこと、心読んだの? ここぞとばかりに友情の深さが裏目に出たの!?」

 

 こじ開けられたんだけど俺の戸。

 すると、魔女は杖を握りながら叫ぶ。

 

「ズルいわよ味方同士だけで隠し事なんて! 私にも教えなさいよ!」

「ズルくねぇよお前は黙っててよ頼むから!!」

「情報分析だけではなく、相手を口車に乗せて味方には無言で合図する。ロレンさん……貴方は、どこまで……!?」

「やめてっつてんだろ特待生!? どこまでもねぇよ! お先真っ暗だよ!!」

 

 特待生はなんか尊敬っぽい眼差しを向けてくるし。いや普通に考えて? 心読んだ親友は置いておいても自爆しかしてないからねあの魔女? 

 

 ……改めてなんだこの空間? 

 常識人が俺しかいないじゃないか!? 

 

「ハッ!」

 

 常識人……そうだ! セナがいるじゃないか!! 

 この状況を打開する何かを! 鶴の一声を! 

 

 

 

「…………フン、なによ。アルはまだいいけど、ロレンまで。ぽっと出の特待生とばっかり仲良くして………もう知らないから」

 

 

「――――――エッ?」

 

 俺が視線を横に流すと、そこには指先で髪を弄りながら目を伏せ、口を尖らせる友人の姿があった。

 

「あ、あれっ。セナ……セナさん?」

「ふん、なんですかオリマー君? 私は今ジュース飲むのに忙しいから話しかけないでほしいんですけど?」

「え、あっ…………はい、ごめんなさい」

 

【悲報】なんか知らん内に嫌われてて悲しい。

 

 つーか君も逃げろよ。チューチュー飲んでる場合じゃないでしょうよ。

 

 つかツンツンしながらの飲み方可愛いなオイ。

 

 

 

 ………ナニコレ? もしかしなくても俺孤立してね? 

 確かに解説ポジションは基本孤独だけど、なんか色々違くね? 

 

 

 ちゃっかり誰も逃げてないから沢山人いるけど、なんか一人じゃね―――いや何で誰も逃げてないんだよっ。

 

 出られない為に結界でも張られてたの? それとも時間でも止められてんの? 違うよね? 

 

 

………なんかこれ、もはや俺が行くとこまで行かないと収拾つかなくなってね? 

 

 先生達も来ないし。

 いや確かにあるけどさ、身近な実力者と連絡とれなくて孤立して、最後辺りで出てくるの。

 

 多分こねぇな、これ(諦念)

 

 これ俺が解説し尽くして、アルとか特待生がなんとかあの魔女を撃退しない限りは終わりがない気がするんだよなぁ。

 

…………何故だ? 

 どうしてこうなったんだ? 

 調子に乗ったからか? というか乗ってたか? 

 

 俺はただ、親友の恋路を応援したかっただけなのに―――。

 

「……お~い、魔女」

「魔女ですって? あぁ、名乗ってなかったわね。いいわ、聡いあなたに敬意を評して名乗ってあげる!」

「待って、名乗らなくていいから! 余計なことしなくていいから!」

 

「あたしの名前はドーロ・シー……かつて魔王様の幹部の一人として国を震え上がらせた女よ!」

「待てって言ってるのが聞こえねぇのかよその口の軽さに世界が震えるわ!!」

 

 その言葉に、特待生は目を剥いた。

 

「『ドロー・ビー』………!? まさか、私のおじいちゃんを……!!」

「おい名前聞き間違えてんぞ!? ペラペラ喋ってたわりにたった今致命的な誤解生じてたぞ!?」

 

「フッ、フフフフフ……」

 

 すると、特待生をマジマジと見て、ドーロさんは「へぇ」意味深に嗤う。

 

「―――ねぇ、貴女は道端の石ころの一つなんてわざわざ覚えているかしら?」

「き。き、さまぁぁぁぁ!!!! 貴様のせいでおじいちゃんの巨乳好きが遺伝したことが発覚した父さんは色々開き直り過ぎて貧乳の母さんと離婚したんだぁ!!」

「んじゃお前もうドロー・ビーじゃねぇかっっ!!」

つーか理由くだらなっ!? それ父親が悪いだろ!?

 

 奇跡的に会話が成立しちゃったよ! 宿敵になっちゃったよ! 後々から誤解が解けて気まずくなるやつだよ!? 

 

「ドロー・ビー……」

 

「あら? 思ったよりも早いわね、教師陣が来るわ………流石に彼等を全員相手取るのは厳しいわね。まぁ今回はお触りみたいなものだし………思わぬ形で重要な情報も手に入れたし、手を引かせてもらうわ」

「待て、逃げるのか!? ドロビィ!」

 

誰よドロビィって。幻のポ◯モンか。

 

「えぇ、貴方に、貴女………私が殺すと、きっと『あの方に』殺されてしまうもの」

「あの方……だと? 一体誰のことだ……?」

 

―――いや魔王だろ。

 もしくは本物のドロー・ビーだよ。

 

 なに今更『あの方』とか言って隠してんのこの杖? 

 

「ようやく、思い出したわ。貴方のその手、それに貴方達の関係もね」

「俺達の、関係?」

「あら? まさか知らないの……? あらあら、運命って残酷なのね?」

 

 クスクスと、意味深に嗤う魔女。

 

―――何か、ちょっと考えれば見当付きそうだから考えるのやめようかな。

 多分誰も得しないだろうし。俺から暴露する内容でも無さそうだ。

 

 すると彼女は二人にそう言って後に、俺の方を見て更に嗤った。

 

「それに、光栄に思いなさい? 貴方は特に警戒すべき人間の筆頭として魔王様に挙げておくから」

「――えっ?」

 

 え? 

 

「『学院の生徒には知将がいる』……こんなところかしら?」

「待っていらない。俺そんな凄くないんで、知将どころか恥将になるんで」

 

「謙虚なのね? ますます気に入ったわ」

「ねぇいつから俺の口は呪われたの? なんなの? なんで発言する度に嫌な方向にまっしぐらなの?」

「また会える日を楽しみにしているわ、じゃあね? ロレン君」

 

 そう言って、魔女は黒い空間を造り出してそこから消えていった―――多分現代ではなく古代に使われていた『次元魔術』だろうけど、正直語る元気はない。

 

 

「ロレン!! お前がいなかったらどうなっていた事か……ホント助かったぜ! 流石俺の親友だ!」

「その。ロレン、さん……? 貴方に話したいことがあって、どうですか?助けてくれたお礼に食事でも―――」

「っ待ちなさいよ特待生? アンタ出会って直ぐの人を食事に誘うのかしら? それに告白してくれた人の前で? 随分軽率じゃないかしら?」

 

 何故なら今、駆け寄ってきた皆からの熱がすごいからだ。

 

 もはや、何も言えねぇ。

 きっとまだ俺に解説ポジションは早かったのかも知れないな………でも引き返せる雰囲気は完全にゼロだよこれ。

 

 恋のキューピッドから一転、なんか敵の幹部の宿敵になってしまった。魔王にも目をつけられるかもしれない。

 

「………ホント。どうして、こうなった?」

 

 これからどうなるんだろう、俺の学院生活。

 

 

 

 

 

「まだまだ若い。が、やるじゃないか? もしかすれば………辿り着けるかもしれない」

 

「魔王は恐らく復活する………世界が終わるかもしれなかったが、もしかしたら……希望の星はまだ潰えていなかったのかもしれないな」

 

―――ねぇ、なんか渋い声がバッチリ聴こえてるんだけど。

 

 誰だろう……本物の解説ポジションの方かな? だとしたらサボりすぎじゃね? 

 

 でもなんか、聞き覚えのある声な気がする。

 生徒じゃなくて、なんかもっと身近な感じな。

 

「巡り巡られる災難の中で、全てを解説して魔王まで辿り着けるかもしれないな―――我が息子よ」

 

 

 いやお前(親父)かい。




何作品か真面目なやつも平行して書いているのに一番これの筆が進んでいたのがここ最近の謎。


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