斯くして比企谷八幡は仮想現実にて本物を見つける。   作:ぽっち。

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いやー、総合評価がもうすぐ1000ポイントですよ?
びっくりびっくりですよ。

八幡vs葉山、終結です。

この戦いを通して八幡は何を見つけるのか。


第10話

 

 

player vs player(PVP)》において、必要となってくる要素は多くある。

 

最も必要となってくるのは相手の情報。

どんな武器を使うか、どんな戦闘スタイルなのか知ることが勝利の鍵へとなっていく。

みんな大好き有名な孫子は言った。

『彼を知り、己を知れば百戦殆うからず。』

その言葉を信じるとすれば、俺がしなければならない行動は相手を観察することだ。

 

周囲を見渡せば、オレンジカーソルに染まった数人のプレイヤー。

ざっと数えて6、7人くらいか。

普通のPK戦なら3人相手には過剰な戦力とも言える。だが俺たちはステータスレベルが圧倒的に強い、攻略組。

妥当な判断と言えるだろう。

 

「行け。」

 

葉山がそう呟き、それに反応して3人のプレイヤーが俺に襲いかかってくる。

情報が少ないので、ここは様子を見て相手の出方を見る――――と思っているコイツらの逆を突く。

 

「――――っ!!」

 

鋭く息を吐き、初撃は力任せに振るう上段からの斬りおろし。

予測していた反応と違った為か、始めに近づいてきた1人のオレンジプレイヤーは驚愕の表情を浮かべ、無理な体勢で防御を固める。

 

完璧ではない姿勢で攻略組の攻撃を防げると思うな。

俺は剣の軌道を少し変えて、相手の手首を斬り落とす。

 

「なっ――――!?」

 

普通の人間なら痛みで悶絶するかも知れないが、ここは仮想現実。

例え手首を落とされても痛みはない為、隙は出にくいが・・・・動揺は必ずする。

特にオレンジプレイヤーたちは奇襲を得意としている為、自分自身が見せる動揺した時の姿を知らない。

そうなれば、多くの隙が生まれる。俺の目には最低でも5通りの隙が見えている。

相手の戦闘意欲を削ぐ為、もっとも効果的な箇所を攻撃しなければならない。

この取捨選択は多数対一の戦闘の時にはかなり重要になってくる。

 

俺は振り下ろした剣の刃を横に向ける。

屈みながら、そのままの姿勢で一回転をし、相手の両足を斬り落とす。

 

このSAOでは部位欠損は急所以外、致命的なダメージには至らないが・・・・戦闘は当然の如くできなくなる。

特にここは相手が用意してくれた結晶無効化エリア。

回復(ヒール)結晶も使えない為、即時回復はできない。そのため回復にはPOTを使わなければならない。

そうすれば、回復に時間はかかる。部位欠損となれば尚更だ。

 

「くそがぁ!!」

 

仲間がやられた事に苛立ちを覚えたのか、1人のプレイヤーが飛び上がってからの上段斬り落としをしてくる。

俺は直ぐさま、戦闘不能になった目の前のプレイヤーを飛びかかってくる奴に向けて蹴り飛ばす。

俺の筋力値に逆らえず、吹き飛び、空中で身動きが取れない仲間を巻き込みながら後方に吹き飛ぶ。

 

しかし、それを予想したかのように背後から短剣持ちのオレンジプレイヤーが襲いかかってくる。

面倒な事にすでにソードスキル発動時のライトエフェクトが刃を覆っている。

 

・・・・スキルモーションの状態から鑑みるにパリングからのスキルキャンセルは不可能。

そうなれば、やれる事は一つ。

無用なダメージを避けるために回避に徹する。

 

「シネェ!!」

 

俺の様々なソードスキル擬きを多用する戦闘スタイルを知っていての行動ならば・・・・とても愚直な判断としか思えない。

 

直前の動作から放たれるソードスキルを予測。そしてコンマ数秒の動作からソードスキルは短剣8連撃ソードスキル《アクセル・レイド》と断定。

剣先の方向、武器のリーチから予測し、少し後方に身体を傾けながら回避を試みる。

 

短剣のメリットはその素早い攻撃と手数が多い所だ。

そのかわり、デメリットとしてはその圧倒的に短いリーチ。

相手が腕を伸ばしきったギリギリのラインで回避する。

剣先は俺の服を掠めることも出来ず、止まる。

腕と武器のリーチから予測した攻撃可能範囲から少しだけ外に出たのだ。

 

そして、8連撃の攻撃が終わったその時がチャンス。

硬直時間(ディレイタイム)に陥ったプレイヤーは攻撃の格好の的。

素早く両手首、両足首を斬り落として戦闘不可能状態まで引きずり落とす。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

間髪入れずに1人のオレンジプレイヤーが俺の懐に入ろうとする。

 

敵の武器は両手槍。

槍のメリットは中距離からの鋭い一撃が特徴なのだが・・・・そこまで近づいたら意味がないだろ。

相手の焦りによる判断ミスを見逃さなかった俺は敢えて一歩踏み出し、左右に揺れながら全ての攻撃を回避する。

 

槍は前後左右の攻撃には強いが、間合いの内側に入ると途端に弱くなる。

そのわずかな隙を俺は見逃さず、片手剣3連撃ソードスキル《シャープ・ネイル》で相手の両手首と片足を切り落とす。

俺には硬直時間(ディレイタイム)はないため、続けて残った足を斬る。

 

・・・・葉山を除き、あと5人。

俺は事前に用意していたアイテムをポーチから取り出す。

球状のアイテムをそのまま地面に叩きつける。

撤退用に準備しておいた、《煙玉》だ。

 

煙には特に害はないのだが、視界を奪う事に関してはかなり優秀なアイテム。

本来の用途はモンスターから退避するために使用するのだが、こんな場面でも使える。

 

「逃げる気か!?追いかけろ!!」

 

誰かがそう言ったが、流石の俺もそこまでバカじゃない。

戦闘どころか立って歩くことすらままならないコロルを抱えてフィールドに出たところですぐに追いつかれるだけだ。

この部屋を出て転移結晶で逃げるのも一つの手だが・・・・このまま葉山を放置するのは、いずれ何処かで後悔するだろう。

 

俺は素早くウィンドウを操作して、《索敵スキル》を発動させる。

《煙玉》は相手の視界を塞ぐことができる優秀なアイテムだが、自分自身も視界を削ってしまう少し厄介な代物だ。

 

しかし、俺の《索敵スキル》を使えば楽に相手の居場所を把握することができる。

《隠蔽スキル》も同時に発動すれば相手に気取られる前にケリをつけることができる。

 

俺は煙を引き裂きながら、持てる筋力値と敏捷値で辺りのオレンジプレイヤーを次々と戦闘不能にまで追い込んでいく。

コイツらはただHPを削っただけではダメだ。

人を殺す事に慣れているということは殺されても構わないと思っている部分がある。

そういう奴らは手負いの状態が一番手強い。

それに痛みを伴わないこのSAOでは、HPゲージの減少しか相手の恐怖感を煽れない。

しかし、コイツらにはそう言った恐怖感というものは効かないだろう。

そうなれば、圧倒的な実力差で行動不能状態までに追い込んでやれば・・・・自然と心を折りやすくなる。

 

多少の反撃を喰らったが、《戦闘時回復(バトルヒーリング)スキル》によって数十秒で完全回復することができるだろう。

 

《煙玉》の効果時間が切れ、徐々に煙が消えていく。

完全に煙が消えた時には葉山以外のオレンジプレイヤーは全て地面に伏していた。

 

動けないもどかしさからか、呻き声と俺を罵倒する声が聞こえてくる。

 

葉山はその状況を高みの見物をし、俺を拍手で迎えた。

 

「流石だな、比企谷。コイツら全員でも手も足も出ないか。」

 

楽しそうな、無邪気な笑顔を葉山は俺たちに見せてきた。

・・・・その笑顔は、現実世界では一度も見たことがない、愉しそうな表情だった。

 

「ふ、ファルさん・・・・アイツ、強すぎますよ・・・・。」

 

すると、1人のオレンジプレイヤーが這いながら葉山の元へ助けを求める表情で行く。

葉山は先ほどの笑顔から表情が一転、まるでゴミを、虫を見るような酷く冷めた視線で一瞥すると剣にライトエフェクトを纏わせて、首を切り落とした。

 

「――――っな!?」

 

「何?助けてくれるとでも思ったの?自惚れるなよ、雑魚。」

 

人とは思えない、冷徹な声に俺は恐怖を覚えた。

同時に、葉山がもう、戻れない場所まで来ているんだと実感させられる。

 

「ごめんごめん、比企谷、待たせたね。」

 

片手剣を構えて、葉山はニヤリと笑った。

 

・・・・もう戦うしかない。

俺の強さを見て、葉山が怯めばとかそんな小さな一握りの希望は・・・・殺さなくて済めば・・・・なんて甘い考えは、捨てろ。

 

()らなければ、()られる。

これは遊びでやる決闘(ディエル)なんかじゃない。本当の命を懸けた、後戻りができない戦いなのだ。

 

そして、数秒の沈黙。

互いに互いを睨み、探り合う。

 

《PVP》の基本は相手の情報。

実際、俺が持っている葉山の情報と言えば片手剣を使う・・・・位の事だろう。

それ以外の戦闘スタイルは戦いの中で探るしかない。

 

片や俺は最前線で悪名高い《インベーダー》。

戦闘スタイルや主に使う武器、それら全てはその辺りに居る情報屋からも仕入れる事ができるほど知れ渡っている。

 

先ずは先ほどと同じように先手を――――

 

「――――っ!?」

 

俺が行動を開始する前に葉山は地面を蹴り出した。

俺の行動を先読みして、主導権を取りに来たのだ。

 

「っく!?」

 

放たれるソードスキルはスキルモーションからの予測から片手剣突進ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》と断定するが、先ほどのオレンジプレイヤーとは訳が違う。

 

研ぎ澄まされたその一撃はこのSAOで最強とも呼べるキリトやヒースクリフにも劣らない練度の高い一撃。

何とか捻り出した俺の片手剣でギリギリのタイミングでパリィするが間に合わなかったのか、反動で後方に弾き飛ぶ。

 

無理やり身体を捻らせ、態勢を持ち直そうとするが膝をついてしまう。

 

「・・・・この一撃をあの姿勢からパリィか。反応速度より、その隙のない判断力が君の最大の武器と言えるね。」

 

「うっせ・・・・。」

 

危なかった。

刹那の判断ができていなかったら今頃アイツに殺されていたのは間違いないだろう。

慢心するな、コイツは今まで戦ったどのオレンジプレイヤーよりもレベルが違う。

留意しなければならない点はあのプレイヤースキルから生み出される圧倒的な攻撃力。

そして、人を殺すことに何ら躊躇いを持たない思考回路だ。

 

俺のほんの少しの動揺を察したのか、葉山は追撃をするために猛スピードで俺に接近してくる。

 

――――くそっ!

 

俺のソードスキルを使わない戦闘スタイルは完全に読まれていると見て間違いないだろう。

俺の多彩な攻撃手段は主導権を握って先手の連続攻撃が一番効果的だ。

だが、葉山はそれをさせないために俺に防御せずにはいられない激しい剣戟を繰り出してくる。

 

その重たい一撃は受け止めるたびに手が痺れてしまうと錯覚させるほどの威力。

俺は《体術スキル》も使えないため、剣以外の攻撃ができない。

それとは反対に葉山は《体術スキル》と《片手剣ソードスキル》のコンビネーションをこれでもかと言うほど発揮してくる。

その実力は、直ぐにでも攻略組として前線に出れるんじゃないかと思ってしまうほどだ。

 

しかし、それは錯覚に過ぎない。

レベルの差があればMMORPGの理不尽さは如実に現れてくる。

葉山の鋭い一撃でもどこまでいっても俺の体力を削り切る事が出来ないはずだ。

俺はダメージを承知でパリングからのカウンターを葉山に繰り出す。

 

しかしそれを察したのか、俺の刃が葉山に届く前に回避行動を取られてしまい、距離を取られる。

 

「ふぅ・・・・流石だよ。今まで殺したどのプレイヤーよりも殺しがいがある。」

 

「・・・・どこまで腐ってんだよ。」

 

「君にだけは言われたくないなぁ・・・・本当に、その動揺を見せない顔が、イラつく。」

 

すると、葉山の片手剣が薄っすら光を帯びる。

 

・・・・何のソードスキルだ?

今まで見たスキルは葉山の完全な実力によって構成されたものだ。

現実での運動能力がこの世界でも通用するかの如く、葉山は強い。

スキルの組み合わせや虚を突いてくる多彩な攻撃手段。

しかし、それらの全てを否定するかの様に葉山のこのスキルモーションは絶大な違和感をもたらせる。

 

そして――――刹那に感じ取る首筋を舐め回すかの様な酷く冷たい悪寒。

 

俺は直感に従って首筋に防御を固める。

葉山の目にも留まらぬ一撃が俺の剣に当たり、金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。

 

――――お、重過ぎる。

 

俺は左に数メートル吹き飛び、何度か転がって漸く停止する。

 

・・・・なんだよ、アレは?

 

普通の攻撃ではあり得ないスピードと威力。

その一撃を防いだ俺を褒めてやりたいくらいだ。

 

アレを喰らっていたら確実に死に至っていただろう。

そんな事が脳裏をよぎり、心拍数と呼吸の回数が自然と増大する。

冷えた汗が俺の額から流れ出て、頬を伝って地面に零れ落ちる。

 

「これを防ぐとか、あり得ないよ比企谷。本当に恐ろしいな。」

 

「・・・・なにを、した?」

 

葉山は俺の質問にニヤリと笑い、嬉しそうに話す。

 

「エクストラスキル、《処刑人(エクスキューショナー)》だよ。」

 

「エクストラ、スキルだと・・・・?」

 

「そうさ、首を狙う時のみに発動することができる特殊なソードスキルさ。・・・・プレイヤーにしか効かないけど、どんな防具で固めていても一撃で葬ることができる。素晴らしいだろ?でも、さっきみたいに武器でガードされると効果を成さないところが玉に瑕なんだよね。」

 

俺は脳内にある数多のSAOに関する知識を総動員させるが、そんなスキルは聞いたこともなければ見たこともない。

チラリと後ろで待機しているアルゴを見るが驚愕の表情を浮かべている。

あのSAO一の情報屋ですら知り得ないスキル。

なによりあの威力を体験すれば、それがブラフじゃないことも分かってしまう。

考えうる一つの可能性、それは――――

 

「――――ユニーク、スキル・・・・?」

 

「ハハハハ!!御名答!!君のその思考能力に関しては驚かされてばかりだ!!」

 

ユニークスキルとはこのSAOで唯一、ただ1人しか持てないとされるスキル。

現在確認されているユニークスキルは《血盟騎士団(KoB)》の団長、ヒースクリフが持っているとされる《神聖剣》ただ一つ。

 

ユニークスキルの特徴は何と言ってもその圧倒的な強さだ。

ヒースクリフの《神聖剣》はどんな攻撃にすら対処できる完璧な防御力が特徴だ。

それに対して葉山の《処刑人(エクスキューショナー)》は一撃必殺の攻撃力。

 

しかも・・・・このSAOでは無用な筈の対人戦闘限定のスキル。

 

「いつの頃だったかな?・・・・スキルリストにいつの間にか載っていたんだ。取得条件は不明だけど・・・・その時はちょうど俺が100人目のプレイヤーの首を斬り落とした時だったよ。」

 

俺の背筋が凍る、そんなゾクっとした悪寒が身体を支配する。

100人・・・・1万人しかプレイヤーがいないこの世界で葉山は100人以上のプレイヤーを、殺している。

 

人を殺すことで手に入れるソードスキル・・・・本当に、反吐が出る。

 

常人では辿り着くことはできない、そんな領域にある力なのだ。

 

「・・・・このスキルで首を斬れば、なんとも言えない快感が俺を支配してくれる。そう、このために俺はあの時にナーヴギアを被ったんだって思わせてくるんだ。」

 

「ふざ、けるな。」

 

「なんとでも言えばいいさ。俺はこの世界で《本物》を手に入れたんだから・・・・!」

 

もう、あの葉山隼人はこの世界には居ないのだろう。

彼の言う《本物》がどんなものかは分からない。

理解もしたくない、分かりたくもない。考えたくもない。

 

すると、葉山はゆるりとした動きで剣先を俺に向ける。

 

「このスキルを手にした時・・・・斬り落としたい首があった・・・・君だよ、比企谷。俺は君の首を斬りたかった。」

 

高揚した表情で気持ち悪い笑みを浮かべる葉山。

 

「君は、俺と違って全部手に入れる。・・・・優美子や姫菜だってどこかで君のことを認めていた。結衣は君のことを心から信頼していた・・・・!!雪乃ちゃんだって!!君が笑顔にしていた!!!」

 

突如、葉山の淀んだ悪感情が溢れ出し、全てを俺にぶつけてくる。

 

「可笑しいよなぁ!?俺が頑張って《みんなの葉山隼人》を演じていたのに!!そうやってみんなは俺についてきてくれたのに!!君は自分本意で自分勝手な生き方で、みんなついてくる!!まるで《本物》の俺を見抜いて、一定の距離を置いてるんだよ!?努力している俺より怠けて他人から距離を取っている君の方が好かれるなんて可笑しいじゃないか!!・・・・だから、君を斬りたい、殺したかったんだ。」

 

酷く濁った嫉妬、憎悪・・・・それら全てが俺に襲いかかってくる。

 

「・・・・巫山戯んな。」

 

その理不尽な思考と行動に俺は怒りを覚える。

 

「オマエがそうやって自分を隠してたのは自分だろ。自分を欺いて、他人を欺いて、誰も振り向かないのは俺のせいなんて、ただの責任転嫁だ。」

 

認めては、ならないのだ。

コイツの言うことを認めてしまったらコイツの《本物》を認めてしまうことになる。

 

「ただ自分を否定して、他人を否定して手に入れたものが《本物》だと・・・・!?巫山戯るな!!俺からすればそれは、欺瞞と醜い嫉妬でできた《偽物》なんだよっ!!」

 

俺は剣の柄をあらんばかりの力で握りしめて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「オマエは間違ってる。その全てを俺が全力で否定してやる。」

 

覚悟しろ。

俺は俺の全てをオマエにぶつけてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せん、ぱい・・・・。」

 

力が、入らなかった。

目の前でせんぱいと、大好きだった筈の葉山先輩が戦っている。

命を懸けて、戦っているのに私の身体は圧倒的な無気力感で覆われて動けそうにない。

 

でも、今あそこに私が好きだった葉山先輩は・・・・居ないのだろう。

 

「大丈夫カ?コロちゃん。」

 

そう言って私の肩に手を置くアルゴさん。

 

「・・・・リアルの知り合いカ。流石にそれは予想してなかっタ。すまないイ。」

 

「アルゴさん、は・・・・悪く、無いです。」

 

人と戦う覚悟はしていると言った自分が情けなくなる。

いざ、残酷な世界を目にすれば自分がどれだけちっぽけでか弱い存在か認識させられる。

それでも、せんぱいはその現実に立ち向かい、今も戦っている。

少なくとも、クラスメイトに向けて殺してしまうかもしれない刃を振るっているのだ。

 

その精神力はどこから来るのだろうか?

文化祭での噂を知った時からずっと思っていた。

あのせんぱいは何を原動力に自分を蔑ろにしてまで優しくするのか。

自分だけが傷ついて、他人が傷つかないように・・・・このSAOでも同じ行動をしている。

どれだけ考えても、その答えには私なんかじゃ到底辿り着けない世界なんだろう。

それでも、せんぱいに一歩でも近づいて見てみたかった。

みんなが笑い合う、せんぱいの求める《本物》と言うものを見てみたかった。

 

だが、葉山先輩はそのせんぱいの理想を薄汚れてしまった言動で踏みにじった。

 

私の、憧れていた葉山先輩は結局のところ、《偽物》だったのだろう。

他人に合わせて、自分を演じていた私も同類だったのだろうか?

 

それならば、私のしていた恋はきっと《偽物》なのだろう。

私自身も、《偽物》だったのだろう。

 

ならば、せめてここで戦わなければならない。

でもせんぱいと葉山先輩の戦いは、割って入れるような次元を遥かに超えている。

 

「・・・・まずいナ。」

 

「互角に、見えますけど・・・・。」

 

せんぱいとはレベルが近いとはいえ、戦闘経験の差は歴然としていた。

私が強いのはシリカとのコンビを組んだ時だけであり・・・・《PVP》となれば専門外と言ってもいい。

せんぱいは葉山先輩の攻撃を全てパリングしているので、私の目からは互角のように思えたのだ。

 

「ハー坊は確実に押されているヨ。主導権を握れていなイ。その証拠に回避、パリィ、カウンターをメインとした戦闘になってるダロ?」

 

「たしかに・・・・。」

 

その観点を抑えて戦いを見てみると、自然とせんぱいが押されているように見える。

 

「・・・・シーちゃんに救援要請を送っタ。恐らく、《月夜の黒猫団》を引き連れて援護に来ると思ウ。

そうすれば、あの男を殺さなくて済ム。」

 

「・・・・間に、合いますよね?」

 

「分からなイ。・・・・ハー坊次第、だナ。」

 

無力な私は・・・・ただただ祈ることしか出来なかった。

そんな自分が・・・・本当に嫌いになってしまう。

 

「ただ、覚悟はしといてくレ。間に合わなかったラ・・・・」

 

「――――分かって、います。」

 

その時は、私が援護に行くしかない。

覚悟を・・・・決めるんだ。葉山先輩を・・・・殺す覚悟を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらりと片手剣を構える葉山を見据える。

先ほど見せた葉山のユニークスキル《処刑人(エクスキューショナー)》はこのSAOでは対人戦最強スキルと言っても過言では無いだろう。

 

レベルもスキルもありとあらゆる能力値を無視した一撃必殺の攻撃力。

他のソードスキルと併用すれば多数の選択肢ができる。まさにチート、と言う言葉が似合うスキルだ。

 

ならば、アイツの虚を突く。

もう、迷っている暇はない。出し惜しみなんてする場面ではないのだ。

ユニークスキルには・・・・ユニークスキルだ。

 

「――――比企谷ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「――――葉山ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

お互いの腹の底から出てくる叫び声が虚空に響き渡る。

俺は剣の柄を強く握りしめ、スキルモーション(・・・・・・・・)を起こす。

 

このSAOに来てから1度もエフェクトを纏ったことのない俺の剣が、眩い光を放って葉山のソードスキルと重なる。

葉山と俺の剣は激しい火花を散らして弾き飛ぶ。ソードスキルがぶつかり合う際にできる、《スキルキャンセル》だ。

 

普通は葉山の様にここで硬直時間(ディレイタイム)に襲われるのだが・・・・俺にはそれが無い(・・・・・)

 

「――――っな!?」

 

驚愕の表情を浮かべる葉山。

俺の剣は未だにライトエフェクトを纏わせ、葉山の右肘から上を斬り落とした。

 

「っ!」

 

しかし、葉山は素早く左手を操作して《クイック・チェンジ》による武器の持ち替えをする。

俺の攻撃の反動により硬直時間(ディレイタイム)が解除されてしまったのか、素早い動きで俺の剣を弾こうとするが・・・・葉山の剣が逆に弾かれてしまった。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

本能の赴くままに振るわれた俺の剣は葉山の残る左手首も斬り裂いた。

 

そして両手を削がれた事により葉山は尻餅をつき、倒れ込む。

 

「――――・・・・なんだよ、それ。」

 

「切り札ってのは、最後まで取っておくモンだ。」

 

俺はスキルの効果が切れてしまい、俺に30秒間の硬直時間(ディレイタイム)が襲ってくる。

 

先ほど俺が見せたスキルはレベルが50に至った際に手に入れたエクストラスキル《無双剣》。

 

俺が繰り出す全ての攻撃技がソードスキルとして扱われる(・・・・)とんでもスキルだ。

まるで俺の戦闘スタイルに合わせたかの様に構成されたその仕様はチートと言ってもいいだろう。

出現条件は不明。情報屋のスキル銘鑑をいくら探しても出てこなかった為、俺専用のユニークスキルと気づいたのは実はここ最近。

 

とはいえこのスキルの弱点はその効果時間の短さとクソ長い硬直時間(ディレイタイム)にある。

 

オンラインプレイヤーは嫉妬深いため、コソコソ隠れて練習していたため熟練度はまだまだ低い。

その為か、継続時間は経ったの15秒。

その短さの上に硬直時間(ディレイタイム)は30秒間という長さになっている。

 

「・・・・なんだ、よ。オマエはそんな物まで持ってるのかよ。」

 

絶望感に満ちた表情で葉山は俺に言葉を投げかける。

 

「俺が・・・・持ってるものはすでに持ってるって言いたいのか?そんなに!!俺をバカにしたいのかよ!?」

 

「・・・・そうじゃない。俺は、ただ守りたいものを守るための最善の選択をしたまでだ。」

 

「守りたいもの!?ふざけんな!!!それで人を蹴落として楽しいのかよ!?いつも嗤ってたんだろ!?俺が!自分を演じているのを見て!!」

 

嗤ってなどいなかった。

俺は・・・・お前の生き方は嫌いだったが、羨ましかった。

他人を信じれる、その心の強さは俺の憧れだった。

だが、俺は何も言わない。

今の葉山に俺の言葉なんて届かないからだ。

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!おい!!!早くしろ!!」

 

「・・・・っ!?」

 

葉山がそう叫ぶと後ろに倒れていたオレンジプレイヤーが葉山に向けて回復(ヒール)結晶を使用する。

本来ここは葉山が用意した結晶無効化空間。

使えないはずの結晶系アイテムが使えたのだ。

 

「・・・・俺が、何も手を打ってないと思ってたのか?もうすでに、罠は解除されてるんだよ。」

 

負けた時を考えてすでに準備をしていたのだ。

恐らく罠の解除を最期の一手順で止め、俺たちが転移結晶が使えないこと確認したところで使えないと思い込ませていたのだ。

 

斬り落とされたはずの葉山の腕が綺麗に戻っていく。

 

よく考えれば当たり前のことだ。

これから戦うのは攻略組の俺たち。負けることくらいは予測していたのだ。

二重にかけられた罠を見抜けなかった。

 

「ふははは!!しねぇ!!比企谷ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺はまだ硬直時間(ディレイタイム)が終わっていない。

今ここで回避、又は迎撃できる手段を持っていない。

あと、あと数秒で動けるのに――――

 

葉山の放ったニークスキル《処刑人(エクスキューショナー)》の必殺の一撃が俺の首を刎ねる、と思った刹那――――

 

 

――――コロルの槍が葉山の攻撃を防いだ。

 

 

「コロル!?」

 

「せんぱい!!スイッチ!!!」

 

処刑人(エクスキューショナー)》の威力によりコロルは吹き飛ばされてしまう。

 

直後に俺の硬直時間(ディレイタイム)が切れ、身体の自由が戻る。

 

すでに奥の手は出し切った。

これ以上の混戦は確実に俺たちの首を絞める。

俺はもう一度《無双剣》のスキルモーションを立ち上げる。

 

「――――っ葉山ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺の剣は・・・・葉山の身体を貫いた。

攻略組である俺の攻撃力を持ってすれば、葉山のHPゲージを確実に消し飛ばせるだろう。

 

そして、数秒の沈黙の後葉山のHPゲージが0になる。

 

「・・・・――――とう。」

 

「っ!?」

 

俺にもたれかかり、葉山は一言だけ俺の耳元で呟いて・・・・砕け散った。

 

この時俺は初めて人を殺した。

 

初めての・・・・友達になれたかもしれない奴を、この手で殺したのだ。

 

そして俺の頭の中には最期の葉山の言葉が・・・・永遠とリピートしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ふぅー・・・・書ききった。

これからも八幡の苦悩は続きます。


更新頻度が少し落ちたのは申し訳ない。
23連勤目の私には中々ツライ。
更新頻度は出来る限り上げたいのですが、リアルが忙しすぎて血を吐きそう笑
更新が止まったら過労死したと思っててください笑
言い訳はこれほどまでにしといて・・・・まぁ無理せずゆっくり書いていきますので読者の方々、気長にお待ちください。

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