神降ろしをしたら、施しの英雄が降りてきた。   作:黒い小説家

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異国の僧侶(バラモン)と妖怪の賢者

紅魔館から帰ってから翌日のこと。

 

 昨日とは違い、異変が起こりそうな原因は特になく、比較的に平和な時間を送っていた。

 

 縁側でのんびりしている魔理沙、そして庭で腕を組んで立っているカルナ。

 

 しかし一人だけのんびりできず、何か嫌な予感を感じ取っていた者がいた。

 

 その人物は霊夢。 魔理沙と共に縁側で座っているがのんびりとはしておらず、不穏な表情を浮かべている。

 

「どうした霊夢? 何か不快なことでもあったのか?」

 

「何かずっと前から嫌な予感がするのよね」

 

「あっはっはっは、また巫女の勘ってやつか? 霊夢の予感は大体的中するからな」

 

 そんな事を話している最中に、霊夢の嫌な予感が的中することになる。

 

 霊夢達のいる場所へ歩いて向かってくる人影が五人ほど鳥居の方向から見えた。

 

 そして五人が霊夢達の近くまでやって来て、二人がその正体に気がつくと、霊夢は驚いて嫌そうな表情を浮かべ、魔理沙は物珍しそうな表情をした。

 

「げっ、何であんた達が?」

 

「おぉ? 珍しい顔触れが来たな」

 

 やってきたのは四人の妖怪、そしてそれを率いる人間でも妖怪でもない強大な力を持つ女性。

 

 五人の存在を知っている霊夢や魔理沙に対して、何も知らないカルナは無意識に戦闘の態勢に入る。

 

「何者だ?」

 

 カルナが最初に話しかけたのは、四人の筆頭にいる女性だった。

 

 金髪に紫のグラデーションが入ったロングウェーブ、瞳の色は金色。服装は白黒のゴスロリ風のドレス姿に表地が黒色、裏地が赤色のマントを羽織り、黒いブーツを履いている。

 

「初めまして日天様、私は命蓮寺というお寺で僧侶をしている聖白蓮と申します」

 

 何か生前に関わりがあったのか、僧侶と言う言葉に珍しく反応するカルナ。

 

 それも無理はない。 呼び名は違えどカルナが生きていた時代にも僧侶はいたのだから。

 

「異国の僧侶(バラモン)? 見たところ魔理沙、お前と同じ魔法とやらを使う者のようだが」

 

 本人は僧侶とは言っているが、霊力や法力ではなく妖力や魔力などの類いを感じる。それにこの白蓮と名乗る者は妖怪でも人間ではないようだ。

 

「性質は異なるけど、確かに白蓮とは同業者だぜ。それにしても相変わらず凄い洞察力だよな、カルナの眼は」

 

「大したものではない。」

 

 白蓮を筆頭に背後には四人の妖怪がいるが、中でも一人だけ生前から知っている気配を持つ人物がいた。

 

 虎の体色のような金と黒の混ざった髪を持ち、頭上に蓮のような花を模した飾りを乗せている。

 服装は虎柄の腰巻きをつけ、背中には白い輪を背負っている。また左手には背丈よりも長い鉾を、右手には宝塔を持っている。

 

 知っている気配の名はヴァイシュラヴァナ、つまり日本の呼び名で言うのであれば。

 

「お前は毘沙門天(ヴァイシュラヴァナ)の化身か、まさかこんな形で出会うとはな。」

 

「お会いできて光栄です日天様」

 

「何だよカルナ、虎丸と知り合いだったのか?」

 

「いや、初対面だが。」

 

 あくまでも名前と気配を知っていただけで、ヴァイシュラヴァナ及び毘沙門天との面識は生前にはない。

 

 白蓮が信仰する仏教とは元を辿ればインド、細かく言うとヒンドゥー教やバラモン教などが原典だと言っても過言ではない。

 その例に、仏教にて帝釈天と呼ばれる神は宿敵アルジュナの父であり神々の王であるインドラ、破壊神シヴァであれば大黒天、最高神の一柱であるブラフマーは梵天と呼ばれている。

 

「それで、異国の僧侶(バラモン)よ、何の用でオレの前に現れた?」

 

「単刀直入に言いますと、是非とも寺に招き入れたいと思い、貴方様の元に訪れました」

 

「なるほど、それはつまり、オレを神として信仰するためか」

 

「はい、仰る通りです」

 

 その言葉を聞いてカルナは無言になる。元々無口で無愛想な人物だったので霊夢達からしてみれば何も珍しいことではない。

 

 そして数分の時が経過した頃に、ようやくカルナが口を開いて答えた。

 

「残念だが、その願いを聞き入れることはできない。 できることなら別の願いにしてくれると助かる」

 

「それは何故ですか?」

 

「過ちとはいえ、この世にオレを呼び出したのは他ならぬ霊夢だ。 故に、今の主は霊夢であり、その事実が存在する限り、オレは主を変える気はない。」

 

 忠誠心の塊とも呼ぶべきか、底抜けに義理堅いカルナの言葉に、周囲の者達は思わず息を飲んでしまう。

 

 そんなカルナの言葉を前に、流石の白蓮も諦めたのだろう。笑顔を浮かべながら言った。

 

「なるほど、そう言う理由ですか」

 

「あぁ、そもそも、オレは主のために闘うだけの戦士(クシャトリア)だ。 神の器ではない。」

 

 父のスリーヤと一体化しているとはいえ、俺は誰かに崇められたり信仰される程の者ではない。 ただ主のために槍を振るい、戦車に乗り、弓を引いて闘うだけの戦士(クシャトリア)なのだから。

 

「それでは今度、一日だけ寺に来て頂うというのはどうでしょう? 神として迎えるのではなく、日天様が妙連寺を拝観する形ということで」

 

「わかった、約束しよう」

 

「用件はそれだけです。それでは私達はこれで失礼します。」

 

 そう言うと白蓮を筆頭にその後ろにいる四人はカルナ達に向かって頭を下げると、歩いて博麗神社から去っていった。

 

 白蓮達がいなくなった途端、はぁ~と大きく溜め息をつく霊夢、余程あの空気が重かったのだろう。

 

「本当に律儀ね、私のことなんてどうだって良いのに」

 

「オレがいると不満か?」

 

「そういう意味で言ってる訳じゃないわ、あんたが傍を離れると、何をやらかすかわからないからよ」

 

 半分本心で言っているが、もう半分は違い、何か別の意味があるらしい。 それが何なのかはカルナも良くわかっていない。

 

 白蓮達がいなくなって一安心すると思いきや、次にカルナは霊夢でも魔理沙でもない者に対して言葉を言い放った。

 

「さて、そこにいるのは誰だ? 隠れてないで颯爽に姿を現せ」

 

「あら、お見通しという訳ね」

 

 異空間から突然姿を現したのは妖しい金髪の美女だった。

 

 腰まで伸ばした金髪、頭には赤いリボンが巻かれた白いドアノブカバーのようなナイトキャップを被っている。衣服は紫と白色を基準とした八卦の萃と太極図を描いたような中華風の服を着ている。

 

 金髪の美女を見るや否や、霊夢はまた絶望したような表情を浮かべて落ち込んでいた。

 

「まったく次から次へと、今日は厄日だわ」

 

「どうも初めまして施しの英雄カルナ、私の名前は八雲紫」

 

 聞いたことある名前だった。 それも無理はない、以前守矢神社に出向いた時、八坂神奈子から聞いた名なのだから。

 

「お前が八坂神奈子が言ってた妖怪か、聞いたところ神々が住まう世界に帰る方法を知ってる唯一の人物と耳にしている」

 

「知ってるわよ、貴方を元にいた世界に帰す方法」

 

 しかし、カルナは喜びを表情に出すことはなく、代わりに驚き喜んでいたのは傍にいた魔理沙だった。

 

「本当か紫!? 良かったなカルナ、これで帰る方法が見つかるぜ」

 

「今すぐ案内するわ、こちらへ来なさい」

 

 普通なら喜んで八雲紫の元へやって来るだろう。だが何かを感じ取っていたのか、カルナは立ち止まっているだけで、八雲紫に近づくことはなかった。

 

「あぁ、それが真実ならば願っても無いことだろう。 だが虚言を吐いてまで、オレを招き入れようとするのは何が目的だ?」

 

 カルナに嘘を見抜かれた途端、八雲紫から笑顔が消え去り、冷徹な視線でカルナを見つめてきた。

 

「貴方、さとり妖怪並みに厄介ね。」

 

「なるほど、それが本性か」

 

「えぇ、特にその黄金の鎧って言ってたかしら? 私の能力を拒む物は」

 

 物腰柔らかな態度から冷徹な態度へと豹変した八雲紫に驚くことも臆することもなく、平然と真っ直ぐな視線を向けるカルナ、流石はインドの大英雄と言ったところか、肝が座っている。

 

「まあ良いわ、幻想郷は全てを受け入れる。 貴方がこの世界に訪れたことを歓迎しましょう。」

 

「感謝する。」

 

「ただし下手に力を使わないことね。 もし幻想郷を破滅に導くものなら、幻想郷全てが貴方の敵になるわよ」

 

「心得よう」

 

「まぁ……とは言ってみたけど、考えてみれば、貴方を殺せる者なんて、三界のどこにもいないわよね」

 

 恐らく八雲紫はカルナの力を本気で認め、評価しているのだろう。 少なくとも今の言葉に嘘はない事ははっきりとわかっている。

 

 叙事詩『マハーバーラタ』で、カルナは幾度の敗戦や敗走はしても、決して死ぬことはなく、それがカルナの最大の強みとも言える。

 

「じゃあねカルナさん、お互い仲良くしましょ」

 

 そう言うと八雲紫は手をゆっくりと振りながら異空間へと入り込み、その場から姿を消し去った。

 

「ひぇ~怖かった。まさか紫があんな目付きで睨むなんて、初めて見たぜ」

 

 不穏な空気から解放されて、周りから緊張感が一気に無くなると、安心して胸を撫で下ろす魔理沙。

 

「それにしても、あんた随分と力を買われているそうね、あいつがあんなこと言うの初めて聞いたわ」

 

「それは過剰評価のし過ぎだ。 生前の頃、オレに勝る英雄は数多いたからな」

 

 パーンダヴァ五兄弟を始め、宿敵アルジュナの友であるクリシュナ、バラモン最強の戦士であり戦友のアッシュヴァッターマンなど、どの英雄も負けず劣らず、オレに勝る能力を持っている強者達だ。

 

 それを聞くや否や、霊夢は恐ろしげな表情を浮かべて、ゾッとしたのか鳥肌を立たせていた。

 

「あんたみたいな奴が沢山いる世界なんて、想像するだけでゾッとするわ。」

 

 後に聞いた話だが、このとき霊夢は現在修行をしている神降ろしを本気で止めようかどうか考えていたらしい。 理由は勿論、カルナのようなインド系列の神を万が一でも下ろさないためである。

 

「なぁなぁ、どんな英雄がいたんだ? すっげぇー気になるから詳しく聞かせてくれよ」

 

「魔理沙が知りたいのであれば話そう、つまらないかもしれないがな」

 

 聞き手である魔理沙は終始目を輝かせながらカルナの生前に出会った人物の他にも、クルクシェートラ戦争などの話を聞いていた。

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