神降ろしをしたら、施しの英雄が降りてきた。   作:黒い小説家

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大英雄への質問

「という話だ。みんなわかったかな?」

 

 簡潔とは言え、大長編であるマハーバーラタの音読を終えて、慧音先生は子供たちに対してわかったかどうか聞いてみる。

 

「そーなのかー」

 

「さっぱりわからなかったけど、白い頭が負けていい気味だったわ。あたいだったらアルジュナを一瞬で氷漬けにしてやるのに」

 

 カルナを侮辱し、物語の主人公であり、極めて優秀な武芸の腕前を持ち、神々から様々な武器を与えられたアルジュナにさえ喧嘩を売ろうとするチルノ、闘ったら間違いなく弓矢で蜂の巣にされるとも知らずに。

 

 しかしカルナは怒りもしなければ、寧ろ平然としていた。

 

 もう結末を迎えて、終わった話なのだ。況してや子供の純粋な感想なのだから、潔く受け入れようと思った。

 

 だが、やはり物語として自分の生涯を聞いてみると、アルジュナほどの英雄が道義に反してまで自分を倒そうとする事に喜びを覚え、奇妙な誇りを抱く。

 

 チルノやルーミアが自分勝手に感想を述べているのに対して、一人の少女が手を上げた。

 

 髪の色は緑、左側頭部をサイドテールにまとめ、黄色いリボンをつけている。服は白のシャツに青い服を着用(これは人によって描き方が変わり、上下に分かれていたりワンピース状だったりと様々)。首からは黄色いネクタイやリボンを付けていることも多い。その背中からは虫とも鳥ともつかない縁のついた一対の羽が生えている。

 

 彼女の名は大妖精、チルノの友達である。

 

 そして、先生ではなく、カルナの方向を見て、直接質問しようとする。

 

「カルナさん。私の疑問なんですが、なぜ敵の神様に自分の命よりも大切な黄金の鎧を与えたのですか?

 もし渡してなければライバルに勝てたかもしれないのに、どうして自分の命を縮めるようなことをしたんですか?」

 

 少女の純粋な質問、そして嘘偽りのない言葉、大妖精にはカルナの行った行動がわからなかったのだ。

 

 確かにこの大妖精の言う通り、インドラ神に黄金の鎧を与えなければ死なずに済んだ。アルジュナにも勝てたかもしれない。親友ドゥリーヨダナに勝利を与えていたかもしれない。

 

 しかし、それで施しを拒み、戦いに赴くのは、父スーリヤの威光を汚すことも同然、カルナにとっての敗北に等しいからであった。

 何しろ、その為だけに生きてきた。自らを産み、育ててくれた者たちに胸を張れるように生きてきたカルナにとって、自らの命は、自分自身のものですらなかった。

 

 父スーリヤへの不敬となるが、カルナの背負う太陽の火でもなく、絶対的なスーリヤの輝きでもなく、人間が見せる不完全な魅力こそが太陽だと。

 

「オレのやるべきことだったからだ。そもそも、施しを拒絶することは、オレの信条に反することだ。それに父の威光を汚すこともできなかった。」

 

 与えることが幸せだった。それが大切であればあるほど幸せは高まる。それに与えるものとして、命を犠牲にしてでも名声を守りたかった。そして信仰していた父の威光を汚さないように。

 

 それに対して、大妖精はカルナの考えや信条、そして清々しいほどの英雄理念が理解できなかった。何も言わなくても、表情がそう言っていた。

 

「私にはカルナさんのことがわかりません。自分の命を犠牲にしてまで大切にすることがわかりません」

 

「オレにはオレの考え方がある。つまらぬことで悩むな。」

 

「はい……」

 

 言葉が足り無さすぎたのか、カルナの発言に対して大妖精は悲しそうな顔をした。まるで自分が悪いかのように。

 

 通訳するとオレには信条や道義があり、そのために行動したことに過ぎない。他人と思考や信念は違えど、優れた徳と悟りを得て、その結論として、彼は自らの潔癖さを貫く道を選んだだけだ。

 話を聞いて貰ったうえにこんなオレのつまらぬ考えのために悩むことは無い。理解することは正しいことだが、あまり根を詰めないで欲しい。

 

 という意味である。

 

 大妖精の質問を終えると、次の妖怪が静かに手を上げて質問を説いた。

 

 異形の翼、爪、羽の耳を持つ。頭部装備は帽子で羽根の飾りが付いている。

また靴にも同様の飾りがある左耳にピアスを付けている。

 ジャンパースカートは雀のようにシックな茶色だが、曲線のラインにそって蛾をイメージしたような、毒々しさを感じさせる紫のリボンが多数あしらわれている。なお、曲線部分については服の裂け目がある。

 

 ミスティア・ローレライである。

 

「もし私が施しを与えてくださいと言ったら与えてくれますか?」

 

「もしお前がバラモンだったら、オレが沐浴してる時に施しを求めるがいい。最も頼み事があれば聞いてやらんでもない」

 

 実はカルナの施しをするにはルールがある。

 

 それはカルナが毎日正午に沐浴し、父である太陽を礼拝する習慣があった。そしてそのときバラモン僧が施しを求めてきたならば、何を乞われても望みの品を贈っていた。(これは、カルナが過去に沐浴後にバラモンから布施を請われた際に何もやるものがなかったことを恥じていたためである)

 

 しかしそれでも、他者の頼みは道理さえ通っていれば大抵は断らず、それは敵対する者であっても例外ではない。

 

「誰か、他に何か聞きたいことは?」

 

 しかし他に誰も質問をしようと手を挙げる子供はいなかった。

 

 カルナに対する質問が途絶えると、慧音先生が手を叩きながらこう言った。

 

「それじゃあ今日の授業はこれまでだ。みんな家に帰るように」

 

「「「「はーい」」」」

 

 こうしてマハーバーラタの授業は終わり、数十分後に子供達は各自家に帰宅するのであった。

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