神降ろしをしたら、施しの英雄が降りてきた。 作:黒い小説家
読者の皆様、長らく御待たせして申し訳ございません(待っていない)
紅魔館へ向かうために、カルナは神速の如く凄まじい速さで空を駆け巡っていた。
カルナの飛行速度は数分後足らずで紅魔館に到着するのでは無いかと思うほどに速く、人間の肉眼では目視することすら出来ないほどのスピードだった。
昨日、空を飛んでいた時は連れに魔理沙がいたため、速度をかなり遅くしていたが、今は単独行動をしているので幾らでも速度を上げて飛行できる。
それに、カルナが凄まじい速さで移動してるのには理由がある。それは紅魔館にいる強者と一秒でも早く会いたかったからだ。
遠くからでもわかった強者の気配、闘うことはなくても、その者から得るものはあるだろう。
故に表情には出さないものも、カルナは心を踊らせていた。異国の強者との廻り合いを、それはこれ以上に無い幸運だと感じている。
《……霧の湖………》
博麗神社を飛び立ってから数分足らずで、カルナは昨日通り掛かった霧の湖に辿り着いた。
確か此処には、氷を操る妖精チルノと大妖精がいた場所だったな。
以前会った時はチルノに決闘を申し込まれ、オレも期待に答えようと森一帯を吹き飛ばすほどの攻撃をした。
しかし、その時に発生した爆風でチルノが気を失った上に、魔理沙達に止められてしまい、決闘は強制的に中止となった。
出来ることなら不戦勝ではなく、十分に闘って勝利を納めたかった。
霧の湖を空から横行していると、聞き覚えのある声が突然カルナに向かって飛んできた。
「……あっ! また性懲りもなく現れたわね白い頭っ!!」
声の聞こえてきた方向に振り返ってみると、そこにはカルナに向かって人指を差しているチルノがいた。
「また会うとは奇遇だなチルノ」
昨日、高温の爆風に当たって気を失い、大分弱っていたチルノだったが、今の元気一杯な態度を見ると、心身共に問題は無さそうだ。
「昨日は意識失って引き分けになったけど、今日こそは決着を着けさせてもらうわよ」
「良いだろう、その勝負受けて立とう」
そう言うとカルナは手に持っている槍の矛先をチルノに向け、静かに構えを取った。
それに対してチルノは周囲が凍てつく程の冷気を身に纏い、氷で剣を二本作り出すと、すぐさま剣を両手に持って戦闘態勢に入る。
「……いくぞ」
「掛かって来なさい!!」
カルナは足からジェットの如く炎を一気に噴射させると、瞬きをさせる暇も無いスピードで間合いを一気に詰める。
そして攻撃の許容範囲に入ると、カルナはチルノに向かって容赦無く槍を振るう。
それに対してチルノも両手に持っている氷の剣でカルナの槍を受け止めると、追撃させる隙を与えないよう、咄嗟に反撃をする。
だが、チルノの武器はあくまでも氷で生成された物、カルナの黄金の槍に打ち勝てるはずがなく、数回打ち合いをしただけで氷の剣は跡形もなく粉砕してしまう。
しかし。
「壊れても、また新しく作り直せば良いのよ!」
新たに氷の剣を生成すると、チルノは懲りずにカルナに向かって斬り掛かる。
武器が砕ければ即座に生成して立ち向かう、それをチルノは何度も繰り返す。 恐らく周囲に冷気がある限り、武器を無限に作りだせるのだろう。
それから何度も武器を交えるうちに、カルナは薄々気付いていたことがあった。
それは周囲の冷気とチルノの氷の剣によって、自分が手に持っている槍が少しずつ凍り付いていたのだ。
「このまま氷漬けにしてやる!!」
長期戦になれば手が凍り付くのは目に見えている。しかし、それはあくまでも素人目線での話だ。
槍や手が凍り付く寸前、カルナは燃え盛る炎を一瞬だけ身体から発生させた。当然の事ながら手や槍を覆っていた霜は溶け、周囲が熱風に包まれる。
熱風に当たった瞬間、チルノは意識が飛びそうになったが、何とか堪えて体勢を整える。
「残念だったな、お前の冷気ではオレを殺すことはできない。」
第三者から見れば、この闘いに圧倒的な差があることは素人目でもわかる。
氷精のチルノに対して、相手は太陽神の子であり、炎を自在に操るカルナ。 高熱に弱いチルノからすれば、カルナとの相性が非常に悪い。
「なによ、あたいをバカにして! もう謝っても許してやらないんだから」
怒りの表情を浮かべてチルノは、カルナの頭上よりも高く飛行すると、今までに無いほどの冷気を纏うと同時に、周囲に無数の氷の槍を生成し出した。
「これでも喰らえぇぇっ!!」
以前負けたことに余程腹を立てていたのだろう、後先考えずにチルノは無数の氷の槍をカルナに向かって絶え間無く降り注がせた。
四方八方から飛んでくる無数の氷槍、その圧倒的な数の前では避ける隙は皆無に等しく。流石のカルナも避けることができなかった。
黄金の槍でカルナは氷の槍を振り払うものの、あまりの数の多さに全て対処することができなかった。
結果、対処仕切れなかった氷の槍はカルナの身体に何百本単位で容赦なく突き刺さってしまう。
「どうだ白い頭! サイキョーのあたいを怒らせたら、こんな風に……って、あれ?」
しかし、どれだけ氷の槍を喰らっても、カルナはダメージどころか、掠り傷すら負うことはなく、チルノの攻撃がまるで通用していなかった。
「ちょっとちょっと!? あたいの攻撃を沢山受けて、なんで傷ひとつ負ってないのよ!?」
「限界の範疇を越えた攻撃、中々見事だった。 だが、オレに傷を負わせるほどの殺傷力は持ち合わせていなかったようだったな。」
カルナが身に纏っている『
光そのものが形となった存在の黄金の鎧と耳輪は物理、概念を問わず、あらゆる敵対干渉のダメージ値を十分の一にまで削減する能力を持っており、神々でさえ破壊は困難とされる。
また致命傷に近い傷も即座に回復するほどの高い自己治癒能力も持ち、体に負った多少の傷であれば戦闘を行いながらでも瞬時に完治してしまう。
「お前の攻撃はオレには効かないようだが、それでも闘いを続けるか? オレはどちらでも構わんぞ。」
「うるさーい!! あたいを甘く見るなっー!!」
もはやカルナを倒す手段がなかったのだろう。自棄になったチルノは無数の氷の槍をもう一度カルナに向かって放った。
しかし、チルノが放った氷の槍が到達する前に、カルナはその場から姿を消してしまう。
「えっ?」
「……遅いっ!」
気配に気付いた時には既に遅かった。カルナはチルノの後ろに立っており、完全に背後を取られている状態だった。
次の瞬間、チルノは突然発生した竜巻に身を包まれると、何の抵抗もできずに天高く吹き飛ばされてしまった。
竜巻が静まり、空からチルノが落下してくると、そのまま湖に落ちて大きな水飛沫を上げた。
それから水面に浮き上がってくると同時に、天を見上げるチルノに対して、カルナは槍の矛先を向ける。
「勝負あったな」
「なによ攻撃もせずに見下して、あたいをバカにしてるの? はやく一思いに止めを刺しなさいよ!」
「生憎だが不殺の約束があってな、それはできない。」
槍を納めて後ろを振り向き、チルノに背後を見せると、その場からカルナは立ち去ろうとする。
「チルノよ、未熟ながら中々の闘い振りだったぞ。 お前と打ち合えたことを心から感謝しよう。」
そう言い残すと、カルナは紅魔館に向かって飛び去って行った。
それに対し、その場に残されたチルノはぼんやりとした表情を浮かべながら空を見上げ、水面にプカプカと浮かんでいた。