神降ろしをしたら、施しの英雄が降りてきた。   作:黒い小説家

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紅魔館へ

 チルノの決闘が終わった後、カルナは難なく紅魔館の門の前まで辿り着いた。

 

 周りを観察してみると、遥か北西には昨日出向いた妖怪の山が、湖の反対側には異国の館なのか廃墟のようなものも見える。

 

 そして、湖に浮かぶ小島の少し高台になった場所に、赤いレンガ石で構成された城壁が大きな館を囲んでいる。 何よりも目に止まるのが紅い館の大きさだ。 

 

 生前カルナは紅魔館ほどの立派な建物は数えるぐらいしか見たことはなく、館と言うよりも城と思わせるほどの大きさだ。

 

 紅魔館に入るには屋敷の門を通る必要がある。歩いていると、門の前には筋肉質には見えないほっそりとした女性が立っていた。

 

 髪の色は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアー、頭には「龍」と一文字書かれている星型の飾りが付いた緑色の帽子を被っており、側頭部の髪を編み上げてリボンを付けて垂らしている。

 

 服装は華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色を主体とした衣装を着ている。目の色は青がかった灰色をしている。

 

「カルナ様ですね、お待ちしておりました。」

 

 初対面のカルナに対して深く頭を下げる中華風の少女、察するにこの紅い館の守護を任されている門番と言ったところか。

 

 それに、この門番が人間ではなく、龍の気配を持ち、強大な潜在能力を持つ人妖だということが人目でわかった。 かなりの実力者なのだろう。

 

「俺の事を知っているのか、龍の気を纏う門番よ」

 

「はい、話はお嬢様からお聞きになっております。

 申し遅れましたが、私は紅魔館の門番を任されている紅美鈴と申します。」

 

 女性らしい物腰柔らかな表情にも関わらず、美鈴という人妖は随分と固い挨拶をしてきた。侵入者を追っ払う門番という仕事柄の他にも、来訪者を出迎えるための礼儀を教えられているのだろう。凛とした態度も垣間見えている。

 

 それに、どうやら紅い館の主はオレのことを知っているらしい。この幻想郷に来てからまだ日が浅いというのに、凄まじいほどの情報力だ。

 

「どうぞお入りください、中でお嬢様がお待ちしております。」

 

「丁重な出迎え、感謝する。」

 

 門を潜るために美鈴の横を通ろうとした瞬間、カルナは自分に向けられて放たれる微かな闘志を美鈴から感じ取った。

 

 その場に立ち止まり、カルナは横目で美鈴を方を見るが、美鈴の表情や態度は一切変わっていない。

 

 だが、本質を見抜く能力があるカルナの前では嘘偽はもちろんのこと、弁明や欺瞞は無意味も同然。

 

 カルナが立ち止まった直後、美鈴は物腰柔らかな表情を崩さずに口を開くと、カルナに対してこう言った。

 

「これは私個人の願いですが、貴方とは是非とも手合わせをして頂きたいものです」

 

「あぁ……それはオレもだ。機会があれば、その時は全力で闘うとしよう」

 

 美鈴という人妖、本当なら今ここでオレを闘いたいのだろう。だが、その有り余る闘志を剥き出しにしない我慢強さと理性は素晴らしいとしか言いようがない。

 

 そう言葉を言い残すと、カルナは再び足を動かして前へと進み、紅魔館へと続く門を潜る。

 

 

 

 カルナが門を潜った途端、鈍く響く轟音と共に門が閉じてしまった。そして目の前には、見事な造形美と隅々まで手入れが整っている庭が出現した。

 

 吐息の漏れるほどに美しく整備された花壇や刈られた芝、敷地内の中央には彫刻が施された噴水まである。

 

 そして何よりも気になるのが紅魔館、敷地に見合った西洋風の造りで、門の外から見るよりも遥かに大きく広がって見える。

 

 礼儀としてカルナは扉を三度叩くと、観音開きの扉は不気味な音を立てて勝手に開き始めた。

 

 

 

❮紅魔館❯

 

 

 

 紅魔館の中へと足を踏み入れたカルナを待っていたのは星と思しき図形が描かれたエントランス。そこからは百人の子供が走り回っても、まだ十分な面積を維持出来るほどの広大な床が広がっている。

 

 全面が紅一色の絨毯で覆われていた。同じく真っ赤な壁にはタペストリー、壮年の男性や若い女性の肖像画、数十メートルはある高い天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられている。それに気のせいか、館の外観に比べて内部がかなり広く見えた。

 

 前方には上の階へと続く、手すりに羽らしき小さな装飾や球体が付けられた大きな階段。行き止まりには大きな絵が飾ってあり、そこから絨毯ごと階段が左右二手に分かれていて、どちらも二階へ通じているようだ。

 

「カルナ様お待ちしておりました、ようこそ紅魔館へ」

 

 目の前を見てみると、そこにはメイド服を着た少女が立っていた。

 

 髪型は銀髪のボブカットで、もみあげ辺りから三つ編みに結って髪の先端に緑色のリボンを付けている。

 服装は青と白を基準色としたメイド服であり、頭には白いカチューシャを装備している。

 

 服装はオレの生きていた時代には存在しなかったものだが、察するに屋敷の主の使用人と言ったところか、だが門番の美鈴とは違い、この少女は異能を除けば純粋な人間だ。

 

「お前は主の使用人か? それに他の者とは違って人間のようだが」

 

「はい、この紅魔館でメイド長を務めさせて頂いている十六夜咲夜と申します。」

 

 門番の美鈴もそうだったが、流石は主の使用人と言ったところか、来訪者を出迎えるための礼儀作法に無駄はなく、一つ一つの動きが洗練されている。

 

 それに礼儀以外にも、戦いの腕も方も相当手慣れていると見える。

 

「メイドの主任が出迎えとは、随分と手厚い歓迎だな」

 

「はい、カルナ様は大切なお客様、失礼の無いよう最高のおもてなしをするようにと、お嬢様から申し付けられております」

 

 どうやら館の主は見ず知らずのオレを高く評価してくれているようだ。 それだけでも幸福なのに、最高の出迎えまでしてくれるとは、感謝の念が堪えない。

 

「早速ですが、お嬢様がお待ちになっているお部屋までご案内します。」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 主の部屋の案内のために十六夜咲夜が歩き出すと、カルナも黙々とその後ろを着いていった。

 

 ようやく出会う紅い館の主、果たして一体どんな人物なのか、このときのカルナはまだ知る由もなかった。

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