神降ろしをしたら、施しの英雄が降りてきた。   作:黒い小説家

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レミリア・スカーレット

………コンコン、ガチャ

 

「お嬢様、カルナ様をお連れしました。」

 

 静かに扉を開けると、従者である咲夜は自分が部屋に入る前に頭を下げ、カルナを部屋に招き入れた。

 

 部屋に入ってみると、やはり此処の部屋も隙間なく紅一色で統一されていた。

 

 天井から吊り下げられた立派なシャンデリア、壁には乾燥したドライフラワーの花束や肖像画が飾られていて、床には満面なく敷かれた紅いカーペットの上に高そうな天蓋ベッドや大きなテーブルと二つの椅子、本棚などの家具が置かれいる。

 

 そして部屋を見渡してみると、カルナが確認したのは、人間で言えば10歳にも満たない幼い少女が椅子に座っている姿だった。

 

 青みがかった銀髪に真紅の瞳、頭にはピンクのナイトキャップを被っていて、ナイトキャップの周囲は赤いリボンで締めている。

 衣服は帽子に倣ったピンク色、太い赤い線が入りレースがついた襟に三角形に並んだ三つの赤い点、両袖は短くふっくらと膨らんでおり、袖口には赤いリボンを蝶々で結んでいる。

 腰のところに赤い紐で結んでおり、その紐はそのまま後ろに行き先端が広がって体の脇から覗かせている。

 スカートは踝辺りまで届く長さでこれにもやはり赤い紐が通っている。

 また背中を見てみると大きな悪魔のような翼が生えており、パッと見て悪魔か吸血鬼を連想させる。

 

 カルナが自室に来たことに気がつくと、レミリアは椅子から立ち上がり、カルナに向かって上品にお辞儀をしながら挨拶する。

 

「初めまして不死身の英雄カルナ。私はこの紅魔館の主にして吸血鬼、レミリア・スカーレット」

 

「お前が当主か、館へ招いてくれたこと、心から感謝する。」

 

 自分に対して挨拶してきたレミリアに対し、カルナも感謝の念を込めてレミリアに向かって頭を下げながら礼を言った。

 

 見た目は幼子のようだが、それとは裏腹にとてつもない力を持っている。 流石はこの紅い屋敷を治める当主の力量と言ったところか。

 

「どうぞカルナ様、こちらへお座りください。」

 

「すまない。」

 

 従者の咲夜に手招きされて椅子に座るカルナ、テーブルの上を見てみれば入れたての紅茶や菓子などがカルナと主のレミリアの前に用意されている。

 

「レミリアと言ったな、お前はオレのこと良く知っているようだが」

 

「えぇ、本で大体調べたからね、貴方の壮絶な人生にはとても感動を覚えたわ」

 

 オレが来るのを待っている間に読んでいたと思われる本がテーブルの上に置かれている。 文字は読めないのでタイトルがわからないが、とても分厚い本のようだ。

 

「でもおかしいわ、貴方は弓の名手よね? どうして弓じゃなくて槍を持っているのかしら?」

 

「これは名残で使ってるだけだ。 無論、弓も持ち合わせてはいるがな」

 

「それじゃあ貴方が持っているその黄金の槍こそが、もしかして神槍シャクティ?」

 

「いや、これは単なる槍だ。 神槍は別にある。」

 

 質問に対して無愛想に答えだけを述べるカルナ、話し相手であるレミリアはカルナに対して好意的な印象を持つことができなかった。

 

 だがカルナ本人に悪気は微塵もなく、口数が少なく無愛想に話すのは、単純にコミュニケーションが苦手だからである。

 

「ところで、お前は何故にオレを招き入れた? 何か目的でもあるのか?」

 

「興味があったのよ、貴方自身に、そして貴方の壮絶な強さに」

 

 このとき、今の発言によってカルナはレミリアの目的を確信した。

 

 何かを悟ったような表情で何も言わず黙り続けるカルナに対して、レミリアは相手のことをお構い無しに話を続ける。

 

「どうかしら、この場で構わないから私と闘ってみない?」

 

「なるほど、やはりオレを屋敷に招いたのはそのためか」

 

 レミリアを一目見た瞬間、薄々闘志のような気配を感じてはいた。 恐らくはオレに対する好奇心から来るものなのだろう。

 

「えぇその通りよ、貴方の強さを是非この身で確かめてみたいの」

 

「残念だが、それは無理な事だ。」

 

 あくまでもオレは屋敷に招待された身、決して闘うために此処に来たわけではない。 それにもし闘って問題を起こせば、また霊夢に迷惑が掛かってしまう。

 

 そんなカルナの無関心な態度と一事足りない発言が相まって誤解してしまったのだろう。レミリアの表情は一気に険しくなり、妖気と闘志が高まっていく。

 

「随分と嘗められたものね、私じゃ闘いの相手にすらならないと言いたいのかしら?」

 

「何故にそこまで怒りを覚える? オレはお前と闘う意味がないと言ってるだけなのだが」

 

「なら闘う理由を作ってあげるわ、後悔しても知らないわよ」

 

 椅子から腰を上げた瞬間、その場でレミリアは高濃度の妖気で自分の身の丈よりも大きな紅い槍を作り出すと、その紅い槍でカルナの胸元を容赦無く突き刺した。

 

………が、しかし。

 

「なんですって!?」

 

 不意に突いたレミリアの紅槍はカルナの身体を貫くどころか、何か見えない鎧のような物で紅槍を防がれており、掠り傷すら付けることができなかった。

 

 レミリアの攻撃を期に、カルナも槍を片手に立ち上がると、すぐさま紅槍を振り払って、レミリアに対して矛先を向けた。

 

「闘う気はなかったが、お前がその気であれば仕方ない。受けて立とう。」

 

「咲夜はこの場から去りなさい。 巻き添えを食らうわよ」

 

 レミリアにそう言われると、咲夜は主に対して軽く頭を下げてから、この部屋から突然姿を消した。

 

「ほう、時間を止めての移動か」

 

「そんな余所見なんてして良いかしら?」

 

 隙を突いてレミリアは、カルナの首を目掛けて紅槍を横に薙ぎ払った。

 

 だが、自分に振り掛かってくる紅槍をカルナは手に持ってた黄金の槍で簡単に受け止めてしまう。

 

「余所見してすまない。 つい珍しくてな」

 

 紅槍共にレミリアを薙ぎ払い、間合いを開かせる。

 

「そんな無駄口、聞きたくもないわ」

 

 しかし、休む暇も油断する暇も与えないと、怒りに満ちたレミリアはカルナとの間合いを直ぐ様詰めて攻撃を仕掛けてくる。

 

 目にも止まらぬ閃光のようなレミリアの攻撃をカルナは防ぐ度に、槍と槍がぶつかり合うことで周囲に真っ赤な火花が飛び散る。

 

 両者一歩も引かずに繰り広げる激しい攻防、あまりにも強大なぶつかり合いに周囲の家具や壁にヒビが入る。

 

 一見、互角のような戦いをしているようにみえるが、実はカルナの方が圧されており、レミリアの方が攻撃する手数が圧倒的に多かった。

 

「………ッ!!」

 

 次第にカルナは襲い掛かってくる無数の攻撃を全て防ぐことができなくなり、身体に攻撃を浴びるように受けてしまった。

 

 そしてレミリアは突き、斬撃、薙ぎ払い、妖気の弾幕、考え付くありとあらゆる攻撃の手段を使って、カルナにダメージを与えようとした。

 

だが……カルナは無傷

 

 どんなにレミリアが攻撃を命中させようとも、カルナの身体に傷を負わすことはできなかった。

 

 これでは切りがないとレミリアは思ったのだろう、攻撃の嵐が収まると同時に、両者間合いを開けてインターバルを置いた。

 

 このとき、カルナが涼しげな表情を浮かべているのに対して、一方的に攻撃を仕掛けていたレミリアは少し呼吸を乱していた。

 

 百を遥かに越える強烈な攻撃を浴びさせても尚、何故に自分の攻撃がカルナに通用しないのか、レミリアは事前に得てた知識で薄々気づいていた。

 

「なるほど、それが黄金の鎧なのね。」

 

「ならばどうする? 潔く降参するか?」

 

 そうしてくれるのであれば、こちらとしても有り難いことなのだが。

 

「冗談じゃないわ、貴方が全力を出すまで諦めないわよ」

 

「闘いを続行するのであれば、オレは別に構わない。だが、お前のその願いは叶わぬ願いだ。」

 

 オレは誰かを殺したりしてはいけない。幻想郷を破壊してはいけないと霊夢や魔理沙と約束している。 これは決して破ってはいけない制約だ。

 

 『勝利』を意味する神弓『ヴィジャヤ』はもちろん、『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』や『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』を使えば紅魔館どころか、周辺の地形が跡形もなく吹き飛ぶだろう。

 

 況してや絶対的破壊の一撃を放つ神槍『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』など、発現させただけで幻想郷が崩壊することは目に見えている。

 

 故に、オレは闘うことはできても、神器や奥義などを使って全力で闘うことはできない。 オレを喚んだ霊夢が制約を全て撤回し、全力で闘い、無差別に殺せと言うのであれば別だが、そんなことは天地がひっくり返っても起こらないだろう。

 

 しかし、そんなカルナの事情を知らないレミリアからしてみれば、ただ単純に戦いに手を抜かれてるうえに、自分を嘗めているようにしか感じられない。

 

 例え相手が不死身の英雄であり神とはいえども、格下と見られている以上、それは吸血鬼としてのプライドが許すはずがない。

 

「どこまで私を侮辱する気なのかしら?」

 

「すまない、そんなつもりはないのだが」

 

「貴方のその態度もムカつくけど、何よりも闘う気力がまったく感じないのよ、それに相当な手加減もしている。」

 

「オレの態度と闘い方に不快感を与えてしまったのなら、それは謝罪しよう。

 しかし実を言うと霊夢との制約があってな、オレは誰かを殺めたり、この世界を破壊してはいけないと言う約束を結んでいるのだ。」

 

 それを聞いた瞬間、今までカルナが闘う気を持たず、手加減をしていた理由がわかったのだろう。 レミリアは戦闘態勢を解除する。

 

「へぇ…なるほど、貴方に殺気や闘う気がないのは霊夢との約束があったからなのね。

 だけど、その約束は自分の命が危険に晒されても、守り続けるのかしら?」

 

「無論だ。 霊夢が撤回しない限り、例えどんな事があろうとも、オレは霊夢との約束を守り続けよう。

 そもそも、約束によってオレが死ぬなんて事があれば、それはオレに圧倒的な非がある。」

 

 全く平然とした表情でカルナは返答した。 言葉から滲み出るほどに伝わってくる絶大なる自信。そして、清々し過ぎるほどの英雄理念。

 

 カルナの今の発言に納得し心を打たれたのか、レミリアは武器であった紅槍を手放すと、満面な笑顔を浮かべながら大いに笑った。

 

「なるほど、貴方とても気に入ったわ。」

 

「急に笑ってどうした? 闘う気を失ったのか?」

 

「えぇ、闘いはもう止めにしましょう、貴方の理念に免じて私の負けで良いわ」

 

 子供のように笑うレミリア、もはや殺気どころか闘う気力さえ感じない。

 

 闘いを終えて周囲を見渡してみれば、今の戦いで家具や壁などが所々壊れてしまったようだ。 この現場を見た霊夢がどれだけ怒るのか、想像もつかない。

 

「部屋を荒らしたこと、深く詫びをする。」

 

「良いのよ気にしなくて、物が壊れたぐらい私にはどうってこともないわ」

 

 当主のレミリアは実に寛大な器の持ち主のようだな。 オレの誤った態度と発言で招いた戦いだと言うのに、レミリアはオレが家具や部屋を壊したことを一切咎めようともしない。

 

「また遊びに来なさいカルナ、それと、霊夢との制約がなくなって戦うことになった時、今度はお互い手加減なんてしないで全力で戦いましょう」

 

「なるほど、つまり今回は手加減してくれてたのか。その配慮に深く感謝しよう」

 

「なんというか……貴方、ちょっとずれているとか言われない?」

 

「………?」

 

「まぁ、良いわ。 今日は館に来てくれてありがとう。 とても楽しかったわ」

 

「用件があれば何時でも呼んでくれ、お前の頼みとあらば快く受け入れよう。無論、制約に引っ掛からない事であればの話だが」

 

「はいはいわかっているわよ、貴方は本当に律儀ね……尊敬しちゃうくらいよ」

 

 その後の事はあっという間で、このとき既に長居は無用だとカルナは思ったのだろう。 レミリアや咲夜などに見送られながら、カルナは紅魔館から去った。

 

 色々と揉め事はあったものの、カルナは博麗神社へ無事に帰ることができた。

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