もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第九話『受け継がれる覇王と旅立ちの時』

ハジメがユエに食べられ、ハジメもまたそんなユエを受け入れ始めてから約二ヵ月が経った。

 

「この二ヵ月は拷問の日々でした」

 

そう言ってリビングの窓から遠くを見る忍の眼は…完全に死んでいた。

 

「おい、いつまでも黄昏てんじゃねぇよ」

 

そんな忍にハジメが声を掛けるものの…

 

「うるせぇ! この変態紳士(リア充)め!!」

 

「だから、絶対になんかおかしいだろ!?」

 

「気のせいだ!!」

 

そう言い張る忍は断固としてこの呼び方を変えないだろう。

 

それくらい…ハジメとユエはイチャイチャしてたのだ。

そう…忍が一時期リビングに"も"居られないくらいに…それはもう甘ったるい空間がただただ広がって苦痛しかなかったのだ。

そんな忍は決まって外に出て魔物を(文字通り)狩り尽くしていた。

いくら一定時間経てば戻るとは言え、その数は尋常でなかった。

逆に階層を登っていく勢いすらあった。

それくらい独り身には耐え難い空間がそこには広がっていたのだ…。

その気持ちは推して知るべし…。

 

まぁ、それはともかくとして、実際イチャイチャしていてもその他のことを疎かにしているハジメではなかった。

ちゃんと装備の充実にも努めていた。

 

その内の一つでもあるオスカーの遺したアーティファクトの中にあった義手に自分なりのアレンジを加えて左腕を疑似的にだが復活させてもいた。

その他、数々の現代兵器…的な武装やら装備やらを造り出しており、ヒュドラ戦の折に失った右目を神結晶を『魔眼石』という代物に生成魔法で加工し、義手にも使われていた疑似神経の仕組みを取り入れていることで右目に移植している。

ただ、神結晶を使っているので薄ぼんやりと青白い光を放っており、それを隠すために薄い黒布で作った眼帯を着けることとなった。

 

白髪、義手、眼帯とハジメはちょっと元の世界基準で言うかなり痛々しい厨二姿となったのだった。

その姿を鏡で見たハジメは膝から崩れ落ちて四つん這いになって絶望し、丸一日は寝込む事態となったが…多くは語るまい。

いくらオタクとは言え、久方振りに見た自分が、いつの間にか厨二キャラになっていたのだ…。

その絶望も推して知るべし…。

 

この二ヵ月で違う意味での絶望を互いに味わったハジメと忍はその友情度を深めた(?)のだった。

 

「で、そっちの慣らしは大丈夫なのか?」

 

「そこは問題ない。伊達に魔物を狩り尽くしてた訳じゃないからな」

 

そう言って暗い表情のまま笑う忍はどこか哀愁が漂っている気もしないでもない。

 

ハジメの行った装備の充実には忍やユエの装備も含まれていた。

いつまでも武器無しというのは忍的にも嫌だったのでハジメと同じく二挺拳銃と近接用の刀二振りを所望していたのだ。

 

但し、普通の銃ではない。

そこは忍の趣味全開の要望を取り入れた専用の拳銃だ。

まず、銃身が縦に連なり、それを重厚なフレームで覆っている。

この時点でかなり特異な構造をしているのがわかる。

上部の銃身はリボルバー式(6発仕様)、下部の銃身にはマガジン式(6発仕様)とそれぞれ対応しており、撃鉄も特別製で上下同時に炸裂させるように対応して同時に打ち付ける様に改造されている。

こうすることで同時に弾丸を放ちつつも特殊な撃鉄の関係から微妙な時間差を生み、その時間差で同じ部位を狙うことで一発目で硬い外殻に傷を付け、二発目で傷付いた外殻に間髪入れず着弾することで貫通力を高めている。

グリップ部とトリガー部は忍の手にフィットするように微調整が為されており、ハジメと同じく纏雷を持つ忍にもレールガン仕様に出来るギミックを施していた。

その他、全体のフレームに金剛を付与して全体強度を上げたりもしているので滅多なことでは破損しないようになっているし、物が物だけに暴発しない強度にも仕上げている。

上部のリボルバーはドンナーと同じくスイングアウト式であるが、右手に持つ方は通常通り左に外れるのだが、左に持つ方は右側に外れるようになっている。

また、下部の銃身の薬莢排出口は外側に向けており、弾丸発射後に銃身後部の一部がスライドして空薬莢を排出する機構になっている。

但し、弾倉は基本的にハジメに用意してもらう必要があり、ハジメも拳銃を使う都合上、ドンナーと同じような口径にして互換性を持たせている。

名を『アドバンスド・フューラーR/L』と呼称し、右手用のRは白銀、左手用のLは漆黒とそれぞれ塗装している。

 

だが、総じて癖があまりにも強く扱いが難しくなり、たったの二ヵ月ではものにするのが困難だとハジメも思っていた。

しかし、忍は連日の魔物狩り尽くし(憂さ晴らしとも言う)で完璧に使いこなせるようになっていた。

流石はハジメに無理を言いつつも自分が如何にハブられているかを自虐交じりに言って作らせただけはある。

しかも弾丸の原料である鉱石類もちゃんと確保してきたからのだからハジメも無碍には出来なかった。

ただ、忍はハジメのように空中リロードは習得していない。

何故なら忍の本領はあくまでも近接格闘であり、ガン=カタは完全に趣味の域なのであるが、それでもハジメとの組み手や魔物の狩り尽くしで実戦レベルには昇華している。

 

そして、忍のもう一つの主武装は二刀の刀である。

ハジメはあまり刀に造詣が深くないので、なんちゃってと付くが…それでも刀を二振り用意してくれた。

錬成で硬い鉱物を凝縮し、それらしい刀身を作って生成魔法で金剛を付与しておき、刃は忍の要望で片刃にしている。

片方は切れ味を、もう片方は硬度を重視して作られている。

他はこれといた機能はないが、鉱物の中にはシュタル鉱石も含まれているので忍の魔力に反応して属性を付加して振るえるようにもなっている。

切れ味重視の白銀の刀身とこれまた白銀の鞘と柄を持った刀を『銀狼(ぎんろう)』、硬度重視の漆黒の刀身とこれまた漆黒の鞘と柄を持った刀を『黒狼(こくろう)』と命名した忍は満足そうであった。

 

こちらの刀に関しては問題なく扱えているので特に修練することもなかったのだが、忍の中の血が騒いで最終的には我流の二刀流術として実戦で鍛え上げてきた。

 

ちなみにハジメは神結晶を使ったアクセサリー一式をユエにプレゼントしている。

魔力枯渇を防ぐためだ。

 

ただ…

 

「……プロポーズ?」

 

「なんでやねん」

 

という感じにユエとハジメのイチャつきが始まり、忍が『俺、空気だなぁ』とわりとガチで凹んでいたりもする。

 

 

 

また、それとは別に…

 

「で、答えは出たのか?」

 

オスカーの遺体が持っていた白銀の宝玉を片手に持ったハジメが忍に尋ねる。

場所は住居の玄関先である。

 

「あぁ。正直、アンタらのせいで考えるための時間もなかなか取れなかった気もするが…」

 

「………………」

 

忍の言葉にサッと目を逸らすハジメ。

 

「それはそれとして……俺はそいつを受け入れようかと思ってる」

 

いつになく真剣な表情で忍は宝玉を見る。

 

「能力に目が眩んだ、とかじゃねぇよな?」

 

「あぁ。覇王と呼ばれる獣の能力だ。きっと生半可な代物じゃないのはわかってるし、恐らく俺が触れた瞬間に宝玉は俺の中に溶け込む。そんな予感があるのも確かだ」

 

「………………」

 

ハジメは黙って続きを促す。

 

「知らない内に覇王の魂とやらを継いだみたいだが、正直俺にはそこまでこの世界に対する感情は起きなかった。それはあの狂った神の話を聞いた時も同じだ。でもな…かつての解放者達…特に覇王達と契約した7人が遺してくれた覇王の能力だ。それをあっさり捨てちまうのも…なんか違うだろ?」

 

「だから、能力を手に入れたいと?」

 

「いや…俺は知りたいんだよ。俺の内にあるだろう覇王の魂達…それがどんな気持ちで戦い、解放者と契約し、どんな想いで能力を遺すことにしたのか…」

 

それを聞き…

 

「この世界に骨を埋める気か?」

 

ハジメは忍にそう問うた。

ドンナーの銃口を宝玉に当てながら…。

 

「まさか…俺だって地球に帰りたい。俺の、家族の元に…」

 

「………………」

 

「だからこそ、俺は覇王の能力を集める。親友が神代魔法に可能性を見出したように、俺も覇王の力に可能性を見出してるんだよ。おそらく、俺には覇王達の魂が"全て"揃っているだろうからな」

 

「その根拠は?」

 

「俺の固有技能は『七星覇王』…何らかの七つの星に関係した覇王。狂った神が召喚されたのか、それとも別の意味があるのかは今んとこわからない。でも、七つだ。解放者も大迷宮も、おそらくは神代魔法も七つ。とくれば自ずと答えは出てくる」

 

確かに七大迷宮とも呼ばれていて、その最深部には解放者達の試練と神代魔法がある。

そして、それぞれの最深部にはそれぞれの解放者が契約した覇王の宝玉もあるだろう。

これを偶然で片付けるには…少し無理がある。

 

「まぁ、全てを揃えたからって流石に世界の隔たりを超えることは無理かもだが…それでも何かしらの役には立つはずだ。そういう訳で、俺はかつての覇王の力を求めることにしたんだ」

 

そう言ってニカッと笑う忍だが、その眼は真剣であった。

 

「…………わかった。お前のことは信用してる。だから、半端な覚悟だったらこれを何かの素材にしてやるつもりだったが…」

 

「おいおい…」

 

ハジメの言葉を聞いて忍は流石に引き攣った笑みを浮かべる。

 

「その覚悟があるなら、後は好きにしろ」

 

そう言ってハジメは宝玉を忍に放り投げる。

 

「ありがとよ、親友」

 

忍がハジメに礼を言って宝玉をキャッチした瞬間…

 

カッ!!

 

白銀の光が忍を包み込んだ。

 

「忍…!」

 

ハジメの声が虚しく響く。

 

………

……

 

「………………」

 

眼を開けた忍は周囲を見ると、白銀の空間が広がっており…

 

『………………』

 

目の前には黒の混ざった白銀の毛並みに右は琥珀、左は真紅の瞳を持つ巨躯の狼が佇んでいた。

その毛並みと瞳はどことなく今の忍の髪と瞳に似てなくもない。

 

「覇王…」

 

その高潔にして孤高の存在感を前に忍が呟く。

 

『我が覇王の魂を継ぐ者よ』

 

すると狼が語りかけてくる。

 

『我が名は覇の道を往く狼、"覇狼"。汝、己の心に従い、覇道を歩め。そして、立ち塞がる敵を噛み砕け。それが例え神だとしても…。何度倒れようとも己の意志を貫き、何度でも立ち上がり、目の前の敵を噛み砕き続けろ。それが汝の魂にも刻まれた覇王の性質であると知れ。我等が成し得なかった神を屠り、己の道を往け』

 

まるでオスカーの時のように記録映像でも見せられているかのように語る覇狼。

 

「………………」

 

『汝に我が力を継承する。受け取るがいい。神へ反逆する新たな覇王よ』

 

そんな覇狼の言葉を黙って聞いていた忍だが…

 

「俺は…別に神に反逆するつもりなんてないんだが…ま、もし目の前に神だのなんだの現れて俺達の邪魔するんなら…倒して進むだけさ」

 

そんな風に答えていた。

それが覇狼に伝わったかどうかはともかく…。

 

「反逆者を、そして覇王を継ぐ者として、俺は俺の道を往くさ。その過程で神殺しイベントが発生したら…ま、要望通り噛み砕いてやるよ。アンタらが安らかに眠れるようにな」

 

そんなことを言ったと同時に…

 

『ウォオオオオオオオン!!』

 

覇狼は雄叫びを上げ、ゆっくりと忍の中へと入っていった。

 

それと同時に忍の視界も静かにシャットアウトするのだった。

 

………

……

 

「………………」

 

バッと目を見開いてむくりと起き上がった忍は、リビングのソファにいた。

 

「よぉ、忍。起きたか?」

 

そこにちょうどタイミングよくユエを連れたハジメがやってきた。

 

「どれくらい寝てた?」

 

「一時間ちょいだな。それで? 宝玉から得た能力は?」

 

「神代魔法と似たようなもんだな。頭の中に直接刷り込まれたみたいな感じだ。具体的な能力は…ふむ」

 

「どうした?」

 

「いや、ここの覇王の能力は速度を司ってるみたいだな。ついでに属性適性やら魔法適性なんかもプラスされた感じか。うん、悪くない」

 

改めて宝玉から得た力を感覚的に探り、忍は不敵な笑みを浮かべる。

 

「固有魔法、もしくは固有技能的なのはどうだ?」

 

「そっちは…元々あった方とは別に習得してる感じか。派生というよりも技能追加みたいなものだな」

 

「そうか」

 

覇王の能力とは、どのようなものか気になっていたハジメは忍の答えに少し微妙な表情をする。

 

ちなみに覇王の能力を手にした現在の忍のステータスだが…

 

-----

 

レベル:???

天職:反逆者

筋力:12750 [+最大56700]

体力:15400 [+最大59350]

耐性:11650 [+最大55600]

敏捷:17450 [+最大61400]

魔力:14650

魔耐:14650

技能:七星覇王[+覇気][+覇王解放Ⅰ]・覇狼[+嗅覚強化][+神速][+瞬煌]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+身体強化][+部分強化][+集中強化][+変換効率上昇Ⅲ]・胃酸強化・風爪[+五爪][+飛爪]・天歩[+空力][+縮地][+爆縮地][+重縮地][+残像][+豪脚]・纏雷[+出力増大]・夜目・遠見・気配察知[+心眼]・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・全属性耐性・金剛[+部分強化][+集中強化]・念話・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力][+速度]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇][+雷属性]・限界突破・生成魔法・言語理解

 

-----

 

ハジメのステータスも大概だが、忍のステータスもかなりぶっ飛んでいる。

魔力と魔耐は若干ハジメの方が上なのだが、その他のステータスは忍が群を抜いている。

通常時でさえこんななのに身体強化や覇王の能力を加味するととんでもない性能になってしまう。

さらにはハジメ作のアーティファクトを譲り受けている点でもかなりぶっ飛んだことになってしまっている。

 

単純なステータス勝負なら忍に軍配が上がるだろうが、ことアーティファクトなどを駆使した戦闘となるとハジメに軍配が上がるという事態になっている。

ただでさえアドバンスド・フューラーR/Lは弾丸供給手段が現状ハジメに頼る他ないし、銀狼と黒狼だけで銃弾の雨霰を防ぎきるのも難しい。

そういう意味では忍はハジメに頭が上がらない状態とも言えるのだが、その関係性は前と同じく友人…いや、理解者であり親友としての側面もあった。

だからこそハジメも忍の要望には応えてきたし、忍も親友のために素材集めをしてきた(決して側にいるのが苦痛だったからとかではない……多分)。

 

そうして忍の覇王の能力の把握に十日を使いつつも、遂に地上へと出ることにした。

 

「遂にこの穴蔵ともおさらばか」

 

「そうだな…」

 

三階の魔法陣を起動させながらハジメも感慨深いような呟きをする。

 

「ユエ、忍。わかってるとは思うが、俺の作った武器や俺達の力は地上に出れば異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

「ま、当然だわな」

 

「……ん」

 

最終確認をするかのようなハジメの言葉に忍もユエも頷く。

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

「そうだな~」

 

「……ん」

 

「教会や国だけならまだしも、バックにいる神を自称する狂人共も敵対するかもしれない」

 

「面倒なことこの上ない」

 

「……ん」

 

「世界を敵に回すかもしれないヤバい旅だ。命がいくつあっても足りないかもな」

 

「そんなん今更じゃね?」

 

「……ん、確かに今更」

 

ハジメの言葉に忍とユエは可笑しそうに笑う。

 

「今の俺達ならどんな障害だろうと捩じ伏せられる。それだけの準備はしてきた。あとは残りの大迷宮を攻略し、世界を超えて、地球に帰るだけだ」

 

「あぁ!」

 

「んっ!」

 

ハジメの言葉に忍もユエも力強く頷く。

 

そして、3人は魔法陣の中へと歩いていき…

 

カッ!!

 

目映い光に包まれて地上へと向かうのだった。

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