もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第十話『ウサギの事情』

魔法陣の光が収まり、3人の視界が回復していく。

 

そこには地上の光景が……なかった。

 

「なんでやねん」

 

ハジメの呟きが"洞窟"内に反響する。

 

「……秘密の通路。隠すのが普通」

 

「……だよなぁ…」

 

呆れた口調でユエが呟くと、忍ががっくりした様子で"生お天道様はまだまだ先か"と愚痴を零していた。

 

「あ、あぁ…そうか。そうだよな…反逆者の住処への直通の道が隠されてないわけがないよな…うん…」

 

若干顔が赤くなったハジメがその事実に軽く頷いていた。

まさか、地上に出れるから少し浮かれていた、とは言えないハジメだった。

 

「……ハジメ、可愛い」

 

そんなハジメを見てユエがクスリと笑みを零す。

ユエの追撃にカーッとまた顔を熱くなるのを感じつつもハジメは外に向かって洞窟を歩いていく。

そんなハジメの後をユエと忍が追従していく。

 

3人とも暗闇を問題としないのでサクサク進む。

途中、いくつかの封印や罠があったものの、ハジメが所有するオルクスの指輪(大迷宮の攻略の証みたいなもん)が反応して勝手に解除されていく。

3人とも警戒はしていたのだが、特に何事もなく洞窟を進んでいった。

 

そして…

 

「お? なんか久方振りに見るような光が見えてきたな」

 

外に通じる出口を見つけた忍がそう言うと…

 

「「……………」」

 

ハジメとユエが無言のまま駆け出す。

ハジメと忍にとっては数ヶ月、しかしユエにとっては三百年以来となる本物の日の光である。

どうして止められようか?

それをわかっているように忍は後ろからゆっくりとした歩調で2人を追う。

 

そうして先に洞窟の外に出た2人は…

 

「……戻って、きたんだな……」

 

「……んっ」

 

感極まったかのように…

 

「よっしゃあああああ! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおお!!」

 

「んっーーー!!」

 

ハジメがユエを抱き締めてその場でクルクルと回り出す。

どこぞの映画のワンシーンか、と後から出てきて2人の様子を見た忍はそう思ったそうな…。

 

「すぅ……ふぅ……空気が、美味い…」

 

そうは言っても忍もまた深呼吸して外の空気を吸いつつも、やっと出てこれたんだと実感して感慨に耽っていた。

 

そんなハジメ達だが…外の空気やら喜びを堪能している合間に…

 

『グルルルル…』

 

すっかり魔物に囲まれてしまっていた。

 

「ったく、無粋な奴等だな。え~っと…」

 

ハジメが場所の確認をしようと地形を見回すと…

 

「……乾いた砂の匂いと、樹海特有の木々の匂いが左右からするな。そして、この断崖絶壁……ここはライセン大峡谷ってとこじゃね?」

 

忍が覇狼から得た嗅覚を用いてこの場所を特定する。

 

「……ん、シノブの言う通りかも。ここ、魔力が分解される」

 

ユエが忍の推測を後押しするように魔法を行使しようとするが、上手く発動出来ていない。

 

「じゃあ、ユエさんは控えてた方がいいのでは? 無理して使うよりも温存してた方がいいと個人的には思うが…」

 

そんな風に忍が言うが…

 

「……ん、問題ない。力づくでいく」

 

どうにも殺る気なユエはそんな風に返す。

 

「力づくって…効率は?」

 

「……十倍くらい」

 

それを聞いてハジメがユエの頭をポンポンと叩くと…

 

「やめとけ。ここは俺と忍だけで問題ないから」

 

「……でも…」

 

「いいからいいから、適材適所だ。ここは魔法使いにとっては鬼門だろ? 任せとけって」

 

「……ん」

 

不承不承といった感じでユエが引き下がるのを見て…

 

「さて、奈落の魔物とお前達…どちらが強いか…少し試させてもらうぜ?」

 

ハジメがドンナー・シュラークを抜いてガン=カタの構えを取る。

 

「ん~…ハジメ1人だけでも十分じゃないかね?」

 

そう言いつつも、忍も一応というように銀狼と黒狼を抜いて二刀流の構えを取る。

 

「ライセン大峡谷の魔物っつたら相当凶悪って聞いてるしな。油断するなよ」

 

「今更油断するようなヘマはしねぇけどさ」

 

そんな軽口を叩きながら、ハジメと忍が同時に動く。

 

ズドンッ!!

斬ッ!!

 

銃声と斬撃音が響く中…魔物の蹂躙劇が幕を上げた。

 

 

 

蹂躙後…

 

「ふむ…」

 

「……どうしたの?」

 

ハジメがなんか納得いかないような顔をしているのでユエが尋ねる。

 

「いや、ここ本当にライセン大峡谷か? にしては魔物が雑魚にしか見えないんだが…」

 

「そりゃ奈落に比べたらなぁ………いや、俺らの感覚が麻痺ってるだけか?」

 

「……ん、2人が化け物過ぎるだけ」

 

ハジメと忍の化け物ぶりにユエは率直な感想を漏らす。

 

「酷ぇ言い様だな…」

 

「でも、この程度の魔物なら喰っても大してステータス上がらないかもだしな…」

 

「あぁ、それは言えてる」

 

そう言って屍の山に興味を失った2人はこれからの方針を考える。

 

「……偏食家?」

 

「ユエにだけは言われたくない」

 

ハジメの血を定期的に飲んでいるユエにだけは言われたくないとハジメがツッコミを入れる。

 

「で、どうするよ? 今の俺らなら普通に断崖絶壁でも登れそうではあるけど?」

 

「いや、ここは大迷宮があると目されてる場所だ。だったら探索しながら進もう」

 

「OK、親友。で、進路はどうする?」

 

「樹海側だな」

 

「……何故、樹海側?」

 

「いや、峡谷抜けていきなり砂漠横断なんて嫌だろ? 樹海側なら町なんかも近そうだしな」

 

「……なるほど」

 

大体の方針が決まったところでハジメは指輪型アーティファクト『宝物庫』から魔力駆動二輪を二台取り出す。

ハジメの乗る方は『シュタルフ(ハジメ命名)』、忍の乗る方は『アステリア(忍命名)』と呼称する。

 

それぞれの車体にハジメと忍が跨ると、ユエはハジメの後ろに横乗りに座る。

このバイクにはエンジンがないが故に魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしている。

言わば、魔力操作の延長である。

速度調整は魔力量次第なのだが、ことライセン大峡谷に関しては長時間の運用は難しいかもしれない。

 

忍の嗅覚で樹海側へと迷いなく走行する姿は傍目から見ると異様な光景だ。

馬でもないのに、しかも馬すら軽く凌駕する速度で走っているので知らない人が見たら驚くことこの上ない。

それに加えて大迷宮の入り口を探したり、ハジメは迫りくる魔物を近付ける前に処理しているのだが…。

 

そうしてしばらくツーリングの如く走っていると…

 

『ゴォアアアア!!!』

 

魔物の咆哮が聞こえてきた。

今まで出会ったライセン大峡谷の魔物とは一線を画すような、なかなか大物のような咆哮だ。

ハジメと忍がバイクをその場に停める。

 

「忍、どのくらいで接敵する?」

 

「ん~…もう少しかな? おや? 何やら別な匂いもしてくるが、追われてるのか?」

 

「……追われてる?」

 

忍の索敵情報にユエが首を傾げていると…

 

「お、見えてきた」

 

「……なんだ、あれ?」

 

「……兎人族?」

 

「なんでこんなとこに? 兎人族ってこんな谷底が住処なのか?」

 

「……聞いたことない」

 

「あれじゃね? 罪人とかそういうので谷に突き落とされたとか?」

 

「あぁ、確かそんな処刑方法もあったな…」

 

「……悪ウサギ?」

 

そんな風に前方からやってくる二頭を持つティラノから逃げるようにピョンピョン逃げ惑ううさ耳を生やした少女を見ての感想を言い合う。

 

"助ける"という選択肢をこいつらは持っているのだろうか?

いや、ハジメに関しては既にこの世界に見切りをつけているので、メリットがない限り助けるなどしないだろう。

あと、興味がないのと面倒事に関わりたくないという本心もあった。

その変心と鬼畜ぶりに忍は明後日の方向を見ていた。

 

しかし、そんな呑気に見ていた三人組をうさ耳少女が発見したようで岩陰に隠れつつも凝視していた。

その岩も二頭ティラノの爪によって粉砕されると、ゴロゴロと転がりつつもその勢いを殺さず、"ハジメ達の方に"逃げてきた。

 

「おい、親友。うさ耳っ娘がこっちに来るぜ?」

 

バイクに跨ったまま前傾姿勢で様子を見てた忍がハジメに告げる。

 

「だずげでぐだざ~~い!! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずげでぇ~、おねがいじまずぅ~~!!」

 

よほど必死なのか、濁点が多い叫びが峡谷に木霊してハジメ達の耳にも届く。

 

「うわっ…モンスタートレインかよ。勘弁してくれ」

 

「……迷惑」

 

「まぁ、この後のことを考えれば面倒事しかきっとないわな…」

 

忍もだんだんこの2人に毒されているのか、助ける素振りを見せない。

ハジメが視線を逸らしたのを感じたのか…。

 

「まっでぇ~~!! みずでないでぐだざい~~!! おねがいでずぅ~~!!!」

 

一体どんだけの涙を垂れ流したら気が済むのか、というぐらいに涙を流して懇願するうさ耳少女。

 

だが、後ろの二頭ティラノもまたハジメ達を見つけてしまった。

それ故に…

 

『『グルゥアアアア!!!!』』

 

咆哮と共にハジメ達にも殺意を向けてしまった。

 

「アァ?」

 

己に向かってくる殺意に敏感なハジメは二頭ティラノの殺意に反応し、不機嫌な声を漏らした直後…

 

ドパンッ!!

 

反射的にハジメがドンナーを抜いて引き金を引いていた。

その弾丸はうさ耳少女のうさ耳の間を神がかり的に通り抜け、今にもうさ耳少女を食べようとしていた二頭ティラノの片割れを撃ち抜いていた。

その結果、撃ち抜かれた頭は地面に激突し、もう片方の頭もバランスを崩して倒れてしまう。

その衝撃でうさ耳少女はハジメの方に吹き飛ぶ。

 

「きゃあああ~~!! た、助けてくださ~~~い!!」

 

と迫ってくるうさ耳少女(見た目かなりボロボロ)を…

 

「アホか。図々しい」

 

シュタルフを即座に後退させて避けていた。

 

「えぇ~~!!?」

 

ベチャ、という音と共にハジメの眼前に落ちるうさ耳少女。

うつ伏せとなったうさ耳少女はピクピクと動いているので気絶はしていないようだが、痛みで動けないらしい。

 

「なぁ、親友。そこは普通受け止めてやるべき場面だと思うんだが?」

 

至極真っ当なことを言っているが、自分の方に飛んできたら果たして忍も受け止めていたのか…?

 

「ならテメェが受け止めりゃいいだろうが…」

 

とハジメに返されたので…

 

「あ、ごめん。なんか心躍らなかったから無理」

 

忍も忍で酷い言い草である。

やはり、毒されてきたか?

 

「……面白い」

 

ユエもユエでハジメの肩越しからうさ耳少女の醜態を見てこれまた酷い感想を述べた。

 

そうこうしてる間に倒れてた二頭ティラノ(?)が立ち上がり、邪魔だとばかりに今まで一緒にいただろうもう片方の頭を食い千切ってペッして、見た目とバランスの悪い普通のティラノっぽくなって怒りの眼光を携えつつ咆哮しながらハジメ達に突進してくる。

 

ビクッと震えたうさ耳少女はバッと立ち上がるとハジメの後ろに隠れてしまう。

 

「おい、こら。存在自体がギャグみたいなうさ耳! なに勝手に人を盾にしてやがる。巻き込みやがって、潔く特攻して来い!」

 

ハジメのコートをギュッと握って離しませ~んと言いたげなうさ耳少女は…

 

「い、嫌です! 今離したら絶対に見捨てる気ですよね!?」

 

「当たり前だろ? 何故、見ず知らずのウザうさ耳を助けなきゃならん」

 

「そ、即答!? 何が当たり前ですか! あなたにも善意の心はありますでしょう!? いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!?」

 

「んなもん奈落に置いてきたわ。つか、自分で美少女とか言うな」

 

「な、なら助けてくれたら………そ、その貴方のお願いを、な、何でも一つ聞きますよ?」

 

あざとい仕草でハジメを見つめるうさ耳少女…。

顔が鼻水や涙で汚れてなければさぞ絵になったろう。

 

そんなハジメとうさ耳少女の様子をユエは実に面白くなさそうに、片や忍は楽しげに見ていた。

 

「いらねぇよ。てか、汚い顔を近付けんな。汚れるだろうが」

 

そして、ハジメはそんなうさ耳少女の懇願を一刀両断した。

 

「き、汚い!? 言うに事欠いて汚いとは何ですか!? 断固抗議しま…『グルゥアアアア!!!』…ひぃ~!? お助けぇ~!」

 

いい加減、存在を無視され続けていたティラノが怒りの咆哮を上げ、うさ耳少女がハジメとユエの間に割り込もうとする。

それをユエがゲシゲシと足蹴りしているが、頬の足跡つけようが絶対に離れませ~~んとばかりにまたハジメにしがみついてしまった。

その様子を見てて盛大に爆笑する忍にイラっとするハジメはドンナーの銃口を忍に向ける。

 

本当に無視され続けてイラっとしているのはティラノの方だが…。

それを気にする者などこの場にはいない。

 

しかし、もう我慢ならんとばかりに突進してきたティラノに対する答えは…

 

ズドンッ!!

 

ハジメのシュラークによる即時発砲だった。

その弾丸を頭に受け、ティラノはドスン!という音と共に地に伏せ絶命した。

 

「へ?」

 

その音にビックリしたうさ耳少女は前方を見て絶句する。

 

「し、死んでます……ダイヘドアが一撃でなんて…」

 

うさ耳少女は目の前に二頭ティラノ("ダイヘドア"と言うらしい)を見て硬直していた。

その間にもハジメを掴む手は緩まず、ユエの足蹴りも続いており、うさ耳が微妙にハジメの眼をペシペシしていた。

 

「ぷっ…くくく…」

 

そんなアホみたいな状況に笑いを堪えずにいる忍に対して…

 

「おら、いい加減鬱陶しい! 忍、テメェもだ!」

 

脇下にあったうさ耳少女の脳天に肘鉄を入れてからドンナーを忍に向けて発砲する。

 

「へぶぅ!?」

 

「よっと」

 

呻き声を上げて地に伏せるうさ耳少女と、黒狼を掲げて少し抜いて弾丸を斬ってやり過ごす忍。

 

「ちっ…」

 

舌打ちしながら魔力をシュタルフに流し始めようとするハジメ。

 

「逃がすかぁ~!!」

 

それを察知したのか、ハジメの腰に纏わりつくうさ耳少女。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの1人、シアと言いますです! とりあえず、私の家族も助けてください!」

 

うさ耳少女…シアはお礼と共に仲間も助けてくれと懇願した。

 

「ぷくく…あれだけの仕打ちをされておきながら、なかなか図太い神経してんな。なぁ、親友?」

 

「はぁ…」

 

忍の呟きにハジメは深いため息を吐いていた。

そして、シアに声を掛けるでもなく…

 

「アバババババアバババ!?!?」

 

ハジメは纏雷を発動してシアを感電させていた。

命を奪うようなことはしないが、身動き取れなくする程度には感電させたのだ。

 

「ったく、非常識なウザうさ耳だった。ユエ、忍、行くぞ」

 

「……ん」

 

「あいよ」

 

しかし…

 

「に、逃がじまぜんよぉ~!!」

 

感電させたはずのシアがハジメの足にしがみつく。

 

「わぉ、凄ぇ根性…いや、執念か?」

 

流石に感電してもなお起き上がるとは思わず、ハジメも忍もバイクに魔力を注ぐのを忘れてしまった。

 

「お、お前はゾンビか何かか? それなりの威力でやったんだが……なんで動けんだよ? つか、ちょっと怖くなってきたんだが…」

 

「……不気味」

 

「流石に必死過ぎやしないか?」

 

若干引き気味の3人の反応に…

 

「うぅ~、何ですか! その物言いは! さっきから肘鉄とか足蹴りとか、ちょっと酷過ぎませんか!? 断固抗議します! お詫びとして家族を助けてください!」

 

まだ言うか、と呆れて物も言えない感じのハジメだったが…

 

「ったく、何なんだよ? とりあえず、話を聞いてやるから離せ。ってこら、人の外套で顔を拭くんじゃねぇ!!」

 

話を聞いてやると言った途端、パァっと笑顔になったシアはさりげなくハジメの外套で顔を拭っていた。

その動作にイラっとしたハジメは再びシアに肘鉄をかます。

 

「ふぎゅっ!? ま、また殴りましたね!? 父様にも殴られたことないのに! よくも私のような美少女を、そうポンポンと………はっ!? まさか、殿方同士の恋愛にご興味が……だから私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうなんで『ガンッ!!』あふんっ!?」

 

そう言いながらもチラリと忍を見てからハジメを再度見た瞬間、ハジメから踵落としがシアの脳天に突き刺さった。

 

「誰がホモだ、誰が。このウザうさ耳め。チラッと忍の方も見やがって…気持ち悪い想像しちまうとこだったろうが。まぁ、とりあえずお前のギャグだか誘惑だか知らんが、誘いに乗らないのはお前よりも遥かにレベルが高い美少女がすぐ隣にいるからだ。ユエを見て堂々と誘惑出来るお前の神経がわからん」

 

ハジメがシアの言葉でユエから疑惑の眼差しを向けられたが、ハジメの後半の言葉で頬を赤くして身体をくねくねしていた。

 

「親友。それは惚気ではないか?」

 

「うるせぇぞ、忍。あと、さっきユエから微妙な視線を向けられたんだが?」

 

「それこそ知らんよ。てか、冤罪だ」

 

微妙に忍の方にも被害が出たようだが、気にしない方向にシフトした。

 

ちなみに今更ながら3人の格好だが…

 

ユエは上に前面にフリルをあしらった純白のドレスシャツを着て、下はこれまたフリル付きの黒色ミニスカートを穿き、その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織り、足元にはショートブーツにニーソである。

 

ハジメは黒に赤のラインが入ったコートと、その下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っている。

 

忍は上に紺色のシャツを着て、下に黒の長ズボンを穿き、その上からロングコート状の黒衣を羽織り、足にはコンバットブーツ風の靴を履いており、両腿にアドバンスド・フューラーのホルスターと腰とベルトの間に銀狼と黒狼を差している。

 

衣服に関してはユエがオスカーの衣服に魔物の毛皮などの素材を用いて仕立てたもので、高い耐久力を有する防具としても機能する逸品である。

但し、ハジメには完成品を、忍には落ちた時の服装と失敗作を織り交ぜて見繕ったような品を送る辺り、ユエの中での基準が何なのかわかるというものだ。

送られた時の忍は『まぁ、そんなこったろうと思ったよ』と人知れず涙を流したらしい。

 

まぁ、それは置いといて…そんなユエを見たシアは「うっ」と僅かに怯む。

 

しかし、シアも客観的に見れば普通に美少女であることには間違いない。

少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳、眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相俟って黙っていれば神秘的な容姿とも言える。

手足もスラリと長く、うさ耳やうさ尻尾がふりふりと揺れる様は愛らしく見える。

何より…ユエにはないものがある。

それは…胸だ。

いや、ユエもあるにはある。

しかし、比べてしまうと…シアの方がご立派な巨乳の持ち主であり、ボロボロな衣服のせいで固定もろくにしてないのか、シアが動く度に(誇張ではなく)ぶるんぶるんと揺れて自己主張しているのだ。

 

まぁ、それだけのものをお持ちなら自分の容姿に自信があったのだろうが…ハジメは見向きもしない。

故にシアは言ってしまった。

言ってはいけないことを…。

 

「で、でも! 胸なら私が勝っています! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

"ペッタンコじゃないですか"

"ペッタンコじゃないですか"

"ペッタンコじゃないですか"

 

大事なことなので3回ほどやまびこ(?)を利用して繰り返しました。

 

くねくねしてたユエの動きがピタリと止まり、前髪で目元が見えなくなる。

ハジメと忍は「あ~あ」と言いたげな顔で天を仰いだり、視線を逸らしていた。

シュタルフから降りたユエは…

 

「"嵐帝"!」

 

魔法(怒りによって効率的に10倍あっても問題ないよ!)で竜巻を発生させると、シアを吹き飛ばして10秒後にグシャという音と共にハジメ達の前に墜落した。

頭から地面に突き刺さったシアに…

 

「「南無」」

 

ハジメと忍は合掌を捧げた。

ユエがとことことハジメの元に戻ってきてから一言。

 

「……おっきい方が好き?」

 

「…………………」

 

何とも答えに困る質問をしてきて視線で忍に助けを請う。

ハジメの意図を察した忍は…

 

「ん~…俺の彼女はわりかし巨乳ちゃんだからな。悪い、無理」

 

とあっけらかんに助けるのは無理だと答えていた。

というか…

 

「お前、彼女いたのか!?」

 

初めて聞く情報…新事実にハジメは目を剥いて驚いていた。

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

「聞いてねぇよ!」

 

"あれ~?"と思いながら記憶を探って右手を左手にポンとする。

 

「あ、そっか。あの召喚された昼休みの、前日の放課後に告ってOK貰ってさ。そのことを自慢しながら飯食おうと思ってたんだよ。そしたら色々起き過ぎてて言うの忘れてたわ」

 

相変わらずというか何というか…趣味が悪いとも言えるが、そんなことはどうでもよくてハジメはさらに問いかけた。

 

「お前、それ…付き合って1日も経ってねぇんじゃ…」

 

「そうなんだよ。付き合って1日もしない内に俺が行方不明だからさ。悪いことしたなぁ…あ、ちなみにあの時の弁当は彼女作だ」

 

"そんな情報、いらねぇよ"とか"彼女をほっぽって友人と飯食うか、普通"とか色々と考えるハジメだった。

というか、あの召喚に巻き込まれるとか間の悪いことこの上ない。

いや、ある意味で召喚した神が悪いとも言える。

 

「ちなみに相手は誰だ?」

 

頭痛そうにハジメが尋ねると…

 

「うちのマネージャーの明香音」

 

シレッと言い放つ。

 

「お前のクラスのアイドルじゃねぇか!? よくOKされたな……確か、あの娘、告られても絶対に断るって有名だったはず…」

 

「ん~…まぁ、あいつとは幼馴染みだしな。そろそろ告ろうとも思ってたし」

 

「テメェ、王道なテンプレ属性持ちじゃねぇか!」

 

「まぁ、あいつが告られるっていうのを聞く度に自分でもわかるくらいにイラついてたしな。だからこの際、俺のモノにしようと思ってさ」

 

「その発想はちょっと変化球過ぎないか?!」

 

「そうか?」

 

そんな会話を繰り広げていると…

 

「あ…やべぇ…」

 

そこで忍はある事実に思い当たり、ちょっと暗い顔をする。

 

「どした?」

 

「いや、奈落に落ちて家族に会いたいって願った時、明香音を思い出すの忘れてた…」

 

「そんなん知るかぁ!!」

 

「よほど切羽詰まってたか? くっ…帰れたとして明香音になんて詫びを入れればいいんだ!」

 

「だから知らねぇよ!!」

 

物凄くどうでもいいことを悩む忍にハジメは盛大なツッコミを入れた。

 

「……ハジメ?」

 

「なんだよ!?」

 

ユエに声を掛けられてハジメはユエの方を向く。

 

「……さっきの答え」

 

「うぐっ…」

 

結局そこに戻るのか、と軽く絶望を覚えたハジメだが…

 

「ユエ、大事なのは大きさじゃない。相手が誰か、そこだと俺は思うんだ」

 

「…………………」

 

ハジメのその答えにジトーっとした目を向けるユエだが、無言でハジメの後ろに腰掛ける。

ただ、忍とのコントじみたことをしていたせいか…

 

「うぅ…酷い目に遭いました。こんな場面、見えてなかったのに…」

 

シアが復活してハジメの外套の端を握っていた。

もちろん、逃がさないようにだ…。

 

「くそ、忍の意外な情報に惑わされて逃げ遅れた…」

 

「それは俺が悪いのか?」

 

ハジメの文句に忍は首を傾げる。

 

「はぁ…で? お前は何者だ? つか、話聞くっつたんだからさっさと話せ」

 

仕方ないとばかりにハジメはシアの話を聞くことにした。

それを聞いてうさ耳がピコンと動かしながらも姿勢を正して真剣な表情を作るシア。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと言います。実は…」

 

そこからのシアの話はこんな感じだ。

 

シア達、ハウリアと名乗る兎人族は『ハルツィナ樹海』にて数百人規模の集落を作ってひっそりと暮らしていた。

 

そも"兎人族とは?"という疑問だが、他の亜人族に比べて聴覚や隠密性に優れているもののスペック的には他よりも低く、性格も皆温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族である。

また、総じて容姿が優れており、エルフのような美しさとは異なった可愛らしさがあるので、帝国などに捕まって奴隷にされた時は愛玩用として人気の商品になるという。

 

話を戻そう。

そのハウリア族にある日異常な女の子が生まれた。

兎人族は基本的には濃紺な髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だった。

しかも亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然ながら一族は大いに困惑した。

兎人族として、否、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。

しかもその子は魔物と同じ力を持っているなど…普通なら迫害の対象となるところだが、そこは亜人族一とも言われる家族への情が深い種族。

ハウリア族はその女の子を見捨てず、16年間育ててきた。

 

しかし、ハルツィナ樹海の深部に存在する亜人族の国『フェアベルゲン』に女の子の存在が知られれば処刑されてしまう。

亜人族にとって魔物とはそれほどまでに忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。

国の規律にも魔物を見つけ次第、出来るだけ殲滅しなければならないというものもあり、過去魔物を逃がした人物は追放処分を受けたとも言われている。

さらに被差別種族ということもあり、魔法を振りかざす人間族や魔人族にも良い感情を持っていない。

樹海に侵入した魔力を持つ他種族は総じて即殺が暗黙の了解になっているくらいだ。

 

しかし、16年の苦労も虚しく、遂に女の子の存在がバレてしまった。

故にハウリアは決断した。

フェアベルゲンに捕まる前に一族全員で樹海を出て北の山脈地帯に逃げようと…。

 

だが、現実はそう簡単にはいかないものだ。

樹海を出た途端、運悪く帝国兵に見つかり、訓練か巡回中かはわからなかったが、一個中隊規模と遭遇したハウリアは南に逃げるしかなかった。

女子供を逃がすために男が帝国の追手を妨害するが、結果はあまり芳しくない。

それも当然だろう。

争い事を嫌う亜人族と魔法を使える訓練された兵士。

その差は歴然とも言える。

 

全滅を避けるため必死に逃げ続けた結果、ライセン大峡谷に辿り着いたハウリアは苦肉の策として大峡谷へと足を踏み入れる。

魔法の使えない峡谷まで帝国兵も追ってくるとは思えず、ほとぼりが冷めるまで峡谷に身を潜めることにしたのだ。

峡谷の魔物に襲われるか、帝国に奴隷として連れてかれるか…どちらが早いかという賭けだ。

だが、予測に反して帝国兵は一向に撤退する気配がなく、小隊が峡谷の出入り口に陣取って兎人族が魔物に襲われて出てくるのを待っていた。

そうしてる内に今度は魔物に襲われ、峡谷の奥へと逃げる羽目になる。

 

「気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程に…。このままでは全滅してしまいます! どうか助けてください!」

 

そう言って懇願するシアの姿は最初見た残念さとは打って変わって真剣そのものだった。

 

「どうするよ、親友?」

 

あまりにも真剣な懇願に忍はハジメの答えを聞く。

 

「…………………」

 

ユエもじっとハジメを見る。

 

そして、意見を求められたハジメの答えは…

 

「断る」

 

これ以上ないくらい端的な言葉だった。

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