もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第十二話『ハルツィナ樹海への道のり』

うさ耳42人をぞろぞろと引き連れて峡谷を歩くハジメとユエ。

ちなみに忍は最後尾で警戒態勢を取っている。

 

普通なら絶好の獲物として魔物達がこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。

前門の化け物と後門の化け物が襲ってくる魔物を逐一撃破しているからだ。

ハジメはドンナー・シュラークによる銃撃、忍は風爪から派生した飛爪を刀の斬撃と共に放ってだ。

そんな光景に兎人族は唖然とし、ハジメと忍に畏敬の念を抱いていた。

特に小さな子供達に限っては総じてそのつぶらな瞳をキラキラさせてハジメと忍をヒーローみたいな風に見ていたが…。

 

「ハッハッハッ、そんなに見つめられるとお兄さん的には恥ずかしいじゃないか」

 

そんな子供達に向かって忍は陽気な声を掛けていた。

片手間に魔物を斬撃飛ばして斬っているが…。

 

「だが、気分的には悪くない。お兄さん達は強いだろ~?」

 

『うん!』

 

「ハッハッハッ、そうだろうそうだろう。だが、お兄さん達も最初から強かったわけじゃないんだ。色々な強敵との戦いがあったからここまで強くなれたのだよ」

 

そう言って軽いウィンクをしてみせる。

そんな風に妹達がいたので子供相手にもサービス精神旺盛な対応をしてみせる最後尾の忍だった。

しかもしっかり"お兄さん"と言ってる辺り、"おじさん"呼びをさせない伏線を張っているようにも感じる。

 

そんな忍に比べて…

 

「……………………」

 

ハジメは無言で子供らのキラキラ視線に居心地悪そうな感じで魔物を処理していた。

 

「シノブさんはなんだか手慣れてますね~。ふふふ、ハジメさんも手くらい振ってあげたらどうですか~? うりうり~」

 

忍の子供への対応を見てか、ハジメにもそういうことをさせようとするシアにイラっとしたハジメは、ドンナー側にゴム弾を装填してシアの足元へと発砲した。

 

「あわわわわわっ!?」

 

ゴム弾を避けるためとは言え、変なタップダンスの如く躍るシアを見て…

 

「はっはっは、シアがあんなに懐いて。よほどハジメ殿が気に入ったのだな。シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら…」

 

カムがちょっと方向性の違う感想を漏らす。

他の兎人族もハジメとシアの様子に生暖かい眼差しを向けていた。

 

「いや、おかしいだろ? この状況のどこを見てそんな感想を抱ける?」

 

「……ズレてる」

 

ユエの言うようにちょっとズレてる、もしくは相当な天然が入っているのだろう。

それは兎人族全体なのか、ハウリア族特有なのかは…わからない。

 

そうこうしてる間に一行はライセン大峡谷の出入り口付近まで辿り着く。

 

「……………………」

 

ハジメが遠見で岸壁に沿って削って作られたような立派な階段を確認していた。

 

「(親友)」

 

と、そこへ忍から念話が届く。

 

「(どした?)」

 

「(人の匂いがする。おそらくは帝国兵だろう。数は…ざっと30人程度かな?)」

 

「(そうか)」

 

短い返事に忍は…

 

「(……なぁ、親友。やっぱ、"殺す"のか?)」

 

ハジメにそう尋ねていた。

 

「(そういえば、お前と俺は決定的に違うところがあったな)」

 

「(あぁ…親友と共に歩いてきたつもりだが、それは奈落で親友が変心した後の話だ。俺は…いざ"人"と出会い、殺し合いをすることが出来るか、少し自信がないな)」

 

そんな心情を漏らしていた。

そう…奈落の底ではハジメと共に魔物を喰らってきた忍だが、ことその精神はまだ化け物とは言い難い。

"人"を殺す…。

それに対して戸惑いと忌避感を持つ。

人間…いや、特に未だ日本人としての感覚を持っている忍からしたら帝国兵との遭遇は…正直、嫌な出来事だった。

 

「(だったら、後ろで見てろ。そうすりゃお前に変な十字架を背負わせないからな)」

 

「(親友…)」

 

「(別にお前を想ってのことじゃねぇよ。足手纏いになるくらいなら前に出てくるなってことだな。半端な覚悟の奴に背中を任せるよりも、自分でカバーした方が効率的だしな)」

 

そんなハジメの言葉に…

 

「(半端な覚悟、か……確かにそう言われても仕方ないか…)」

 

忍は暗い感じで自虐的に言いつつも…

 

「(覇王ってのは…そんな半端な覚悟じゃ務まらないわな…)」

 

己がどういう存在で、どういう覚悟で覇王の能力を求めているのか…それを改めて考え直したのか…

 

「(………うっし、いっちょやったるか!)」

 

今度は晴れやかな声音の念話がハジメの頭に流れ込んできた。

 

「(……いいんだな?)」

 

「(あぁ。邪魔する敵は神だろうと噛み砕く。それが…俺の往くべき覇道だからな)」

 

「(なら、せいぜい頼りにしてやる。半端なことをするんじゃねぇぞ?)」

 

「(応さ!)」

 

そこで念話を終了させると、今度はシアがハジメに話し掛けていた。

 

「あの…ハジメさん。もしも、まだ帝国兵がいたら……どうするのですか?」

 

「? どうする、とは?」

 

「今まで倒してきたのは魔物です。でも、帝国兵は…人間族です。ハジメさんと同じ……それでもハジメさんは、それを使うのですか?」

 

ドンナーを見つめるシアの質問にハウリア族も神妙な面持ちでハジメを見た。

だが、ハジメの答えは…

 

「それがどうかしたのか?」

 

なんとも淡白な反応だった。

その答えにキョトンとしてしまうハウリア族。

 

「敵なら殺す。それがどんな存在だろうとな」

 

端的にして今のハジメを体現する言葉に…

 

「で、でも…同族と殺し合うなんて…」

 

シアが狼狽える様に言葉を発する。

 

「それに、だ。俺はお前等が樹海探索に役立つと思ったから雇ったんだ。んで、それまでに死なれちゃ困るから守ってるだけ。断じて、お前等に同情したとか、義侠心に駆られて助けてる訳じゃない。ましてや、今後ずっと守ってやるつもりも毛頭ない。それは覚えてるだろう?」

 

が、ハジメが間髪入れずに言葉を紡ぐ。

 

「うっ…はい…」

 

「だから、樹海探索の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔する奴等は魔物だろうが人間族だろうが関係ない。俺の道を阻む敵は殺して進む。それだけだ」

 

「な、なるほど…」

 

ハジメの考えを聞いて納得してしまうシア。

 

「はっはっはっ、何ともわかりやすくていいですな。樹海の案内は任せてくだされ!」

 

それを近くで聞いていたカムが快活に笑う。

 

そして、一行は階段を登り、ライセン大峡谷を脱出するのだった。

 

だが、そこで待ち受けていたのは…

 

「おいおい、マジかよ! 生き残ってやがったのか……隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ。こりゃあ、良い土産が出来そうだ!」

 

忍の情報通り30人ほどの帝国兵がいた。

周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。

皆、カーキ色の軍服らしき衣服を着ていて、剣や槍、盾を装備していた。

 

彼らはハジメ達が現れたことに驚いた様子を見せたものの、すぐさま品定めするかのような視線となる。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお! ますますツイてるな! 年寄りは別にいいが、あれは絶対に殺すなよ?」

 

そう言いながら下卑た表情で兎人族を見る帝国兵。

だが、小隊長と呼ばれた男がハジメや前に出てきた忍の存在にやっと気付く。

 

「なんだぁ? お前達は誰だ? 兎人族…じゃねぇよな?」

 

「あぁ、人間だ」

 

「右に同じく」

 

ハジメと忍が互いに人間族だと言うと、小隊長は勝手に2人のことを奴隷商だと推測すると…

 

「まぁいい。お前等みたいな小僧の奴隷商なんかお呼びじゃないんだ。さっさと、そいつらをこっちに引き渡せ」

 

と、自分の要求…というよりも命令がすんなり通るとでも言いたげな小隊長に対し…

 

「断る」

 

ハジメがこれまた端的に答える。

 

「……はぁ?」

 

何を言われたのかわからず…いや、聞き間違いだと思って再度命令するも…

 

「何度も言わせるな。断ると言ったんだ。お前の耳は飾りか?」

 

というハジメの言葉に小隊長は怒りを露にする。

 

「……小僧、口の利き方に気を付けろよ? 俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか? それとさっきから笑ってるそっちの小僧…何が可笑しい?」

 

そんな小隊長の問いに…

 

「十全に理解している。誰もお前等よりも頭が悪いだなんて言われたくはないだろうな」

 

「ぷっ…いやぁ、親友が言う事実に笑いが堪えられなくてね。いやはや、すまんすまん」

 

完全に見下してるハジメと、バカにしてるであろう忍に小隊長の堪忍袋の緒が切れた。

 

「上等だ、テメェら! その四肢を八つ裂きにしてから兎人族を貰ってくぞ! ついでだ、そこの別嬪の嬢ちゃんを犯して奴隷商に売り払ってやんよ!!」

 

その言葉にハジメの眼に殺意が宿る。

ユエも前に出ようとするが、ハジメがそれを制止した。

その横で"あ~あ、地雷踏んだ"と言いたげな忍がいたが、帝国兵側はお構いなしだ。

 

「つまり、"敵"ってことでいいんだな?」

 

「あぁ!? まだ状況を理解してねぇのか!? テメェは震えながら許しをこ…『ドパンッ!!』…ッ!?」

 

小隊長がなにかを言い終える前に一発の銃声が響き、小隊長の頭を粉砕していた。

 

「忍、お前は(銃を)使うなよ?」

 

「了解」

 

ドンナー・シュラークでさえ、頭を吹き飛ばす威力なのだ。

忍のアドバンスド・フューラーなら弾の無駄使いになりかねないという判断からハジメが忍に釘を刺す。

忍もそれはわかっているのか、銀狼と黒狼を引き抜いていた。

 

小隊長がやられたせいか、一瞬身動きが取れなった帝国兵だったが、すぐさまハジメと忍に剣と槍を向けた。

 

「神速」

 

ブンッ!

 

という音と共に一瞬だけ忍の姿がブレる。

 

チャキッ…

 

それと同時にせっかく抜いた二刀を鞘へと収める忍の姿に首を傾げる帝国兵。

 

ズズ…

 

だが、首を傾げた瞬間…1人を除いて何故か視界が急降下していく。

そう、まるで首から上が地面に落ちるような…。

 

ドガァァンッ!!

 

それと時を同じくして後衛の魔法を詠唱していた10人単位が凄まじい爆発と共に絶命する。

ハジメが金属の破片を組み込んでいた"破片手榴弾"を転がしていたのだ。

その爆発に巻き込まれて7人くらいも重傷を負うが、ハジメがドンナーで追撃して殺す。

 

残った帝国兵は忍が斬らなかった1人となってしまう。

 

「おい」

 

そんな帝国兵にハジメが近寄り、声を掛ける。

 

「ひ、ひぃ!? く、来るなぁ!?」

 

怯えた様子でその場にへたり込む帝国兵。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、なんでもするから…命だけは!!」

 

命乞いをする帝国兵にハジメは…

 

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが…全部、帝国に移送済みか?」

 

ドンナーで肩をトントンと叩きながら質問する。

 

「……は、話したらに逃がしてくれるか?」

 

「はて、お前達は命乞いしてきた奴に同じことをしたのか? てか、お前達にそんなことを言う権利なんてない。なんなら今、逝っとくか?」

 

ゴリッとドンナーの銃口を帝国兵の頭に押し当てると…

 

「ま、待て! 待ってくれ! 話す、話すから! 多分、全部移送済みだと思う。に、人数を絞ったから…」

 

その言葉を聞いてハジメはチラッとハウリア族を見てからもう用済みとばかりに…

 

ドパンッ!!

 

帝国兵の脳天を撃つ。

その容赦のなさにハウリア族はハジメに恐怖を抱いたかのような視線を向けてしまう。

 

そんな中…

 

「……一度、剣を抜いた相手に対して相手が強かったからと見逃すのは都合良過ぎ。あと、守られてる立場でそんな目でハジメを見るのもお門違い…」

 

ユエがそんなことを言い放っていた。

もちろん、その言葉の矛先はハウリア族である。

 

「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に貴方に含むところがあった訳ではないのだ。ただ、こういう争いに我等は慣れていないのでな。少々、驚いただけなのだ」

 

「ハジメさん、すみません…」

 

一族を代表してカムとシアがハジメに謝罪するが、ハジメは気にしてないと手をヒラヒラさせるだけだった。

 

それからハジメは無傷の馬車と馬の所に行ってハウリア族を手招きする。

宝物庫からシュタルフとアステリアを取り出すと、それぞれを馬車に繋げていた。

これで徒歩半日のところを短縮出来るだろう。

馬に乗れる者は馬に乗り、残りは馬車の中へと入り、いざ樹海へと発進する。

 

ちなみに帝国兵の死体はユエが風の魔法で谷底に落としていた。

 

………

……

 

それからしばらくハジメと忍が牽引する馬車と馬を駆る兎人族一行だったが…

 

「……………………」

 

ハジメが心ここにあらずといった感じで遠くをボーっと見ていた。

 

「(親友。安全運転、安全運転)」

 

そんなハジメに忍から念話が入る。

 

「(忍。お前はどうだった?)」

 

「(人殺しについてかい? 正直、夢に出てきそうだよ)」

 

「(お前、そんなにメンタル豆腐だったか?)」

 

「(ハッハッハッ、返す言葉もない。そういう親友は?)」

 

「(いや、特に何も感じなかった)」

 

「(そこまで変心してたのか…)」

 

忍がハジメの変心ぶりに驚いていたが…

 

「(ま、でも…親友は親友だしな。俺も慣れるとまではいかないが、割り切れる様に頑張るさ)」

 

すぐさまそのように念話を返していた。

それから忍から引き継ぐようにユエがハジメに話し掛けていた。

 

「……ハジメ、どうして忍と一緒に戦ったの?」

 

「色々と確認したくてな」

 

「……確認?」

 

「あぁ…」

 

そこでハジメは今回の帝国兵との一件でわかったことをユエに伝えた。

 

一つ、銃弾に使う炸薬量の調整に目処がついたこと。

流石に街中で使うには威力が強過ぎるとのことで微調整が必要だった。

それを今回の戦いで微調整が可能になりそうだということ。

 

一つ、自分と忍が初めてになる人を殺しての実感をどういう風に受け止められるかどうか。

圧倒的な力を持つ化け物コンビでも"人"を殺すのは初めてだったのでどんな風になるのか確かめたかったのだ。

忍はしばし咀嚼の時間が欲しいらしいが、ハジメは特に何とも思わなかったらしい。

 

「……そう…大丈夫?」

 

「あぁ、自分の変心っぷりには驚いて少し感傷に浸ったが……それが今の俺だしな。これからもちゃんと戦えると確認出来たのは僥倖さ」

 

そんな風に話し合っていると…

 

「あ、あの! お2人のことを教えてください!」

 

「? なんだよ、また急に…」

 

「能力とかのことは聞きましたけど…何故、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的とか、今まで何をしていたのかとか…そういう話を聞きたいです!」

 

「……ま、別にいいけどな…」

 

何気にハブられている忍のことも付け加えて、ハジメは今までのことをシアに話して聞かせた。

ちなみにシアはハジメの後ろの座席に座っており、ユエはハジメの前に座っていたりする。

 

その結果…

 

「うぇ、ぐすっ…酷い…酷過ぎまずぅ~。ハジメさんもユエさんも、シノブさんは若干ですが…可哀想ですぅ~」

 

「お~い、聞こえてるからな? 俺も確かに自分でも微妙には思ってたけど、扱いの差が微妙なのも地味に傷ついてるからな~?」

 

隣を走行してる忍からシアに苦言が届くが…。

 

「私、決めました! お三方の旅に私もついていきます! えぇ、ついていきますとも!」

 

何故かそんなことを言い出すシアでしたが…。

 

「現在進行形で守られてる脆弱ウサギが何を言ってやがる。完全に足手纏いだろうが…」

 

「………………………」

 

「いやぁ…流石にそれはちょっと…」

 

前の2人からは冷たい視線を向けられ、隣からも微妙な視線を向けられる。

 

「な、なんて冷たい目をするんですか!? 私のハートをブレイクさせる気ですか!?」

 

そんなことを言うシアだったが…

 

「お前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろ?」

 

「!?」

 

ハジメの言葉にビクリと体が反応する。

その反応でハジメは"やっぱりか"と言いたげな目になる。

 

一族の安全が確保出来たらシアは一族から離れる気でいた。

そこに現れた"同類"の3人。

圧倒的とも言える強者と一緒なら心配性な家族も説得出来るかもしれない。

あとは…シアの興味か。

 

「別に責める気はない。だが、俺達の目的は七大迷宮を攻略し、神代魔法と覇王の能力を得るための旅だ。恐らくは奈落と同等か、それ以上の魔窟だ。そんなところにお前を連れてっても瞬殺されるのがオチだ。だから同行させる気は毛頭ない」

 

キッパリと言い切ったハジメに、シアはぐうの音も出ない程に落ち込んでしまった。

それからシアは何かを考えるかのように黙ってしまったが…。

 

 

 

それから数時間でハルツィナ樹海に到着した。

 

「それではハジメ殿、ユエ殿、シノブ殿。中に入ったら決して我等から離れないでください。お三方を中心にして進みますが、万が一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下でよろしいのですな?」

 

「あぁ、聞いた限りだと、そこが本当の迷宮の関係してそうだからな」

 

カムの確認の声にハジメが答える。

 

「ハジメ殿。出来るだけ気配を殺してください。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近付く者はおりませんが…特別禁止されてるわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれない。我々は、その、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「あぁ、わかってる。忍もユエもいいな?」

 

「……ん」

 

「気配消すって言われても加減がな~」

 

とりあえず、と言わんばかりに気配遮断を発動するハジメと忍だったが…

 

「?! これはまた…ハジメ殿、シノブ殿、出来ればユエ殿くらいに調整してくれませんか?」

 

「ん?」

 

「まぁ、そうだわな…」

 

カムに言われ、ユエと同じくらいの気配まで落ち着かせる。

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては我々でも見つけるのが困難でしたので…まぁ、ハジメ殿はともかく、シノブ殿は自力でなんとかしそうですが…」

 

「ん~…まぁ、俺には頼もしい鼻があるからな。この短期間で嗅ぎ慣れたアンタらの匂いから離れることはないだろうけど…やっぱ、未開の地だと不安だしな」

 

そんなことを言ってのけるのは…覇狼という覇王の力を獲得したが故だろうか?

 

「では、こちらに…」

 

カムの先導に従い、ハジメ達も移動を開始する。

 

途中、樹海の魔物にも襲われそうになったが、ユエ、ハジメ、忍の3人が軽やかに撃退していった。

もちろん、隠密行動を優先して派手な音を立てないように気を付けてだ。

 

しかし、世の中そうそう上手くいくものでもなく…

 

「そこの者達! 何故人間と共にいる! 種族と族名を名乗れ!!」

 

そう言って現れたのは…筋骨隆々の虎の亜人だった。

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが上手く切り抜けようとするが…

 

「む? 白髪の兎人族? っ! もしや報告にあったハウリア族か!? 亜人の面汚しめ! 長年、同胞を騙し続けて忌み子を匿っていたばかりか、今度は人間族まで招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明の余地などない! 全員この場で処刑する! 総員、か…」

 

そこまで言ったところで…

 

ドパンッ!!

 

ハジメがドンナーを発砲し、虎の亜人の頬に擦過傷を付けていた。

ちなみに弾丸は背後の樹を抉り飛ばして樹海の奥に消える。

理解不能の攻撃に固まる虎の亜人。

 

そこに威圧を放ちながらハジメが言葉を紡ぐ。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでる奴等も全て把握済みだ。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだと思ってくれていい」

 

「な、なっ…詠唱がっ…」

 

無詠唱、しかも見たこともない攻撃を連射することが出来る上、亜人側の位置も特定していると告げるハジメに二の句が紡げない虎の亜人。

さらにハジメは自然な動きでシュラークを抜いて霧の向こう側に銃口を向ける。

そこには虎の亜人の腹心の亜人がいたのか、動揺が伝播してくる。

 

「殺るというなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が預かってるからな。ただの1人でも生き残れると思うなよ?」

 

「ハッハッハッ、親友。それ、悪役の台詞だぜ?」

 

「うっせぇ」

 

そんなハジメを忍が笑っている。

そうしたやり取りをしているにも関わらず、ハジメの威圧は解けるどころか殺意まで乗り出し、忍からも得体の知れない感覚が襲い掛かってくる。

忍もまた覇気を発動させてみたのだ。

 

「(冗談だろ…こいつら、本当に人間か!? まるっきりの化け物じゃないか!)」

 

二重に襲い掛かってくる威圧と覇気に心潰されそうになりながらも虎の亜人は戦々恐々とする。

 

「だが、この場を引くと言うなら追いはしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「もう悪役が板についてきたなぁ~」

 

という会話の後…

 

「……その前に一つ問いたい」

 

虎の亜人が聞いてくるので、先を促すハジメ。

 

「……何が目的だ?」

 

端的な質問ではあるが、目的によってはこの場を死地として挑む覚悟を持って虎の亜人は問うた。

 

「樹海の深部、大樹の下に行きたい」

 

「大樹の下に、だと? 何のために?」

 

それを聞いて若干の困惑を見せる虎の亜人。

 

「そこに、本物の大迷宮への入り口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアはその案内のために雇ったんだ」

 

「本物の迷宮? 何を言っているんだ? 七大迷宮と言えば、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰ることも出来ん天然の迷宮だ」

 

ハジメの言葉に虎の亜人はそう返すが…

 

「いや、それはおかしい」

 

「確かにな…」

 

「なんだと…?」

 

ハジメだけでなく忍まで話に加わってきて虎の亜人は大いに困惑した。

 

「攻略したからこそわかることもある。俺達はオルクス大迷宮…奈落の底100層を攻略してきたんだ」

 

「あぁ、その基準からしたら、ここの魔物は弱い」

 

「よ、弱い…?」

 

「それとな。大迷宮ってのは"解放者達"が遺した試練なんだよ。亜人達が簡単に深部に行けるのなら、それはもう試練になっていない。なら、樹海自体が大迷宮っていうのはおかしいんだよ」

 

「それとさ。大樹の下に行ったことがあるとして…拳大くらいの宝玉とか見たことある?」

 

「宝玉だと…? いや、見たことはないが…」

 

「ならここは大迷宮じゃないな」

 

ハジメの言葉と、忍のあっけらかんとした反応にますます虎の亜人は困惑の色を濃くする。

 

しかし、と虎の亜人は思う。

ここまで優位な状況で嘘を吐くものかと?

判断材料が少ない以上、現場の判断だけで簡単に通すわけにもいかなかった。

 

だから…

 

「……お前達が国や同胞に危害を加えないというのなら、大樹の下へ行ってもいいと、俺は判断する。部下の命を無駄にはしたくないしな。だが、一警備隊長の私如きが独断で下していい案件でもない。だから、本国にも指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っておられる可能性が高い。お前等に…本当に含むところがないのなら、伝令を見逃し、私達と共にこの場にいてもらう」

 

そんな風に虎の亜人が最大限の譲歩だと言わんばかりのことを言うと…

 

「……………………」

 

ハジメはチラッと忍とユエを見た。

 

「「……………………」」

 

2人共、軽く頷いてみせる。

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずに伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム! 聞いていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

すると気配の一つが遠ざかっていく。

それを確認し、ハジメも威圧を解いてドンナー・シュラークをホルスターに戻す。

忍もまた覇気を解いていた。

正直、あっさりと警戒を解いたハジメと忍を虎の亜人は怪訝に思った。

中には"今なら"と血気に逸る者もいたようだが…

 

「お前達よりも俺の早抜き…いや、こいつの方が遥かに早く動ける。試すか?」

 

「……いや。だが、下手な真似はするな。我等も動かざるを得なくなる」

 

「わかってるさ」

 

「俺も無用な争いは避けたいからね」

 

そう言って互いにその場で待機することとなった。

 

 

 

そうしてしばらく……一時間くらいだろうか、とある気配が近付いてきた。

そこに現れたのは…森人族…要するにエルフといった種族の初老の男性と、複数の亜人達だった。

 

「ふむ…お前さんらが問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「ハジメ。南雲 ハジメだ」

 

「俺は紅神 忍ってもんだ」

 

「で、アンタは?」

 

ハジメの言葉遣いに周囲の亜人達がざわつくが、森人族の男性が手で制す。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座の一つを預からせてもらっている。さて、お前さんらの要求は聞いておる。しかし、その前に聞かせてもらいたい。"解放者"と宝玉について何処で知った?」

 

「うん? オルクス大迷宮の奈落の底…解放者の1人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

「ちなみに"覇王"ってのも知ってるからな?」

 

ハジメの訝しげな返答と、忍の一言にアルフレリックは内心驚く。

 

「奈落の底、か。聞いたことないが…証拠はあるか?」

 

それを聞き、ユエの言葉もあって奈落で入手した魔石やオルクスの指輪をアルフレリックに見せた。

 

「なるほど。確かに、お前さん達はオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いたようだな。それに古の覇王様のことまで…。他にも色々と気になるところはあるが……よかろう。とりあえず、フェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許可しよう。あぁ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

そのアルフレリックの言葉に亜人達が騒然となった。

当然ながら抗議もあった。

しかし、アルフレリックはハジメ達を客人として迎えないとならない古い掟があることを話した。

 

また、ここで重要な事実が発覚。

大樹の下は特に霧が濃く、亜人でも方向感覚が狂うという。

一定周期で霧が弱まるので、その時に行けば大樹の下に行けるのだそうだ。

亜人なら誰でも知っている事実だと言うが…。

 

それを今思い出したのか、カムが「あっ」と声を漏らし、それを指摘しなかったシア以下のハウリア族もユエのお仕置き対象となったのであった。

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