もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第十五話『旅は道連れ、世は理不尽?』

あれから九日後。

 

ハジメの鬼軍曹式訓練を終え、ハウリア族が卒業試験を行っていた。

 

それを樹にもたれかかって待つ間に勝負を終えたユエとシアが戻ってきた。

 

「2人共、勝負とやらは終わったのか?」

 

ハジメが2人の表情を見ると、上機嫌な様子のシアとちょっと不機嫌そうなユエだったので、これは意外な結果だとハジメも内心驚いていた。

 

「ハジメさん! 聞いてください! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いやぁ、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~。私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時のユエさんときたら…「うるさい」…へぶぅ!?」

 

シアの調子に乗った態度にイラっときたのかユエのジャンピングビンタが強烈に決まる。

喰らったシアは錐揉みしながら吹き飛び、地面に倒れ込む。

 

「で、どうだった?」

 

その様子を見てからハジメはユエに質問する。

 

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

 

「そうか。宝の持ち腐れっぽくも聞こえるが、あのレベルの大槌をせがまれたってことは…」

 

実は勝負の前にシアはハジメに大槌をせがんでおり、それを差っ引いてもユエが勝つと思っていたので、渡していたのだ。

 

「……ん、シノブと同じで、身体強化に特化してる。ただ、シノブの最大と比べたらまだ一割程度」

 

「……へぇ、それはそれは…忍の最大で一割ってことは、だいたい俺と比べたら強化前の約六割だったか?」

 

「……ん、そのくらいのはず。でも鍛え方次第でまだまだ伸びる、かも」

 

「マジか。こいつも十分化け物レベルだな」

 

そう言ってハジメは倒れているシアを見る。

 

「……そういえば、シノブは?」

 

「あ~…ちょっとな…」

 

物凄く嫌そうな顔をしながらそっぽを向く。

 

その間にシアは立ち上がると、ハジメの前まで行って強い意志を宿した瞳でハジメに伝えた。

 

「ハジメさん、どうか私もあなたの旅に連れて行ってください! お願いします!」

 

「断る」

 

「即答!?」

 

シアの言葉をハジメは即座に切り捨てる。

 

「ひ、酷いですよ、ハジメさん。こんなに真剣に頼み込んでるのに…それをあっさり…」

 

「いや、知らんがな。大体、カム達はどうする気だ? まさか…」

 

「父様達にはちゃんと修行前に話しました。私一人の話です。流石に一族の迷惑になるからってだけじゃ認められませんでしたが…その…」

 

「なんだよ?」

 

「その…私自身が、付いて行きたいと本気で思っているのなら構わないと…」

 

「はぁ? なんで付いて来たんだよ? お前の実力ならもう敵なんていないだろうに…」

 

「ですからぁ…あの…」

 

「……………………」

 

いい加減、要領を得ないシアの言動にイライラしてきたハジメがドンナーを抜きかけた時…

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!!」

 

「……………………は?」

 

シアの告白にハジメは鳩が豆鉄砲を食ったようなポカンとした表情になる。

 

するとタイミングが良いのか悪いのか…

 

「悪ぃ悪ぃ、ちょっと遅れた」

 

「……………………」

 

セレナを連れた忍が戻ってきた。

 

「狼人族!?」

 

「……どういうこと?」

 

セレナの登場にシアとユエがセレナを見てから忍、ハジメの順で見る。

 

「あ~、なんかタイミング悪かった?」

 

「かなりな」

 

忍の呟きにハジメが反応した。

 

「そっか~」

 

「そっか~、じゃねぇよ。お前のことだからそっちはそっちで説明しろよ」

 

「あいよ」

 

忍は忍で説明する順番を待つことにした。

 

「で、だ。先にシアの告白についてだが…」

 

「あぁ、シアさんやっと告ったのな。長老衆に親友が啖呵切ったところでフラグ立ったかと思ってたけど…」

 

「おい、待て。なんでその情報を俺に寄こさなかった?」

 

「確信があった訳じゃないしな」

 

忍の余計な一言にハジメが喰いつくが、すぐに本題に戻り…

 

「ともかく、俺にはユエがいるんだぞ? よく本人を前に告白出来たな。お前の一番恐ろしいとこは身体強化云々よりもその図太さなんじゃないか? お前の心臓はアザンチウム製か何かか?」

 

「誰が世界最高硬度の心臓の持ち主ですか!? うぅ~、シノブさんの方も気になりますが、こっちの方が今は大事です! こんなこともあろうかと、外堀を埋めたのです! ユエ先生、お願いします!!」

 

「は? ユエ?」

 

"何故ここに来てユエなんだ?"と疑問に思っていると…

 

「……………………ハジメ、連れて行こう」

 

さっきのハジメに負けず劣らずの物凄く嫌そうな顔でユエがハジメに言う。

 

「いやいやいや、何その間。明らかに嫌そうだぞ。もしかして、勝負の賭けって…」

 

「……無念」

 

つまり、そういうことらしい。

それを聞いて頭をガリガリと掻いて珍しく困った表情になる。

 

「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

 

「知らないんですか? 未来は絶対じゃないんですよ?」

 

「危険だらけの旅だ」

 

「化け物で良かったです。おかげで貴方についていけます」

 

「俺の望みは故郷に帰ることだ。もう家族とは会えないかもしれないぞ?」

 

「話し合いました。"それでも"、です。父様達もわかってくれました」

 

「俺の故郷はお前には住みづらい場所だ」

 

「何度でも言いましょう。"それでも"、です」

 

「……………………」

 

シアの本気の想いを前に遂に押し黙ってしまうハジメだった。

 

「ハッハッハッ、親友。お前さんの負けじゃね?」

 

それを傍から見てた忍は笑いながらハジメに言葉を掛ける。

 

「……………………はぁ…好きにしろ。物好きめ」

 

「はい!」

 

シアは嬉しそうに声を上げる。

 

「……で、シノブは足手纏いを連れてく気?」

 

不機嫌そうなユエが忍に八つ当たりっぽく聞く。

 

「まぁ、そう言いなさんな。確かに俺らに比べたら雲泥の差はあれど、足手纏い上等でついてくるって言うからな。それに気になる話もあるし、俺が面倒見れば問題ないだろ? 親友の負担にはさせないさ」

 

そうユエに話す忍もここは引かないといった感じだ。

 

「……ハジメはいいの?」

 

「最初は俺も却下したんだがな。この九日間、暇さえあれば説得しに来やがるからな。流石にウザくなってきたんだが、どうにも覇王が関係してるらしくてな。俺は別に興味はないんだが、実際忍には世話にもなってるしな。仕方ないから、そいつの全面的な面倒は忍が見ることで話を付けた」

 

「……むぅ」

 

「なんだか、私の時よりもハジメさんが微妙に素直ですぅ~」

 

ハジメの言葉にユエとシアがジト目になる。

 

「ハッハッハッ、伊達に親友とは付き合いの長さが違うからな」

 

「高校に入ってからの付き合いだろうが…」

 

「それでも一年近くの付き合いだろ?」

 

「それで親友と言われてもな…」

 

「不満かい?」

 

「知らん」

 

なんだかんだと仲の良いハジメと忍の姿にジト目なユエとシアがさらにジト目になる。

 

「で、そっちは結局どうなったんだ?」

 

「セレナの親御さんに猛反対されたな」

 

「よくそれで連れてこれたな…」

 

どうやら忍はセレナの親御さんに会いに行っていたらしい。

流石にお触れを破ってまで侵入するわけにはいかなかったため、親御さんの方を連れてきてもらったが…。

 

「ま、娘を心配しない親はいないってことさ。だからこそ、俺は誓いを立ててきた」

 

「誓い?」

 

「あぁ、『この身この魂に誓い、汝達の娘は何があっても必ず守り抜く。その誓いが果たされなかった時、我が首を汝達に捧げる』ってな」

 

「え、それって…」

 

まるで何でもないように言い切る忍をシアがビックリしたような表情で見る。

 

「ま、そのくらいの覚悟は見せないとね。首を捧げる気なんてさらさらないが…」

 

これが危険な旅だとわかっているからこそ、忍も半端なことはしたくなかったのだろう。

その上で付いてくると言ったセレナの覚悟を見て、自分も覚悟を決めないとならないと考えたからこそ、自らの首を賭けて誓いを立てたのだ。

 

「誰もそこまでしてなんて言ってない。説得なら私がした…///」

 

バツが悪そうな表情をしつつも微妙に頬が赤いセレナがそっぽを向く。

 

「その説得が厳しそうだったから俺も誓いを立てたんだがな」

 

やれやれといった感じで肩を竦めてから…

 

「という訳で、狼人族で覇王の巫女なセレナだ。足手纏いになるかもだが、よろしく頼むわ」

 

「セレナよ。よろしく…」

 

こうして旅の仲間が2人も増えたのだった。

 

………

……

 

そうこうしている間にカム達ハウリア族が帰還した。

お題の魔物を一チーム一体狩れという卒業試験だったのだが、狩ってきた魔物の数は十を超えていた。

 

豹変した家族に慄くシアをよそにハジメに報告するカムの姿はもはや別人だった。

ハジメのことは『ボス』呼びだし、『世の中の問題の九割は暴力で解決できる』という真理に目覚めたりと…あの優しかった兎人族の面影など欠片もなかった。

 

そして、狩りの途中、完全武装した熊人族の集団を捕捉したらしく、これの撃破を自ら買って出るほどに好戦的になっていた。

 

その様子を近くで見てたセレナは…

 

「………………これが、兎人族?」

 

自分の目を疑っていた。

 

「まぁ、一種の洗脳だわな…」

 

その光景には忍も苦笑するしかなかった。

 

そして、ハジメの号令を受け、熊人族の集団に仕掛けたハウリア族。

結果は大勝したものの、ちょっと危うく堕ちそうになっていた。

しかし、シアがそれを諭し、なんとか正気に戻る(但し、昔の面影は失われたままだが…)。

 

殺人の衝撃や危うく自分達を追ってきた帝国兵みたいになることは回避したものの、ハジメの鬱憤を晴らすためにちょっとした追いかけっこが始まってしまったりもした。

 

結局、仕掛けようとした熊人族の集団は半数以上がハウリアに討たれ、ハジメに対するフェアベルゲンの"貸し一つ"という多大な不利益をもたらしてしまった故に生き恥を晒すこととなってしまった。

 

 

 

かくしてようやっと大樹の下に案内されたハジメ達だったのだが…

 

「……なんだ、こりゃ?」

 

大樹はものの見事に枯れていた。

ただ、枯れているだけで朽ちることなく、その途轍もない大きさを維持していた。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているようです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れないながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが…」

 

ハジメ、ユエ、忍の疑問に満ちた表情にカムが解説する。

それを聞きながらハジメが大樹の根元に近寄ると、アルフレリックが言っていたように石碑が建ててあった。

 

「これは…オルクスの扉の…」

 

「……ん、同じ紋様と絵柄…」

 

「だな…」

 

その石碑にはオルクス最下層で見たものと同じものが描かれていた。

 

「ってことは、やっぱここが大迷宮の入り口か」

 

「でもよ、親友。こっからどうするよ?」

 

「それな」

 

入り口を見つけたはいいが、どうやって開けるのか、皆目見当もつかなかった。

 

「ハジメ…これ見て」

 

「ん? 何かあったか?」

 

石碑の裏側を見ていたユエが何か見つけたようにハジメを呼ぶ。

そこには表の七つの紋様に対応している窪みがあった。

 

「これは…」

 

ハジメがその内の一つ、オルクスの指輪に刻まれている紋様に対応した窪みに指輪を嵌めてみる。

 

すると…

 

ポワァ…

 

石碑が淡く輝き始めた。

しばらくして輝く石碑を見てみると、次第に光が収まって代わりに文字が浮かび上がる。

 

『四つの証』

『再生の力』

『紡がれた絆の道標』

『全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう』

 

そんな文面が現れたのだ。

 

「……どういう意味だ?」

 

「……四つの証は…多分、他の大迷宮の証?」

 

「……再生の力は……もしかして神代魔法か?」

 

「そうだとして、紡がれた絆の道標ってのは?」

 

「あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに亜人に樹海を案内してもらうなんて例外中の例外ですし…」

 

ハジメ、ユエ、忍の憶測にシアの想像も加わる。

 

「なるほど。つまり、半分以上の大迷宮を攻略した上で再生に関する神代魔法を手に入れてからもっかい来いと…」

 

「まぁ、そうとも捉えれるわな…」

 

ハジメの言葉に忍も頷く。

 

「ちっ…今すぐの攻略は無理ってことか。めんどいが、他の大迷宮から当たるしかないか…」

 

「ん…」

 

「かぁ~…せっかくここまで来たのになぁ~」

 

ハジメ達は残念そうに頭を掻いたりしていたが、気持ちを切り替えることにしたらしい。

 

「今言った通り、俺達は他の大迷宮の攻略を目指す。大樹の下へ案内するまで守るって約束もここまでだ。まぁ、今のお前達ならフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

ハウリア族を集めてそう宣言するハジメだったが…

 

「ボス! お話があります!」

 

一族を代表し、カムがハジメに話し掛ける。

 

「なんだ?」

 

「ボス、我々もボスの旅にお供として付いて行かせてください!」

 

「えぇ!? 父様達も来るの!?」

 

まさかの同行許可を求めてきてシアも目を見開いて驚く。

 

「却下」

 

だが、ハジメはすぐさま拒否る。

 

「何故です!?」

 

「足手纏いをこれ以上増やしてたまるか、ボケ」

 

「しかし! そこな狼人族の女は同行を認めたとか!」

 

ズビシッ!とセレナを指差すカムに後ろのハウリア族も頷く。

いきなり指を差され、少し後退るセレナだった。

 

「そいつは忍が全責任を取ってるからいいんだよ。俺の関与するとこじゃない」

 

「むむむ…!!」

 

「つか、調子に乗るな。俺達の旅に付いてこようなんざ百八十日くらい早いわ!」

 

「ぐ、具体的!?」

 

それでもなお引き下がろうとしないカム達に対してハジメは条件を付けることにした。

 

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に使えるようなら、部下として考えなくもない」

 

「……そのお言葉に嘘偽りはありませんな?」

 

「ないない」

 

「(絶対嘘だ…)」

 

軽く返事するハジメの内心を見破る忍。

 

「もし嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ新興宗教の教祖の如く祭り上げますからな?」

 

「お、お前等…質が悪いな…」

 

「そりゃ、ボスの部下を自負していますからな」

 

「あらら、こりゃ一本取られたな、親友」

 

「うるせぇよ」

 

次に樹海に来る時は、恐らく大迷宮を攻略する時だ。

その間にハウリア族がどれだけ強くなるのか…。

そんな微妙に不安な気分を持ちつつ、ハジメは天を仰いだ。

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