死屍累々。
そんな言葉がピッタリな光景がライセン大峡谷の谷底に広がっていた。
何故、このような光景が広がっているかと言えば…
「一撃必殺ですぅ!!」
「……邪魔」
「うぜぇ」
「はいはい。そこ通りますよ~」
上からシア、ユエ、ハジメ、忍の順に谷底の魔物を屠っているからだ。
もちろん、襲い掛かってくる魔物に対しての行動なのだが、学習しないのか魔物は続けざまに襲い掛かってくる。
そうして出来上がった屍の山を後に一行は進む。
「……………………ここ、ライセン大峡谷の谷底よね?」
唯一殲滅に参戦してないセレナはそう言うのが精一杯だった。
ライセン大峡谷の入り口から数えて5日は進んだ頃…。
「今日も収穫無し、か…」
「やっぱ、ライセンのどっかにあるって情報だけじゃ大雑把過ぎたか…」
「だなぁ…」
野営の準備をしながら忍とハジメはこの5日での収穫の無さを話していた。
まぁ、準備と言っても宝物庫から野営テント二組や調理器具を出し、夕食の準備をシアがするのだが…。
ちなみにこれらの道具だが、全てハジメ謹製のアーティファクトであったりする。
野営テントには『冷房石』と『暖房石』が取り付けられて常に快適な温度を保っており、冷房石を利用して『冷蔵庫』や『冷凍庫』も作られている。
さらに金属製の骨組みには『気配遮断』を付与した『気断石』が組み込まれており、敵に見つかりにくくなっている。
調理器具も流し込む魔力量に比例して熱量を調整出来る火要らずのフライパンや鍋、同じく魔力を流し込むことで『風爪』が付与された切れ味鋭い包丁などがある。
これらの道具は魔力の直接操作が出来ないと扱えないため、一種の防犯性もある。
それらを作ったハジメの感想はと言うと…
『神代魔法超便利』
これに尽きる。
正に無駄に洗練され無駄のない無駄な技術力である。
そうして夕食を終えてその余韻に浸り、雑談をする。
就寝時にそれぞれハジメ、ユエ、シアの3人と忍、セレナの2人でテントへと戻る。
もはやこれがデフォルトになっていた。
そんな中、シアがお花を摘みに行くとテントを出て行ったのだが…
「み、皆さ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださ~~い!!」
魔物が来るのなんてお構いなしに他の4人を呼ぶシアの大声が聞こえてきた。
その大声にハジメ、ユエ、忍、セレナの4人もテントから出ていき、シア元へと行く。
「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」
そう言ってシアが駆け寄ってくるとハジメとユエの手を引っ張って巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれかかる様に倒れており、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所へと引き込む。
その隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほどに広い空間が存在した。
そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意げな表情でビシッと壁の一部に向けて指を差した。
そこには…
『おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』
という妙に女の子らしい丸っこい文面の、壁を直接削って作ったであろうと見事な装飾の長方形型の看板があった。
『!』や『♪』が妙に凝っているのがなんとも腹立たしい。
「「「「…………は?」」」」
それを見てハジメ達は訳が分からないといった具合に口を開けてポカンとしてしまう。
「……なんじゃこりゃ」
「……なにこれ」
「……なんだろうね?」
「……なんなの?」
前半2人は呆然とし、後半2人も首を傾げてしまっていた。
「何って、きっと大迷宮の入り口ですよ! いや~、お花を摘みに行ったら偶然見つけまして。本当にあったんですね、ライセン大峡谷に大迷宮って」
こんな胡散臭さ満点の看板を見て大迷宮の入り口だと判断出来るシアの感性は…どうなんだろう?
「……ユエ、忍。マジだと思うか?」
「……………………ん」
「そうだな…この看板はともかく、本物な気がする…」
「根拠は?」
「「"ミレディ"」」
「やっぱ、そこかぁ…」
『ミレディ』。
その名はオスカーの手記にも出てきたライセンのファーストネームだ。
ライセンの名は世間一般にも広く知られているが、ファーストネームとなると別で、それが記されているここは大迷宮の入り口の可能性が高かった。
しかしながら、そんな簡単に信じられるかと言われれば、問題点があり…。
「なんで、こんなチャラいんだよ」
看板のチャラさであった。
ハジメはもちろん、忍、ユエもオルクス大迷宮での死闘を経験してるが故の先入観もあった。
それがどうだろう。
この妙な軽さ……脱力せざるを得ない。
「でも、入り口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし」
そう言いながらシアがポンポンと不用意に壁の窪みの奥の壁を叩く。
「おい、シア。あんまり………」
ハジメがシアを注意しようとした時…
ガコンッ!!
「ふきゃ!?」
シアの触っていた壁が突如グルンッと回転し、それに巻き込まれたシアの姿が阿部の向こう側に消える。
「「「「……………………」」」」
大迷宮への入り口がわかり、看板の信憑性が増す。
「忍。ちょっと宝物庫渡すからテントとかを回収してきてくれ」
「あいよ。セレナはここで待っててくれ」
「わかったわ」
ハジメから宝物庫を渡されると、忍は神速を用いてテントを回収し、すぐに戻ってくる。
戻ってくると、ハジメとユエの姿はなかった。
「ハジメ達は?」
「もう中に入ってる」
「じゃ、俺等も行きますか」
そう言ってセレナを連れて忍も回転壁を通ると…
ヒュヒュヒュッ!!
明るくなっていた部屋から忍とセレナに向かって無数の矢がどこからともなく放たれていた。
「………………」
忍は特に気にするでもなく、銀狼を抜くと全ての矢を叩き落とす。
「ん~…黒狼の方が良かったか?」
若干の軽さと切れ味を優先して銀狼を使ったが、刃毀れはしていないので問題はない。
「まぁいいか。で、どういう状況よ?」
銀狼を収めながら状況を確認する。
見れば何やらしくしくと泣いているシアがその場にへたれ込んでいた。
「あ~…まぁ、色々とな。宝物庫、返してくれ」
「あいよ」
そう言って忍も宝物庫をハジメに渡すと、シアの着替えを取り出す。
微かに匂うものを感じ、忍も別の方へと視線を向ける。
「シアさんも災難だな…」
そうこうしてる内に忍も目の前の石板を見つけ、そこに書かれてる文面を見る。
『ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ』
『それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ぶふっ』
「「……………………」」
なんともイラッとする文面に忍もセレナも無表情になる。
その横をシアが通り過ぎていき…
ガシャンッ!
一瞬で大槌『ドリュッケン』を展開すると、石板を一撃の下で粉砕した。
しかし、壊した石板跡の地面にも何やら文面があり…
『ざ~んね~~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよ! プークスクス!!』
「ムキィィーーーー!!」
シアがキレて何度も地面をドリュッケンで叩き付けると部屋全体が小規模の地震っぽく震える。
「ミレディ・ライセンだけは"解放者"云々関係なく、人類の敵でいいな」
「……激しく同意」
「ここまでコケにされるとは思わなかった…」
「えぇ、そうね…」
シアの激昂を見ながら声を漏らす4人は、シアの怒りが治まるのを待ってからライセン大迷宮の攻略に乗り出すのだった。
………
……
…
結論から言えば、ライセン大迷宮はオルクス大迷宮とは違った意味で厄介な場所であった。
まず、ライセン大峡谷の特性である魔力分解作用。
これが大迷宮内では谷底とは比較にならないほど強く、魔法はほぼ封殺されていると同義だ。
それをもろに受けているのは純魔法使いのユエだ。
但し、上級魔法は使えないが、中級魔法程度なら何とか撃てるレベルだ。
いくら魔晶石シリーズに魔力を蓄えているとは言え、その減りも尋常ではなく使いどころを考えなくてはならなかった。
それでもユエだからこそ、中級魔法が使えるのであって並みの者なら役立たずに成り下がるだろう。
また、ハジメにも少なくない影響があり、空力や風爪などの放出系が使えず、纏雷も出力が大幅低下していてドンナー・シュラークの電磁加速が十全に使えないのだ。
ちなみにシュラーゲンもドンナー・シュラークの最大出力程度に威力が低下している。
それは似た固有魔法を得ている忍にも言えるのだが、ハジメよりもステータスやら技能が前衛に特化しているために特に影響がない。
シアも身体強化を持つため、このライセン大迷宮に関して言えば独壇場と言っても過言ではないのだ。
ちなみにセレナは戦力外。
シアやユエのように先祖返りして魔力を得た訳でもないので、一般的な亜人族と差して変わらないのだ。
まぁ、それでも一応は身体能力が高い方の狼人族だから、ある程度なら動ける。
比較対象がおかしいだけなのだ。
次にこの大迷宮には魔物の類がいない代わりに凶悪な物理系トラップのオンパレードということだろうか。
切断力半端無さそうな巨大丸鋸、落とし穴、岩石転がしと鉄球転がし等々…ド定番な罠からちょっと捻ったような罠まで多彩の一言だ。
極めつけは全ての罠に対し、ミレディの嫌がらせ文面が設置してあることか。
正直、罠の方がおまけと思わなくもない力の入れっぷりである。
そんなライセン大迷宮の探索は異様なほどに疲労感が溜まる。
主に嫌がらせ文面のせいで…。
一応、ハジメがマッピングを作っている。
そんな中、騎士甲冑を着た像が居並ぶ奥行きのある大きな部屋に辿り着く。
その奥には階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉がある。
さらに祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。
「如何にもな扉があんじゃねぇか。ミレディの住処に到着なら万々歳なんだが…」
「親友。それはフリかい?」
「……きっとお約束通り」
「いや、それって確実に襲われますよね? 全然大丈夫じゃないですよ?」
「はぁ……はぁ……っ、はぁ……」
5人の内、4人は余裕そうだが、1人だけ…セレナだけは肩で息をしていた。
やはり、比較対象がおかしいのだ。
それでも忍の助けありとは言え、ここまで付いて来たことには驚愕を覚えるが…。
「行くぞ」
そんなセレナに合わせる訳もなく、ハジメが歩くのにユエがついていき、セレナに気を向けながらもシアも歩いていき、最後に忍がセレナに手を向け、それを自然と掴んだセレナを連れて歩く。
皆が部屋の中央まで行くと…
ガコンッ!!
お約束の音と共に騎士甲冑の像が動き出す。
数は、50体。
単純計算で1人10体倒せばいい話である。
が、あくまでもそれは理想であって現実的ではない。
ハジメ達が部屋の中央にいた時に動き出したので、完全に包囲された形だ。
「やっぱ、お約束通りか。お前等、やれるな?」
「あたぼうよ」
「んっ」
「か、数多くないですか!? いや、やりますけども…」
「こんなとこで…!」
ハジメがドンナー・シュラークを抜きながら聞くと、忍が銀狼と黒狼を抜いて答える。
ユエとセレナも眼に戦意を携えていたが、唯一シアだけが及び腰になっていた。
「シア。お前は強い。俺達が保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから下手なこと考えず好きに暴れろ。ヤバい時は助けてやるから」
「……ん、弟子の面倒は見る」
「こういう所でこそ俺等前衛の華でしょうに。セレナも無理するなよ? いくら魔力の影響はないとは言え、体力まで失うことはないしな」
「わかってるわ。というか、私が一番のお荷物でしょうに…」
「皆さん……はい! 私、頑張ります!」
程良く緊張が解かれたところで戦闘開始である。
「セレナ! これ使え!」
流石に武器無しでは厳しいと判断した忍が銀狼をセレナに渡し、右手でアドバンスド・フューラーRを抜く。
「え…いいの!?」
「流石に武器無しじゃキツイだろ? いいから使え。くれぐれも気を付けろよ?」
「わかってるわよ!」
ギィンッ!!
と言ったそばからセレナは銀狼で騎士甲冑の大剣を受け止める。
「って、おいおい。真っ向から受けんなよ!? いくら頑丈とは言え、んなもん受けてたら他が疎かになるぞ!? 受け流してからのカウンターにシフトしろ!」
「~~っ」
忍に言われて即座に大剣を受け流すことに集中する。
その危なっかしい姿を見て…
「親友。そろそろセレナにも専用の武器を作ってやってくんねぇかな?」
とガン=カタで騎士甲冑を屠ってるハジメに相談する。
「あぁ? そんなもんテメェが作れよ。お前だって生成魔法を習得してるだろ?」
「いや、そこは錬成師様の鍛錬も兼ねてさ。いっちょ作ってくれよ。絶対俺よか良いもん作れるだろ?」
「ちっ…めんどくせぇな」
「ここの攻略が終わってからでいいからさ」
そんな雑談をしながらも襲い掛かってくる騎士甲冑を屠るのだから相変わらずの化け物コンビである。
「てやぁぁぁ!!」
一方でシアもまた騎士甲冑を相手に善戦していた。
ドリュッケンを縦横無尽に振り回し、騎士甲冑をペシャンコにしたり吹き飛ばしたりしていた。
だが、そこでシアは自分がハジメやユエのようにしっかり戦えてるという認識が出来てしまい、一瞬だが気を緩ませてしまう。
そこを突き、騎士甲冑は盾を思いっきりシアに投げつけていた。
物凄い勢いで飛んでくるそれをシアが驚いて固まってしまっていると…
ビシャァッ!!
レーザーの如き水流が盾の軌道を無理矢理逸らしていた。
「……油断大敵。お仕置き三倍」
「ふぇ!? 今のはユエさんが? す、すみません。ありがとうございます! ってお仕置き三倍!?」
「ん……気を抜いちゃダメ」
「うっ…はい!」
ユエの助力もあり、背中合わせとなってユエとシアが騎士甲冑へと立ち向かう。
近接戦のシアと、その死角を補うユエの見事なコンビネーションが炸裂する。
それを見て…
「おいおい、妬けるじゃねぇの。良いとこ見せとかないと愛想尽かされちまうかもな?」
「ハッハッハッ、女の子達に見せ場持ってかれたら流石に嫌だしな!」
そんな冗談を言い合いながら化け物コンビもまたそのコンビネーションを遺憾なく発揮する。
ハジメがシュラークで剣を受け流すと、その射線に向けて忍がアドバンスド・フューラーRを撃ち、その射線上にいた他の騎士甲冑を纏めて葬っていく。
忍が黒狼で騎士甲冑の大剣を受け流しながら腰を折ると、ハジメがその背中に自らの背中を預けてゴロンと位置を変えながら騎士甲冑を蹴って他の騎士甲冑の盾を利用したドンナーの跳弾で迎撃する。
さらに跳弾でバランスを崩した騎士甲冑を忍が黒狼で斬り裂き、攻撃を受け流し続けているセレナのフォローも忘れない。
そうして化け物コンビは互いに目を合わせ、ニィと悪い笑みを浮かべた後…
「「ジャックポット!」」
アドバンスド・フューラーRの上に横向きのドンナーを重ねて騎士甲冑の一団に向けて銃弾を放つ。
一ヵ所に3発の銃弾が向かい、盾を弾いて騎士甲冑を貫き、後ろにいたもう一体にも当たる。
「……何言ってるの?」
「何を言ってるんです?」
「何言ってんの?」
そんな声と共に女の子3人からは意味が分からないとばかりジト目がハジメと忍を射抜く。
そうして騎士甲冑を掃討しているのだが、妙な違和感があった。
50体ならもうそろそろ尽きるはずだが、一向にその気配がないのだ。
「……再生した?」
「らしいな」
「そんな!? キリがないですよ!?」
「流石に、もう…」
「どうするよ?」
ゴーレムには必ず核となるコアがある。
しかし、ハジメに聞けば、魔眼石でもコアが見つからないという。
そこでハジメは鉱物系鑑定で騎士甲冑を見ると、騎士甲冑達は『感応石』という魔力を定着させる性質を持った特殊な鉱石で作られていることが発覚。
さらに感応石は同室の魔力が定着した2つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていると、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作出来るのだとか。
要するに…
「お前等、こいつらを操ってる奴がいる。マジでキリがないから強行突破するぞ!」
「んっ」
「あいよ!」
「と、突破ですか!?」
「わかったわよ!」
ハジメの合図と共にユエ、シア、セレナが祭壇へと突進する。
殿はハジメと忍だ。
ハジメがドンナー・シュラークの連射で道を開き、その道をシアがこじ開け、ユエとセレナが隙だらけのシアを守りながらユエが扉へと向かう。
その間にハジメは手榴弾を二個ほど後方に投げ、忍がハジメに近寄る騎士甲冑を後方へと吹き飛ばす。
凄まじい爆発と爆風で多数の騎士甲冑が倒れる。
「ユエさん! 扉は!?」
「ん……やっぱり、封印されてる」
「あぅ、やっぱりですか!」
見るからに怪しさ満点の祭壇と扉だから封印は想定内。
だからこその殲滅戦ということだが、その殲滅戦がそもそも無意味と知れば強硬手段になるのも仕方ないことだ。
「封印はユエに任せる。錬成じゃ突破するのに時間が掛かり過ぎる」
「じゃ、その間に俺等で援護な」
殿の2人も祭壇に到着する。
「ん……任せて」
黄色い水晶は、正双四角錐をしており、よく見ればいくつもの小さな立体ブロックが組み合わさっていた。
ユエはそれと扉の三つの窪みを見て、水晶を分解し始める。
扉の三つの窪みに合うように水晶を組み替える必要があったのだ。
そして、その扉には…
『とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~?』
『早くしないと死んじゃうよぉ~?』
『まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!』
『大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ~! ざ~んね~~ん! プギャー!!』
例によって例の如く、嫌がらせ文面が書いてあった。
「……………………」
無表情になったユエが解読に躍起になる。
「(触らぬ神に祟りなし、だな)」
ユエの怒気を背後に感じつつ誰もが微妙にビビる。
「ハジメさ~ん、さっきみたいに一気に殺っちゃってくれませんか?」
「アホ。さっきのはトラップが確実に無い場所を狙って投げたんだ。階段付近は流石に何があるかわからんから使えるか」
「第一、ミレディ・ライセンがこのゴーレムにも反応するような罠を仕掛けるかね?」
「それこそ有り得んだろ」
「うぅ…それは確かに…」
ハジメ、シア、忍が会話をする。
あと、セレナが会話に入ってこないのは余裕がないからです。
「でも…ちょっと嬉しいです」
「あぁ?」
騎士甲冑をペシャンコにしながらポツリと呟くシアにハジメが怪訝な目を向ける。
「ほんの少し前までは逃げることしか出来なかったのに、今ではハジメさん達と肩を並べて戦えてることが…とても嬉しいです」
「……ホントに物好きな奴め」
そんな風に会話するハジメとシアの雰囲気に忍は微笑ましそうにしていた。
すると…
「……イチャイチャ禁止」
若干仏頂面のユエが戻ってきた。
「……開いた」
「よし、退くぞ!」
その声に従い、ユエが開けた扉の中へと一気に撤退する一行。
その際、ハジメが手榴弾を数個置き土産として放り投げていた。
一瞬の隙にユエとシアが扉を閉める。
扉越しから微妙に衝撃波が伝わってくる。
そうして入った部屋には……特にこれといったモノがなかった。
「これはアレか? 大仰に封印してみせたのはフェイクで、実は何もないとか?」
「あ~…」
「……ありそう」
「……………………」
「うぅ~、ミレディめぇ…どこまでバカにしたら…!」
と、その時…
ガコンッ!!
「「「「「っ!?」」」」」
何かの仕掛けが起動する音と共に、横向きにGが掛かる感覚が5人を襲う。
「これは!? 部屋自体が移動してんのか?」
「あんま喋るな! 舌噛むぞ!?」
ハジメの推測と忍の忠告だったが、皆Gに耐えるので必死だった。
ちなみにユエはハジメに抱き着き、セレナは忍が捕まえていたのでギリギリなんとかなっていた。
唯一シアだけがあっちにゴロゴロ、そっちにゴロゴロと悲惨な目に遭っていたが…。
そうして止まった部屋からなんとか外に出た一行だったが…。
そこは…
「……なんか見覚えないか? この部屋」
「……凄くある。特にあの石板」
「……ホント、嫌になるな…」
「……………………」
「最初の部屋、みたいですね?」
そう、そこは最初の…大迷宮入り口の部屋だったのだ。
それを証明するかのように…
『ねぇ、今どんな気持ち?』
『苦労して進んだのに、行き着いた場所がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?』
『ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇってば』
そんな文面があったからだ。
「「「「「……………………」」」」」
全員の表情から感情が抜け落ちる。
『あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します』
『いつでも新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです』
『嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ~! 好きでやってるだけなんだからぁ!』
『ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です』
『ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念!! プギャー』
極めつけはこの文面である。
「は、ははは」
「フフフフ」
「フヒ、フヒヒヒ」
「ククク」
「あ、あははは」
皆、我慢の限界だった。
そして…
「「「「「ミレディーーーーーーッ!!!!!」」」」」
迷宮全体に届けとばかりの絶叫が木霊したのだった。