もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第十九話『ミレディ・ライセン』

ハジメ達一行がライセン大迷宮に入って早一週間が経とうとしていた。

 

この一週間でスタート地点に戻されること7回、致死性のトラップに襲われること48回、全く意味のない単なる嫌がらせ169回と、圧倒的に嫌がらせの方が多い。

最初こそミレディへの怒りが治まりきらなかった一行だったが、四日目を過ぎた辺りからどうでもよくなっていた。

 

現在、一行はとある部屋で休息を取っており、ハジメと忍が見張りとして起きていた。

残りはハジメの左右にユエとシアが寄り添うように寝て、忍の膝枕でセレナが寝ている。

 

「ったく、よく寝てやがる。ここは大迷宮だぞ?」

 

「まぁ、そう言ってやんなよ。休める内に休む。大事なことだろ?」

 

「そりゃそうだが…」

 

そう言いながらハジメは両隣の少女達を見る。

 

「はぁ…まったく、俺みたいな奴のどこがいいんだか。こんな場所まで付いてきやがって」

 

そして、シアの方を見るとそんなことを独り言ちり、ユエを撫でていた手でシアの頭を撫で、うさ耳をモフモフしていた。

 

「起きてる時にやってやればいいものを…」

 

そんなハジメの様子に苦笑しながら忍もセレナの狼耳を一撫でする。

 

すると…

 

「むにゃ……あぅ……ハジメしゃん、大胆ですぅ~。お外でなんてぇ~……皆見てますよ~」

 

「……………………」

 

シアの寝言に優しげだったハジメの眼をそのままに瞳の奥から笑みが消え去る。

忍から"あ~あ"という感じが伝わってくる。

ハジメは無言のまま、モフモフしてた手を移動させてシアの鼻を摘まんで口を塞ぐ。

 

「ん~、ん? んぅ~!? んんーー!! んーー!! ぷはっ!? はぁ…はぁ…な、何するんですか!? 寝込みを襲うにしても意味が違いますでしょう!?」

 

起きたシアの抗議にハジメは冷ややかな目を向ける。

 

「で? お前の中で、俺は一体どれほどの変態なんだ? お外で何をしでかしたんだ? ん?」

 

「えっ? ……はっ!? あれは夢!?」

 

一体どんな夢を見たのやら…。

とりあえず、ハジメにとってはロクでもない内容には違いない。

 

「(さっきの言うなよ?)」

 

「(へいへい)」

 

軽いアイコンタクトでハジメは忍の口を封じると、ユエを優しく起こす。

それに合わせて忍もセレナを起こす。

 

「……んぅ……あぅ?」

 

「んみゅ…?」

 

ユエとセレナが可愛らしく目覚める。

 

「うぅ…ユエさんもセレナさんも可愛い……これぞ女の子の寝起きですぅ~。それに比べて私は…」

 

自分の目覚め方…ハジメも悪いっちゃ悪いのだが、それとの差を考えて落ち込むシア。

 

起きた3人娘と共に再び探索すると、一週間前に訪れてから一度も遭遇することのなかった騎士甲冑のゴーレム部屋に再び辿り着く。

但し、今回は既に扉は開放されており、その奥は部屋ではなく大きな通路となっていた。

 

「またここか。だが、今度は扉が開いてる。それなら囲まれる前に突破するぞ!」

 

「応よ!」

 

「んっ!」

 

「はいです!」

 

「わかったわ!」

 

最後尾に忍が控えながら全員が一気に駆け出し、部屋の中央に差し掛かるとゴーレムが再び動き出す。

ちなみに既にセレナには抜き身の銀狼を手渡している。

 

そうして全員が扉を抜けて通路を走っていくのだが…

 

「!? おい、親友! あいつら追ってくるぞ!! しかも壁や天井まで走ってやがる!!」

 

最後尾を走っていた忍が前のハジメに大声で叫ぶ。

 

「なに!?」

 

忍の大声にハジメも振り返ってみると、確かにゴーレム達は普通に走ってるのもいれば、壁や天井も走っているのもいた。

まるで重力を無視するかの如く。

 

大きな通路で繰り広げられる激しい攻防。

"落下"したり、前と後ろから挟撃しようとするゴーレム達。

それに対し、ハジメは十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型のロケット&ミサイルランチャー『オルカン』を用いて迎撃した。

前方のゴーレム達を粉砕したハジメはそのまま走る。

また、シアとセレナがオルカンの異様に驚いてしまい、耳に多大なるダメージをうけてしまったが…。

 

そうして約5分、通路を走り続けると、通路の終わりが見えてきた。

通路の先には広大な空間が広がっており、道自体は途切れていて、10メートルほど先に正方形の足場があった。

 

「お前等、跳ぶぞ!」

 

ハジメの声に全員が頷くと、忍はセレナをお姫様抱っこして加速する。

通路端から勢いよく跳び出した。

セレナを除く4人の身体強化ならなんとか10メートルもの距離は苦にはならない。

 

だが、この大迷宮はとにかく嫌がらせに特化している。

 

跳んだ瞬間に足場がスィーと動き出したのだ。

 

「なにぃ!?」

 

このままでは底があるのかわからない深い空間に真っ逆さまである。

 

「『来翔』!!」

 

「全開空力!!」

 

ユエが風属性で上昇気流を作り、ハジメ達を一瞬浮かせて跳躍距離を伸ばし、忍も魔力消費を一切考えないで無理矢理空力を作ってハジメ、ユエ、シアの背中を背中からの体当たり気味に押し出して足場の中心地になんとか降り立つ。

 

「な、ナイスだ。ユエ、忍…」

 

「ユエさん、流石ですぅ!」

 

「忍もお疲れ」

 

「……もっと褒めて」

 

「やべぇ…魔力がごっそり持ってかれちまった…」

 

ただでさえ魔力を食う場所で場所で一時的に空力を使ったのだから忍の魔力も削られていた。

 

この空間は超巨大な球状で、直径は2キロ以上はありそうだった。

そんな空間内には様々な形と大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊しており、不規則に移動していた。

さらにゴーレム達が縦横無尽に飛び回っている。

文字通りゴーレム達もまた浮遊しているのだ。

その動きは先程よりも巧みになっている。

 

ともかく、ハジメが代わりに場所の把握をしようとした時…。

 

「逃げてぇ!!」

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

シアの焦燥に満ちた叫び声に全員が驚き、ハジメ、ユエ、セレナを抱えた忍は反射的に今立っているブロックから飛び退く。

運良く、数メートル範囲でブロックが通りかかったので、そこに着地する形となった。

 

その直後…。

 

ズゥガガガンッ!!!

 

先程までたっていたブロックが"何か"によって木っ端微塵となる。

 

「シア、助かったぜ。ありがとよ」

 

「……ん、お手柄」

 

「流石に今のはシャレにならんな…」

 

「えへへ、『未来視』が発動して良かったです。代わりに私も魔力がごっそり持っていかれましたが…」

 

身体強化重視の2人が魔力をごっそりと持ってかれる事態に少々ハジメの表情が険しくなる。

 

そして、先のブロックを木っ端微塵にしたモノの正体は…

 

「おいおい、マジかよ…」

 

「……凄く、大きい」

 

「お、親玉って感じですね…」

 

「こりゃあ…骨が折れそうだ…」

 

「こんなのに、勝てるの…?」

 

5人が驚く目の前には超巨大ゴーレム騎士が佇んでいた。

全身甲冑は他と似たようなデザインだが、全長が20メートル弱はありそうだった。

その右手は赤熱化していて、左手には鎖がジャラジャラと巻き付いたフレイル型のモーニングスターを持っている。

 

5人が身構えていると、他のゴーレム達が集まり出してハジメ達を囲い始める。

 

いつでも殺し合いが始まる。

そんな空気の中…

 

『やっほろ~。初めましてぇ~。皆大好き、ミレディ・ライセンだよぉ~♪)

 

超巨大ゴーレムが空気を読まない喋り方をする。

 

「「「「「…………………は?」」」」」

 

その拍子抜けな挨拶にハジメ達が固まる。

 

『あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ』

 

凶悪な武器を両手にしながら器用に両手を上げて"やれやれだぜ"と言いたげに常識を説かれた。

無性に腹が立つ言い方と仕草だ。

 

「そいつは悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間の女で故人だったはずだ。まして、自我を持つゴーレムなんて聞いたことないからな。目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か"簡潔"に説明しろ」

 

『あれぇ~? こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ』

 

ハジメのド直球な質問且つ不遜な態度にミレディと名乗る超巨大ゴーレムがやや驚くも、すぐに持ち直したのか…。

 

『ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~? 何をもって人間だなんて…』

 

「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきたぞ? というか、アホな問答をするつもりはない。簡潔にと言っただろう。どうせ、立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先へと進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」

 

『お、おおう。久し振りの会話に内心、狂喜乱舞してる私に何たる言い様。っていうか、オスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?』

 

「あぁ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか、質問してるのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたいって訳じゃないからな。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 

「親友。そこに覇王の能力も付け足しておいてくれや」

 

ずっと会話をハジメに任せていたが、要求が少し足りないという感じに忍も口を出す。

 

『……神代魔法に、"ごーちゃん"の能力ねぇ~。それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?』

 

「質問してるのはこっちだといったはずだ。答えてほしけりゃ、先にこっちの質問に答えろ」

 

『こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~。まぁいいけどさぁ~。えっと、なんだっけ? あぁ、私の正体だっけ。う~ん…』

 

「簡潔にな。オスカーみたくダラダラした説明はいらんぞ」

 

『あはは、確かにオーちゃんは話が長かったねぇ~。理屈屋だったしねぇ~』

 

そんなことを言ってミレディゴーレムはどこか遠い目をするように天を仰ぐ。

 

『うん。要望通りに簡潔に言うとね。私は、確かに"ミレディ・ライセン"だよ。ゴーレムの不思議は神代魔法で解決! もっと詳しく知りたいのなら、見事私を倒して見せよ! ってね♪』

 

「結局、説明になってねぇ」

 

『ははは、そりゃあ攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?』

 

そう言ってミレディゴーレムは『メッ!』するような仕草をしてみせる。

 

「そこを曲げて教えてくんねぇかな、"ミレディおばあちゃん"」

 

『お、おばあちゃん!?』

 

忍の言い様にギョッと驚くミレディゴーレム。

 

「だって、サバ読んでないならそんくらいだろ?」

 

『言うに事欠いて"おばあちゃん"って! 私は永遠の17歳だよ!! ていうか、君ぃ! デリカシー!!』

 

「永遠の17歳とかネタですか? あと、ゴーレムにデリカシーと説かれても、なぁ?」

 

「「ぷっ…」」

 

そう言って忍が他の4人を見ると、シアとセレナは必死に笑いを堪えているようだったが…

 

「「……………………」」

 

約2名…ハジメは目を逸らし、ユエは無表情(瞳のハイライト消えてる)で忍を睨んでいた。

 

「あれぇ~?」

 

てっきり全員から同意を貰えると思っていた忍は首を傾げる。

 

「(忍…それ、地雷)」

 

「(地雷? …………………………………………あ)」

 

ハジメに念話で言われ、忍も思い出す。

約1名、見た目と年齢が釣り合ってない人がいることを…。

 

「………………ハッハッハッ!」

 

しばしの間の後、忍は冷や汗を目一杯掻いて明後日の方向を向いて笑っていた。

 

『なに笑って誤魔化そうとしてんの!? 私は傷付いたよ!!』

 

ミレディゴーレム、何故急に忍が笑ったのかわからず、ツッコミを入れる。

 

「……シノブ、後で覚えてろ」

 

「「ひっ…」」

 

ユエの絶対零度な声音を聞き、笑いそうになってたシアとセレナが小さく悲鳴を上げる。

 

「と、ともかく…お前の神代魔法は残留思念に関わるものか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」

 

ミレディゴーレムがユエのことに気付かない内に、とハジメが話題を逸らす。

 

『なんか露骨に話題逸らしてきたけど? なんか釈然としないけど…まぁいいや。その様子だと目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに私の神代魔法は別物だよぉ~。魂を定着させるのはラー君に手伝ってもらっただけだしぃ~。しかも覇王の能力も集めてるなら、用がないなんて言えないんじゃないかな?』

 

「ちっ、流石に気付きやがったか…」

 

ミレディゴーレムの推測に舌打ちするハジメ。

 

「それで結局のところ、お前の神代魔法はなんだ?」

 

『ん~ん~…知りたい? そんなに知りたいのかなぁ~?』

 

仕方ないとばかりに聞くと、調子を取り戻してきたのかニヤついた声音で聞き返してくる。

 

『知りたいなら…その前に今度はこっちの質問に答えなよ』

 

「なんだ?」

 

今度はミレディゴーレムからの問いだった。

 

『目的は何? 何のために神代魔法や覇王の能力を求めるの? あと、覇王の魂を持った人はちゃんと見つかってるの? 覇王の数は7体。その魂も7つなんだし、7人、もしくは7体はいるはずなんだけどなぁ~』

 

先程までの悪ふざけを微塵も感じさせないミレディゴーレムの問いにハジメ達は視線を交わす。

そして、ミレディゴーレムの眼光を真っ直ぐ受け止めたハジメと忍が代表として言葉を紡ぐ。

 

「俺達の目的は故郷に帰ることだ。お前等の言う狂った神とやらに無理矢理この世界に連れてこられたんでな。世界を超える神代魔法を探している。お前等の代わりに神の討伐を目的としている訳じゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない」

 

「覇王については俺が答えよう。俺の天職は『反逆者』。今の聖教教会がアンタらに対して使ってるアンタらにとっては不名誉な名称だが、何故か俺はその『反逆者』という天職になってる。だが、問題はそこじゃない。その技能欄にあった技能…『七星覇王』。これもどういった訳か知らないが、俺には覇王の魂が継承されているらしい。7つ全てな。既に覇狼の能力は回収済みだ。新たな覇王…それが何を意味するのか。俺はそれを知りたくて覇王の能力を集めている」

 

『……………………』

 

ミレディゴーレムはハジメと忍を交互に見た後…

 

『そっか』

 

一言、そう漏らしていた。

それと同時に真剣な空気から徐々に軽薄な空気が漂い出す。

 

『ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~。別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~。それにごーちゃん達の魂が1人の人間の中に…どういう巡り合わせなんだろうねぇ~。よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法とごーちゃんの能力を手にするがいい!』

 

そして、軽薄かと思えば、戦争宣言である。

 

「脈絡無さ過ぎて意味不明なんだが…何が『ならば戦争』なんだよ」

 

「いやはや、ミレディおばあちゃんにも困ったもんだ」

 

『おばあちゃん言うな!!』

 

「てか、お前の神代魔法は転移系の魔法なのか?」

 

忍のおばあちゃん呼びにミレディが吼えた後、ハジメが再度問うと…

 

『んふふ~。それはね…』

 

そう言って一瞬の静寂の後…

 

『教えてあ~げない!』

 

「死ね」

 

その答えにハジメが問答無用にオルカンのロケット弾をぶっ放す。

 

ズガァアアアアンッ!!!

 

凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡り、もうもうと立ち込める爆煙。

 

「やりましたか!?」

 

「シアさん、それフラグ~」

「……シア、それはフラグ」

 

シアの声に忍とユエが呆れた様子で言う。

 

「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~。さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのモノかもしれないよぉ~? 私は強いけどぉ~。死なないように頑張ってねぇ~♪」

 

そう言って爆煙から出てきたミレディゴーレムは左手のモーニングスターを予備動作なく射出してハジメ達を狙う。

ハジメ達は散開するようにそれぞれの近場のブロックへと退避する。

さっきまで立っていたブロックがモーニングスターで木っ端微塵になると、モーニングスターは宙を泳ぐように旋回してミレディゴーレムの手元に戻る。

 

「やるぞ、お前等! ミレディを破壊する!!」

 

「応ッ!」

 

「んっ!」

 

「了解ですぅ!」

 

「頑張るわ…」

 

ハジメの号令に約1名を除いて不敵に返す。

するとハジメ達を囲って待機状態だったゴーレム騎士達も動き出す。

 

その動き出したゴーレム騎士に対し、ユエがくるりと身を翻し、じゃらじゃらぶら下げた水筒の一つを前に突き出して横薙ぎにすると、極限まで圧縮された水がウォーターカッターとなってレーザーの如く飛び出してきたゴーレム騎士達を横断する。

 

『あはは、やるねぇ~。でも総勢50体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~?』

 

嫌味ったらしい口調でミレディゴーレムが再度モーニングスターを射出した。

 

「ユエさん、セレナを頼むな!」

 

さっきのことを棚に上げて忍がユエにセレナを託すと…

 

バッ!!

 

シアは大きく跳躍して頭上を移動していた三角錐のブロックに、忍は横に向かって大きく跳躍して菱形の八面体のブロックにそれぞれ飛び移る。

そして、ハジメは飛んできたモーニングスターにドンナーの銃口を向け…

 

ドバァァンッ!!!

 

銃声は1発に聞こえるが、実際は6発全てを一瞬にして撃ち込んだハジメお得意の早業である。

しかも威力が通常よりも劣るもののレールガン仕様なので、そこそこ威力がある。

そんな弾丸が6発もモーニングスターに直撃すれば、さしもの大質量の金属塊でも影響が出て軌道が大きく逸れる。

 

同時にシアがドリュッケンを打ち下ろし、忍が横から同じくレールガン仕様にしたアドバンスド・フューラーR/Lから合計で24発の弾丸を撃つ。

 

『見え透いてるよぉ~』

 

そんな攻撃を予見していたのか、後方に"落ちる"ように後退するミレディゴーレム。

 

「だろうな。親友!!」

 

「わぁってるよ!!」

 

ドンナーを高速リロードし、シュラークも抜いて前方に照準する。

 

『?』

 

それに何の意味があるのかとミレディゴーレムが首を傾げると…

 

ドバァァンッ!!

 

再びハジメが12発の弾丸を一気に斉射する。

但し、今回は狙いがバラバラに見える。

 

すると…

 

キキキキキキキンッ!!!!

 

けたたましい金属音が響き渡ると共に…

 

ズガガガガガンッ!!!

 

『なぁっ!?』

 

ミレディゴーレムの甲冑部分のあちこちから着弾の音が聞こえてくる。

 

理由は単純。

忍が横合いから放った24発の弾丸をハジメの撃った12発の弾丸が弾き、その軌道を後方に退避したミレディゴーレムへと修正したからだ。

結果、総数36発のレールガン仕様の弾丸が甲冑のあちこちに当たり、ミレディゴーレムに対して小さなダメージを与えたのだ。

 

無論、こんな無茶苦茶な芸当は化け物コンビにしか出来ない。

忍は全射撃や高速リロードを習得してないが、アドバンスド・フューラー自体の威力は高い。

逆にドンナー・シュラークはハジメの技能によって速射性に優れている。

そうして微妙にタイミングがズレるアドバンスド・フューラーの弾丸をハジメが魔眼石や瞬光を用いて正確に捉え、これまた絶妙な角度で跳弾させることで全ての弾丸はミレディゴーレムへと向かう。

今回は的が大きかったのもあって全弾命中することとなった。

そして、互いの腕を信頼しているからこそ出来る合わせ技でもあった。

 

「「(ドヤァ)」」

 

2人揃ってミレディゴーレムに向けてドヤ顔を見せる。

 

『ムッカァ~!!』

 

ハジメと忍のドヤ顔に若干イラつくような声を出すミレディゴーレム。

だが、そうすることでミレディゴーレムの意識は2人に向いており…

 

「うりゃあぁぁぁぁ!!!」

 

ドッガァァァァンッ!!!

 

いつの間にやらドリュッケンの引き金を引いて打撃面を爆発(跳弾時の金属音で掻き消されてた)させ、その反動を利用して軌道を修正し、空中三回転の遠心力たっぷりの一撃をミレディゴーレムの頭部に叩き込むシアがいた。

 

『ぐふぅっ!?!?』

 

見事、ミレディゴーレムの頭部にクリティカルヒットしたシアの打撃の後…

 

ドゴンッ!!

 

『うにゃぁぁぁ!!?』

 

再び引き金を引いて打撃面を爆発させ、その反動でクルクルと回りながら近場のブロックへと退避する。

 

「はっ! やるじゃねぇかよ。ま、俺と忍が注意を引いたんだ。これくらいやってもらわないとな!」

 

「ま、確かにな」

 

そんな風に会話していると、ユエとセレナの手に余りそうな数のゴーレム騎士が殺到してくる。

それを察知し、ハジメが宝物庫からガトリング砲『メツェライ』を取り出し、ユエと背中合わせの状態になる。

 

ドゥルルルルル!!!

 

六砲身のバレルが回転しながら毎分12000発の弾丸を掃射する。

その死角に回り込もうとするものは水のレーザーが両断するのだが…。

そうして軽く40体以上のゴーレム騎士を屠るハジメとユエ。

 

『ちょっ、なにそれぇ!? そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!?』

 

シアの一撃から立ち直ったミレディゴーレムがハジメのメツェライを見て驚愕の声を上げる。

 

「ミレディの核は心臓と同じ位置だ。アレを破壊するぞ!」

 

『んなっ!? なんでわかったのぉ!?』

 

ハジメの言葉に再度、驚愕の声を上げるミレディゴーレム。

 

メツェライを宝物庫に格納すると、ハジメは再びドンナー・シュラークを抜き、浮遊ブロックを移動してミレディゴーレムへと接近を試みる。

しかし、それはミレディゴーレムの頭上にあった浮遊ブロックが落ちてきたことで阻まれる。

 

「ッ!?」

 

『ふふふ。操れるのがゴーレムだけとは誰も言ってないよぉ~?』

 

「こなくそ!!」

 

宙を飛んでいた途中だったので、ハジメは義手のギミックを起動させて無理矢理体の軌道を近場の浮遊ブロックへと向けた。

その足場を"落とそう"とするミレディゴーレムだが、いつの間にか背後に回っていたシアを感知する。

もう一度、頭部に強烈な一撃を叩き込もうと跳躍したが、残りのゴーレム騎士がシアへと向かう。

 

「……させない」

 

ユエもまた移動していたらしく、『破断』によってシアに群がるゴーレム騎士達を細切れにした。

 

「流石、ユエさんです!」

 

『ゴーレムがパワー勝負で負けるとでもぉ~?』

 

シアの一撃を今度は赤熱化した右手が迎撃する。

 

「うぐぐぐ!!」

 

シアの一撃とミレディゴーレムの一撃がぶつかり合った衝撃波で浮遊ブロックが放射状に吹き飛ぶ。

 

『よいしょぉ~!』

 

「きゃああ!?」

 

だが、力勝負ではやはりゴーレムに一日の長があるのか、シアが吹き飛ぶ。

吹き飛ばされた方に浮遊ブロックはないが、ユエが瞬間来翔を用いてシアを助ける。

 

『ふぅ。なかなかのコンビネーションだねぇ~』

 

余裕そうな声で呟くミレディゴーレムだが…

 

「だろ?」

 

『!?』

 

すぐそばから聞こえてきた声に固まる。

 

『い、いつの間…『ドォガンッ!!』…ッ!?!?』

 

ミレディゴーレムの驚愕の声はシュラーゲンの轟音によって掻き消える。

ゼロ距離で撃たれたシュラーゲンで吹き飛ぶミレディゴーレムと、その反動で後方に下がるハジメ。

いくらシュラーゲンの威力が大幅に低下しているとは言え、ゼロ距離からならばダメージも与えられる。

 

ハジメの近くにユエ、シア、セレナを抱えた忍が集まる。

 

「……いけた?」

 

「手応えはあったんだけどな…」

 

「これで終わってほしいですぅ」

 

「はぁ…はぁ…」

 

「……いや、そうもいかないみたいだぜ?」

 

忍が鼻を少し動かすと、そう言ってミレディゴーレムの方を見る。

 

『いやぁ~、大したもんだねぇ~。ちょっとヒヤッとしたよぉ~。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮してたら危なかったかもねぇ~。うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん、天才!!』

 

自画自賛するミレディゴーレム。

よくよく見れば、破壊された胸部装甲の奥に漆黒の装甲があり、そちらには傷一つもなかった。

 

「………………アザンチウムか。くそったれ」

 

それに見覚えがあったハジメは悪態を吐く。

アザンチウム鉱石は世界最高硬度を誇り、ハジメの装備にもいくつか使われているので、その厄介性は嫌というほどわかっていた。

 

『おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーちゃんの迷宮の攻略者だもんねぇ。生成魔法の使い手なら知らない訳ないよねぇ~。さぁさぁ、程良く絶望したところで、第二ラウンドと言ってみようかぁ!』

 

そう言うと、ミレディゴーレムは近場のブロックを粉砕して素材にすると表面装甲を再構築し、モーニングスターを撃ち込み、自らも猛然と突撃してくる。

 

「ど、どうするんですか!? ハジメさん!」

 

「まだ手はある。なんとかして奴の動きを封じるぞ!」

 

「……ん、了解」

 

「私、いない方が良かったかも…」

 

「ま、なるようにならぁね」

 

迫るモーニングスターを回避すべく散り散りに跳ぼうとするハジメ達だが…。

 

『させないよぉ~』

 

瞬間、集まっていたブロックが高速回転し始めて全員がバランスを崩す。

そこにモーニングスターが激突する。

足場を失い、バラバラに何とかするハジメ達だが、唯一セレナだけは忍の助けによって事なきを得る。

だが、そこにさらに右手の追撃が迫る。

 

「神速!」

 

忍はセレナを抱えた状態で砕けたブロックの破片を足場に高速で移動し、ミレディゴーレムの右腕を駆け上がる。

駆け上がるついでとばかりにアドバンスド・フューラーの銃弾を右腕のあちこちにめり込ませ、一気にミレディゴーレムの背後にあったブロックに飛び移る。

 

『はーちゃんの移動法かぁ! 懐かしいねぇ!』

 

そうしてミレディゴーレムの意識が少しだけ忍に向いた隙に…。

 

チュドオォォンッ!!!

 

『わわわ!? な、なになに!?』

 

いつの間にやらモーニングスターを繋いでた鎖に仕掛けられた手榴弾が大爆発を引き起こし、左腕に多大なダメージを与える。

 

「うりゃあぁぁぁぁっ!!!」

 

「『破断』!」

 

シアが脆くなった左腕を、ユエが銃弾を撃ち込まれた右腕をそれぞれ吹き飛ばしたり、銃弾と銃弾を点にして切断したりしていた。

 

『っ! このぉ、調子に乗ってぇ!!』

 

両腕を失ったミレディゴーレムは奥の手を使うことにした。

 

「っ!? 皆さん、気を付けて! "降ってきます"!!」

 

未来視を見たらしいシアの叫びが木霊する。

 

『ふふふ、お返しをしなくちゃねぇ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に"落とす"だけなら数百単位でいけるからねぇ~。見事、凌いで見せてよぉ~』

 

前のハジメ、ユエ、シアの3人と後ろの忍、セレナの2人に浮遊ブロックが一斉に落ちてくる。

傍から見れば、ユエとシアを両脇に抱えたハジメとセレナを抱えた忍が悪足掻きの末、ブロックに押し潰されたようにも見えるだろう。

 

『う~ん…やっぱり、無理だったかなぁ~? でも、これくらいは何とか出来ないと、あのクソ野郎共もは勝てないしねぇ~』

 

実際そう見えたのだろうミレディゴーレムはブロックを空間全体に散開させて5人の死体を探す。

 

だが…

 

「そのクソ野郎共には興味ないって言ったろうが」

 

『え…?』

 

ミレディゴーレムの背後からハジメの声が聞こえてきた。

振り返れば、荒い息を吐き、目や鼻から血を流しているものの五体満足のハジメが浮遊ブロックの上からミレディゴーレムを睥睨していた。

 

『ど、どうやって…』

 

「答えてやってもいいが……俺ばかり見ていてもいいのか?」

 

『えっ?』

 

そう、ハジメが健在ということは…

 

「『破断』!!」

 

「乱れ撃つぜ!!」

 

ユエのウォーターカッターと忍の銃撃がミレディゴーレムの甲冑を削っていく。

 

『なぁ?!』

 

「さぁ、行くぜ?」

 

再びシュラーゲンをゼロ距離発砲すると、今度は離脱せずにミレディゴーレムの胸部…シュラーゲンを撃った箇所に義手を押し付け、ありったけの炸裂ギミックをしこたま撃ち込む。

 

『ぐぅ!? こ、こんなことしても結局は…』

 

「ユエ!」

 

ハジメの攻撃で浮遊ブロックの上に叩き付けられたミレディゴーレムに対し…

 

「凍って! 『凍柩』!!」

 

ユエが上級魔法を発動する。

 

『なっ!? なんで上級魔法が!?』

 

本来なら使えるはずのない上級魔法だが、予め水を用意していれば魔力を節約出来る。

それは『破断』で実証済みである。

故に水とユエの魔晶石シリーズからの魔力を用いることで上級魔法を発動することが可能となったのだ。

 

そうして浮遊ブロックに氷で縫い付けられたミレディゴーレムの胸部に立ったハジメは…

 

「存分に喰らって逝け」

 

全長2メートルはある凶悪なフォルムをした直径20センチはある漆黒の杭を打ち込むための兵装『パイルバンカー』をミレディゴーレムの胸部へと押し当てる。

 

ゴォガガガンッ!!!

 

そして、何の躊躇もなくパイルバンカーを発射した。

だが、杭が四分の三辺りで止まってしまい、ミレディゴーレムの眼から光が消えることはなかった。

 

『ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、大したもんだよぉ。世界最高硬度をここまで…』

 

ミレディゴーレムがそう言うが、ハジメは想定内とばかりに声を上げる。

 

「シア!!」

 

パイルバンカーの杭以外を格納すると、ハジメが下がり、代わりにシアがドリュッケンを手に飛来する。

そして、杭を餅つきウサギの如くミレディゴーレムへと叩き込む。

 

そして…

 

パキンッ!!

 

そんな音が装甲の内側から聞こえてきた。

ミレディゴーレムの核が砕かれたのだ。

 

こうしてミレディゴーレムを撃破した一行は互いにサムズアップをして笑い合っていた。

但し、セレナだけは微妙に寂しそうな表情をしていたが…。


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