もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第二十話『ご褒美は…?』

辺りにもうもうと粉塵が舞い、地面には放射状の罅が幾筋も刻まれており、激突した浮遊ブロックが大きなクレーターを作り、その上に胸部から漆黒の杭を生やした巨大なゴーレムが横たわっていた。

 

そのミレディゴーレムの上で、ドリュッケンを支えに息を荒げたシアの元に、ハジメ達がやって来る。

 

「やったじゃねぇかシア。最後の気迫は凄かったぜ。見直したぞ?」

 

「……ん、頑張った」

 

「いやぁ、今回は持ってかれちまったなぁ」

 

「凄かったわね」

 

「皆さん…えへへ、ありがとうございます。でも、ハジメさん。そこは"惚れ直した"でもいいんですよ?」

 

「直すも何も元から惚れてねぇよ」

 

そう言ってるハジメのシアを見る目は最初の頃に比べたら優しいものであった。

 

「ふぇ? な、なんだか……ハジメさんが凄く優しい目をしてる気が………夢?」

 

「お前なぁ。いや、まぁ…日頃の扱いを考えたら仕方ないと言えば、仕方ない反応なんだが…」

 

「そこは親友の自業自得だろ?」

 

シアの反応に難色を示すハジメに対して忍が笑う。

そんなシアの元にユエがトコトコと近寄っていき、服を引っ張り屈ませると徐にシアの頭を撫でる。

 

「え、えっと…ユエさん?」

 

「……ハジメは撫でないだろうから、残念だろうけど代わりに。よく頑張りました」

 

「ゆ、ユエさぁ~ん。うぅ、あれ、なんだろ? なんだか泣けてぎまじだぁ~、ふぇぇん」

 

「……よしよし」

 

緊張の糸が切れたのか、ユエに抱き着いてわんわんと泣くシアをユエが優しく頭を撫でている。

 

「セレナ。お前さんもお疲れさん」

 

「私は…特に役には立たなかったから…」

 

「別に役立つとか役立たないとかじゃなく、何の力もなくここまでついてきてくれたことへの感謝さ」

 

「感謝なんて…されても困る」

 

「それでも、ここまでついてきた根性はシアさんにも負けてねぇよ。ま、比較対象がおかしいだけだしな」

 

「………………」

 

そう言って忍もセレナの頭を撫でて慰めていると…

 

『あのぉ~。良い雰囲気のとこ悪いんだけどぉ~、そろそろヤバいんで、ちょっといいかなぁ~?』

 

その声にハッとハジメ達はミレディゴーレムを見る。

微かにだが、光る眼が蘇っていた。

咄嗟に全員が身構えると…

 

『ちょっ、待った待った! 大丈夫だってぇ~。試練はクリア! アンタ達の勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間を取っただけだよぉ~。もう数分も持たないから』

 

それを証明するかのようにピクリとも動かないゴーレムの躯体と明滅する眼を見て警戒心を少しだけ解いたハジメが前に出る。

 

「で? 何の用だ、死にぞこない。死してなお空気を読めんとは……残念さでは随一の解放者ってことで後世に伝えてやろうか?」

 

『ちょっ、やめてよぉ~。なに、その地味な嫌がらせ。ジワジワきそうなところが凄く嫌らしい』

 

「アンタ程ではないだろ、ミレディおばあちゃん」

 

『まだそれを言うか!?』

 

「忍」

 

「悪い悪い」

 

話の腰を折られ、少しだけ忍を睨むと、ハジメに謝罪しながら続きを促す。

 

「で? "クソ野郎共"を殺してくれっていう話なら、聞く気はないぞ?」

 

『言わないよ。言う必要もないしね。話したい……というよりも忠告かな。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること。君達の望みのために必要だから…』

 

何やら意味深なことをミレディゴーレム。

 

「全部、ね。なら、他の迷宮の場所を教えろ。失伝してて、ほとんどわからねぇんだよ」

 

『あぁ、そうなんだ。そっか……迷宮の場所がわからなくなるくらい……永い時が経ったんだね……うん、いいよ………場所はね……………………』

 

そうして、ハジメ達はミレディゴーレムから他の大迷宮の場所を聞く。

 

『…以上だよ。頑張ってね』

 

「……随分としおらしいじゃねぇの。あのウザったい口調やら台詞はどうした?」

 

ハジメの言う通り、今のミレディゴーレム…いや、ミレディはあのウザい文面やらトラップを設置したとは思えない誠実さや真面目さを感じさせる。

 

『あはは、ごめんねぇ~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌な奴等でさ……嫌らしいことばっかしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいてほしくてさ…』

 

「おい、こら。狂った神のことなんざ興味ないって言っただろうが。なに、勝手に戦う前提で話してんだよ」

 

ハジメの不機嫌そうな声に、しかしてミレディは意外なほど真剣さと確信を宿した声音で言った。

 

『……戦うよ。君達が君達である限り……必ず……君達のどちらかが、きっと神殺しを為す。もしかしたら、両方かもしれないしね』

 

「……意味が分からねぇよ。そりゃあ、俺の道を阻むなら殺るかもしれないが…」

 

「それは…やはり、覇王にも関係してるのか?」

 

『ふふ、それでいい。君達は君達の思った通りに生きればいい…………君達の選択が………きっと……この世界にとっての……………最良だから………………………それにしても新しい覇王か…………………君なら、きっと…………………繋げられるよ』

 

「なに?」

 

『巫女ちゃんと、仲良くね?』

 

「!? おい、その話、もっと詳しく!!」

 

忍が追求しようとしたが、眼の光は弱々しく今にも消えそうだった。

そこにユエが前に出て…

 

『なにかな?』

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

 

『…………………』

 

ユエの言葉に一瞬押し黙ったが…

 

『…………………ありがとね』

 

「……ん」

 

ミレディがお礼を言うと、ユエも小さく頷く。

 

『さて、時間の……ようだね………君達のこれからが………自由な意志の下に………あらんことを……………』

 

オスカーと同じ言葉をハジメ達に贈り、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。

 

「「「「「……………………」」」」」

 

しばし5人は天に消えていった光を見ていたが…。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思ってたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

 

「……ん」

 

「神の嫌がらせに慣れるように、か…」

 

女の子3人はしんみりした雰囲気で話していると…

 

「親友はどう思う?」

 

「どうでもいい。さっさと行くぞ。それと、断言するが、あいつの性根の悪さも素だと思うぞ? あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃねぇよ」

 

なんとも淡白なハジメの反応に女性陣から苦言が届く。

 

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人に鞭打つようなことを。酷いですよ。まったく空気を読めないのはハジメさんの方ですよ」

 

「……ハジメ…メッ!」

 

「忍からもなんか言ってやんなさいよ」

 

「ん~…悪いが、今回は親友側に回るわ」

 

「「「えぇ~」」」

 

忍の言葉に明らかな不満、というか非難の声が上がる。

 

そうこうしてる内に、いつの間にか壁の一角が光を放っているのに気付き、気を取り直してその場所へと向かう。

光ってるのは上方の壁なので、浮遊ブロックを足場にしようとすると、一つのブロックに飛び移る。

すると、そのブロックがスィーと動き出して光る壁までハジメ達を運んでいく。

 

「「………………」」

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

 

「……サービス?」

 

「もしそうならやっぱりミレディって良い子なんじゃ…」

 

ますますハジメと忍の株が下がりそうになる。

ただ…2人共、物凄く嫌そうな表情だったが…。

 

そして、光る壁の5メートル前に到着すると壁の光が薄れていき、スッと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られる。

その奥に続くのは白い壁で出来た通路だった。

 

ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま白い通路を滑るように移動し始める。

どうもミレディ・ライセンの住処まで連れてってくれそうな勢いだ。

そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれた例の7つの紋様と獣が描かれた壁があった。

その壁に近付くと、壁が左右にスライドしていき、奥の部屋へと誘う。

 

そして、壁を潜り抜けると…

 

『やっほ~! さっき振り! ミレディちゃんだよ!』

 

ミレディゴーレム(ミニバージョン)が待っていた。

 

「「「……………………」」」

 

それに固まる女性陣。

 

「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

 

「いやはや…アレで昇天してるならこの大迷宮、破綻してるもんなぁ~」

 

ハジメと忍は何となくこんなことだろうと思っていたらしい。

あのウザい文面や嫌らしい罠の数々は真面目な性格ではまず出てこないだろう。

だが、あの場面での真面目な口調や誠実さも本物だという妙な確信がハジメと忍にはあった。

さらにミレディは魂をゴーレムの中に移して生き永らえてきたのだ。

そんな人物がたった1回の試練のクリアで昇天するとは思えなかった。

もし、それで昇天したら2回目以降の大迷宮の最終試練がなくなり、そもそも試練の意味がなくなるからだ。

それらを総合した時、ハジメと忍はミレディのあの昇天のように見せたのは"演出"の可能性が高いと判断したのだ。

そして、それは移動した浮遊ブロックで確信に変わったとか…。

 

『あれあれぇ~? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚き過ぎて言葉も出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆』

 

ミレディゴーレム・ミニ(巨大ゴーレムと異なり、人間らしいデザインで、華奢なボディに乳白色のローブを身に纏い、ニコちゃんマーク付きの白い仮面を顔に当たる部分に引っ付けている)がハジメ達の前にトテトテと歩いてやってくる。

女性陣は顔を俯かせ、垂れ下がった髪のせいで表情が見えないが…若干、身体がプルプルと震えている気もしないでもない。

 

「……さっきのは?」

 

『ん~? さっきの? あぁ、もしかして消えちゃったかと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!』

 

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

 

『ふふふ、なかなかよかったでしょ? あの"演出"! やだ、ミレディちゃんってば、役者の才能もあるなんて! 恐ろしい子!』

 

「つまり…私達の悲しみ損?」

 

『悲しんでくれたの? でも、私ってばまだこうして生きてるし、悲しんでくれたのは嬉しいけど…まぁ、確かに損だね!』

 

ミレディゴーレム・ミニ…否、ミレディのテンションの上がり方に比例してウザさも上昇する。

それに反比例するかのように女性陣の周りの温度が下がり続ける。

そして、ユエは手をミレディに突き出し、シアはドリュッケンを構え、セレナは忍の腰から無造作に銀狼と黒狼を抜く。

心なしか、3人の眼がギラリと光った気がする。

 

『え、え~と…』

 

事ここに来て、ミレディも『あれ? やり過ぎた?』と思ったのか…

 

『テヘペロ☆』

 

可愛い子がやれば男ならちょっとは大目に見そうな仕草でそんなことを宣う。

しかし、悲しいかな。

今のミレディはゴーレムの躯体であり、相手は女子だ。

むしろ、殺気が増す。

 

「……死ね」

 

「死んでください」

 

「死になさい」

 

一斉にミレディに飛び掛かる女性陣。

 

『ま、待って! ちょっと待って?! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズいからぁ!? 落ち着いて! 謝るからぁ!!?』

 

何とも騒がしく3人から逃げるミレディだった。

 

そんな騒ぎを無視して部屋を観察していたハジメと忍。

部屋自体は全てが白く、中央の床に魔法陣が刻まれている以外だと、壁の一部に扉らしきものがあるだけだった。

 

「親友、どうよ?」

 

「あぁ、多分これが神代魔法の習得用の陣だろうな」

 

徐に魔法陣に近寄って調べるハジメに忍が尋ねる形だ。

それに気付いたミレディがハジメと忍の元に駆け寄り、それを追って女性陣も迫ってくる。

 

『君達ぃ~、勝手に触っちゃダメだよぉ。ていうか、お仲間でしょ!? 無視してないで止めようよぉ~!』

 

「いや、自業自得でしょうよ。ミレディおばあちゃん」

 

『おばあちゃん言うな!』

 

「つか、人を盾にしてんじゃねぇよ」

 

何気にハジメと忍を盾にして女性陣から逃れようとするミレディ。

そんなミレディにハジメが義手でアイアンクローを決めると、宙ぶらりんに持ち上げる。

 

「おい、ミレディ。このまま愉快なデザインになりたくなかったら、さっさとお前の神代魔法を寄越せ」

 

「ついでに覇王の能力が封印された宝玉もな」

 

『あのぉ~、言動が完全に悪役とその悪友だと気付いて…"メキメキッ!!"…了解であります! すぐに渡すであります! だからスト~ップ! これ以上は、ホントに壊れちゃう!!』

 

ジタバタと藻掻くミレディを見てか、多少は冷静さを取り戻した女性陣はそれぞれ武器を収める(セレナは忍に二刀を返す)。

それから魔法陣の中にハジメ、ユエ、シア、忍が入る。

 

『ん? 君は?』

 

唯一魔法陣に入らないセレナにミレディが声を掛ける。

 

「どうせ亜人族には魔法が使えないし」

 

『ん~? じゃあ、なんでここに?』

 

そんなことを言うセレナに対して首を傾げると…

 

「セレナは覇王の巫女だ。それがどういうものか知りたいから付いて来たんだ。あと、俺の見極めもか」

 

忍が補足する。

 

『てことは、彼女が"今の"巫女ちゃんの1人?』

 

「あぁ。一応、巫女らしい人物はセレナを含め4人は判明してる。今んとこ全員が亜人族だが…」

 

『ということは……あと、3人か…』

 

「やっぱり、7人いるのか…」

 

『そりゃね。覇王は7体いたんだから巫女ちゃんも7人"いた"よ』

 

「(やはり、ミレディは巫女についても知ってるか…)」

 

そんな忍とミレディのやり取りに業を煮やしたのか…

 

「おい、話は後にしてさっさと神代魔法を寄越せ」

 

ハジメがイラついたように促す。

 

『はいはい。ただいまぁ~』

 

そうしてミレディが魔法陣を起動させ、神代魔法を4人の脳へと刻み込む。

今回はミレディ本人が試練のクリアを見届けているので、オルクス大迷宮のように記憶を探ることはしない。

ハジメ、ユエ、忍は経験済みなので特に反応を見せなかったが、シアは未経験だったのでビクンと身体が跳ねてしまう。

ものも数秒で刻み込みが完了し、あっさり味みたいな感じでミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れた。

 

「これは……やっぱり、重力操作の魔法か」

 

『そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法はズバリ"重力魔法"! 上手く使ってね……って言いたいとこだけど、君とウサちゃんは適性ないねぇ~。もうビックリするくらいのレベルでないね!』

 

「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

 

ミレディの言葉にハジメがそんな風に言い返す。

 

『まぁ、ウサちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな? 君は生成魔法使えるんだから、それでなんとかしなよ。逆に金髪ちゃんは適性バッチシだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ。覇王君は…まぁ、普通だね。可もなく不可もなく、って感じ? ま、ごーちゃんの能力得るんだし、問題ないっしょ』

 

ミレディの何とも投げやりな言葉にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは意気消沈し、忍は微妙な表情をする。

 

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前の持ってる便利そうなアーティファクトの類と感応石みたいな珍しい鉱石も全部寄越せ」

 

そんな中、ハジメがミレディに容赦のない要求する。

 

『……君、台詞が完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?』

 

さっきのアイアンクローで歪んだニコちゃんマークが若干ジト目に見えなくもないが、ハジメは気にした様子はなかった。

ミレディはごそごそと懐の中を探ると、一つの指輪(上下の楕円を一本の杭が貫いたデザイン)を取り出してハジメに放り投げる。

さらに虚空に大量の鉱物類を出現させる。

 

ハジメがそれらの鉱物類を調べてる間に…

 

「さて、ミレディおばあちゃん。さっきの話の続きだ。アンタの口から覇王や巫女についても教えてほしい」

 

忍が覇王と巫女について話を聞こうとする。

 

『オーちゃんやオーちゃんとこのはーちゃんから聞いてないの?』

 

「覇王についてはちらほら聞くが、巫女に関しては情報が無いんだよ」

 

『ふ~ん…』

 

少しだけ考える仕草をすると…

 

『いいよ。教えてあげる。けど、私もそんなに詳しいわけじゃないから、そこは割り切ってね?』

 

「あぁ」

 

真面目な口調でミレディが言うので、忍もそこは頷く。

 

『まず、覇王。元々は7体の獣っていうのはわかってるね?』

 

「あぁ。さっきの壁…というよりもオルクス大迷宮やハルツィナ樹海の大樹のとこでも7つの紋様と共に描かれてあったな」

 

『うん。それがそれぞれの覇王の姿。それぞれが覇の道を歩んできた獣。あのクソ野郎共に対する切り札の一つでもあったんだよ』

 

「切り札? 何か勝算があったのか?」

 

『……それはいずれ覇王君が自ずと答えを見つけるよ。"繋げる"、この言葉を覚えていてね?』

 

「………………わかった」

 

この場で言いたくないのなら深くは追求することはない、と忍は判断した。

 

『次に巫女ちゃんだけど…そもそも前の巫女ちゃんは皆人間族だったからあんまり参考にはならないと思うんだけど…』

 

「そうなのか?」

 

『少なくとも当時の巫女ちゃん達は皆特殊な能力とかもなかったし、基本的には覇王に寄り添ってたからね。その関係性を強いて表すなら……(つがい)、かな?』

 

「………………なに?」

 

なんか聞き捨てならないことを言われ、忍が固まる。

 

『だから、番。まるで夫婦みたいな感じ? 獣夫に人間妻みたいな…今思うと、そんな雰囲気だった気もするんだよねぇ』

 

「………………その当時の巫女達はどうなったんだ?」

 

『クソ野郎共の言葉に踊らされた人達に、ね。亡骸は覇王がそれぞれ後生大事にしてて、覇王達が亡くなった時に一緒にね』

 

「そうか…」

 

『他の皆がどうしたかまではわからないけど…少なくとも、私はごーちゃんと一緒に、と思ってさ』

 

「………………」

 

忍は当時の巫女や覇王達を想って冥福を祈った。

 

『私が知ってるのはこれくらいだよ。参考になったかな?』

 

「あぁ、何もわかんないよりはマシだったよ」

 

『そっか。じゃあ…はい、これ』

 

忍の言葉に満足したのか、ミレディが取り出したのは漆黒の宝玉だった。

 

『これがごーちゃん…"獄帝"の能力を封じた宝玉だよ』

 

「獄帝…」

 

そう呟いて宝玉を受け取ると…

 

カッ!!

 

漆黒の光が忍を包み込む。

 

「……………………」

 

そのまま忍の意識は闇の中へと落ちてしまい、その場で後ろに向かって倒れてしまった。

 

『あらら』

 

忍が倒れた後…

 

「ちっ、またかよ。おい、ミレディ。それ、宝物庫だろ? それごと全部寄越せ」

 

鉱石類を調べ終わり、自分の宝物庫に鉱石類を収納したハジメが忍の状態を見て舌打ちし、ミレディに更なる要求を突きつける。

 

『あ、あのねぇ~。これ以上は渡すものないよ。宝物庫も他のアーティファクトも迷宮の修繕や維持管理とかに必要なんだから』

 

「知るか。寄越せ」

 

『あっ、こら! ダメだってば!?』

 

ハジメの横暴な態度と根こそぎ持ってかない勢いにミレディも逃げる。

浮遊ブロックを浮かせてその上に逃げるくらい、ハジメの強盗っぷりは酷かった(が、親友は寝てるのでツッコミ役がいない)。

 

「逃げるなよ。俺はただ、攻略の報酬として身ぐるみを置いてけと言ってるだけだぞ? 至って正当な要求だろうに」

 

『それを正当と言える君の価値観がどうかしてるよ!? うぅ、いつもオーちゃんに言われてたことを私が言うようになるなんて…』

 

「ちなみにそのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」

 

「オーちゃぁ~~ん!!」

 

セレナは忍の介抱をしてるので参戦しなかったが、ユエとシアもハジメに加勢して包囲網を狭めていると…

 

『はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もういいや。君達を強制的に外に出すからね! 戻ってきちゃダメだよぉ!』

 

今にも飛び掛からんとしているハジメ達に、いつの間にか天井からぶら下がっている紐にミレディが飛びついた。

 

「「「「?」」」」

 

"なんだろう?"と思った瞬間…

 

ガコンッ!!

 

この迷宮で聞き慣れた罠の作動音が聞こえてくる。

 

「「「「っ!?」」」」

 

それと共に四方の壁から途轍もない勢いと量の水が流れ込んできて部屋を激流で満たし、同時に部屋の中央にある魔法陣を中心に蟻地獄のように床が沈んで穴が開き、激流はその穴に流れ込んでいく。

そう、その様はまるで…

 

「テメェ!? これは!?」

 

便所である。

それに気づき、ハジメが屈辱に顔を歪める。

 

『嫌なものは、水に流すに限るね☆』

 

どういう仕組みか、ニコちゃんマークがウインクする。

 

「『来しょ…』」

 

『させなぁ~い!!』

 

ユエが魔法を使う寸前でミレディが先回りして重力魔法でハジメ達に加重を加える。

 

『じゃあねぇ~。迷宮攻略頑張ってねぇ~』

 

「ごぼっ!? テメェ、俺達はは汚物か!? いつか絶対破壊してやるからな!!」

 

「ケホッ……許さない」

 

「殺ってやるですぅ!! ふがっ!?」

 

「覚えてなさ…ぶぐぐ!?」

 

ミレディの激励を受けながらも、それぞれ捨て台詞を吐く。

こんな仕打ちを受けたのだから当然と言えば、当然なのかもしれない。

穴に落ちる寸前、ハジメが何やら投擲したようだが…。

 

そして、流されたハジメ達がいなくなると、部屋は綺麗に元通りとなる。

 

『ふぃ~。濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師に覇王の魂を継いだ新たな覇王が一緒だなんて、なんだか運命感じちゃうね。願いのために足掻きなよ。さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やらしばらく忙しくなりそうだね…………………ん? なに、これ?』

 

そんな風にミレディが独り言ちると、何やら部屋の壁に見覚えのないモノが突き刺さってるのを見つける。

それは…

 

『へっ!? これって、まさかっ!!?』

 

ハジメお手製の手榴弾が、ナイフに括りつけられて壁に突き刺さっていたのだ。

 

しかし、気付いた時には既に遅し。

 

カッ!!

 

一瞬の閃光と共に爆発が部屋を満たしたのだった。

 

『ひにゃあああ!??!』

 

そんな悲鳴が迷宮の最奥で響き渡り、その後は修繕がさらに大変になって泣きべそを掻く小さなゴーレムいたとかどうとか…。

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