もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第二十三話『ギルドでの揉め事と支部長からの依頼』

中立商業都市フューレン。

 

高さ20メートル、長さ200メートルの外壁に囲まれた大陸一の商業都市。

あらゆる業種が日々鎬を削っており、夢を叶えて成功する者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。

観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言える。

 

その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。

この都市における様々な手続き関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区。

東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。

それに比べてメインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多いものの、時折とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵などの荒事に慣れた者達がよく出入りしているという。

 

そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド・フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞くハジメ達。

この話をしているのは『案内人』という職業の女性『リシー』だ。

 

案内人とは、都市が巨大であるために需要が多く、それなりの社会的地位にある職業であり、案内屋は客の獲得のために日々サービスの向上に努めているらしい。

 

そんな案内人に料金を支払い、ハジメ達は軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていた。

 

「そういう訳なので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをお勧めしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「なるほどな。なら素直に観光区の宿屋にしとくか。どこがお勧めなんだ?」

 

「お客様の要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「そりゃそうか。そうだな……飯が美味くて、風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと、責任の所在が明確な場所がいいな。忍はどうする?」

 

「俺も似たような感じでいいかな。ゆっくりと寛げるなら問題はないかな?」

 

「ふむふむ…………………ん?」

 

リシーはハジメと忍の要望に頷くが、ハジメの最後の要望に引っ掛かりを覚える。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

 

「あぁ、例えばの話。何らかの争い事に巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に宿内での損害について誰が責任を持つのか、ということだな。どうせならいい宿に泊まりたいが、そうすると備品なんか高そうだし、あとで賠償額を吹っ掛けられても面倒だろ?」

 

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますけど…」

 

困惑するリシーにハジメは苦笑する。

 

「まぁ、普通ならそうなんだが、連れが目立つんでな。観光区なんて羽目を外す奴も多そうだし、商人根性逞しい奴なんかが強行に出ないとも限らないからな。まぁ、あくまでも"出来れば"だ。難しければ考慮しなくていい」

 

「ハッハッハッ、親友は基本事なかれ主義だもんなぁ~」

 

ハジメの言葉と忍の笑い声にリシーはハジメの両隣にいるユエとシア、忍の隣にいるセレナを見ると、納得したように頷く。

 

「しかし、それなら警備の厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を遣う方も多いですし、良い宿をご紹介しますが……」

 

「あぁ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだ奴ってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対じゃない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」

 

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 

完全にハジメの意図を理解したリシーは、あくまでも"出来れば"でいいというハジメに、案内人根性が疼いたようでやる気に満ちた表情をすると…

 

「お任せください。それでお三方の要望は?」

 

そう返事してユエ達の要望を尋ねる。

 

「……お風呂があればいい。但し、混浴で貸し切り必須」

 

「えっと、大きなベッドがいいです」

 

「アンタらねぇ……私も別に2人部屋でいいけど…出来ればベッドは二つにして…」

 

「承知しましたわ。お任せください」

 

ユエとシア、セレナの要望を聞き、澄まし顔で答えるリシーだが、若干顔が赤い気がする。

まぁ、確実にいらぬ想像をしたに違いないが、セレナの要望が一番まとものように聞こえるが、忍と同室という時点で色々と手遅れな気もしないでもない。

 

ちなみにすぐ近くのテーブルにたむろしていた男連中が『視線で人が殺せたら!』と言わんばかりの視線をハジメと忍に向けているが、2人にとってはどうでもいいのでスルーしている。

 

それから他の区のことを聞いていると、不意に5人は強い視線を感じる。

特にユエ、シア、セレナに対しては、今までで一番不躾でねっとりとした粘着質な視線が向けられており、いつもなら気にしない3人もその気持ち悪い視線に珍しく眉を顰める。

 

ハジメと忍がチラリと視線の先を辿ると…ブタがいた。

肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭にちょこんと乗ったべっとりした金髪だが、身なりだけは良いようで、遠目にもわかる良い服を着ていた。

そのブタが3人を欲望で濁り切った瞳で凝視していた。

 

「(面倒な)」

 

「(豚に真珠?)」

 

ハジメと忍がそんな風に思っていると、ブタ男がハジメ達の元へと歩いてくる。

 

「げっ!」

 

その存在に気付いたのか、リシーも営業スマイルも忘れてはしたない声を上げる。

 

ハジメ達の座るテーブルまでやってくると、ブタ男はニヤついた目でユエ、シア、セレナを見るが、シアとセレナの首にある首輪を見て不快そうに目を細める。

そして、今まで一度も目を向けなかったハジメと忍に、さも今気付いたような素振りを見せ、随分と傲慢な態度で一方的な要求をする。

 

「お、おい、ガキ共。ひゃ、100万ルタやる。そこの兎と犬を、わ、渡せ。それと、そっちの金髪は、わ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

ドモリ気味にきぃきぃ声でそう告げると、ブタ男はユエに触れようとする。

 

と…

 

「おっと、手が滑った~」

 

バシャッ!

 

わざとらしく忍が手元の飲みかけのコーヒーカップの中身をブタ男の顔を引っ掛ける。

しかも器用なことにカップの取っ手の部分に人差し指を差してクルクルと回している。

どこからどう見てもわざとだと言ってるようなものだ。

 

それと同時にその場に凄絶な殺気が降り注ぐ。

発信源はもちろんハジメだ。

周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りながら必死にハジメから距離を取り始める。

 

しかしてその殺気をまともに受けたブタ男はと言えば…

 

「ひぃっ!?」

 

コーヒーを引っ掛けられた上に情けない悲鳴を上げて尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で失禁する。

 

「お前等、場所を変えるぞ」

 

もはや興味ないとばかりにハジメが席を立つと、同じように忍達も席を立つ。

 

「えっ? えっ??」

 

リシーは何が何やらと言いたげな困惑した表情だった。

 

実はその場に叩き付けられた殺気という威圧は"リシー以外"を対象としていたので被害が無かったのだが、それ以外からしたらとんだとばっちりである。

が、そのとばっちりにもちゃんと意味はある。

要するに『手を出すなよ?』、という警告である。

ちなみに忍が平然としてるのは…単なる慣れである。

 

そうしてハジメ達がギルドを出ようとすると、その進路を塞ぐような位置取りに移動して仁王立ちする巨体の冒険者が1人いた。

その巨体の冒険者にハジメ達が訝しげな目で見ていると…

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキ共を殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!!」

 

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバいですぜ。半殺しくらいにしときましょうや」

 

「やれぇ! い、いいからやれぇ!! お、女は傷つけるな! 私のだぁ!!」

 

「了解ですぜ。報酬は弾んでくださいよ?」

 

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!!」

 

レガニドと呼ばれた巨体の冒険者はブタ男に雇われた護衛らいく、ブタ男はレガニドきぃきぃ声で何やら喚き散らしている。

そのブタ男の言葉にニヤリと笑ったレガニドはハジメと忍を見る。

 

「おう、坊主共。悪いな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達のことは……諦めな」

 

あくまで自然体のハジメと忍が、目の前のレガニドを見上げる。

レガニドは既に拳を握って構えている。

周囲の人間はレガニドの名を聞いて驚いていた。

周囲の声を聞けば、どうも『暴風のレガニド』という二つ名を持つ"黒"の冒険者らしく、金好きでもあるらしい。

 

「(親友、俺がやろうか?)」

 

「(黒か。ま、見せしめにはちょうどいいか)」

 

などと念話会議をしていると…

 

「……ハジメ、シノブ、待って」

 

「どした?」

 

「なんすか、ユエさん?」

 

ユエがシアとセレナを連れてハジメと忍の前に出る。

 

「……私達が相手する」

 

「えっ? 私もですか?」

 

「私も…?」

 

意外なことを言うユエに…

 

「ガッハハハハ!! 嬢ちゃん達が相手をするだって? なかなか笑わせてくれるじゃねぇか。なんだ? 夜の相手でもして許してもらおうって……「……黙れ、ゴミクズ」『プシュッ!』……ッ!!?」

 

レガニドが爆笑して戯言を吐こうとした矢先、辛辣なユエの言葉と共に神速の風刃がレガニドの頬を斬り裂いた。

小さな音を立ててその頬から血がだらりと流れ、床に滴り落ちる。

ユエの魔法速度が速過ぎて全く反応出来なかったレガニドは、必死に分析する。

 

「……私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

「あぁ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

 

「……そう。せっかくだから、これを利用する」

 

「私、大丈夫かしら?」

 

ユエとシアはともかくセレナは不安そうだ。

 

「まぁ、言いたいことは分かった。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら実は猛獣でした、なんて洒落にならんしな。幸い、目撃者も多いし…………うん、いいんじゃないか?」

 

「……猛獣は酷い」

 

「セレナ。自信を持てよ。アレを一緒に攻略したんだ。力は確実についてるはずだ」

 

「……まぁ、やるだけやってみるわ」

 

そうしてハジメと忍が一歩下がると、ユエがシアとセレナに先に行けと合図を送る。

それをくみ取り、シアはドリュッケンを構え、セレナも軽くジャンプして体をほぐす。

 

「おいおい、亜人に何が出来るってんだ? 雇い主の意向もあるんで、出来れば大人しくしててほしいんだが…」

 

ユエの方を油断なく見ているレガニドがそう言い放つ。

 

「腰の長剣、抜かなくていいんですか? 手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

 

「まぁ、私は別にいいんだけど…」

 

「はっ! 大きく出たな! 坊ちゃん、傷の一つや二つは勘弁してくださいよ!」

 

そうブタ男に断りを入れるレガニドだが、ここで気付くべきであった。

愛玩奴隷として人気の高い兎人族が何故戦槌なんて持っているのか…。

 

そして…

 

「やぁ!!」

 

シアが一瞬にしてレガニドの眼前に現れると、ドリュッケンを振り下ろす。

 

「ッ!?」

 

それに辛うじて両腕をクロスさせて防御態勢に移るレガニドだが…

 

「ふっ!」

 

「なっ!?」

 

シアに一拍遅れることセレナがレガニドの後ろに現れると、膝に蹴りを入れて体勢を崩させる。

素早くセレナがレガニドから離れると同時にシアのドリュッケンがレガニドに炸裂する。

 

「(お、重過ぎだろ!?)」

 

その衝撃に吹き飛びながらレガニドは思った。

 

グシャッ!!

 

という音と共にギルドの壁にぶつかると、そこにユエが追撃とばかりに魔法を発動させる。

 

「(坊ちゃん、こりゃあ、割に合わなさ過ぎだ…)」

 

「舞い散る花よ、風に抱かれて砕け散れ。『風花』」

 

レガニドがそう思う中、複数の風の砲弾を自在に操りつつ、その砲弾に込められた重力場が常に目標の周囲を旋回することで全方位に"落とし続け"空中に磔にして、レガニドをサンドバッグにする。

ちなみに詠唱は適当だ。

そんな空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドは意識を失って床に落ちる。

ピクリとも動かない。

あと、ユエは意識を失ったレガニドの股間を集中的に狙っていたりして、周囲の男達を竦ませた。

 

「おぅ」

 

「わぁ」

 

その所業にはハジメも忍も戦慄を覚えていた。

 

静寂に包まれるギルドのカフェ。

あり得べからずの光景と、その容赦のなさに誰もが戦慄を覚えているのだ。

その静寂を破る者がいた。

 

「…………………」

 

ハジメだ。

何を思ったのか、ブタ男の元に歩み寄っていた。

 

「ひぃ!? く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている!? プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

 

ゲシッ!!

 

「プギャ!?」

 

ハジメがブタ男の顔面を踏みつける。

しばらく騒いでいたが、それに比例して足の圧が上がるのに気付き、大人しくなるブタ男。

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな………次はない」

 

そう言って足を一旦離すと、靴底にスパイクを錬成してもう一度踏みつける。

 

「ぎぃやあああ!?!?」

 

それをもってハジメが踵を返してリシーの元に戻る。

 

「じゃあ、案内人さん。場所を移して続きを頼むよ」

 

「はひっ! い、いえ、おの、私、何といいますか……」

 

ナチュラルに話の続きをしようとするハジメにおっかなびっくりするリシー。

 

すると、そこにギルド職員がやってくる。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

男性職員の他にも5人ほど、ハジメ達を包囲するように集まっているが、さっきの惨状を見ていたのか腰が引けており、数名がブタ男とレガニドの容態を見ていた。

 

「そうは言ってもな。あのブタ男が俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明することがない。そこおの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ? 特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

「正当防衛。とは言え、過剰防衛になっちまうのか? でもさ、俺達も穏便に済ませようとしたのに向こうが先に突っかかってきたんだし、ダメですかね?」

 

ハジメと忍の言い分に困ったような表情をする男性職員。

 

「それはわかっていますが、ギルド内で起こされた問題は当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従っていただかないと…」

 

「当事者双方、ね」

 

そう呟いてハジメが気を失っている2人を見る。

どう見積もっても2、3日は目覚めそうになかった。

 

「みんな、やり過ぎだよ」

 

やれやれと言った具合に忍が肩を竦める。

 

「アレが目を覚ますまで、ずっと待機しろって? 被害者は俺達なのに? …………………いっそ、都市外に拉致って殺っちまうか?」

 

「ハッハッハッ、親友。流石にそれは手間だぜ?」

 

「それもそうか」

 

などという物騒な会話を全力で聞かなかったことにしたい男性職員だった。

 

すると…

 

「何をしているのですか? これはいったい何事ですか?」

 

眼鏡をかけた理知的な府に気を漂わせる細身の男性が厳しい目をハジメ達に向けてきた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね」

 

かくかくしかじか、と男性職員が『ドット秘書長』と呼ばれた男性に状況を説明していた。

 

「なるほど。話はだいたいわかりました。証人も大勢いるようですし、嘘はないでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。とりあえず、彼らが目を覚まし、一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもおらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょう?」

 

言外に『これ以上の譲歩はしませんよ?』と伝えるドットにハジメは肩を竦め、忍は頷く。

 

「あぁ、構わない。むしろ、そっちのブタがまだ文句を言うようなら連絡してほしいくらいだ。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」

 

「いやはや、すみませんねぇ。親友ってば容赦ないところがありまして」

 

そう言ってハジメと忍がステータスプレートを呆れ顔のドットに差し出す。

 

「連絡先は、まだ滞在先が決まってないから……そっちの案内人にでも聞いてくれ。彼女の薦める宿に泊まるだろうからな」

 

それを聞いてリシーががっくりと項垂れる。

 

「ごめんね、リシーさん。でも、今頼れるのはあなただけなんだ。だからよろしく頼むよ」

 

そんなリシーにフォローを入れつつ年上だろうに頭を軽く撫でる忍に、リシーの中の何かが目覚める。

 

「は、はいっ! 任せてください! 『お兄さま』!」

 

微妙にキラキラした目を忍に向けるリシーに忍は『あ、もしかしてまたやっちまった?』とも思いつつ"お兄さま"発言をスルーする事にした。

 

「ふむ。まぁいいでしょう。どちらも"青"ですか。向こうで伸びてる彼は"黒"なんですがね。そちらのお三方のステータスプレートはどうしました?」

 

「彼女達は…ステータスプレートを紛失しててな。再発行もまだしてない。ほら、高いだろ?」

 

そんな風に平然と嘘を吐くハジメに…

 

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録を取っておき、君たちが頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者関わらずブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 

そうドットがそう言い放つ。

 

「(親友。ちょっと相手が悪過ぎやしないか?)」

 

「(ったく、面倒な…)」

 

忍が念話でハジメと相談する。

 

すると、ユエがハジメの袖を引っ張り…

 

「……ハジメ、手紙」

 

そう言ってキャサリンに渡された手紙のことを伝える。

 

「? あぁ、あの手紙か」

 

「おっ、キャサリン姐さんの手紙か!」

 

忍の声にドットの眉が微かに動く。

 

「今、なんと?」

 

「えっ? ブルックの町の受付嬢、キャサリン姐さんの手紙だと言ったんだが?」

 

「っ!!」

 

それを聞いてドットの顔色が変わる。

 

「と、ともかく、その手紙をこちらに…」

 

「あ、あぁ…」

 

懐から手紙を取り出し、ドットに手渡すと…

 

「しばらくお待ちいただきたい。支部長にお取次ぎをしますので。10分程度、応接室でお待ちください」

 

そう言われたので仕方なく、応接室へと向かうハジメ達と、カフェの奥の席で宿屋を脳内検索するリシーに分かれた。

 

 

 

それからきっかり10分。

応接室で待機していたハジメ達の元に、金髪オールバックに鋭い目つきの30代後半くらいの男性とドットがやってきた。

 

「初めまして。冒険者ギルド、フューレン支部支部長『イルワ・チャング』だ。君たちがハジメ君、シノブ君、ユエ君、シア君、セレナ君……でいいかな?」

 

簡潔な自己紹介のあと、ハジメ達の名を確認がてら呼び、握手を求める支部長イルワ。

代表してハジメが握手に応じる。

 

「あぁ、構わない。名前は手紙に?」

 

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目を掛けられている……というよりも注目されているようだね。将来有望、但しトラブル体質なので、出来れば目を掛けてやってほしいという旨の内容だったよ」

 

「トラブル体質…」

 

「トラブル体質ねぇ…」

 

そう言って互いに視線を向けるハジメと忍。

 

「なんだよ?」

 

「なんだい?」

 

バチバチと微妙に火花を散らす2人。

暗にどちらがトラブル体質なのか、と言いたげだった。

 

「ともかく、先生が君達を問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以って君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

どうやらキャサリンの手紙は物凄く有用な手段であった。

随分と信用があると認識出来た。

しかもイルワは"先生"と呼んでる辺り、そこそこ濃い付き合いの関係もあるようだ。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なんでしょう?」

 

おずおずといった感じでシアがイルワに尋ねる。

 

「ん? 本人から聞いていないかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の5、6割は先生の教え子なんだ。私もその内の1人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいってね。彼女の結婚発表は蒼天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が…」

 

それを聞き…

 

「はぁ~、そんなに凄い人だったんですねぇ~」

 

「……キャサリン、凄い」

 

「確かにの人柄は人気がありそうね」

 

「キャサリン姐さん、マジパネェ」

 

「只者じゃないとは思ってはいたが……思いっきり中枢の人間だったのか…」

 

改めてキャサリンの凄さを感じていたとか…。

 

「まぁ、それはそれとして、問題ないならもう行ってもいいよな?」

 

という具合に席を立とうとした時…

 

「少し待ってくれるかい?」

 

イルワの瞳の奥が光り、ドットに目配せすると、ドットが持っていた依頼書をハジメ達の前のテーブルに置く。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

 

「断る」

 

イルワの依頼を即断ると再び立ち上がろうとする。

 

「ふむ。話だけでも聞いてくれないかな? 聞いてくれたら、今回の件は不問とするのだが…」

 

「………………」

 

「親友。聞くだけならタダだ。不問にしてくれる可能性があるなら聞こておこうぜ?」

 

「ちっ…」

 

イルワの言葉に忍の説得もあってソファに座り直すハジメだった。

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

 

「……流石、大都市のギルト支部長。いい性格してるよ」

 

「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の1人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

イルワの依頼は要約すると、つまるところこうだ。

 

最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。

北の山脈地帯は一つ山を越えるとほとんど未開の地となっており、大迷宮の魔物程ではないが、それなりに強力な魔物が出没するので、高ランクの冒険者がこれを引き受けた。

但し、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人間が些か強引に同行を申し込み。紆余曲折あって臨時パーティーとして組むことになった。

 

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男『ウィル・クデタ』という少年なのだが、伯爵家は家出同然で冒険者になると飛び出したその三男の動向を密かに追っていたらしい。

で、今回の調査依頼に出た後、三男に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したという。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど、手数は多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練れでね。彼等に対処出来ない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ、二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

 

「前提として、俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう? 生憎と俺達は"青"だぞ?」

 

「(とは言え、そんなんで逃げれるとは思えないけどな…)」

 

イルワの説明を聞き、ハジメは言い訳をするが、忍はここまで来たら無駄だと思った。

 

「さっき"黒"のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに………ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何というのかな?」

 

「! 何故知って………手紙か? だが、彼女にそんな話は……」

 

ハジメ達がライセン大峡谷を探索してた話は誰にもしていない。

だが、手紙に書かれていたということはキャサリンはその情報をどこからか入手したことになる。

ハジメが頭を捻っていると…

 

「あの~、話が弾みまして……てへ?」

 

発信源が自白した。

 

「あとでお仕置きな」

 

ハジメの無慈悲な宣告である。

 

「!? ゆ、ユエさんやセレナさんもいました!」

 

「……シア、裏切り者」

 

「わ、私はやめとけって言ったわよ?」

 

「2人には俺からお仕置きだ」

 

「セレナは俺が担当な」

 

口は禍の元とはよく言ったものだ。

お仕置き宣言にユエとシアが内心震え、セレナも自分の体を抱き寄せていた。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね。出来る限り早く捜索したいと考えている。どうかな? 今は君達しかいないんだ。引き受けてもらえないだろうか?」

 

「ふむ…」

 

ハジメが逡巡してる合間に…

 

「友人の息子が無理矢理パーティーに組み込まれた。イルワさん、アンタもしかして…」

 

忍が何やら不審な点があると思って、その部分を突いてみると…

 

「……鋭いな。そうだ。ウィルにあの依頼を勧め、パーティーにも話を通したのは私だ。異変の調査と言っても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出てなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね。しかし、残念ながら本人にその資質は無かった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟ってほしかった。冒険者は無理だと。昔から私に懐いていてくれて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに…」

 

そんなイルワの独白に…

 

「ふぅ…アンタもまたまどろっこしいことを…」

 

忍は呆れたように呟く。

 

「…………………」

 

イルワは黙って忍を見る。

 

「そんなまどろっこしいことをするくらいなら最初から言えばいいものを…君には資質がない、ってな」

 

「忍?」

 

いつもらしからぬ声音で言葉を発する忍にハジメも少なからず驚く。

 

「そんなこと、言える訳がないだろ!!」

 

イルワが怒鳴るが…

 

「最後まで聞けよ。資質がなくたって、冒険者に関わる仕事は山のようにあるだろうに…」

 

しかし、忍は怒鳴るイルワを真っ向から見返し、そう言ってのけた。

 

「なに?」

 

「別に冒険者になれなくても"冒険者に関わる仕事"を教えることは出来たんじゃないのか? 特にアンタはギルド支部長なんだろ? その伝使ってそのウィルってやつに紹介してもいいだろうに…」

 

「だが、彼は貴族だ。そんなこと…」

 

「関係ねぇよ。やりたいことがあって挫折しようが、他の似たような道を指し示すことは出来たんじゃないのか?」

 

「それは…」

 

「ま、これ以上はアンタの事情には口出ししないさ。だが、そういう道もあるってのを覚えておけよ。あとは、アンタがどうするかってだけだ」

 

「…………………」

 

「ま、それも相手が生きてればの話だがな」

 

「っ…」

 

まさか、この歳になって諭されるとは思ってもみなかったのか、イルワは苦い表情をする。

 

「親友。この依頼、受けようぜ?」

 

「ギルドの後ろ盾を獲得するチャンスでもあるか」

 

忍の意外な部分を垣間見ながらもハジメはそんな風に呟くと…

 

「引き受けてもいいが、二つ条件がある」

 

ハジメが条件を提示した。

 

「条件?」

 

「あぁ、そんなに難しいことじゃない。こっちの3人にステータスプレートを作ってほしい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること。さらに、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達に便宜を図ること。この二つだな」

 

「「………………」」

 

その要求にイルワはもちろん、ドットも絶句する。

 

「……何を要求するつもりだい?」

 

「そんなに気負わないでくれ。俺達だって無茶な要求はしない。ただ…そうだな、強いて言うなら教会と敵対した時に味方になってくれればいい」

 

「「なっ!?」」

 

その要求に揃って声を上げるイルワとドット。

 

「秘書長さんは見たよね? 俺のステータスプレート。公になると困るけどさ…知られたら絶対に教会とかに目を付けられるわけよ。だって俺…天職が『反逆者』だもん」

 

少しだけ覇気を発動させると、忍はニヤリと笑う。

 

「そ、それは…」

 

「別に表立って擁護しろとは言わない。ただ、指名手配されたとしても、施設の利用を拒まないとか。そういう影ながらの支援をしてほしいんだよ」

 

ハジメの言葉に忍の覇気も受けているだろうイルワは…

 

「………いいだろう。但し、犯罪に加担するような案件には応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私が判断する。だが、出来る限り君達の味方になると約束しよう。それに、教会と敵対するかもしれないという君達の秘密に個人的な興味も湧いてきた。先生が気に入った人物だ。そういう意味でも気にはなる。どうかな?」

 

「OKだ。それで構わない。報酬は依頼を達成した時でいい。お坊ちゃん自身か、遺品辺りを回収すればいいな?」

 

「あぁ、それで構わない。秘密の方は後のお楽しみに取っておくとしよう。どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてくれ。その後は…今度こそちゃんとウィルと向き合おうじゃないか。頼んだよ、ハジメ君、シノブ君、ユエ君、シア君、セレナ君」

 

そう言ってイルワは真剣な眼差しで5人を見ると、深く頭を下げた。

 

「あいよ」

 

「任せな」

 

「……ん」

 

「はいっ」

 

「善処するわ」

 

気負いのない返事を返し、一行は依頼書や件の冒険者達の資料、紹介状などを一通りを受け取ってから応接室から出て行き、目的地を急遽変更して湖畔の町へと向かうのだった。

 

 

 

一行が去った後の応接室ではイルワとドットが話をしていた。

 

「支部長。よかったのですか? あのような報酬……」

 

「……ウィルの命が掛かっている。彼ら以外に頼める者はいなかった。仕方ないよ。それに考えたこともなかった…他の道を示すか。ウィルが貴族だからと遠慮していたのかな…………それに彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それよりも、彼等の秘密だ」

 

「ステータスプレートに表示される"不都合"ですか」

 

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

「っ!? 支部長は彼等が召喚された者……"神の使徒"だと? しかし、彼らはまるで教会と敵対するような口振りでしたし…第一、勇者一行は聖教教会が管理しているのでしょう?」

 

「あぁ、その通りだよ。でも…今からおよそ4か月前、その内の2人がオルクスで亡くなったらしいよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちて、ね」

 

「……まさか、その2人が生きていたと? 4か月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」

 

「そうだね。でも、もし、そうなら…彼等は何故、仲間と合流せずに旅なんてしてるんだろうね? 彼等は一体、闇の底で、何を見て、何を得たんだろうね?」

 

「何を、ですか…」

 

「あぁ、それがなんであれ。きっとそれは教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

 

「世界と……」

 

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼らが教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

 

「支部長……どうか、引き際は見誤らないでくださいよ?」

 

「あぁ、もちろんだとも」

 

ドットの言葉に答えると、イルワは窓の外を見た。

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