異世界トータスにやって来てなんだかんだ二週間が経った。
ハジメはハジメなりに努力をしているが、なかなか伸び悩んでいるようだった。
そんなハジメを忍は友として守り、イジメなんかも看過せずにいた。
反逆者という訳分からずな天職のせいもあり、忍はあまり前衛に出ることはなかった。
一応、訓練には参加しているものの、この天職のせいであまり騎士様も相手をしてくれないと言うので、忍は自然とハジメと共に図書館に入り浸るようになっていた。
「なぁ、親友」
「なんだよ?」
本から顔を上げたハジメが向かいに座る忍に尋ねる。
「人生って不公平だけどさ。俺、お前のそうやって頑張ってるとこ嫌いじゃないぜ?」
「……ありがと」
ハジメと違い、戦闘でも問題なさそうな忍だが、技能が不明な点で言えばハジメよりも少し劣っていると言える。
それでもステータス自体は少し高めなので、訓練もそれなりにしているが…。
「せっかくの異世界なのに楽しめないよなぁ~」
「そうは言っても皆が戦争に参加するっていうのに一人だけっていうのもね…」
「ホント、我が親友は眩しいぜ」
「そ、そうかな?」
「俺からしたらな。あのヒーローに比べたら雲泥の差だね」
「天之河くんは…その、色々と規格外だからね」
言葉を選んだハジメに忍はやれやれと肩を竦める。
「その規格外だが…ホントに大丈夫なのかね?」
「う~ん…どうだろう?」
「俺は一応、探偵の息子だし、ちょっと裏の事情もわかるからアレなんだが…正しさだけじゃ飯は食えない訳よ。それこそ、誰でもわかることだと思うが…」
「うん…」
「あのヒーローが気付くかね?」
「……難しいかもね」
ハジメも忍もあることを考えていた。
「だな。だが、そこが分岐になるかもだからな…」
「僕は僕に出来ることを頑張ってみるよ」
「俺も無意味技能持ちだしな。あんま戦いには参加したくないが…そうも言ってられなくなったら、前に出るつもりだ」
忍の言葉にハジメも頷く。
「お互い死なないように頑張ろう」
「たりめぇよ。ここで死んだら親父達に顔向け出来ねぇしな」
ハジメの言葉に忍に笑って答える。
「きっと日本じゃ集団神隠し、なんて特集してるんだろうな~」
「だな。多分、親父も捜査協力してるだろうが…流石に手掛かりがないしな…」
そう言いながら互いに家族を思い浮かべる。
「そういえば、忍って兄弟がいたよね?」
「おう。妹が2人いてな。いやはや、兄離れ出来ない妹達なんだが…邪険にするわけにもいかなくてな」
「いいよねぇ。妹さん達に慕われてるって…」
そうハジメが言うと…
「慕われてる…ってレベルじゃねぇけどな…」
忍は遠い目をしながらポツリと呟く。
どことなく哀愁が漂いそうな…。
「え?」
「いや、なんでもねぇ」
ハジメが反応するとすぐさま忍も元の忍に戻る。
「そっちは親父さんとお袋さんだったよな?」
「あ、うん。どっちも二次元にどっぷりだからね。だからかな、昔ちょっと変なこと言っちゃって…」
「変なこと?」
ハジメの言葉に首を傾げる忍に…
「もし僕が異世界に召喚されたらってね」
「流石は我が親友。そんな頃から毒されていたか」
「どういう意味かな?」
「まぁ、気にすんな。で、なんて言ったのよ?」
ハジメの視線を避け、忍は尋ねた。
「あんまり覚えてないけど…確か…『必ず帰ってくる』ようなことは言ったかな?」
「そっか」
ハジメの言葉にハジメらしいな、と思いつつ忍とハジメは語らい続けた。
その後、図書館から出て訓練場に来たハジメをイジメの対象にしてる一派と忍が一悶着を起こしつつも訓練は終わり、メルド団長からの通達があった。
翌日から実戦訓練の一環として『オルクス大迷宮』へと遠征に行くと…。
………
……
…
『オルクス大迷宮』
全百階層から成る地下へと続く大迷宮。
なのだが、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に人気があるらしい。
理由は魔石にある。
地上と比べると良質な魔石を持つ魔物が多いからなのだそうだ。
魔石は日常生活にも欠かせない逸品だが、その良質な魔石を持つ魔物は強力な固有魔法を持っているという。
そんな大迷宮に挑む者達の宿場町『ホルアド』に勇者達一行は到着した。
ハジメと忍は相部屋であり、翌日の英気を養うために忍は早々にベッドにダイブして寝こけていた。
「ぐぅ…がぁ…」
「忍って意外と寝息が酷いんだな…」
そんな友に苦笑しながらハジメも図書館から借りてきた魔物図鑑に目を落としていると…
コンコン…
部屋のドアがノックされた。
「(こんな時間に誰だろ?)」
夜も遅い時間に誰かとそっとドアを開けると…
「あ、南雲くん、起きてたんだね。えっと、紅神くんは?」
なんと白崎 香織その人が訪ねてきた。
しかもネグリジェにカーディガンを羽織ったという姿で、だ。
「……なんでやねん」
「え?」
ハジメの言葉に香織も首をキョトンとさせる。
「あ~、ごめん。忍なら寝てるよ。それで、何か用かな? 何かの連絡事項でもあった?」
「あ、そういうのじゃなくて…その、お話ししたいな、って思ったから…」
そんなことを上目遣いで言ってくるもんだから…
「あ、はい。どうぞ…」
その破壊力にはさしものハジメも断ることに罪悪感を覚えたらしく部屋に通す。
「ぐがぁ…」
そしてタイミングよろしく忍もこちらに背を向けて寝転ぶ。
「それで、話って?」
そこから香織はさっき夢でハジメが消えてしまうことを話した。
ハジメは所詮夢は夢と苦笑いで答える。
それでも心配だったのか、今回の探索はハジメを連れてくのをやめてもらうように頼み込むとも言って…。
そこで、ハジメは…
「じゃあ、守ってくれないかな?」
「え?」
「白崎さんは『治癒師』だよね? だったらその力で僕が大怪我でもしたら助けてよ。それで僕は大丈夫だから」
そんなことを言うハジメに…
「変わらないね、南雲くんは…」
香織は優しい笑みを浮かべていた。
「はい?」
ハジメはハジメで何のことやらと思ったのだが、香織は思い出話をするかのように当時…中学二年の頃、ハジメが不良相手に土下座した話を振る。
そこでハジメも思い出して苦笑を浮かべた。
まさか見られていたとは、と…。
そうして幾ばくかの言葉を交わしつつ…
「私が南雲くんを守るよ」
「ありがとう」
それを最後に香織は部屋から出て行った。
その後…
「親友よ。愛を語らうなら他でやってくれ」
「忍!? い、一体いつから…?」
「寝てたからあんま覚えてないが…そうだな、守ってくれ的なことを言った辺りかな?」
「結構最初の方だよね!?」
いつの間にやら起きてた忍とちょっと言い合いをしてから疲れもあるのだろう、忍もハジメもベッドに大の字で寝てしまった。
そう、香織の来訪を近くで見てた奴がいるとも知らずに…。