もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十話『そうだ、裏組織を壊滅させよう』

翌日。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「行ってきますですぅ~♪」

 

ハジメとシアが観光区にデートに出掛ける。

 

「おう、気ぃつけてなぁ~」

 

「……いってらっしゃい」

 

忍とユエがそれを見送る。

 

「さてはて、こっちもこっちで商業区に買い出しに行きますか」

 

「……ん」

 

「そうね。まぁ、人は多いから分担してもいい気がするけど…」

 

「「…………………」」

 

セレナの言葉にティオとシオンが視線を逸らす。

 

「まぁ、かくいう私も市場なんてフェアベルゲンしか知らないんだけど…」

 

「団体行動かねぇ~?」

 

「……ん。シノブが荷物持ちなのは確定」

 

「ですよね~」

 

ハジメを除けば唯一の男手なので、忍はしゃあないかとも思っていた。

 

「宝物庫は親友が持ってるしな…借りときゃよかったか?」

 

そんな愚痴を零しつつも皆で出掛けることとなる。

 

「とは言え、人数が増えたからな。それなりに必要かな?」

 

「……一応、宝物庫の備蓄はあったはずだから。そんなには必要ないと思う。まぁ、商業区で色々見て回るのもいいかも」

 

「さいですか」

 

宿から出て商業区へと向かう忍達はそんな会話をしていた。

 

 

 

それから忍達5人は本当に商業区をぶらぶらとしていた。

昼食も適当に取りつつ、なんでもないような会話も交えていた。

 

そんな中…

 

「ふむ。それにしても、ユエよ。本当に良かったのか?」

 

ブティックで商品を品定めしているユエにティオが尋ねる。

 

「? ……シアのこと?」

 

「うむ。もしかすると今頃、色々と進展しているかもしれんよ? ユエが思う以上にの?」

 

「確かに、意中の殿方なのだろう? それを親しいとは言え、他の女性に勧めるというのは…」

 

ティオの言葉に続くようにシオンも気になったのか、少し躊躇いながらも言葉にする。

 

「……他の女性じゃない。シアだから。それにそうなってくれた方が嬉しい」

 

「嬉しいじゃと?」

 

「な、何故?」

 

ユエの言葉にティオとシオンが首を傾げる。

 

「……最初は、ハジメにベタベタするし、色々と下心も透けて見えたから煩わしかった。でも、あの娘を見ていてわかった」

 

「「わかった?」」

 

「……ん。あの娘はいつも全力。一生懸命。大切なもののために、好きなもののために。良くも悪くも真っ直ぐ」

 

「ふむ。それは見ていてわかる気がするの。だからほだされたと?」

 

「確かに、あの明るさは周囲の人間にも影響を与えそうではあるが…しかし、それだけでは理由としては弱いのでは?」

 

ティオとシオンが確認すると…

 

「……半分は」

 

ユエはそう答える。

 

「半分? もう半分はなんじゃ?」

 

「……シアは、私のことも好き。ハジメと同じくらい。意味は違っても大きさは同じ。可愛いでしょ?」

 

ティオの疑問に口元に笑みを浮かべてユエが答える。

 

「……なるほどの。あの娘にはご主人様もユエもどちらも必要ということなんじゃな。混じりけのない好意を邪険に出来る者は少ない。あの娘の人徳というものかの。ふむ…ユエのシアへの想いはわかったが……じゃが、ご主人様の方はどうじゃ? 心奪われるとは思わんのか? あの娘の魅力は重々承知じゃろ?」

 

その質問に対し、ユエは肩を竦めたかと思うと、おもむろに妖艶な笑みを見せて唇をチロリと舐める。

ちなみにユエの色気で通行人が立ち止まって見惚れていたり、通行人同士が衝突したりとプチ事故が多発した。

 

「……ハジメには"大切"を増やしてほしいと思う。でも……"特別"は私だけ。奪えると思うなら、やってみればいい。いつでもどこでも誰でも……受けて立つ」

 

そんな絶対の自信を持ってユエはティオを見る。

 

「っ…」

 

その言い知れぬ迫力に無意識に後退るティオ。

 

「なっ…」

 

そんなティオの姿を見てシオンも言葉が出なかった。

 

「まぁ……喧嘩を売る気はない。妾は、ご主人様に罵ってもらえれば十分じゃしの」

 

「……変態」

 

「お嬢様…」

 

呆れた表情を向けるユエと諦めの表情を浮かべるシオンに、ティオはカラカラと笑うのだった。

 

「混ざらないの?」

 

「流石にガールズトークに割って入る程の度胸はないさ」

 

完全に蚊帳の外であった忍にセレナが声を掛ける。

 

「そういえば、シノブはセレナを大事にしておるが、もうそういう関係なのか?」

 

「ド直球ですな、ティオさんや」

 

カラカラ笑うティオが次なる標的として忍に言った。

 

「まぁ、セレナが大事なのは確かなんだが…俺、向こうの世界に恋人いるしな」

 

「ほ?」

 

「は?」

 

「………………」

 

予想外の答えにティオとシオンが驚き、セレナは特に何も言わなかった。

 

「まぁ、告って一日未満でこっちに飛ばされたからな。仮にこっちと向こうの時間の流れが同じだとして…普通なら自然消滅って言われてもおかしくないんだけどな。明香音のやつ、大丈夫だといいんだが…」

 

そう言って空を見上げる忍の眼は本気で心配しているようだった。

 

「それなのに、セレナが大事と?」

 

そんなティオの問いに対し…

 

「あぁ。明香音のことも確かに心配だが…帰る目処がつくまではこっちの世界に居続ける必要があるだろ? なら、こっちで出会った"大切"を俺は大事にしたいんだよ。巫女だなんだと言ってもセレナはそんなん関係なくついてきてくれたしな」

 

忍はそう答えていた。

 

「わ、私は覇王を見極めるために…///」

 

「わかってるって……でも、それとこれとはまた違うだろ? だから、俺はセレナを大事にしたいんだよ」

 

「な、何が"だから"か意味わかんないし!///」

 

「ハッハッハッ、照れない照れない」

 

「照れてない!///」

 

そんな忍とセレナのやり取りを…

 

「…………………………」

 

シオンが微妙な目で見ていた。

 

「(同じ巫女であるはずなのに、この差は何なのか?)」

 

という具合なことを考えていたりする。

 

「(私だって巫女なのだ。だったら…………………"だったら"? 私は一体何を…そもそも彼とは出会って間もない。互いを知らないではないか。それに彼には恋人がいるというし……いや、それを言ったらセレナ殿はどうなるという話に……やはり、そうとなれば同じ巫女として、私もセレナ殿のように親密に………なってどうする!? 私は見極めねばならない立場だろうに!)」

 

そんなことを思いながら、なんか色々と百面相しているシオンだった。

 

「シオンは、どうしたんだ?」

 

そんな様子を見て忍が首を傾げると…

 

「やれやれ、じゃな」

 

シオンもまた乙女なのだな、とティオが肩を竦めた時だった。

 

「? この匂いは…」

 

忍が何かに感付き、そちらの方を見ると…

 

ドガシャンッ!!!

 

「ぐへっ!?」

「ぷぎゃあ!?」

 

すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから2人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。

さらに同じ建物の窓から数人の男がピンボールのように吹き飛んでくる。

さらにさらに建物の中から壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震して外壁が罅割れ砕けて落ちていく。

そして、男共が変な方向に腕を曲げながらビクンビクンと痙攣していると、遂に建物が耐えられなくなったのか崩壊していった。

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

野次馬が逃げていく中、忍が動かずに建物の方を向いているので、他のユエ達も揃って建物の方をじっと見ていると…

 

「あぁ、やっぱりお前等の気配だったか……」

 

「あれ? ユエさん達じゃないですか。どうして、こんなところに?」

 

そこには何故かデート中であるはずのハジメとシアの姿があった。

 

「……それはこっちの台詞。デートにしては過激過ぎ」

 

「全くじゃのぉ~。で? ご主人様よ。今度はどんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」

 

「ハッハッハッ、これでトラブル体質は親友で決まりだな」

 

「そういう問題?」

 

「違うと思うぞ?」

 

忍のズレた発言にセレナとシオンがツッコミを入れる。

 

「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが……成り行きで、ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして…」

 

「……成り行きで裏組織と喧嘩?」

 

呆れた表情のユエにシアが乾いた笑みを浮かべる。

 

「で? どういうことよ。親友?」

 

ハジメに事情を聞く忍にティオ、セレナ、シオンがうんうんと頷く。

 

「まぁ、ちょうどいい。人手が足りなかったとこだ。説明すっから手伝ってくれないか?」

 

通りに倒れている男共を瓦礫と化した建物の上に放り投げた後、ハジメは事情を説明した。

 

シアとデートしている時、下水道に気配を感じた。

ハジメの感じた感覚としては子供だったので、さっそく助けに錬成を用いて助けに行った。

そこには流されている3、4歳くらいの子供がいた。

但し、その子供は亜人族である『海人族』である。

 

海人族は西大陸の果て、『グリューエン大砂漠』を越えた先の海、その沖合にある『海上の町エリセン』で生活しており、ハイリヒ王国から公に保護されている亜人族の中でも特異な立ち位置を持っている。

彼等はその種族特性を活かして大陸に出回る海産物の八割を担っていることが理由だ。

 

話を戻そう。

その海人族の幼女…名を『ミュウ』という…を助け、簡素な風呂に入れて着替えも買ってきて着させ、髪をドライヤー(これもアーティファクトで再現)で乾かしたりした後、保安署に預けることにした。

のだが、ミュウがハジメとシアに懐いてしまい、それをなんとか保安署の人達とともに宥めたりして預けた。

しかし、保安署が爆破され、再びミュウが連れ去られてしまった。

 

『海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○まで来い』

という置手紙を残して。

 

そして、指定してきた場所に行ったら、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、ミュウ自身はいなかったらしい。

相手の意図が透けて見えるとはこのことだろうか。

あと、ユエやティオ、セレナ、シオンの誘拐計画もあったそうで…

 

しかも今回の相手がかなり悪かった。

化け物に手を出したのだから、恐らくこの裏組織は今日中には壊滅するだろうことは確定事項なのだろう。

 

何故なら…

 

「ハッハッハッ、水臭いじゃないの。そういうことなら是非手を貸そうじゃないのさ」

 

化け物コンビが手を組むのだ。

これで相手は逃げることも許されないだろう。

 

こうして、ハジメとユエ、シアとティオ、忍とセレナとシオンの三組に分かれ、裏組織『フリートホーフ』の殲滅に乗り出すのだった。

 

………

……

 

シアとティオがフリートホーフの本拠地に向かい、ハジメとユエは観光区の近くに向かう中…

 

「ここか」

 

忍とセレナとシオンは職人区の外壁近くにある建物の前にいた。

 

「じゃ、行きますか」

 

何の躊躇いもなく建物に入ると…

 

「なんだ、テメェら…ふぎゃ!?」

 

「はいはい。そういうのいいから…」

 

立ちはだかる男を蹴り飛ばして中に入っていく。

 

「ふ~む……特にこれといった匂いはしないな………まぁ、強いて言うなら…」

 

「「強いて言うなら?」」

 

「カビっ臭い」

 

そう答えながら地下への階段を降っていく忍の後を付いていくセレナとシオンは顔を見合わせる。

 

「ん?」

 

地下には牢獄があり、ここには年頃の少年少女の姿がちらほらと見える。

見た感じ、人間族が占めているようである。

心なしか皆絶望しているようにも見える。

 

「ここで監禁して、闇オークションに出す時に移送する感じか?」

 

そんな予想をしながら忍は牢獄が左右に並ぶ通路を歩いていく。

 

「親友みたく錬成使えないしな…かと言ってここで手間取るわけにもいかないし……よし、こうしよう」

 

すると、忍は黒狼を抜き…

 

「ふっ!」

 

斬ッ!!

 

奥の牢獄の鉄格子を文字通り"斬って"人一人通れる隙間を作る。

 

「さ、逃げるチャンスだぜ? とは言え、ちと待っててほしいがな」

 

牢獄にいる自分よりも2、3歳下の少年少女達にそう言いながら次々と牢獄の鉄格子を斬っていく。

 

すると…

 

「貴様! 何をして……!!」

 

ドゴンッ!!

 

アドバンスド・フューラーRを素早く引き抜いてやってきた男の頭部に発砲すると、男の頭が吹き飛び血飛沫を上げて崩れ落ちる。

 

「ひっ…!」

 

それを間近で見ていただろう牢獄にいた少女が小さく悲鳴を上げると…

 

パタリ…

 

気を失ってしまった。

 

「あ、刺激が強過ぎたか?」

 

「そういう問題じゃないでしょ!!」

 

「はぁ…」

 

そんな風に言う忍にセレナが苦言を呈し、シオンが頭痛そうにする。

 

「(しかし、普通にヘッドショットしちまったな……俺もだいぶ麻痺してきたか?)」

 

そう思ってアドバンスド・フューラーRを握る右手を見ると、微かに震えていた。

 

「(…………………そうでもないか…)」

 

自虐的な笑みを浮かべながら忍は全ての牢獄の鉄格子を斬ると、気絶した少女をお姫様抱っこで抱え、捕まっていた少年少女を引き連れて地上へと向かう。

ちなみにセレナとシオンは殿を務めている。

 

で、地上に出た瞬間…

 

「出てきたぞ! やっちまえ!!」

 

複数の男共が襲い掛かってきたが…

 

「遅い」

 

神速を用いて男共の頸椎を蹴り砕いて一瞬で絶命させていく。

ただ、その度に忍は無意識に顔を顰めるが、本人は気付いていない。

 

傍から見れば忍が消えたように見えたか、もしくは普通に歩いているようにしか見えず、周りの男共は勝手に倒れているようにしか見えない。

 

すると…

 

ドッガァアアアン!!!

 

観光区の方角から『花火』という名の爆破が起き…

 

ピシャアアァァァァ!!!

 

4体の雷龍がフリートホーフの重要拠点4ヵ所に落ちる。

 

「親友も派手にやったなぁ~」

 

「「…………………………」」

 

忍の言葉にセレナもシオンも言葉がなかった。

 

『…………………………』

 

後ろから付いて来て、その様にただただ呆然とする少年少女達を尻目に…

 

「(全員、イルワ支部長のとこに集合な)」

 

ハジメからの念話が届き…

 

「さてと…では、皆の者。強く生きろよ!」

 

そう言い残し、忍は颯爽とその場を後にした。

それを慌てて追いかけるセレナとシオンだったが…一つ気掛かりなことがあった。

 

「その娘、どうするの?」

 

忍は気を失った少女を抱えたままだ。

 

「あぁ…この娘から気になる匂いがした」

 

「「匂い?」」

 

「ユエさんと似た匂いだ」

 

それはどういうことなのか…セレナとシオンは再び顔を見合わせた。

 

………

……

 

騒動の後、冒険者ギルドの応接室に集まった一行はイルワと面会していた。

 

「倒壊した建物22棟、半壊した建物44棟、消滅した建物5棟。死亡が確認されたフリートホーフの構成員112人、再起不能40人、重傷27人、行方不明者107人……で? 何か言い訳はあるかい?」

 

「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」

 

「はぁ~~~~~~」

 

報告書を片手にハジメにジト目を向けるイルワだったが、ハジメの回答に深く長い溜息を吐く。

 

「まさかと思うけど……メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話…………関係ないよね?」

 

「え、なにその面白そうな話?」

 

イルワの言葉に忍が面白そうな話題だと興味を示す。

 

「まぁ、ともかく…今回の件、やり過ぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね。正直、助かったと言えば、助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きは真っ当な商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね。ハッキリ言って彼等の根絶は夢物語というのが現実だった。ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね。はぁ…保安局と連携して冒険者も色々と大変になりそうだよ」

 

「まぁ、元々その辺はフューレンの行政がなんとかするとこだろ? 今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから反撃したまでだし…」

 

忍の言葉をスルーしてイルワが話を続け、それにハジメが答える。

 

「ただの反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で壊滅かい? ホント、洒落にならないね」

 

その答えにイルワは苦笑いしか出来なかった。

 

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺等の名前を使ってもいいんだぞ? 何なら、支部長お抱えの"金"だってことにすれば…相当な抑止力になるんじゃないか?」

 

「おや、いいのかい? それは凄く助かるけど……そういう利用されるようなことは嫌うタイプだろ?」

 

ハジメの言葉にイルワが意外そうな表情をするが、その瞳は『是非、使わせてもらいたい!』と雄弁に物語っていた。

 

「まぁ、持ちつ持たれつってな。世話になるんだし、それくらい構わねぇよ。支部長なら、その辺の匙加減もわかるだろうし。俺等のせいで、フューレンで裏組織同士の戦争が起きて、一般人も巻き込まれました、ってのは気分が悪いしな」

 

「……ふむ。ハジメ君、少し変わったかい? 初めて会った時の君は、仲間のこと以外はどうでもいいと考えてるように見えたけど……ウルで良いことでもあったかい?」

 

「……ま、俺的に悪いことばかりじゃなかったよ」

 

「ハッハッハッ、流石ギルド支部長。よく見てるな」

 

そんな風に話した後…

 

「それで、そのミュウ君と、そちらの……」

 

イルワがハジメの膝に座るミュウと、少し離れた場所に座る忍が連れてきた少女を見る。

 

「……………………ファルよ」

 

膝裏まで伸びた銀髪と深紅の瞳を持ち、儚げな印象を与える可愛らしい顔立に全体的な線は細いが、均等の取れた体型の少女は、不機嫌そうな表情をしながらも自分の名を名乗る。

 

「ファル君だね。では、先にミュウ君についてだが……こちらで預かり、正規の手続きでエリセンに送還するか。君達に預けて依頼という形で送還してもらうかの二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

 

それを聞き…

 

「公的機関に預けなくていいのか?」

 

「まぁ、君の"金"と今回の暴れっぷりの原因がそのミュウ君の保護だからね。それなら任せてもいいと考えているよ」

 

ハジメが疑問を口にするが、イルワは問題ないと言う。

 

「ハジメさん……私、絶対この子を守ってみせます。だから、一緒に……お願いします」

 

「お兄ちゃん……一緒……め?」

 

シアの願いとミュウの悲しそうな表情にハジメは肩を竦める。

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたしな。ここまで情を抱かせておいて、"はい、さようなら"なんて真似はしねぇよ」

 

「ハジメさん!」

 

「お兄ちゃん!」

 

ハジメの言葉に満面な笑みを浮かべるシアとミュウ。

 

「では、ミュウ君のことはそれでいいとして…………ファル君はこれからどうするつもりだい?」

 

「別にどうも…」

 

イルワの質問にファルはなんとも無気力気味に答える。

 

「ご家族の元に戻らないのかい?」

 

「家族や親戚なんてのもいないし……」

 

どうやらファルには頼れる存在がいないようだ。

"それに…"と続けたファルの言葉に一同は驚くことになる。

 

「覇王だの何だのなんてのにも興味はないし…」

 

「「「……え?」」」

 

その言葉に忍、セレナ、シオンがファルを見た。

 

「……なによ?」

 

ファルは鬱陶しそうな表情で忍達を見る。

 

「まさか、巫女?」

 

「こんな立て続けに?」

 

「とりあえず、ステータスプレートを渡してみるか」

 

残っていた5枚のステータスプレートの内、1枚をファルに渡した。

 

「なんで、そんなもん渡してくるのよ?」

 

「まぁいいから。とりあえず、受け取ってくれ」

 

「ふんっ…」

 

仕方ないとばかりにステータスプレートを受け取ると、起動させる。

 

-----

 

ファル 16歳 女

レベル:10

天職:真祖の巫女

筋力:45

体力:60

耐性:35

敏捷:45

魔力:70

魔耐:75

技能:血力変換・血盟巫女

 

-----

 

『……………………』

 

その表記に誰もが口を閉ざしたように無言が続く。

ステータス的には一般人なのだが、技能欄にユエと同じ種族固有スキルがあった。

 

「ユエさんと似た匂いを感じると思ってはいたが……こういうことだったのか」

 

そんな中、忍が一番に再起動するとそんなことを呟いていた。

 

「吸血鬼族の末裔ってとこか?」

 

「………………」

 

ハジメが確認するように聞き、ユエも気になるのだろうかファルを見つめる。

 

「そうなんじゃないの? ま、食欲がなくなってきたのは捕まる前だったし、その頃かしらね」

 

自分のことながらどうでもよさそうな口調で言うファル。

 

「どうしようかしら…」

 

ファルがこれからのことを思い悩む中…

 

「なら、俺等と来るか?」

 

忍がファルにそう言っていた。

 

「アンタ達と?」

 

「何処にも行く当てがないなら、俺等と一緒に行かないか?」

 

「…………………………」

 

ファルは忍の眼を見て、忍もファルの眼を見つめ返す。

 

「危険が多い旅ではあるが、俺が君を守るよ」

 

「それは私が巫女ってやつだから? それとも同情から?」

 

ファルがそのように尋ねると…

 

「どちらでもないさ。俺がそうしたいからだ」

 

忍はそう答えていた。

 

「随分と自分勝手ね…………少し考えさせて」

 

「もちろん」

 

とりあえず、ファルの答えは一時保留となった。

 

「あ、そうだ。ミュウ、"お兄ちゃん"ってのはやめてくれないか? 普通にハジメでいい。なんというか、むず痒いんだよ、その呼び方」

 

場の空気を変えるためか、ハジメが膝に座るミュウに『お兄ちゃん』呼びをやめるように言うと…

 

「………………パパ」

 

もっと場の空気が固まるような言葉が出てきた。

 

「…………………………な、なんだって? 悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

 

「パパ」

 

「そ、それはあれか? 海人族の言葉で"お兄ちゃん"とか、"ハジメ"という意味か?」

 

「ううん。パパはパパなの」

 

「うん、ちょっと待とうか」

 

思いの外、ダメージが大きかったのかハジメは目元を手で押さえて揉み解す。

 

「ミュウね、パパがいないの。ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの。皆にはパパがいるのに、ミュウにはいないの。だからお兄ちゃんがパパなの」

 

「なんとなくわかったが、何が"だから"なんだとツッコミたい。ミュウ、頼むからパパは勘弁してくれ。俺はまだ17なんだぞ?」

 

「やっ、パパなの!」

 

「わかった。もうお兄ちゃんでいい! 贅沢は言わないから、パパはやめてくれ!」

 

「やっーーー! パパはミュウのパパなの!」

 

そんな一幕を見て…

 

「ぷ、くくく……し、親友がパパ……ククク…やべぇ……腹痛ぇ…」

 

凄く面白そうに噛み殺せてない笑いを上げる忍だった。

 

ミュウにとってハジメは"お兄ちゃん"よりも"パパ"の方がしっくり来たらしく、結局撤回することは出来なかった。

 

ちなみに忍は"お兄ちゃん"呼びに慣れているので、そこはすんなり受け入れた。

ハジメは恨めしそうに忍を見ていたが、そんなんスルーした。

残りの女性陣は全員"お姉ちゃん"で落ち着いた。

ユエとかは"ママ"と呼ばせたかったらしいが、"ママ"は本物のママしかダメらしく断念したとか。

 

ハジメが17歳で"パパ"になり、ここからしばらく子連れの旅が始まるのだった。

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