もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十一話『ちょっと義理を果たしに行くか』

フューレン滞在から少ししてハジメ達一行はブリーゼ、シュタルフ、アステリアを走らせ、左側にライセン大峡谷と右側に雄大な草原に挟まれながら太陽を背に西へと疾走していた。

ちなみにブリーゼにはハジメを運転手に、前の座席にユエとミュウ、後部座席にティオとシオン、そしてファルが搭乗していた。

アステリアはいつもの如く忍とセレナが乗っており、シュタルフにはシアが単独で搭乗している。

 

ファルは、当初"覇王なんて興味ない"として一行に加わることには否定的だった。

しかし、忍が根気よく話し掛け、事情を聞いて天涯孤独の身だと判明した。

頼れる相手がいないのであれば、覇王である自分を頼ってくれてもいいとも言った忍だったが、覇王に興味のなかったファルは当然の如くスルーした。

しかし、先祖返りとは言え、吸血鬼族の末裔ということが判明してしまい、それを隠しながらの生活は大変ではないかと問うた。

その点、ハジメと忍の化け物コンビを中心としたこのパーティーはそんなことを気にするようなものはおらず、同じ吸血鬼族の生き残りであり、王族でもあったユエもいるので、"何かとアドバイスを受けられるのではないか?"ということも伝えた。

その結果、"生きてくために必要なら仕方ないか"という、まるで妥協したかのような態度で同行することになった。

 

一応、ブティックでミュウやファルの服は買っているので問題はない。

 

一緒に疾走しているシアがプロのエクストリームバイクスタンド顔負けの技を披露する中…

 

「やっぱ、シアさんもハウリアなんだなぁ~」

 

ハルツィナ樹海に置いてきたハウリア族の面々を思い出しながら忍がそんな風に言う。

 

「にしても大所帯になったもんだ」

 

「二桁いってないだけまだマシだろ」

 

「ハッハッハッ、確かに」

 

ハジメと忍が他愛のない会話していると…

 

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」

 

ミュウが窓からシアの方を指差してハジメにおねだりしていた。

 

「ダメに決まってるだろ」

 

だが、ハジメは即答する。

それに対して駄々をこねるミュウだが、ユエに叱られて目をウルウルとさせる。

仕方ないとしてハジメが後でシュタルフの後ろに乗せる妥協案を出した。

 

「親友って案外、過保護なのな…」

 

その様子を見てた忍はそう漏らしていた。

 

そうして一行は……宿場町『ホルアド』へと到着する。

 

………

……

 

本来、ハジメ達はホルアドに立ち寄る予定はなかった。

しかし、フューレンのギルド支部長イルワに頼まれごとをされたので、立ち寄ったのだ。

まぁ、グリューエン大砂漠に行く道すがらだったので、こうして寄り道したのだが…。

 

メインストリートを歩き、ホルアドの冒険者ギルドへと向かう中…

 

「懐かしきかな、ホルアド~」

 

という感じに忍が適当なリズムで口ずさむ。

 

「…………………」

 

かく言うハジメも懐かしさに目を細めていた。

 

「パパに、お兄ちゃんも、どうしたの?」

 

そんな2人の様子にハジメに肩車で乗っているミュウが尋ねる。

 

「うん? あ~、いや…前に来たことがあってな。まだ4ヶ月くらいしか経ってないのに、もう何年も前のような気がしてな」

 

「だなぁ。それだけ濃密な時間を過ごしてきたってことかな?」

 

そんな風に4か月前を振り返るハジメと忍に…

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

「忍も…無理してないわよね?」

 

ユエが心配そうな眼差しをハジメに向け、セレナも忍のことを心配そうに見る。

 

「あぁ、問題ない。とは言え、思えば…ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごし、次の日に迷宮に潜って……そして、落ちた」

 

「ハッハッハッ、だな。あの時の親友は……」

 

「忍。それは言わなくていい」

 

「……はいはい」

 

ハジメの殺気に忍は肩を竦めた。

 

「ふむ。ご主人様もシノブも、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? ご主人様の境遇はある程度は聞いているが……皆が皆、ご主人様を傷つけた訳ではあるまい? まぁ、シノブが助けていたようじゃが…シノブ以外にも仲の良かった者もいるのではないか?」

 

そんな中、仲間になって日の浅いティオがハジメと忍にそう尋ねた。

 

「………………」

 

そのティオの問いにハジメは特に気にした様子もなかったが、その脳裏には迷宮に潜る前夜にしたお茶会の映像が過ぎっていた。

しばし遠い目をしてから…

 

「確かに…そういう奴等もいたな。でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」

 

「俺は…どうかな? 特に仲が良かったのは親友だけだし、そもそも俺だけクラス違うしな。それに天職が天職だから…多分、俺も似たような道を進むかもしれない。親友が落ちたなら、助けるために俺は手を…体を動かしたと思うからな」

 

自信を持って言い放つハジメに対し、忍は熟考してから答える。

 

「ほぅ、何故じゃ?」

 

ティオが再度尋ねると…

 

「もちろん、ユエに会いたいからだ」

 

「……ハジメ」

 

ハジメはユエを見つめたまま力強く宣言し、ユエもハジメの方を見つめていた。

 

「覇王。それが何なのかはあの奈落を攻略したから分かったことだ。それに能力もな。でも…そうだな。巫女なんて存在もいると知ってたら、多分巫女探しのために旅に出てたかもな。俺も皆に会いたいと感じたから」

 

「忍…」

 

「忍殿…」

 

「………………」

 

忍の答えにセレナ、シオン、ファルの3人が忍を見る。

 

ただ、ハジメの答えに対し…

 

「ティオさん、聞きました? そこはシノブさんみたいに"皆に"って言うところだと思いません? ユエさんオンリーですよ。また、2人の世界を作ってますよ。もう、場所も状況もお構いなしですよ。それを傍から見てる私達にどうしろと? いい加減、あの空気を私との間にも作ってくれてもいいと思うのですよ。私はいつでも受け入れ態勢が整っているというのに、いつまで経っても残念キャラみたいな扱いで……いや、わかっていますよ? ユエさんが特別だということは。私も元々はお2人の関係に憧れていたからこそ、一緒にいたいと思ったわけですし。だから、ユエさんが特別であることは当然で、それはそうあっていいと思うんですけどね。むしろ、ユエさんを蔑ろにするハジメさんなんてハジメさんじゃないですし。そんなことしてユエさんを悲しませたら、むしろ私がハジメさんをぶっ殺す所存ですが。でも、でもですよ? 最近、ちょっとデレてきたなぁ~、そろそろ大人の階段を登っちゃうかなぁ~、って期待しているのに一向にそんなことにならないわけで、いくらユエさんが特別だからって、もうちょっと目を向けてくれてもいいと思いません? 据え膳食わぬは男の恥ですよ。こんなにわかりやすくウェルカムしてるのに、グダグダ言って澄まし顔でスルーして、このヘタレ野郎が! と思っても罰は当たらないと思うのですよ。私だってイチャイチャしたいのですよ! ベッドの上であんなことやこんなことをしてほしいのですよ! ユエさんがされてたみたいなハードなプレイを私にも! って思うのですよ! そこんとこ変態代表のティオさんはどう思います!?」

 

余程鬱憤が溜まっていたのか、えらいマシンガントークでティオに意見を求めるシア。

 

「し、シアよ。お主が鬱憤を溜め込んでいたのは分かったから、少し落ち着くのじゃ。むしろ、公道でとんでもないことを叫んでおるお主の方が注目されとる。というか、最後さりげなく妾を罵りおったな? こんな公の場所で変態扱いされてしもうた。ハァハァ…心なしか周囲の妾を見る目が冷たいような……ハァハァ、んっんっ」

 

そんなシアに気圧されつつも、周囲の目が冷たい気がして高揚感から体を震わせるティオ。

 

悲しきかな、美少女や美女なのに変なこと叫んだり、興奮から息を荒げてる姿に通行人はドン引きしていた。

 

「パパ~、シアお姉ちゃんとティオお姉ちゃんが……」

 

「ミュウ。見ちゃダメだ。他人の振りをするんだ」

 

「……シア……………今度、ハジメを縛ってシアと一緒に……」

 

「ハッハッハッ、これも親友のヘタレが原因だな」

 

「シアも大変ね…」

 

「お嬢様…」

 

「………………いつもこんななの?」

 

ミュウの教育上に悪いと判断したハジメだが、ユエの何気ない一言に首裏に冷や汗を流すのだった。

忍はいつもの如く笑っているし、巫女達はそれぞれ同情やら諦めやら呆れやらをそれぞれの表情に浮かべていた。

町の警備兵が遠くに見えたので、仕方なくハジメはシアとティオの首根っこを掴んで引きずっていき、それを追う忍達の図が出来上がる。

 

 

 

そうして周囲の視線を無視しながら冒険者ギルド・ホルアド支部にやってくるハジメ達一行。

ミュウを肩車したままハジメが金属製の扉を押し開けて中へと入る。

それを追って忍やユエ達もぞろぞろと入っていく。

 

ギルドの中は、床や壁が所々壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かのシミがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。

内部の造りは他の支部と同様、入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。

2階部分にも席があるが、そちらは強者の雰囲気を持つ者が多く、そういうルールなのか暗黙の了解なのか判断しかねるが、高ランクの冒険者は基本的に2階に行くのかもしれない。

 

冒険者自体の雰囲気も他の町とは異なっており、誰も彼も眼がギラついていた。

ブルックのようなほのぼのとした雰囲気は皆無である。

冒険者や傭兵など、魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が自ら望んで迷宮に潜りに来ているのだから気概に満ちているのは当然と言えば、当然であるのだが…どうにもそれを差し引いてもギルドの雰囲気はピリピリしているようにも感じられた。

明らかに歴戦の冒険者も深刻そうな表情をしていて、何かが起きている様子だ。

 

そんな雰囲気の中、平然と入ってきたハジメ達に殺気がこもったような視線を送る冒険者達。

 

「ひぅ!?」

 

ミュウなんてその視線に怯えてハジメの頭にしがみつく。

そんなミュウを片腕抱っこに切り替えると、ミュウはハジメの胸元に顔を埋めて外界のあれこれをシャットアウトした。

ミュウを優しい手つきであやしながらも…

 

ドンッ!!

 

そんな音を立てるかのような濃密にして凄絶な殺気がハジメから放たれて、ハジメ達に殺気を向けていた冒険者達が気絶したり、意識を保っていながらガクガクと震えたりと様々な反応を見せる。

 

そんな中、ハジメが声を掛ける。

 

「おい、今こっちを睨んだやつ」

 

『!』

 

その声にビクリと反応する冒険者達は恐る恐るハジメの方を向く。

 

「笑え」

 

『え?』

 

そんな一方的な命令に困惑する冒険者達。

 

「聞こえなかったか? 笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前等のせいで家の子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ? ア゛ァ゛? 責任取れや」

 

そう言ってハジメが冒険者達を睨んでいると…

 

「いやいや、親友。そんなことしても逆効果だって…」

 

忍がハジメの方をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

「あぁ? じゃあ、どうしろと?」

 

とハジメが忍を睨むと…

 

「ミュウちゃん、ミュウちゃん。大丈夫だから顔を上げてごらん。確かにあのおじさん達は怖いけど、よく見てみたら意外と怖くないかもよ?」

 

そんなことを言って聞かせる。

流石、妹がいるだけあって年下の子供への対応が適切だった。

 

「うぅ~…」

 

ハジメの胸元からチラッと冒険者達を見るミュウに対し、冒険者達も忍のくれたチャンスに軽く手を振って愛想よくしてみる。

 

「…………………」

 

チラ見からジーッと冒険者達を見た後、ミュウの方からも小さく手を振っていた。

 

「よしよし、よく頑張ったね。ミュウちゃんは出来る子だね。な、親友?」

 

「あ、あぁ…そうだな…」

 

ミュウの頭を軽く撫でた後、忍がハジメに話題を振り、若干戸惑いながら答えつつもカウンターへと向かう。

 

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かってきたんだが、本人に直接渡せと言われているんだ」

 

そう言いながらハジメはステータスプレートを受付嬢に提示する。

ちなみに受付嬢はハジメと忍と同い年くらいで可愛かったが、その表情は緊張で滅茶苦茶強張っていたが…。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと…フューレン支部のギルド支部長からの依頼、ですか?」

 

しかし、そこはプロ。

緊張しつつも居住まいを正して対応するが、少し怪訝そうに首を傾げる。

 

「き、"金"ランク!?」

 

冒険者において"金"ランクを持つ者は全体の一割にも満たない。

しかも"金"ランク認定を受けた者についてはギルド職員にも伝えられているので、最近フューレンで"金"への昇格の話が出たハジメ達のことなど、この受付嬢が知らなくも無理はない。

ただ、ランクも個人情報としても扱うのか、大声で叫んでしまった受付嬢は顔を青ざめさせてハジメに頭をペコペコと下げていた。

 

「申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

 

「あ~、いや…まぁ、別にいいから。とりあえず、支部長に取り次いでくれるか?」

 

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

このままでは、いつまでも謝り続けそうな受付嬢に苦笑しながらもハジメはそう言うと、受付嬢は奥の部屋へと小走りで向かう。

その間、"金"というランクにハジメ達に注目が否が応でも集まり、それに居心地を悪くしたミュウを全員であやす。

 

すると、5分もしない内にギルドの奥から"ズダダダッ!"という何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえてきた。

何事だと、ハジメ達がそちらの方を向くと、カウンター横の通路から全身黒装束の少年が"ズザザザザザー!"と床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出してきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

その人物にハジメは見覚えがあり、まさかこんなところで再開するとは思わず目を丸くして呟く。

 

「……遠藤?」

 

「!」

 

ハジメの呟きを聞き、全身黒装束の少年『遠藤 浩介』は叫ぶ。

 

「南雲ぉ! いるのか! お前なのか! 何処なんだ! 南雲ぉ! 生きてんなら出てきやがれぇ! 南雲 ハジメぇ!!」

 

あまりの大声に思わず耳を塞ぐ者達が続出する。

ただ、その声音は死んだクラスメイトが生存しているかもしれず、それを確かめたいという気持ち以上の必死さが含まれているようだった。

 

「ハッハッハッ、親友も人気者だねぇ~」

 

「うるせぇよ。あと、遠藤。ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのはやめてくれ」

 

「!? 南雲だけじゃなく紅神もいるのか!? 何処だ!」

 

グリンと声の方に顔を向けた浩介。

そのあまりに必死な形相にハジメが思わずドン引きする。

一瞬、ハジメと視線が合うも、すぐにハジメから目を逸らすと再び辺りをキョロキョロと見渡し始める。

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱ、化けて出てきやがったのか!? 俺には姿が見えねぇってのか!?」

 

「いや、目の前にいるだろうが、ド阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

 

「あ~、遠藤ってあのやたら影の薄い奴か。匂いまで希薄とか…地球も案外ファンタジーなのか?」

 

「?! また声が!? てか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい3回に1回はちゃんと開くわ!!」

 

「3回中2回は開かないのか……お前、流石だな」

 

「マジか。そんな感じなら、その内開かない回数の方が増えてくんじゃね?」

 

そこまで言葉を交わし、ようやく浩介は目の前の白髪眼帯の男と、その後ろにいる白と黒の混ざりあった髪の男が会話している本人だと気付き、まじまじと交互に見つめ始める。

男に見つめられて喜ぶ趣味のないハジメは嫌そうに顔を逸らし、忍は後頭部で手を組んで笑っていた。

 

「お、お前等……お前等が南雲と紅神、なのか?」

 

「はぁ……あぁ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘、南雲 ハジメだよ」

 

「ハッハッハッ、右に同じく紅神 忍だ」

 

忍の方は僅かに面影や雰囲気があったのか、すんなり受け入れた浩介だが、ハジメの変貌ぶりには驚く他なかった。

 

「お前等……生きていたのか」

 

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

 

「そうそう。ちゃんと足だってあるだろ?」

 

「紅神は見た目以外はそんな変わってなさそうだけど、南雲は…………………なんか、えらい変わってるんだけど……見た目とか、雰囲気とか、口調とか……」

 

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ? そりゃあ、多少は変わるだろ?」

 

「ハッハッハッ、親友の場合は"多少"で済ますレベルじゃねぇけどな」

 

そんな風に他愛のない会話をして浩介も2人の生存に安堵するが…。

 

「そういや、南雲は冒険者してるのか? しかも"金"て…」

 

「ん~、まぁな」

 

「ちなみに俺も冒険者で"金"だ」

 

その言葉に浩介は…

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還出来る上に、冒険者の最高ランク貰えるくらい強いってことだよな? しかも2人も…………………信じられねぇけど…」

 

そう尋ねていた。

 

「まぁ、そうだな」

 

「あの死線を潜り抜けりゃそうなるかな?」

 

そう言いながらも、今更ながら浩介のボロボロな姿に気付き、2人は内心首を捻る。

しかし、それを聞いた浩介はハジメの肩を掴んで、今まで以上に必死さの滲む声音で懇願する。

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないとみんな死んじまう! 1人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲、紅神!」

 

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全く分からんのだが? 死んじまうってなんだよ? 天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、2度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし…」

 

「ふむ? 確かに状況が読めん。もちっと詳しく話をしてくれてもいいだろ?」

 

ハジメと忍が状況の説明を求めると、"メルド団長"の名が出たところで浩介が暗い表情で膝から崩れ落ちる。

 

「……んだよ」

 

「は? 聞こえねぇよ。なんだって?」

 

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも、他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士はみんな死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!!」

 

「……そうか」

 

「…………………」

 

浩介の慟哭にハジメはそう返し、忍も瞑目した。

 

「で、結局何があったんだ?」

 

「それは…」

 

浩介が崩れ落ちたまま事の次第を話そうとした時…

 

「話の続きは奥でしてもらおうか。そっちは俺の客らしいしな」

 

しわがれた声が聞こえ、そちらを向けば60歳過ぎくらいのガタイの良い左目に大きな傷を負った迫力のある男がいた。

恐らく、彼がここのギルド支部長なのだろう。

ギルド支部長が浩介の腕を掴んで無理矢理立たせると奥へと連れていき、ハジメ達もそれを追う形で奥へと向かう。

 

………

……

 

奥の応接室で、浩介から事情を聞くと、迷宮攻略中に魔人族の襲撃を受け、勇者パーティーが窮地に置かれているらしい。

その話を先に聞いていたのであろう冒険者ギルド・ホルアド支部支部長『ロア・バワビス』が深刻そうな表情をしていた。

 

「……魔人族、ねぇ…」

 

話を聞き終わったハジメはそう呟いていた。

 

「つぅか、なんなんだよ! その子! なんで、菓子食わしてんの!? 状況理解してる!? みんな、死ぬかもしれないんだぞ!!」

 

そんな中、浩介がハジメの膝の上でリスのようにお菓子を食べるミュウに指を突き付けて怒声をあげる。

 

「ひぅ!? パパぁ!」

 

その怒声に驚き、ミュウがハジメに抱き着く。

 

「テメェ……なに、ミュウに八つ当たりしてんだ? ア゛ァ゛? 殺すぞ?」

 

「ひぅ!?」

 

ハジメの人外レベルの殺気を受け、浩介もソファに腰を落とす。

 

「……もう、すっかりパパ」

 

「さっき、さり気なく"家の子"とか口走ってましたしね~」

 

「はてさて、ご主人様はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」

 

「ハッハッハッ、親友は親バカの素養があったか~」

 

「話が進まないわね」

 

「そうだぞ。今は一刻を争うのだろう?」

 

「…………………」

 

ユエ、シア、ティオ、忍がハジメを生暖かい目を向ける中、セレナとシオンが話が進まないことに注意する。

ファルは相変わらず興味なさげだが…。

 

「そうだな。ハジメ、シノブ。イルワからの手紙でお前達のことは大体わかっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

「俺は親友に付き合っただけさ」

 

そんな風に事も無げに言う2人にロアは面白そうに唇の端を釣り上げた。

 

「手紙にはお前達2人の"金"ランクへの昇格に対する賛同要請と、出来る限りの便宜を図ってやってほしいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も浮かんでいるんだがな。たった数人で60000もの魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅。にわかに信じられんことばかりだが、イルワのやつが適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん。もう、お前達が魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ?」

 

「!!」

 

そのロアの言葉に浩介の表情が驚愕に染まり、ハジメと忍を見る。

 

「バカ言わないでくれ。魔王だなんて…そこまで弱くないつもりだぞ?」

 

「俺は覇王を目指してるので……それに魔王くらい、今なら噛み砕ける自信はありますよ?」

 

「ふっ…魔王を雑魚扱いか? 大言を吐く奴等だ。だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルド・ホルアド支部支部長からの指名依頼を受けてほしい」

 

「……勇者達の救出だな?」

 

ハジメの言葉に浩介がハッとなる。

 

「そ、そうだ! 南雲! 紅神! 一緒に助けに行こう! お前達がそんなに強いなら、きっとみんなを助けられる!」

 

「「…………………」」

 

浩介の言葉を聞き流し、ハジメは遠くを見て何かを考えていた。

忍は忍でハジメの言葉を待っていた。

 

「どうしたんだよ! 今、こうしている間にもあいつ等は死にかけてるかもしれないんだぞ! 何を迷ってんだよ! 仲間だろ!?」

 

「……仲間?」

 

浩介の言葉にハジメは底冷えするかのような冷たい視線を浩介に向ける。

 

「あ、あぁ、仲間だろ! なら、助けに行くのはとうぜ……」

 

「勝手にお前等の仲間にするな。ハッキリ言うが、俺がお前等に抱いている認識は、ただの"同郷"の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

 

「なっ!? そ、そんな……何を言って…………べ、紅神は、どうなんだよ!?」

 

「ん~…元々、俺って別クラスだし、親しい相手なんて親友くらいだからな。最初の頃は、確かに仲間意識はあったよ? でもなぁ……今となっては、そこまで強い仲間意識を持てそうにない」

 

「な、なんで…?」

 

ハジメと忍の答えに愕然とする浩介。

 

だが、ハジメの意識は別の所にあった。

光輝達を助けることで生じるデメリットを考える横で、思い浮かぶのは…あの月下のお茶会だった。

このホルアドに来てからというもの、ハジメは香織のことを思い出していた。

 

「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」

 

「え?」

 

愕然としていた浩介にポツリと尋ねるハジメに、浩介も一瞬何を言われたかわからなかったが…

 

「あ、あぁ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジで凄ぇんだ。回復魔法がとんでもないというか……あの日、お前達…というか、南雲が落ちてから、なんていうか鬼気迫るって言うのかな? こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでて……雰囲気も少し変わったかな? ちょっと大人っぽくなったというか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったというか……」

 

「……そうか」

 

「(彼女は…それだけ親友のことを……)」

 

浩介の話を聞き、ハジメがそう返す横で、忍がその想いの強さに感嘆する。

そして、ハジメはというと頭をカリカリと掻いてユエの方を見る。

 

「……ハジメのしたいように。私は、何処までもついて行く」

 

そんなユエの言葉に続くように…

 

「わ、私も! 何処までもついて行きますよ! ハジメさん!」

 

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

 

「ふぇ!? えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

シア、ティオ、ミュウが主張する。

まぁ、ミュウに関してはまだよくわかってなさそうだが…。

 

「え? なにこのハーレム……」

 

「ハッハッハッ、親友は存外モテるんだよ」

 

浩介が驚く中で、忍がやれやれといった具合に肩を竦める。

 

「ありがとな、お前等。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくないし、お前達を関わらせるのも嫌なんだが……ちょっと義理を果たしたい相手がいるんだ。だから、ちょっくら助けに行こうと思う。ま、あいつらのことだから、案外自分達で何とかしてそうな気もするがな」

 

「あのヒーローがヘタレてなきゃな」

 

ハジメの言葉に忍がそんなことを言って互いに苦笑する。

 

「え、えっと…結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

 

「あぁ。ロア支部長。一応、対外的には依頼ということにしておきたいんだが……」

 

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

 

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋を貸してくれ」

 

「あぁ、それくらい構わねぇよ」

 

流石にミュウを連れて行くわけにもいかず、ハジメはお守兼護衛としてティオも置いてくことにした。

 

「セレナ、シオン、ファルも残ってくれ」

 

消去法とは言え、ティオという人選に忍も心配したのか、巫女達を置いていくことにした。

シオンはともかく、セレナとファルを迷宮に連れてくのは心配、というのもあった。

 

そうして浩介の案内の元、ハジメ、忍、ユエ、シアの4人が迷宮へと出発することになった。

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

 

「うわっ?! ケツを蹴るなよ! っていうか、南雲、お前は色々と変わり過ぎだろ!?」

 

「やかましいわ。サクッと行って1日……いや、半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いてくんだからな。早く帰らねぇと」

 

「まぁ、うちの巫女達もいるからそんな心配しなくてもいいと思うけどな」

 

「巫女ってなんだよ!? 紅神、お前もお前でハーレム築いてんじゃねぇよ!」

 

「喋る暇あんならキビキビ走れ!」

 

「わっ!? ホント、何があったら、あの南雲がこんなのになるんだか…」

 

「色々あったのさ」

 

そんな風に会話しながら迷宮の深層へ向けて走る。

 

果たして、迷宮の深層で待っているのは…?

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