もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十二話『戦場での再会・前編~無双の果ての相違~』

ハジメ達が浩介の案内で迷宮を踏破していく。

ただ…

 

「弱ぇ…」

 

「……弱い」

 

「う~ん、これが本当に迷宮なんですかぁ?」

 

「ま、奈落の方が圧倒的に強いからな」

 

ハジメ、ユエ、シア、忍が迷宮の魔物を悠々と屠る姿に…

 

「…………………」

 

浩介があんぐりと口を開けたままの状態で固まる。

 

「おら、固まってないで案内しろ、案内」

 

「だからケツを蹴るなって! あんなに苦労してきたのに、この力量の差…ホント、なんなのさ…」

 

浩介の尻を蹴りながらハジメが急かし、浩介はここまでの苦労を嘲笑われているかのような気分に陥っていた。

 

そんな時だった。

 

ゴォォォ……!!

 

「「ッ!!」」

 

化け物コンビがその場で立ち止まる。

 

「親友」

 

「あぁ、これは…」

 

「? どうしたんだよ。2人共?」

 

急に立ち止まったハジメと忍に浩介が振り返って訝しげな表情をする。

 

「天之河だ」

 

「この感じからすると…限界突破の派生か?」

 

互いに魔力感知と気配感知をフル活用して場所を特定していく。

 

「この辺りかな?」

 

そう言ってハジメが宝物庫からパイルバンカーを取り出すと…

 

「な、何をする気だ? てか、どっから出てきたんだよ、それ!?」

 

いきなり虚空から出てきたパイルバンカーに浩介が騒いでいるが、そんなん無視して…

 

「行くぞ」

 

「応!」

 

「……ん」

 

「はいですぅ!」

 

ハジメの言葉に忍達が頷き…

 

ドォゴオオンッ!!!

 

パイルバンカーを起動させ、下層に向けて発射する。

 

「どわぁぁぁ!?!?」

 

パイルバンカー発射の余波で浩介が吹き飛ぶ。

 

「錬成!」

 

それを無視してハジメが錬成を使って地面に穴を開けると、そこから下層に向かって飛び降りる。

 

「よっと」

 

それに続くように忍も穴から飛び降りる。

ユエとシアは少しだけ待機する。

 

「な、なんなんだよ、今のは!? マジで何してんだよ!?」

 

浩介が戻ってきながら騒ぐが、ユエもシアもスルーした。

 

………

……

 

そして、ハジメと忍が飛び降りた先では…

 

グチャッ!!

 

何かを踏みしめてハジメと忍が着地していた。

紅いスパークを放っているパイルバンカーの杭が真下にいた"何か"をその凶悪な威力で押し潰したようで、何やら肉片と化した残骸が周囲に飛び散っていた。

 

そんなんはどうでもいいと言いたげなハジメは背後に感じる2人分の気配に気付き、肩越しに顔だけ振り返らせると、そこには互いに寄り添い合う『白崎 香織』と『八重樫 雫』の姿があった。

その姿を見て…

 

「……相変わらず仲が良いな、お前等」

 

そう苦笑しながら告げていた。

 

そして、そんなハジメと目が合った香織はというと…体に電撃が走ったような感覚に襲われていた。

悲しみと共に冷え切っていた心が…いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が…突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めていた。

香織の心は考えるよりも早く歓喜で満たされていく。

 

髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目付きが違う。

だが、香織にはわかった。

生存を信じて探し続けた彼だと…。

 

故に…

 

「ハジメくん!!」

 

香織はハジメに向かって叫んでいた。

 

「(わぉ、こんなに変貌してんのに親友だって気付きやがった。彼女はそれだけ親友のことを…)」

 

その香織の叫びに忍は目を見開いて驚いていた。

 

「へ? "ハジメくん"? って、南雲くん? えっ? なに? どういうこと?」

 

香織の歓喜に満ちた叫びに、隣にいた雫が混乱した様子で香織とハジメを交互に見る。

どうやら、香織は一発で目の前の白髪眼帯コートの人物がハジメだと看破したようだが、雫の方はまだ認識が及ばないらしい。

 

「ハッハッハッ、やっぱり彼女が特別なんだろ。な、親友?」

 

「…………………」

 

静寂の中で笑う忍の声にハジメは肩を竦めていると…

 

「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの? えっ? なに? ホントにどういうこと?」

 

「いや、落ち着けよ、八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

「ていうか、俺の存在はスルーなのな?」

 

どうも記憶にあるハジメと目の前の人物の輪郭が重なり始めたのか、雫がハジメだと認識してさらに混乱していると、ハジメが雫にそんなことを言う。

そんなハジメの横では悲しげな声を漏らす忍の姿があった。

 

「(ユエ、シア、降りてこい)」

 

念話で上層にいたユエとシアを呼ぶと…

 

ヒュッ!

 

ユエとシアが降りてきて、ハジメがそれを優しく受け止めて傍らに降ろす行為を2回繰り返した。

その後を追うように全身黒装束の少年…浩介も降ってくるが、そこはスルーした。

 

「お、お前等…もう少し説明をだな!」

 

降り立った浩介はハジメと忍に文句を言うが、周囲の目がこちらを向いているのを見て…

 

「ぬおっ?!」

 

そんな奇声を上げていた。

そして、そんな浩介の姿を見て再会を喜びと何故戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声が掛かる。

 

「「浩介!!」」

 

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

 

浩介の言葉で止まっていた時が再び動き出す。

 

「ユエ、悪いがあそこで固まってる連中の守りを頼む。シアは向こうで倒れてる騎士甲冑の男の容態を見てくれ。忍は俺と暴れてもらうぞ?」

 

「ん……任せて」

 

「了解ですぅ!」

 

「あいよ、親友」

 

ハジメの指示に従い、ユエは魔物達を無視して悠然と歩いていき、シアはハジメから試験管を貰うとその身体能力を遺憾なく発揮して倒れているメルドの元へと跳躍していた。

そして、ハジメと並び立つように忍が銀狼と黒狼を引き抜く。

 

「は、ハジメくん…」

 

香織がハジメのことを呼ぶが、その声音には再会の喜びと同じくらいの悲愴さを含んでいた。

恐らくは、どういう理由があったとしてもこの死地に来てしまったことへのことを思ってのことだろう。

 

「いいから、そこにいろ」

 

そんな香織の心配をよそにハジメは肩を竦めてそう言うと、瞬光を発動して知覚能力を引き上げ、宝物庫から無人偵察機と同じ原理で浮かぶ十字架型の攻撃特化ユニット『クロスビット』を3機取り出し、香織と雫の近くに配した。

 

「おい、そこの赤毛の女。今すぐここから退くなら追わないでやる。だから、さっさと消えろ」

 

「なんだって…?」

 

「聞こえなかったのか? 見逃してやるから、さっさと消えろと言ったんだ。戦場での判断は迅速にな?」

 

ハジメの提案とも言えぬ提案に魔人族の女の表情が消える。

 

「なぁ、親友。その言い方だと、十中八九…」

 

「殺れ」

 

魔人族の女がハジメに向かって指を差すと、一言魔物達に命令していた。

 

「ほらね。こうなった」

 

「なら"敵"ってことでいいじゃねぇか。その方がわかりやすい」

 

「やれやれ」

 

ハジメの答えに忍も肩を竦めると…

 

『ガアァァァ!!』

 

ハジメと忍にキメラ2匹が左右から襲い掛かる。

 

「おいおい…なんだ、この半端な固有魔法は? 大道芸か何かか?」

 

「なんともお粗末だな~」

 

右のキメラを忍が二刀を用いて首と胴体を斬り裂くのと同時に左のキメラをハジメが義手でもって頭を鷲掴みにすると、『グシャッ!!』という生々しい音を立てて地面に叩き付けた。

 

「雷光剣!」

 

忍は斬り捨てたキメラを尻目に四つ目狼に神速で接近し、雷の宿った銀狼で横一文字に斬り裂く。

一方のハジメも殺したキメラを捨て置き、ドンナーを抜いて何もないと思われた空間に銃撃すると、キメラとブルタールもどきが現れたが、既に絶命した後だった。

 

あまりにあっさりと魔物達を殺すハジメと忍に唖然とする魔人族の女と、ハジメの使っているこの世界には無いはずの銃に立ち尽くす生徒達を置いて、魔物達は魔人族の女の命令を遂行すべく行動を起こす。

 

が、それらを歯牙にもかけないのが化け物コンビである。

襲い来る魔物達を次々と屠っていく様は一方的な処刑とも言えなくもない。

 

忍が斬れば、ハジメが撃ち抜く。

ハジメが撃てば、忍が斬り裂く。

互いに死角はなくとも、互いにフォローする様はまさに化け物コンビに相応しいものだろう。

 

そんな中、六足亀の魔物が何やら口を開き、チャージ動作をしていた。

それにハジメが対応しようとしたが、忍が前に出て黒狼を納刀すると左手を亀に向けて円形状の闇を展開する。

 

「ま、実験もしないとかないとな」

 

そんなことを言う忍の背後をハジメが守っていると、チャージが完了したのか、高密度の魔力砲撃が亀の口から忍に向けて放たれる。

が、しかし…

 

ゴォォォ!!

 

その砲撃はまるでブラックホールに吸い込まれるが如く闇の中へと吸収されていった。

 

「なかなかの威力じゃん」

 

銀狼も納刀し、右手にも円形状の闇を展開するとニィと嗤い、上級魔法の詠唱をしている魔人族のへと向ける。

 

「"複製"」

 

そう言った瞬間、右手側の円形状の闇から亀の放った砲撃と同規模の砲撃が放たれる。

 

「っ!? ちくしょう!」

 

詠唱を中断せざるを得なくなり魔人族の女はその砲撃を回避する。

 

傍から見たら吸収した砲撃をそのまま左から右へ受け流してるように見えるが、厳密には違う。

これは吸収した魔力攻撃はそのまま忍に還元され、その還元した魔力を用いて受けた魔力攻撃を複製…つまりコピーして放っただけに過ぎない。

故に亀の砲撃が終わったとしても、忍の魔力残量がある限りは撃ち放題なのである。

まぁ、コピーした魔力攻撃は一日も経てば消滅してしまうが、それでも相手の魔力攻撃を複製出来るのはそれはそれで脅威だろう。

しかもコピーする数に制限はない。

 

そうして、右手を薙いで魔人族の女を砲撃で追っていると、忍の左手側から衝撃がなくなってきた。

亀の砲撃が止まったのだろう。

 

「親友」

 

「あぁ」

 

忍の一言でハジメも何発もあんなのが撃たれたら面倒だと察したのか、ドンナーを亀に向けてその脳天を貫いた。

忍も左手の闇を消すと、右手の闇からの砲撃を止めた。

流石にこのまま追いかけっこするのは面倒なのと、砲撃が闇と闇の間を通り抜けたと周りに錯覚させることにしたためだ。

 

砲撃が止まり、ホッとした様子の魔人族の女だが…

 

ドパァンッ!!

ベチャッ!!

 

次の瞬間、自身の肩に留まっていた白い鴉が肉片と化していた。

ハジメがシュラークをノールックで白い鴉に向けて発砲したのだ。

ついでとばかりに忍も銀狼を抜いて魔力斬撃を放って魔人族の女に護衛をしに戻った魔物を一刀両断していた。

 

それはつまり、ハジメも忍もいつでも魔人族の女を殺せるということを示していた。

その事実を突きつけられて魔人族の女は身震いする。

 

そんな光景を見て…

 

「なんなんだ…彼等は一体何者なんだ!?」

 

どういう理由か知らないが、動けない体を地面に横たわらせている光輝が呟く。

 

「はは、信じられないだろうけど…あいつらは南雲と紅神だよ」

 

『は?』

 

浩介の言葉に生徒達が「こいつ、頭大丈夫か?」という視線が向けられる。

 

「だから、南雲 ハジメと紅神 忍だって。あの日、橋から落ちた2人だよ。迷宮の底で生き延びて自力で這い上がってきたんだと…。ここに来るまでも迷宮の魔物を雑魚扱い。"マジあり得ねぇ!"って俺も思ったけど、事実なんだよ」

 

「南雲と紅神って、え? 南雲と紅神が生きていたのか!?」

 

光輝の戸惑いの叫びに、他の生徒達も現在進行形で殲滅戦を行っている2人の少年を見て…片方はかろうじてギリギリ忍だと判断出来るようだったが、もう一方のハジメの方は皆否定気味だった。

 

「いや、まぁ…紅神は話せばわかると思うけど…南雲はなぁ。滅茶苦茶変わってるけど、本当なんだって。ステータスプレートも見たし」

 

その心情を察したのか、浩介が再度そのように伝えた。

 

が、そこに酷く狼狽した声が響く。

 

「う、嘘だ! 南雲は死んだんだ! だって、そうだろ? みんな見てたじゃんか! 生きてる訳がない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!!」

 

「うわっ?! なんだよ! ステータスプレートも見て、本人も認めてんだから間違いないだろ!」

 

「嘘だ! なんか細工でもしたんだろ! それか…そうだ、なりすましてなにか企んでんだ!」

 

「いや、なに言ってんだよ? そんなことする意味、何もないじゃないか」

 

浩介の胸倉を掴んで喚くのは…『檜山 大介』だった。

そんな風に錯乱気味の大介に、比喩ではなくそのままの意味で冷水が浴びせかけられた。

 

「……鬱陶しいから、静かにしてて」

 

やったのはユエだ。

後ろが騒がしかったので、その元である大介の頭上に大量の水を発生させて小規模な滝を作って黙らせたのだ。

 

そんな中、魔人族の女が一部の魔物に標的を生徒達に変えて襲うように指示していた。

 

「『蒼龍』」

 

それをユエが迎撃する。

『雷龍』と同じ、蒼天と重力魔法の複合魔法だ。

 

さらに魔人族の女は手薄なメルド団長を診ているシア、香織と雫の方にも魔物を向かわせるが、シアもまたドリュッケンを振るって魔物を一捻りにしている。

香織と雫の方はクロスビットが合間に入り、魔物を銃撃していた。

 

そうこうしている間にも魔物達はその数をどんどん減らしていき、遂には魔人族の女1人を残すのみとなる。

 

「ホントに…なんなのさ」

 

最後の悪足掻きと、情報を持って帰るために温存していた石化の魔法『落牢』をハジメと忍が一緒にいる時に向けて放ち、全力で出口の一つに駆け出すが…

 

「チェックメイトだな」

 

神速で魔人族の女の前に現れた忍は銀狼の切っ先を魔人族の女の喉元に突きつける。

 

「ははっ…既に詰みだったわけか…」

 

「その通り」

 

その背からハジメも悠々とやってくる。

石化の煙をものともしない様に魔人族の女は諦めたような目になる。

ちなみに拡散しようとする石化の煙は紅い波動(ハジメの"魔力放射")で他の通路へと流されている。

 

「……この化け物共め。上級魔法が意味をなさないなんて…アンタら、本当に人間?」

 

「実は自分でも結構疑わしいんだが……化け物というのも存外悪くないものだぞ?」

 

「まぁ、色々とあったからね。今更感がある」

 

そんな風に言ってくるハジメと忍から目を逸らして部屋の中を見れば、もはや魔物の軍団は壊滅していた。

 

「化け物共め」

 

それを見て魔人族の女は小さく2人を罵った。

 

「さて、普通なら遺言くらい聞く場面ではあるんだろうが……生憎とそんなもんに興味はない。俺が気になるのは、何故魔人族がこんな場所にいるのかと、あの魔物達を何処で手に入れたのか。この2つだ」

 

「まぁ、確かに気になる点ではあるね…(想像はつくけど)」

 

「はっ…あたしが話すと思うのかい? 人間族に有利になるかもしれないのに? バカにされた…」

 

ドパァンッ!

 

「あがぁああ!?」

 

最後まで言い終わる前にハジメが魔人族の女の太腿を撃ち抜き、悲鳴を上げて崩れ落ちる魔人族の女を見て、背後にいた生徒達が息を呑むのが伝わってくる。

 

「(この程度で動揺しちゃこの先、生きていけるかな?)」

 

忍が別の心配をしている合間にも…

 

「人間族だの魔人族だの関係ない。むしろ、こっちは迷惑してんだ。戦争したけりゃ自分達で勝手にしてろ。それに俺は人間族として聞いてるんじゃない。俺が知りたいから聞いてるだけだ。ほら、さっさと答えろ」

 

「……………………」

 

ハジメの尋問は続いており、魔人族の女はだんまりを決め込む。

 

「まぁ、大体の予想はつく。ここに来たのは、"本当の大迷宮"を攻略しに来たからだろ?」

 

「……っ」

 

ハジメの言葉に僅かにだが、眉をピクリと動かしてしまう魔人族の女。

 

「あの魔物達は、神代魔法の産物。図星か? なるほど、魔人族の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する、もしくは魔物かなんかに作用する神代魔法を手に入れたからか」

 

「となると、魔人族側は勇者達の調査と勧誘も並行してたのかにゃ~? そのついでに大迷宮の攻略にも動いている可能性があると…」

 

ハジメと忍の推測は当たっているのか、悔しそうな表情になる魔人族の女。

 

「どうして、そこまで……………まさか!?」

 

そして、気付いてしまった。

こいつらは…否、こいつら"も"大迷宮を攻略したのではないかと…。

その答えをハジメは「正解」と視線だけで伝える。

 

「なるほどね。"あの方"と同じならば、その化け物じみた強さも頷ける。もう、いいだろ? 一思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になる気なんてさらさらないからね…」

 

「"あの方"、ね。魔物は攻略者からの贈り物ってわけか」

 

「みたいだな。ま、これ以上はもう何も得られるもんはないか…」

 

ハジメと忍の瞳に殺意が宿る。

 

「いつか、あたしの恋人がアンタらを殺すよ」

 

その負け惜しみの言葉に…

 

「敵ならば、神だって殺す。その神に踊らされている程度の奴じゃあ、俺達には届かない」

 

「立ちはだかる敵なら噛み砕くのみ。それが覇王に繋がるのなら…俺はその覇道を進むだけさ」

 

ハジメも忍も不敵な笑みを浮かべ、ハジメはドンナーの引き金に、忍は銀狼を振りかぶっていた。

 

が、その時…

 

「ま、待て! 待つんだ! 南雲! 紅神! 彼女はもう戦えないんだ! 殺す必要はないだろ!!」

 

少し回復したのかフラフラと立ち上がる光輝が2人を制止しようとする。

 

「「…………………」」

 

ハジメは「何言ってんだ、あいつ?」という訝しげな表情をし、忍も険しい表情を光輝に向ける。

 

「捕虜に…そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて絶対にダメだ。俺は勇者だ。2人共、俺の仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

そう言う光輝だが、忍が"わざと"銀狼を納刀するのを見せて少し距離を置くと…

 

「紅神はわかってくれたのか。さぁ、南雲も彼女から…」

 

何を勘違いしたのか、光輝がそのように言う中…

 

ドパンッ!!

 

ハジメが問答無用に引き金を引いて、魔人族の女の額を撃ち抜いた。

 

「なっ!?」

 

「俺があそこにいたら射線的に邪魔だもんな」

 

"わかってくれた"のではなく、単に"ハジメの邪魔をしない"だけであることを忍は伝えたかったらしいが、どうにも伝わっていないようである。

 

「…………………」

 

それを特に気にした様子もなく、ハジメはシアの元へと歩いていく。

その後を忍もついて行きながら…。

 

「何故…何故、殺したんだ…? 殺す必要があったのか…?」

 

そんな風に呟きながらハジメに鋭い目を向ける光輝の横をハジメが素通りし、忍も横切ろうとした時…

 

「寝言は寝て言え、"ヒーロー"」

 

忍が光輝に向けて冷たい言葉を言い放つ。

 

「ッ!?」

 

言われた光輝は何か言おうとするも、忍の覇気に気圧されて何も言えなかった。

 

そして、メルド団長を診ていたシアの元にハジメが到着すると…

 

「シア。メルドの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。指示通り、"神水"を使っておきましたけど…よかったんですか?」

 

「あぁ、この人には…それなりに世話になったんだ。それにメルドの抜ける穴は色んな意味で大き過ぎる。特に勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。ま、あの様子からして、メルドもきちんと教育しきれてないようだが…人格者であることには違いない。死なせるには色んな意味で惜しい人だ」

 

「確かにな。俺が"反逆者"って天職を持ってても色々と忠告してくれたし、何かと世話になったのは間違いない。ま、色々と葛藤を抱いたのかもしれないけどな。実際問題、この人が抜けることで生じる歪みの方が心配だな」

 

ハジメと忍がシアにメルドへの神水使用の理由を語る。

 

「……ハジメ」

 

「ユエもありがとな。頼みを聞いてくれて」

 

「んっ」

 

ユエが到着した途端、2人の世界を作り出すハジメとユエに対して…

 

「やれやれ、平常運転だねぇ~」

 

「お2人共、空気読みましょうよ。ほら、ぞろぞろ集まってきましたよ!」

 

肩を竦める忍と、正気に戻すシア。

 

「……っ」

 

そんな中、ハジメは自分に向けられる視線の中から微妙に殺気に似たような感覚を覚えて、背筋が粟立った。

 

「おい、南雲に紅神。何故、彼女を……」

 

「ハジメくん。色々と聞きたいことはあるんだけど…とりあえず、メルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がってるみたいだし、呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに…」

 

ハジメと忍を問い詰めようとした光輝をサクッと遮って香織がメルドの容態を診ながらハジメに尋ねる。

 

「あ、あぁ、それな。ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

 

さっきの視線が香織から向けられたもの、だと思いたくなかったハジメは気のせいだと思い込んで答える。

 

「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」

 

「そりゃあ、伝説になってるくらいだしな。普通は手に入らない。だから八重樫は治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

 

「え、えぇ…ありがとう」

 

今のハジメと前のハジメとのギャップに未だ慣れないのだろう。

大多数の生徒達が本当にハジメと忍が生きていたことに戸惑っている中…

 

「おい、南雲。メルドさんのことは礼を言うが、何故、かの……」

 

「ハジメくん。それに紅神君も…メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも、助けてくれてありがとう」

 

再び口を開こうとした光輝を、またサクッと遮って香織がハジメの前まで歩み寄る。

 

「~~~」

 

「(ククク…)」

 

なんとも微妙な表情になる光輝を見て内心で笑う忍だった。

 

「ハジメ、くん…生ぎてでくれて、ぐすっ…ありがとうっ。あの時…守れなぐて…ひっく……ごめんね? ぐすっ…」

 

だが、そんなことは気にならないのか、香織がお礼と共に謝罪をハジメにするも、気持ちが抑えられなかったのか、ホロホロと涙を流していた。

 

「ふぅ…ほれ、なんか言ってやれよ」

 

すると、忍がハジメの背中を押して香織との距離を縮めさせる。

 

「あ~…なんつーか、心配かけたようだな。すぐに連絡しなくて悪かったよ。この通り、しっかり生きてっから…謝る必要はないし……その、なんだ、泣かないでくれ」

 

そう言って香織を見るハジメの眼は、あの日『守ってくれ』と言った時と同じように香織を気遣う優しさが宿っていた。

その眼を見て香織も感極まったのか、ワッと泣き出してそのままハジメの胸に飛び込んでいた。

自分の胸元で泣きじゃくる香織にハジメは両手をホールドアップして途方に暮れる。

 

「親友。そこは抱き締めてやっても罰は当たらないと思うぞ?」

 

ニヤニヤと笑いながらそんな無責任なことを言う親友にハジメは…

 

「……………………」

 

黙秘を貫いた。

だが、周囲の視線…特に無表情のユエと、雫からの視線が痛く感じるハジメだった。

なので、ハジメは右手でもって香織の頭を優しく撫でる程度に留めた。

 

「……ふぅ。香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きてたことを泣いて喜ぶなんて…でも、南雲も紅神も無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」

 

そんな光輝の言葉に…

 

「お前、空気読めよ」

 

忍が一部の生徒達の誰もが思ったことを代弁する。

 

「空気? 何を言ってるんだ?」

 

「それすらわかってなかったのか…」

 

そんな光輝に呆れを通り越して憐みの視線を向ける忍。

 

「ちょっと、光輝! 南雲くんも紅神くんも私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう!?」

 

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲と紅神がやったことは許されることじゃない」

 

「あのね、光輝。いい加減にしなさいよ? だいたい…」

 

光輝の物言いに雫が反論する。

それが次第にハジメと忍の行動に対する議論が白熱することになる。

 

すると…

 

「……くだらない連中。ハジメ、もう行こ?」

 

「あ~、そうだな」

 

「じゃあな、皆。達者に生きろよ?」

 

ユエの絶対零度という表現がピッタリな言葉が響き、ハジメの手を引いて部屋を出て行こうとする。

シアも周囲を気にしながら追いかけ、忍に関しては"もう用はないし、これ以上関わることもないだろ"的な意味合いで手を振る。

 

「待ってくれ。こっちの話はまだ終わってない。南雲の本音と、紅神の今の言葉の真意を聞かない限り、仲間として認められない。第一、君は誰なんだ? 助けてくれたことには感謝してるけど、初対面の相手に"くだらない"なんて、失礼だろ? いったい、何が"くだらない"んだい?」

 

「…………………」

 

話し掛けられたユエは、今の光輝の物言いで既に見切りをつけたのか視線すら合わせない。

それに対して光輝は一瞬ムッとするが、すぐさま女の子受けする笑みを浮かべて再度ユエに話し掛けようとするが、そこにハジメが割り込む。

 

「天之河。存在自体が規格外で冗談みたいなお前にいちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前は納得しないし、めんどくさく絡んできそうだから少しだけ指摘してやる」

 

「指摘? 俺が明違ってるとでも言う気か? 俺は人として当たり前のことを言ってるだけだ」

 

やはり、どこかズレている光輝の発言に…

 

「そこからまず違うんだって気付けよ」

 

「つか、いい加減、誤魔化すのもやめろよ」

 

「どういうことだ?」

 

忍もハジメも心底面倒そうな表情をする。

 

「はぁ…いいか、ヒーロー? お前が安請け合いした戦争参加。なんのために行われてると思うんだ? 人と人が殺し合うために戦うんだよ。どちらかの生存を賭けてな。それを理解してなかったのか? 戦争に参加するってのは…つまり、人を殺すことだ。人々のために力を振るう? そりゃあ、大した理想だ。だが、相手の"人"はどうなる? 魔人族も間違いなく"人"だな。感情もあれば意思もある。それはさっきわかったな? ならば、改めて問いたいが…ヒーロー、戦争に参加するってことは相手を殺す覚悟があるんだな? 相手を殺さないなんて選択肢はない。弱みを見せた瞬間、確実に自分が死ぬからな」

 

「忍の言う通りだ。相手に付け入る隙を与えれば、それだけ自分の死に繋がる。それを理解してない時点で、勇者としては失格だろう。というか…俺があの女を殺したのを責めたいんじゃない。むしろ、自分に出来なかったことをあっさりやられて八つ当たりしてるだけだろ? さも正しいことを言ってる風にして……ホントに質が悪いよな。お前のその無自覚なご都合解釈」

 

「なっ!? ち、違う! 勝手なことばかり言うな! 俺は安請け合いじゃなく勇者として当然のことを…!!」

 

「敵なら殺す。当然のことだろ?」

 

「ひ、人殺しなんだぞ!? そんなこと子供だって…」

 

「この世界では子供でもわかってる。生き残るために殺すことの意味をな。第一、気付いてるのか? ヒーロー」

 

「何にだ!?」

 

「お前の戦争参加で…俺達も神の使徒だのと言われて戦争に参加するんだ。つまり、お前は…クラスメイトに殺人の片棒を担がせてるってことに…」

 

「っ!!? そ、そんなこと俺は…」

 

「自覚がないのが尚質が悪い。よく考えてみることだな。自分の発言の軽さを…」

 

「だ、だからといって殺す理由にはならないだろ!!」

 

「俺達は敵対する者に対して一切の容赦はしないことにしてる。敵対した時点で明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪や抵抗の有無は関係ない。さっきも言ったが、弱さを見せた瞬間に殺されると嫌でも理解させられたからな。これは俺達が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。だが、それを気に食わないと言って俺達の前に立ちはだかるなら…」

 

ハジメと忍が光輝と少しだけ長めの指摘をした後、ハジメと忍の姿が一瞬にして光輝の間合いに入り、ハジメはドンナーの銃口を光輝の額に押し付け、忍も銀狼を峰打ちの形で光輝の首に寸止めする。

そして、互いに威圧と覇気を周囲に叩き付けている。

 

『ッ…!?』

 

その威圧と覇気に誰もが息を呑む中…

 

「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

 

「俺はそもそもクラスメイトでもないが……ま、立ちはだかるなら噛み砕くぜ?」

 

「お、お前達……」

 

2人の動きを捉えられず、光輝が戦慄の表情を浮かべる。

 

「勘違いするなよ? 俺は戻ってきたわけじゃない。ましてや、お前達の仲間でもない。白崎に義理を果たしに来ただけだ。ここを出ればそこでお別れだ。俺には…いや、俺達には俺達の道がある」

 

「ま、そういうこった」

 

それだけ言うとハジメはドンナーをホルスターにしまい、威圧を解除する。

それに倣い、忍も銀狼を納刀してから覇気を解除する。

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