もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十三話『戦場での再会・後編~女の戦場~』

2人の威圧・覇気から解放され、一息吐く生徒達だが、光輝だけは納得いかないような表情でさらに言い募ろうとしたが…

 

「……戦ったのはハジメとシノブ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかく言う資格はない」

 

「なっ!? 俺は逃げてなんて…!」

 

光輝がユエに反論しようとした時…

 

「よせ、光輝」

 

いつの間にか意識を取り戻していたのか、メルドが光輝を止める。

 

「メルドさん!」

 

意識が戻ったと言ってもまだ病み上がりのようなもなので、まだ本調子とはいかないものの、その場で頭を振って立ち上がる。

自分の負傷が完全に治っていることに疑問を持つが、それは香織が簡単に説明し、メルドが貴重な薬で奇跡的に助かったことと、その薬を持ってきてくれたのがハジメと忍であり、その生存に驚いたものの心底喜んでいた。

礼を述べると共にあの日、助けられなかったことを土下座する勢いで謝ってきた。

ハジメはその謝罪を受け、忍も『まぁ、俺は自業自得な部分もあるんで気にせんでください』とだけ返していた。

 

そして、メルドは光輝達にも頭を下げていた。

 

「め、メルドさん? どうして、メルドさんが謝る必要があるんだ?」

 

「当然だろ。俺はお前達の教育係なんだ。なのに、戦う者として大事なことを教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期を見て、お前達には賊なりなんなりを、偶然を装ってけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた。魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな。だが、しかし…俺の中で疑念もあった。本当にお前達にそんなことをさせる必要があるのか? 多くの時間を共に過ごし、語らい合ってしまったが故の俺の甘さだろう。これが終われば、次こそは……そんな風に先延ばしにしてた結果がこれだ。私が半端だった。そのせいで、お前達を死なせるところだったんだ。本当に、申し訳なかった…」

 

深々と頭を下げて謝罪するメルドの姿に生徒達が慰めに入る中…

 

「…………………」

 

「ホント、人格者…というよりも頼りになる兄貴分ってとこだねぇ」

 

ハジメはその様子を黙って見ていて、忍はメルドの姿をそう評した。

 

「…………………」

 

ハジメと忍…というよりもハジメを見つめている香織はずっと考えていた。

それは以前の優しいながらも体を張って行動出来るハジメと、今のクラスメイトだろうと本気の殺意を向けてくるハジメの違いに心が揺れているのだ。

 

だが、不意に香織はそんな自分に向けられる視線に気づき、そちらを向く。

 

「…………………」

 

そこにはユエがいた。

そういえば、えらく親しい感じだったと思い出し、香織もユエを見つめ返す。

 

「「…………………」」

 

しばらく、少女達が見つめ合っていたが…

 

「……フ」

 

「っ…」

 

その見つめ合いはユエの方から嘲笑付きで逸らされた。

 

つまり、『この程度のことで揺れる想いなら、ハジメのことは忘れてしまえ』とユエは今の嘲笑で香織に伝え、それを感じ取った香織も思わず息を呑んでしまう。

そして、それを感じ取ったからこそ、香織はユエの自信に満ちた表情の意図もわかった。

 

『お前なんて相手にならない。ハジメはこれからも"私の"ハジメだ。ハジメの"特別"は私だけだ!』

 

という意図が言外に香織に伝わり、香織は顔を真っ赤にするが、反論が出来なかった。

それは過去のハジメと今のハジメの狭間で揺れ動いている香織自身もわかっていること。

ハジメという人間を見失いかけている今の状態ではどう足掻いてもユエには敵わない、と…。

 

そんなこんなで光輝達の纏う空気が微妙なことになっている合間にハジメがパイルバンカーの杭などを回収していき、いざここから出ようとした時だ。

生徒達の消耗が激しいので、ハジメ達に便乗してここから出ようと浩介が提案し、メルドもハジメ達に頼み込んで了承を得たので、仕方なく勇者パーティーなどを引き連れて迷宮から出ることになった。

 

迷宮を出る道中、色々と問題がなかったと言えば、嘘になるが概ね何もなかったんじゃなかろうか。

特に美少女なユエとシアにちょっかいかけようとした者達がいたが…まぁ、ハジメが恐怖を叩き込んでいたので問題はなかろう(野郎限定でだが…)。

その様子を忍がケラケラと笑っていたが、慣れたものでスルーしていたりもする。

 

そして、オルクス大迷宮の入場ゲートに辿り着いた時だった。

 

「あっ! パパぁ~!」

 

「むっ! ミュウか」

 

ハジメをパパと呼び慕う幼女がハジメに向かって駆け寄ってきたのだ。

 

「パパぁ~! おかえりなの~!」

 

よくある光景として元気な幼子のタックルを喰らい、悶絶する場面を想像するだろうが、生憎とハジメの肉体は頑丈であって逆にミュウに怪我をさせないように衝撃を受け流しているくらいだ。

 

「もう、ミュウ! 危ないから、いきなり走らないで!」

 

「はぁ…めんどい…」

 

そこに無気力なファルの手を引いたセレナがやってくる。

 

「お疲れさん。シオンとティオさんはどした?」

 

そんなセレナ達を忍が迎え、ここにいない2人を軽く見渡して探す。

 

「妾達ならここじゃよ」

 

「はぁ…」

 

そこには妙に疲れた様子のシオンと、悠々と歩いてくるティオがいた。

 

「おい、ティオ。あんまりミュウから離れるなよ」

 

「仕方ないじゃろう。セレナとファルもおったし、ちゃんと目の届く範囲にもいたのでの。ただ、ちょっと不埒な輩がいたからお灸を据えに行ってただけじゃ」

 

「だからといって半殺しにする必要があったのでしょうか?」

 

「これくらいの見せしめは必要じゃよ。それにご主人様ならきっと…」

 

「だな。きっと皆殺しにしてるな」

 

「あれだけパパ呼びを嫌がってたくせに…」

 

「ちっ…まぁ、ティオ達がやったのなら大目に見てやるか…」

 

「……本当にこの調子で子離れ出来るのかの?」

 

などという会話をしていると…

 

「……………………」

 

突然の出来事に唖然と驚愕、羨望、嫉妬等、様々な視線を光輝達がハジメに向ける中、香織がゆらりゆらりとハジメの元まで歩み寄り…

 

「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子供なの!? 誰に産ませたの!!? ユエさん!? シアさん?! それともそっちの誰かに!? いったい何人孕ませたの!? 答えて!! ハジメくん!!!」

 

クワッと目を見開いたかと思えば、マシンガントークの如く問い詰めてハジメの襟首を掴んでガクガクと揺さぶっていた。

 

「いや、誤解だから…」

 

とハジメが言っても、どうも香織には聞こえていないらしい。

 

「落ち着きなさい、香織! 彼の子供なわけないでしょ!?」

 

親友の雫も香織を羽交い絞めにして落ち着かせようとするが、こちらも聞こえていないらしい。

 

その様子を見てた周囲がひそひそと小声で話していた。

その結果、何故だかハジメは『妻帯者なのにハーレム築いて何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠し通してたが、たった今気付かれた鬼畜野郎』ということになっていた。

 

「はぁ…」

 

そんな状況にハジメは深い溜息を吐いていた。

 

 

 

その後、しばらくして…

 

「うぅ~…///」

 

「よしよし、大丈夫だからね~」

 

顔を真っ赤にした香織が雫の胸に埋めていた。

さっきの変なことを口走ってしまったことでの羞恥である。

 

「やれやれ…」

 

その様子を傍から見て肩を竦めるハジメはロア支部長への依頼達成の報告をしに向かい、忍達もそれについていく。

ロア支部長に報告し、2、3話をした後、ハジメ達はホルアドから出て行こうとする。

 

が、それについていく勇者パーティー。

理由は香織がどうすべきか未だ悩んでおり、ハジメ達についていったからだ。

香織の心情的にはハジメについて行きたい。

やっと再会した想い人なのだから、ここで離れたくないという想いが当然ながらある。

しかし、光輝達の元から離れる罪悪感や、ハジメへの揺れた想いのままついて行ってもいいものかという気持ちがあった。

さらに言えば、ユエの存在も大きかった。

初邂逅で嘲笑されたこともあり、自分のハジメに対する想いの強さは本当に"その程度"なのか、疑念を抱いてしまっていた。

そして、ハジメとユエの絆の強さにも圧倒されている。

そういった様々な点から香織は自分の想いに対して自信を喪失していた。

 

そんな中、不穏な空気が流れ、ハッと顔を上げれば十数人の男達がハジメ達の前に立ち塞がっていた。

 

「おいおい、何処に行こうってんだ? 俺等の仲間をボロ雑巾にしてくれたのに、詫びの一つもなしか? ア゛ァ゛?!」

 

どうもティオとシオンが退けたという奴等の仲間らしい。

冒険者ギルドでの一件を知らないところを見るに、チンピラが絡んできた程度の認識しか持てないハジメ達だった。

どうにも女が多いことを見てハジメと忍を威嚇しているが、その眼は欲望に塗れており、ハジメと忍以外を性欲処理の道具として見始めていた。

が、しかし、チンピラ風情が喧嘩を売っていい相手ではなかった。

 

「「あぁ?」」

 

ドォンッ!!

 

周囲一帯にとんでもないプレッシャーが降り注ぎ、チンピラ共の動きと口を封じる。

また、チンピラの言動に怒りを覚えた光輝が前に出ようとして、ハジメと忍の威圧・覇気圏内に入り、そのプレッシャーに少しふらつく。

 

「親友、どうするよ?」

 

「こうするに決まってんだろ?」

 

ドンナーを抜くと情けの欠片もなく、チンピラ達の股間をゴム弾で銃撃していき…

 

「は~い。通行人の邪魔だからあっちに行ってような」

 

忍が地面にのた打ち回るチンピラの骨盤を絶妙な加減で蹴り飛ばして破砕していく。

 

そうして積み上げられたチンピラ達に殺気をもう一当てしてから戻ってくるハジメと忍。

その所業を見てた生徒達…特に男子は股間を押さえて身震いしていた。

そんなハジメと忍の周りに集まるユエ達。

 

「また容赦なくやったのぉ~。流石はご主人様とその戦友じゃ。女の敵とは言え、少々同情の念が湧いたぞ?」

 

「いつになく怒ってましたね~。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか? 過保護に磨きがかかってるような」

 

「……ん、それもあるけど…シアのことでも怒ってた」

 

「えっ!? 私のことでも怒ってくれたんですか? えへへ、ハジメさんったら…ありがとうございますぅ!」

 

「ユエにはすぐに見透かされるな…」

 

「忍は…その、どうしてあそこまでやったの?」

 

「ん~? 単純な独占欲だな。俺、こっちに来てから自分でもかなりそういうのが強いんだって自覚してきたわ」

 

「ど、独占欲ですか…」

 

「…………………」

 

そんな風に会話するハジメ達…特にハジメの様子を見て香織は思った。

 

本当に変わっているのなら、そもそも自分の無事を知らせに…迷宮に潜ってくれるのだろうか?

今の怒りを抱いて反撃したのも、あの女性陣のためではなかったか?

暴力を振るうことに躊躇いがなかったとして、それは本当に優しさを忘れたことになるのだろうか?

 

いや、違う。

優しさを持ってるからこそ、力を振るって守ることに躊躇いがないだけだ。

大切なものを守るために振るわれる力は…今の彼の優しさの表れではないのか?

 

今のハジメは髪の色を失っている。

右目の眼帯もなにかしら怪我か何かで塞がれており、左腕の鎧もきっと事情があるのだろう。

きっとあの後…『奈落』という場所に落ちた日から自分の想像を絶するような体験をしてきたに違いないと…。

それは価値観や雰囲気すらも変えてしまうほどの凄絶な体験だったに違いないと…。

 

そう考えていくと、今この時…たくさんの笑顔に囲まれているハジメは…きっと自分なりの道を歩んでいるのだろうと…。

それが香織の中に渦巻いていた靄を吹き飛ばした。

 

目の前に"ハジメ"という想い人がいる。

変わった部分もあれば、変わらない部分もある。

だったら、それを近くで見ればいい。

あの中に自分が飛び込んだっていいじゃないか…。

今度こそ離れてなるものか!

 

そういった決意と覚悟が香織の瞳に宿る。

それを見て親友の雫が優しい笑みを浮かべて香織の背中をそっと押す。

香織もそれに頷き、ハジメ達の方へと歩いていく。

 

「むっ?」

 

「あらら?」

 

「ほぉ~? これは修羅場じゃの」

 

ハジメのことを好いている3人はそのように呟き…

 

「頑張れよ、親友」

 

忍はハジメにエールを送っていた。

 

「ハジメくん、私もハジメくんについて行かせてくれないかな? ううん、ちょっと違うね。絶対について行くから、よろしくね?」

 

「……………………は?」

 

まさかの確定宣告にハジメもポカンとしてしまう。

そんなハジメの代わりにユエが香織の前に歩み出る。

 

「……お前にそんな資格はない」

 

「資格ってなにかな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」

 

「むむっ」

 

今度は真っ向からユエを見て言い返す香織に、ユエの口がへの字に曲がる。

 

「あなたが好きです」

 

そして、香織はユエからスッと目を逸らすと、ハジメを見て一呼吸置いてから…あの日、あの時から抱き続けてきた想いを、ハジメに告げる。

 

「……白崎」

 

香織の表情が真剣だったので、ハジメもまた真剣な表情になって返す。

 

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れてはいかない」

 

真っ直ぐに答えたハジメに香織は泣きそうになるも、"それでも!"と力強い決意を宿した瞳をハジメに向ける。

ちなみに香織の背後では、光輝達が唖然、呆然、阿鼻叫喚という状況に陥っているが、ハジメ達側で気にする者などいない。

 

「……うん。わかってる。ユエさんのことだよね?」

 

「あぁ、だから…」

 

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

 

「……なに?」

 

「だって、シアさんも…ちょっと微妙だけどティオさんもハジメくんのことが好きだよね? そっちの女の人達は紅神くんが気になるみたいだから数えないけど。特にシアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

 

「それは…」

 

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて…ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを思う気持ちは……あの日、あなたに出会った時から、ずっと想い続けてきたんだから…誰にも負けないし、負けるつもりもないから…」

 

そう言ってユエを見る香織の瞳には揺れていた時とは違う、確かな決意が宿っていた。

それに対してユエは…

 

「……ならついてくるといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

 

「お前じゃなくて香織だよ」

 

「……なら私のこともユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

 

「ふふ…ユエ。負けても泣かないでね?」

 

「……ふふ、ふふふふふ」

 

「あは、あははははは」

 

好戦的な笑みを浮かべて香織の挑戦を受けていた。

しかも心なしか互いの背後に暗雲と雷を背負った東洋龍(ユエ)と刀を構えた般若(香織)の幻影が出現していた。

ハッキリ言って怖い。

その証拠にハジメの左右からシアとミュウが抱き着き、ガクブルしている。

忍側もその様子に引き攣った笑みを浮かべる忍の背に隠れるようにセレナとファルが身を潜め、シオンもどこか戦慄した表情を浮かべる。

ティオだけベクトルが違うので割愛するが…。

 

そんな中、香織の決断に異議を唱える者がいた。

『勇者』天之河 光輝である。

 

「ま、待て!? 待ってくれ! 意味が分からない。香織が南雲を好き? ついていく? えっ? どういうことなんだ!? なんで、いきなりそんな話になる!? 南雲! お前、いったい香織になにをしたんだ!!?」

 

「……なんでやねん」

 

「おっ、親友のそれ。久々に聞いたわ」

 

光輝のご都合脳に思わずツッコミを入れるハジメの言葉に、忍は懐かしい思いを抱く。

 

「光輝。南雲くんが何がするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。アンタは気付いてなかったみたいだけど、香織はもうずっと前から彼を想ってるのよ。それこそ日本にいた時からね。どうして、香織があんなに頻繁に話し掛けてたと思うのよ」

 

頭痛を堪えている様子の雫が光輝を諫め始める。

 

「雫。何を言ってるんだ? あれは香織が優しくて、南雲がクラスで1人でいるのを可哀想に思ってたからだろ? それに紅神だっていたし……それでもクラスの中では協調性もやる気もないオタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

そんな風に返す光輝の言葉に、頬をピクつかせるハジメだったが、その横では…

 

「テメェは自分の物差しでしか人を測れないのか? 人の気持ちもちゃんと理解してなさそうだもんな…いっそ独善とか偽善なんて言葉がテメェにピッタリだと思うわ」

 

"さっき指摘したことをもう忘れたのか?"と言わんばかりの毒を吐く忍にセレナとシオンがギョッとしたように驚く。

どうにも忍は光輝のことが嫌いらしい。

本当は無関心を貫きたいのだが、見ててイライラを抑えられないらしい。

 

と、そんな光輝達に香織が自らケジメをつけるために話しかける。

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だと自分でも思ってる。だけど、私はどうしてもハジメくんについて行きたいの。だから、パーティーからは抜ける。本当にごめんなさい」

 

深々と頭を下げる香織に、生徒達…特に女性陣は黄色い声援を送り、一部の男子は香織の気持ちを察していたのか苦笑しながら手を振っていた。

 

だが、それに納得出来ないのが光輝である。

 

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織はずっと俺の傍にいたし、これからも同じだろ? 香織は俺の幼馴染みで…だから、俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ?」

 

「えっと、光輝くん。確かに私達は幼馴染みだけど…だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ当然だと思うけど…」

 

「そうよ、光輝。香織は別にアンタのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 

光輝の言葉に幼馴染み2人がそう言うと、その言葉に被弾した者がいた。

 

「うっ…耳が痛い…」

 

忍である。

忍も幼馴染みがいて、その娘と恋人同士になっているが…告白の理由が独占欲からくるものであったような気がしなくもないので、香織と雫の言葉は地味にダメージになっていた。

しかし、恋人同士になったということは少なくとも相手側も忍を好いていたので、問題ないと言えば問題ないのだが…。

 

普段の仕返しの意図もあるんだろう忍の肩をポンポンとニヤニヤと笑いながら叩くハジメを光輝が見る。

その周りには美女・美少女達が侍っている。

その光景に光輝の中の黒い感情がふつふつと湧き上がっていく。

 

「香織、行ってはダメだ。これは香織のために言ってるんだ。見てくれ、あの南雲と紅神を。女の子を何人を侍らせて、あんな小さな子まで……しかも兎人族と狼人族の女の子は奴隷の首輪まで着けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲のことを『ご主人様』と呼んでいた。きっとそう呼ぶように強制されているんだ。南雲も紅神も女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っていながら仲間の俺達に協力しようともしない。香織、あいつらについて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても君のために俺は君を止めるぞ! 絶対に行かせはしない!!」

 

「なんか、俺までディスられてね?」

 

光輝のあまりにあんまりで突飛な発言に香織達が唖然とする中、忍が"解せぬ"と言わんばかりに言葉を漏らすが、そんなんお構いなしに光輝がユエ達の方を向くと…

 

「君達もだ。これ以上、その男達の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力者なら歓迎するよ。共に人々を救おう! シアにセレナ、それともファルと言ったかな? 安心してくれ、俺と共に来てくれるのならすぐに奴隷から解放しよう! ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ!」

 

そう言って爽やかな笑顔と共にユエ達に手を差し伸べる光輝。

そんな光輝に顔を手で覆いながら天を仰ぐ雫に、ハジメと忍は同情の念を向ける。

そして、手を差し伸べられたユエ達はというと…

 

『…………………』

 

もはや言葉すらなかった。

ユエ、シア、ティオ、セレナ、シオン、珍しくファルも光輝から視線を逸らすと、前者3名はハジメの背にそそくさと隠れ、後者3名はセレナとファルが忍の背に隠れてシオンがそのまま残る。

よくよく見ると、6人とも両手で腕を擦っており、鳥肌が立っているようにも見えた。

結構なダメージのようだ。

 

「これはちょっと違うのじゃ…」

 

ティオでさえ、この反応なのだ。

他の女性陣の心中はどのようになっているのか…。

 

「なに、あいつ。気持ち悪いんだけど…」

 

それをド直球に言うのは…ファルだった。

 

「っ……南雲 ハジメ! 紅神 忍! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら2度と香織に近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!!」

 

ファルの一言に傷付きながらもハジメと忍に勝負を挑もうとする光輝は、一度は聖剣を抜くもそれでは勝ち目がないと判断したのか、聖剣を地面に突き刺していた。

 

「イタタタ…やべぇよ。勇者が予想以上に痛い。なんかもう見てられないんだけど…」

 

「いやはや、ここまで酷いとは……もう色々と手遅れなんじゃね?」

 

「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!?」

 

そう叫んで光輝が先にハジメへと殴り掛かりに行くと、ハジメは2、3歩ほど後退していた。

それを良いように解釈した光輝が力強く一歩踏み込んだ時だ。

 

ズボッ!!

 

「ッ!?」

 

突如として真下に開いた落とし穴に光輝が落ちた。

 

ゴオォォ…!!

 

その落とし穴が石畳に戻ると、そこからくぐもった爆発音が聞こえてくる。

どうにもハジメのあしらい方の方が上手だったようだ。

というか、ステータス的なことを言えば、ハジメも忍も光輝に負けることはないのだが…そんな面倒事に関わってやるほど暇ではないので、ハジメが適当にあしらったのだ。

 

「ものの見事にハマったな」

 

「ま、生きてるだけマシだろ。そういうわけで、八重樫。一応は生きてるから後で掘り出してやってくれ」

 

などと忍と話したハジメは雫に光輝のことを丸投げした。

 

「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」

 

心労の絶えない雫にやはりどこか同情的な目を向けてしまうハジメと忍。

 

その後、大介達が騒いだりもしたが、ウルで忍の話を聞いていたハジメによって封殺され、逆に脅したような感じにもなったが、ようやっと出発出来る。

 

そんな中、得物を失っていた雫にハジメが以前作ったまま放置してた『黒刀』を手渡していた。

日本にいた時から何かと世話になった礼として…。

『黒刀』は小烏丸造りに似た構造で、忍の持つ銀狼と黒狼の雛型とも言える代物だ。

それを受け取り、自然と可憐な笑みを浮かべる雫にユエや香織が警戒したりもしたが…。

 

ハジメが宝物庫からブリーゼとシュタルフ、アステリアを取り出してそれぞれ決まった乗り物に搭乗していく。

ブリーゼには運転手のハジメを始め、ユエ、ティオ、ミュウ、シオン、ファルに加えて新たに香織が搭乗し、途中まではシュタルフにシアが乗り、アステリアには忍とセレナがいつものように乗る。

 

こうしてホルアドでの一件も解決(?)したハジメ達は次なる目的地…3番目の大迷宮『グリューエン大火山』に向けて発進するのだった。


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