もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十四話『アンカジ公国』

グリューエン大砂漠。

そこは赤銅色の世界と言うべき場所だった。

砂が赤銅色なのもそうだが、砂自体が微細なためにちょっとした風でも砂が舞い上がって空を赤銅色に染め上げるのだ。

それに加えて太陽の熱を砂が吸い込み、とてつもない熱気を放っているのだ。

 

が、しかし…そんなことはどうでもいいと言わんばかりに爆走する物体が二つあった。

 

「シノブさん、よく走れますよね。大丈夫なんでしょうか?」

 

「ふむ。こっちと違って野ざらしに近いはずじゃが…」

 

ブリーゼの車内でシアとティオがブリーゼと並走しているアステリアに乗る忍を見て呟く。

ちなみに忍はローブっぽい羽織りものとゴーグルを身に着け、ローブの余った部分をマスクとして活用している。

 

「流石に私もこっちに乗れって言われたけど…」

 

「えぇ…その…流石に狭いですね…」

 

セレナとシオンが言うようにブリーゼの車内は結構ギュウギュウ状態になっていた。

スタイルの良い人が多いのも狭さに拍車をかけたのだろうか?

 

「こんな大所帯なんざ当初想定してなかったんだから仕方ないだろ」

 

運転中のハジメがそんなことを言う。

とは言え、それだけではなく姦しかった。

ユエと香織がハジメを巡って言い争ったり、セレナとシオンが忍のことで話し合っていたり、ミュウがユエと香織の言い争いに対して『喧嘩ばっかりするお姉ちゃん達なんて嫌い!』と言ってシアの元に行ったり、そのシアにユエと香織が怒られたりと…それはもう姦しいと言ってもいいのではないだろうか?

特にユエと香織が、だが…。

逆に静かなのは興味なさげなファルと、面白そうに事態を見てるティオくらいだった。

 

そんな道中の中…

 

「む? なんじゃ、あれは? ご主人様よ、3時方向で何やら騒ぎじゃ」

 

「あぁ?」

 

ティオの言う通り、ハジメが右側を見るとミミズ型の魔物『サンドワーム』が相当数見えた。

 

「? なんで、あいつ等…あんなとこをグルグル回ってるんだ?」

 

見れば、サンドワームの群れはグルグルと回っていた。

まるで、この獲物を食べるかどうか迷っているかのように…。

 

「そんなことあんのか?」

 

「妾の知識にはないの。奴等は悪食で有名じゃから獲物を前に躊躇うことはないはずじゃが…」

 

ティオがそのように言って首を傾げる。

ティオはユエ以上に長生きで、ユエと違って幽閉されてたわけではないので知識も深い。

そのティオをして首を傾げる事態なので困惑しているといった感じだ。

 

と、その時…

 

「(親友!!)」

 

「! 全員掴まれ!!」

 

忍の念話で反応したハジメはブリーゼを加速させていた。

直後、地中からサンドワームが奇襲を仕掛けてきた。

ハジメと忍はそれぞれブリーゼとアステリアを巧みに動かして奇襲を回避する。

数は3匹。

 

その3匹は今度は頭上からブリーゼに襲い掛かろうとする。

 

「そういや、何気に使うの初めてだな!」

 

ブリーゼをドリフトさせ、車体の向きを変えてバック走行に移行すると、魔力を流し込んでブリーゼに内蔵されているギミックを発動させる。

そのギミックとは、ボンネットの一部がスライドして開き、そこから4発のロケット弾がセットされたアームがせり出てくる。

 

「(親友。毎度思うが、乗り物にそんなギミックが必要か? あと、アステリアにも変なギミックないだろうな?)」

 

その様子を見てた忍が念話でハジメに尋ねる。

 

「(当たり前だろう? あと、アステリアに関しては…お前の要望次第だな)」

 

「(……………………じゃあ、人型への変形機構を…)」

 

「(腕が上がったらな)」

 

「(え? それ、本気で…?)」

 

等という念話をしてる間にもロケット弾はサンドワームを粉砕していた。

そのせいでサンドワームの血飛沫が舞い、忍にも少なくない被害が…。

 

「(あとで浴室か、シャワーを貸せ…)」

 

「(……あぁ、わかった)」

 

忍がジト目をブリーゼに向けながら走行してるのがわかったのか、ハジメも素直に応じた。

 

それから今の騒ぎを嗅ぎつけた困った様子だったサンドワーム達との交戦がもう一回あったが、今度はブリーゼに内蔵されたシュラーゲンで粉砕したり、忍がアステリアからブリーゼの車体上部に乗り移り、そこにハジメがメツィライを車体上部に召喚し、憂さ晴らしの如く忍が斉射していた。

もう"後で全部洗い流すからいいや"的な具合の開き直りである。

おかげで忍はサンドワームの血飛沫やら肉片を浴びまくってしまったが…。

 

そんな中、サンドワームが困惑していた原因も発覚した。

そこには地球で言うエジプトの民族衣装みたいな白い装束を身に纏った20代半ばくらいの青年だった。

サンドワームを撃退した一行はその青年を助け、香織が診察する。

 

その青年の体内では魔力暴走が起きており、香織の状態異常回復魔法でも治癒は出来なかった。

そのため、香織は『廻聖』という上級魔法を用いて青年の魔力を強制的に吸収し、ハジメから渡された神結晶の腕輪に譲渡する。

そうすることで一時的に青年の魔力を排出し、落ち着いたところで傷付いた血管を『天恵』で癒す。

 

その間に忍は少し離れたところでハジメから宝物庫を借りて簡単な仕切りを取り出すと、そこで頭から水を被っていた。

当然だが、服も着替えた。

そうして軽い水浴びを済ませた忍が戻ってくると、何故かハジメが青年を踏んづけ???ていた。

 

「この短時間で何があれば親友の機嫌が悪くなるんだ?」

 

そう言って忍が来ると、青年をブリーゼに乗せて水を与えながら事情聴取を行った。

 

青年の名は『ビィズ・フォウワード・ゼンゲン』と言い、アンカジ公国の領主の息子だという。

 

そのビィズ曰く、四日前にアンカジにおいて原因不明の高熱を発して倒れる者が続出したらしい。

この高熱の症状を訴える人間の数が多くなっていき、意識不明者も出ている。

そんな中、ある一人の薬師が飲み水を調べると、そこに体内の魔力の暴走を促す毒素が含まれていた。

これを調べるべく直ちに調査チームが結成され、オアシスを調べると案の定唯一の水源であるオアシスが汚染されていることが発覚する。

しかしながら厳重な警備を掻い潜り、どのようにオアシスを汚染したのか不明である。

そのため、飲み水は使えなくなり、患者も死亡する件数が増えていく一方であった。

 

但し、全く対策がないわけでもなかった。

『静因石』と呼ばれる魔力の活性を鎮める特殊な鉱石である。

採掘場所は北方にある岩石地帯か、『グリューエン大火山』である。

だが、前者は距離的な問題、後者も既に冒険者が感染しているために不可能と思われていた。

 

だが、この場にはそれを可能とする者達がいる。

ハジメ達だ。

そのため、ビィズはハジメ達にアンカジ公国領主代理権限で正式な依頼を求めて頭を下げた。

 

静寂に包まれた中、全員の視線がハジメに注がれる。

このパーティーのリーダーはハジメであり、忍はサブリーダー的な立ち位置にある。

香織の視線とミュウの直球な言葉や、グリューエン大火山の道程というのも相俟ってその依頼を受けることにしていた。

 

こうして一行はアンカジ公国へと進路を取る。

ちなみにビィズはブリーゼに乗せられることとなった。

流石に荷台に寝かせる訳にもいかず、セレナが忍のアステリア、ティオとシオンが荷台に移動することになったが…。

 

………

……

 

一行がアンカジ公国に着くと真っ先に宮殿へと向かい、ビィズの父親『ランズィ・フォウワード・ゼンゲン』の元へと進んでいた。

執務室にいたランズィにビィズが事情を説明し、ハジメが色々と指示を出す。

 

とりあえず、香織がビィズにやった応急処置を他の患者達にも行い、魔力を魔晶石にストックする。

その魔晶石をユエに渡し、水を作る足しにする。

その間にハジメと忍がオアシスの原因を調べて解決出来そうならして、出来なかったらグリューエン大火山を攻略しにかかる。

そんなプランを取ることにした。

 

そうして役割分担してそれぞれ現場に向かうと、その先々でランズィとお付きの護衛達は"顎が外れるんではなかろうか?"というくらい驚愕に満たされた。

それだけハジメ達の所業は常軌を逸していた。

 

患者達は香織、水の確保をユエ、それぞれの補佐をシア達に任せ、ハジメと忍はランズィの案内でオアシスへと赴いていた。

 

「…?」

 

「どした、親友?」

 

「いや…今、魔眼石に反応があったような…領主。調査チームの調べた範囲はどの程度なんだ?」

 

オアシスに着くと、ハジメがランズィに尋ねる。

 

「地下水脈には異常はなかったが、オアシスを中心にそこから流れる川や井戸などが汚染されていたな。流石にオアシスの底までは手が回ってなかったはずだ」

 

「ふむ。なら、オアシスの底にアーティファクトの類はあるのか?」

 

「? いや、オアシスの警備と管理に用いているアーティファクトは地上に設置してある。結界系のアーティファクトでな。オアシス全体を守っていたのだが…」

 

その言葉を聞き…

 

「へぇ…じゃあ、アレはなんだろうな?」

 

そう言ってハジメがオアシスに近づくと、宝物庫から少し大きめの代物を取り出し、それに魔力を注いでオアシスに放り投げた。

 

「おい、親友。あれって…」

 

「おう。メルジーネ海底遺跡用に作った試作品だ」

 

「あちゃあ~」

 

ハジメの言葉を聞いて忍が額に手を当てて見てられないと視線を逸らす。

 

2人がそんなやり取りをしていると…

 

ドゴォオオオ!!!

 

特大の水柱が発生し、何が起こったのかわからないランズィ達が再び驚愕の表情となる。

 

「ちっ…意外とすばしっこい。いや、耐久力が高いのか?」

 

「あれで仕留められないとか。う~ん…微妙なとこだねぇ~」

 

爆発にも動じず、ハジメと忍が何やら話していると、ハジメがさらに10個くらいオアシスに同じものを投じていた。

 

「あぁ~!? 我がオアシスが、魚の肉片で赤く染まってぇ~!?」

 

「なんか、すんません…」

 

忍がランズィに謝っていると…

 

「まだ捕まらないのか。なら、もう50個追加して…」

 

ハジメが物騒極まりないことを呟き、それをランズィ達が阻止しようとした時だった。

 

「っ!」

 

忍が水面から何か出てくるを見た後、神速と銀狼と黒狼を用いて"水の触手"を全て斬り伏せていた。

 

「親友。なんか出てきたぞ?」

 

それは水面が盛り上がっていき、重力に逆らうようにせり上がり、10メートル近い高さの小山となった。

 

「な、なんだ…これは…バチェラム、なのか?」

 

ランズィの呟きに答えることなく、ハジメがドンナー・シュラークで核と思しき魔石を狙うが、思ったように当たらない。

そんなハジメを守るように忍が神速で水の触手を迎撃していく。

 

「俺も火や水系統の魔法が習得出来てればな…」

 

そんな愚痴を零しながらもハジメとランズィ達に触手が到達することはなかった。

 

「……………よし、捉えた…!」

 

シュラークをホルスターに戻したハジメはドンナーのみによる精密射撃体勢を取ると、一撃で魔石を撃ち砕いた。

 

「「……………………」」

 

崩れ落ちる水の塊をしばらくハジメと忍が睨んでいると、徐に武器をそれぞれ収めた。

 

「終わった、のかね?」

 

「あぁ。もう、ここに魔力反応はない。だが、原因は排除したが、それがイコール問題の解決になったかまではわからんが…」

 

ハジメがそう言うと、ランズィが部下の1人に水質鑑定を指示した。

 

「どうだ?」

 

「いえ、汚染されたままです」

 

どうもあのバチェラムを倒しても水は元には戻らなかったようだ。

落胆の色が濃いランズィ達の心境は如何様なものか…。

 

「まぁ、気を落としなさんな。地下水脈が無事なら後は上手い具合に汚染された水を掻き出しさえすりゃ元のオアシスに戻るだろ?」

 

なんとも楽観的な忍の意見だが、原因が排されたのも事実なのでランズィ達にも復興の意気込みが表れてきた。

そして、ハジメ達はこれが魔人族によるものだと予想し、それに関する情報も交換していた。

 

「ハジメ殿、シノブ殿。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿らに救われた。本当にありがとう」

 

ランズィが深々頭を下げると…

 

「あぁ、たっぷり感謝してくれ。そして、この恩を忘れないようにな」

 

「親友も図太くなったなぁ」

 

ハジメの言動に忍が肩を竦める。

それからランズィは静因石のことも頼むと、ハジメはどのくらいの量が必要かを聞いた。

どうせ、元々行く予定であったのだから、ついでとばかりに採掘してこようというのだ。

 

それから2人はユエ達とも合流し、医療院に詰めている香織達と合流して今後の方針を定めた。

 

グリューエン大火山を攻略するハジメ、忍、ユエ、シア、ティオの5名。

居残って医療院の手伝いをする香織、ミュウ、セレナ、シオン、ファルの5名。

 

この二グループに分かれてそれぞれの役割を果たすこととなった。

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