もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十六話『活火山での死闘と、焔の帝』

ズドォオオオオオオ!!!

 

 最終試練の最中のこと、突如として空から降り注いだ白き極光がハジメと蛇を呑み込んでいた。

 

「は、ハジメぇ!!」

「ハジメッ!!」

 

 ユエと忍の絶叫が空間に木霊する。それと同時に2人がハジメの元へと飛び出す。2人がハジメの元に到着する頃には極光も消え去っていた。ちなみに極光の威力はマグマの海を穿ち、底が見えるほどの威力を誇っていた。

 

「ハジメ! しっかりしろ!」

 

「ハジメ! ハジメ!」

 

 忍がハジメを抱えて近くの足場に着地すると、ユエが神水を取り出してハジメに飲ませる。ハジメの状態はかなり悪く、右腕は焼き爛れて骨が見え、左腕の義手も半ば融解しており、眼帯もちぎれ飛んで頬から首筋にかけて深い傷が入っていて血がとめどなく流れ続けており、腹部全体も黒く炭化しているが、奇跡的にも内臓までは損傷していなかった。

 

 この結果はハジメの驚異的な反射神経と本能が成した技で、極光が降り注いできた瞬間、ハジメは体を捻ることで極光の正面を向き、金剛を"集中強化"と"付与強化"で発動していたのだ。それにより、頭部を付与強化した義手で守り、心臓や肺は右手とドンナーで守ることに成功した。さらにユエ謹製の衣服も今回に限っては防御力を底上げし、ハジメの魔耐の数値も桁違いになってたことから命に別状はないが…

 

「っ、治りが遅い!」

 

「くそが…!!」

 

 2人にとってハジメが極光に焼かれる光景を見るのはこれが初めてではない。かつてオルクスの最終試練で現れたヒュドラの最後の頭が見舞った極光とそれによって倒れたハジメ。あの時と違い、力を付けた今だからこそユエは二度とあんなことを繰り返さないようにと、忍も油断するつもりはなかった。だが、今の状況はあの時の再現にも見えてしまい、当時を知る2人だからこそ悔しさに満ちた表情をしていた。

 

「上じゃ! 馬鹿者共!」

 

「ッ!」

 

 ティオの警告に忍が反応し、ハジメとユエを守るように黒い闇を広範囲に展開していた。ユエは神水をハジメにもう1本飲ませているので身動きが取れなかったが、それをカバーするのが自分の役目だと忍が獄帝の力を発揮する。

 

 その直後…

 

ズドドドドドドドッ!!!

 

 先程の極光よりも10分の1程度の威力しかないだろう縮小版の極光の豪雨が降り注いできた。だが、それでも極光は極光。その威力は普通の人間を死に至らしめるだろう。

 

「ぐぅっ!!?」

 

 闇を維持する忍の手に極光を吸い込んだ衝撃が伝わり、忍の表情が苦悶に歪む。

 

「ハジメさん! ユエさん!」

 

「シア! お主も死にたいのか!? 今、妾の守りから出たらダメじゃ!」

 

「でも! ハジメさんが!」

 

 その一方で極光の豪雨がハジメ達に集中していることで別の足場にいたシアとティオが足止めを食らっていた。

 

 そして、極光の豪雨が止むと、周囲は見るも無残な惨状となっていた。ティオは今の防御で魔力をだいぶ消費したらしく、魔晶石にストックしていた魔力を補充する。

 

 すると…

 

「……看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せして正解だったようだな。お前達は危険だ。特にそこの男共は…」

 

 上空から感嘆半分呆れ半分といった具合の男の声が降ってきた。忍達が上空を見れば、そこにはいつの間にか夥しい数の竜と、それらの竜とは比べられないくらいの巨体と存在感を放つ白竜がおり、その白竜の背には赤髪で浅黒い肌に僅かに尖った耳の魔人族の男が、黄金の双眸を細めて忍達を睥睨していた。

 

「まさか、私の白竜のブレスの直撃を受けたにも関わらず、仕留めきれぬとは…。おまけに報告にあった強力にして未知の武器。そちらの男に、そっちの女もだ。総勢50体もの灰竜の掃射に耐えるとは…常軌を逸している。貴様らは何者だ? 一体、いくつの神代魔法を持っている?」

 

 魔人族の男がそのような質問をすると…

 

「質問するなら、まず名乗ったらどうだ? それともあれか? 魔人族に礼儀なんてなかったか?」

 

 魔人族の男の問いに対して答えたのは、さっきまで倒れていたハジメだった。

 

「ハジメ!」

 

「ハジメさん!」

 

「ご主人様よ、無事か!?」

 

「起きたか、親友」

 

 忍達の声にハジメが何とか立ち上がろうとするも、結構なダメージを受けているようで足がふらつき、また倒れそうになる。それをユエと忍が支え、シアとティオも狭い足場の中をやってきてハジメに寄り添う。

 

「……これから死にゆく者共に名乗る必要があるとは思えんな」

 

「同感だ。テンプレだから聞いてみただけだしな。俺も興味ないから安心しろ。そういや、お友達の腕やら全身の調子はどうだ?」

 

「……………………」

 

 ハジメは回復する時間稼ぎがてら、そんなことを揶揄して尋ねた。魔人族の男の言葉から推察するに、以前ウルの町で暗躍してハジメと忍の2人が銃撃した魔人族が、どうやら生き延びていてそれをこの男に報告したのだろうと踏んだのだ。

 

「……気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名は『フリード・バグアー』。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒だ」

 

「神の使徒、ね。大仰なこって。神代魔法を得て、そう名乗ることを許されたってか? 魔物を使役する魔法じゃねぇな……こんな極光をポンポン出せる魔物がうじゃうじゃいて堪るか。おそらくは、魔物を作る類の魔法だな? 強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃ神の使徒も名乗れるだろうよ」

 

「その通りだ。神代の力を得た私に『アルヴ様』は直接語り掛けてくださった。『我が使徒』と。故に、私は己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障害となりうる貴様らの存在を、私は全身全霊を以って否定する」

 

 ハジメと忍はフリードと名乗った男の狂信的とも言える言葉に既視感を覚えた。聖教教会教皇イシュタルのことだ。だが、それよりも重要なことは目の前にいるあいつらがこちらを否定してきた敵だと言うことだ。

 

「上等だ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は…皆殺す!!」

 

 そう言ってハジメが臨戦態勢に移行しようとした時…

 

「親友。無理はすんな。今はまだ回復に専念しとけ。ユエさん達は親友を頼む。ここは俺が一肌脱ごうじゃないの」

 

 ハジメを支えていた忍が一歩前に出て跳躍すると空力でさらに跳躍する。

 

「マジック・バレット、雷鳴弾!」

 

ドゴォンッ!!

 

 跳ぶと同時にアドバンスド・フューラーR/Lを抜き、すぐさま雷鳴弾を発砲する。だが、忍とフリードの射線上に灰竜と呼ばれた体長3、4メートル程度の竜が2体割り込み、正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁が出現する。

 

ピシャアアァァァァ!!!

 

 雷鳴弾が障壁に着弾し、雷撃を撒き散らす。

 

「ふん、無駄なことを…」

 

 その様子にフリードがそのようなことを呟く。が、アドバンスド・フューラーの真骨頂はこういう場面でこそ活きる。着弾で障壁に傷を付け、その傷を雷撃で押し広げることで"同時発砲"していた後続の弾丸が灰竜へと直撃し、雷撃でその身を焼く。そうして2体の灰竜は墜落していく。

 

「なにっ!?」

 

 まさか、たった一撃で突破されるとは思わず、フリードも驚愕の表情になる。

 

「ハッ! 俺とは相性が悪かったみたいだな? ついでだ、これも持ってけ!!」

 

 言うが早いか忍は闇を展開し、そこから先程吸収して複製しておいた極光の豪雨を撃ち出していた。

 

「これは…!?」

 

 まさか自分達が行った攻撃を返されるとは思ってもみなかったらしく、フリードから動揺が伝わってくる。

 

「小癪な真似を…! だが、私にはもう一つの神代の力がある!」

 

 障壁を何重にかして忍の放った極光の豪雨を凌ぎながらフリードが詠唱を紡ぎ出す。その手には何やら複雑奇怪な魔法陣が描かれた布を持っている。

 

「忍!」

 

「わかってるよ!」

 

 忍が空力で射線を開けながらアドバンスド・フューラーでフリードを狙撃する。それを追うようにハジメはオルカン、ユエは雷龍、ティオはブレス、シアはスラッグ弾を一斉に放っていたが、先程の忍の攻撃の教訓か、単体ではなく複数体で以って忍やハジメ達の攻撃を灰竜が防いでいた。

 

「ちっ!」

 

 現状、覇狼から得た属性以外の魔法の種類が少ない忍は舌打ちしていた。

 

「『界穿』!」

 

 そして、フリードの詠唱が終わり、前方に薄い光の幕が現れたかと思うと…

 

「っ!! ハジメさん! 後ろです!!」

 

 シアが未来予知で危険を察知し、警告する。それに従い、ハジメ達が背後を向くと、たった今光の膜に飛び込んだフリードと白竜がハジメ達の背後に陣取っていた。しかも白竜のブレスはチャージ完了済みというおまけ付きで…。

 

「まずは負傷している者から片付けさせてもらおう!!」

 

 フリードがそう言うと、ほぼゼロ距離からのブレスがハジメに襲い掛かる。が、ハジメは即座にオルカンを盾にして水平に吹き飛ばされる。

 

「ぐぅぅ!!? あぁああ!!?」

 

 オルカンを盾にしたおかげでかろうじて直撃は避けたハジメだが、先のダメージに加え、今の一撃で体が悲鳴を上げて口からも苦しそうな声が漏れ出る。

 

「ハジメ!?」

 

 ユエがすぐさま白竜に攻撃しようとするも、灰竜達による掃射で足止めされてしまう。忍が2体倒したと言っても総数は48体になってる状況は変わらず、忍もそんな数をたった1人で押さえられるわけもなかった。

 

「っ、このぉぉ!!!」

 

 ハジメが限界突破を発動する。だが、今この状況で使う限界突破は非常にリスクが高かった。

 

「こなくそがぁぁぁ!!!」

 

 盾にしたオルカンで白竜の極光を上方に無理矢理軌道を逸らすも、完全には逸らせず極光のダメージがハジメに入る。しかし、そこに追撃するかのように白竜が光弾を連射してハジメを追い詰めようとする。

 

「クロスビット!!」

 

 限界突破の上に瞬光も発動し、極限状態で光弾を避けつつ、使い物にならなくなったオルカンを宝物庫にしまい、ドンナーを連射する。それと同時にクロスビットをフリードに向けて飛ばしていた。

 

「なんというしぶとさだ! 紙一重で決定打が打てないとは…!!」

 

 そう言ってフリードはハジメに驚嘆の眼差しを送り、白竜を高速で飛ばしながら再度詠唱を開始しようとした。

 

『そうはさせん!!』

 

 そのような声が響き、赤黒い障壁(実は白竜や灰竜の背中に乗っている亀型魔物の固有魔法)でクロスビットの攻撃を耐え、追従してくるハジメから距離を取ろうとしていたフリードと白竜の横合いから強い衝撃が襲い掛かった。

 

「なっ!? 黒竜だと!!?」

 

 今の衝撃で白竜から落ちそうになるフリードだったが、なんとか踏み止まって衝撃を与えてきた正体を見て絶叫する。

 

『紛いモノの分際で随分と調子に乗るの! もう、ご主人様は傷つけさせんのじゃ!!』

 

 そう吠えるのは、竜化したティオだ。体躯に関しては一回り白竜よりも小さいが、纏う威圧感は白竜を遥かに凌ぐ。

 

「ティオ!?」

 

 ティオの竜化にはハジメも驚いていた。それだけティオの中でのハジメの存在が大きくなってしまったのかが窺える。

 

『若いの! 覚えておくんじゃな! これが"竜"のブレスよ!!!』

 

ゴォガァアアアア!!!

 

ティオの漆黒のブレスと、白竜が迎撃として放った極光のブレスが衝突し、マグマの海をその衝撃で津波を発生させた。最初こそ拮抗していたブレス対決だが、徐々にティオの方が押していった。

 

「くっ…まさか、このような場所で竜人族の生き残りに会うとは……かくなる上は、この魔法で空間ごと…」

 

「させねぇよ」

 

「そういうこと」

 

「ッ!!?」

 

 フリードが新たな布を取り出し、詠唱を始めようとしたが、背後と上空からの声と背後から撃ち出された衝撃で中断せざるを得なかった。

 

「忍、やれ!」

 

「応! 『猛牙墜衝撃(もうがついしょうげき)』!!」

 

 傷を負いながらもハジメがフリードの背後を取り、障壁が張られていようとゼロ距離発砲と6発の弾丸のピンポイント射撃によって障壁を破壊し、それを見計らって忍が上空から急襲したのだ。

 

「ぐぅう!?」

 

 フリードも咄嗟に後退し、直撃は避けたものの…

 

『クルァアア!!?』

 

 下にいた白竜に忍の攻撃が直撃し、極光の威力が弱まる。それによってティオのブレスが極光のブレスをぶち破る。

 

「『旋風脚(せんぷうきゃく)(ごう)』!」

 

グキャ!!

 

「がぁあ!?」

 

 その僅かな隙を突き、カポエラの要領で忍がフリードの脇腹に衝撃変換も加味した横蹴りを見舞ってから、ハジメと共にその場を離脱する。直後、白竜にティオのブレスが直撃する。

 

「逃がす、がぁ!?」

 

 さらに追撃しようとしたハジメだが、限界突破のタイムリミットになり、盛大に血を吐く。

 

「親友!?」

 

 それを空中で忍がキャッチし、一度ユエ達の元へと飛び退いていた。そして、両陣営ともに再集結を果たす。よく見れば灰竜の3割くらいは削られている。たった1人と言えど、化け物コンビの片割れ。このくらいの仕事はしないとならない。

 

「なんということだ。よもや、これほどの戦闘力とは…しかも灰竜の3割近くがもう1人の男に沈められるとは……竜人族の生き残り、無詠唱無陣の魔法の使い手、未来予知と人外の膂力を持つ兎人族…どの者も尋常ではない。神代の力を使ってなおこの結果…最初の奇襲を仕掛けてなければ蹴散らされていたかもしれぬとは…」

 

 フリードが静かに、何かを押し殺したような声音で呟き、ハジメ達を見る。

 

「なに勝手に勝った気でいやがる? 俺はまだ戦えるぞ」

 

「その傷で戦意が衰えない親友が怖くもあるがな」

 

 ハジメの言葉に忍は肩を竦めるが、戦意を滾らせているのはハジメだけではないとアドバンスド・フューラーLの銃口をフリードに向ける。

 

「……凄まじい殺意…いや、生き残ろうとする執念か。仕方あるまい。この手だけは使いたくなかったが…貴様らほどの強敵を殺せるのなら、これが必要な代価だったと割り切ろう」

 

「何を言ってやがる?」

 

「どういう意味だ?」

 

 フリードの言葉に疑問符を浮かべていると、いつの間にやらフリードの肩に留まっている鳥型の魔物に何かを伝えていた。

 

 すると…

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

「うおっ!?」

 

「んっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

『ぬお!?』

 

「な、なんだ!?」

 

 突如、下から突き上げるような衝撃に見舞われ、五者五様の声を上げてバランスを取ることに集中する。が、激震は刻一刻と激しさを増していき、マグマの水位もせり上がってきた。

 

「テメェ…何しやがった?」

 

 この状況ではフリードが何かをしたのは明白だった。

 

「なに、要石を破壊しただけだ」

 

「要石…?」

 

「不自然には思わなかったか? 『グリューエン大火山』は活火山だ。なのに、噴火の記録がない。何故か? それは外部から何かしらの要因でマグマをコントロールしているからだ」

 

「それが要石か………っ、まさか!?」

 

「そうだ。その要石を破壊した。じきにこの大迷宮は潰える。神代魔法を同胞に授けられなかったのは痛恨だが、致し方なし。貴様らをここで葬れる対価としては十分だろう。大迷宮諸共滅べ」

 

 そう言ってフリードはハジメ達を冷たく見下ろすと、首にかけたペンダントを掲げると、天井に亀裂が走って左右に開き始める。円形に開かれた天井の穴は、そのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通となる。フリードは最後にもう一度ハジメ達を睥睨すると、白竜と共にその扉へと消えていく。

 

「………………………」

 

 ハジメはその僅かな時間、何かを考えるように眼を細める。が、それも数瞬で何かを決断したように怪我を押して立ち上がる。そこに残っていた灰竜の一団が小極光を放ってきた。

 

「邪魔だ!!」

 

 忍が空力を用いて飛び出し、灰竜の一団と一戦交え始める。

 

「ティオ、よく聞け。これを持ってお前1人で、あの天井から脱出しろ」

 

 忍が灰竜の一団と交戦してる合間にハジメがティオも頭に触れてこちらを向かせると、そのように言い放っていた。その手には宝物庫が握られている。

 

『ご主人様よ。妾は…妾だけは最期を共に過ごすに値しないと…? 妾に切り捨てろと、そういうのか? 妾は…』

 

 ハジメの言葉が、ティオだけを生き残らせるようなニュアンスに聞こえ、悲しみを交えた声音になる。

 

「ティオ、そうじゃない。一度しか言わないからよく聞け。俺は何も諦めちゃいない。神代魔法は手に入れるし、忍の覇王の力も手に入れる。いつかあの野郎をぶっ殺すし、静因石も送り届ける。だが、俺1人じゃ無理だ。だからこそ、お前の力を貸してほしい。お前じゃなきゃ、突破できないし、期限内にアンカジに行くことも出来ないだろう。だから頼む、ティオ」

 

 今までになく真剣な眼差しでティオの瞳を見つめるハジメ。その意図が分かったからこそ、ティオもまた腹を括る。

 

『任せよ!』

 

 その言葉にハジメも頷くとティオの鱗の内側に宝物庫を入れる。

 

「ティオ、香織とミュウに伝言だ。"後で会おう"だ。頼む」

 

『ふふ、委細承知じゃよ』

 

 そう言ってティオが飛翔しようとすると…・

 

「忍! 途中までティオの援護を頼む!!」

 

「無茶言うなよ!? 残弾数も心許ないんだぞ!?」

 

「途中で戻ってくりゃいい」

 

「おっふ…マジか。ティオさん、すみません、一時的に背中借ります」

 

 こういう時に冗談を言わないのがハジメクオリティー。仕方なく、ティオの背に忍が乗ると、急上昇を開始した。

 

『むぅ…緊急時じゃから仕方あるまい。じゃが、忍もこのまま残るのかの?』

 

「まぁ、覇王の宝玉があれば入手したいんで。あの野郎に持ってかれてなきゃいいんだが…」

 

『ふむ。見た感じ、宝玉らしきものは持っておらんかったがの』

 

「まぁ、普通の人が持っても価値ないんで。っと、そろそろ出ますね。援護したらまた落ちるんで」

 

『うむ。ご主人様達をよろしくの』

 

「セレナやシオン、ファルにも"必ず会おう"と伝えてくださいよ?」

 

『わかっておるよ』

 

 そんな短いような長いような会話が終わると同時に、ティオが地上へと飛び出ていた。

 

「あの状況から出てくるとは! 化け物揃いめ!! だが、いかに黒竜と言えど、満身創痍! ここで仕留め……「させるかよ!!」……ッ!!?」

 

 出口でフリードが待ち構えてたらしいが、ティオの背に隠れていた忍が跳ぶと共に…。

 

「ありったけ持ってけ!!!」

 

 空中で回転しながら雷鳴弾を乱射した。

 

ピシャアアァァァァ!!!!

 

 雷鳴が轟き、周囲の灰竜達が撃墜されていく中、忍は仕事が終わったとばかりに火山の中へと落下していく。その乱射に紛れ、クロスビットがフリードと白竜の四方に配置されると…

 

ズガァアアアン!!!

 

 クロスビットが自爆した。

 

「ぐぉおお!?」

 

『ルァアアン!?』

 

 その爆発で吹き飛ばされたフリードと白竜に追い打ちでティオが竜巻を放つ。本来ならブレスの一つも見舞いたかったが、そこは余裕がなかったので仕方がない。

 

 ティオはしばらくフリード達が吹き飛んだ砂塵を見つめた後、火山の方を向いて一つ頷くと、アンカジ公国へと進路を取った。

 

 

 

 一方の忍はというと…

 

「なんで俺、フリーフォールする羽目になってんのぉぉ!!」

 

 という具合に落下していたが、このままではマグマにダイブすることになるので、空力と神速を用いてさらに落下速度を上げていき…

 

「待ってぇぇ!! 俺も入れてくれぇぇ!!」

 

 今正に最深部の中央にあった岩場の建造物の中に入るハジメ達の姿を見て、さらに速度を上げた。

 

 結果…

 

ドンガラガッシャァァン!!

 

 という風にギリギリ住処の中に入ったものの、まるで漫画に出てきそうな転がり方をしながら背中から壁に激突していた。

 

「忍、大丈夫か?」

 

「………………………」

 

「……反応がない」

 

「ただの屍の様ですぅ」

 

 という酷いナレーションをユエとシアにされても反応がない。マジで気を失っているようだった。が、よく見ると、紅蓮の輝きが忍を包み込んでいた。どうやら偶然にも覇王の宝玉と衝突して意識を持っていかれたようだ。まぁ、それを差っ引いたとしても今の衝撃ではさしもの化け物コンビの片割れと言えど、気絶は免れないかもしれないが…。

 

………

……

 

「うぅ…痛ぇよぉ~…」

 

 忍が現実での痛みを引きづりながら周囲を見渡せば、そこは紅蓮の空間に紅蓮の羽衣を纏い、3対6枚の翼を持った不死鳥の如き鳥が灼熱の双眸を忍に向けて対峙していた。

 

「ま、あの野郎が宝玉を持って行かなかっただけでも儲けもんか。痛つつ…」

 

 そんな風にホッとしつつも忍もまた覇王を見る。

 

『我が覇王の魂を継ぐ者よ』

 

 いつもの前口上から語りが始まる。

 

『我が名は(ほむら)を司る(みかど)、"焔帝"。汝、あらゆる熱情を胸に、全ての障害を焼き尽くせ。その熱情がある限り、汝は何度でも甦らん。それが我が力の源。熱情を忘れるなかれ。汝の熱き魂を解放せよ。さすれば、汝は何処までも飛んでいけよう』

 

 覇狼とも獄帝とも異なる内容に忍は軽く頷く。

 

「強いて言うなら獄帝に通ずるかもか。ま、それはともかく…熱情か。熱き魂ってフレーズと言い、精神論的なことかね? 嫌いではないが…」

 

 そう言って忍が不敵な笑みを浮かべると…

 

『キュオオオオオオオ!!』

 

 焔帝が雄叫びを上げると共に忍の意識が現実へと引き戻される。

 

………

……

 

「んぁ…?」

 

 ものの数分で目覚めた忍だったが…

 

「おい、忍。目覚めたんならさっさとお前も神代魔法を修得しろ。そろそろ俺らも脱出するぞ」

 

「お? おう…」

 

 頭をさすりながら忍も魔法陣の元へと入り、神代魔法を修得する。ここでの神代魔法は『空間魔法』だった。先の戦闘でフリードが見せた移動もこれに該当するのだろう。

 

「よし。じゃあ、サクッとマグマん中を泳いで脱出するぞ」

 

「……ん?」

 

「……はい?」

 

「ん~?」

 

 ついさっき起きたばかりの忍はともかく、ハジメの言葉にユエもシアも心配そうな表情でハジメを見る。

 

 ハジメ曰く次の『メルジーネ海底遺跡』でのことを考え、密かに潜水艇も建造していたらしく、それをマグマの中に転送していたそうだ。金剛を付与した小舟が大丈夫だったことを踏まえているので問題ないそうだ。

 

 その後、4人はユエの結界を三重くらいに張ってマグマの中を移動して潜水艦へと乗り込むが、その直後に噴火らしき衝撃が潜水艇を襲った。だが、潜水艇は外に出るどころか、地下へと進んでいった。こうなれば出たとこ勝負だと割り切り、4人は潜水艇に乗ってマグマの中を進むのだった。

 

 ただ、若干忍が居心地悪そうにしていたが…。

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