もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十七話『母娘の再会と、最後の巫女』

 周囲を見渡せば、青一色の大海原だった。

 

 グリューエン大火山でのマグマの中を流され続けたハジメ達の乗る潜水艇は金剛を付与されているとは言え、色んな場所にゴツンゴツンとぶつかり続け、挙句の果てには海底火山のマグマ水蒸気爆発に巻き込まれて赤いマグマの世界から今度は青い海の世界へと放り出されていた。そこからさらに海の魔物に襲われ、内臓武器を使い果たしたりしたが、ユエと忍の魔法でなんとか切り抜けたのだ。

 

 そして、潜水艇は海上まで浮上し、今は休憩中という訳である。

 

「親友は随分とハッスルしてんなぁ…オルクスを思い出すわ」

 

 小波とはまた違った揺れを潜水艇の中で感じてる操縦席に座る忍はオルクス大迷宮でのことを思い出していた。

 

「シノブさんはよく我慢出来ましたね」

 

 そう言うのはこの揺れで目を覚ましたシアだ。近接主体のシアはユエに血を提供することでしか役に立たなかったので貧血で寝込んでいたのだが…。

 

「慣れって怖いよな…」

 

 自嘲気味に笑う忍にシアは同情の視線を送る。

 

 

 

 そして、しばらくして揺れが収まるとハジメとユエが船内に戻ってくる。シアがジト目で出迎えてハジメとユエに慰められることしばしば。

 

「良いとこ悪いんだが、親友。進路はこのままでいいのかい?」

 

「あぁ、このまま進んでくれ」

 

「了解」

 

 回復中のハジメに代わり、忍が潜水艇を操縦して大陸があるだろう方角へと向かう。

 

………

……

 

 潜水艇で南に進路を取ってから二日目の昼のことだった。

 

「まさか、覇王も能力をこんなことに使われるとは思わんかっただろうなぁ~」

 

 忍の新たな覇王の能力『焔帝』の一つ、紅焔を空中に固定し、それを用いて今さっき採った魚を焼いて食べるということを行っていた。焼いてる間に水平線を見てボケ~っとゆったりとした時間を過ごすのも悪くないが…。

 

 そんな具合に全員が魚を頬張っていると、シアのうさ耳、忍の鼻、ハジメが気配をそれぞれ感知する。その直後、潜水艇を囲むようにして三又の槍を持った複数人(ざっと20人程度)が海から飛び出してハジメ達を包囲する。見れば、全員エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を持っており、海人族であるのは間違いなさそうだった。ただ、彼等の目はいずれも警戒心に溢れ、剣呑に細められていた。

 

「お前達は何者だ? 何故、こんな場所にいる? その乗っているものはなんだ? というか、何故火が宙に浮いている?」

 

 海から出てきた集団の内の1人がハジメに槍を向けて問い質す。もっとも、ハジメは全長60センチ近くはあるだろう魚を頬張っていて、思いの外咀嚼に時間が掛かっているようだったが…その態度が海人族からしたら舐めてるように見えたらしく、質問した男の額に青筋が走る。

 

「まぁまぁ、そう殺気立たせなさんな。こっちも予想外と言うか、そんな状況でね。よかったら穏便に話し合いで済ませましょうや。何事も平和が一番だからね」

 

 喋れないハジメに代わりに忍が屈託のない笑みを浮かべてそのように言うが…

 

「そうやってあの子も攫ったのか? また、我等の子を攫いに来たのか!?」

 

「え? いや、それはちょっとごか…」

 

「黙れ! もう魔法を使う隙も与えん! 海は我等が領域。無事に帰れると思うなよ!」

 

「いや、だから、話を…」

 

「手足を斬り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」

 

「聞けよ。だから…」

 

「安心しろ。王国に引き渡すまでは生かしてやる。状態は保証しないが」

 

「……………………」

 

 海人族が話を聞いてくれず、途中から忍の額にも青筋が走り始める。

 

「やれぇ!!」

 

ブチッ!!

 

 話を聞かない海人族に堪忍袋の緒が切れた様子の忍は…

 

「バレッテーゼ・フレア」

 

パチンッ!

 

 一言呟き、右手の指を鳴らす。それと同時にビー玉程度の大きさの火球が20人の懐に発生したかと思えば、次の瞬間…

 

チュドンッ!!

 

『どわぁぁぁぁ!!?』

 

 小規模な爆発を起こして全員を吹き飛ばしていた。小規模とは言え、結構な威力だったためか、20人もの海人族はプカ~と気絶したように海面に浮かび上がる。

 

「安心しろ、峰打ちだ」

 

「ゴックン。爆発に峰打ちなんてねぇだろ」

 

 咀嚼がやっと終わったのか、珍しくハジメがツッコミを入れ、その言葉にユエとシアがうんうんと頷く。

 

「人の話を聞かんのが悪いんだよ」

 

 とは言ったものの、ここに放置しておくわけにもいかなかったので浮かんでいる海人族を回収し始めるのだった。その際、1人だけ…最初にハジメに槍を突き出した男にだけは威力を加減したこともあってすぐに目覚めて、改めて事情を説明した。が、ミュウの特徴を言った途端にまた犯人扱いされたので、イラッとしたハジメが無表情無言で往復ビンタを繰り返し、やっと大人しくなったところでエリセンに案内させるのだった。

 

 

 

 そして、案内の元、数時間ほど海原を潜水艇で移動していくと…

 

「あっ、見てください! 町ですよ!」

 

「おぉ~。ホントに海のど真ん中にあるんだな」

 

 忍に潜水艇の操縦を任せ、ハジメが潜水艇の上でシアやユエ、そして案内役の男と共に『エリセン』へと到着する。ちなみに気絶した他の連中は潜水艇の一部を改造した荷台に放り込んでいる。

 

 ハジメの指示で忍が桟橋の多く突き出たところへと向かう。当然ながら得体の知れない船(と認識されるだろうか?)はそれはもう目立った。しかも荷台には絶賛気絶中の方々もいるので、港にいた人達はプチパニックになった。それでも気絶中の彼等をハジメと、船から出てきた忍、案内役の男で降ろしていく中、完全武装した海人族と人間族の兵士達が詰め寄ってくる。

 

 案内役の男がなんとか事情を説明するが、どうにも雲行きは怪しかった。案内役の男を退かして兵士達がハジメ達を包囲する。

 

「なんか町に着く度に揉め事に巻き込まれてね?」

 

「言うなよ」

 

「ま、トラブル体質は親友の方が強そうだしな」

 

「……うっせぇ」

 

 包囲されているにも関わらず、軽口を叩き合うハジメと忍に包囲している兵士達の視線が鋭く突き刺さる。

 

「大人しくしていろ。事の真偽がハッキリするまで、お前達の身柄は拘束させてもらう」

 

「おいおい、話はちゃんと聞いたのか?」

 

「無論だ。だが、確認はこちらの人員だけで行う。お前達が行く必要はない」

 

「あのなぁ。そっちの勘違いで襲ってきたのをこうやって連れてきたんだぞ?」

 

「果たして勘違いかどうか、わかったものではない」

 

「こっちにも仲間達がいるんだから、もうちっと譲歩してくれてもいいんじゃね?」

 

「譲歩も何も情報が不確かな以上、お前達に拒否権はない。第一、そう言って逃げ出すつもりじゃないだろうな?」

 

「逃げるつもりなら、最初からこいつらを助けてないんだが?」

 

「その件もだ。お前達が無断で管轄内に入ったことに変わりない」

 

「それは…不幸な事故だったんだよ」

 

「事故で済めば、我々は必要ない。第一、その事故というのも胡散臭い」

 

 ハイリヒ王国の紋章の入ったワッペンを着けた兵士の隊長格とハジメ、忍との会話は平行線のままだった。それにハジメがイライラし始め、忍がハジメの肩に手を置いて落ち着かせようとしている時だった。

 

「? 今、何か…?」

 

 シアのうさ耳がぴくぴくと動き、何かの音を拾おうとしていた。

 

「? 空の空気が、変わった?」

 

 忍も鼻で何かを察知したのか上を見る。

 

「2人共、どうした?」

 

 隊長格の兵士から視線を離さず、ハジメがシアと忍に尋ねるが、ハジメの気配察知や耳にも上からの反応を捉える。

 

「---!!」

 

「あん?」

 

「---パ!!」

 

「おい、まさか!?」

 

「---パパぁ!!」

 

 ハジメもだんだん聞こえてきた聞き覚えのある声に視線を上に向ける。そこには幼女がパラシュート無しでスカイダイビングする光景が広がっていた。ちなみに黒竜姿のティオとその背に乗る香織、同じく竜化したシオンとその背に乗るセレナとファルがかなり慌てた様子で急降下してくるのが見えた。

 

「ミュウッ!?」

 

「おいおい、マジか!?」

 

 驚いた様子のハジメが縮地と空力を用いてミュウへと向かって跳ぶ。その余波で兵士達が海に落ちるが、そんなことに構ってる余裕はない。

 

「いやはや…子供って怖いわ」

 

 スキルをフル活用し、ミュウをキャッチするハジメを見上げながら忍はミュウの行動力にちょっとした恐怖を感じていた。

 

 

 

 その後、ミュウを抱き留めて着地したハジメだが、危ないことをしたミュウを叱り付けていた。まぁ、上空から落ちてきたのだから当然と言えば当然なのだが、怒られて素直に反省するミュウを許してハジメはミュウをあやす。その光景には集まった野次馬達も困惑して事の成り行きを見守っていたが、落ち着いたと感じたのかにわかに騒ぎ始める。

 

「うぅ…よかった…よかったよぉ…」

 

 そんな中、香織もハジメの生存と再会にハジメの肩に顔を埋めて涙を流していた。それをハジメは困ったように頭を撫でていた。

 

「お、お前…一体、これはどういうことか、説め…"ドンッ!"…ぷげら!?」

 

「む? すまぬ」

 

 先のハジメの跳躍の余波で海に落ちた隊長格の兵士が、同じく跳躍の余波でボロボロになった桟橋に這い上がってきたのだが、竜化を解いて人型に戻ってハジメに駆け寄るティオに吹き飛ばされて再び海に落ちる。それをティオは詫びていたが、そんなことよりも、とハジメの頭を抱き寄せて自らの胸の谷間に導く。

 

「ぬおっ!? おい、ティオ」

 

「信じておった。信じておったが…こうして再会すると……しばし、時間をおくれ、ご主人様よ」

 

 そう言うティオの表情は大切なものが腕にあることを噛み締めるようで目の端に涙を溜めており、そんな愛しい者に対するようなものだったので、ハジメも今回ばかりは流されることにした。そうこうしてる間にもユエとシアも参戦し、なんだかハジメに対する視線が生暖かいものや若干殺意じみたものが混ざり始める。

 

「お嬢様が…あんな表情をされるとは…」

 

 そんなティオの変化にシオン(こちらも竜化を解いている)は目を見開いて驚いていると…

 

「ハッハッハッ、あの時の戦いでティオさんの心も完全に親友に落ちたのかね?」

 

 先の戦闘の様子を見ていたので、忍がそのように呟いていた。

 

「忍!」

 

 セレナが忍の背中に抱き着く。

 

「よっ、セレナ。まさか、こんなに早く会えるとはな。シオンもファルも元気そうで何よりだ」

 

 巫女達に軽口を叩く忍だが…

 

「バカ…! 本当に、心配したんだから…!」

 

「忍殿もご無事で何よりです。ですが、セレナの言う通りです。流石にお嬢様しか戻ってこなかった時には、嫌な想像をしてしまいました」

 

「ま、生きてるなら別にいいけど…」

 

 どうにもいらぬ心配をさせてしまったようだ。

 

「悪かったよ。だが、無茶したおかげで3体目の覇王の能力も入手できたし、神代魔法も修得した。それに俺は親友ほど負傷してなかったから大丈夫だよ」

 

 そう言ってニカッと笑う忍にセレナは抱き着く力を強め、シオンは困った人を見るような苦笑し、ファルはなんだかんだ言ってさり気なく忍の羽織ってるコートの袖口を摘まんでいた。

 

「(あんま人のこと言えねぇな、俺も…)」

 

 忍がハジメのことを笑えねぇな、と思っていると…

 

「き、貴様ら…一度ならず、二度までも……公務執行妨害で捕縛してやろうか!?」

 

 再度海から這い上がってきた隊長格の兵士が憤怒の形相でハジメ達と忍達を交互に睨む。そんな隊長格の兵士にハジメはティオから返してもらった宝物庫からステータスプレートやらイルワの依頼書などを取り出して隊長格の兵士に提示した。

 

「……な、なっ!? き、"金"ランクに、フューレン支部長の指名依頼だとぉぉ!?」

 

 一緒に提示された手紙も読み進めると、隊長格の兵士は盛大な溜息とどっと疲れたような表情をしてから、ハジメ達に敬礼する。

 

「依頼の完了を承認する。南雲殿、紅神殿」

 

「疑いが晴れたようで何よりだ」

 

「だな」

 

 それぞれ女性陣の輪から抜け出すと、ハジメと忍は隊長格の兵士といくつか話をする。その際、時間が出来たら色々と説明することになり、今はミュウを母親の元へと連れていくことを優先させてくれて、隊長格の兵士…今更ながら名乗り『サルゼ』と判明…が野次馬の騒ぎの収拾に入った。

 

 そして、遂に母娘の再会が実現する。

 

「叔母様、落ち着いてください!」

「シェーラちゃんの言う通りだ!」

「その足じゃ無理だ!」

「そうよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

 

 通りの先の一軒家から何やらおのような声が聞こえてくる。

 

「嫌よ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が迎えに行ってあげないと…!!」

 

 なんとも悲痛な女性の声が聞こえてくる。その声を聞き…

 

「ママーー!! シェーラお姉ちゃぁぁん!!」

 

「っ!? ミュウ? ミュウ!!」

 

「ミュウちゃん!」

 

 ハジメの手を握って先導していたミュウがその一軒家の玄関先に座る女性の姿とその隣に佇む少女を見つけると、スタタタターと走り出していき、女性の胸に飛び込んでいた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさいね、ミュウ」

 

 女性はミュウを抱き締めると何度も謝っていた。それは目を離してしまったことか、それとも迎えに行けなかったことか、それともその両方なのか。

 

「よかった…本当に、よかった…」

 

 隣にいた少女も抱き合っている母娘の姿に涙を流していた。

 

「ママ、シェーラお姉ちゃん、ミュウはここにいるの。だから、泣かないで」

 

「ミュウ…」

 

「ミュウちゃん…」

 

 そんなミュウの言葉に母親『レミア』と、姉(?)『シェーラ』は驚いたような表情を見せる。そんなミュウの成長にレミアは愛おしさから再び抱き締め、ミュウも抱き着く。

 

「ママ!? 足、どうしたの!? 怪我したの!? 痛い痛いなの!?」

 

 が、レミアの足の状態を見てミュウが悲鳴を上げる。サルゼから聞いていたことだが、どうやらミュウの誘拐時にレミアがそれを目撃したらしく、口封じのために襲撃を受けたらしい。その際、足に魔法が当たって神経がやられてしまったらしく、今は立つこともままならないという。

 

 そこでミュウは今最も頼れる人物を呼ぶ。

 

「"パパ"ぁ! ママを助けて! ママの足が痛いの!」

 

「み、ミュウちゃん?」

 

「えっ!? み、ミュウ? 今、"パパ"って…?」

 

「パパ! 早く早くぅ!」

 

「あら、あらら? やっぱり、"パパ"って呼んだの? その、"パパ"って?」

 

「お、叔父様? い、いえ、流石にそれはないですよね。えっと…これはどういう…?」

 

 ミュウの発言にレミアもシェーラも頭上に疑問符を盛大に浮かべる。当然、周囲の人々も騒ぎだす。

 

「れ、レミアが、再婚? そんな……バカな!!?」

「あらやだ。レミアちゃんにも次の春が来たのね!」

「嘘だろ? だ、誰か…誰か嘘だと言ってくれ!!」

「パパ、だと? ハッ! 俺のことか!?」

「ちげぇよ。きっと俺のことだ!」

「寝言は寝て言え!!」

「おい、緊急集会だ! 『レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会』のメンバー全員に通達しろ! こりゃあ、荒れるぞ!」

 

 という具合に非常に行き辛いことこの上なかった。

 

「(行きたくねぇ~)」

 

「(親友、ガンバ♪)」

 

「(あとで、シバキ倒す…!)」

 

 心の中でハジメが愚痴ると、隣の忍からの念話とサムズアップが届き、それに返答してから意を決して前に出で親子の元へと歩み寄る。

 

「パパ、ママが…」

 

「大丈夫だ、ミュウ。ちゃんと治るさ。だから泣きそうな顔すんな」

 

「はいなの…」

 

 やってきたハジメにミュウが泣きそうな顔をするが、そんなミュウの頭をくしゃくしゃと撫でると、ハジメの登場に目を丸くするレミアに目を合わせる。レミアとシェーラ、そしてさらに騒ぎ出す周囲の人々を無視してハジメは動き出す。

 

「悪いが、ちょっと失礼するな?」

 

「はい? っ!? あらら?」

 

 ハジメがヒョイッと全く重さを感じさせずにレミアをお姫様抱っこで抱き上げると、家の中へと入っていく。それに続くように忍達も入っていく。

 

「いやはや、こんな大所帯でお邪魔してすみませんね」

 

「あ…い、いえ…」

 

 忍がシェーラに詫びを入れていると、ハジメがレミアをソファにそっと降ろして座らせていた。その座らせたレミアの足を香織に診察してもらう。

 

「香織、どうだ?」

 

「ちょっと待ってね。レミアさん、少し足を診させてもらいますね? 痛かったら言ってくださいね」

 

「え? は、はい。えっと…これは一体どういう状況かしら…?」

 

 レミアもシェーラも困惑極まったという表情で一行とミュウを見比べていると、診察を終えた香織がレミアの足は治癒魔法で回復可能であることを告げ、早速治療に取り掛かる。その間に、レミアとシェーラにミュウとの出会いやそれに付随する騒動を説明する。

 

「本当に、なんとお礼を言えばいいのか。娘とこうして再会できたのは皆さんのおかげです」

 

「私からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」

 

 レミアとシェーラが揃って深々と頭を下げる。ハジメ達は"気にしないでくれ"と言ったが、せめてエリセン滞在中はこの家を使ってくれと申し出ていた。しかし、流石にレミアやシェーラを含めて12人もの人数を収容するには手狭と言えた。なので、忍は裏庭の方を借りてテントを張ることにしたそうだ。

 

「そういや、聞き忘れてたけど…ミュウちゃんってお姉さんがいたの?」

 

 今更な気もしたが、忍がシェーラを見ながら尋ねる。

 

「私はレミア叔母様の姉の娘で、ミュウちゃんの従姉妹になります。レミア叔母様のことやミュウちゃんのことが心配だったので、こちらでお手伝いをしてました」

 

 そんな風に改めて自己紹介をするシェーラ。

 

「へぇ~、そうだったのか」

 

 なんとなく納得した忍は、ハジメから宝物庫を借り受け、寝床となるテントを張りに裏庭に向かった。

 

………

……

 

 翌日のこと。

 

「ん~…」

 

 ハジメが色々とメルジーネ海底遺跡の攻略のための準備をしている中、シェーラが少しだけ遅れて起床してきた。香織がレミアの治療を行い、忍と巫女達もリビングに集まっている。

 

「おはよう、シェーラちゃん。珍しいわね、あなたがこの時間に起きるなんて」

 

「叔母様。はい、なんだか変な夢を見まして…」

 

「夢?」

 

「はい。覇王がどうとか…」

 

 そのシェーラの言葉に…

 

「ぐふっ…!?」

 

 忍が飲み物を逆流させてしまっていた。幸い、コップを傾けていた時だったので被害は忍のみにとどまったが…。

 

「ちょっ、大丈夫!?」

 

「汚いわね…」

 

「まぁ、気持ちはわからなくもありませんが…」

 

 セレナは忍の心配し、ファルがジト目を忍に向け、シオンが唯一理解を示す。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 シェーラも忍を気遣っていた。

 

「あ、あぁ…平気平気。それにしても君が最後の巫女か…」

 

「巫女?」

 

 首を傾げるシェーラに覇王と巫女についてわかってることを簡単に説明し、未使用のステータスプレート渡して起動してもらう。

 

-----

 

シェーラ 15歳 女

レベル:8

天職:雪羅の巫女

筋力:37

体力:49

耐性:16

敏捷:22

魔力:-

魔耐:-

技能:絶氷巫女

 

-----

 

 このようなステータスが表示された。

 

「……………………」

 

 自らのステータスを見てシェーラも目をパチクリさせる。

 

「まぁ、いきなりこんなこと言われても困惑するだけか」

 

「いえ、確かに驚きましたが……なるほど。巫女ですか」

 

 覇王と巫女の関係についても聞いたので、しばし考え込むような仕草をする。

 

「君はどうしたい?」

 

「私は…」

 

 答えを出してもらうには早計かとも思ったが、忍は聞かずにはいられなかった。

 

「エリセンに残ろうと思います」

 

 が、シェーラはハッキリとそう答えていた。

 

「そうか…」

 

「はい。私では、きっとお役には立てませんし。人を見極めるなんて、恐れ多いですから…」

 

「わかった。君の意志を尊重しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 少し申し訳なさそうにしながらもシェーラは忍に頭を下げていた。

 

 こうして最後の巫女は旅への同行や見極めもしないことにしたという。しかし、覇王と巫女はいずれ交わる運命にあるということだが…。

 

 

 

 それからさらに二日が経ち、いよいよ『メルジーネ海底遺跡』へ向けて出発することとなった。レミアの足も無事に回復し、ミュウと共にハジメを見送る姿は、もう妻と娘にしか見えなかったそうな…。そんな光景にハジメは迷宮からの帰還を少し躊躇う気持ちになったとか…。

 

 ちなみに今回もセレナ、シオン、ファルの3名はお留守番を言い渡された。セレナの場合、ライセンの時とは違って一緒にいないとならない理由が薄れたからだ。当時はまだパーティー人数も今の半分で、一緒に行動した方が安全だったというのもある。ファルの場合は単純な非戦闘員が理由。シオンの場合はそんな2人とミュウ達の守りに置いていく感じだ。帰ってくる場所が分かっている以上、そこで待っているのも一つの選択肢だということだ。

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