もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第三十八話『メルジーネ海底遺跡』

 エリセンから西北西に約300キロメートルの地点。

 

 かつてミレディ・ライセンから教えられた七大迷宮の一つ、『メルジーネ海底遺跡』のある地点だ。教えてもらった時はあまり時間が無かったので詳しくはわからなかったが、ミレディは"月"と"グリューエンの証"に従え、という言葉だけを伝えていた。

 

 昼間の内にその地点に到着したハジメ達一行は、とりあえず大まかな距離と方角を頼りに昼間の内に捜索したのだが、これといった収穫はなかった。が、周囲100キロメートルの水深に比べると、この地点周辺の水深は浅く感じたので場所自体は間違っていないはずだとハジメは考えていた。

 

 時間的には日没で、潜水艇の甲板でハジメと忍が日没の太陽を眺めながら黄昏ていた。

 

「………………………」

 

「こういう景色を見てると、世界が違っても自然って美しく感じるよな」

 

「あぁ、そうだな…」

 

 男2人で適当に雑談を交わしていると、潜水艇内のシャワーを浴びていた女性陣も甲板に上がってきた。そうしてハジメの周りに女性陣が寄り添うのを忍が横目で見て肩を竦めていると、ハジメが故郷の話をし出し、忍と香織が補足していき、ユエ、シア、ティオの3名が興味深そうに耳を傾ける。

 

 そうこうしてる間に日も落ち、月が満ちてきた頃、ハジメはグリューエンの証であるサークル状のペンダントを取り出す。このペンダントはサークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタン部分がくり抜かれて穴あきになっている。

 

 そのペンダントを月に翳すが、しばらくは変化はなかった。しかし、変化は徐々に起こっていた。ペンダントの穴あき部分に月の光が溜まっていくという幻想的な光景が広がった。その光景に女性陣は少しうっとりとした表情をし、ハジメと忍も感嘆いたような表情を見せる。

 

 そして、月の光が満ちた時、ランタンの光が海面へと向かってこれから行くべき道を指し示す。この光がいつまで持続するかわからない以上、早速ハジメ達は潜水艇に乗り込むと光の道標に従って潜水艇を航行させる。光の導きに従い、潜水艇で移動すると、昼間にも近くを調べた岩壁地帯に光が当たり、『ゴゴゴゴ!』という地響きと共に岩壁が扉のように開く。

 

 そこからさらに進むと、魔物の襲撃などもあったが、魚雷などの武装で撃破していく。が、道なりに進んでいるのに同じところを回っていることに気付き、さらにはメルジーネの紋章(五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様がある)が円環状の通路に五か所あることが判明した。そして、ペンダントにも光が残っている。このことを加味して考えた結果、五か所の紋章にペンダントをかざすと光が注がれて紋章が輝く。

 

 そうして全ての紋章に光を灯すと、新たな道が開かれる。何事もなくそちらへ向かい、水路の通りに進む。と、そこで潜水艇は真下に落下する。というのも水路の先は海中ではなく、空洞になっていたのだ。それ故に潜水艇が落下したようだ。

 

「こっからが本番か」

 

「らしいな」

 

 潜水艇から出てハジメと忍が表情を引き締める。他のメンツも潜水艇から出て、ハジメが宝物庫に潜水艇を格納した後、奥に見える通路へと進もうとした時だ。

 

「ユエ、忍」

 

「ん」

 

「あいよ」

 

 ハジメの声にユエは障壁を展開し、忍も闇を頭上に展開する。その直後、レーザーのような水流が流星の如く降り注いできたが、それは忍の展開した闇に吸い込まれていき、闇から漏れたレーザーもユエの障壁によって防がれる。伊達に幾たびもの死線を共に潜り抜けてきたわけではなく、ハジメ、ユエ、忍は阿吽の呼吸で奇襲を防ぎ切っていた。ハジメの一言で攻撃を察していたシアとティオも動揺はない。

 

 しかし、香織は違った。

 

「きゃあ!?」

 

 いくらオルクス大迷宮を攻略してきたと言っても香織がいたのは表層部。奈落や他の大迷宮での戦闘経験もなく、真の大迷宮攻略は今回が初めてとなる。そんな彼女をハジメとユエの目は見逃さなかった。

 

 攻撃を仕掛けてきたフジツボもどきの集団をティオの火属性魔法『螺炎』によって焼き尽くされた。その後、奥の通路へと進み、海水を掻き分けて進んでいると、今度はヒトデっぽい魔物が手裏剣の如く向かってきた。それをハジメがドンナーで迎撃する。さらに足元の水中から海蛇のような魔物が迫るが、ユエが氷の槍で串刺しにする。

 

 そこでハジメが一言。

 

「……なんか、弱過ぎないか?」

 

 香織以外のメンバーが揃って頷く。

 

 今までの大迷宮…と言っても三つだが…は、そのどれもが単体で強力、複数で厄介、単体で強力且つ厄介というのがデフォだった。だが、このメルジーネ海底遺跡で出会った魔物は…お世辞にもそれらと比べることが出来ないくらい弱かったのだ。そのことに疑問を抱きつつも、一行は広い空間に出る。

 

「っ…なんだ?」

 

「この匂いは…?」

 

 ハジメ達がその空間に入った瞬間、半透明のゼリー状の何かが通路へ続く入り口を塞いでしまう。

 

「私にお任せを! うりゃあ!!」

 

 咄嗟の出来事に最後尾を歩いていたシアが、その壁を壊そうとドリュッケンを振るうが…表面が飛び散っただけで、ゼリー状の何かで構成された壁は壊れなかった。

 

「ひゃわ!? なんですか、これ!?」

 

 今の一撃で飛び散ったゼリー状の何かがシアの胸元辺りに付着したらしく、それが衣服を溶かし始めていた。

 

「シア、動くでない!」

 

 それをティオが絶妙に加減した火でもって焼き尽くすが、どうにも肌にも少し付いてたらしくシアの肌が赤く腫れる。

 

「っ! まだ来るぞ!」

 

 ゼリーの壁から距離を取ったハジメ達の頭上から無数の触手が襲い掛かってくる。その触手もまたゼリー状であり、先のシアに付着したものの特性を考えると溶解作用も有していると考えた方がいいだろう。

 

「バレッテーゼ・フレア!」

 

 その触手に対し、忍が触手がやってくるだろう先の空間に火球を配置すると…

 

チュドンッ!!

 

 その火球と触手の先端が触れた瞬間、爆炎が広がって触手を焼き尽くす。

 

「?(なんだ? この手応えは…?)」

 

 忍が少し手応えに違和感を覚えている間にユエが障壁を展開し、ティオも追撃とばかりに先端が爆破して動きが鈍くなった触手を炎で焼き払っていく。

 

「? ……ハジメ。このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎の勢いが弱くなってると思っておったが、どうやら炎に込めた魔力すらも溶かすらしいの。シノブの方もそうじゃろ?」

 

「あぁ、そういうこと。だからさっき違和感があったのか」

 

 障壁を展開してたユエが障壁が溶かされてることに気付き、ティオも忍も合点がいったような表情をする。

 

 そうこうしている内に、このゼリーを操っている魔物が姿を現す。半透明で人型、但し手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラとした斑点があり、頭部には触覚らしきものが2本生えている…全長10メートルはあるだろうクリオネのような魔物だった。

 

「ユエも攻撃して! 防御は私がやるから! 『聖絶』!!」

 

 香織がユエの代わりに聖絶を発動させると、巨大クリオネに向けてユエ、ティオ、忍が炎の攻撃魔法を繰り出し、シアもドリュッケンを砲撃モードにして焼夷弾を発射する。それら全ての攻撃が巨大クリオネに直撃し、爆発四散させる。その光景にユエ達がいい仕事したと言わんばかりの表情をするが、攻撃した側の1人である忍は表情を強張らせる。そして、それはハジメも同様だったようで…

 

「まだだ! 反応が消えてない! 香織は障壁を維持してろ。なんだこれ? 魔物の反応が部屋全体に…」

 

「くそっ、どうなってやがる?」

 

 ハジメの魔眼石には部屋全体が赤黒い色一色で染まって見えており、忍の鼻もそこら中から魔物の魔力の匂いを察知していた。

 

 すると、四散したはずのクリオネが瞬く間に再生し始め、その腹の中には先程倒したヒトデや海蛇の魔物がおり、ジュワーという音を立てて溶かされていく。

 

「どうやら、あの魔物達はこやつの食料だったようじゃな。ご主人様よ。無限に再生されても厄介じゃ。魔石の場所は?」

 

「そういえば、透明のくせに魔石が見当たりませんね?」

 

 ティオの問いハジメはチラリと忍の方を見る。その視線を受け、忍も首を横に振る。

 

「……ハジメ? シノブ?」

 

 その2人のやり取りにユエが再度尋ねると…

 

「…ない。あいつには、魔石がない」

 

「あぁ、俺も心眼でも見たが…親友の言う通り、魔石がないと言った方がいいかもしれん」

 

 2人の言葉にユエ達も目を丸くする。

 

「ま、魔石がないって…それじゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

「わからん。だが、強いて言うなら、あのゼリー状の体全てが魔石だ。俺の魔眼石には、あいつの体全てが赤黒く染まって見える。あと、部屋全体も同じように見えてるからな。下手すりゃ、俺達は既にあいつの腹ん中にいるってことになる!」

 

「要するに、俺等は自分で奴のテリトリーに入っちまった訳か。くそっ!」

 

 ハジメが宝物庫から火炎放射器を取り出して、周囲のゼリーを焼き尽くす。忍もユエ達と共にクリオネへと攻撃を集中させていき、何度も撃破するが、その度にクリオネは即座に再生いていく。さらに悪いことに水位も高くなっていく始末。正にジリ貧である。

 

「……一度態勢を立て直す。地面の下に空間がある。何処に繋がってるかわからん。覚悟を決めろよ!」

 

 この状況にハジメもいよいよヤバいと感じたのか、一時撤退を決断していた。

 

「んっ!」

 

「はいですぅ!」

 

「承知じゃ!」

 

「わかったよ!」

 

「了解だ!」

 

 全員の返事を聞き、ハジメが火炎放射器でゼリーを迎撃しながら地面の一部にあった亀裂に"錬成"を用いて穴をこじ開けていき、最後のダメ押しとしてパイルバンカーで粉砕する。その貫通した縦穴へと途轍もない勢いで水が流れ始め、ユエ達もそれに浚われる形で、流されていく。

 

 ハジメはそんな激流の中、なんとか踏ん張りながら宝物庫から巨大な岩石と無数の焼夷手榴弾を転送しつつ、ユエ達と共に地下の空間へと流されていく。

 

………

……

 

「げほっ…がはっ…ったく、海水はしょっぺぇな…」

 

 忍は1人で、砂浜に漂着していた。

 

「あちゃ~…俺1人ですか。オルクスを思い出すわ」

 

 周囲の様子と匂いを窺い、自分1人だけだということにオルクスでのことを思い出す。

 

「ま、あん時と違って力はあるし、他の皆も大丈夫だとは思うが…問題は組み合わせか」

 

 特に香織が1人だけだった場合、生存は絶望的だろう。まぁ、そこはハジメ辺りが一緒にいることを祈るのみだ。

 

「……親友も親友で、ぶきっちょなとこあるし…下手なこと言ってなきゃいいんだが…」

 

 とは言え、ハジメと香織が一緒にいたとして、ハジメが下手なことを言って関係が拗れる可能性も否定出来なかったが…。

 

「ともかく、現状1人で攻略を進めるしかないか。住処にでも行ければ合流は可能そうだしな」

 

 あちらの心配よりもこちらの心配ということで、忍は砂浜から近くにあった雑木林へと移動を開始した。

 

「しっかし、海底なのに、よく植物が育ってるよな。オルクスの人工太陽的なのでもあんのか?」

 

 そんなどうでもいいことを考えつつも忍は雑木林を抜ける。

 

 その先には…

 

「うん? 廃村?」

 

 何やら朽ちた村っぽいモノがあった。

 

「規模はそれほど大きくはないが…これにどんな意味が…?」

 

 忍が首を傾げながら廃村跡に足を踏み入れると…

 

グニャリ…

 

 空間が歪み、何やら周囲の光景が火の海と化した。

 

『ウオオオオオオオ!!!』

 

 さらに村を襲う魔人族の大軍が現れ、村の人間族を皆殺しにしていく。

 

「幻覚か?」

 

 その様子を見て忍は幻覚の一種かと思っていたが、幻覚が忍にも襲い掛かってきて咄嗟に避けると、その襲い掛かってきた魔人族の剣が地面に突き刺さるのを見て驚いた表情になる。

 

「幻覚であって幻覚じゃないってか?」

 

 即座に忍もアドバンスド・フューラーLを抜いて実体弾を撃ち込むが…

 

スッ!

 

「なに!?」

 

 実体弾2発分が幻覚を通り過ぎてしまった。

 

「なら…こっちはどうだ?」

 

 すぐさまアドバンスド・フューラーLを仕舞うと、右手から闇を展開してフジツボもどきから複製した水のレーザーを撃ち出す。

 

ジュワッ!!

 

 今度は幻覚の胸に穴を開けていた。そして、その幻覚は崩れ落ちて消える。

 

「魔力攻撃はOKなのな。なら…」

 

 それを確認した忍は銀狼と黒狼を抜き、刀身に魔力を帯させてから一気に神速で駆け出した。武装している魔人族を片っ端からその二刀によって斬り伏せていく。

 

 その間、忍は似たような叫びを聞き続けた。

 

「アルヴ様、万歳!!」

「アルヴ様の神罰を!!」

「異教徒共に裁きを!!」

 

 聞くに堪えなかった。狂気の沙汰と思えてならなかった忍は…

 

「(そういや、オスカーの話…"神々"とか言ってたな。つまるところ、そういうことか)」

 

 かつてオルクス大迷宮の最深部で聞いたオスカーの言葉で、少しだけ合点がいったような表情をする。それと同時に嫌悪感バリバリに顔を歪めると…

 

「ホント、この世界の神ってのはロクなもんじゃねぇな!!」

 

 そんな風に吠えて怒りのまま魔人族を殲滅していった。

 

 

 

 幻覚の魔人族殲滅後、周囲の光景が元の廃村に戻ると、その奥に森があったのを見つけ、そちらに歩を進めていく。森の奥まで進んでいくと、古びた祭壇があった。忍は目を鋭くして周囲の匂いを嗅いで警戒していると、案の定、空間がグニャリと歪み始めて新たな光景が現れる。

 

「我が同胞よ、エヒト様への供物をここへ」

 

 そこでは生贄と思しき年若い女の子達が祭壇の前に集められていた。

 

「これでエヒト様への祈りも届くというもの」

 

「さぁ、お前達…エヒト様に祈りを捧げながら自らの命を差し出せ!!」

 

 司祭っぽい服装をした男達が狂気の目で女の子達に命令する。

 

「この命はエヒト様のために」

「この命で魔人族を滅ぼしてください」

「エヒト様、エヒト様」

 

 女の子達の目は既に虚ろでそれぞれの手に持たれたナイフを自らの首に次々と押し当てていき、その命を投げ出す。

 

「ククク。いいぞ、いいぞ! そのまま死して魔人族への怒りをエヒト様に晴らしてもらうのだ!!」

 

 そんなことを宣う司祭だった。すると、後方から数人の村人がやってきた。

 

「こ、これは?! し、司祭様!? これはいったい!?」

 

 村人の1人が司祭に事情を聞こうとする。

 

「これは神聖なる儀式だ。エヒト様にお声を届けるためのな」

 

「そんな!? 娘がこのようなことをするはずが…」

 

 どうやら女の子達の中に彼の娘がいたようだ。それが信じられず、村人はおずおずと娘の元へと歩み寄ろうとするが…

 

「触れるな!! その供物は既にエヒト様のものぞ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

 司祭が歩み寄ろうとした村人に魔法を放ち、その村人を吹き飛ばす。

 

「し、司祭様? な、何故、このようなことを…?」

 

「貴様の娘はとうにエヒト様の供物なのだ。神の供物に人が触れるなどあってはならぬ!」

 

「む、娘は供物なんかじゃない! 私と妻の子供だ! 返してくれ! 娘を返してくれぇ!!」

 

 村人が悲痛な絶叫を上げる中、司祭の近くにいた騎士が村人に向かう。

 

「えぇい。神に逆らう愚か者め! 粛清しろ!!」

 

「はっ!」

 

「や、やめ……ぎゃあああ!!?」

 

 村人が騎士に殺され、他の村人が及び腰になってしまう。

 

「これは天命である! エヒト様は供物を欲しがっているのだ! それを達成すれば、エヒト様は我々を救済してくれる!! ハッハッハッ、ヒャーハッハッハッ!!」

 

 狂った神に信仰した者もまた狂い出す。とでも言うのか、物凄くムカムカする惨状を見せつけられた忍は…殺気を抑えられなくなり、周囲に殺意の波動が広がっていく。

 

「………………………」

 

 幻覚が終わっても濃密な殺意を纏った忍は無言のまま、祭壇の上に輝き始めた魔法陣へと足を運んだ。

 

 ただ、幻覚が終わる直前、司祭側の人間の内に1人だけフードを目深に被った人物が目に留まり、注意深く見たところ銀色の髪が少しだけ見えた気がしたのだった。

 

………

……

 

カッ!!

 

 魔法陣から現れた忍の殺気が次の空間でも持続してしまい…

 

ドバンッ!!

 

 その空間に銃声が響く。その音にハッとして忍は黒狼を抜くと自分に向かってきた銃弾を叩っ斬る。それと共に忍も垂れ流していた殺気も抑える。

 

「なんだ、忍かよ。驚かせるな」

 

「悪い悪い。てか、殺気を感じたら即発砲な親友もどうかと思うけどな」

 

 見れば、忍以外のメンバーが中央の神殿の祭壇っぽいところにある精緻で複雑な魔法陣の前に全員集合していた。忍は祭壇を見てさっきのことを思い出して物凄く嫌そうな顔をする。

 

「てか、地味に俺が最後かよ」

 

 そんなことを言いながら忍もハジメ達に合流を果たすと…

 

「あれ? 白崎さん、なんか雰囲気変わった?」

 

 香織の纏う雰囲気が迷宮に入った頃に比べ、微妙に変わったことに忍が察知する。

 

「……開き直っただけ」

 

「うん。私は私の気持ちを貫き通すって決めたから、だからハジメくんの傍に居続けることにしたの」

 

「へぇ~」

 

 香織の決然とした態度に忍も感心したような声を漏らす。

 

 忍が来たことで全員揃ったところで、ハジメ達は揃って魔法陣の中へと足を踏み入れる。すると、大迷宮でお馴染みの脳内精査が始まるが、今回に限っては他のメンバーとの記憶の共有化も行われた。その際、ハジメと香織は船の墓場みたいな場所で豪華客船での惨劇、ユエとシアとティオは人間の王都らしき場所での教会の凶行をそれぞれ目の当たりにしていたことがわかった。忍の見た光景も嫌なものだったが、他のメンバーが見たものも大概だろう。

 

 そうして記憶を共有化の後、記憶の確認も終わって無事全員攻略者として認められたようで、新たな神代魔法が脳内に刻まれる。

 

「ここで、この魔法か……解放者め」

 

「……見つけた、"再生の力"」

 

「ものの見事に大陸の端と端だねぇ~」

 

 その神代魔法とは、『再生魔法』だ。再生…つまり、かつてハルツィナ樹海の大樹の下で見つけた石碑の文面にあった一節だ。つまるところ、ハルツィナ樹海の大迷宮に挑むためには、反対の位置にあるこのメルジーネ海底遺跡を攻略する必要があり、それにはグリューエン大火山も攻略する必要もあったという、なんとも手間のかかることこの上ない。

 

 ハジメが解放者の嫌らしさに眉を顰めていると、魔法陣の輝きが薄くなっていき、直方体状の新たな小さな祭壇が姿を現す。その上には真紅の宝玉が乗っていた。

 

「この後、何があるかわからんし…サクッと覇王に会ってきますか」

 

 忍の脳裏にあのクリオネの姿が浮かび、ここは早々に覇王の能力を手に入れる必要があると判断して真紅の宝玉を手にする。

 

カッ!!

 

 忍の体が真紅の光に包まれていき、宝玉が忍の体に溶け込むと共に意識が途切れる。

 

………

……

 

「さてはて、此度の覇王は、っと…」

 

 忍が真紅の空間に視線を巡らせると、漆黒と真紅の甲殻で体を覆われた真紅の瞳を持つ飛竜(ワイバーン)が両翼を広げて佇んでいた。

 

『我が覇王の魂を継ぐ者よ』

 

 いつも通りの前口上。

 

『我が名は(まこと)を司る始祖、"真祖"。汝、傷付くことを恐れることなかれ。負う傷も与える傷も皆等しく同じなり。故に傷付き傷付けることを恐れるな。さすれば、汝は何人にも阻まれることはない。(まこと)の道とは、己の信ずる先にこそある』

 

 今まで邂逅してきた覇王とはまた違った趣があるように感じた。

 

「要するに…自分の進む未来は自分で勝ち取れ。そして、そのために自分が傷付き、相手を傷付けることを恐れるな、ってことかね?」

 

 獄帝と同じく咀嚼に少し時間が掛かりそうな気がしなくもない忍だったが、今はそれよりも大事なことがあった。

 

「ま、なんにせよ。これで折り返しか。残りの覇王の能力も必ず手にしてやるよ。そして、必ず家に帰ってやる」

 

『ガァアアアアアア!!!』

 

 忍の決意に満ちた宣言に呼応するかのように飛竜も雄叫びを上げ、忍の意識も現実へと帰還するのだった。

 

………

……

 

「ん…?」

 

 忍が目覚めると…

 

『どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられることに慣れないで。掴み取るために足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前に進んで。どんな困難や難題でも、答えは常にあなたの中にある。貴方の中にしかない。神の魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志の下にこそ、幸福はある。あなたに、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています』

 

 解放者の1人『メイル・メルジーネ』がオスカーと同じようにメッセージを遺していたようで、ちょうど締め括りだったようだ。

 

「終わったのか?」

 

「あぁ、目覚めたのか。オスカーの内容と似たり寄ったりだったよ」

 

 忍が目覚めたことにハジメが気付き、声を掛けると祭壇からメルジーネの紋章が彫られたコインを確保する。

 

「覇王との邂逅でも思ったが、これでやっと折り返しか」

 

「そうだな。残る大迷宮は3つ。それにこれでハルツィナ樹海も攻略可能になった訳だ」

 

 しばし感慨に耽っていると、神殿が鳴動して周りの海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

「おいおい、ミレディみたく強制排出ってか?」

 

「漆黒の波動、帯式」

 

 ハジメがこの状況をそう分析していると、忍が魔力で練った闇を硬質化させて帯状に形成させると全員の腰に巻き付ける。

 

「これでバラバラにはならんだろ」

 

「覇王の能力も使い方次第だな」

 

「まぁな」

 

 そんなやり取りをしていると、あっという間に水没してしまい、忍の機転もあって離れ離れにならないようにはなった。その間にハジメが宝物庫から人数分のシュノーケル型酸素ボンベを全員の口に転送する。その直後、天井が開いて海水が流れ込み、ハジメ達はまるで間欠泉の如く噴射する水の流れで上へと吹き飛ばされていった。

 

 メルジーネ海底遺跡のショートカットから海中に放り出された一行はハジメが宝物庫から出した潜水艇に乗りこもうとしたがしたものの、それは忍が懸念していた"あいつ"によって阻止されてしまった。

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