始まるオルクス大迷宮の探索。
光輝達勇者パーティーを筆頭に階層を下っていく一行。
「にしても…」
「忍、どうかした?」
「いや、ちょっとな…」
ここまでの道程でハジメと忍はお荷物感満載でついてきたのだが…
「ここまで何にもないのが不安でな…」
「トラップ的なこと?」
「あぁ…大迷宮を謳ってる割にそういう罠が少ないと思ってよ」
そんな風に言ってると…
「それは既にある程度の攻略が進んでるからだ」
メルド団長が聞き耳を立てていたらしく、そう答えていた。
「既にマッピングもしているし、めぼしい罠も解除された後だからな」
「へぇ~、そうなんすか」
「だからこそ新兵訓練にも打ってつけなんだがな」
ガハハと笑うメルド団長を横目に見ながら忍は…
「(ま、何もないならないで別にいっか)」
という判断を下していた。
この判断が後々響くとも露知らず…。
………
……
…
なんだかんだで20階層まで降りてきた時だった。
「いやはや、流石はヒーロー。って言いたいが…どうにもなぁ…」
光輝達の戦いを後ろから見てた忍はなんとも言えない表情だった。
「強くてニューゲームかよ…」
「まぁまぁ…そう言わずに…」
「最初からチート能力じゃ萎えるってもんだぜ?」
「それはちょっとわからなくもないけど…」
ハジメと忍がそんな会話をしていると…
「あれ、何かな? キラキラしてる」
そう言って香織が崩れた壁の方を指差していた。
「ほぉ、グランツ鉱石か。大きさもなかなかだ」
メルド団長が言うには宝石の原石で装飾品の材料になるらしい。
「じゃあ、俺らで回収しようぜ!」
そう言って駆け出したのはハジメをイジメている一派の一人『檜山 大介』だった。
「あ、なんかやな予感が…」
そんなことを漏らしたのは忍であり…
「馬鹿野郎! なに、不用意なことしてやがる!!」
メルド団長も怒声をあげるが、檜山は無視してグランツ鉱石に手を伸ばす。
と、その時…
「団長! トラップです!!」
檜山がグランツ鉱石に触れたと同時に叫ばれた言葉は時既に遅し。
カッ!
光が部屋を満たし、その場にいた者の視界を白く染め上げた。
それはさながらこの世界に転移してきたような錯覚をも覚えさせる。
次に視界が戻った時、そこは先程までの部屋ではなく、巨大な石造りの橋の上だった。
「くっ! お前達! すぐに立ち上がって階段まで退け!!」
いち早く状況を理解したメルド団長が怒声のまま指示を飛ばす。
だが、後方には骸骨の騎士『トラウムソルジャー』が群れを成して現れ…
『グルァァァァアアア!!!』
前方には体長十メートル級の四足歩行型の頭部に兜のようなものを被った魔物『ベヒモス』が現れたのだ。
「おぉう…檜山のクソ野郎が…」
忍から自然と出た暴言にハジメは忍を見るが、今はそんな状況じゃない。
そして、ベヒモスを抑えようとメルド団長率いる騎士団が奮戦する中、光輝達も参戦してベヒモスを抑えようとする。
しかし、光輝はわかってない。
後ろのトラウムソルジャーを何とかしないと撤退もままならないというのに…。
「ちっ…あのヒーロー、状況見えねぇのかよ!」
「っ…僕が行ってくる!」
「は? おい、ハジメ!?」
持ち前の敏捷でトラウムソルジャーの攻撃を避けていた忍がハジメの行動に目を剥く。
ハジメは一人で前線まで行くと光輝の胸倉を掴んで説得を始めた。
リーダーがいないからパニックになる、前だけじゃなく後ろも見ろ、と…
内容までは聞こえてこなかったが、ハジメの行動力に忍は…
「流石は我が親友。そこに痺れるぜ」
と言いながらもトラウムソルジャーの攻撃を回避し続ける辺り、忍もだいぶ余裕が出てきたのかもしれない。
そして、ハジメが一人でベヒモスを抑えてる間に前衛が後退して後方部隊に合流する。
前衛組がトラウムソルジャーを抑えてる間、後衛組が撤退するハジメの援護をするために詠唱を開始する。
「親友。ちと無茶が過ぎるぜ?」
そんな中、忍がハジメを連れ戻すために橋を駆ける。
「おい!?」
メルド団長もその行動には驚いたが…
「平気平気。俺の敏捷性を舐めなさんな!」
と言って走る忍を止めることは出来なかった。
ハジメの魔力が尽きて後退し、そこに後衛組からの援護魔法がベヒモスへと降り注ぐ。
だが…
「っ!? 忍!!」
「あ?」
叫ぶハジメに忍が"どうした?"と尋ねようとした時、"一発の火球がハジメと忍の間に着弾した"。
「っ!?」
それに今更ながら気づいた忍は後方を見た。
そこには一人仄暗い笑みを携えた者が視界に入る。
「(檜山ッ!!?)」
咄嗟のことに言葉は出なかったが、忍は確かに見た…檜山が"やってやったぞ"とばかりの暗い笑みを浮かべていたのを…。
そして、橋は崩壊を起こしてベヒモス諸共ハジメと忍も奈落の闇へと落ちていくのが見えた。
「南雲くん!!!」
必死に手を伸ばすハジメに香織の悲痛な叫びが響く。
「くそったれがぁぁぁ!!!!」
忍の絶叫も闇の中へと消えていき、遂に2人の姿は奈落の底へと消えた。
「いやああああ!!!」
香織の絶叫が木霊する。
この日、クラスメイトの一人とその友人が奈落へとその姿を消した。