もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十話『異端認定と、意外な再会』

 エリセンを発った一行は、一路『ハルツィナ樹海』へと進路を取る…はずだったのだが、香織がアンカジ公国のオアシスを再生魔法で元に戻せるかもしれないので、立ち寄ってほしいと提案していた。その提案を呑んだハジメはアステリアで追走する忍にその折を念話で説明すると、忍も快諾していた。こうして一行はアンカジ公国へと立ち寄ることが決定した。

 

 アンカジ公国の入場門が見え始めたところで、前回とは違った風景がハジメ達の目の前に広がっていた。それは大きな荷馬車が数多く並んで行列を作っていたのだ。

 

「随分と大規模な隊商だな…」

 

「……ん、時間掛かりそう」

 

「多分、物資を運び込んでいるんじゃないかな?」

 

 ブリーゼの中で、ハジメ達が会話しつつもブリーゼを進ませていく。

 

「行列はガン無視かい」

 

 その様子に追走してた忍がやれやれと肩を竦めながら愚痴を零す。隊商の横を走り抜けるブリーゼとアステリアに隊商の人間達は目を見開き、門番も警戒心と恐怖をない交ぜにしたような表情をしていた。ところが、奥で休憩していたであろう兵士の1人が、ブリーゼとアステリアを見ると警戒を解くようにと伝え、伝令も走らせていた。

 

 そんな中、ハジメ達がブリーゼやアステリアから降り、隊商の人間がユエ達の美貌に惚け、ハジメが宝物庫にブリーゼとアステリアを収納する様子に瞠目したりと結構忙しかった。

 

「あぁ、やはり使徒様方でしたか。戻ってこられたのですね」

 

 その奥から出てきた兵士は、香織の姿を見てホッとしていた。おそらくこの兵士は、ビィズを連れてきた時か、ハジメ達がグリューエン大火山へ静因石を取りに向かった時にでもブリーゼを見たことがあったのだろう。『使徒様方』という呼称や、患者を診ていたことからも香織がこの中で一番知名度が高いのだろう。そのためか、香織が前に出て話をする。

 

「はい。実は、オアシスを浄化出来るかもしれない術を手に入れたので、試しに来ました。領主様に話を通しておきたいのですが…」

 

「え!? オアシスを!? それは本当ですか!?」

 

「は、はい。あくまでも可能性が高いというだけですが…」

 

「いえ、流石は使徒様です! と、失礼しました。こんなところではなんですから、中の待合室でお待ちください。先程、伝令も走らせましたので、入れ違いになっても困るでしょうし」

 

 そう言って待合室に案内されるハジメ達一行。やはり、国を救ってもらったという認識なのか、兵士のハジメ達を見る目は多大な敬意を含んでいた。逆に隊商の人間達からは好奇の目で見られていたが…。

 

 

 

 約15分後。

 

「久しい、という程でもないか。無事なようで何よりだ、ハジメ殿。ティオ殿に静因石を託して戻ってこなかった時は本当に心配したぞ? 貴殿らは既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらぬのに、勝手に死なれても困る」

 

 息せき切ってやってきたランズィは少し頬がこけていたが、それでもハジメ達の無事に穏やかに笑っていた。

 

「一介の冒険者に何言ってんだよ。でもまぁ、この通りピンピンしてっから。ありがとよ。それよりも領主、どうやら救援も無事に受けられているようだな」

 

「あぁ、備蓄していた食料と、ユエ殿が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から救助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいるよ」

 

 アンカジのために連日東奔西走していたのだろうが、その努力も報われているようだった。

 

「領主様。オアシスの浄化は…?」

 

「使徒殿……いや、香織殿。オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化しているが、なかなか進まん。今のペースだと、完全な浄化には半年。土壌に染み込んだ分の浄化までとなると、一年は掛かると計算されている」

 

 少し憂鬱そうな表情で香織の問いに答えるランズィ。

 

「領主様。そのオアシスですが、もしかしたらすぐに浄化することが出来るかもしれません」

 

「は…? い、今なんと…?」

 

「ですから、私達は手に入れた術で、オアシスの浄化が出来るかもしれないと…」

 

 そのランズィに浄化の可能性があることを伝えると… 

 

ガシッ!!

 

「きゃ!?」

 

「マジで!? マジでオアシスが浄化出来るの!?」

 

「は、はい!」

 

 香織の両肩を掴んで凄むランズィに香織もドン引きしながらもコクコクと頷き、解放されると同時にハジメの背に隠れてしまった。

 

「ゴホン。し、失礼しました。あまりのことに取り乱してしまった。改めて、オアシスの浄化を頼んでも?」

 

「元からそのつもりで立ち寄ったからな」

 

「ありがたい。では、早速こちらへ」

 

 こうしてハジメ達がランズィの案内で再びオアシスへと向かう。

 

 

 

 オアシスに到着し、香織がオアシスの畔に立って再生魔法の詠唱を開始する。

 

 余談だが、再生魔法の適性は香織が一番高く、次点でティオ、その次がユエ、さらにその次が忍となっており、ハジメとシアに関してはいつもの如く適性がなかったらしい。だが、シアの場合はまともに発動出来なくても、自動回復効果というものが勝手に発動するらしく、シアの超人化を助長するような形で習得してしまったようだ。

 

 話を戻そう。ユエは自前の再生能力があるので回復系の魔法は苦手なのだ。今回得た覇王の能力でユエばりの能力を得た忍も元々攻撃的な魔法の使い方というのもあってあまり得意ではないが、修練次第ではユエよりは得意になれそうな気がしないでもない。逆に香織は天職『治癒師』であり、回復と"再生"に通じるものがあるようで一際高い適性を持っていた。

 

 そうこうしている内に香織の詠唱が終わり、再生魔法が発動する。

 

「『絶象』」

 

 香織が瞑目したままアーティファクトの白杖を突き出すと、前方に蛍火のような淡い光が発生し、スッと流れるようにオアシスの中央へと落ちる。すると、オアシス全体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと昇っていく。

 

 その幻想的で神秘的な光景にランズィ達が息をするのも忘れて見惚れていたが、術が終わって疲れた様子の香織を支えながらハジメがオアシスの状態を調べるように促すと、慌てた様子でランズィが部下にオアシスの水質を調べる。

 

「……………………戻って、います…」

 

 オアシスの水質を調べた部下が震える声でそう呟く。

 

「……もう一度、言ってくれ」

 

 ランズィもその言葉を再確認するように言うと…

 

「オアシスに異常なし! 元のオアシスです! 完全に浄化されています!!」

 

『うおおおおおお!!!』

 

 部下の、今度はハッキリとした言葉に他の者達も歓声を上げる。ランズィもそれが真実なのだとわかり、感じ入ったように眼を瞑って天を仰いだ。

 

「あとは、土壌の再生か。領主、作物は全て廃棄したのか?」

 

「……いや、一ヵ所に纏めてあるだけだ。廃棄処理にまで回す人手も惜しかったのでな。まさか……それも?」

 

「ユエとティオ、忍も加わればいけんじゃないか? どうだ?」

 

「……ん、問題ない」

 

「うむ。せっかく丹精込めて作ったのじゃ。全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い」

 

「ハッハッハッ、俺は3人ほど出来る訳じゃないがな。ま、何とかしてみせるさ」

 

 ハジメ達の言葉とオアシスで実証された浄化で、本当に土壌も作物も復活するのだと実感したランズィは感極まり、その場で胸に手を当てて深々とハジメ達に頭を下げた。

 

 そんなランズィの姿に頭を掻きながらもハジメはその礼を受け、農地地帯へと移動をしようとした時だった。

 

「? これは…敵意、か?」

 

 鼻を微かにスンスンとさせた忍がそう言うと、ハジメ達も歩を止めて不穏な気配を感じ、そちらの方を見る。見れば、明らかに殺気立った集団がハジメ達に向かって一直線に進んでくる。それは聖教教会関係者と神殿騎士の集団だった。

 

 集団がハジメ達の元へとやってくると、彼等はハジメ達を半円状に包囲する。それを予期してか忍とシオンがセレナとファルを背中に隠すようにして前に出る。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を纏った初老の男が出てくる。

 

 物騒な雰囲気に堪らず、ランズィがハジメと男の間に割って入る。

 

「ゼンゲン公、こちらへ。彼等は危険だ」

 

「フォルビン司教。これはいったい何事か? 彼等が危険? 2度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ? 彼等への無礼はアンカジの領主として見逃せませんな」

 

 フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、ランズィの言葉をまるで馬鹿にするかの如く鼻で笑う。

 

「ふん、英雄? 言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ?」

 

「異端者認定だと…? 馬鹿な、私は何も聞いていない!」

 

 ハジメ達に対する『異端者認定』という言葉にランズィが息を呑むのがわかる。

 

「(親友)」

 

「(あぁ、遂にこの時が来たか)」

 

 フォルビン司教の言葉に忍とハジメは念話で会話する。

 

「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやってくるとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わないかね? それに異端者の内の1人は、反逆者という天職を持つというではないか。まさか、この時世に伝承にある反逆者がいようとはな」

 

 どうにもハジメや忍が聖教教会から異端者認定されたのは間違いないらしく、ランズィも思わず後ろのハジメと忍を見る。

 

「「……………………」」

 

 当の本人達は肩を竦めるだけで全然気にした様子もなく、むしろランズィに『どうするんだ?』という視線を送っていた。その視線を受け、眉間に皺を寄せるランズィに対し、いかにも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと笑いながら口を開く。

 

「さぁ、私はこれから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な者共だと聞いているが、果たして神殿騎士100名を相手にどれだけ抗えるものか見ものですな」

 

「……………………」

 

「さぁさぁ、ゼンゲン公よ。そこを退くのだ。よもや、我等教会と事を構える気ではないだろう?」

 

 フォルビン司教の言葉に対し、ランズィの出した答えは…

 

「……断る」

 

 たった一言の拒絶の意志であった。

 

「…………今、何と言った?」

 

 その答えはフォルビン司教だけではなく、その場にいた誰もが驚くに値するもので、ハジメ達ですらランズィを見る。

 

「断る、とそう言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」

 

「なっ!? き、貴様、正気か!? 協会に逆らうことがどういうことかわからんでもないだろう! 貴公も異端者の烙印を押されたいのか!?」

 

 ランズィの決然とした態度にフォルビン司教は息を詰まらせながら怒声を上げており、周囲の神殿騎士も困惑したように顔を見合わせている。

 

「フォルビン司教。中央は彼等の偉業を知らないのではないか? 彼等はこの猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を…報告では他にも勇者一行、ウルの町をも彼等が救っているというではないか。そんな相手に異端者認定? その決定の方が正気とは思えんよ。故に私、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に対しての異議と、アンカジを救ってくれたことを新たに加味した再考を申し立てる」

 

「だ、黙れ! これは決定事項だ! これは神のご意志だ! 逆らうことは許されん! 公よ! これ以上、その異端者共を庇うのであれば、貴様も…いや、アンカジそのものを異端認定することになるぞ! それでもよいのか!?」

 

 どこか狂的な光を瞳に宿しながら、とても聖職者とは思えない言動となるフォルビン司教をランズィは冷めた目で見る。

 

「……こんなこと言える立場じゃないが、いいのか? 王国と教会の両方と事を構えることになるぞ? 領主としてその判断はどうなのよ?」

 

 そこへいつの間にか近寄っていたハジメがなんとも言えない表情でランズィに尋ねる。しかし、ランズィは答える代わりに部下たちへと視線を送った。それにつられてハジメも視線をそっちに向けると、驚いたことに部下達も瞳をギラリと輝かせていた。つまり、ランズィと気持ちは一緒ということだ。

 

「いいのだな? 公よ。貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け、尽く滅びるのだ」

 

「このアンカジに自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰? 私が信仰する神は、そんな恥知らずを裁くお方だと思っていたのだが……司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

 

 ランズィの言葉に怒りを通り越して無表情になったフォルビン司教が片手を挙げて神殿騎士達に攻撃を合図しようとした時だった。

 

ヒュッ!

コンッ!

 

 神殿騎士の1人の被っていた兜に何やら飛来して当たったようだ。見れば小石が落ちている。首を捻る神殿騎士達にさらに小石の雨が降り注ぐ。何事かと周りを見渡せば、アンカジの民が憤慨した様子で投石していたのだ。

 

「や、やめよ! アンカジの民よ! 奴等は異端者認定を受けた神敵である! 奴等の討伐は神の意志である!」

 

 フォルビン司教の言葉に一時は民の手が止まるも…

 

「聞くのだ! 我が愛すべき公国民達よ! 彼等はたった今、我等のオアシスを浄化してくれた! 我等のオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ! それだけでも感謝の念が湧くと言うのに、彼等は汚染された土地も、作物も、全て浄化してくれるという! 彼等は我等のアンカジを取り戻してくれたのだ! この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ! 救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。私は……守ることにした!!」

 

 続くランズィの言葉を聞いた民達の答えは…

 

コンッ!コンッ!コンッ!コンッ!

 

 投石という形で示された。

 

「なっ!?」

 

 この結果に再び息を詰まらせるフォルビン司教。

 

「これが"アンカジの意志"だ。司教殿、先程の件…聞いてはもらえませんかな?」

 

「ぬ、ぐぐ……ただで済むとは思わないことだなっ!!」

 

 ランズィの言葉に吐き捨てるような物言いでフォルビン司教はその場から立ち去っていく。

 

 結局、当事者なのに最後まで蚊帳の外にいたハジメ達一行だったが、つまるところ教会との最初の衝突はランズィの英断とアンカジの民によって回避されたのだった。

 

 この騒動から2日も余分にアンカジに滞在したハジメ達一行は、アンカジに別れを告げるのだった。その際、ハジメの意外な性癖も発覚したが…まぁ、それはそれとして今度こそハルツィナ樹海へと進路を取る一行だった。

 

………

……

 

 アンカジを発って2日。そろそろホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、一行の前に賊らしき連中に襲われる隊商と遭遇した。

 

「あれ? ハジメさん、なんか襲われてません?」

 

「(お~い、親友。イチャつくのもいいが、前見ろ、前)」

 

 ブリーゼに同乗してるシアと、横を走行してる忍からの念話でハジメがやっと前を見る。

 

「確かに賊っぽいな。小汚い格好をした連中が40人。それに対して隊商の護衛が15人程度……あの戦力差でよく対抗してるな」

 

「……ん、あの結界はなかなか」

 

「ふむ。さながら城壁の枠割じゃな。あれを崩さんと本丸の隊商に接近できん。結界越しに魔法を撃たれては、賊もたまったもんじゃなかろう」

 

「でも、一向に退く気配がありませんよ?」

 

「そりゃあ、あんな結界、異世界組でもなければそんな保たんだろうしな。多少の時間はかけても、待ってりゃ向こうが勝つだろうよ」

 

 そんな悠長に話していると…

 

「ハジメくん、お願い! 彼等を助けて! もしかしたら、あそこに…」

 

 何やら切羽詰まった様子の香織が叫び、それに応えるようにハジメもブリーゼを加速させる。

 

「ハジメくん……ありがとう」

 

 が、ハジメの意図を察したユエ達はシートベルトを締め、どこかに捕まる。

 

「あ、あの…ハジメくん? もしかして…」

 

「犯罪者を見たらアクセルを踏め。教習所で習うことだろ?」

 

「(白崎さん、諦めて。親友はもう常識に囚われないんだ…)」

 

「そこは諦めないでよ!? まだ教習所にも行ってないのに習うはずないよ!? というか、交通ルールを勝手に捻じ曲げないで!?」

 

 そんな風に香織が苦言を呈している合間にもハジメはブリーゼのギミックを発動させてブレードを展開する。

 

 そして、始まる蹂躙劇。香織が隊商の負傷者を治癒しに行ってる間にハジメ、ユエ、シア、ティオ、忍が賊を殲滅していく。ただ、シオンはその蹂躙劇とティオの容赦のなさに呆然としていた。ブリーゼ内で待機してたセレナはともかく、ファルは顔を青くして今にも吐きそうであったが…。まぁ、かく言うセレナも顔が青くなってはいたが…。

 

「お嬢様が、どんどん遠くへ行ってしまう気がする…」

 

「まぁ、親友の影響もあるだろうしな。そこは、すまん」

 

 嘆くシオンに何故か忍が謝る。

 

 そんな中…

 

「香織!」

 

 小柄でフードを深く被った人物が香織に駆け寄り、抱き着いた。

 

「リリィ!? やっぱり、リリィなのね? あの結界、見覚えがあったと思ったら……まさか、こんなところにいるとは思えなかったから、半信半疑だったけど…」

 

 その声を聞き、香織も心底驚いたように相手を見る。

 

 その相手とは……ハイリヒ王国王女『リリアーナ・S・B・ハイリヒ』である。

 

「おいおい、マジかよ。なんで、こんなとこに…?」

 

 忍は香織と同じくらい驚いた様子で香織とリリアーナの様子を窺っていた。

 

「?」

 

 ただ、ハジメの反応は芳しくない。

 

「(あれ? この親友の反応…もしかして…)」

 

 嫌な予感がしつつもハジメの後を追う忍だった。そして、香織とリリアーナの元に気配もなく近寄った後…

 

「……南雲さんに、紅神さん、ですね? お久し振りです。雫達からあなた方の生存は聞いていました。あなた方の生き抜く強さに敬意を。本当に良かった」

 

「ハッハッハッ。まぁ、親友に比べたら大したことじゃないさ」

 

 忍も香織も普通に会話しているから知り合いかもしれん、という懸念もあったが、ハジメは率直な言葉を投げかけた。

 

「……誰だ、お前?」

 

「へっ?」

 

 その言葉にリリアーナと香織が固まり、"あちゃ~"と言った具合に忍は天を仰いだ。

 

「ボソリ(は、ハジメくん! 王女! 王女様だよ! ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ! 話したことあるでしょ!?)」

 

「? ………………………………………………………………あぁ」

 

 香織に小声で言われ、何となく思い出したような思い出さないような曖昧な声を漏らす。

 

「あぁ、やっぱり忘れてたか。まぁ、あんなことあった後じゃな」

 

「ていうか、お前はなんで覚えてんだよ?」

 

「俺は物覚えは良いからな」 

 

「その割に自分の彼女のこと忘れてたろ」

 

「ハッハッハッ、それを言われると耳が痛いぜ」

 

 化け物コンビの会話を尻目にリリアーナを香織が必死にフォローする。そんな微妙な雰囲気の中、ハジメ達の元にユエ達や隊商の人間がやってくる。

 

 その隊商の人間とは、以前ブルックの町で依頼を受け、フューレンまで護衛したユンケル商会のモットーだった。しかもハジメは一回しか会っていないモットーのことを『栄養ドリンクの人』と覚えていたため、リリアーナに更なる追い打ちをかけてしまっていたが…。

 

 それはそれとして、ユンケル商会に便乗してたった1人でここまでやってきたリリアーナの目的が気になるところである。ハジメがキナ臭さを感じながらも香織の無言の圧力で押し黙っていると、モットーとリリアーナがいくつか話をしてから、リリアーナをハジメ達に任せてモットー達隊商はホルアドへと続く街道を進んでいく。別れ際、モットーとハジメも軽く言葉を交わし、それぞれ情報を交換していた。

 

 そして、新たにリリアーナが加わった一行は、とりあえずリリアーナの話を聞くべくブリーゼに全員搭乗したのだが…

 

「流石に手狭だね~」

 

「うっせ、仕方ねぇだろ」

 

 元々いた9人に加えてリリアーナもブリーゼの中に入ったのだ。そりゃ狭いってもんだろ。しかし、別々に聞くなんて二度手間は避けたいので仕方なく、ぎゅうぎゅう詰め状態で話を聞くことになった。

 

「で、何があった?」

 

 狭い車内の中でハジメが切り出すと、緊張感と焦燥感が入り混じった表情のリリアーナが声を発する。

 

「愛子さんが……攫われました」

 

「「………………………」」

 

 予想以上に最悪な状況のようだ。

 

 リリアーナが話す内容は要約すると、こうだ。

 

 近頃、王宮内の空気がどこかおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。エリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒していき、時折熱に浮かされたかのように"エヒト様"を崇め、それに感化されたのように宰相や他の重鎮達も信仰心を強めていった。ただ、それだけであるなら各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されていることからも聖教教会との連携を強めた副作用なのだと、リリアーナは自分に言い聞かせていたようだ。

 

 だが、違和感はそれだけではなく、まるで生気がない騎士や兵士達が増えていったようだ。受け答えはしっかりしてるのに、まるで機械的な風に聞こえたらしい。そのことをメルド団長に相談しようにも捕まらなかったという。何故なら、姿が見えず、光輝達の訓練をして終わったらすぐに立ち去ってしまうからだとか。

 

 そして、極めつけはハジメと忍の異端者認定の即時決定だ。愛子がウルの町から戻り、その顛末を報告した後に強行採決に至った。その場にはリリアーナも同席してたようで、ウルの町や勇者一行の救出という功績、"豊穣の女神"である愛子の異議・意見もガン無視で決定してしまった。

 

 そのことにリリアーナは父親であるエリヒド国王に猛抗議したが、エリヒド国王の眼が正気とは思えず、その場凌ぎで理解した振りをしてその場を後にし、愛子と話したようだ。すると、愛子からハジメと忍から聞かされた神に関する話をするので、同席してほしいと頼まれていた。

 

 そして、夕食の時間になり、リリアーナも愛子達の元へと向かう途中でそれを目撃した。銀髪の修道女が愛子を攫うところを。身の危険を感じたリリアーナは近くの部屋の隠し通路へと逃げ込み、なんとかやり過ごすと、そのまま王宮を抜け出して今に至る。

 

「この出会いを、少し前なら"神のご加護"として受け入れられましたが…今はその教会が怖いのです。一体、何が起きているのでしょうか…?」

 

 話を終えて震えるリリアーナを香織がそっと抱き締める。

 

「ふむ。先手を打ったつもりが、逆に打ち返されたって感じか。どうするよ、親友?」

 

 リリアーナの話を聞き、十中八九自分達のせいだな、という考えがある忍はハジメに尋ねる。

 

「とりあえず、先生を助けに行かねぇとな」

 

 "今"の悪くないと思える生き方の道を示してくれた恩師を、ハジメは助けるべく行動することを選んだ。その言葉にリリアーナが期待半分驚き半分の表情でハジメを見る。

 

「勘違いしないでくれ。王国のためじゃない。先生のためだ。先生が攫われたのは、きっと俺達のせいだからな。放っておくわけにもいかねぇよ」

 

「愛子さんの…」

 

 その視線を受け、ハジメはあくまでも先生のためだと言っていたが…。

 

「ま、先生を助ける過程で、その異変の原因が立ちはだかるならぶっ飛ばすけどな」

 

「ハッハッハッ、違いない。あくまでも邪魔するのであれば、な」

 

「……ふふ。では、私はそうであることを期待しましょう。よろしくお願いしますね。南雲さん、紅神さん」

 

 リリアーナの言葉に軽く手を上げて答える化け物コンビは別のことを考えていた。

 

 愛子救出以外の目的。それは聖教教会の総本山たる『神山』にある神代魔法と覇王の宝玉だ。ミレディが教えてくれた大迷宮の一つがそこなのだから、ついでに襲撃でも何でもして神山の大迷宮を攻略してしまおうという魂胆もあった。どうせ、既に異端者認定を受けている身なのだ。今更、罪状が一つ増えたくらいでものともしない、という雰囲気でハジメと忍は口を歪める。

 

 それと、2人には共通して銀髪の女について心当たりがあるものの、確信はない。メルジーネ海底遺跡で見せられた過去映像の中に"銀"の髪を持つ者がいた。そいつらが同一人物かはわからないし、特定も不可能だろう。だが、2人には予感があった。きっと、そいつと殺し合うことになる、と。

 

 獰猛な笑みと熱く滾った闘志が全身から滲み出ていく2人の姿は、まるで野生の獣を思わせるに十分なものだった。

 

「……ハジメ、素敵」

 

「はぅ、ハジメさんがまたあの顔をしてますぅ~。なんだか、キュンキュンしますぅ~」

 

「むぅ、ご主人様よ。そんな凶悪な表情を見せられたら……濡れてしまうじゃろ?」

 

「あぅ…なんか久々に見た気がするけど…悪くない、わね…///」

 

「これが、忍殿の………あぁ、でもこれは…///」

 

「……………………覇王」

 

 その姿を見たユエ達とセレナ達はそれぞれの想い人に対して頬を染めていたが、何やら呟いていたが…。

 

 こうして一行は神山、及びハイリヒ王国へと進路を取るのだった。

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