もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十一話『神の使徒』

 夜。一行は、いくつかのグループに分かれて行動を開始した。

 

 まずハジメは単独で神山へと向かい、愛子の救出。次にリリアーナを筆頭にして香織、ユエ、シア、セレナ、シオン、ファルが隠し通路を使って王宮へと向かい、光輝達勇者パーティーを含めた異世界組との合流。ティオと忍は万一の事態に備え、王都のどこかでそれぞれ待機している。

 

 異世界組との合流に人員を割いているのは、リリアーナだけではなくセレナとファルの護衛も兼ねている。セレナはライセンを攻略した1人であるが、重力魔法は習得してないし、その能力値は亜人族特有のものだ。シア程超人化していないし、魔力も持っていないため、嗅覚による索敵くらいしか役に立たないが、無いよりはマシだし、最悪はシオンという竜人族もいるので大丈夫だろうと踏んでいる。ファルに関しては…ちょっと保留気味、というか役に立つのかわからないというのが本音だ。未だに吸血鬼族としての"血盟契約"もしてないし、魔力も少しあるが、魔法とかも特に修得していない。本当に忍に同行している程度なのだから。そして、シオンである。この中ではユエとシアを除けば、格段に強者である。竜化も出来るし、風属性魔法に関してはそれなりの使い手。そんな彼女が護衛をしているのだから滅多なことは起きないだろうが、何が起きるかわからない以上、警戒は必要だった。そのことをシオンも意識しているので、最後尾で常に周囲を警戒していた。

 

 とは言え、今は皆が寝静まった頃の時間帯だ。見張りの兵も動いているが、そこはシアとセレナの索敵で上手く回避している。ちなみにリリアーナが合流したい人物の筆頭は…雫だった。勇者である光輝との合流でなく、雫を選んだ辺りにリリアーナの評価もわかるというものだ。

 

 が、それは突然起きた。

 

ズドォオオオン!!

 

パキャァアアアン!!!

 

 突如として、砲撃でも受けたのかのような轟音が響き、次いでガラスが砕け散ったような破砕音が夜の王都に響き渡る。その衝撃に近くの窓もガタガタと震える。

 

「わわっ!? なんです、これ!?」

 

「これは…まさかっ!?」

 

 慌てて窓に近寄ったリリアーナが外の空を見上げる。それに付いて来た皆も窓に近寄り、空を見る。

 

「そんな……大結界が、砕かれた…?」

 

 信じられないようなものを見るかのように口元を手で押さえながらリリアーナが呟く。が、さらに轟音が響くと共にさらに空の色が明滅して軋みを上げたような音がする。

 

「第二結界まで……どうして…? こんなに脆くなっているなんて……これではすぐに…」

 

 『大結界』。それは外敵から王都を守る3枚で構成された巨大な魔法障壁のことで、三つのポイントに障壁を展開するアーティファクトがあって、定期的に宮廷魔法師が魔力を注ぐことで間断なく展開維持している王都の守りの要である。その強固さは折り紙付きで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた、戦争が拮抗している理由の一つだ。

 

 その絶対守護とでも言える結界が破られた。それだけでも大事だと言うのに、2枚目の結界も悲鳴を上げている。もはや、ただ事ではない。それを証明するかのように城内のあちこちから明かりが出始めた。

 

『こちら、ティオ。状況の説明が必要かの?』

 

『こちら、忍だ。こりゃあ、ちょいと面倒なことになってんぜ?』

 

 そこへハジメからユエに渡されていた念話石に王都で待機してたティオと忍から連絡が入る。

 

「ん……ティオ、シノブ、お願い」

 

『心得た。王都の南方1キロメートル程の位置に魔人族と魔物達の大軍じゃな。あの時の白竜もおるぞ?』

 

『こちらでもそれは確認してる。あのフリードって野郎の匂いはまだ確認出来てないがな。ともかく、こりゃ王都を奇襲された形になったな』

 

 そんなティオと忍の報告に…

 

「そんな、まさか本当に敵軍が? でも、一体どうやって…」

 

 リリアーナが困惑する中、ユエ達にはなんとなく察しがついていた。『グリューエン大火山』で入手した空間魔法だ。流石に大軍ともなると、ユエでもかなり厳しいが、何らかの補助があればもしかしたら可能かもしれないと…。

 

 そうこうしている内に再びガラスが砕け散る音が響き、第二結界も破壊されたのだとわかる。いよいよもって危険な状況になってきた。

 

「……ここで別れる。あなたは先に行って」

 

「なっ、ここで? 一体何を…?」

 

 ユエの言葉に驚くリリアーナを尻目に、ユエが窓から外に出ようとする。

 

「……白竜使いの魔人族はハジメを傷付けた。泣くまでボコる」

 

「お、怒ってますね、ユエさん…」

 

「シアは? もう忘れた?」

 

「まさか! 泣いて謝ってもボコり続けてやりますぅ~!」

 

 そこにシアも加わり、2人は揃って窓に足を掛ける。

 

「シオンさん、皆さんをお願いします。私とユエさんは調子に乗ってるトカゲとその飼い主を躾けてきます」

 

「……ん、シオン。皆を守ってあげて。邪魔するその他大勢がいたら潰す」

 

 どちらもシオンにこの面子の守りを任せ、後半過激なことを言って今にも飛び出しそうだった。

 

「はい。何があろうと守ってみせます。お嬢様のように、とはいきませんが…全力を尽くさせてもらいます」

 

 シオンの言葉にユエとシアが頷くと、そのまま窓から飛び出していった。

 

「……………………」

 

「ほら、ボサッとしてないで速く行きましょう。確か、あの女剣士のところよね? 匂いが移動してるから、多分この騒ぎに起きて移動してると思うわ」

 

 リリアーナが固まっているのを見てセレナがそう言う。

 

「あ、はい。南雲さん……愛されてますね」

 

「うん。狂的……ううん、強敵なんだ」

 

「香織、死なない程度に頑張ってくださいね。応援してますよ」

 

「ありがとう、リリィ」

 

 セレナに言われ、ハッとしたリリアーナも香織と少し会話する。

 

「では、セレナ。先導をお願いします」

 

「えぇ」

 

 そうして、セレナの先導で、異世界組が緊急時に集まる集合場所へと向かう。その先で悲劇が待っているとも知らずに…。

 

………

……

 

 一方、忍とティオはというと…

 

「(ティオさんは親友の所へ行ってくれ。流石の親友も先生を助けた直後じゃ色々とキツいだろ。首尾よく先生を助けられたとして、教会の連中が邪魔しないとも限らないし)」

 

『うむ。それはいいが、シノブはどうするのじゃ?』

 

「(なに、流石に虐殺を見過ごすほど、外道じゃないんでな。ちょっと大軍相手に喧嘩売ってくる)」

 

『ほっ、流石は化け物コンビの片割れじゃの。よかろう、妾はご主人様の元へ行こう』

 

「(よろしく~)」

 

 そのような会話を念話でしながらティオは神山へと、忍は南方に展開している魔人族と魔物の混成軍に向かった。ただ、その途中…

 

「あれ、ユエさんにシアさん?」

 

「……シノブ」

 

「シノブさんもあのトカゲ使いを絞めに来たんですか?」

 

「いや、怖いこと言うな。それよりアンタら、姫さん達はどうした?」

 

 時計塔の辺りでユエとシアと合流し、忍が眉を顰める。

 

「……それは些事。シオンもいるし、大丈夫」

 

「そうです。あの野郎を殺らないと気が済みません。シオンさんがいるし、大丈夫ですよ」

 

「いや、シオンに丸投げかい。ちょっと心配だが、こっちも厳しいしな…」

 

 忍が少し王宮組が心配になってきたので、そちらに向かうか、このまま大軍に喧嘩を売るかで少し迷っていると…

 

『クェエエエエエ!!!』

 

「あ?」

 

「ん?」

 

「はい?」

 

 そんな雄叫びを上げて3人に迫ってくる黒鷲の魔物がいたが…

 

「バレッテーゼ・フレア」

 

パチンッ!

 

 黒鷲を見もせずに忍が技名と指を鳴らすと同時に迫ってきた黒鷲が紅蓮の焔によって爆散する。黒鷲を爆砕したことで周囲に飛行型の魔物が旋回し始める。見れば、魔物の三分の一には魔人族が乗っているのも確認出来る。

 

「ま、しゃあないか。元々喧嘩売りに来たわけだし、少しは暴れますか」

 

 ギラリと瞳を輝かせると、忍は周囲一帯に紅蓮の焔を内包した球体を無数に配置する。

 

「紅蓮の(ほむら)に抱かれ、焼け落ちろ。バレッテーゼ・フレア・フルレンジ」

 

パチンッ!

 

チュドドドドドドドドドドン!!!

 

 忍が指を鳴らすと共に、その無数の球体が爆ぜ、内包していた紅蓮の焔が夜空一面に広がり、まるで昼間かと錯覚するかのような明るさが支配する。だが、それも一瞬のことで次の瞬間には魔物なり魔人族なりの肉片が周囲に降り注ぐが…

 

「ま、とりあえず初撃としてはこんなもんでしょ」

 

 忍がいい仕事したみたいな感じでいると…

 

「っ! ユエさん! シノブさん!」

 

「ん」

 

「ほいほい」

 

 シアが警戒を発し、全員が時計塔から飛び退いていた。その直後、何もない空間に楕円形の幕が出来、そこから特大の極光が迸り、時計塔の上部とその射線上にあった建物を吹き飛ばしていた。

 

「本命の登場かね?」

 

 忍が匂いを確かめていると…

 

「やはり、予知の類か。忌々しい…」

 

 聞き覚えのある声に忍達の視線が楕円形に注がれると、そこから白竜に乗った赤髪の魔人族、フリードが現れる。その表情は苛立ちに染まっている。どうにも今の不意打ちを回避されたことへのものだろうが…。

 

 白竜がゲートから完全に出てきたところで、黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で忍達を包囲する。次いで地上部隊なのだろうか、王都の外壁を突破していくつかの部隊がこちらに迫ってくる。ここでハジメの仲間たる忍、ユエ、シアを仕留めたいのだろう。

 

「まさか、あの状況で生還しているとは。そちらの男は黒竜から落ち、マグマに沈んだものとばかり思っていたが……特にあの男に垣間見たおぞましい程の生への執着は危険だ。貴様達が今こうして生きているのなら奴も生きているのだろうな…。ならば、まずは確実に奴の仲間である貴様らを仕留めさせてもらう」

 

「ハッ!」

 

 そんなフリードの言葉を鼻で笑った忍に続くようにユエとシアも不敵に返す。

 

「「「殺れるもんなら殺ってみな!(みて)(みてください!)」」」

 

 その言葉が開戦の合図だった。包囲していた魔人族から次々と魔法が放たれていき、さらには白竜から極光も放たれる。

 

「『界穿』」

 

「闇よ」

 

 数の暴力に対し、何の気負った様子もないユエがゲートを二重にして開き、忍もゲートに重ならないように周囲に闇を展開する。

 

「?」

 

 その行為に訝しげな表情をするフリード。あんな風にゲートを開いてもゲートを出た瞬間に直撃するだけだろうと思っていた。だが、それはフリード基準でしかない。相手は魔法チートのユエ。そんな愚策を弄するはずもない。

 

「しまっ!? 回避せよ!!」

 

 その意図に気付いたのはユエ、シア、忍がゲートに飛び込んだ直後にわかり、部下にも警告を発するが、時既に遅し。フリード達の"背後から"極光が襲い掛かり、部下たちが死に絶える。フリード自身は白竜と共に何とか回避していたが…。さらに言えば、魔人族達の魔法や利用した極光は忍の展開した闇に吸い込まれていき、王都への被害を最小限に留めていた。

 

「おのれ! 私に部下を殺させたな!! まさか、同時発動を可能にしていたとは……私はまだ見くびっていたのか!?」

 

 そのように瞳に憤怒を宿しながらも詠唱も陣も出した様子もなかったユエに対し、フリードは些かの畏怖を覚えていた。

 

「フリード様! あそこに!」

 

 部下の1人が外壁の外を指差す。そちらを向けば、忍、ユエ、シアがおり、ユエが右手をフリード達に向けると、指をクイクイッと曲げて挑発していた。

 

ブチッ!!

 

 その挑発にプライドの高い魔人族達はキレる。どの道、侵攻を優先すれば背後から忍達がその猛威を振るうだろうから、フリード達側も相手するしかないのだ。

 

 そうして魔人族が忍達に襲い掛かるが…

 

「マジック・バレット、雷鳴弾」

 

「でりゃああぁぁぁ!!!」

 

「『絶禍』」

 

前衛のシア、後衛のユエ、オールラウンダーの忍の即席連携の前に襲い掛かってきた魔人族の誰もが墜とされていく。

 

「くっ! 私の知らない神代魔法か。総員、聞け! 私は金髪の術師を殺る! 残りは兎人族を全力で殺れ!」

 

「男の方はどうするので?」

 

「遺憾ながら、『奴』に任せる! 行け!!」

 

『ハッ!!』

 

 そうして魔人族側の作戦が決まり、黒鷲に乗る魔人族が竜巻を纏ってシアに突撃し、他の魔人族も続く中、フリードはユエへと向かう。その際、手を大きく掲げていたが…。

 

「ユエさん! シアさん!」

 

 ユエとシアに魔人族がそれぞれ殺到する中、忍がどちらの救援に向かうか一瞬迷っていると…

 

「ッ?!」

 

 言い知れぬ寒気が忍を襲い、瞬間的にその場から神速と空力を用いて退避すると…

 

ゴオオォォォ!!!

 

 銀色の砲撃が忍がさっきまでいた場所に通過する。

 

「ちっ…何の匂いもしなかったぞ? 誰だ?」

 

 そう言って忍が夜空を見上げると、そこには…

 

「初めまして、もう1人のイレギュラー」

 

 白を基調としたドレス甲冑を身に纏い、額、腕、足に金属製の防具を着け、腰から両サイドに金属プレートを吊るした銀髪の女が突きを背にして佇んでいた。その姿はまるで地球の神話に出てくる戦乙女を彷彿とさせるが、どこか人形を思わせる雰囲気があった。

 

「イレギュラー、ねぇ。もう1人ってことは、他にもいるよな。親友のことかい?」

 

「えぇ、今は私の同胞がお相手しています」

 

「そうかい…(ティオさん向かわせといて正解だったな)」

 

 そんなことを考えながら忍は以前考えていたことを思い出す。

 

「(しかし、これであの話が現実味を帯びてきたな。おそらくは駒を見定めたりするためなんだろうな。両陣営に自分の駒を潜ませつつ、色々と報告や洗脳でもしてんだろうな…となると、早期決着が望ましいな。当然、殺すことが前提になるが…)」

 

 忍が思考していると、女は両腕のガントレットが輝き、そこから鍔のない白い2メートルくらいの大剣を2本出現させて両手で構え、背中から一対の翼を広げる。

 

「改めまして、神の使徒『サファリエル』と申します。主の盤上から不要な駒を排除させていただきます」

 

「ハッ」

 

 神の使徒と名乗った女…『サファリエル』が壮絶なプレッシャーを放つが、忍は鼻で笑い…

 

「覇王の前に沈めや。神の駒さんよ」

 

 銀狼と黒狼を抜いて一気に空を駆け上がる。

 

「(どんな能力があるか知らんが、ともかくやってみるか)」

 

 まず手始めに相手の手札を知るべく、忍は神速と空力の組み合わせで空を駆け、サファリエルの眼前へと姿を現し、銀狼を振るう。 それをサファリエルは双大剣の片割れに銀の魔力を纏わせて防ごうとする。

 

「ッ!!」

 

 しかし、忍は何か嫌な予感がしたので銀狼を振るう手を、左手の黒狼を逆手に持ち替えてその柄頭で右腕を弾いて無理矢理自制させ、その勢いのまま回転しながら後方に飛び退いていた。

 

「ふむ、攻撃したかったのでは?」

 

「……直感的にその魔力はマズいと思ってな。何かあるだろ?」

 

「さて、それはどうでしょうか?」

 

 無機質な瞳を向けられながらも忍は目を細めて警戒していた。銀狼と黒狼を鞘に戻すと、今度はアドバンスド・フューラーR/Lを抜く。

 

「(俺は親友ほど多彩な武器も持っちゃいねぇし、銃に関しても一歩先んじられてる。が、身体能力や技能で負けてるとは思ったことがない。確かに親友は歩く武器庫だが、俺には俺の、覇王の力がある。それらをフル活用すりゃ、何とかなるだろ)」

 

 深呼吸一つしながら忍はそのように結論付け…

 

「………………………」

 

 目の前の神の使徒に殺意を向ける。

 

「………………………」

 

 サファリエルもまた無機質な瞳を忍に向ける。

 

バッ!!!

 

 次の瞬間には2人の姿は掻き消えていた。

 

ドゴンッ!!

ズバァッ!!

 

 聞こえてくるのは銃撃と斬撃の音のみ。姿が見えず、音だけが周囲に響き渡る。

 

ギュインッ!!

 

 時折、何か…まるで削られるような音もするが、それを認識する頃には次の銃声と斬撃音が響く。

 

「(心臓部は人と同じか。つか、魔力が全然減ってねぇな…)」

 

 心眼を用いてサファリエルの弱点、というよりも急所を見抜きつつもサファリエルから感じる魔力が変動してないことにも気付く。

 

「(やっぱ、持久戦に持ち込まれると不利か。とは言えど、弾がいくつか"分解"されてたしな。それがあの悪寒の正体と見ていいが…さてはて、どうしたもんか)」

 

 忍はオールラウンダーだが、それでもどちらかと言えばインファイターの質が強い。故に決め技も近接戦に比重を置いたものが多い。まぁ、中・遠距離用の技もなくはないが、決定打に欠ける部分があると自己分析している。

 

 そんな風に思考を巡らせる合間も神速と空力を用いた超高速移動を行っていた。幸い、と言っていいのか、サファリエルは忍の神速に対応出来ていないように見える。その証拠にサファリエルの斬撃は空を斬っているのだから。

 

「(だが、親友の所にも他の使徒が行っているような口振りだったしな。それにシオンがいるとは言え、姫さん達のとこも心配だしな…………よし、俺は目の前のこいつを殺って、王宮に行ってみるか)」

 

 そう決めると、忍は…

 

「ヴァリアブル・バレット!」

 

 サファリエルにではなく、明後日の方向に銃弾を撒き散らす。

 

「もう手札が尽きましたか?」

 

「さ~て、そいつはどうかな?」

 

 サファリエルが忍に無機質な視線を送るが、忍はどこ吹く風という感じに流す。

 

 すると…

 

シュッ!!

 

「?」

 

 サファリエルの頬に何かが掠るが、それは決して一つにあらず…

 

キキキキキキキキンッ!!

 

「っ!?」

 

 けたたましい音を響かせ、サファリエルの周囲の空間を包囲する、その正体は…

 

「跳弾による包囲網だ。ついでに結界で覆わせてもらった」

 

 獄帝の監獄による結界と、その中で跳弾させ続けている合計24発の弾丸である。跳弾させ続けている、というのは比喩だ。実際は結界内に閉じ込めた時点でランダム性の高い跳弾が中にいるサファリエルをあらゆる地点から襲い掛かる仕様だ。しかも結界内には金剛の集中強化で補強しているのでレールガン仕様の弾丸にも耐えられる。

 

「くっ…!?」

 

 前後上下左右と死角、あらゆる地点に跳弾して襲い掛かる弾丸をサファリエルは翼で自身を包み込むが如き防御態勢で凌ぐ。

 

 それを見て忍は次の仕込みに移ろうとするも…

 

ゴオオォォォ!!

 

 サファリエルを中心に銀色の光が爆発する。

 

「ちっ、やっぱそう上手くはいかんか」

 

 舌打ちしながらも神速で後退しようとするが…

 

「逃がしませんよ」

 

 体に銀色の魔力を纏い、威圧感すらも跳ね上がったサファリエルは忍の神速に追いつく。

 

「なっ!?」

 

 そのことに驚きながらも咄嗟に金剛の集中強化を発動し、アドバンスド・フューラーR/Lの表面にコーティングすると、振り下ろされた双大剣を受け流す。

 

「(限界突破、か? このままじゃマジでジリ貧になる!)」

 

 弾丸を装填するのも時間が惜しいと感じ、アドバンスド・フューラーをホルスターに収めると…

 

「(仕方ねぇ。使ってみるか…)」

 

 忍は新たに得た覇王『真祖』の力を試すついでに把握することにした。

 

「ふんっ!!」

 

 忍もまた限界突破を発動し、『怪力』及び金剛の集中強化を拳に施すと、空力で空を蹴ってサファリエルへと殴り掛かる。

 

「万策尽きましたか。その程度の拳で何ができ…"ビキッ!!"…っ!?」

 

 忍の無謀な特攻を双大剣の片割れで防ぐが、忍の拳が入った瞬間、その大剣に罅が入り、サファリエルの眼が大きく見開かれる。

 

「そんな野蛮な戦法で、私の剣を…!」

 

「ハッ! 野蛮で結構! どんな手を使おうが、勝ちゃいいんだからな!!」

 

 そう言いながらサファリエルはもう片方の大剣で、忍の真横から斬りかかる。

 

「ふんぬっ!!」

 

 それを左腕と金剛で防ぐも、いくばくか大剣の刃が腕に沈み、血を流す。

 

「ッ!!」

 

 しかし、そんなことは構わないとばかりに右拳に衝撃変換も加味させて大剣を折りに掛かる。

 

「くっ、調子に…っ!?」

 

 左腕に食い込んだ大剣が超速再生によって縫い留められてり、抜けなくなっていた。しかも血は流れ続けていて大剣の刀身を伝ってサファリエルの右手を汚す。

 

「この、いい加減に…!!」

 

 いよいよ苛立ってきたのか、サファリエルの表情が無機質でなくなってきた。

 

「ハッ! 随分と人間らしい表情になったな?」

 

「黙りなさい!!」

 

 そう言いながらサファリエルは大剣を抜くのをやめて、左腕を切断するように力を込める。

 

「(やるなら、今か?)鮮血のブラッディ・フィアー!!」

 

「? 何を言って…」

 

 忍が技名を叫ぶと、突如としてサファリエルの右手を汚していた忍の"血"が蠢き、小さな槍状となって至近距離からサファリエルの肉体を射抜く。

 

「がぁあ!?!?」

 

「(勝機はここか!!)」

 

 サファリエルの体が大きく揺らいだのを見て、忍は左腕を犠牲にしてさらに一歩前に出ていき、右拳をサファリエルの心臓の位置へと押し当て…

 

「『猛牙撃墜衝(もうがげきついしょう)終焔(しゅうえん)』ッ!!!!」

 

 紅蓮の焔を纏わせ、ありったけの魔力を込めた一撃を押し込んでいた。

 

「-----ッ!?!!??!」

 

 サファリエルの心臓部を貫き、忍の右腕がサファリエルの肉体を貫通する。サファリエルの瞳から光が失われていき、それと同時に肉体が紅蓮の業火に焼かれていく。

 

「--------」

 

「………………………」

 

 サファリエルが完全に沈黙したのを確認し、右腕を引っこ抜くとサファリエルだったモノが地に落ち、忍も地上に降りる。そして、大剣の刀身に変な風にくっついてる左腕を回収し、元の腕にくっつける。

 

「完全に化け物の行動やん。痛覚遮断とかないから滅茶苦茶痛いし!!」

 

 自分の行動にセルフツッコミを入れつつも、落ちたサファリエルだったモノを尻目に王宮へと向かおうとした時…

 

ズドォオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!

 

 神山から物凄い爆発音が響き渡り、見ればキノコ雲が発生していた。

 

「……………………親友。お前、何やったん?」

 

 神山にいるだろうハジメに向かい、そのようなことを呟いていた。

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