もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十二話『裏切りの爪痕と、王都での話し合い』

 神山での大爆発を見た忍は…

 

「ともかく、王宮に向かうか。なんだかんだでユエさんとシアさんからも離されちまったし…」

 

 大爆発のことは後でハジメに尋ねることにして王宮方面へと駆け出していた。

 

「なんだろうな…妙な胸騒ぎと嫌な予感がするぜ…」

 

 左腕の感触を確かめながら神速で駆け出す。

 

………

……

 

 時は少し巻き戻る。

 

 異世界組との合流のために集合場所へと向かっていたリリアーナ達は…

 

「…………この先なのよね?」

 

 訝しげそうにセレナが尋ねる。

 

「はい。緊急時はこの先に集合する手筈になっています」

 

「……………………」

 

 それを聞いてセレナが押し黙る。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、何か…この先から"死臭"がするのよ。1人じゃなくて、大勢の…」

 

 シオンがそんなセレナに尋ねると、セレナがそう返していた。

 

「し、"死臭"?」

 

「死んだ、臭い…?」

 

 それを聞き、リリアーナと香織の顔が青ざめていき…

 

「もしかして、雫ちゃん達の身に何か!?」

 

「あ、香織!? 待ってください!」

 

 そう言って香織が先行し、リリアーナもそれを追う。

 

「ちょっ、待ちなさいよ!」

 

「セレナとファルは到着したらすぐに物陰に隠れててください」

 

「…………………わかったわ」

 

 そうしてシオンを先頭に香織とリリアーナを追い掛けた先で見たのは…

 

「香織ぃぃいいい!!」

 

 雫の悲痛な叫び声と、檜山 大介に背後から剣で胸を貫かれた香織の姿があった。

 

「「「っ!?」」」

 

 その光景にセレナ達も固まってしまう。

 

「ッ!! お前らぁぁぁ!!!」

 

 さらに騎士達に拘束されている光輝が何やら怒髪天を衝くような怒りの絶叫を上げていた。

 

「-----ここ、に……せいぼ、は……ほほ、えむ……『せい、てん』…」 

 

 だが、香織は大介に刺されているというのに、回復魔法を実行してみせた。回復の波紋は広場に広がり、香織にも効果を発揮したが、大介が半狂乱の状態で傷を抉るので完治はしなかった。しかも香織が受けたのは致命傷。死が…やってこようとしていた。

 

「貴様ら!! そこを退け!!!」

 

 その香織の姿に感銘でも受けたのか、シオンが咆哮を上げて騎士達を吹き飛ばす。その瞳は竜のモノへと変化しており、威圧感が半端ない。

 

「わっぷ、なに、この感じ?」

 

 シオンの威圧感に『中村 恵里』が微妙な表情をする。

 

「私がいながら…彼女達を先行させた挙句、死を迎えさせるなど…!!」

 

 そして、シオンはわなわなと震えながら、ゆらゆらと歩き出す。

 

「お嬢様…申し訳ありません。シオンは……自分が許せそうにありません…!!!」

 

 "守る"と言いながら守れなかったことへの責任と、自分自身への怒りと苛立ちを、感情のまま解放させようとした時だ。

 

「……一体、何がどうなってやがる?」

 

「……これは…!?」

 

 それぞれ神の使徒を倒してきたハジメと忍…化け物コンビが登場したのだ。

 

「………………………」

 

 一瞬、目を細めたハジメだったが…

 

ドガァアアンッ!!

 

 一瞬で消えたかと思えば、大介を吹き飛ばして香織の容態を診ていた。

 

「ティオ!」

 

「っ、わかったのじゃ!」

 

「し、白崎さん!」

 

 ハジメがティオに香織を託すと、周囲の騎士達を睥睨した。あと、ついでに愛子の救出もしっかり出来ているようだった。そして、ティオはシオンに少し心配そうな眼差しを向けるが、それよりも香織を優先したようで何やら詠唱を開始する。

 

「アハハ、無駄だよ。もう既に死んじゃってるしぃ。まさか、君達がここに来てるなんて……いや、香織が来てる時点で気付くべきだったかな? でも、まぁ…うん。檜山はもうダメみたいだし、南雲にあげるよ? 僕と敵対しないなら、魔法で香織を生き返らせてあげる。まぁ、疑似的に、だけどね。ずっと綺麗なままだし、腐るよりいいよね? ね?」

 

「中村…お前、何を言って…」

 

 恵里の言葉に忍がハジメの様子を気にしつつも意味が分からないという言葉を漏らす。

 

「紅神は黙ってなよ。僕は今、南雲に話してるんだからさぁ」

 

「(こいつ、こんな奴だったか?)」

 

 記憶にある『中村 恵里』という人物と今目の前にいる人物が重ならないのか、忍が周囲の匂いを改めて確認する。

 

「来る途中からわかってたが…やっぱり、死臭が濃い。まさかと思うが、お前…」

 

 恵里の天職を思い出しながら忍が最悪の図式を考えていると…

 

「忍。そんなことはどうだっていい」

 

「親友…」

 

 圧倒的な殺意を撒き散らしながら、ハジメが恵理に向かって歩いていく。

 

「わかっていることは、こいつが"敵"ってことだけだ」

 

「ま、待て。待つんだ、南雲。ほら、周りの人達を見て? 生きているのと変わらないと思わない? 死んでしまったものは仕方ないんだし、せめて彼等のようにしたいと思うよね? しかも、香織を好きなように出来るんだよ? それには僕が必要で…」

 

「………………………」

 

 後退りながら必死に言い募る恵里に対し、無言のハジメ。

 

「(ありゃガチでキレてるな…)」

 

 それを見て忍はハジメがキレてることを察する。

 

 そんなハジメの背後に『近藤 礼一』が迫る。礼一は既に恵理によって他の騎士と同様、傀儡となっているのでもう死している訳だが、ついさっき来たばかりのハジメ達にはそれがわからない。が、ハジメの答えは一つ。

 

ドグシャ!!

 

 『敵対する者は殺す』。それは死して操られている者も例外ではなく、礼一の攻撃を金剛で防ぎながら義手の左肘を礼一の頭部に向け、ショットガンを発射したのだ。見るも無残な肉塊となり、地に伏せる。

 

「っ!? や、殺れ!!」

 

 その光景に恵里は他の騎士とメルド団長を差し向ける。が…

 

「………………………」

 

 ハジメは無言のままメツィライを取り出すと、それを構えた。

 

「みんな! 伏せなさい!!」

 

 雫の絶叫に龍太郎や重吾などが立ち尽くしているクラスメイト達に覆い被さるようにして引きずり倒す。忍は巫女達の元へと移動し、シオンを抱き寄せて結界を何重にも張る。

 

 直後…

 

ドゥルルルルル!!!

 

 メツィライの咆哮が轟き、メルド団長を含めた傀儡騎士達を原形を留めないほどの肉塊へと変えていく。

 

 やがて、メツィライの咆哮が止むと、ハジメは再び恵里の元へと歩み、伏せている恵里の眼前に立って一言告げた。

 

「で?」

 

 それはすなわち『お前如きに何が出来るんだ?』という問いに他ならなかった。

 

「っ…」

 

 それを理解した恵里はギリッと歯を食いしばり、唇の端から血を流す。そして、感情のままハジメに呪詛の言葉でも言ってやろうとした時には、ハジメの方が早くドンナーの銃口を恵里の額に押し付けていた。

 

「……テメェの気持ちだの動機だの、そんなくだらないことを聞いてやる気はないんだよ。他にもう何もないのなら……死ね」

 

 ハジメが恵里を睥睨したまま引き金に指を掛ける。が、その瞬間、ハジメに向かって白熱化した火炎弾が飛来する。

 

「親友!」

 

 忍が飛び出そうとするのをハジメは視線で制した。そして、ドンナーで火炎弾の核を撃ち抜いて無力化した。

 

「なぁぐぅもぉおおお!!!」

 

 霧散した火炎弾の向こうから大介が、醜い形相でハジメに向かってきた。

 

「うるせぇよ」

 

ドゴンッ!!

 

 向かってきた大介にヤクザキックをかまし、その衝撃で宙に浮かす。そこからさらに踵落としを決めると、バウンドした大介の首を掴んで宙吊りにする。そこで大介は何かハジメに言っていたが、それを意に介することなく、ハジメは何かに気付く。それは忍も匂いでわかっており、ハジメが何をするのか何となく察した。

 

 そして、ハジメは…大介にもう一、二撃与えると、魔物が群がってきたところへと吹っ飛ばす。そこで大介がどうなろうと知ったことではない。これは復讐。奈落へ叩き落とされたことに対してのではない。香織を傷つけたことへの、だ。それをハジメ自身が自覚しているかはともかくとして…。

 

「(ある意味、良い傾向…と言っていいんだか、どうなんだか…)」

 

 忍はそんなハジメの心情を察してか、そのようなことを考えていた。

 

 その直後…

 

ズドォオオオオオオオオ!!!

 

「ちっ…」

 

 またも奇襲の極光が降り注ぎ、それをハジメは舌打ち気味に回避する。

 

「おい、忍!」

 

「悪ぃ。死臭やら血の匂いが強くて索敵が遅れた。つか、半分は親友のせいだかんな?」

 

 忍がそのようにハジメに返していると…

 

「……そこまでだ。白髪の少年と、神速の少年よ。大切な同胞と王都の民達をこれ以上失いたくなければ大人しくしていることだ」

 

 何やら半分くらい負傷しているフリードが白竜に騎乗したまま降りてきた。

 

「お~お~、ユエさんに手酷くやられてんなぁ~」

 

「あ? どういうことだ? そういや、ユエとシアがいないのはそのせいか?」

 

「ハッハッハッ、それは後で説明するわ」

 

 化け物コンビの平常運転を受け、フリードは眉をピクピクさせていた。その間にも魔物達が周囲を取り囲んでおり、異世界組やティオ達を狙っているようだ。

 

 と、その時…

 

「ご主人様よ! どうにか固定は出来たのじゃ! しかし、これ以上は……ユエの助力が必要じゃ。半端な固定では、いずれ…」

 

 ティオの言葉を受け、ハジメも頭だけ振り返って力強く頷く。それを聞き、異世界組は首を傾げていたが、忍やフリードといった神代魔法の使い手達は察した。

 

「ほぉ? 新たな神代魔法か。もしや、『神山』の? ならば、場所を教えるがいい。逆らえば、きさ…『ドパンッ!!』…ッ!?」

 

 どうにも人質を取って気が大きくなったような態度のフリードに向けて問答無用でドンナーを発砲する。咄嗟のことだったが、亀型魔物の結界で弾は半ばで止まり、その行動にフリードは眼を険しくして包囲網を狭める。

 

「どういうつもりだ? 同胞の命が惜しくはないのか? お前達が抵抗すればするほどに王都の民は傷付いていくのだぞ? それとも、それが理解できない程に愚かなのか? 外壁の外には10万もの魔物。そして、ゲートの向こう側にも100万もの魔物が控えている。お前達がいくら強かろうとこの物量の前には…」

 

 フリードが何か宣っているが、ハジメがフリードから視線を外して宝物庫から拳大の感応石を取り出して操作し始める。それに嫌な予感を覚えたフリードは白竜に命じて極光を放とうとするが…。

 

「親友の邪魔はさせんぜ?」

 

 そう言いながら忍がさっき複製しておいた極光を放って白竜の横っ腹に直撃させる。

 

『クルァアア!!?』

 

「くっ…」

 

 フリードと白竜がよろめくと共に、それは起きた。

 

 夜天の空から降り注ぐ断罪の光。

 

 とでも表現するかのような膨大な光が王都外壁の外にいた10万もの魔物や魔人族を皆平等に一瞬で蒸発させていき、凄絶な衝撃と熱波を周囲に撒き散らす。

 

「--------」

 

 その様子にフリードは絶句する。

 

「愚かなのはお前だ、ド阿呆。俺がいつ、どこで、王国やらこいつらの味方だと言ったよ? テメェの物差しで勝手にカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したけりゃ、勝手にしてろ。但し、俺等の邪魔をするなら、今みたいに全てを消し飛ばす。まぁ、100万もいちいち相手しれられねぇし、やらなきゃならないこともあるからな。今回だけは見逃してやる。さっさと残りを引き連れて失せろ。お前の地位なら出来るだろ?」

 

「まぁ、確かにこっちはこっちでやること多いし? 構ってやれるほど暇でもないか。ほら、さっさと撤退でも何でもしてくれよ。それとも、ここでその100万って魔物も失うかい?」

 

 不遜な態度で見逃されるという事態にフリードの眼は明らかな憎悪と憤怒が宿っていたが、ここで退かねばまたさっきの攻撃が来ると思ったのか…。

 

「(ギリッ!)…この借りは必ず返す! 貴様達だけは、我が神の名に懸けて、必ず滅ぼす!!」

 

 そう言ってからフリードは恵里に視線を向け、恵理もそれに従い、白竜へと乗る。だが、恵里の眼は妄執と狂気に彩られていた。そうしてフリードと恵里を乗せた白竜はゲートの奥へと消え去った。

 

 また、それと入れ違うように…

 

「……ハジメ。あいつは?」

 

「ハジメさん! あいつはどこです?」

 

 ユエとシアがやってきた。しかしながらそんな些事に費やす時間などないとばかりに香織が死んだことを伝えた。2人共、最初は動揺していたが、ハジメの確固たる眼を見て何か解決策があるのだと理解し、気持ちを持ち直す。そして、ユエ達が香織の元へ行くのを見て雫がハジメに声を掛ける。その様子は折れかける一歩手前といったところだ。ハジメが雫を説得し、神水を渡したのを見て忍達もハジメ達を追う。

 

………

……

 

 それから5日が経った。様々なこと(恵里による王国重鎮の殺害や聖教教会からの音沙汰なし、大規模転移陣の発見と破壊、大介の遺体発見など)が判明しつつも、王都の復興作業は続いていく。異世界組も療養もあったが、動ける者は復興作業を手伝っていた。しかし、それでも恵里の裏切りや大介と礼一の死が重なり、全体的な空気は重かった。

 

そんな中、王国騎士団の再編成のために練兵場にて各隊の隊長格選抜を行っており、光輝や雫といった面子も模擬戦の相手をしていた。動いていた方が色々と気が紛れるのだろう。

 

 そんな時だった。空から黒い点が降ってきたのは…。

 

ズドォオンッ!!

 

 まるで墜落でもしたかのような着地を決め、砂埃がもうもうと舞う中、練兵場の中央に降ってきた影がハッキリ見えてきた。その影は…ハジメ、ユエ、シア、ティオ、セレナを抱えた忍、ファルを抱えたシオンだった。

 

「南雲君!」

 

 それを見て真っ先に駆け寄ったのは雫だ。

 

「よぉ、八重樫。ちゃんと生きてるな」

 

「南雲君。香織は? どうして、香織がいないの?」

 

「あ~、それだけどな。もうすぐ来るぞ? ただまぁ…見た目が少~し変わってるが、気にしないでくれ。いや、気にしてもいいが、断じて俺のせいじゃない。それだけは言っておく」

 

「え? ちょっと待って。なに? それはどういうことなのかしら? 物凄く不安なのだけれど……紅神君。説明して」

 

 ハジメの曖昧な言葉に雫の視線が事情を知ってそうな忍を射抜く。

 

「そこで俺に振るの!? いやぁ~、何と言いますか。白崎さんって、その…結構頑固者なんだね?」

 

「それはよく知ってるけど…どういうことなのか、もっと具体的に…」

 

 それにギョッとしながら忍もまた曖昧な答えを言い、雫がいよいよハジメの贈った黒刀に手を掛けようとした時…。

 

「きゃああああ!!? ハジメく~ん! 受け止めてぇぇぇ!?」

 

 新たに落下する物体が現れる。その物体は全体的に"銀"であり、ハジメに向かって落下していた。しかし、そこは鬼畜なハジメさん。落下してきた人物を受け止める素振りすら見せず、ひょいっと避けてしまう。

 

「え?」

 

 その人物は目を丸くしながら地面に激突し、新たな砂埃を発生させる。その砂埃が消えると、そこには銀髪碧眼の美女がいた。それは忍と戦ったサファリエルと瓜二つのような、芸術品のよな美貌を持った美女だった。その姿を見た愛子とリリアーナが警戒の声を上げる。

 

「なっ、何故あなたが…!?」

 

「皆さん、離れてください! 彼女が愛子さんを誘拐し、恵里に手を貸していた危険人物です!」

 

 その言葉にハジメ達一行以外の異世界組や騎士達が殺気立って女を警戒する。

 

「ま、待って待って! 雫ちゃん! 私、私だよ!」

 

「?」

 

 女の気安い態度に訝しげな表情を見せる雫。

 

「どっかの詐欺師みたいだな…」

 

「親友、それは言わぬが花だろうよ?」

 

 女は後ろのハジメを"キッ!"と睨むが、ハジメはすぐさまそっぽを向く。そんな様子に忍はやれやれといった風に肩を竦める。一方の雫は、目の前の女の何気ない動作に己の親友を幻視していた。

 

「……香織…?」

 

 居合いの構えをしていた雫だが、疑問を抱きながらも目の前の女をそう呼ぶ。その言葉に女は怜悧な顔を"パァ!"と輝かせて頷いていた。

 

「うん! そうだよ、香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎 香織。見た目は変わったけど、ちゃんと生きてるよ!」

 

「……か、おり…香織ぃ!」

 

 それがわかった途端、雫が女…香織に抱き着いて大泣きするという一幕があった。

 

 

 

 その後、散々泣いた雫を含めた異世界組(生き残っているクラスメイト全員と愛子)とリリアーナ、ハジメ達一行は場所を変えて話し合うこととなった。場所は普段光輝達が食事処として使用している大部屋だ。

 

「それで、一体これはどういうことなの?」

 

 公然と泣いたことへの羞恥を隠したいのか、雫が顔を背けてハジメに尋ねる。

 

「そうだな。端的に言えば、魔法で香織の魂魄を保護し、俺と戦った『ノイント』っつう『神の使徒』とかいう人形の残骸を修復して香織の魂を定着させたんだよ」

 

「ハッハッハッ、親友。説明する気ねぇな」

 

「………………………」

 

 ハジメの説明になってない説明と、笑う忍に雫がジト目を向ける。まぁ、他にも呆れたような微妙な視線もちらほらあるが、気にしてたらキリがないので無視してる。

 

「えっとね、雫ちゃん。私達が使ってる魔法が神代と呼ばれる時代の魔法の劣化版だってことは知ってるよね?」

 

 見兼ねた香織が雫にそう切り出すと…

 

「えぇ、この世界の歴史なら少し勉強したもの。この世界の創世神話に出て来たものでしょ? 今の属性魔法とは異なって、もっと根本的な理に作用す……待って? もしかして、そういうこと? 南雲君達はその神代魔法を持っていて、それは人の魂に干渉できる力なの? だから、死んだはずの香織の魂を保護して、別の体に定着させたのね?」

 

「そう! 流石は雫ちゃんだね!」

 

 なんと、すぐに正解に行き着いてしまった。

 

「わぉ、凄ぇ理解力」

 

「そうだな…」

 

 雫の頭の回転の速さに素直に感心するハジメと驚く忍だった。それから雫は香織の元の体についても聞いたが、それは香織から直に説明していた。曰く『ハジメの隣に立つなら、人の身を捨ててでも強くなりたい』と…だからこそ元の体に戻らず、神の使徒の体に定着したのだと。それを聞いたハジメ達も困惑して説得も試みたが、香織は頑固として譲らなかったのだ。

 

「……なるほどね。はぁ…香織、あなたって昔から突拍子もないことをしでかすことがあったけど、今回は群を抜いてるわね」

 

「えへへ、心配かけてごめんね。雫ちゃん」

 

「……いいわよ。生きていてくれただけでも…」

 

 雫の表情は心底安堵したものだったが、すぐさま真剣な表情に切り替えると深々とハジメ達に頭を下げていた。

 

「南雲君、ユエさん、シアさん、ティオさん、紅神君、セレナさん、シオンさん、ファルさん。私の親友を救ってくれてありがとうございました。借りが増える一方で、返せる当てもないけれど……この恩は一生忘れない。私にできることがあるなら、何でも言ってちょうだい。全力で応えてみせるから」

 

「……相変わらず律儀な奴だな。気にするなよ。俺達は俺達の仲間を救っただけに過ぎないからな」

 

 手をひらひらさせながら軽く答えるハジメに、雫は少し唇を尖らせる。

 

「……その割には、私のことも気遣ってくれたし、光輝のために秘薬もくれたわよね?」

 

「ハッハッハッ、俺の親友は照れ屋だからな。素直になれねぇんだよ」

 

「誰が照れ屋だ、誰が……どこかの先生曰く『寂しい生き方』をするなと言われただけだ。それを守ったに過ぎねぇよ」

 

「! 南雲君…」

 

 ここまでハジメ達と雫の話を黙って聞いていた愛子が感無量といった表情且つ潤んだ瞳でハジメを見つめる。が、その見つめ方は妙に熱っぽい。他の生徒達は誤魔化せても、ユエ達と雫には見抜かれている。その様子を見てた香織も驚いてユエ達と雫を見る。ユエ達側は鋭い視線で頷き、雫は目を逸らして天を仰いだ。

 

「(親友も罪な男になってまぁ…)ハッハッハッ。そういや、どうして愛ちゃん先生は誘拐なんぞされたんだ?」

 

 この妙な雰囲気の中、忍が軽快な笑いと共に話題を転換する。

 

「そういえば、あの日…何か話があるとか言ってましたよね?」

 

「あ、はい。実は、南雲君や紅神君から聞いたのですが…」

 

「2人から…?」

 

「(あれ、藪蛇だった?)」

 

 話題転換には成功したものの、忍は"失敗したか?"と思い直したが、今更感や"いずれは知ることだし、まいっか"と半ば傍観者気取りで愛子の語る、というかハジメと一緒に教えた狂った神に関する話に耳を傾けた。

 

 愛子が話し終わった後…。

 

「なんだよ、それ。じゃあ、何か? 俺達は神様の掌の上で踊らされていたっていうのか? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!? オルクスで再会した時に伝えることも出来ただろう!?」

 

 真っ先に声を荒げたの光輝だった。その眼は2人を批難するようなものだった。

 

「「………………………」」

 

 ある意味、ハジメと忍にとっては予想通りの反応に黙秘を貫く。見向きもしない2人の態度に、光輝が"ガタッ!"と音を立てて椅子から立ち上がり、吠える。

 

「何とか言ったらどうなんだ!! お前達が、もっと早く教えてくれていれば…!!!」

 

「ちょっと、光輝!」

 

 諫める雫の言葉も聞かず、さらに何かを言い募ろうとした時だ。

 

「仮に言ってたとして、だ。ヒーロー、お前に何が出来た?」

 

 まるで光輝には何も出来ないような言い草に視線が忍に集中する。

 

「なんだと…?」

 

「なぁ、ヒーロー。俺、オルクスで再会した時に言ったよな? お前が安請け合いした戦争参加で、俺達も人殺しの片棒を担ぐことになったんだって…それから、何か行動でも起こしたのかよ?」

 

「そ、それは…」

 

「なんだ。結局は言われるがままに『勇者』でもしてたのか? そんなんだから言う必要性が見つからないんだよ。第一、俺達があの時、この話をしてお前さんは信じたのかい? 他の連中にしてもそうだ。この話を俺達から聞いて、信じたか?」

 

 その問いに大多数の生徒達が目を逸らした。つまりはそういうことだ。恐らくは気が触れたとか、そんな感じで誰も信じなかっただろう。だからこそ、愛子には話していたのだが…。

 

「だ、だけど…何度もきちんと説明してくれれば…」

 

「説得する時間が惜しい」

 

「アホか。誰がそんなことに時間を費やすか。それだったらとっとと迷宮探索に行った方がいい。まさかとは思うが、クラスメイトだから協力するのは当たり前、とかほざくなよ?」

 

「そもそも、俺はクラスメイトじゃないしな」

 

 光輝の言葉にハジメと忍は永久凍土のような視線を向ける。それに一瞬怯んだものの、光輝は未だに厳しい視線を2人に向けている。

 

「でも、これから一緒に神と戦うのなら…」

 

「はぁ?」

 

「人の話、聞いてたか? 向こうから来るなら当然殺すが、こっちから探し回すなんて論外だ。俺達は大迷宮を探索して、日本に帰る」

 

 "こいつ、何言ってんだ?"的な視線を向けながら話すハジメと、それに相槌を打つ忍を見て光輝の目が見開く。

 

「なっ、まさか!? この世界の人達がどうなってもいいっていうのか!? 神をどうにかしないと、これからも人々は弄び続けられるんだぞ!? それでもいいのか!?」

 

「顔も知らない誰かのために振るえる力は持ち合わせちゃいないな…」

 

「右に同じく。そういうことはヒーローの仕事だろ?」

 

「なんで…なんでだよ! お前達は俺よりも強いじゃないか! それだけの力があるのなら、何だって出来るだろ!? 力があるなら…正しいことのために使うべきじゃないのか!!」

 

 あまりにもハジメと忍が無関心なのに腹を立てて光輝が吠える。確かに、光輝の言葉は正義感溢れる素晴らしいものに聞こえる。が、そんな"軽い言葉"では、ハジメにも忍にも届かない。だからこそ、忍は許せなかった。

 

「黙れよ…」

 

 忍がそう発したと同時に部屋中に怒気を含んだ覇気が撒き散らされる。

 

『ッ!?』

 

 その場にいたハジメ達を除く全員が息を呑み、気絶しない程度の覇気を発しながら忍が言葉を紡ぐ。

 

「テメェらに指図される謂われはない。そもそも無能だのと言って親友を馬鹿にし、助けもしなかっただろ? 俺の目が届かなった時に誰か親友を助けようとしたのか? ヒーロー。親友を仲間だと囀るのなら何故手を差し伸べなかった? 無能だからか? それとも別の理由でもあったか? まぁ、親友がお前の手を取るとも限らないがな。でもな、オルクス初挑戦の時、親友は皆のために撤退を推奨し、ベヒモスにも1人で勇敢にも立ち向かったんだ。だが、それは起きた。檜山による親友の殺害未遂。あの時、俺は奈落に落ちる中で確かに見た。檜山が薄ら笑いを浮かべているのをな。それを事故で片付けたのは? 教会か? それとも仲間内の空気か? まぁ、どちらにせよ、俺達が死んだっていう事実が残ったわけだ。実際は生きてたわけだが…その間に俺達がどれだけ苦しんだと思ってる? 特に親友の味わった苦しみなんてな…」

 

「忍。もういい。お前が怒ってくれるのは嬉しいが、そこまでだ。言ったところでもうどうしようもない」

 

 ヒートアップしてきた忍の肩をハジメが掴んで制止させる。忍の方も少し熱くなり過ぎたか、と反省して覇気を収める。

 

「天之河。お前は"力があるなら"と言ったが、俺の考えは違う。力は、いつだって明確な意志の下、振るわれるべきだと考えている。力があるから何かを為すんじゃない。何かを為したいから力を求め使うんだ。"力がある"から意志に関係なくやらなきゃならないってんなら、それはもう"呪い"だろうな。お前はその意志が薄弱すぎるんだ。だから肝心なところでいつも這いつくばることになるんだよ」

 

「なっ…」

 

 ハジメの言葉に光輝は二の句が出てこなかった。他の生徒達も忍の言ったこともあってか、ハジメと忍に視線を向けられなかった。

 

「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまでは滞在してほしいのですが…」

 

 そんな重苦しい空気の中、リリアーナがそう願い出ていた。

 

「悪いな、姫さん。神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぐ必要があるんでな。香織の蘇生にも5日使っちまったしな。明日には出発したいと考えている」

 

 しかし、ハジメがそう言うと…

 

「ハッハッハッ、親友。大結界くらいは直してってもいいんじゃね? ミュウちゃんの事もイルワ支部長に報告しないとだしな」

 

 調子の戻った忍が間を取り持っていた。

 

「…………そうだったな。わかったよ。もう1日だけ滞在してやるよ」

 

「南雲さん! ありがとうございます!」

 

 忍の言葉もあったが、香織、雫、愛子の無言の視線を送っていたというのもあったりする。"パァ!"と表情を輝かせたリリアーナと、同じく笑みを浮かべる3人を見て苦笑するハジメだった。

 

 その後、ハジメ達一行がそのまま東のハルツィナ樹海へと向かうことを聞き、リリアーナが同行を願い出た。帝国領を通るなら、ついでに送ってほしいと。曰く『直接乗りこんで話した方が早い』とのことだ。

 

 さらに光輝、雫、『谷口 鈴』の懇願によって一回だけ大迷宮攻略に同行することを許可していた。忍は心底嫌そうな顔をしていたが、ハジメが何の意味もなく同行を許可するはずもないと考え、気持ちを切り替えて我慢することにした。

 

 こうして、ちょっと賑やかになりつつもハジメ達は動き出す。故郷に帰るため、その決意を胸に秘めて…。

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