もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十四話『巫女との再会、そして…』

 遥か上空を飛ぶ黒い影があった。

 

 鳥か? 飛行型の魔物か? いや、飛行艇だ。しかし、地上から見た人々にとって、果たしてそれを正しく認識出来るかと言われれば、多分ノーだろう。全長120メートルのマンタのような形状をした飛行艇など、一体誰が想像するだろう? しかも中は前面高所にあるブリッジと中央にあるリビングのような広間の他、キッチン、バスルーム、トイレなど完備した居住区まであるのだ。普通に常軌を逸している。そんなとんでもない代物を作る奴がいるとしたら、それはもうハジメしかいないだろう。

 

 ハジメパーティーは光輝達勇者パーティーとリリアーナとその護衛騎士達数名をその飛行艇『フェルニル』に乗せて帝国へと向かっていた。ちなみに王都から馬車で帝都まで向かうとなると二ヶ月の時間を費やすが、空を飛べば一日半で走破してしまうという。

 

 このフェルニルは主材料を重力石と感応石として、その他諸々で構成されたブリーゼ・シュタルフ・アステリアに代わる移動手段だ。元々、重力石で物体を浮かせることは可能だったが、前のハジメならクロスビット1基で人1人を持ち上げるのが関の山だったが、空いた時間を使って生成魔法を熟練させた今のハジメは遂に大質量での浮遊・操作までも可能にしたため、その集大成としてフェルニルを開発したのだ。

 

 お披露目した時のハジメのドヤ顔ときたら…それはもう楽しそうであった。但し、フェルニルを動かすのはハジメの魔力であり、長時間での使用は魔力消費も激しいのでフェルニルの操縦を教わった忍との交代制を採用している。交代制とは言え、これだけのものを動かす魔力となると、流石は化け物コンビと言わざるを得ない。

 

 ちなみに今はハジメが操縦している。

 

「ん~…流石に親友みたくスムーズにはいかんな。まぁ、仕方ないとは言えばそれまでだが…」

 

 休憩がてら忍は後部甲板に出ようとしたが…

 

「……こんな凄いものを作れて、滅茶苦茶強いくせに……なんであんな風に平然としていられるんだ。なんで、簡単に見捨てられるんだよ…」

 

 どうやら先客がいたらしい。

 

「……………………」

 

 その声を聞き、忍が嫌そうな顔をしてその場を引き返そうとしたが…

 

「……選んでいるのでしょうね」

 

「選ぶ、だって?」

 

 先客はもう1人いたらしく、そのように呟くのが聞こえてきた。

 

「…………………………」

 

 忍は引き返すのをやめると、壁に背をつけて先客達の会話を盗み聞…もとい拝聴することにした。

 

「彼は…見た目ほど余裕がある訳じゃないと思うの。平然としているように見えて、今を"必死"に、大切な人達と生き抜こうと足掻いているのよ」

 

「……………………」

 

「彼も言ってたでしょ? 力があるから何かを為すんじゃなくて、何かを為したいから力を得て振るうんだって。光輝が今感じている彼との"差"は、彼が最初から持っていたものじゃないわ。"無能"、"役立たず"、そんな風に言われながらもどん底から這い上がってきて得たものよ。彼の親友を名乗ってるもう1人だって、彼を助けるために一緒に落ちて、そして一緒に這い上がってきた。文字通り、決意と覚悟の果てに手にしたもの。神を倒すわけでもなく、世界を救うためでもない。ただ、もっと身近な…それでいて具体的な目的のために力を手にしたんだと思うの。私達みたいに"出来るからやる"のとは根本的に違うのよ。今更、"出来るんだからやれ"と言ったって頷かないわ。それくらい彼の…いえ、彼等の中の確固とした部分は揺るがないのよ。そうして余所見した時に、大切な何かを手から零れ落とさないようにするためにね」

 

「……わからないな…」

 

「(わからんのかい…)」

 

 忍がガックリと首を下げる中、説明は続いていく。

 

「う~ん…ちょっと違うかもだけど、例えば、格闘技の世界大会を目指して強くなったのに、町の不良を退治してくれ、なんて言われたら困るじゃない? そんな感じ、かな?」

 

「それは……言いたいことはわかるが、かかっているのは、この世界の人達のことなんだぞ?」

 

「まぁ、困ってる人がいたら放っておけないのは光輝のいいところではあるけど……その価値観を南雲君や紅神君に押し付けるのは、違うでしょ?」

 

「……なんだよ、それ。雫はあいつらの肩を持つのか?」

 

「なに子供っぽいこと言ってるのよ。ただ、人それぞれってことでしょ? 第一、彼等…なんだかんだ言って私達やこの世界の人を救ってるじゃない。オルクスの時もそうだったし、ウルの町、香織の話ではアンカジ公国、あとはミュウって子のためにも動いてたでしょ?」

 

「それは…」

 

「自分のため…いえ、大切な人のためにやったことなんでしょうけど……案外、そんな感じで神様もやっつけちゃうのかもね」

 

「なんなんだよ、その哀れな神様って…」

 

 そんな雫と光輝の会話を聞いた忍は…

 

「……………………」

 

 聞き終えると共にその場から離れていった。

 

「八重樫さんの方が、よっぽど勇者の度量がありそうだけどな」

 

 そんなことをポツリと呟きながら…。

 

 

 

 少し経った頃、フェルニルが進路を変える感覚を足元から感じた。

 

「なんだ?」

 

 不審に思ってブリッジに足を向けると、光輝と雫も今来たような感じだった。見れば、中央の立方体型水晶に映像が映し出されていた。帝国兵と兎人族のリアル鬼ごっこだ。

 

「ん?」

 

 水晶に映された兎人族の女性2人のズーム映像を見て忍が首を傾げてハジメとシアの方を見る。

 

「間違いないです。ラナさんとミナさんです」

 

「やっぱ、そうか…。豹変具合が凄かったから俺も覚えちまってたな」

 

 その会話を聞き…

 

「あちゃ~、ってことは見間違いじゃないんだ…」

 

 忍もその場で目元を手で覆い、天を仰いだ。記憶力がいい忍もまた"あの兎人族達"のことを記憶していた。そんな悠長とも言えるハジメ、忍、ユエ、シア、セレナの様子に正義感の強い光輝が今にも飛び出しそうになるが…。

 

「……え?」

 

 次の瞬間、水晶に映し出された兎人族による帝国兵の首狩りという名の蹂躙劇にハジメ達5人以外の誰もが絶句した。首狩りの光景に光輝達は顔を青ざめさせ、リリアーナと護衛騎士達も驚いたようにシアの方を凝視する。

 

「あ~…その、"アレ"は訓練で培ったものであって決して特別なものじゃないですよ? 私みたいな例外が他にいるわけないじゃないですか。"アレ"はハジメさんの地獄すら生温い訓練の賜物ですよ」

 

 シアの言葉に事情を知らない者達がハジメを見る。その眼は一様に物語っていた。『また、お前か!?』と…。

 

「……………………」

 

 忍達以外からの視線に対してハジメはスッと目を逸らしながらも状況を把握し…

 

「ふん、練度が上がってるじゃねぇか。サボってはいなかったようだし…褒美として詰めの甘さを認識させとくか」

 

「それ、褒美じゃなくね?」

 

「うるせぇよ」

 

 忍にフェルニルの操縦を任せ、ハジメはシュラーゲンを取り出すと、開閉可能な風防の一部を開いて立射の姿勢を取った。ちなみに距離的には5キロメートルはまだある。その行動に忍達以外が驚く中、物凄い集中力を発揮してシュラーゲンの引き金を引いた。

 

ドバァンッ!!

 

 その一射は何らかの馬車から出てきて魔法を使おうとした帝国兵の頭蓋を粉砕していた。当然ながらその光景も水晶に映し出されているので、耐性のあまりない光輝達にとっては殺しの現場にも等しかったが…

 

「この程度で喚くなよ? あれは親友の身内に対する"助け"なんだからな」

 

 忍が光輝達を睨みながらそう告げていた。

 

「あいつらを身内として受け入れたくはないが……ま、シアの家族だしな」

 

「ハジメさん……それはそうと、早く降りましょうよ。樹海の外で、こんなことしてるなんて…また暴走してるんじゃ…」

 

 シアが速く降りるように促すが…

 

「さて、一概にはそうとも言えないかもよ?」

 

「どうしてそう言い切れるんですか?」

 

「あの馬車…なんかキナ臭いんだよな…」

 

 忍が帝国兵の乗ってた馬車を見て訝しげにする。

 

「忍。いいから降ろせ」

 

「あいあい、了解」

 

 水の流れていない狭い谷間へとフェルニルを慎重に着陸させる。そして、フェルニルから谷間へと降り立ったハジメ達の目に映ったのは、100人近くいそうな亜人族の女子供だった。よく見れば、ハウリア族以外の亜人族達は皆首輪、手枷、足枷を着けられていた。要は奴隷用の枷と言ったところか。

 

 亜人族達は未知の飛行物体から降りてきたハジメ達を驚愕8割、警戒2割で見ていると、その中からクロスボウを担いだ1人の兎人族の少年が颯爽と駆け寄り、ハジメの手前で止まると背筋を伸ばして"ビシッ!"と敬礼した。

 

「お久しぶりです、ボス!」

 

 少年こと『パル』くん…いや、『必滅のバルドフェルド』がハジメと会話してる中…

 

「(ん? この匂いは…)」

 

 忍は"見知った匂い"を感じ、そちらに向かって歩いていくと…

 

「こんな場所で再び会えるとは思いませんでした」

 

「お前…」

 

 その人物を見て忍は驚いたように目を見開く。

 

「お久しぶりですね、覇王」

 

「レイラ…」

 

 そこにはかつて樹海にいた時に覇王の巫女の1人として邂逅していた狐人族のレイラがいた。どうやら、帝国兵に捕まっていたらしく、その首と手足には枷がしてあった。

 

「覚えていてくれたのですね。ですが、このような醜態を見られるとは…」

 

「樹海で何があったんだ?」

 

「それは……話せば長くなります」

 

 そう言うレイラの表情は少し悲しそうにも見えた。

 

「……わかった。場所のこともあるしな。親友なら樹海に行くついでに送ってくれるだろうし、そこで詳しく聞くさ」

 

「……そうですか」

 

 その受け答えに…

 

「……………………あ~、もう。俺は親友みたくスマートな方法は取れないんだよ」

 

 忍が頭をガリガリと掻きながら居合の構えを取り、黒狼を振るった。

 

『っ!?』

 

 その光景に周囲の亜人族達がレイラを斬られたと思って警戒心が鰻登りになったようだが…

 

「?」

 

 当のレイラは何が起きたか全くわからず、首を傾げると…

 

チャリンッ…

 

 レイラに着けられていた首輪、手枷、足枷が綺麗に斬れて、地面に落ちていた。

 

「人の巫女に手を出しやがって…帝国め。今度会ったらどうしてくれようか…」

 

 そんなことを呟きながら忍は黒狼を鞘に収める。

 

「……………………」

 

「親友なら錬成でもっと簡単に外せるんだろうけどな。悪いが、俺はこうでもしないと外せないんだよ」

 

 そう言ってレイラの手を引いてハジメ達の元へと戻る。

 

「急にいなくなったと思ったら、なに女引っ掛けてんだよ」

 

 戻ったら何故かハウリア族達がのた打ち回っている現場が見えたが、それを気にするでもなくハジメが忍にそんな小言を言うが…

 

「あ、アンタ…」

 

「あなたは…」

 

 レイラの姿を見てセレナが反応し、レイラも驚いたようにセレナを見る。

 

「お知り合いですか?」

 

 それにシオンが尋ねると…

 

「違ぇよ、親友。前に言ったかもだが、樹海ではセレナ含めて4人の巫女が見つかってんだよ。で、このレイラがその内の1人な」

 

 とりあえず、ハウリア族はスルーして簡潔にレイラのことを説明した。

 

「あの…よろしいでしょうか?」

 

 すると、そこに1人の、足元まである金髪を波立たせた森人族のスレンダーな美少女がやってきた。

 

「ぁ…」

 

「アルテナ様」

 

 セレナとレイラが咄嗟に美少女に対して跪いていた。

 

「あなた達は、南雲 ハジメ殿と紅神 シノブ殿で間違いありませんか?」

 

「ん? あぁ、確かにそうだが…」

 

「それが何か?」

 

 ハジメと忍が揃って頷いてみせると、森人族の美少女はホッと胸を撫で下ろしたような素振りを見せる。彼女も他の亜人族達の例に漏れず、首輪や手枷足枷を着けられているが…。

 

「では、わたくし達を捕らえて奴隷にすることはないと思ってよろしいですか? 祖父からあなた達の種族に対する価値観は良くも悪くも平等だと聞いております」

 

「祖父? もしかして、アルフレリックのことか?」

 

「あ~、言われてみれば面影があるような…」

 

「はい。申し遅れましたが、わたくしはフェアベルゲン長老衆の1人、アルフレリックの孫娘『アルテナ・ハイピスト』と申します」

 

「長老の孫娘が捕まるって…本当に色々あったらしいな」

 

 物凄く面倒そうな表情をしたハジメは、ハウリア族に声を掛けてここにいる亜人族をもののついでに纏めて樹海に送り届けることにしたようだ。

 

 ハウリア族の先導で亜人族達がフェルニルへと搭乗する際、アルテナが転びそうになってハジメの背中に掴まってしまい、ハジメが面倒そうに首輪から手枷足枷を外すという一幕があり、忍はニヤニヤ、光輝達は複雑、ハウリア族は誇らしげ、亜人族達は不思議そうに見ていて、ユエ達は呆れと鋭さを含んだ眼差しを送っていたりした。その後、他の亜人族達の枷も全て外されることになったが…。

 

………

……

 

 フェルニルのブリッジでハジメ達はハウリア族から事情を聞いていた。

 

「なるほど。そっちも魔人族共が絡んでやがったか」

 

「肯定です。帝国の詳細までは知りませんが、樹海の方は未知の昆虫型の魔物の群れにやられました。予め作っておいたトラップ地帯に誘い込んでなかったら、こちらもヤバかったです」

 

「(この部族…逞しくなり過ぎだろ…)」

 

 パル達の報告によれば、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやってきたらしい。大迷宮攻略…というよりは神代魔法を目当てにしている魔人族が樹海に眼を付けるのも当然と言えば、当然だろう。

 

 そして、これも当然だが、樹海に侵入した魔人族をフェアベルゲンの戦士達が黙認するはずもなく、最大戦力を持って対応したが、結果は惨敗。魔人族はかつてのハジメ達と同じく大迷宮の場所を聞いて回ってたらしいが、ハジメ達とは決定的な違いがあった。それは種族への価値観だ。魔人族は自分達こそが絶対の種族だと、獣風情が国を持つことを許さず、この機に駆逐しようとしていたようだ。

 

 そんな中、1人の熊人族がハウリアに助けを乞いにハウリア族の元へと赴いていた。その男の名は『レギン・バントン』。かつて長老衆の1人である『ジン・バントン』をハジメに再起不能にされ、逆恨みからハジメ達を襲撃しようとして逆にハウリア族に返り討ちにされた男だ。そのレギンがハウリア族に『助けてほしい』と地に伏して願い出て、それにハウリア族の族長『カム・ハウリア』が応えたのだ。

 

 このハウリア族の参戦により、魔人族と魔物の群れを撃破することには成功した。具体的には外側から魔物を各個撃破していき、徹底的に、それはもう使える手段は何でも使って敵の情報を搔き集めていた。そして、情報が集まった後は配置が終わったチェスの盤面のように一斉に攻勢に出て魔物を撃破していった。そして、ダメ押しにトラップ地帯へと誘導し、首魁の魔人族を討ち取ったという。もちろん、ハウリアにも少ない犠牲が出たが…。

 

 だが、事態はそれだけに留まらなかった。魔人族の次は帝国がフェアベルゲンに侵攻してきたのだ。目的は人攫い。帝国でも魔人族の襲撃があり、復興のための労働力確保と"消費した亜人族"の補充が必要だったらしい。

 

 フェアベルゲンは魔人族の襲撃による復興、死者の弔い、負傷者の看病とで警備に回せる人員が無く、ハウリアも戦後処理のために集落に引っ込んでしまったために対応が遅れ、完全に後手に回ってしまっていて多数の亜人族が帝国に捕まってしまった。

 

 そして、それを知ったハウリアは過半数をフェアベルゲンの警護に回し、カムを含めた少人数での帝国への侵入を計画したが、帝国に着いただろうカム達からの連絡が途絶えてしまい、樹海の残った中から斥候を選抜して出向いた。その結果、カム達は帝国に侵入してから出てきてないと分かった。その後、パル達が情報収集をする中で、亜人族の奴隷を他の町に輸送する情報をキャッチし、それの奪還に動いていたのが事の真相だったらしい。

 

「しかし、ボス。"も"ということは、魔人族は他でも動いてたんですか?」

 

「あぁ、あちこちで暗躍してるぞ。まぁ、運悪く俺達がいたから、尽く失敗してるけどな」

 

「ハッハッハッ、降りかかる火の粉は、ってやつさ」

 

 そんなハジメと忍の言葉に『流石です、ボスとその親友』という具合の視線がハウリアから2人に突き刺さる。

 

「まぁ、大体の事情は分かった。とりあえず、お前等は引き続きカム達の情報収集をするんだな?」

 

「肯定です。あと、ボスには申し訳ないんですが…」

 

「わぁってるよ。どうせ、道中だ。捕まってた連中はフェアベルゲンまで乗っけてってやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「……………………」

 

 パル達が一斉に頭を下げる中、シアが何か言いたそうだったが、結局何も言わずにいた。

 

「(親友。いいのかい?)」

 

「(シアが自分から言うのを待つ)」

 

「(そうかい…)」

 

 忍がハジメに念話で尋ねるが、ハジメの言葉にそれ以上は何も言わなかった。

 

 最後にパル達から樹海に残っている仲間への伝言を預かると、帝都から少し離れた場所に着陸してリリアーナ達とハウリアを降ろし、一行は『ハルツィナ樹海』へと向かうのだった。

 

………

……

 

 『ハルツィナ樹海』。相も変わらず一寸先は闇が如く、霧が立ち込めていた。人外感覚を持つハジメでも感覚が狂わされる中、忍は平然としていた。どうにも覇王の力に目覚めてから獣の感覚がわかるようになってしまったようだ。

 

 まぁ、それはともかくとしてハウリアに案内してもらった時のようにハジメ達を中心に亜人族が囲んで進むこと一時間。

 

「む? 親友、前方から武装した集団が来るぜ?」

 

「え? ぁ、ホントです。正面から集団が来ますね」

 

 忍に遅れてシアも反応する。そのことに周囲の亜人族達が驚いたように忍とシアを見る。亜人族の中にはシアと同じ兎人族もいるのだが、そちらはまだ気づいていない様子だった。

 

「お前、本当に人間か?」

 

「ハッハッハッ、親友にだけは言われたくないね」

 

 忍の索敵能力にハジメがそんな風に言うが、忍はケラケラと笑ってそう返していた。

 

 そして、2人の言葉通りに霧を掻き分けて虎人族の集団が現れた。彼等も同じ亜人族の気配に気付いていたのか、すぐには仕掛けてこなかったが、皆その眼は険しくそれぞれ武器を手にしている。

 

 そんな中、リーダーらしき人物の眼がハジメ達を捉える。

 

「お前達は…」

 

 そのリーダーを見てハジメ達も彼を想い出す。彼の名は『ギル』といい、以前にも警備隊の隊長としてハジメ達と相対した人物だ。

 

「一体、今度は何の……」

 

 ギルがハジメに目的を聞こうとした時、傍らにいたアルテナを見てギョッとする。

 

「あ、アルテナ様?! ご無事だったのですか!?」

 

「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」

 

 アルテナの助けてもらった発言にギルは何とも微妙な表情になる。

 

「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く元気なお姿を見せて差し上げてください」

 

 アルテナにそう言ってからギルはハジメ達に視線を向ける。

 

「少年。お前達はここに来る時は亜人を助けてからというポリシーでもあるのか?」

 

「んなポリシーなんぞあるか。偶然だ、偶然」

 

「ハッハッハッ。まぁ、トラブル体質の延長ってとこかね?」

 

「……そちらの少年はともかく、相変わらず傲岸不遜な少年だ。だが、礼は言わせてもらおう」

 

 そんな風に久々に会った知り合いと会話でもしてるような雰囲気に事情を知らない雫達が疑問顔になっているが、シアがこっそりここで起きたことを簡潔に説明していた。その説明を受け、シアがハジメに惚れているのも何となく理解して納得顔を見せる。

 

「そんなことより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか?」

 

「む? ハウリア族の者なら数名ほどフェアベルゲンにいるぞ。聞いてるかもしれないが、襲撃があってから常駐してもらっているのだ」

 

「そうか。なら、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

 

「ハッハッハッ、親友は平常運転だねぇ~」

 

 先を促すハジメに呆れつつもギルが部下の武装を解除させて案内を引き継ぐ形でフェアベルゲンへと向かうこととなった。

 

 

 

 そうしてギルの先導の元、フェアベルゲンに辿り着いた一行の目の前には…

 

「こりゃあ、また…」

 

「酷い…」

 

 忍と誰かが呟いていた。それほどまでに、フェアベルゲンの惨状は酷かったようだ。フェアベルゲンの門は破壊されたまま残骸が放置され、木と水で構成された幻想的だった都は、あちこちが破壊されていてかつての都の姿の見る影が無かった。

 

 すると、フェアベルゲンの住民がアルテナ達に気付き、硬直の後に喜びが爆発したように駆け寄ってきた。近くに人間族もいたが、アルテナ達が助けてもらった折を伝えると、警戒心を残しつつも帰ってきた同胞と喜びを分かち合った。

 

 その喧騒が伝播したのか、ハジメ達を囲む輪が次第に大きくなり、気付けば周りがフェアベルゲンの住民で埋め尽くされていた。そんな中、不意に人垣が割れていき、その先には長老衆の1人『アルフレリック・ハイピスト』の姿があった。

 

「お祖父様!」

 

「おぉ、アルテナ…! よくぞ、無事で…」

 

 そんな祖父と孫娘の再会に周囲の住民達も涙ぐんでいた。しばらく抱き合った後、アルフレリックがアルテナの頭を撫でると、ハジメ達の方を苦笑いで見る。

 

「……とんだ再会になったな、南雲 ハジメに紅神 忍。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。ありがとう、心から感謝する」

 

「俺は送り届けただけだ。感謝ならハウリア族にしてくれ。俺達はここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな」

 

「ハッハッハッ、俺は特に何もしてねぇけどな」

 

「そのハウリア族をあそこまで変えたのは、南雲 ハジメ、お前さんだろうに。それが巡りに巡って、このフェアベルゲンや孫娘を救ってくれたのだ。この莫大な恩、どう返していいものやら…せめて礼くらいは受け取ってくれ」

 

 アルフレリックの言葉にハジメは少し困ったように頬を掻いていた。そんなハジメをユエ、シア、ティオ、香織が微笑ましそうに見ていたりする。

 

「……………………」

 

 一方、光輝は複雑な表情でハジメを見ていた。自分がしてきた迷宮での訓練の日々と、ハジメ達の世界を巡る旅の日々を比較しているのかもしれない。

 

 

 

 その後、一行はアルフレリックの家で行き違いになったらしいハウリア族を待つことになったのだが、忍はセレナ、シオン、ファル、レイラを連れて別行動を取っていた。

 

「さて、ジェシカとティアラは、っと…」

 

 残る2人の巫女を捜すべくフェアベルゲンを歩き回っていた。

 

「それにしても…あなたはあの時、彼について行ったのですね」

 

「えぇ、私はあの時がそうだと思ったから」

 

「……いずれ機会はあるとは思いましたが、まさかああいう形で再会するとは思いませんでした」

 

「そうね」

 

 散策中、セレナとレイラが話し合っていた。

 

「シェーラもいたら、巫女が一堂に会したんだがな。ま、しゃあないか」

 

 エリセンに残ると決めたシェーラのことを考えながらも、戦いの残り香で上手く鼻での索敵ができない忍は根気よく足で捜していた。

 

 そして…

 

「あ~、覇王だ~」

 

「覇王…!!」

 

 野戦病院的な場所でジェシカとティアラを発見した。

 

「よっ、どっちも元気そうだな」

 

 忍はそう言うが、ジェシカは負傷しており、ティアラがそれに寄り添っていた。

 

「話がある。ちょいついてきてくれるかい?」

 

「……あぁ」

 

「うん、いいよ~」

 

 野戦病院的な施設の外に出て、忍達…覇王組が一堂に会した。

 

「これで、7人全ての巫女と邂逅したな」

 

 感慨深そうに忍が告げる。

 

「7人? ここには6人しかいませんが…?」

 

「最後の1人はエリセンにいるのよ」

 

「エリセンに…?」

 

 忍の言葉に疑問に思ったレイラだが、セレナの一言で疑問の色を濃くする。

 

「彼女は故郷に残ることを選んだんだ。俺は彼女の意志を尊重するつもりだ。そして、それは君らにも当てはまる」

 

 その言葉に巫女達が忍に視線を向ける。

 

「だからこそ、ここで再度考えてほしい。自分の意志で…俺についてくるか、それとも別の道を進むかを…」

 

『……………………』

 

 ジェシカ、レイラ、ティアラはキョトンとしているが、セレナ、シオン、ファルは目を見開いて驚いていた。

 

「俺達は……いや、俺は…大迷宮を攻略して全ての覇王の力を手にしたら、故郷に帰るつもりだ。その想いに変わりはない。でも、お前達がそれに付き合うことはない。覇王を見極めるだのなんだのと、それでお前達を縛り付けるのは、なんか違う気がしてな。昔の覇王と巫女の関係は朧気ながら理解してるつもりだ。だが…俺達は俺達だろう? 昔のことなんか気にせず、自由にしよう。今更、こんなことを言うのは間違ってるとは思うけどな」

 

 そう言ってから忍は残り3枚のステータスプレートをジェシカ、レイラ、ティアラに手渡す。

 

「俺は、これから帝都に向かうことになると思う。帝都から戻ってくる間に答えを決めてくれ」

 

 さらにセレナの首から首輪を外すと、そう言い残してその場から立ち去った。

 

『……………………』

 

 残された巫女達は誰も何も言わず、妙に重い沈黙がその場を支配していた。

 

 

 

 ちなみにジェシカ、レイラ、ティアラのステータスだが…

 

-----

 

ジェシカ 20歳 女

レベル:37

天職:獄帝の巫女

筋力:180

体力:190

耐性:55

敏捷:80

魔力:-

魔耐:-

技能:監獄巫女

 

-----

 

レイラ 18歳 女

レベル:31

天職:武鬼の巫女

筋力:75

体力:120

耐性:55

敏捷:95

魔力:-

魔耐:-

技能:武天巫女

 

-----

 

ティアラ 15歳 女

レベル:21

天職:焔帝の巫女

筋力:55

体力:70

耐性:55

敏捷:90

魔力:-

魔耐:-

技能:灼熱巫女

 

-----

 

 という具合になっていた。

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