もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十五話『帝都での件と、新生ハウリア族の覚悟』

 忍達覇王組がちょっと重ためな話をしてる間、ハジメ達の方でも動きがあった。新生ハウリア族を伴って帝都に侵入したカム達を捜すことになったのだ。

 

 忍がハジメ達の元に戻ってくると、既に出発の準備が整っていた。

 

「……巫女連中はどうした?」

 

「今回はここに置いてくさ。なに、シオンもいるから平気だろ」

 

「……………………」

 

 そんな風に言う忍をハジメは黙って見るが、特にそれ以上は言わず、フェルニルに搭乗するよう促した。

 

「後悔だけはすんなよ」

 

 ただ一言、ポツリと零した忍にしか聞こえないような声で…。

 

「……あぁ、わかってるさ」

 

 忍も忍でそれは理解してるのか、そう小さく囁いていた。

 

………

……

 

 帝都に辿り着いた一行は、ストリートを進んでいた。帝都は区画整理をしていないのか、雑多で実用性を突き詰めたような大小様々な建物が立ち並んでおり、あちこちに裏路地への入り口があった。さらに雰囲気は宿場町『ホルアド』に似てなくもなく、どこか張り詰めたような緊張感がある。『やりたいことを自己責任でやりたいようにやる』。そんな気概を感じる雰囲気だ。

 

 そんな帝都に入ったハジメ達一行だが、美女美少女を連れてる一行に目が行くのは当然で、ちょっかいをかけてくる輩もいるが、そんな命知らずはハジメが片っ端から処理している。しかし、この程度の暴力沙汰で動揺すらしないのは、流石軍事国家で有名な帝国の帝都といったところだろうか?

 

 とりあえず、一行は冒険者ギルドへと足を向ける。だが、その道中…帝国における奴隷制度を嫌というほど見せつけられることとなった。帝国は使えるものは何でも使う主義なので、亜人族を奴隷として売買することが盛んだ。ハイリヒ王国では聖教教会の意向もあって亜人族に対する差別意識が高いものの、奴隷として傍に置くことも忌避されているので目にしなかったが、帝国はそうでない。故に正義感の塊の光輝が暴走しそうになるのだが、それを雫が度々諫めている。

 

 帝都の警備だが、過剰と言ってもいいほど厳重で、帝都への入場には1人1人身体検査があり、外壁の上には帝国兵が常駐して常に目を光らせていた。帝都内もスリーマンセルでの帝国兵が巡回しており、裏路地にも目を通しているようだ。

 

 ちなみに今更だが、パル達と増援部隊として連れてきたハウリア族は帝都から離れた岩石地帯に目立たぬよう潜伏している。ハジメの奴隷として扱うにも限度があるから仕方ない。逆にカム達がどうやって入ったのか、気になるとこではあるが…。

 

 そうこうしている合間にも一行の歩調は変わらず、被害が出た場所の瓦礫の撤去を行う奴隷に堕とされた裸足の亜人族達を視界に入れることとなる。

 

 そんな中、10歳くらいの犬耳少年が瓦礫に躓き、手押し車の瓦礫を派手にぶちまけてしまい、監視役の帝国兵の目に留まり、棍棒を持ってその犬耳少年の元へと歩いていく。何をするかは…言わずもがな。

 

「! おい、やめ…」

 

 それを看過できなかったらしい光輝が駆け出そうとするが…

 

パシュッ!

 

 微かに空気の抜けたような音がすると同時に、犬耳少年に向かっていた帝国兵が盛大にコケて顔面から瓦礫に前のめりに倒れ、ピクリとも動かなくなった。流石に死んではいないだろうが、何とも間抜けな光景に同僚の帝国兵が慌てて駆け寄り、容態を診て呆れた様子でどこかに運んでいく。

 

 一方の犬耳少年はというと、何が起こったのかわからなかったが、すぐに正気を取り戻すと散らばった瓦礫を手押し車に乗せ直すと、何事もなかったように作業に戻る。

 

「面倒事に首を突っ込むのはお前の勝手だが、俺達に迷惑が掛からないようにしろよ?」

 

 出鼻を挫かれた格好の光輝にハジメがそのように言う。

 

「迷惑、だって? 助けることが悪いって言うのか?」

 

「はぁ…いいか、天之河。こんなとこで無用な騒ぎを起こしてみろ。すぐに帝国兵がわんさかやってくるぞ? そんな面倒にいちいち構ってられるか。俺達は人探しに来てるんだぞ? 奴隷解放運動をしに来たんじゃない。もし、やるならバレないようにやるか、俺達に迷惑が掛からない遠くでやってくれ」

 

 光輝の問いに適当な感じで返答するハジメに光輝の正義感がヒートアップする。

 

「お前は! あの亜人族の人達を見て何とも思わないのか!? 今、こうしてる時だって彼等は苦しんでるんだぞ!?」

 

「……八重樫、この目的を忘れてるアホをどうにかしてくれ。お前の担当だろ?」

 

 面倒になって雫に丸投げするハジメに…

 

「雫は関係ないだろ! 俺は今、お前と話をしてるんだ! シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでる亜人の人達は見捨てるのか!?」

 

 光輝がさらに言い募る。声量が大きくなるにつれて人目も何事かと一行に目を向け、帝国兵にも目を付けられそうになる。いつもなら光輝に突っかかる忍も今回ばかりは少しだけ上の空な状態だし…。

 

「……天之河。俺達は仲間でもなければ連れ合ってる訳でもない。ただ単に俺達に"付いてくる"ことを"許可"しただけだ。わかるな? お前の正義感や倫理観に同調することもなければ、賛同もしない。だからいちいち突っかかってくるな、鬱陶しい。それとも何か? 今ここで本来の目的も果たせず、四肢を砕かれて王国に帰還したいのか?」

 

「…っ」

 

「俺達はカム達を捜しに来たんだ。それ以外にかまけてる余裕はないんだ。それでも人助けをしたいなら、俺達に迷惑が掛からないようにしろ。俺達はお前達に干渉する気はないからな。そっちもそうしろ。あと、シアが他の亜人と同列なわけないだろ?」

 

 ハジメの言うことに歯噛みしながらも睨む光輝を尻目にハジメは踵を返して進む。

 

「(ま、あのヒーローにそんな覚悟が持てるはずもないか…)」

 

 微妙に上の空でもハジメ達の会話は聞いていたのか、忍はそんな感想を抱いていた。

 

 

 

 そうして、辿り着いた冒険者ギルドは…まんま酒場という印象だ。広いスペースに乱雑に置かれたテーブルに、カウンターは二つある。一つは手続きなどを行うだろうカウンターで、もう一つはバーカウンターだ。今までもあったことだが、入った瞬間に女性陣に下卑たる視線が集まってきたのでハジメが面倒そうに威圧を放つ。が、流石は軍事国家にいる冒険者だけあって気絶する者はおらず、逆に酔いが醒めて警戒心を露にする程だった。

 

「(へぇ~、親友の圧を受けてもこのくらいとはな…)」

 

 その様子に忍も少し驚いていた。

 

「情報を貰いたい。ここ最近、帝都内で騒ぎを起こした亜人がいなかったか?」

 

 忍が驚いている横でハジメは気怠そうな受付嬢に情報を貰おうとしていた。

 

「そういうのはあっちで聞いて」

 

 受付嬢は胡乱な目でハジメを見たものの、すぐに面倒そうにバーカウンターの方を指差す。そちらを見れば、ロマンスグレーの初老の男性がグラスを磨いていた。それだけ伝えると受付嬢はもう我関せずといった風の態度だった。

 

 バーカウンターへと足を向けたハジメ達は、マスターらしきロマンスグレーの男性に受付嬢にした問いと同じものをしたのだが…

 

「ここは酒場だ。ガキ共が遠足に来ていい場所じゃない。第一、酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出て行け」

 

 なんとも渋い声でそのようなことを言い放っていた。

 

「(おっと、これは…親友のボルテージが上がるな…)」

 

 テンプレ大好きハジメさんがこんな素晴らしいマスターを見て嬉しくないはずがないと思った忍はハジメの方を見る。

 

「もっともだな。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで頼む」

 

 カウンターにお金を置きながらそんな注文をするハジメの横顔は平静を装ってはいるものの…

 

「(あ~あ…やっぱり、喜んでる…)」

 

 付き合いの長い忍からしたら、かなり気分がよろしいことが窺えた。

 

「……吐いたら、叩き出すぞ?」

 

 ハジメの注文に一瞬眉をピクリとさせたマスターだが、特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出してカウンターに置いた。

 

「うっ…?!」

 

 嗅覚が敏感になってる忍はこの時点で顔を顰めている。そんな忍を他所にハジメはボトルの先端を指先で撫でるように切断する。その行為自体と切断面の滑らかさに周囲が息を呑む。マスターも同様に少しばかり目を見開いている。封を切ったボトルからキツいアルコール臭が溢れ出し、ハジメ以外の者が鼻を覆って咽たり、後退ったりしていた。

 

「な、南雲君? そ、それを飲む気なの? 絶対にやめた方がいいわよ?」

 

「そ、そうだよ。絶対吐いちゃうって…」

 

「ていうか、ハジメ君。どうせ飲むならもっと良いお酒にしようよ」

 

「そうですよ。どうしてわざわざ質の悪いお酒なんて…」

 

 女性陣がハジメを止めようとするが…

 

「いや、味わう気もないのに良い酒をがぶ飲みなんて……酒に対する冒涜だろ?」

 

『え~』

 

 ハジメの軽口に女性陣が批判めいた声を漏らすが、マスターは違った。口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべているのだ。

 

「(今、親友の心はマスター一色だな)」

 

 そんな感想を抱きながら忍が横で見てる中、ハジメはボトルを一気に飲み干していた。

 

ガンッ!

 

 飲み干したボトルをカウンターに叩き付けるようにして置くと、ハジメはマスターを見てニヤリと笑う。その眼は『文句あるか?』と言いたげだ。

 

「……わかった、わかった。お前は客だよ」

 

 マスターは苦笑いしながら両手を上げて降参の意を示していた。

 

「それで? さっきの質問に対する情報はあるか? もちろん、相応の対価は払うぞ?」

 

「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。お前さんの聞きたいのは…兎人族のことか?」

 

「! 情報があるようだな。詳しく頼む」

 

 マスター曰く、数日前に大捕物があったようだ。その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし、逃亡を図ったとんでもない集団がいたらしい。だが、数の暴力には敵わず、城に連行されていったそうだ。まぁ、兎人族の常識を覆す実力だったから都内でも話題になっていたそうだが…。

 

「へぇ、城にねぇ…」

 

 その話を聞き、ハジメは隣のシアの手をカウンターの下で握っていた。反対側の手はユエが握っている。

 

「マスター。言い値を払うと言ったら、帝城の情報、何処まで出せる?」

 

「! 冗談でしていい質問じゃないが…その様子を見る限り、冗談というわけじゃなさそうだな…」

 

 ハジメの表情は笑ってるのに、全く笑ってない眼を見てマスターは決断を迫られた。

 

「…………警邏隊の第4隊に『ネディル』という男がいる。元牢番だ」

 

「ネディル、ね。わかった。訪ねてみよう。世話んなったな、マスター」

 

 聞きたい情報を聞けたハジメ達は冒険者ギルドから出てメインストリートで次の動きを話し合う。

 

「さて、情報も仕入れたことだし、ここから更なる情報源に聞きに行きますか。俺とユエがネディルって奴に聞いてくるから、お前等はその辺で飯でも食っててくれ。2、3時間で戻ってくる」

 

「あいよ、親友」

 

 忍は普通に答えるが、他の皆は疑問顔になる。

 

「? どうして2人だけで…………ハッ!? まさか、ユエさんとしっぽりねっとりする気ですか!? いつもみたいに……いつもみたいにぃっ!!」

 

「なっ!? そうなの、ハジメ君!?」

 

「むっ? ユエばかりズルいのぉ~」

 

 シアの邪推が伝播し、香織とティオまで往来で騒ぎだす。

 

「んなわけあるかっ!」

 

 思わずハジメもツッコミを入れるが、不意に袖をクイクイと引っ張られてそちらを見れば…

 

「……お外でするの?」

 

 ユエが上目遣いで尋ねてきた。

 

「いや、しねぇから…」

 

「……じゃあ、何処かに入る?」

 

「そういう問題じゃねぇよ。頼むから、そっから離れてくれ」

 

「……むぅ、わかった。夜戦に備える」

 

「その夜戦は帝城への侵入のことを言ってるんだよな?」

 

 ハジメの疲れたような態度に残念がるユエはそのように言っていたが、はてさて…どこまでが冗談で、どこまでが本気なのか。

 

 ちなみに…

 

「お、大人だぁ! 同級生が物凄く大人な会話してるよぉ! シズシズ、どうしよう!?」

 

「……やっぱり、そういうこともしてるのね。でも、香織はまだ? どうしましょう? ここは親友として応援すべき? それともまだ早いと諫めるべき? ……わからないわ。私には会話のレベルが高過ぎる!!」

 

「(オカンやなぁ~)」

 

 鈴と雫が何やらブツブツ言ってるが、その様子に忍はぼんやりとそんなことを考えていた。

 

「お前等…いい加減にしろよ? この人選はあくまでもネディルが口を割らなかった時のためだ。ユエならある程度慣れてるだろうし、再生魔法も使えるしな」

 

「再生魔法なら私だって…」

 

「香織。ここは2人に任せましょう」

 

「雫ちゃん…」

 

 まぁ、帝国兵に帝城内の構造を教えろと言っても普通に口を塞がれるのが関の山だ。つまり、無理矢理聞き出す必要があるので、人を癒すことに慣れてる香織よりもユエの方が適任という訳だ。あとは、香織に凄惨な光景を見せる訳にもいかないという配慮も多少あるのかな?

 

「ハジメさん、ユエさん。その……………エッチはほどほどに!」

 

「台無しだよ! この残念ウサギ!!」

 

 そうしてハジメとユエが人混みの中へと姿を消していく。

 

「ま、後はゆるりと待つだけさ」

 

 ここまで特に何の弁護もしなかった忍が近場の宿屋の食事処に入っていく。それに倣ってシア達や光輝達も食事処に入っていく。

 

………

……

 

 数時間後。

 

 忍達が入った宿屋の食事処に、妙にツヤツヤしたユエと、少しやつれた感じのハジメが入ってきた。

 

「「……………………」」

 

 その2人の様子にシアと香織からブリザードの如き寒気と殺意が溢れ出していた。

 

「……………………」

 

 当のハジメは居心地悪そうにしてたが、2人の殺意に対して微妙に恐怖を感じていたような…。

 

「で? 親友、情報の方はどうだったよ?」

 

 そんな冷たい空気の中、忍がハジメに尋ねる。

 

「あぁ、そっちは問題ない。ただ、再生魔法を使ったせいか、ユエのガス欠が多くてな」

 

「なるほど。それでユエさんが"吸血行為"をしたから、そんなやつれてるのな」

 

 忍は何となしに言ったが…

 

「「へ…?」」

 

 シアと香織が間抜けな声を漏らす。

 

「…………おい、お前等。まさか、本当に俺がこの短時間でユエを抱いたと思ってたのか? 随分な評価だなぁ? えぇ?」

 

 女性陣からずっと冷たい視線を向けられていたハジメが嫌味と共にジト目で女性陣を見る。

 

「あ、あははは、そ、そんなことはないですよぉ~」

 

「そ、そうだよ。再生魔法って燃費が悪いもんね!」

 

「「……………………///」」

 

 シアと香織は目を逸らしながら必死の弁明、雫と鈴は頬を染めて明後日の方向を見る。

 

「はぁ………まぁいい。さっきも言ったが、情報は得られた。今晩、行動を起こす。潜入メンバーは俺、ユエ、シアの3人だ。数は少ない方が発見されるリスクも少ないしな。ホントは忍も面子に入れたかったが…」

 

「ま、今の俺じゃちょい不安だしな」

 

「それを自覚してる分だけマシだろ。残りは帝都外に待機しているパル達と共にいてくれ。直接転移する」

 

 肩を竦める忍にハジメはそう言っていた。

 

「なぁ、南雲。今更なんだが、シアさんの家族が帝城に掴まってるなら、普通に返してくれと頼めないのか?」

 

 黙って聞いていた光輝が今更なことを言うが…

 

「「対価は?」」

 

「え?」

 

「おいおい、ヒーロー。いくら勇者だろうと、何の対価もなしに知り合いの兎人族ってだけで解放されたりはしないだろ?」

 

「そうだ。しかもカム達は帝都に不法侵入し、帝国兵を殺したんだぞ? そんな兎人族を"はい、そうですか"と無条件に返してはくれねぇよ。それはもう足元を見たドデカい見返りを要求されるだろうな。下手すりゃ姫さんの交渉にも響くかもしれないぞ?」

 

「そ、それは…」

 

 ハジメと忍の言葉に、口を噤んで考え込んでしまう光輝を見て2人は凄く嫌な予感を感じてしまい、同時に雫をチラッと見る。

 

「…………」

 

 その表情は『あ、これはヤバいわ』といったものだったので、ハジメは先手を打つことにした。

 

「なぁ、天之河。一つ、お前に頼みたいことがあるんだが…」

 

 ハジメは光輝に陽動役の任を与え、潜入に参加しないように誘導したのだ。そして、その際…ハジメは仮面を光輝達に渡して正体を隠すように勧めていた。ちなみに仮面には色があり、光輝は赤、龍太郎は青、鈴は黄色、雫はピンクという配色がなされた。

 

 まぁ、ピンクを拒否った雫が身内から色々と暴露されたりもしたが、それは些事だ。

 

「(親友ってたまに子供っぽいよな)」

 

 ハジメの意図を何となく察したユエと忍は呆れた表情だったりもするが…。

 

………

……

 

 そして、深夜。

 

「……………………」

 

 ティオや香織と共にパル達と待機していた忍は岩の上で座禅を組んで瞑想していた。

 

「(ハルツィナ樹海の大迷宮を終えたら、次はいよいよ最後の大迷宮だ。地理的に魔人族領になるからな。しかも極寒地帯。やはり、巫女達は置いてくしかないな。正直、手が回りそうにないのが実情だ。ただ、シオンだけを連れていくわけにもいかないが…シオンにもシオンの事情があるしな)」

 

 巫女の中で唯一とも言えるまともに戦闘出来るのはシオンだけだ。ハルツィナ樹海の中で、という限定条件ならばセレナやジェシカも該当するが、ハルツィナ樹海の外に出たら魔法の餌食になるのは目に見えている。しかもシュネー雪原に安全な場所はないだろう。だったら、巫女達をフェアベルゲンに残す方がまだ安全だろうという結論に至る。

 

 事実としてシェーラもエリセンに残る選択をした。ファルは吸血鬼族の末裔だが、見た目は人間族と大差ない。シオンと共にいれば問題ないだろうが、そのシオンがティオのお付きというのもあるので、何とも悩ましい問題でもある。今回は例外的にフェアベルゲンに置いてきたので、後で色々と文句を言われることは間違いない。

 

「(悩むくらいなら、最初から受け入れなければよかったのかもな……でも、俺の芯の部分が、なんとなく拒否るのを拒んだのかもな。これも覇王の影響かね…?)」

 

 そんな風に考えていると、不意に空間の歪む気配と匂いがしたので、瞑想を中断する。

 

「来たか」

 

 呟きと共に岩から降りて帰還しただろうハウリア族の元へと向かう。

 

「親友はまだか」

 

 帰還したハウリア族と待機してたハウリア族が喜びを分かち合っている中、忍はハジメの姿を捜すが、見つからなかったので、まだ救出の途中かと考えた。

 

 それから少ししてカムを連れたハジメ達が空間魔法で戻ってきた。

 

「あぁ、親友。おつか…」

 

 忍がハジメに歩み寄ろうとしたが…

 

ヒュッ!

 

 それより先にハジメの背後から奇襲する者がいた。

 

「……何のつもりだ? 八重樫」

 

 背後を見ずに鞘に収めた状態の黒刀をキャッチしながらハジメが奇襲者こと、雫に問い掛ける。

 

「……ストレス発散のために南雲君に甘えてみただけよ」

 

 どうやら陽動の際に何かあったらしい。それとも仮面のせいだろうか? ともかく、ハジメに八つ当たりしている。

 

「……雫ちゃんが八つ当たりなんて…」

 

「……甘え、とも言う」

 

 その様子を見てた香織とユエがヒソヒソと会話していた。

 

「ボス。よろしいですか?」

 

 ハウリア族での再会の喜び、という名のド突き合いが終わったのか、カムがハジメ達の元へとやってくる。とても真剣な表情だ。

 

「……………………」

 

 ハジメは即席の椅子と車座を用意してから、そこに腰掛けるとカムに話の続きを促した。

 

 カムの話によれば、ハウリア族はやり過ぎたらしい。魔人族襲撃で疲弊したフェアベルゲンに帝国が攻め寄せてきたのは、以前パル達が話してた通りだが、ハウリア族は相当数の帝国兵を撃破したらしく、それが帝国に伝わって謎の暗殺部隊か何かだと警戒させたらしい。

 

 そうして帝国ではその暗殺部隊の捕縛に乗り出し、帝都まで誘い込んでの包囲・捕縛に追い込んだようだ。が、捕まえてみれば、温厚で知れ渡る兎人族だったのだ。しかも包囲したにも関わらず、巧みな連携を駆使して帝国兵と渡り合ったというのだから、帝国上層部も興味が湧いたらしい。

 

 その結果、生け捕りにされて色々と情報を聞き出されたのだが、ハウリア族は一族郎党処刑される寸前だった上、フェアベルゲンから追放された関係だとは帝国は思いもよらないだろう。

 

「で? 捕虜になった言い訳がしたいんじゃないだろう? さっさと本題を言え」

 

「失礼しました、ボス。我々、ハウリア族と新たに家族に迎え入れた者を合わせた新生ハウリア族は……帝国に戦争を仕掛けます」

 

『……………………』

 

 ハジメと新生ハウリア族以外の時が止まる。それほどまでに驚愕で誰もが理解が追い付かなかった。

 

 一番最初に口を開いたのは、当然ながらシアだった。家族のことだから心配もしてのことだろう。いつものムードメーカーな雰囲気は何処へやら、怒気を孕んだ気迫の表情で父親であるカムにドリュッケンを突きつける。突きつけられたカムはただ黙って娘を見ていた。

 

 その空気を壊したのは…やはり、ハジメだった。シアの尻尾を鷲掴みにして気勢を削いだのだ。そして、シアが落ち着いたところでハジメはカムに問うた。

 

「カム。まさかとは思うが、その話をしたのは俺を参戦させるためじゃないだろうな?」

 

「ははっ。それこそ"まさか"ですよ。ただ、こんな決断が出来たのもボスのおかげなので、せめて決意表明だけでも、と思っただけです」

 

 それだけでカム達の総意が本気なのだとわかり、シアが悲痛な表情になる。

 

「……理由は?」

 

「意外ですな。聞いてくれるのですか? 興味ないかと思いましたが…」

 

「それだけならな。が…」

 

 ハジメはチラッと沈んだ表情のシアを見て、カムも納得したように理由を話す。

 

 カムの尋問の時、皇帝自らが出てきてカムに『飼ってやる』と言ったらしく、カムはその返答に対してツバを吐きかけてやったらしい。それが逆に皇帝の興味を強くしたらしく、強欲そうな顔で『全ての兎人族を捕らえ、調教してみるのも面白そうだな』という風に言ったようだ。

 

「断言しますが、あの顔は本気です。我等のせいで他の兎人族の未来を奪われるのは、耐え難い。故に行動を起こすのです」

 

 カムの言葉にハジメは推測出来る範囲で考える。

 

「……………………暗殺、か」

 

「肯定です」

 

 カム達は皇帝一族を狙うのではなく、周囲の人間を狙うようだ。だが、それは…時間が掛かる上に、その時間で報復の準備を整えさせるのに十分だ。時間との勝負になるだろう。

 

 それを承知でカム達は覚悟を持っていた。

 

 だが、それを聞いて黙っているハジメではなかった。

 

「わかった。俺は一切戦わない。が、うちの元気印がこんな顔してるんだ。黙って引き下がると思ったら大間違いだぞ?」

 

「し、しかし、ボス。一体何を…?」

 

「カム、ハウリア族。こいつを泣かせるようなチンケな作戦は全て却下だ。やるなら、皇帝の首にその刃を突きつけろ!!」

 

『ッ!!?』

 

 ハジメの扇動に新生ハウリア族のみならずその場にいた者全てが息を呑んだ。

 

「おっふ…親友よ。目的を帝城落としにすり替えやがった。しかもお膳立てもすんのかい」

 

 あまりの新生ハウリア族の熱狂ぶりに忍達は唖然としていた。

 

 

 

 こうして新生ハウリア族による帝城攻略に向けての作戦を詰めることになった。もちろん、サポートとしてハジメ謹製のアーティファクトも使用して、だが…。

 

 はてさて、帝国はどうなることやら…。

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