もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四話『ちょっとだけ覚醒する反逆者』

ピチャン…。

 

そんな音を立てて水が頬を叩く。

 

「くっ…痛ぅ…」

 

暗闇の中、一人の男が起き上がる。

 

忍だ。

 

一緒に奈落に落ちたハジメとは(はぐ)れてしまったようだが…。

 

「ここは…?」

 

頭を振ってから周囲を見ると、そこはオルクス大迷宮の階層とは少し毛色が違う洞窟のようだった。

 

「っ…ハジメは!?」

 

そこで親友の安否を確かめようとしたが、近くにはいないようだった。

 

「くそっ…こんなことなら武器の一つもかっぱらえばよかったな…」

 

今更ながら忍は武器を持っていない。

技能が意味不明なため、適当な武器を持ってそれが機能しないなら意味がないと考えたからである。

故に訓練用の剣を取り扱ったことはあれど、専用に何か持ってるとかはしていないのだ。

 

「とりあえず、水源はあるからいいとしても…問題は食料か…」

 

浸っていた地下水から這い上がり、水の心配はないかなと考えつつも食べ物をどうするか悩んだ。

 

「こんな地下に野草が…しかも食えるもんがあるとは到底思えんしな…」

 

それなりのオタクを自称する忍は一応のサバイバル知識があった。

それは何故かと言うと、彼の父親に起因する。

忍の父親はちょっとだけ有名な探偵であり、その探偵な父親に何があってもいいようにと幼少期にちょっとしたサバイバル訓練を実施されたことがあるのだ。

その教訓は今でも忍の胸に息づいており、こんな状況だからこそ冷静にいるように努めている。

 

「しかし、異世界でサバイバル知識が役立つとは…親父、ありがとよ」

 

今は別世界で頑張って息子達を捜しているだろう父親に敬礼しながら忍はとりあえずこれからどうするかの方針を考えた。

 

「とりあえず、親友を捜すか…そんなに遠くないところに流されている可能性もあるしな。かと言ってこの拠点から慣れない内に遠のくのも問題か」

 

悩み所だな、と忍が考えていたが…

 

「っと待てよ? こんな貴重な水源だ。もしや魔物も喉を潤しに来るかも?」

 

そんなことを呟いていると…

 

『グルルルル…』

 

言ったそばから何やら白い二尾を持つ狼型の魔物が来ていた。

 

「おぅふ…口は災いの元…」

 

とりあえず、忍は狼から視線を外さず、距離を取ることにした。

 

こういう時は獣から目を逸らすな、と父親から教わっていた忍はそれを忠実に守った。

視線を外したが最後、こちらが食われる。

一瞬の気の緩みも死へと繋がるのだ。

それが自然界の絶対の掟であり、異世界ならなおさらそういう危険も多いだろうという忍の解釈だ。

 

故に狼から視線は外さす、距離を保っていた。

だが、それはあくまでも相手が一匹であることが前提である。

 

狼というのは…集団で行動する。

 

『グルァ!!』

 

一匹が注意を惹き付け、もう一匹が強襲する。

 

「っ!!」

 

声からして左斜め後ろから襲い掛かってきたことがわかる。

しかし、それでも忍は目の前の狼から視線を逸らさず、持ち前の俊敏性で後退し、かろうじてもう一匹の強襲を回避する。

 

『グルルルル…』

 

二尾の狼達が忍を追い詰めようと前に出る。

 

「………………」

 

それでも忍は地下水を気にすることなく水の中に足を突っ込みながら後退する。

 

『グルァ!!』

 

その狼の声に他の個体が群がってきたのがわかる。

 

「(やっべぇな…)」

 

どう見ても格上そうな狼達が群れで忍を包囲する。

その状況に忍も冷や汗を流す。

いくら狼好きとは言え、こんな生死を分けた状況で好きを貫くのはちょっと難しいというものだ。

 

「(……死にたく、ねぇなぁ…)」

 

忍の意識が前方の狼達から逸れる。

だが、それでも視線に乗る感情は生への執着。

 

「(人生、まだまだ楽しみたいことだってたくさんある。親友と一緒にこっから抜け出して、あいつらに…一矢報いたい。てか、そんなことより…)」

 

その脳裏には家族の顔が浮かび上がる。

 

「("家族に、会いてぇ"…)」

 

純粋にそう思った。

 

「(親父、お袋、雪絵(ゆきえ)夜琉(よる)…)」

 

探偵の概念なんぞ知らんと言いたげな型破りな父親、ちょっと幼いような外見でいつもポヤポヤしてる母親、まだまだ兄離れの出来ない性格が真逆な2人の妹を思い浮かべ…

 

「(まだ、俺は…死にたくねぇ…)」

 

強い…それは強い意志を秘めた眼差しとなる。

 

『グルルルル…』

 

その忍の力強い眼差しを見て狼達が僅かに後退する。

 

そんな忍に呼応するかのように…

 

ドクンッ…

 

何かが脈動する鼓動のような音が響く。

 

「(なん、だ…? これは…俺の中から…?)」

 

忍が自らの胸倉を掴み、困惑する。

 

ドクンッ!!

 

「ぐっ…!!?」

 

一際大きな鼓動と共に忍の呻き声が漏れる。

 

「(なんだ…俺の中で何かが…)」

 

その時、忍の頭の中に声が響く。

 

『古の覇王達の魂を継ぐ者よ。今こそ反逆の時…』

 

「(古の、覇王…達…?)」

 

忍が訝しげにしていても声は続く。

 

『七星に導かれし、覇王達と共に…神へと反逆せよ』

 

「(意味わかんねぇよ! もっと詳しく聞かせろや!)」

 

『全ては…大迷宮の深部にて…』

 

「(大迷宮の深部…)」

 

『待っているぞ…』

 

声はそう言い残して消えてしまう。

それと同時に忍を襲っていた苦しさもなくなる。

 

「(とりあえず…鼓動は収まったが……特にこれといった変化もないのに、この場を凌げと?)」

 

ステータスプレートを見る暇なんてない。

しかも絶体絶命な状況は変わらずだ。

 

忍は思った。

 

「(今のなんかの覚醒シーンじゃねぇの?)」

 

と…。

 

『グルルルル…』

 

忍の異変が終わったと感じ、じりじりと詰め寄ってくる狼達。

 

「(あ、詰んだ…)」

 

そう思ったものの…

 

「(いやいや、弱気になるな、俺…とにかくだ。なんかしないと死ぬ。つか、さっきの覚悟はどした?)」

 

何かに覚醒したかと思えば、なんともやるせない気持ちが心を支配しそうになるが、気を持ち直して…

 

「(とりあえず……)退け!!」

 

ちょっと凄んで大声で叫んでみた。

 

すると…

 

ビクリッ!!

 

狼達はその大声に身震いすると、その場から離れ始めた。

 

「………………へ?」

 

そんな予想外の状況に忍もポカンと間抜けな表情になってしまう。

 

「ど、どういうこと…?」

 

首を傾げつつもゆっくり出来る時間を手にした忍はステータスプレートを見ることにした。

もちろん、地下水から出て近くの岩に腰掛けて…。

 

-----

 

レベル:3

天職:反逆者

筋力:50

体力:65

耐性:35

敏捷:80

魔力:35

魔耐:25

技能:七星覇王[+覇気]・言語理解

 

ーーーーー

 

「え~と…なんか技能が増えてんだけど?」

 

訓練でほんのちょっとレベルやステータスは上がってるものの、それ以外はよくわからないものだったが、何やら技能の欄に『覇気』というのが加わっていた。

 

『覇気』

覇王の気質を持つ者が放つ威圧感。

研ぎ澄ませば特定の個人や集団だけに対して効果を発揮する。

要するに覇王専用の威圧と思えばいい。

 

「とりあえず、これで近付く奴は追っ払えるか?」

 

そんなことを呟きながら"当分は水だけで生活か~"と肩を竦める忍だった。

 

………

……

 

一方のハジメはというと…

 

「錬成! 錬成! 錬成ぃ!!」

 

左腕を失いながらも残った右手で壁を錬成して横穴を作り、必死に目の前の捕食者から逃げようとしていた。

 

ハジメもまた忍と同じ階層の別地点で目覚めていた。

そして、濡れた服を乾かすと移動を開始して彷徨っていた。

そこで見たのは階層での生存競争だった。

 

忍を追い詰めた狼達がウサギ型の魔物に倒されるのを見て逃げようとしたが、物音を立てたがために左腕を砕かれてしまっていた。

この時点ではまだ左腕を砕かれて嬲られただけだったが、次の熊型の魔物がウサギを狩り、捕食した後にハジメに襲い掛かってきた。

その熊は爪を飛ばしてきてハジメの左腕を斬り飛ばし、目の前で捕食したのだ。

 

そして、向けられた視線は完全に餌を求める肉食獣のそれであった。

それに耐えられず、ハジメは根源的な恐怖を抱いたまま、壁を錬成して逃げている最中、といったところなのだ。

 

そして、ある程度の錬成で捕食者が諦めると知ると、その意識を手放してしまった。

不思議と液体のような水滴を頬に感じながら…。

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