もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第四十九話『ハルツィナ大迷宮・破』

チュンチュン、チュン

 

 朝を知らせる鳥の声が閉め切ったカーテンの外から聞こえてくる。

 

「んぁ…?」

 

 ベッドから身を起こし、しばしボケ~っとする忍だったが…

 

「朝練に行かねぇと…」

 

 ベッドから降り、チームジャージに着替え始める。制服はスポーツバッグに入れて準備を済ませると、学生鞄に今日の授業分の教科書やらペンケースを入れて部屋から出る。

 

「あ、お兄ちゃん、おはよう」

 

 部屋から出た忍の隣の部屋から銀髪紫眼の美少女(キッチリした学校の制服姿)が出てきて忍に挨拶する。

 

「おう、『雪絵(ゆきえ)』か。いつも早いな。『夜琉(よる)』は?」

 

「まだ寝てるよ」

 

 銀髪紫眼の美少女こと『雪絵』。忍の妹の1人だ。その雪絵が苦笑いを浮かべながら忍にもう1人の妹のことを伝える。

 

「また遅刻しなきゃいいが…後でちゃんと見てやってくれよ?」

 

「うん。夜琉ちゃんのことは任せて」

 

 くすっと微笑みながら雪絵が忍の隣を歩いて階段を下りていく。

 

「(双子でなんでこうも違うかね…)」

 

 同じ環境で育ったにも関わらず、なんでこうも違うように育ったのか、忍は不思議でならなかった。ちなみに夜琉というのは忍のもう1人の妹で雪絵の双子の姉である。黒髪琥珀眼の美少女なのだが、雪絵と違って少しズボラというか大雑把な性格をしている。

 

「あら、おはよう。忍君、雪絵ちゃん」

 

 そんなことを考えながら忍と雪絵が降りてくると、リビングダイニングで朝ごはんの準備をしている銀髪碧眼の女性(かなり若く見える)が、2人に挨拶した。

 

「おはよう、母さん」

 

「おはようございます、お母さん」

 

 その女性こそ、忍達の母親である『雪音(ゆきね)』だ。外人離れした容姿をしているが、れっきとした日本人である。ただ、遠い祖先にロシア系の血が流れているらしい。

 

「父さんは?」

 

「昨日遅かったみたいだからまだ寝てるわ」

 

「探偵業も大変だよな…」

 

 そんなことを呟きながらテーブルの席に座る忍と、雪音の手伝いをするためにエプロンを着ける雪絵。

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「サンキュ」

 

 モーニングコーヒー(ブラック)を雪絵に淹れてもらい、その匂いを嗅いでから一口飲む。

 

「(あれ? なんか匂いが強い気がしないでもないが…って、匂いに敏感とか俺は犬かよ……………………なんか、自分で言っといてモヤモヤすんな)」

 

 そんな風に考えていると…

 

「お兄ちゃん? 美味しくなかったですか?」

 

「え? あぁ、いや、悪い。ちょっと考え事してたわ」

 

 雪絵の声にハッとした忍は自分の表情が険しくなってたのに気づき、すぐに笑みを浮かべた。

 

「忍君。時間は大丈夫?」

 

「っと、そうだそうだ。今日も今日とて朝練だった」

 

 雪音の用意してくれた朝食を食べると、テーブルの横に置いた学生鞄とスポーツバッグを持って立ち上がる。

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

「いってらっしゃい、忍君。車に気を付けてね」

 

「俺は小学生か!」

 

 雪音の天然発言にツッコミを入れてから玄関を出る忍は少し小走りで学校へと向かった。

 

「(あれ? 俺ってこんなに遅かったっけ? ……………………まいっか。別に"本気出さなくても楽しめればいいし")」

 

 などと考えつつも学校に着くと、体育館へと直行した。

 

「うぃ~っす」

 

「よぉ、忍」

 

「紅神先輩、ちわっす」

 

「紅神! 荷物くらい部室に置いてこい!」

 

 そんな風に部活の先輩後輩同級生と駄弁りながら朝練に精を出す。

 

 そんな中…

 

「もう! しぃ君! 私を置いてかないでよ!」

 

 朝練も終盤に差し掛かった頃に体育館の入り口に腰まで伸ばした緋色の髪を水色のシュシュでポニーテールに結い、藤色の瞳を持ち、可愛らしくも綺麗な顔立ちに学生にしては大人顔負けの豊満な体型の持ち主の女生徒(制服姿)がぷんすかしながら入ってくる。

 

「げっ、明香音」

 

「何が『げっ』よ? "恋人"を置いてくなんて酷いんじゃない?」

 

「いやぁ~、ハッハッハッ。悪かったって…あとで埋め合わせすっから許してくれよ。な?」

 

「もう! 調子いいんだから!」

 

 などというやり取りに…

 

「けっ! 見せつけやがって!」

「天月先輩と恋人とか、ホント羨ましいなぁ~」

「うちの部のマドンナだったのにな。ったく、これだから幼馴染み属性は…」

 

 部員達がこぞって忍に嫉妬の眼差しを向けている。

 

「(いやぁ…恋人になってまだ少ししか経ってなんだけどな……………………あれ? 少し? もうだいぶ経ってた気がするけど…)」

 

 忍が妙な違和感を覚えていると…

 

「しぃ君? 聞いてるの?」

 

 明香音が忍の顔を覗き込んで尋ねてきた。

 

「あ? あぁ、悪い悪い。ちとぼ~っとしてた」

 

「もう、本当に反省してるの?」

 

 そんなことを言いつつも『仕方ないな』と言わんばかりに笑みを浮かべる明香音に…

 

「(そうだよな。ここに明香音がいる。それだけで、俺は…)」

 

 忍はそんなことを考えていた。

 

 

 

 その後、忍は普通に学校生活を送った。授業を受け、昼飯を親友の南雲 ハジメと食べながら駄弁り、放課後の練習にも精を出し、帰宅する。

 

「いらっしゃい、明香音ちゃん」

 

「お邪魔します、雪音さん」

 

 本日の夕食は明香音も招待していた。元々、家族ぐるみの付き合いがあったし、明香音の両親は今日から小旅行に出かけていて家にはいないのだ。そのため、両親が帰ってくるまで忍の家に厄介になるようだ。

 

「あ、兄さん、お帰り~」

 

「あぁ、ただいま。夜琉」

 

「明香音さんもようこそ」

 

「夜琉ちゃん、しばらくよろしくね」

 

 忍の妹と明香音はそれなりに仲が良く姉妹みたいにも見えるが、こと忍に関係したことになると、たまに火花を散らすことがある。理由は…まぁ、色々あるよね。

 

 夕食後、風呂にも入り、自室に引っ込んだ忍は…。

 

「なんか、今日はやけに違和感の強い日だよな」

 

 朝から本能的に感じた違和感の考察をしていた。

 

コンコン。

 

「しぃ君。起きてる?」

 

「明香音? あぁ、起きてるぞ」

 

「入ってもいい?」

 

「あぁ」

 

 ガチャ、とドアを開けた明香音は桜色のパジャマ姿だった。下ろした髪は乾かしているが、風呂上り特有の上気して赤みがかった頬はなんとなく色っぽい。

 

「どうした?」

 

「今朝の、埋め合わせ…してもらおうかなって…」

 

 髪を指で弄りながら明香音が上目遣いで忍を見る。

 

「そう、だったな。何してほしいんだ?」

 

「うん。今夜は一緒にいていい?」

 

「そんなことならお安い御用ってな」

 

 そんなことを言いながら忍がふと…本当に、何となし気に聞いた。

 

「なぁ、明香音。俺、本気を出さなくてもいいんだよな?」

 

 その質問に明香音から返ってきた答えは…

 

「? うん、しぃ君はしぃ君で今のままでいいと思うよ?」

 

 こうだった。

 

「……………………」

 

 その瞬間、忍の脳裏に過ぎる光景があった。

 

『だからね。本気になった今のしぃ君を、いつか、必ず見せてね? そしたら、また惚れ直すから』

 

 それは、告白した時のことだ。あの時、明香音は忍の本気が見たいと言った。ならば、今の言葉は矛盾してないだろうか? それを自覚した時、忍は全てを思い出す。今が、"大迷宮攻略の途中"であることを…。

 

「そうか…これが試練か」

 

「しぃ君?」

 

 忍の様子が変と感じた明香音が近寄ってくる。

 

「……………………」

 

 幻である明香音を一瞥してその手を握ると…

 

「明香音。必ず帰るからな」

 

「? しぃく…」

 

「だから、こんな夢はもうおしまいだ。俺は、現実で明香音の元に帰るんだからな!」

 

 そう言って明香音の手を離すと同時に、忍の背後から光が漏れ始める。

 

「待ってろよ、明香音!」

 

 その光に向かって忍は駆け出した。

 

………

……

 

「ぬがぁ~! ご主人様の折檻はそんな生温くないわぁぁぁ!! 一から出直してくるんじゃな!!」

 

「ん?」

 

 そんな叫び声を聞いて忍はむくりと起き上がる。

 

「ここは……そうか、夢から覚めた訳だな」

 

 1人寂しくそのことを認識していると…

 

ドパンッ!!

 

 銃声が聞こえてきたのでそっちを見れば、さっきの声の主…ティオが後頭部から地面に激突し、寝返っているとその背中をハジメがグリグリと容赦なく踏みにじっていた。

 

「え、なに、このアブノーマルプレイ?」

 

 せっかく起きたのに見せつけられるアブノーマルプレイに引き攣った表情をする忍だった。

 

「おう、忍。お前も起きたのか」

 

 ティオに折檻してから忍が起きたことにも気付いたハジメが声を掛けてきた。

 

「あぁ、うん。ティオさんと同じタイミングってのは、俺的にショックかな」

 

 そう答える忍は既に起きているハジメ、ユエ、シアを見て少し残念そうにしていた。

 

「てか、ユエさんもティオさんも元の姿に戻ってるのな」

 

 今更ながらその事実に気付き、どういう構造してんだよ、と大迷宮の謎仕様に頭を捻る。と、誰かしらが閉じ込められている琥珀が輝き、中の人物がさらに目覚める。その人物とは、香織だった。香織は目覚めると、ハジメの顔を見るなり距離を取ってしまい、誤解だと弁解する。

 

 まぁ、ともかくとしてハジメ達側の面子はこれで全て起きたことになる。残るは勇者パーティーだが…

 

「ま、しばらく待ってみるか」

 

 ハジメがそう言うと、起きた面子は体感的に3時間ほど勇者一行の目覚めを待った。その間にハジメ達は休憩がてらティータイムをしていた。

 

「そろそろ助けに入るか…」

 

「まぁ、時間も有限だしな」

 

 といった風に話していると、香織が"もう少しだけ"と懇願してくる。その言葉に呼応するかのように一つの琥珀が輝きだす。

 

「あの琥珀は……っ! 雫ちゃん!」

 

「やっぱり、一番早かったのは八重樫か」

 

「流石は八重樫さん、ってとこかね?」

 

 雫が目覚め、その休息も兼ねてさらに数時間、光輝達が目覚めるのを待ったが、一向に目覚める気配がないので強制脱出が決定された。

 

「じゃあ、香織。任せた」

 

「うん、任せて」

 

 香織がノイントの使っていた『分解』で、琥珀だけを分解して光輝達を強制的に目覚めさせたのだ。目覚めた時の反応は皆一緒に見えたが、その後の反応はバラバラだった。特に鈴など、親友と信じていた者の名を呼んでいたくらいだったのだから…その夢の内容と心情はかなり傷付いていると見るべきだ。

 

 だが、ここは大迷宮。こちらの事情などは鑑みられることなどなく、全員が目覚めたのを見計らってか、新たなステージに強制転移させられることとなる。

 

………

……

 

 転移した先は、再び樹海の中だったが、"天井"があることから地下空間にあると推察出来る。さらに最初の樹海と違い、空間の一番奥に一際大きな巨木があるので、今度はそこを目指すのだろうと判断出来た。

 

「今回は全員いるみたいだな」

 

「匂いも異常なし」

 

 ハジメと忍がまた偽物がいないか、チェックしてから出発の号令をかける。が、チラリと後ろを見れば、龍太郎はともかく、光輝と鈴の表情が曇っている。

 

「天之河、谷口。お前等、やる気あるのか?」

 

 それを見兼ねてハジメが棘のある言葉を投げつける。

 

「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」

 

「え? あ、あるよ!」

 

 いきなりの言葉に光輝も鈴もそう答えるが、その苦悩に満ちた表情からは感情が手に取るようにわかる。が、そんなことは知ったことかとハジメは言葉を続ける。

 

「ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、1秒先の未来、そこに死が手ぐすね引いて待ってるような場所だ。集中出来ねぇようなら、攻略は今ここで諦めろ。無駄死にするだけだからな」

 

「ま、待て…俺は…」

 

「何をどう言い訳したところで、さっきの試練をクリア出来なかったことに変わりはない。なら、最低でも必要なのは、こっから先に待ち構えてるだろう残りの試練を全て踏み越えてやるという決意だ。今のお前等からはそれが見えない」

 

「………お、れは…」

 

「出来そうなら大迷宮の外までゲートを開いてやるし、出来なくても結界くらいは敷いてやる。ここから進むか、それとも退くか。今決めろ。惰性で進むことは俺が許さない」

 

 ハジメの言葉に辺りが静寂に包まれる。今の言葉で、光輝は自分が許せない気持ちで胸がいっぱいになるも、深呼吸を繰り返すことで心を落ち着けさせると…

 

「南雲。もう大丈夫だ。俺は先に進むぞ!」

 

「……………………」

 

 実力はともかく、意気込みは復活したと判断し、ハジメは光輝から鈴に視線を移す。

 

「鈴も行く! 気合十分だよ!」

 

 鈴の方も空元気そうだが、意識が現実に戻ってきたと判断したため…

 

「そうか、ならいい。集中を切らせるなよ」

 

 そう言ってハジメが先頭を歩いていく。その背を皆が追い、殿を忍が務めた。

 

 そうして進んでいるのだが、道中は虫の声すら聞こえてこない静寂で満ちている。その周囲の様子に一行は嫌な予感を感じていたが、ハジメの危険発言を諫めつつ普通に進むことを選んだ。

 

 が、ここで異常事態が発生する。

 

「……ん? 雨か?」

 

 光輝の何気ない一言に、ハジメ、忍、ユエが反応する。

 

「チッ、ユエ!」

 

「……んっ、『聖絶』!」

 

「匂いも特にしなかったが…くそったれ!」

 

 ユエが空側に障壁を展開すると、ユエの張った障壁に何かが弾かれてその表面を"ドロリ"と滑り落ちていく。

 

「明らかに雨じゃねぇだろ!」

 

「そもそも雨が降る空間でもねぇだろ!」

 

 そんなことを言い合いながら周囲を観察す忍とハジメに雫から声が掛かる。

 

「2人共! 周りが…!」

 

 その声に2人も周りを見れば、乳白色の何かが蠢いていた。

 

「スライムか?」

 

「ハジメの魔眼石や俺の鼻にも引っ掛からないって、どんな隠密性だよ!」

 

「南雲! 紅神! 足元からも!」

 

 そうこう言ってる合間にも地面からも乳白色のスライムっぽいものが這い出てくる。『聖絶』は球状に障壁を張るため、地面にも展開が可能なのだが、展開した時に既に地面に潜んでいたものまでは範囲の対象外なのだ。

 

 そうして障壁内でもスライム討伐が行われたのだが…正直、絵面が悪かった。なにせ、"乳白色の、ドロリとした、スライム"であるため、それが女性陣に飛び散ると非常に心象的にマズい。ハッキリ言ってこんな魔物(でいいのか?)を配置したハルツィナさんの心持ちが気になるところだ。

 

 纏雷を持つハジメと忍はスライム限定の無敵状態になって迎撃しているが、忍はともかくとしてハジメの心境は、もしユエ達の今の姿を光輝と龍太郎が見ようものなら目潰しも辞さない覚悟だったが、何が起こるかわからない以上、それは自重していた。

 

「結局はこうなんのか…」

 

 ハジメはそう呟くと、障壁の外にクロスビットと円月輪を転送した。結果として、忍とは違ったやり方でこの場は灼熱地獄と化した。具体的にはメタリックな蜘蛛型ゴーレムで、天井の穴を塞ぎ、フラム鉱石(タール状)を黒い雨のように降らして乳白色のスライムに浸透させてからクラスター爆弾による絨毯爆撃で焼き尽くしていたのだ。

 

 その後、地面からも這い出ることのないように天井に張り付いていた蜘蛛型ゴーレム達を呼び戻し、地面も錬成していくハジメを見て各々が少し休憩する。

 

 が、ここで更なる異常が発生する。ハジメと忍、"ティオ"を除いたメンバーが発情状態に陥ったのだ。

 

「くそったれ! これがあのスライムの神髄か!」

 

 悪態を吐くハジメが大迷宮に入った直後に偽ユエに使った拘束型アーティファクト『ボーラ』を光輝、龍太郎、鈴に使用し、身動きを封じていた。あのままでは男衆は雫や鈴を襲っていたに違いないし、鈴も女の子同士の扉を開け放ちそうだったからだ。

 

「むぅ、ご主人様にシノブよ。無事かの? どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっとったようじゃの」

 

「「っ!?」」

 

 そんな風に平然と話し掛けてきたティオにハジメと忍が目を丸くする。それを知ってか知らずか、ティオは己の見解を口にする。

 

 曰く『快楽に溺れさせることでの人間関係の破壊と、その後の不調和。さらに快楽による魔法阻害といった副次的な意味合いもある』とのこと。

 

「「……………………」」

 

 すらすらと己の見解を話すティオにハジメも忍も度肝を抜いていた。何故なら、障壁内での討伐でスライムの被害を一番被っていたのは、何を隠そうティオなのだ。ちなみにハジメも忍も毒耐性があるので、平気だった。

 

 なので、ハジメは尋ねてみた。

 

「その推測には俺も同意する。あのスライムが元凶なのは間違いない。でもな、ティオ。あの粘液を一番浴びてたのはお前だよな? なのに、なんでそんな平然としてられる?」

 

「確かに、妾の体も粘液の効果が出ておる。しかし、舐めてくれるなよ、ご主人様よ。妾を誰だと心得ておる?」

 

「ティオ…」

 

「いやぁ、今回ばかりはティオさんのことを見直し…」

 

 ハジメと忍がティオのことを見直して感動しそうになった瞬間…

 

「妾はご主人様の下僕ぞ! ご主人様から与えられる快楽に比べたら、こんな快楽は生温いにも程があるわ! 妾をそこいらの尻軽女と同じと思うてくれるなよぉ!!」

 

「「そうっすか」」

 

 ティオの残念過ぎる熱弁に、"俺達の感動を返せ!"とばかりに冷たくもまるで汚物を見るような視線を向けるハジメと忍だった。

 

「流石はティオさん…いや、クラルスさんっすわ。マジ、パないっすわ。とりあえず、それ以上近寄ってこないでくださいね?」

 

「け、敬語じゃと?! しかも族名呼び!? 半端ない距離感じゃ! まさか、このタイミングで他人扱いとは!!」

 

 ハジメの敬語と距離感で快楽に負けそうになるティオを見て…

 

「シオンが見たらまた泣くだろうな…」

 

 忍はここにはいないシオンのことを思って呟く。

 

 その後、ユエ、シア、香織の3人にハジメがちょっと意地悪な文句を言い、ハジメに抱き締められながらも、なんとかその身に襲い掛かってくる快楽を克服しようと精神を集中させていた。その際、ティオも混ざりたかったらしいが、ハジメの他人行儀な態度に堕ちかける。

 

 そして、見事精神力だけで快楽を乗り切った3人はハジメの腕の中で嬉しそうにし、同じく精神統一で耐え凌いだ雫がハジメの元にやってくる。ちょうど蜘蛛型ゴーレムの錬成も終わったので、ついでだから着替えも済ませろとみんなに伝える。さらにティオにも一矢報いたとしてティオへの態度を元に戻すのを横で見ていた忍は一言…。

 

「ハジメ、お前も十分変態のご主人様の素質があるって」

 

「忍。嫌なことを言うなよ。どこからそんな評価が出てきた?」

 

「ティオさんと相対する時の自分の顔を鏡で見て見ろよ。すっげぇ嗜虐心の塊みたいな表情だったぞ?」

 

「ハハハ、何を馬鹿な」

 

「現実逃避をしたって俺からはそう見えたんだよ」

 

 ジト目でハジメを見る忍に、ハジメは真面目に取り合わなかった。

 

 そして、簡易更衣室で着替え終わったメンバーは…一部を除いてサッパリしたようだ。まぁ、その一部は光輝、鈴、龍太郎なのだが…。

 

 とにもかくにも次なる試練へと向かい、巨木の元へと向かい、再三に渡る根元の洞窟からの転移が行われたのだった。はてさて、次はどんな試練が待ってるのやら…。

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