もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第五十話『ハルツィナ大迷宮・急』

 一行が転移した先は、また洞窟の中だった。だが、今度は前方に光があり、そこへ進めということだろう。ハジメと忍の偽物チェックも全員白だと判断され、そのまま光の方へと進んでいく。

 

 光の先にあった光景は…

 

「こりゃあ、おったまげた…」

 

「まるでフェアベルゲンみたいだな」

 

 洞窟の先は、そのまま通路になっているのだが、その通路というのが巨大な枝だったのだ。よく観察すれば、出てきた洞窟も巨大な樹の幹の一部に空いていたものだとわかる。そして、巨木の枝も大きいがために通路となっているようだ。さらに巨木から生えた枝が空中で絡み合って空中回廊のようになっている。

 

 上を見上げると、石壁が見えるのでここが広大な地下空間だというのが分かる。つまり、今一行がいる空間というのは…

 

「……大樹?」

 

 地上に見えた大樹は先端部分であり、根はもっと深い場所にあるということになる。そんな大樹の神秘に一行が驚嘆していると…

 

「?」

 

 シアのうさ耳が何かの音を拾ったようだ。枝の淵に移動して下を覗くが、音は聞こえど姿が見えず、といった状態だった。ただ、生理的嫌悪感を覚えたらしく、鳥肌が立っている。

 

「あの、ハジメさん」

 

「どした?」

 

「なんだか、下の方から嫌な音が聞こえてくるんですけど…」

 

「嫌な音?」

 

「はい。でも、私の目じゃ見えなくて…」

 

「あぁ、俺に確認しろと?」

 

「はい、お願いします。何か、蠢いている、ような?」

 

「……嫌な音ってのはよくわかったよ」

 

 シアに呼ばれたハジメは、そのまま枝の淵に移動し、そこから下を覗き込む。ハジメには『夜目』と『遠見』があるので、暗い場所でも見えるのだ。だが、今回はそれが裏目に出ることとなる。

 

「? ……………………ッ!?!?」

 

 しばし下を凝視していたハジメだが、その正体を知った途端、声にならない叫びと共にガバッと顔を仰け反らせて目頭をキツく指先で摘まみながら青褪めた表情になる。

 

「は、ハジメさん!? 一体、どうしたんですか!?」

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

 一体何事かと、他のメンバーも集まってきた。その内の1人、忍も下を覗き込むと…

 

「ほほぉ。これはこれは…また大量だな」

 

 忍もまたハジメと同様の『夜目』と『遠見』を持つが故に見えたのだが、反応が些か違う。

 

「なんでテメェはそんな余裕そうな表情してんだよ!?」

 

 忍の反応にハジメはまるで自分がおかしいみたいな感じになりそうだったので、忍を問い詰めた。

 

「いやまぁ…別に深い意味は、ね?」

 

 そう言いながらも微妙に視線を逸らす忍。

 

「何が"ね?"だ! 絶対なんかあるだろ! 白状しろ!」

 

「えぇ~…言ったら絶対にドン引きされるから言いたくねぇんだけど…」

 

「いいから言え!」

 

 ハジメの剣幕に忍は肩を竦めて諦めたように語る。

 

「しょうがねぇな。親父のサバイバル訓練の一環として"喰った"ことあるんだもん」

 

「喰っ!?!?」

 

 その言葉にハジメが絶句した。魔物を喰っておいてその反応もどうかとは思うが…おそらくはジャンルの違いだろう。

 

「ほらね? やっぱり、ドン引きされた。だから言いたくなかったんだよ」

 

『???』

 

 などと会話しているハジメと忍だが、他のメンバーには何のことか、サッパリわからなかった。

 

「あの悪魔を喰うとか、正気を疑うぞ!?」

 

「魔物喰ってる俺等にとってはもう似たようなもんだろうに…」

 

「全然違ぇよ!」

 

「えぇ~…」

 

『悪魔?』

 

 ハジメの言葉に忍以外のメンバーが首を傾げていると…

 

「そうだよ! お前等もよく知ってる黒い悪魔だ!」

 

 そう言うと、ハジメはクロスビットを一機だけ出して下へと降下させる。そして、小型の水晶ディスプレイを皆が見えるように掲げる。

 

 そして、僅かなノイズの後に映し出されたのは…

 

『ッ!?!?!』

 

 Gというの名の黒い悪魔…そう、皆さんご存じ『ゴキブリ』だ。しかも尋常じゃない夥しい数の…。

 

「な、なんてもの見せるのよ!」

 

「うぅ…GがGがあんなにいっぱい、いっぱいぃ!?!」

 

 雫と鈴が鳥肌が立った腕をさすりながら青褪めさせて目を背けた。他のメンバーも似たり寄ったりだ。そして、さっきの会話を思い返した光輝が忍を見て呟く。

 

「そ、そういえば、今さっき紅神が恐ろしいことを言ってたような…」

 

『ッ!!?』

 

 その言葉に忍を除いたメンバーが忍をまるでエイリアンでも見るかのような畏怖の視線を向ける。

 

「いや、だから…ゲテモノ料理とかでもあるし…俺が喰ったのは自然にいた奴だから、そんな害はないんだって。確か、漢方にだって使われることがあるとか…」

 

『具体的なことを言うな!!』

 

 忍以外の全員から怒声のツッコミが入る。

 

 忍の株がだだ下がりした後、一行は道なりに進んで枝通路が4本合流してる地点があったので、そこを目指すこととなった。そして、到着してからどうするか悩んでいると…恐れていた事態が起きた。

 

ヴヴヴヴヴヴヴヴ!!!

 

 下から大量の羽音が聞こえてきたのだ。

 

『ッ!?!』

 

 眼下を確認すると、大量のゴキブリが下から津波の如く押し寄せてきたのだ。

 

『------ッ!!!』

 

 声にならない悲鳴、絶叫が木霊し、それぞれハジメはオルカン、ユエは雷龍、シアは炸裂スラッグ弾、ティオはブレス、香織は分解砲撃、光輝達も咄嗟に放てる遠距離攻撃で迎撃した。ただ1人を除いては…

 

「皆、騒ぎ過ぎだろ。たかが非常食相手に…」

 

 とは言いつつも流石にここで迎撃しないと後で何を言われるかわからないので、忍もバレッテーゼ・フレアで迎撃する。

 

「うぅ……『聖絶』ぅ!!」

 

 そんな中でもゴキブリ達は波の如く高く上がると、一気に一行へと向かってきたのだが、鈴の張った障壁にベチャといった生々しい音と共に体液を撒き散らしたり、障壁の上をカサカサと移動したりと視覚的にもかなりアウトな光景だった。

 

「……………む、り……」

 

 鈴の意識が飛び退きかけるのを光輝が支えて必死に呼びかける。

 

「寝るな、鈴ぅ! 寝たら死ぬぞ! 俺達の精神が!!」

 

 まぁ、こんな大量のゴキブリが襲ってきたら、そらトラウマもんだわな。

 

 そうこうしてる内にゴキブリ達の一部が魔法陣を形成するように並び始めた。

 

「おいおいおいおい。まさか、魔法陣を形成してるのか?」

 

 ハジメの言葉にその魔法陣を形成しようとしているゴキブリ達に攻撃が再開されるも、ゴキブリ達の津波が肉壁となって阻む。

 

「むぅ…距離が掴みにくいな…」

 

 バレッテーゼ・フレアは空間認識力が必要な技なので、これだけいると適当に放っても威力は出せるが、特定の場所に放つとなると距離感も必要になるらしく、忍も少し苦戦していた。

 

 だが、その努力も虚しく、魔法陣が関S寧してしまったようで、魔法陣から強烈な赤黒い光が放たれ、光が収まると魔法陣の中央にあったゴキブリ達の塊が、体長3メートルはある巨大ゴキブリとなって顕現した。巨大ゴキブリとは言えど、そのフォルムはゴキブリとは言い難く、ムカデのような胴長で足が10本はあり、一番前の足は刃物のように鋭い指があり、背には3対6枚の半透明の羽が生え、顎も鋭く巨大で、黒一色の眼がある。一目見てボス級なのは間違いなかった。

 

『ギギチチチチチッ!!』

 

 そのボスゴキブリが他のゴキブリ達を操ってまた別の特殊なゴキブリを呼び出そうと魔法陣を形成し始める。

 

「チッ、させっ…!?」

 

「……んっ!?」

 

「下か!?」

 

 ハジメ、ユエ、忍がボスゴキブリに攻撃を仕掛けようとした瞬間、枝の裏側に別の魔法陣が形成してたらしく、それが発動して赤黒い魔力の奔流が辺り一帯を包み込んでいた。

 

 光が収まると、無傷の一行がそこにはいたが…

 

『……………………』

 

 纏う雰囲気は最悪の一言だった。誰も彼もが、結界内にいる誰かしらに殺意を向けている。具体的にはハジメとユエが互いに武器を構えてメンチを切り合い、それを仲裁するでもなくシアが2人に殺意を抱き、忍もハジメの背後から銃口を突きつけ、香織と雫の関係も最悪と化している。そんな中、光輝がハジメや忍を仲裁しようとしているが…。

 

 原因はさっきの魔法陣だ。おそらくは発動時に光を受けた者の感情を反転させたのだろう。その絆が深ければ深い程に反転した時の感情も比例するのだろう。さらに言えば、ゴキブリ達に対しても悪感情から愛おしさに代わっていたが…。

 

 だが、感情が反転しても記憶は残るので、その記憶を頼りに今の状況を推測したハジメとユエはボスゴキブリを、忍、シア、ティオ、香織はボスが呼び出した中型ゴキブリ達を激情のまま蹂躙していった。残った光輝達は小さなゴキブリ達を相手にしたが…。

 

 そして、ユエが新たな魔法『神罰之焔』を発動させ、一行以外の者を全て焼き尽くしていた。

 

 『神罰之焔』。それは炎系最上級魔法『蒼天』を重力魔法で計10発分を圧縮し、さらに魂魄魔法でユエが"選定"した魂を持つ者だけ、或いは指定しなかった魂を持つ者だけを焼き滅ぼす殲滅魔法だ。

 

 ただ、蹂躙中にハジメ達側は自力で反転作用から脱したようで、光輝達側は雫を除いて落ち込んでいたりする。

 

 その後、天井に向かって新たな枝の通路が現れ、そこを登っていくことになった。その際、ハジメとユエが離れなかったので、シアと香織が左右、背後からティオがそれぞれ抱き着いてハジメがミノムシのような状態にもなったが…。

 

………

……

 

 一行が登った先に待っていたのは…庭園だった。学校の体育館程度の大きさの庭園は、可愛らしい水路と芝生のような地面、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、小さな白亜の建物と、一番奥には円形の水路で囲まれた小さな島の中央に一際大きな樹、その樹の枝が絡みついた石板があり、その前にはちょこんと黄金の宝玉が置いてあった。

 

「ここがゴールで間違いないな」

 

「だな。宝玉もあることだし」

 

 そう言ってから奥の小さな島へと渡る一行。その瞬間、石板が輝き、水路に若草色の魔力が流れ込んで魔法陣を形成する。元々、水路そのものが魔法陣の役割だったのだろう。

 

 いつものように記憶を精査され、直後に知識を刻まれていく。

 

「うっ」

 

 約1名が呻き声を上げる中、忍が宝玉を回収しようと歩き始めた時だった。石板に絡みついた樹がうねり始めたのだ。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に身を引く忍と身構えるハジメ達を尻目に樹はぐねぐねと形を変えていき、女性のような人型となる。

 

『まずはおめでとう、と言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大限の敬意を表し、酷く辛い試練を仕掛けたことを深くお詫び致します』

 

 どうやらオスカーのような記録媒体なのだろう。リューティリスの記録は、神々解放者の関係や過去の悲劇、絆についてを説き、この大迷宮で与えた神代魔法『昇華魔法』についても語った。

 

 だが…

 

『この魔法の真価は、もっと別のところにあるわ』

 

「ッ!」

 

 その言葉にいつもの記録か、と高をくくって焦れていたハジメの眼がクワッと見開かれた。

 

『昇華魔法は、文字通り全ての"力"を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法。これらは理の根幹に作用する強力な力。その全てが一段進化し、さらに組み合わせることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔……"概念魔法"に』

 

「最後の一つは『変成魔法』っていうのか…」

 

 忍がポツリと呟く合間にもリューティリスの記録は語る。

 

『概念魔法。そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。但し、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても、容易に修得することは出来ないわ。何故なら、概念魔法は理論ではなく"極限の意志"によって生み出されるものだから』

 

「極限の、意志…?」

 

『わたくし達、解放者のメンバーでも7人がかりで何十年かけても、たった3つの概念魔法しか生み出せなかったわ。もっとも、わたくし達にはそれで十分だったのだけれど…。その内の1つをあなた達に…』

 

 リューティリスの言葉の後、石板の中央がスライドし、奥から懐中時計のようなものが出てきた。ハジメが代表してそれを手に取る。

 

『名を"導越の羅針盤"。込められた概念は、"望んだ場所を指し示す"よ』

 

「っ…!」

 

 それを聞いてハジメの心臓が跳ね上がる。

 

『全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた達はどこまでも行ける。自由な意思の下、あなた達の進む未来に幸多からんことを祈っているわ』

 

 いつもの締め括りの言葉を紡いだ後…

 

『そして、もしこの場に覇王を継ぐ者がいるのなら…どうか、彼等の意志を、"元の世界へと連れて行ってあげて"。あの神の酔狂でこの世界に迷い込み、わたくし達に力を貸してくれた仲間を…』

 

「覇王とは、やっぱり別の世界から来た存在だったのか…」

 

『わたくし達には埋葬しか出来ませんでした。ですが、覇王を継ぐ者ならば、いつか彼等の魂を故郷へと連れて行ってくれると信じております』

 

 その言葉を最後にリューティリスの媒体は樹の中へと戻っていく。

 

「……ちょっと覇王と会ってくるわ」

 

 沈黙が場を支配する中、忍がそう言って石板の前に置いてある黄金の宝玉を手にした。

 

カッ!!

 

 直後、黄金のオーラが忍を包み込み、忍は背中から倒れた。

 

………

……

 

「……………………」

 

 忍は目がチカチカしそうな黄金の空間で、新たな覇王と対面していた。その覇王は白銀の龍鱗にその身を包んだ金色の瞳を持つ東洋龍だった。

 

『我が覇王の魂を継ぐ者よ』

 

 いつもの前口上だ。

 

『我が名は(すめらぎ)たる龍、"皇龍(おうりゅう)"。汝、皇であることを自覚せよ。皇の命令とは絶対なり。支配すべきは民草や兵に非ず。己が力を掌握せずして皇は名乗れぬ。支配せよ。己が運命を、己が力を、己が行くべき道を…支配して進んでみせよ』

 

「支配、か。覇王と皇…一体何が違うんだろうな? この前のは真道とも言ってたしな…」

 

 覇王の言葉の意味を考えるが、現状では答えは出てこなかった。

 

「まぁいいさ。もし余裕があったら…アンタらの魂をいつか元の世界に連れてってやるよ。ま、俺達が帰るの先だろうけどな」

 

『グオオオオオオッ!!!』

 

 龍の咆哮と共に忍の意識も覚醒していく。

 

………

……

 

「やけに自信なさそうに聞いてくるじゃねぇか。さては、お前等…ダメだったな?」

 

「「「うっ!?」」」

 

 ハジメの言葉に光輝、龍太郎、鈴の3人が胸を押さえて項垂れる。

 

「よっと…」

 

 それを聞きながら、忍がひょいっと起き上がり、ハジメ達の元へと向かった。

 

 

 

 こうして長かった大迷宮攻略は幕を閉じた。帰還への手掛かりを手に入れ、残る神代魔法はあと一つ。故郷に帰る日も、現実味を帯びてきて、そう遠くはないだろうと考えるハジメ達。

 

 次なる最後の大迷宮に挑む前に、一行はフェアベルゲンで休息を取ることとなったのだった。

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