もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第五十三話『心の底にあった闇と、最後の神代魔法』

 『氷雪洞窟』の中にあった迷路を抜けた先は、本格的なミラーハウスの様相を呈していた。

 

「これはまた凄いな…」

 

 鏡と見紛うほどの氷壁が通路を作り、合わせ鏡のようにしてそこにいる一行の姿を無数に映し出していた。

 

「ともかく、先に進みますか」

 

「そうだな。とは言え、何があるかわからないから全員警戒しとけよ」

 

 そうして先へと進む一行だったが、不意にそれは起きた。

 

「?」

 

 突然、光輝が立ち止まったかと思うと、キョロキョロと周りを見回したのだ。

 

「光輝? どうかしたの?」

 

 訝しむメンバーを代表して雫が尋ねると…

 

「あ、いや…今、何か聞こえなかったか? 人の声みたいな…こう囁く感じで」

 

「ちょ、ちょっと光輝君。やめてよ。そういうのはメルジーネだけで十分だよ…」

 

 光輝がそう答えると、ホラー系の苦手な香織が両腕をさすりながら抗議の声を上げる。

 

「他に何か聞こえた奴はいるか? シアと忍はどうだ?」

 

「いいえ。私には何も聞こえませんでした。人の気配もここにいる皆さん以外には感じません」

 

「俺も聞こえてないし、特に冷気の流れも変わってないぞ」

 

 ハジメが忍とシアに尋ねるが、2人共同じような反応を見せる。

 

「……確かに聞こえたと思ったんだけどな…」

 

 現状、光輝しか聞こえなかったようで皆の中で本当に気のせいだということになったが…

 

「……シア、忍、頼むぞ」

 

「あぁ」

 

「はいです」

 

 ハジメはどうも嫌な予感を覚えたようで、この中では1、2を争う索敵能力を持つ忍とシアに念を押す。

 

 

 

 それからしばらく順調に歩いていくと、再び光輝が声を上げる。

 

「っ、まただ! やっぱり気のせいなんかじゃない! また聞こえた!」

 

 周囲を見回す光輝に、他のメンバーは困惑顔だった。

 

「シア、忍」

 

「いえ、私には何も…」

 

「右に同じく。あと、空気の流れも変化なしだな」

 

「ふむ…」

 

 ハジメの確認に首を横に振るシアと忍にハジメは思案するような表情となる。

 

「天之河。とりあえず、落ち着け」

 

 そして、まずは光輝を落ち着かせようと声を掛ける。

 

「っ、南雲。本当なんだ。確かに、俺は…」

 

「わかってる。お前の気のせいで片付ける気はない」

 

「えっ?」

 

 今までの扱いが扱いだったので、光輝はハジメの言葉に目を丸くする。

 

「何らかの干渉を受けている。そう考えた方がいい。それが、この大迷宮の試練の1つだと言うなら、天之河だけじゃなく、ここにいる俺達全員も既に干渉を受けている可能性が高い。今のところ、防ぐ手立てがないのも事実だからな。全員、十分に注意して進め」

 

 真剣な眼差しで言ったハジメの言葉に光輝達も一度顔を見合わせると、互いに頷いてみせた。

 

 

 

 その後、囁くような声は全員が聞くこととなり、その声は誰しもが聞き覚えのある声音だったそうだ。そんな中、ハジメが声の正体を自分のものだと看破した。つまり、囁き声は自分の心の中の声だという。内容はそれぞれだが、心の中を土足で踏み荒らされてるような感覚に精神的な疲労が溜まっていく。

 

 小休憩を挟みつつも距離的に一気に攻略した方がいいと判断したハジメが全員にそう告げる。

 

 そして、一行が進んだ先は巨大な空間を発見し、その部屋の奥には迷路の時にも見た意匠の凝らされた巨大な門があった。

 

「ふぅ、ようやく着いたらしいな。あの門がゴールだ。だが…」

 

「ん……見るからに怪しい」

 

「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」

 

「確かに…まぁ、それが大迷宮の醍醐味とも言えなくはないが…実際にやられると面倒なことこの上ない」

 

 今までの経験則からそのように言いつつもハジメと忍が索敵を行うが、一切の反応はなかった。

 

「ちっ…行くしかねぇか」

 

 ハジメの先導でユエ達もそれぞれ後に続く。と、それは起きる。

 

「あ? ……太陽?」

 

 突如、頭上より光が降り注ぎ、それを見上げたハジメがそのように言う。他の面々も頭上を見上げれば、確かに"太陽"というべきものがあった。

 

「……ハジメ。周りが」

 

 ハジメが頭上を警戒しながら見上げていると、ユエから警告が入る。見れば、周囲の全てが煌めいていたのだ。天空から空を覆う雪煙を貫いて差し込む陽の光が空気中の細氷に反射することで起きる現象…ダイヤモンドダストだ。しかし、自然界で出来るものと明らかに違う点がある。その煌めきの強さだ。

 

「ダイヤモンドダストにしちゃあ、危険な香りがするな。全員、防御を固めろ!」

 

 ハジメの警告に一塊になった一行の周りをユエと鈴の聖絶が覆う。

 

 その直後…

 

ビィィッ!!

 

「っ!? まるでレーザー兵器だな!」

 

 部屋に浮かぶ幾百もの輝く氷片から溜め込まれた熱が閃光となって走る。特にハジメ達を狙った訳ではなく、まるで乱反射でもするかのように縦横無尽に閃光は部屋中を走っている。

 

「完全ランダムの無差別攻撃か」

 

 さらには空を覆っていた雪煙が降りてくる。視界を塞ぐつもりなのだろう。

 

「ちっ。視界まで奪われちゃかなわん。一気に駆け抜けるぞ!」

 

「ん……鈴、合わせて」

 

「は、はい! お姉様!」

 

 ハジメの号令で突破を狙うも、そう簡単にはいかないのが大迷宮である。

 

ズドンッ!!

 

 地響きを立てながら上空から迫る雪煙から、大型自動車くらいの大きさの氷塊が複数落ちてくる。その氷塊の中央には赤黒い結晶が見える。

 

「本命か…!」

 

 すると、氷塊は一気に形を変えて体長5メートルほどの人型となり、両手にはハルバードとタワーシールドを持ったゴーレムと化す。数は10体。ちょうど一行の人数と同じだ。そのフロストゴーレム達は横並びになってゴールの門を守るように立ちはだかる。

 

「蹴散らすぞ!」

 

「応!」

 

 ハジメの声に忍が呼応し、前に出ていた。そして、ユエと鈴以外のメンバーも攻撃に転じようとした時に、それは起こった。

 

「っ!?」

 

「え?」

 

 光輝の放った斬撃と龍太郎の放った衝撃波はハジメを、香織の放った分解砲撃はユエを、雫の放った斬撃はシアへとそれぞれ向かっていた。

 

「「「っ!!」」」

 

 味方からの攻撃をハジメ、ユエ、シアは何とか凌ぐも…

 

「……何のつもりだ?」

 

「……香織、良い度胸」

 

「し、雫さん? 私、何か気に障ることでも?」

 

 ただのフレンドリーファイアで済ませるつもりはなく、攻撃を受けたハジメ達3人はそれぞれの襲撃者を見る。

 

「ち、違う! 俺は、そんなつもりはなくて……気が付いたら……ホントなんだ!」

 

「あ、あぁ、そうだぜ! 南雲を攻撃するつもりなんてなかったんだ! 信じてくれ!」

 

「そ、そうなの! 気が付いたらユエに……なんで、私…あんな」

 

「ごめんなさい、シア! でも、自分でも訳が分からないのよ。敵を斬るつもりだったのに……」

 

 必死に弁明する光輝達にハジメが眉を顰める。

 

「ご主人様よ。奴等を攻撃する直前、囁き声が聞こえた気がするんじゃが…あるいは…」

 

 ブレスでフロストゴーレムを牽制していたティオが推測を語る。

 

「どっちにしろ、奴等は襲ってくるんだ。ハジメ! ここは各個撃破で行こうぜ!」

 

 ティオと同じくフロストゴーレムを牽制していた忍が声を上げる。

 

「仕方ねぇな。その案で行く。全員、遠慮するんじゃねぇぞ!」

 

 この中でフレンドリーファイアの対象になったのはハジメ、ユエ、シアだけだ。この3人なら何とでもなる。が、その中でも少し不安のある者もいた。

 

「(正直、前に出てなきゃ天之河を撃ってたかもしんねぇな…)」

 

 忍だ。どうも忍も危うくフレンドリーファイアを行いそうになってたようだ。しかも対象は光輝だ。化け物スペックとアドバンスド・フューラーの殺傷能力を考えれば、いくら勇者でハジメに魔改造されたアーティファクトを持つ光輝でもひとたまりもないだろう。

 

「(仕方ねぇ。飛び道具や飛び技は使わない方向で殺るか)」

 

 遂に雪煙で視界が奪われ、気配も感知出来なくなり、レーザー攻撃も続く中、それらを掻い潜って忍は銀狼と黒狼を抜いてフロストゴーレムに肉薄した。

 

「つ~か、おっそ!」

 

 神速を用いた移動法でフロストゴーレムの背後を取ると…

 

「ふっ!」

 

 硬度重視の黒狼の切っ先を赤黒い結晶へと向け…

 

「『妖覇玄武掌打』!!」

 

 そのまま黒狼の柄頭を掌底で押し出すようにして氷塊の体を貫く。

 

『ッ!?!?』

 

 赤黒い結晶を貫かれたフロストゴーレムはガラガラと音を立てて崩れ去り、雪煙もまた晴れていく。

 

「クリアした奴だけが通れるってことかね?」

 

 先にゴール前にいたハジメを見ながら忍もゴール前に移動していた。

 

「流石に早かったな。忍」

 

「お前ほどじゃないさ」

 

 右腕同士をぶつけ合いながらそう言い合うハジメと忍。その後、ユエ、シア、ティオ、香織も無事にやってきた。残りはいつもの勇者パーティーだけとなる。その中でも一番にクリアしたのは雫だった。そして、限界突破を使用した光輝、結界を駆使して勝利を手にした鈴、避けることを早々に諦めて殴り合いを制した龍太郎の順にクリアしていく。ただ、その際、龍太郎は気絶してレーザーの餌食になりそうなのを香織が引っ張ってきたが…。

 

 無論、限界突破を使用した際の光輝の攻撃もハジメに向かってきたが、ハジメはそれを簡単に流していた。

 

 そして、全員が門の前に集まったのを確認したかのように頭上の太陽がフッと消える。それと共にレーザー包囲網も消え、門の表面に転移系のゲートらしきものが展開される。

 

「さて、これで終わりだといいがな」

 

「そう簡単には終われそうにないが…」

 

 香織による治療もあらかた終わると、全員が光の門へと飛び込む。

 

………

……

 

「ふむ、分断されたか…となると、個人別の試練がまだあるってことか」

 

 視界が戻った忍は独り言ちるように周囲を見回す。

 

「ま、メルジーネの時も似たようなことあったし、別にいいけどな」

 

 そのまま通路を道なりに歩いていくと、中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな部屋へと辿り着く。

 

「ふむ。ハジメほどではないにしろ…俺も十分厨二臭いな…」

 

 氷柱に映る自分の姿を見ながら忍はやれやれと肩を竦めた。

 

 すると…

 

『それだけじゃないだろう?』

 

「ふむ?」

 

 目の前から聞こえてくる自分の声に忍は改めて氷柱を見ると…

 

『よぉ、"俺"。随分と余裕じゃねぇか?』

 

 氷柱に映る"忍"が話し掛けてきたのだ。

 

「ま、ある程度は予想してたしな」

 

『コンセプトか?』

 

「あぁ、"自分に打ち勝つこと"ってところか? ここに来るまでに割と心の中をズケズケと入られた気分だったし、そういう俺達個々の中に眠ってる負の部分を抽出し、最終的にはお前という"審判"が出来たんじゃないか?」

 

『大正解だ』

 

 そう言った瞬間、忍が後方へと飛び退き、それを追うようにして氷柱に映った"白い忍"が実体を持って現れる。

 

『さぁ、審判の時間だ。紅神 忍。お前は"(お前)"に勝てるかな?』

 

「……………………」

 

 互いに銀狼と黒狼を抜き、同時に神速を用いて斬り結ぶ。

 

「(どうにも能力や武器まで複製してるっぽいな。なら、勝敗を分けるのは…)」

 

 斬り結びながらも忍はあることを考えていた。

 

『いくら本気になったと口では言えても、所詮は付け焼き刃。わかってるだろう?』

 

「……………………」

 

『"(お前)"は本気が嫌いだ。それは今でもそうだろう? ハジメが見てる手前、本気を出さないとならない。本当に面倒だよなぁ』

 

 実際のところ、忍が本気かどうか…いや、人の本気を測れるかどうかと聞かれたら難しいだろう。むしろ、そういうことは本人しかわからないのではないだろうか?

 

『本気になったからと言って故郷に帰れるのか? 違うだろう。本気になっても良いことなんて何もない。今までだってそう考えてきたじゃないか?』

 

「……………………」

 

『なのに、明香音との約束を守るために本気を出す? いやいや、違うよな? ここに明香音はいないんだ。だったら本気を出す必要性もないだろう?』

 

 白い忍の言葉と攻撃に忍は防戦を徹していた。

 

『巫女連中に見栄を張りたかっただけだろう? シェーラをダシに、なんて言われたらそりゃあ、お前だって本気にならざるを得ないもんな?』

 

「……………………」

 

『その巫女連中だって、明香音の代用品だろ? そう思ってても仕方ないよな。明香音がいない寂しさを巫女連中で満たしたいんだろう? 酷い男だよなぁ、"(お前)"』

 

 白い忍の言葉に対し、忍は何も答えない。

 

『おいおい、どうしたぁ? いつもの調子で笑い飛ばしてくれよ。それとも図星過ぎて何も言えないのか?』

 

 白い忍の攻撃は一層過激になっていく。

 

『というか、"(お前)"。さっきヒーローを攻撃してたかもしれないんだよな? なんでだろうな~?』

 

「……………………」

 

『わかる。わかるぜ。あいつは何でも出来る奴だ。常にグループの中心にいて、そのカリスマで邁進していく。なんだか、似てるよなぁ? "(お前)"によぉ』

 

 忍と光輝。一見、共通項の無さそうな2人だが…

 

『幼馴染みに対しての独占欲。あいつはクラスの中心で、"(お前)"は部活でその存在感を示してる。なんでもそつなく熟せて、女子からはちやほやされる。意外と共通項が多いな。もしかして、"同族嫌悪"ってやつか?』

 

 白い忍はそのように評する。いや、これが忍自身が心の奥底で感じていたことなのかもしれない。

 

『共通項は多くとも、あいつは勇者。"(お前)"は反逆者。まるで正反対の天職だよな。もし逆の立場ならお前が勇者だったかもしれないのに……そうすれば、また色々と違った景色が見られたのになぁ~』

 

「……………………」

 

『残念だよな。あいつと"(お前)"の何が違うってんだか?』

 

 防戦に徹していた忍はいつの間にか壁際に追い込まれていた。

 

『まぁいいや。ここで"(お前)"の覇道も終わりだな。覇王になんてならなきゃよかったんだ』

 

 そう言って白い忍が忍に向かって二刀を振り下ろす。

 

ガキンッ!!

 

 が、それは同じく二刀によって容易に防がれてしまう。

 

『なに!?』

 

「いやはや、耳が痛くてしゃあないわ」

 

ドガッ!!

 

『ぐふっ!?』

 

 忍が久し振りに声を出しながらヤクザキックで白い忍を吹き飛ばす。

 

「確かに。俺と天之河はジャンルが違うけど似てる。嫌なとこが似てるが、まぁ事実だし、そこはしゃあない。うん」

 

 軽く埃を払って忍は白い忍の言葉を肯定した。

 

「それに巫女達に対してもそういう反面があったのも事実だ。我ながら最低だとも思うさ」

 

『この…っ!?』

 

ギンッ!!

 

 白い忍がアドバンスド・フューラーを抜こうとした瞬間に、忍の銀狼と黒狼を投擲し、白い忍の両腕を貫いて背後にあった氷柱に磔にする。

 

「本気が嫌いなのは今も変わらない。でもな、明香音との約束のためだけに本気になった訳じゃないんだ」

 

『なら、何故…?』

 

「簡単だよ。ちゃんと見ててもらいたかったのさ。巫女達に…そして、親友にもな」

 

『-----』

 

 そんな忍の独白に絶句する白い忍。

 

「けど、お前の言葉が心に刺さったのも事実だ。だったら、これからも変わり続ければいい。その果てに、俺が成るべき理想があるならな。だからこそ、俺自身の言葉もひっくるめて成長してみせるさ。だって、俺…"覇王"だからな」

 

 ニカッと笑う忍はそのまま右手に魔力を集約させていき…

 

「猛牙墜衝撃・無拍子」

 

 白い忍の胸に手を当てて、力を解放した。

 

『ふっ……参ったぜ。覇王』

 

 白い忍はそう呟いて陽炎のように消えていった。氷柱に突き刺さった銀狼と黒狼を回収して鞘に収めていると、壁の一部が溶けていき、新たな通路が現れる。

 

「他の連中は…大丈夫かねぇ?」

 

 そんなことを呟きながら忍は通路を歩いていく。

 

………

……

 

 忍が通路を抜けた先で見た光景は…

 

「もう一遍、人生やり直してこい。大馬鹿野郎」

 

ゴガッ!

 

 何故か瀕死の光輝の胸倉を義手の左手で持ち上げ、その顔面を生身の右拳で殴りつけて地面に叩き付けるハジメ、という図だった。

 

「何があった?」

 

 そんなことを呟く忍のちょうど反対側からハジメ、光輝、忍を除いた他の面子がハジメと光輝の元へやってくるのを見て…

 

「あれ? もしかして、俺だけハブられた?」

 

 と呟いてしまった。

 

「忍も無事だったか。簡単に言えば、天之河が癇癪起こして俺に八つ当たりしてきたんだよ」

 

「……何があったらそうなる?」

 

「色々あんだよ」

 

 説明が面倒なのか、ハジメはそう言っただけだった。その後、何故だか光輝に殺気を向けるユエとシアをハジメが宥めると、2人はハジメに甘えだす。そこにあざとい仕草のティオ、光輝の治癒を適当に終わらせた香織も参戦し、いつもよりちょっと増した桃色空間が展開されるが、一方でユエと香織の間に極低温空間も形成されていたりもした。

 

「皆さん、色々あったようで…」

 

 そんないつもな光景を見て肩を竦める忍は1人、状況に追いつけないことに若干拗ねてるようにも見えた。

 

「紅神もお疲れさん。つっても、そっちは少し出遅れたみたいな感じか」

 

 そこに光輝を背負った龍太郎が忍に話しかけてきた。

 

「坂上……そうみたいだな。何があったかは後で詳しく聞きたいが…」

 

「あ~、まぁ…光輝の黒歴史みたいなもんだから、あんま触れないでやってくれ」

 

「……………………ま、笑い話に出来るようになった頃にでも聞くさ」

 

「悪ぃな」

 

「別に坂上が謝ることでもないだろ?」

 

「そうか、ありがとよ」

 

「……………………」

 

 龍太郎の言葉に忍は肩を竦めてみせた。そんな中、雫がミノムシ状態なハジメの傍まで歩いていくのが見えて忍、龍太郎、鈴も追従する。

 

「南雲君、ありがとう。光輝を助けてくれて」

 

「ぶん殴っただけだが?」

 

「殺さなかったでしょ? 香織と、少しだけ私のために。二割くらいね?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 なんだか妙に通じ合ってるようにも見えるハジメと雫の会話に勘の良い者はそれぞれ反応を見せる。

 

「(あ~、これはアレか? ハジメの傍に居たい女子が増えた、と?)」

 

 忍がそんなことを思っている合間にも2人の会話は続き…

 

「だ、だから、これはお礼よ。そ、それとあの時言ったことは、じょ、冗談じゃないってことの証よ」

 

 そう言うと、雫は身動きの出来ないハジメの頬に自らの唇をそっと触れさせていた。

 

「お~」

 

 忍がその行為に小さく拍手していると、隣でドスンッという音がした。どうやら龍太郎が驚愕のあまり背負っていた光輝を落としたようだ。それを気にする者はおらず、ハジメの周りにいる女子達はきゃいきゃいと騒ぎ出す。

 

「……雫も、かよ。どうなってんだ、南雲の奴。いや、ホントに」

 

「そういや、いつの間にか八重樫さんの髪飾り、変わってね?」

 

「あ、ホントだ!」

 

 知らぬ間に関係が進展していたことに驚く3人を尻目にハジメはどうしたもんかと、遠い目をしていた。

 

 

 

 その後、一行は光輝の試練の場に現れた通路からさらに奥へと進み、七角形の頂点に各大迷宮の紋章と覇王の姿絵があしらわれた魔法陣が刻まれた氷壁のある部屋へと辿り着く。そして、その魔法陣が淡く輝き、壁全体を光の膜のようなもので覆われる。転移ゲートだ。ハジメ達は頷き合うと、転移ゲートへと飛び込む。

 

 転移ゲートの先にあったのは、大迷宮内ではついぞ見なかった水で溢れた床、透き通るような純氷で作られた氷壁、巨大な氷の神殿だった。

 

 その神殿へと進んだ一行は、神殿の入り口には『ヴァンドゥル・シュネー』の紋章(雪の結晶)と、その上に鯱の絵が描かれていた。特に封印もされていないようで、ハジメが扉を押せば簡単に開いた。中はちょっとした邸宅のような居住区となっていた。

 

 ハジメが羅針盤で魔法陣を探り当て、一階の奥にあった重厚な扉の中へと入る。そこには魔法陣と瑠璃色の宝玉があった。

 

「よかった。フリードの奴は宝玉を置いていったらしいな」

 

 忍が安堵しながらもハジメ達と共に魔法陣の中へと入り、最後の神代魔法『変成魔法』を光輝以外が修得することになった。が、喜び合うシア達とは別に…

 

「ぐぅ!? がぁあああっ!!?」

 

「……っ、うぅううううっ!??!」

 

「ぬぁあああああ!?!?」

 

 ハジメ、ユエ、忍から苦悶に満ちた悲鳴が上がる。激しい頭痛でも堪えるように頭を抱えて膝まで付く3人にギョッとする他の面々。

 

「っぁ……」

 

「……んっ」

 

「かっ……」

 

 脂汗を大量に浮かべた3人は、謎の苦痛から解放されたのか、ガクッとその場で倒れ込む。それをシアがハジメ、雫がユエ、龍太郎が忍をそれぞれ咄嗟に支える。3人共、気絶したようだった。

 

「とりあえず、3人を休ませんとの……」

 

 年長者の余裕か、年の功か、冷静だったティオがその場で急遽指示を出すことになった。

 

 一体、3人に何が起きたのか…?

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