もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第五十六話『奪われたものを奪い返すために…』

 エヒトの前に立った忍だが、武器はなく、手元に残っているカードは取り込んだ魔物のスキルと神代魔法、覇王の能力だけだ。

 

「お前が戯れで召喚したのは…俺達だけじゃねぇだろうが…!!」

 

「ふむ?」

 

「忘れたとは言わせねぇぞ! "覇王"の存在を!!」

 

「覇王……………………あぁ、我が暇潰しに召喚し、解放者共に(ほだ)された"害獣"共か。随分と懐かしい名を出すな」

 

 害獣と呼ばれた覇王に対し、忍の怒りのメーターも振り切れそうになる。

 

「害獣、だと?」

 

「我に従わぬのなら害獣で十分だろうよ」

 

「ふざけるな! テメェに覇王の力ってのを見せてやる!!」

 

 瞬間、忍の七色の魔力が噴き上がる。

 

「ぁあああああ!!!」

 

 それと同時にハジメも咆哮と共に紅の魔力が膨れ上がっていく。ここにきて2人に新たな技能が開花する。『限界突破』の最終派生『覇潰』だ。2人のスペックが化け物じみていて、強敵らしい強敵は…ぶっちゃけ悪食以外にはいなかった。そのため、2人共限界突破を使ったとしても瞬殺に近かったので、派生まで到達しなかったのだ。しかし、エヒトという目の前の創世神の圧倒的な力を前に2人は限界を超える必要があった。ハジメがユエの体を我が物顔で使われた怒り、忍が覇王を害獣と言われた怒りで到達した境地は、現界したアルヴに匹敵するものだった。

 

「我が主!」

 

 それに気づいたアルヴが慌てるが…

 

「よい、アルヴヘイト。所詮は羽虫の足掻きだ。"エヒトルジュエ"の名において命ずる。"鎮まれ"」

 

 アルヴを制し、エヒトがそう言うと、うねりを上げて上昇していた2人の魔力が急速に収まっていく。

 

「ぁあああああ!!!」

 

「うぉおおおおお!!!」

 

 2人の絶叫が木霊し、七色の魔力と紅の魔力が明滅する。

 

「ほぅ、まさか我が真名を用いた"神言"にすら抗うとはな。中々、楽しませてくれる」

 

「ざっけんな…誰が、テメェの思惑通りになるかよ…!」

 

「…そう、だ……テメェは……殺すっ。ユエは……取り戻すっ。……それで終わりだ!」

 

「クックックッ、そうかそうか。ならば、そろそろ仕上げといこうか。一思いに殲滅しなかった理由を披露出来て我も嬉しい限りだ」

 

 苦しみながらも反撃の機会を窺っている2人に対し、エヒトはユエのオリジナル魔法を行使する。

 

「"五天龍"だったか? 中々に気品のある魔法だ。我は気に入ったぞ」

 

 エヒトを中心に5体の魔龍が出現する。だが、その威容はユエが行使していた時のそれを遥かに超えていた。

 

「ユエッ! 目を覚ませ!!」

 

「ふふ、遂に恋人頼りか? 無駄なことを…」

 

「テメェは黙ってろ!」

 

「ユエッ! 俺の声が聞こえてるはずだ! ユエッ!!」

 

 ハジメの声が響く中、エヒトが五天龍を操作しようとした時…

 

「ッ?! な、なんだ? 魔力が、身体が……まさか、有り得んっ!!」

 

 エヒトが大きく目を見開き、その身を震わせた。まるで、身体の自由が利かないとでもいうようにふらつき、魔力制御もままならない様子で、五天龍が明滅する。

 

『……させない』

 

 念話のように謁見の間に響いた声は、確かにユエのものだった。

 

「ユエっ!」

 

「ユエさん!」

 

 ハジメとシアが喜色を含ませて声を弾ませる。そして、それを合図にそれぞれが気合を入れ直して立ち上がろうとする。

 

「くっ、図に乗るな! 人如きが! エヒトルジュエの名において命ずる! "苦しめ"!」

 

 エヒトの真名を用いた"神言"が、その場にいた抵抗する者達を苦しめる。ハジメと忍は何とか耐えながら、忍が右腕に魔力を収束していく。

 

「アルヴヘイト。我は一度、『神域』へと戻る。お前の騙りで揺らいだ精神の隙を突いたつおmりだったが……やはり、"開心"している場合に比べれば、万全とはいかなかったようだ。我を相手に、信じられんことだが、抵抗している。調整が必要だ」

 

「わ、我が主。申し訳ございません」

 

「よい、3、4日もあれば掌握出来よう。この場は任せる。フリード、恵里、共に来るがいい。お前達の望み、我が叶えてやろう」

 

「はっ、主の御心のままに」

 

「はいはぁ~い。光輝君と2人っきりの世界をくれるんでしょ? なら、なんでもしちゃいますよぉ~っと」

 

 苦しみに悶えるハジメ達を尻目にエヒトがアルヴに指示を出すと、天に向かって手を掲げた。すると、光の粒子が舞い上がり、謁見の間の天井の一部を円状に消し去り、直接外へと続く吹き抜けを作り出す。さらに光の粒子はそれだけに留まらず、魔王城の上空で波紋を作りながら巨大な円形のゲートを作り出した。

 

「逃がすかよ! 『ブリザード・ファング』ッ!!」

 

 だが、それを見て忍が黙っているはずもなく、右腕に収束した魔力を解放し、氷属性の幾重にも分かれたレーザー状の砲撃を放つ。凍結させて少しでも時間を稼ぐ算段だったのだが…。

 

『……………………』

 

 無表情の使徒達が壁となって忍の砲撃を防いでいた。

 

「くそっ!」

 

 更なる魔力を解放しようとした時、忍の四方から分解砲撃が迫る。

 

「ッ! 『監獄結界』!!」

 

 それを闇の障壁で吸収するが、それだけで足止めされてしまった。

 

「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。可愛らしい抵抗をしている魂に、身の程というものをわからせてやらねばならんのでね。それと、3日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のないことだがね」

 

 どうやら、エヒトは本気でこの世界に見切りをつけ、地球を新たな新天地として選ぶつもりらしい。そして、そのタイムリミットは3日。ユエの肉体を掌握するといった時間だ。

 

「待、てっ。ユエを、返せ……!!」

 

 ハジメがユエに向かって手を伸ばすが、それを許さないとばかりに使徒達がハジメを組み伏せ、アルヴの術で動けなくする。

 

 エヒトがゲートに向かって上昇し、それと共についていくフリード、恵里、そして光輝。さらに使徒や魔物、傀儡兵などもこの場に残る者以外がゲートに向かって飛んでいく。よくよく見ると、外でも使徒や魔物、魔人族がゲートに向かう光景もあった。彼等は大歓声を上げている。

 

 エヒトはその光景に満足しつつ、ゲートの中へと消えていく。

 

「ユエぇええええええええええッ!!!!」

 

 ハジメの悲痛なまでの絶叫が木霊する。

 

「テメェらぁあああああ!!!」

 

 親友の最愛が連れ去られたという一大事に何も出来なかった怒りで忍も絶叫する。

 

「体内から燃え尽きろ!!! 『バレッテーゼ・フレア・フルレンジ』ッ!!!!」

 

 そして、空間認識力をフル活用し、ハジメを拘束する使徒やシア達を拘束する魔物達の"体内に"爆炎を撒き散らす。

 

『!?!?!?』

 

 体内を爆炎で焼かれた使徒や魔物が次々と苦しみながら倒れていく。

 

「はぁああああああ!!!!」

 

 怒りのまま魔力と覇気を振り撒き、全ての敵の目を自分に向けさせる。少しでも多くの"時間を稼ぐ"ために…。

 

「ちっ、イレギュラーの片割れめ。面倒な……アルヴヘイトの名において命ずる。"鎮まれ"」

 

 腐っても創世神の眷属神。真名を用いた神言を用いて忍の動きを封じようとする。

 

「何度も同じ手が通用すると思ったら大間違いだッ!!!」

 

 カッ!! と見開いた忍の瞳は獣のように瞳孔が縦にスッと伸び、アルヴの進言を弾く。

 

「なに!?」

 

「覇王を…俺達を舐めるなッ!!!!」

 

「っ…行け!」

 

 神言が効かなかったことに対し、アルヴは地上に残った使徒や魔物を忍に向かわせた。

 

「(そうだ! 俺に向かってこい!! 俺を狙え!!)」

 

 そう内心で叫びながら忍はシア達に目配せをした。

 

『ハジメを守れ。白崎さんを起こして回復を…』

 

 ただ、それだけのことだ。ハジメさえ生き残ればまだ逆転の目がある。このまま終わる男のはずがない。そう信じて…忍は時間稼ぎを行う。

 

「『瞬煌』!!」

 

 爆発的に上がった魔力を纏い、ここまでの戦闘でボロボロになったロングコートも邪魔だとばかりに魔力だけで吹き飛ばす。

 

「『ブリザード・ファング』ッ!!」

 

 両手から先程の氷属性の拡散砲撃魔法を繰り出し、使徒の足止めをしつつある一点に氷の砲撃を収束させる。

 

「『ブリザード・ファング・エクシード』ッ!!!」

 

 神速でその一点に集めた魔力の塊を、これまた纏った魔力を炸裂させて右腕に送り込んだ濃密な魔力と一緒に殴り飛ばす。すると、超高密度の氷属性収束砲撃がアルヴに向けて解き放たれる。

 

「アルヴ様!」

 

 それを使徒数名が分解砲撃を以って相殺しようとするが、忍の怒りがこの程度で止まるはずもなく…

 

ゴオオォォォッ!!!

 

 分解砲撃を突破して忍の収束砲撃が使徒達を呑み込む。呑み込まれた使徒達は氷の棺に封印されていた。

 

「ちっ!」

 

 使徒達が時間を稼いだために回避行動に移っていたアルヴがその光景を見て舌打ちする。

 

「どうしたぁ!! 俺はまだまだ健在だぞ!!」

 

 忍が暴れている間、確実に注意は忍に向く。忍の意図通りに…

 

 だが…

 

「ガハッ!!?」

 

 盛大に血反吐を吐く。さっきからしていた無茶が祟って魔力が急速に萎えていく。

 

「(まだ、だ! まだ十分に稼げたとは…!!)」

 

 それでも、と身体を動かし、抵抗の意志を見せる忍に…

 

「そこまでだ、イレギュラー」

 

 アルヴの放った魔弾が忍に直撃し、柱の一本に背中から激突する。

 

「ぐっ!!?」

 

 その隙を逃すまいと使徒達が大剣の面部分を押し当てて動きを封じる。

 

「(マズい。このままだと、ハジメが…)」

 

 覇潰の反動で一時的に身体能力が激減した忍が藻掻いていると…

 

「やめてっ! ミュウを返してくだ…あぐっ!?」

 

「ママぁ!」

 

「(しまった!?)」

 

 複数の使徒が相手では鉄鬼が突破されてしまい、レミアからミュウを引き離し、アルヴの元へと連れ去ってしまった。

 

「エヒト様は次の遊戯の場へと赴く準備と、この世界での最後の仕事のために骨を折ってくださるのだ。『神域』より、使徒の軍勢を召喚し、この世界の住民を皆殺しにする。それでこの世界での遊戯は終わりだ。光栄に思うがいい。さて…」

 

 そう言いながら連れてこられたミュウを魔法で空間に固定し、ハジメを睥睨するアルヴ。

 

「イレギュラー。いつまでそうしている? お前には色々と贖ってもらわねばならない。わかるか? エヒト様の盤上を狂わせ、私に恥をかかせた罪。その身を絶望に堕とした程度で済むと思うなよ? 手始めにお前を父と慕うこの小娘から血祭りにあげてやろう。そして、更なる絶望に堕ちるがいい!」

 

「パパぁ! 死なないで! 起きてぇ!」

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

 忍を始め、使徒達に抑えられているシア達も絶叫する中、異様に静かなハジメ。なんとも奇妙な光景である。今までなら諦めることなく、何度だって立ち上がってきたハジメが動かない。だが、今更気付くこともある。それはその場にいる全員が不安を募らせていることだ。

 

「パ、パ?」

 

 それはミュウも同じだったのか、少し怖がった様子でハジメを見る。痺れを切らしたハジメを再度拘束し直した使徒に目配せする。その使徒が、まるで嫌な予感を覚えつつも決死に思いで、ハジメの髪を掴んで顔を上げさせる。

 

 と、そこには…

 

「--ッ」

 

 それを見たアルヴが一歩、後退った。その理由はただ一つ…ハジメの隻眼が深淵…否、それすらも呑み込むような"無"に染まっているからだ。

 

「こ、ころ…」

 

 アルヴが命令を下すがが、それは叶わなかった。

 

「『全ての存在を否定する(何もかも、消えちまえ)』」

 

 ハジメの口から紡がれた呪言。それが解き放たれたからだ。

 

ボバッ!!

 

 ハジメを拘束していた使徒達が何かに粉微塵に両断され、消滅する。その消滅の仕方も刃物によって両断されたのではなく、まるでワイヤーに振動でも加えたかのような両断の仕方だった。それと、いつもの鮮やかな紅色の魔力ではなく、血色の如き毒々しい暗赤色の魔力がハジメを中心に渦巻いていた。。

 

 そこから先の光景は、まさに一方的な虐殺だった。ハジメの負の感情から生み出された概念魔法『その存在を否定する』。ユエに繋ぎ止められていたハジメの最終防衛線…それが消え去ったことにより、発現した恐るべき概念。ユエのいなくなった世界の、ありとあらゆるものに存在する価値を認めない。存在することを許しはない。何もかも一切合切…消えてしまえ、という怨念じみた末に生み出された概念が猛威を振るう。

 

 全ての使徒は両断され、魔物も殺し尽くし、そしてアルヴの四肢をも引き裂いて…最終的にはその存在を否定して消滅させた。

 

 そして、ハジメの虚無の目は空の『神門』へと向いて跳ぶが…移動中だった魔人族の妨害もあってハジメの目の前で神門は閉ざされてしまう。

 

 そんな風に魔人族も数十名残ってしまったが、ハジメは我関せずといった具合に細切れにしていく。そんなハジメの前に立ったのは…

 

「パパっ、ダメなの! いつものパパに戻って!!」

 

 幼き1人の女の子だった。

 

「……退け」

 

「退かないの! い、今のパパなら、み、ミュウは絶対に負けないの! だって、だって…!!」

 

「……………………」

 

「ミュウのパパはこんなに格好悪くないの! もっともっと、格好良いの! そんな目はしないの! もと強い目なの!!」

 

 ミュウの必死の呼びかけ。それに対し、ハジメは…

 

「三度目はない。ど……」

 

 ミュウにその矛先を向けようとした時…

 

「ハジメぇ!! 歯ぁ、食いしばれぇぇ!!!!」

 

 フラフラな体を引きずった忍が最後の力を振り絞って神速を用いた拳打でハジメの右頬を殴っていた。

 

「ッ!?!」

 

 思わぬ一発を貰い、謁見の間の柱へと背中から衝突するハジメに、忍が神速の勢いのまま追いつき…

 

「テメェ、何が『何もかも、消えちまえ』だ! そんな無様を晒すために俺達は旅を続けてきたのか!? 違うよな!? 全ては故郷に帰るため…そして、"皆"に俺達の故郷を見せるためだろうが! その中には当然、ユエさんも入ってるはずだ!! お前は…たった一回奪い取られただけで諦めたのか!!」

 

 ハジメに頭突きをかましながら吠えた。

 

「ここにいる連中は…シアさんも、ティオさんも、白崎さんも、ミュウちゃんも、新参の八重樫さんだって誰一人、ユエさんの救出を諦めちゃいないはずだ!! なのに、総大将のお前がはなっから諦めてんじゃねぇぞ!! 俺達には半端なことをするなと言っておきながら、テメェが一番半端じゃねぇかよ!!」

 

「……………………」

 

「お前が二度とユエさんの顔を見たくないなら、俺が『神域』に行ってユエさん諸共神を噛み砕いてやる! それでもいいのか!!?」

 

 そんな忍の絶叫に…

 

「いいわけ、ねぇだろうが…くそったれ…!!」

 

 ハジメの眼が正気に戻り始めた。

 

「そうだ、その眼だよ。俺の親友は、いつだって諦めが悪いんだからよ」

 

「あぁ…」

 

 そんなハジメから忍が離れると、香織、シア、ティオ、雫と心配かけた上に諦めかけていたハジメにそれぞれが仕置きとして一発ずつ頭を殴っていた。

 

「まだ、俺達は生きてるんだ。生きている限り、俺達は負けてねぇ。そうだろ?」

 

「あぁ…そうだったな。すまん、みんな」

 

 いつものハジメに戻り、謝罪したところで小さな英雄が走ってきた。

 

「パパぁーーーー!!」

 

「ミュ……ゲフッ!?」

 

 ミュウの歓喜の突撃がハジメの体を襲い…

 

「あ、ダメだ……」

 

 限界をとうに突破していたハジメの体がミュウの一撃で沈み、"心肺停止"を引き起こした。急いで香織の必死の治療が始まり、何とかハジメの命を繋ぎ止めた。

 

 

 

 しばらくしてハジメが復活すると、とりあえず残った魔人族に尋問したが、有益な情報はなかったことから檻に閉じ込め、集まってきた愛子、リリアーナ、生徒達、そして巫女達を交えて話し合いをすることになった。

 

 ハジメはテーブルセットを二つ作り、ハジメ、忍、シア、香織、ティオ、雫、鈴、龍太郎、愛子、リリアーナ、ミュウ、レミア、巫女達が集まる側と、残った生徒達が集まる側の二手に分かれて座った。

 

「まず、情報の整理だ。エヒトと名乗る神がユエの肉体を乗っ取った。だが、エヒトの言葉が正しければ、その肉体を完全に掌握するには最低でも3日はかかる」

 

 ハジメの言葉に一部を除いて痛ましい表情になる一同。だが、その一部…忍、シア、香織、ティオ、そして雫は微塵も揺るがない強い眼差しをしていた。

 

「ユエさんを取り戻すには、彼等の言う『神域』とやらに行かなければなりませんね。でも、あの黄金のゲートはハジメさんを通しませんでした。エヒトによって通れる者が限定されてしまうなら、別の対策が必要です」

 

「そうね。こっちで『神域』へ行く手段を手に入れるか…或いは、3日後の大侵攻の時に出現すると予想される『神門』を突破出来る手段が必要だわ」

 

「ふむ、直接行く方法としては……ご主人様よ。やはり、クリスタルキーは…」

 

「ダメだ。宝物庫と一緒に、な。確かに、アレがあれば『神域』へ直接乗り込むことは出来るだろうが……忍に手伝ってもらうことも考えたが…」

 

「いやぁ、俺にユエさんほどの精密な魔力操作は難しいだろうな。出来たとしても劣化版の質がちっとだけ良くなる程度じゃね? 第一、俺も概念への手は伸ばせたが、まだ至ってねぇし。こういうのは一度成功してるペアの方が成功率は高いだろ?」

 

「完成品を作るなら、な。が、今回は突破を図るんだ。少しでも質の良いのを作るために協力してもらうぞ。ついでだからお前も概念の一端に触れとけ」

 

「はいはい、仰せのままに」

 

 そんな風に内輪だけで話していると、クリスタルキーの存在をまだ知らない愛子や生徒達に雫が沈痛な面持ちで大まかに説明した。

 

『ええぇぇぇぇ!?!?』

 

 それを聞いた愛子や生徒達が驚愕の声を響かせる。

 

「うるさいっての。どっちにしろ壊されたんだから意味ねぇよ。騒ぐな」

 

「まぁ、気持ちはわからんでもないがな」

 

 せっかくの帰郷の手段が失われ、それを作れる人物達が神に喧嘩を吹っ掛けようとしているのだ。そりゃあ、騒ぐというものだ。愛子のお言葉と、ハジメの現状を再認識させる言葉で生徒達も落ち込んだり嘆いたりしていたが…。

 

「で、話を戻すが…或いは、劣化版クリスタルキーなら、あの『神門』を突破するくらいは出来るかもしれない。悔しいが、3日後の大侵攻の時、使徒達が現れる瞬間まで待つしかないだろうな」

 

「アルヴヘイトが戻らないことを気にして、向こうから出てきてくれたら楽なんだけど…」

 

 そんな風に話していると…

 

「……それ以前に、勝てるのかな?」

 

 不意に鈴がポツリと呟いた。

 

「勝つさ」

 

 その呟きに、気負った様子もなくハジメがそう返す。

 

「……手も足も出なかったのに?」

 

「あぁ。それでも次は勝つ」

 

「どうして、そう言い切れるの!? 言葉一つで何でも出来て、魔法なんか比べ物にならないくらい強力で、おまけに使徒とかフリードとか魔物とか……恵里とか……光輝君まで向こう側に……正真正銘の化け物なんだよ!?」

 

 下を向き、心が折れかけている鈴はそのように否定的な話をするが…

 

「それがどうした?」

 

「だな」

 

「え?」

 

 ハジメと忍の言葉に鈴が顔を上げる。

 

「相手が化け物? 多勢に無勢? そんなことが、何かの障害になるのか?」

 

「な、なるのかって……そんなの……」

 

「忘れてないか? 俺は…いや、俺達はお前等が『無能』と呼んでいた時に、奈落に落ちて這い上がってきたんだぞ?」

 

「ぁ…」

 

 その言葉に絶望を感じていた生徒達がハジメと忍を見る。

 

「誰の助けもない。食料もない。周りは化け物で溢れかえってた。おまけに、魔法の才能もなくて、左腕も失くした。だが…生き残った。生き残って友に会えた」

 

 シンと静まり返る謁見の間で、誰もがハジメの言葉に耳を傾けた。

 

「同じことだ。相手が神であろうと、その軍勢だろうと、な。俺達は今、生きている。奴は俺達を殺し損ねたんだ。それも、自分の情報を与えてな」

 

 ギラギラと輝くハジメの瞳は殺意に燃え上がっていた。

 

「ユエは奪い返すし、奴は殺す。攻守どころの交代だ。俺が狩人で、奴が獲物だ。地の果てまでも追いかけて断末魔の悲鳴を上げさせてやる。自分が特別だと信じて疑わない自称神に、俺こそが化け物なのだと教えてやる」

 

 その瞳を鈴に向け、ハジメは問うた。

 

「谷口。もう無理だってんなら、眼を閉じて耳を塞いでいろ。俺が全部、終わらせてやる」

 

 鈴に問うた後、ハジメは視線を雫と龍太郎にも向けた。言外に光輝と恵里の処遇についてどうするのか、というのが伝わる。

 

「必要ないよ、南雲君。恵里のことも、光輝君のことも、鈴に任せて。『神域』でもどこでもカチ込んでやるんだから!」

 

「だぁあああああ!! よし、くよくよすんのは終わりだ! 南雲や鈴にばっか格好はつけさせねぇ! 光輝の馬鹿野郎は俺がぶん殴って正気に戻してやるぜ!!」

 

「ふふふ。光輝の馬鹿にはきついキツい、それはもうキツ~いお仕置きが必要だし、恵里のあのニヤケ面は一度張り倒さないと気が済まないわ。……そ、それに、南雲君の行くところなら、どこでもついて行くつもりだし……その、ずっと、ね…」

 

 鈴と龍太郎の折れかけた心が元に戻ると、やる気を見せていた。それと同時に雫も頬を染めてハジメの方を見ながらそんなことを言う。

 

「そうか。なら、『神域』へのカチ込みは俺達と谷口、坂上……まぁ、最近のメンバーそのままってことだな」

 

 ハジメが突撃メンバーを確認していると…

 

「いや、ハジメ。俺は地上に残るぜ?」

 

 不意に忍がそう言っていた。

 

「忍?」

 

「いくらユエさんを取り返しに行ったとしても、帰る場所がなきゃ意味ないだろ? 俺も神には一矢報いたかったが…ここはお前に譲るよ。俺は地上で大暴れでもしてるさ。必ず、ユエさんと一緒に帰って来いよ?」

 

「……………………あぁ、わかった」

 

 忍が地上に残る理由を聞き、ハジメも頷いていると…

 

「あ、あの~、ハジメさん。ちょっといいですか?」

 

「ん? なんだ、姫さん?」

 

「えっとですね。大侵攻の時に、ハジメさん達、最高戦力が『神域』に乗り込んでしまった場合、その間、攻撃を受ける王都はどうすれば……エヒト達の言葉が正しければ、始まりは『神山』からですよね? いくら紅神さんが残ってくださるとは言え、使徒達の物量を考えると、長期戦は不利な気がしまして……何か『神門』を一時的に封じるような手立てはありませんか?」

 

 リリアーナが当然と言えば当然の心配と疑問を口にする。いくら忍のスペックが使徒達を上回っていようと、"物量で来られたら厳しいのでは?"というものだ。

 

「今から、その話をしようと思ってたんだ」

 

 だが、ハジメに抜け目はなかった。

 

「と言いますと?」

 

「俺は、エヒトが気に食わない。だから、この先、なに一つとして奴の思い通りにさせてやるもんかよ。この世界の住人がどうなろうと知ったこっちゃないが……だからと言って、今際の際に虐殺された人々を思って高笑いでもされたら不愉快の極みだ。だから、使徒も眷属も、フリードも、その魔物共も皆殺しコースだ。奴のものも、その思惑も、根こそぎ全部ぶち壊してやる」

 

 クックックッ、と邪悪な笑みを浮かべるハジメに生徒達がドン引きした。

 

 そして、提示されるハジメの案。それはハジメ謹製のアーティファクトを大解放し、一般兵や冒険者、傭兵などを超強化することだ。さらにハジメが魔王城に来る前に地中に転送していた代えの利かない代物や重要品などがあるので、それらを用いて各地から戦力を掻き集める方針も取る。そして、各方面の上役には再生魔法を用いた映像記録を見せることで神が如何に醜悪な存在かを知らしめ、戦力を円滑に王都に集結させることも提案していた。それらの戦力を纏めるために愛子やリリアーナにも奮闘してもらうことにもなった。

 

 そこからさにハジメによって3日後の大侵攻に向けて各自に役割が割り振られていく。

 

 ハジメは香織、ミュウ、レミアを連れてオルクスの深奥でアーティファクトの大量生産。

 

 シアはライセン大迷宮に赴き、ミレディに協力を仰ぐ。

 

 ティオとシオンは里帰り。

 

 雫は帝国へ。

 

 鈴や龍太郎は巫女4人を連れてフェアベルゲンに向かった後、オルクスで変成魔法を用いた魔物の捕獲と強化を。

 

 愛子とリリアーナは王都で扇ど…もとい演説による士気向上。

 

 忍はファルとシェーラを連れてアンカジとエリセンに向かわせる。

 

 その他、生徒達にもそれぞれ役割を持たせた。

 

 それらと細かい話を終えてハジメが席から立ち上がる。

 

「敵は神を名乗り、それに見合う強大さを誇る。軍勢は全てが一騎当千。常識外の魔物や死を恐れず強化された傀儡兵までいる」

 

 静かな、それでいて力強い声が響く。

 

「だが、それだけだ。奴等は無敵なんかじゃない。俺や忍がそうしたように、神も使徒も殺せるんだ。人は、超常の存在を討てるんだ」

 

 語るハジメを誰もが見る。

 

「顔も知らない誰かのためとか、ましてや世界のためなんて思う必要はない。そんなもの、背負う必要はなんてない。俺が、俺の最愛を取り戻すために戦うように、ここにいる者全員がそれぞれの理由で阿多飼えばいい。その理由に代償なんてない。重さなんてない。家に帰りたいから、家族に会いたいから、友人のため、恋人のため、ただ生きるため、ただ気に食わないから……なんでもいいんだ」

 

 その言葉にそれぞれが自らの望みを自覚する。

 

「一生に一度、奮い立つべき時があるとするなら、それは今この時こそがそうだ! 今、この時に魂を燃やせ! 望みのために一歩踏み込め! そして、全員で生き残れ!! それが出来たら、お褒美に故郷への切符をプレゼントしてやる!!」

 

 そして、最後に一言。

 

「勝つぞ!」

 

『おおおおおおおおおおッ!!!』

 

 ハジメの声に応えるように、無数の咆哮が鳴り響く。

 

 決戦は…3日後。

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