もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第五十七話『決戦の前日』

 約一日を使い、各地に散らばるいつもの面子や生徒達は、それぞれの役目を果たしていた。各地の戦力を王都の郊外に集結させ、非戦闘員である住民を各地に移送させていた。

 

 それと並行して異世界転移組の野村 健太郎を筆頭に土系統の適性のある者達や職人連中が急速に簡易的な防衛陣地を構築している。ハジメ謹製のアーティファクトの力もあって、その構築速度はかなり上がっており、もはや超効率化してるレベルだ。

 

 そんな風に急速に拡大する戦力は、"豊穣の女神"たる愛子の演説によって士気を高めていく。そのため、雫やリリアーナからハジメにアーティファクトの制作をせっつかれたりもしていた。

 

 そのハジメもまたオルクスの深奥、オスカーの隠れ家でアーティファクトの量産や身近な者へと贈るアーティファクト、及び自らの強化版装備の数々の制作に従事していた。ただ、その際、忍から連絡があり、刀はいらないから銃だけ用意してくれとの要望があった。その要望を少し不審に思いながらも強化版アドバンスドフューラーの制作も行っていた。

 

 ちなみにその要望をした忍はというと…

 

「はぁああああああ…!!!」

 

 『神山』の頂上で魔力を身に纏い、体中に巡らせて変換効率をさらに最適化しようとしていた。

 

「「……………………」」

 

 その様子を見守るのはファルとシェーラの2名だ。ファルは表情が読めないが、シェーラは心配そうに忍を見つめていた。

 

 ちなみに何故『神山』の頂上にいるかと言えば、劣化版クリスタルキーを作る前に魔力の変換効率をもう一段上に上げておきたかったからだ。昇華魔法を使ってもよかったのだが、忍は自力で引き上げる方が感覚的にも扱いやすいだろうと判断して、誰にも邪魔にならない場所…つまり、神門が開く神山の頂上で魔力を練り上げて自らの糧にすべく自己鍛錬を積んでいたのだ。

 

「ふしゅぅぅぅぅ……」

 

 そして、その鍛錬も一段落したのか、忍が深く息を吐く。よく見れば、忍の顔中には大量の汗が滴っており、いかに集中していたかがわかるというものだ。

 

「よし、こんなもんかな?」

 

 身の内に宿る魔力の変換効率の上昇を感じ、忍が袖で汗を拭おうとすると…

 

「忍さん、どうぞ」

 

 シェーラが近寄ってきてタオルを渡してくる。

 

「ん? あぁ、ありがとう」

 

 そのタオルを手に取り、汗を拭う忍は…

 

「悪いな。2人共、こんな個人的な野暮用に付き合わせて」

 

 2人に軽い感じの謝罪を行っていた。

 

「………別に」

 

「いえ、私達は非力な身ですので、せめてこのくらいは…」

 

「……そうか」

 

 一通り汗を拭った後、忍はタオルを首にかけてからハジメより支給された小型版飛行アーティファクト『ミク・フェルニル』に乗り、ファルとシェーラを抱き寄せる。

 

「それじゃあ、俺らもオルクスに行きますか。今頃はハジメもアーティファクトの量産に入ってるあだろうし、クリスタルキーの制作補助や素材集めもしねぇとな」

 

 そう言ってミク・フェルニルを飛翔させ、ライセン大峡谷へと進路を取った。

 

「あ、汗臭くないか?」

 

「……別にこのくらい、平気」

 

「はい。全然大丈夫ですよ」

 

「なら、いいんだがな…」

 

 空でそんな会話をしつつも、そうしてライセン大峡谷へと着いた忍達は、ハジメから借りていたオルクスの指輪を使い、ショートカットからオルクスの深奥に入っていく。

 

「ここが…大迷宮の深奥…?」

 

「不思議な場所ですね…」

 

 オスカーの隠れ家に着き、一旦屋敷の外へと足を伸ばした忍達。ファルとシェーラが驚いている横で、忍が匂いで集まっている面子の確認をする。

 

「坂上や谷口の匂いがする。お、シアさんも戻ってきたのか…」

 

 そんなことを呟きながら工房の方へと歩いていく。

 

「あ、お兄ちゃん達! お帰りなの!」

 

 と、そこへなんかゴーレムっぽいものに乗ったミュウが現れる。

 

「ミュウちゃん!?」

 

「あぁ、さっき戻ってきたんだ。てか、絶対にハジメ作だな、それ…」

 

 ゴーレムに乗っかってる従姉妹に驚くシェーラをよそに忍がそんなことを言う。

 

「うん! パパに貰った"べるちゃん"達なの!」

 

「"べるちゃん"、達?」

 

 聞けば、ハジメがミュウやレミアのために作ってお手伝いさせている生体ゴーレムの名は『べるふぇごーる』と『あすもでうす』の2体だけだったが、手が足りないと追加で5体増やしたらしい。で、その名は『さたん』、『るしふぁー』、『まもん』、『れう゛ぃあたん』、『ばあるぜぶぶ』というらしい。どれもミュウが命名している。

 

「……………………」

 

 それを聞いて忍はポカンと口を開いてしまった。そりゃそうだろう…だって、七つの大罪を象徴する悪魔の名前と被っていたのだから…。オタク趣味でその手の知識も持ち合わせていた忍も、これには度肝を抜かれた。

 

 しかも何故だろう…。紹介されたゴーレム達が香ばしいポーズを取っているのだ。ミレディの大迷宮で見たゴーレムは命令通りに動いていたことを考えると、ハジメがそんなおふざけをこんな緊急時にやるわけないと考えた忍は首を捻っていた。

 

 ハジメが何も言っていないのなら、俺が言うのもお門違いか、と忍も何も言わずにハジメの元へと向かった。

 

「…………………え…なに、このカオス?」

 

 工房の扉を開けた忍の第一声がそれだった。何故か龍太郎が床に放置され、同じくシアと"蹴りウサギ"が白煙を上げながら撃沈していて、香織と鈴が顔を引き攣っている。

 

「忍か。お前が来たなら、とっととクリスタルキーの制作もするぞ」

 

「あ、あぁ…わかった」

 

 この状況の説明はないのな、と思いつつ忍も準備を行う。他の面子は工房から出て行く。

 

「魔力変換効率を一段階上げてきた。まぁ、ユエさんほど上手くはいかんだろうが…出来るだけの補助はする」

 

「あぁ、頼むぞ」

 

 香織がオルクス大迷宮…奈落で掻き集めてきた神結晶の欠片を用いて作業に入る。紅の魔力を七色の魔力が支え、神結晶の欠片を集約させ、忍の提案で"想い人の元への道を切り開く"という概念を付与した一回限りの劣化版クリスタルキーを作製することに成功した。

 

「想い人の元への道を切り開く、か。考えたな」

 

「あぁ、どうせ一回で成功させなきゃならんのだし、そういう概念でも十分だと思ったんだよ」

 

 そう言って魔力を使い過ぎてへばってる忍に、ハジメが声を掛ける。

 

「……なぁ、忍」

 

「おっと、それ以上は言いっこなしだぜ? 俺達は皆でこの戦いに赴くんだ。明香音に会いに行くのは…終わってからでも十分に間に合うさ。何より、俺だけ帰っても仕方ないだろ?」

 

「忍……」

 

「だから、気にすんな。お前はお前のやることだけに集中しろよ」

 

 忍の言葉にハジメは笑みを浮かべると…

 

「……ありがとな、忍」

 

 それだけ伝えていた。奈落に落ちてから苦楽を共にしてきた、最愛のユエを除けば、恐らくは二番目に心を許しているだろう唯一の親友に様々な感情を乗せた礼を告げたのだ。

 

「おう」

 

 忍も短くそれに応えた。自称親友から始まった関係も、今では本物だと実感しているし、ハジメが無茶を押し通すならそれを後ろで支えてやるのも親友の役目だと言わんばかりに…。

 

「地上は、香織と一緒に頼む」

 

「白崎さんもこっちに残るのか?」

 

「あぁ、使徒の体だし、何かあった時に封殺されても困るからな」

 

「わかった。上手くフォローするさ」

 

「頼む。その代わり…」

 

「あぁ、神殺しは頼んだ。地上は何があっても守るからよ」

 

 そう言い合った後、2人はコツンと互いの右拳を合わせていた。

 

………

……

 

 決戦前夜。いや、より正確に言うのであれば3日目に突入したばかりの深夜だ。

 

 ハジメ達はゲートを使って決戦の舞台…王都前にある大平原へとやってきていた。ちなみにこの場にミュウとレミア、シェーラ、ファルはいない。オルクスの深奥…オスカーの隠れ家に居てもらった。だが、ミュウとレミアが従えていた生体ゴーレム群、通称『大罪戦隊デモンレンジャー』の7体はついてきている。なんでもハジメが遠隔操作出来るようにしたのだとか…。

 

 そんなハジメ達を出迎えたのは、雫だった。

 

「ようやく来たわね。みんなが待っているわ。ついてきて」

 

 そう言って踵を返す雫の前を見れば、急造にも関わらず完成度の高い赤レンガ色の要塞が鎮座していた。要塞の他にも数十万もの戦力が野営しており、明かりのアーティファクトの影響で、深夜にも関わらず昼間のように明るかった。

 

「八重樫、何かあったのか?」

 

 何故だか不機嫌そうな雫の後ろ姿を見てハジメが声を掛ける。

 

「……………………」

 

 その言葉にピタリと立ち止まった雫は、その直後に勢いよく向き直ると、ツカツカと足音を立ててハジメの隣に歩み寄ると、ハジメの右腕を取って恋人がやるような"腕を組む"状態になる。そんな普段なら見せないような雫の態度に後ろの忍達も驚く。

 

「おいおい、八重樫。本当にどうした?」

 

「雫よ。今更感あるけど、雫と呼んでちょうだい。私も、ハジメって呼ぶから」

 

「はぁ?」

 

 困惑するハジメに、雫はなんだか疲れたような溜息を吐いて説明する。

 

「皇帝陛下が鬱陶しいのよ。なにかと理由を付けては私を傍に置こうとするし、口説いてくるし……そのくせ、建前はいちいち的を射ている上に、やることは完璧にこなしているから、文句も言えないし」

 

 どうもガハルドにちょっかいを掛けられて辟易していたらしい。

 

「そういう時は俺の名前を出していいって言ったろ?」

 

「言ったわよ。私が、す、好きなのは…なぐ、は、ハジメだって」

 

「テレテレじゃねぇか。で? それでも絡んできたなら連絡すればよかったろ?」

 

 ハジメがそう言うと、雫は不機嫌そうな表情から困ったような表情になる。

 

「……これくらいのことで面倒はかけたくなかったのよ。何せ、は、ハジメは、連合軍の勝利の鍵でしょ? それにあのエヒトに勝つためにも色々と対策を練る必要もあるでしょう?」

 

「そういう気遣いはしなくていいんだよ。ゲート開いて銃弾しこたまぶち込めば終わりなんだし」

 

「ふふ、そうすると思ったから遠慮したの。ゴム弾でも、この大事な時に一国のリーダーにダメージを与えるのは、ね? だから、代わりに今こうして甘えさせてもらってるの。会議室には皇帝陛下もいるし、これを見せつけておくっていう意図もあるの」

 

「なるほどな」

 

「そういう訳だから、シア達も少しだけ許してね?」

 

 そんな風にちょっと申し訳なさそうな表情で言う雫に、シア達も気にすることないと微笑み返した。

 

 

 

 道中、兵士達の視線もあったが、雫のストレスもある程度回復し、要塞内の大きな広間へと到着する。その中心には大きなテーブルが置かれ、上座にはリリアーナやランデル、ガハルド、アルフレリック、カムなどが愛子を中心に座っている。さらには『アンカジ公国』のランズィとビィズ、ギルドマスターのバルス、イルワ、キャサリン、クリスタベル。そこに各国の軍の司令達や側近達。生徒達の代表として永山 重吾と園部 優花もいた。

 

 彼等はハジメが入った途端、「やっと来たか!」という表情になったが、雫を侍らせてるハジメを見て頬を引き攣らせた。別に時間に遅れた訳ではないが、"世界の重鎮達を待たせておいて女を侍らせて来るとか、どんな神経してるんだ…"という空気が司令達や側近達の間に流れる。

 

 ただ、重鎮中の重鎮、各勢力の代表達はというと…

 

「おいおいおい、南雲 ハジメぇ。雫を侍らすたぁ、俺への当てつけか? あぁ?」

 

「南雲さん!? 何故、雫とイチャついているんですか!?」

 

「や、八重樫さん? せ、先生は、そういうのどうかと思いますよ? あなたはもう少し節度あるお付き合いが出来る人だと思っていたのに……うらやま……じゃなくて、破廉恥ですよ!?」

 

「貴様ぁ! か、香織の前で、その親友にまで手を出すとはっ! 香織! やっぱり余はお前を諦めんぞ! その悪魔から必ず引き離してやるぅ!」

 

「流石ですっ、ボス! 最愛の女性をさらわれてなお、新しい女を侍らせて余裕の態度とはっ! 決戦前の景気づけに酒池肉林ですか…『ドパンッ!』…へぼぁ!?」

 

 上からガハルド、リリアーナ、愛子、ランデル、カムの順にガタッと席から立ち上がって何やら喚いている。約1名、全然方向性が違うため、ハジメの抜き撃ちの餌食になったが…。

 

「雫がこうなってんのは全てガハルドのせいだ。文句はそいつに言え。あと、ガハルドは漢女になるか、雫にちょっかいかけるのをやめるか、今選べ」

 

「あらあらん♪ ハジメちゃんたら、また同胞を増やしてくれるのん? もうっ、私への贈り物を欠かさないなんてぇ! 愛しているわん!」

 

 ハジメはクリスタベルの言動にドンナーを抜きたい衝動を抑えながら、ガハルドに目で訴えた。

 

『これの仲間にするぞ?』

 

 と、流石の皇帝陛下も委縮した様子で席に座り直す。それを見て他の立ち上がってた重鎮達も席に着く。次いでハジメ達も席に座る。

 

 そこから気を取り直して始まった最終会議。装備・兵器の配備や分配、習得率、大侵攻時における行動方針、指揮系統の確認など、認識を共通すべきことの確認に終始した。特に忍と香織は入念にチェックしていた。ここ最近のいつものメンバーで地上に残るのはこの2人だからだ。

 

 ちなみにここにはいない他の生徒達やハウリア族が中心になってハジメのアーティファクトの使用法と効果をレクチャーしている。また、要塞もとりあえずは完成したということで、現在は塹壕掘りなどのフィールド形成に終始しているとか…。

 

「際どい所だが、どうにか形になったようだな。これも『豊穣の女神』の恩恵か」

 

 という風にハジメが呟くと、愛子とリリアーナが低レベルな口喧嘩をし出す。その内容にガハルドや他の重鎮達も微妙な表情をする。唯一、首狩り族の族長だけはハジメにサムズアップしていたが…。

 

 そんな中、アンカジ公国のランズィが感慨深そうに口を開く。

 

「それにしても、我が公国の英雄達が、遂には世界の英雄か。やはり、あの時の決断は間違いではなかったようだ」

 

 その言葉に続くようにキャサリン、イルワ、クリスタベルが口を開く。

 

「初めてうちに来た時から、何か大きなことをやらかしそうだとは思っていたけれどねぇ。でも、まさか世界の命運を左右するまでになるなんて…流石のあたしも、予想しきれなかったよ」

 

「そうですね。フューレンで大暴れしてくれた時は、まだまだ何かやらかすだろうとは思っていましたし、或いは世界の秘密に関する何らかの騒動に関わるだろうと思っていましたが……それが世界の存亡を賭けた戦いとは。はぁ、胃が痛い。もう"イルワ支部長の懐刀"なんて肩書き、恥ずかしくて使えませんね」

 

「あらん? 私は最初からわかっていたわん。ハジメちゃんもシノブちゃんもいつか魔王だって倒すって」

 

 そんな彼等にハジメは不敵な笑みを浮かべて肩を竦めてみせた。

 

「別に不思議なことじゃないだろ? 空気の読めない馬鹿な自称神が、俺の女に手を出したんだ。だから、死ぬ。それだけだ。アンタらも、この程度の戦いで死んでくれるなよ? ユエを連れ帰ったら、もう一度くらいアンタらの町に遊びに行くからよ。今度は冒険なしで、のんびりと観光でな」

 

 その言葉にランズィ達も励まされる。

 

「ま、今回は俺も地上で暴れるんで期待しててくださいな。真の魔王(ハジメ)に並び立つ存在…真なる覇王として、ね」

 

 忍がそんなことを言っていると、突然兵士の1人が慌てた様子で会議室に駆け込んできた。誰もが『遂に侵攻が始まったか!?』と身構える中、兵士は…

 

「ひ、広場の転移陣から多数の竜が出現! 助力に来た竜人族とのことです!」

 

「来たか!」

 

 最後の頼れる仲間が帰ってきたらしく、ハジメはニッと笑みを浮かべ、スッと立ち上がると、同じく席を立った忍達を連れて会議室を出て行った。他の者達も顔を見合わせた後に、ハジメ達の後をついていく。

 

 

 

 そして、広場に集まった皆を前に…

 

「ご主人様よ! 愛しの下僕が帰ってきたのじゃ! さぁ、愛でてたもう!」

 

 黒竜姿から人型に戻ったティオが周囲の視線など気にした様子もなく、ハジメにダイブした。

 

ドパンッ!

 

 なので、ハジメは発砲した。ちなみにその横では…

 

「忍殿!」

 

「シオン!」

 

 まるで再会した恋人のように抱き締め合う忍とシオンの姿があった。

 

「よく間に合ってくれた」

 

「いえ、世界存亡のためにと里の皆をお嬢様が説得してくれたおかげです」

 

「それでも、よく戻ってきてくれた。これで地上戦力もだいぶ強化される」

 

「はい!」

 

 ハジメとティオのアブノーマルなのに自然に思える関係と、忍とシオンのちょっと照れくさくなりそうな関係のギャップの差が激しく、その場の誰もが空気となる。

 

「あの、ハジメさんもティオさんもあっちを見習ってくださいよ」

 

「うん。改めて思うけど…ハジメ君も大概だよね」

 

「ある意味、ハジメはティオさんの主になるべくしてなったという感じかしら?」

 

「「?」」

 

 シア達の言葉にハジメもティオもきょとんとする。

 

 そうこうしている間に広場に転移してきた6体の竜が輝きだし、次の瞬間には6人の人型となる。全員が男で、筋骨隆々の和服テイストな服装を身に纏ったイケメン達だ。ただ、髪は竜化した時と同じでカラフル(緋色、藍色、琥珀色、紺色、灰色、深緑色)だ。

 

 その内の1人、緋色の髪をした、一際威厳を放つ初老の男性が前に出る。その偉丈夫が前に歩み出ただけで、大樹を思わせる"重み"という威圧を放っている。それに対して、各国のリーダーが一歩後退る中、ハジメや忍は特に気にした様子もなく、凪に風と受け流している。それを見てその偉丈夫は目を細めて2人を興味深そうに見るも、すぐに名乗りを挙げた。

 

「ハイリヒ王国リリアーナ・S・B・ハイリヒ殿、ヘルシャー帝国ガハルド・D・ヘルシャー殿、フェアベルゲンの長老アルフレリック・ハイピスト殿。お初にお目にかかる。私は、竜人族の長『アドゥル・クラルス』。此度の危難、我等竜人族も参戦していただく。里には未だ同胞が控えており、ゲートを通じていつでも召喚可能だ。使徒との戦いでは役に立てるだろう。よろしく頼む」

 

『おぉ!』

 

 アドゥルの挨拶に各国のリーダー達も返礼していた。そして、侵攻時の行動方針について話し合うべくリリアーナ達と共に会議室に向かおうとする。ハジメ達、突入組は別で話し合う必要があったため、広場に残ったのだが…。

 

「……貴様。"姫"にいったい、何をした…?」

 

 藍色の髪の竜人がハジメの元までやってきて押し殺したような声で問うた。

 

「?」

 

 質問の意味が分からず、ハジメ達はリリアーナの方を向くが…

 

「何処を見ている! 竜人が姫と言ったら、ティオ様のことに決まっているだろう!」

 

 その言葉にハジメ達が固まる。

 

「姫?」「姫?」「姫?」「姫?」「姫?」

 

 ハジメ、シア、香織、雫、忍が口々にした後…

 

「「「「「ないわ~」」」」」

 

 その言葉にさしものティオも吠えた。

 

「な、なんじゃ! "姫"と呼ばれとったら悪いか!? 一応、族長の孫なんじゃから、そう呼ばれてもおかしくなかろう!」

 

 まぁ、確かに一理、どころか納得のいく説明だった。その際、ハジメがドS顔でティオを言葉責めし、忍達から呆れられてたりもした。

 

 その後、藍色の髪の竜人…名は『リスタス』という…の嫉妬による八つ当たりを見兼ねたアドゥルが諫めに入り、ハジメと対面する。

 

「初めまして、南雲 ハジメ君。君のことはティオから聞いている。魔王城での戦いぶりも見せてもらった。神を屠るとは、見事だ。我等では束になっても敵うまい」

 

「初めまして、アドゥル殿。あなたの孫娘の変な扉を開けてしまったのは俺が原因です。決戦前ではありますが、一発くらい殴られる覚悟はありますよ」

 

『ッ!?』

 

 ハジメの敬語を聞き、周囲がパニくる。

 

「まぁ、ハジメは傲岸不遜を地で行くような奴になっちまったし、ある意味で自業自得?」

 

「うるせぇよ」

 

 唯一忍だけがわかったような口を開いたので、ハジメが恨めしげに一言放つ。

 

「ふむ。映像や聞いていた話とは少し異なるようだが…周囲の反応も普段の君と違うと言っているようだ」

 

「まぁ、ティオの身内なんで。竜人族の族長ならタメで話しますが、ティオの祖父とあらば、言葉遣いくらいは改めますよ」

 

「ほぅ! ティオの祖父だから、か。ふふっ、なるほど、なるほど」

 

 その後、いくつか話をした後、アドゥルはハジメにティオのことをどう想っているのか問い、ハジメは自らの答えを示した。 

 

「最近、よく言われるんですが…俺、魔王らしいんで」

 

「ふむ?」

 

「だから、欲しいものがあれば全部手に入れますし、邪魔するものは全部ぶっ飛ばします」

 

 ティオの腰に腕を回した状態で、アドゥルを前に堂々と告げていく。

 

「俺はティオが欲しい」

 

「っ!?////」

 

「もう、ティオがどう思うかなんて関係ない。今更逃がすつもりはない。確かにユエは、俺の最愛ですが……それでもティオを愛おしい思う。だから…」

 

「だから?」

 

「ティオはもう、俺のモノだ。俺が気に食わないってんなら、力尽くで奪ってみせろ。いつでも、どこでも、何度だって、受けて立ってやるよ」

 

 その言葉に成り行きを見守っていた一同が絶句する。忍はやれやれと肩を竦め、シア達は「仕方ないなぁ」みたいな表情だったりする。

 

「確かに理不尽の権化。御伽噺の中の魔王のようだ。ふふっ、なるほど。私の孫娘は魔王の手に堕ちた訳か。世界を救うかもしれない魔王の手に。くははっ」

 

 ハジメの本心を聞き、満足したような表情のアドゥルはハジメにティオを託す言葉を贈り、ハジメもまたアドゥルに誓いの言葉を贈った。

 

 アドゥルは同胞の竜人達に喝を入れると、リリアーナ達と共に会議室へと向かう。その際、リリアーナや愛子が物凄く羨ましそうにハジメをチラ見して未練たらたらであったが…。

 

 そして、突入組もまた各自の動きや新たに渡されたアーティファクトの習熟を行いながら、その時を待つ。

 

 

 

 訪れる日の出。東の地平線から太陽が顔を覗かせ、西へと大きく影を伸ばす。

 

「来たか」

 

「来たな」

 

 2人の化け物が別々の場所で呟いた瞬間、真っ赤に燃える太陽が完全にその姿を現した時にそれは起きた。

 

ビキッ!!

 

 世界が赤黒く染まり、鳴動する。ハジメ達が見上げた神山の上空に亀裂が入り、深淵が顔を覗かせた。

 

「さぁ、決戦の時だ…!」

 

 終わりの始まりが今、幕を開ける。

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