赤黒く染まった世界。
朝焼けの燃えるようなオレンジ色ではない。もっと人々の不安を掻き立て、恐怖心を煽るような酷く不気味で生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない色だ。そんな風に染まってしまった世界で、連合軍の兵達は根源的な恐怖からか、ビクッと身を震わせる。
ビキッ!!バキッ!!
そんな音を立てながら神山の上空に入った亀裂がさらに広がっていく。
「っ、総員ッ!! 戦闘態勢ッ!!」
そんな恐怖に負けそうになる兵達に向けて叱咤を含んだ命令が下される。拡声アーティファクトで声を拡大したガハルドの怒声だ。その怒声で兵達の呪縛も解け、各々が動き出す。
その間にも神山上空の亀裂は大きさを増していき、兵達が配備についた頃、遂に轟音と共に空間が粉砕された。ガラスのように吹き飛び散らばるキラキラした空間の破片。大地に空いた裂けめの如く、空に出現したそれは深淵を覗かせる。エヒト達が神域に戻るために使った荘厳さすら感じさせる黄金の渦とは真逆の深く濃い闇。渦の代わりに粘性を感じさせる瘴気のようなものを噴き出している。
その闇から、黒い雨が降り始める。否、黒い雨のようにも見えるそれは、魔物だ。それが雨の如く地上に降りてきたのだ。その黒い魔物の豪雨は、神山の山頂を瞬く間に黒く塗り潰し、そのまま雪崩の如く神山を降り始める。
さらに黒い瘴気に覆われた空間の亀裂から、今度は白い雨が水平に放たれた。赤黒い天にはよく映える白…否、銀の雨。
「使徒の数も半端ではない、か」
そんな雨を険しい視線を送りながら呟くのはガハルドだ。戦装束で身を固め、連合軍大将として、直属の部隊と共に前に出ていた。そこにリリアーナから念話が届く。"女神"と"剣"の出番のようだ。
「連合軍の皆さんっ! 世界の危機に立ち上がった勇気ある戦士の皆さん! 恐れないでください! 神のご加護は私達にあります! 神を騙り、今まさに人類へと牙を剥いた邪神から、全てを守るのですっ! この場に武器を取って立った時点で、皆さんは既に勇者です! 1人1人が、神の戦士です! さぁ、この"神の使徒"である"豊穣の女神"と共に、叫びましょう! 私達は決して悪意に負けはしないっ! 私達が掴み取るのは、"勝利"のみですっ!!」
『勝利! 勝利!! 勝利!!!』
「邪神に滅びを! 人類に栄光を!」
『邪神に滅びをっ!! 人類に栄光をっ!!』
特に打ち合わせした訳ではないが、愛子の演説に連合軍の兵達はその瞳に希望を携え、咆哮を上げる。
「悪しき神の下僕など恐れるに足りません! "我が剣"よ! その証を見せてやるのです!」
愛子がそう叫んだ瞬間、落ち着いた声音が戦場全体に拡大して木霊する。
「仰せのままに。我が女神」
ハジメが何もない空中で踏み止まると、どこからか取り出したダイヤモンドのような宝珠を頭上に掲げた。その宝珠が太陽の如く燦然と輝き、兵達を照らし出した後、それは起きた。
赤黒い天の一部が、一瞬キラリと光った刹那、黒い魔物の雪崩に覆われて色を変えつつあった神山の山肌の一部が、凄まじい轟音と共にごっそりと吹き飛んだ。だが、それだけでは終わらない。天が瞬いたと思えば、次から次へと何かが神山に降り注ぎ、標高8000メートルの山を、まるで海辺で作った砂山で棒倒しのゲームでもするかのように崩していった。ちなみに落下物の正体は金属塊だ。それを成層圏から自由落下させただけである。だが、その破壊力は凄まじいの一言だ。そんな破壊の権化が数百発単位で、局所的に降り注がれる。
その光景に兵達はというと…
『----ッ』
震えていた。恐怖に、ではない。歓喜だ。そして、胸の内に湧き上がる闘志に、だ。
『ウォオオオオオオオオオオオオッーーー!!!!!』
腹の底から、まさに神話のような光景に身を震わせつつ、雄叫びを上げる。
『愛子様万歳! 女神様万歳!!!』
開戦直後の『神山崩し』に兵達の闘志が高まっていく。
神山の崩壊に、天空の使徒達も流石に動きを止めていた。だが、次の瞬間にはまるで鳥の一糸乱れぬ集団飛行のように動きを揃えながら猛スピードで要塞へと迫ってきた。
神山崩壊によって半壊状態の王都を、さらに迫りきた粉塵が包み込み、そのまま砂嵐の如く要塞へと迫ってくる中、ハジメは別の宝珠を取り出して輝かせた。
「随分と虚仮にしてくれたんだ。この程度で済ますわけがないだろ? かのイカロスのように、翼を焼かれて堕ちろ。木偶共が」
ハジメがそう言った直後、大気を切り裂いて光の豪雨が降り注いだ。
太陽光収束レーザー『バルスヒュベリオン』。以前、王都に魔人族が侵攻した時に使用した、あの殲滅兵器だ。しかも1機だけではない。高度10000メートルに合計で7機のバルスヒュベリオンが浮かんでおり、ハジメの持つ宝珠によって制御され、殲滅の光の柱を突き立てていた。
バベルの塔の如く、大地と天空を繋げる光の七柱は、空間の亀裂から一直線に連合軍へと迫っていた使徒達を一気に呑み込んでいく。
不意を突かれて消滅した使徒達は数知れず。中には防御しようとした使徒もいたが、それも叶わず。運よく躱した使徒や新たに出現した使徒達は上空へと向かう。
「遠慮するな。まだまだ、たらふく喰わせてやるよ。それこそ、全身はち切れるくらいになぁっ!!」
それすらも想定の範囲内だと言わんばかりに、上空のバルスヒュベリオンから小型ビットが射出され、それらが太陽光収束レーザーを歪曲・拡散させていき、空を覆い尽くさんばかりのレーザーの包囲網を以って使徒達をレーザーの監獄に閉じ込める。
「まぁ、こんなもんだろ」
そこに更なる追撃を加える。
「纏めて消えろ」
バルスヒュベリオンからポタリと7個の輝く何かが落ちると…
ドォオオオオオオオオンッ!!!
赤黒い天空に太陽の華が咲いた。それはまるで七つの太陽が同時に生まれたかのような輝きが空を覆い、直後に凄まじい威力の衝撃波と熱波が降り注いだ。そのあまりにも絶大な破壊の衝撃波は使徒達を容易に巻き込み、神山崩壊によって要塞に迫ってきた粉塵も一気に押し流されていく。ちなみに要塞にも衝撃波は届いたが、それは王都から移設し、ハジメが改良を加えた"大結界"によってかろうじて防がれていた。
「……………………」
「(あ、これ。絶対に想定よりも破壊力が凄まじいことになってるな?)」
ハジメの冷や汗に気付いた忍が、ちょっと呆れたような表情でハジメを見る。最近のパーティーメンバーも口々にハジメに自重させないととか言ったりしている。竜人族組も驚愕に白目を剥いたり、腰を抜かしたりもしていたが、うさ耳集団だけは狂喜乱舞していた。
「こ、これが、我が剣の力! 勝利は我等と共にあり!!」
『勝利! 勝利!! 勝利!!!』
その光景にどこか引き攣った声音で叫ぶ愛子だが、そんなことは気にしてないように兵達も雄叫びを上げる。
「総員、武器構え!! 目標上空! 女神の剣にばかり武功を与えるな! その言葉通り、我等1人1人が勇者だ! 最後の一瞬まで戦い抜け! 敵の尽くを討ち滅ぼしてやれ!! 我等"人"の強さを証明してやれッ!!!」
半笑いだったガハルドが気を取り直して指揮を行った。
『オォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
そのガハルドの声に応えるように兵達から凄まじい雄叫びが上がる。それぞれがそれぞれの役割を果たそうと、闘志を滾らせる。
そんな中、ハジメが愛子の元へと歩み寄る。
「先生、見事な演説だった。流石、豊穣の女神だな」
「南雲君。私は、もう何と言ったらいいのかわかりません…」
そんな風に言った後、ハジメは愛子にバルスヒュベリオン操作のための宝珠を愛子に託した。戦々恐々とした面持ちで、それを受け取る愛子を尻目にハジメは香織に目を向けた。
「顔は使徒だが、髪色1つで香織に見えるな。うん、やっぱ香織は黒髪の方が似合う」
「えへへ、そうかな? なら早く終わらせて、元の体に戻らなくちゃ」
今の香織の肉体は元々が使徒のものだ。それをハジメの用意した変装用アーティファクトで偽装している。間違って香織をやらせないための措置だ。
「忍、香織。後は頼んだぞ?」
「あぁ、任された」
「うん。こっちは大丈夫。ハジメ君達の帰る場所は、私達が必ず守るよ。ミュウちゃん達にも、もう手は出させないから。だから、ユエをお願いね」
「あぁ、楽しみにしとけ。帰ってきたら、ユエと一緒に弄り倒してやる」
「もう! ハジメ君の意地悪!」
「仲が進展してるようで何よりだな」
そんな軽口を叩いていると、ハジメの後ろにシア、ティオ、雫、龍太郎、鈴が歩み寄る。その周りには要塞内部にいながらも外部の状況が分かるようにと、無数の水晶ディスプレイが設置されているが、今は逆に要塞内部の司令室と、そこにいるリリアーナ達、そしてカムなどの各部隊の隊長格が映っていた。
「姫さん。対使徒用アーティファクト、上手く使えよ。適任だと信じて託したんだからな?」
『ぷ、プレッシャーを掛けないでくださいよ。まぁ、こちらはどうにかします。ハジメさん、ご武運を』
「あぁ」
ディスプレイ越しのリリアーナと頷き合ったハジメは、同じくディスプレイに映るカムに視線を向ける。
「カム。今更、御託はいらないな……暴れろ」
『クックックッ、痺れる命令、ありがとうございます。しかと承知しました。ボスの神殺し、ハウリア一同、楽しみにしております』
「当然だ。奴は俺が殺す」
不敵な笑みを浮かべ合った後、その場で見える全員…ランズィやアルフレリック、イルワなどの各国のトップ陣達に視線を巡らせ一言。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
その軽そうに見えても力を感じるハジメの言葉に…
『いってらっしゃい』
地上に残る面々は一言、そう返していた。そして、飛び上がる六条六色の魔力光が尾を引いて天へと昇っていく。目指すは、神山上空の深淵、空間の裂け目だ。
ハジメの前方攻撃とハウリアの狙撃衆の援護によって空間の裂け目へと辿り着いた突入組は、劣化版クリスタルキーでその扉をこじ開け、想い人のいる世界…すなわち『神域』へと突入したのだった。
ここから先は我慢比べとなる。突入組が…否、ハジメが神を殺すのが先か、それとも地上の人類が使徒達に蹂躙されるのが先か、という神話級の我慢比べだ。
地上に残った化け物の片割れと、魔王に侍る堕天使は…
「さて、白崎さん。いっちょ派手に暴れますか!」
「うん!」
黒銀の4枚の翼を展開する香織と、"紅蓮の3対6枚の翼を背中から広げた"忍が上空へと飛翔する。
「テメェらが害獣と蔑んだ古の覇王の姿を…今、見せてやる!!」
そう言った途端、忍の体を紅蓮の翼と焔が包み込む。
「何をしようとしているかはわかりませんが、いい的ですね」
使徒の1人がそう言うと、忍に向けて四方八方から分解砲撃を放つ。
ブォン…!
その周囲に、まるで卵のような漆黒の闇が展開されて、分解攻撃を吸収していく。
「ならば、直接…」
そう言い、使徒達が双大剣を手に忍の元へと集まっていく。
ピキッ!
だが、その判断は少し遅かったようだ。まるで本当に卵から雛が孵る様に闇の卵が罅割れる。
そして…
『キュオオオオオオオ!!!』
闇の卵から紅蓮の不死鳥が誕生する。
「っ!?」
その光景に一瞬怯んだ使徒達に向かい、不死鳥…否、忍が声を漏らす。
『顕現。"焔帝"』
バサァ!!
大きく広げられた3対6枚の翼から紅蓮の羽が舞う。その威風堂々たる姿に戦場の誰もが息を呑む。
『邪神の使徒よ。覇王の前に平伏せ』
そう言って赤黒い天を駆ける一羽の不死鳥が器用に襲い掛かってくる使徒達や地上から放たれる銃弾の雨の合間をすり抜けていく。だが、ただすり抜けるだけではない。小さな紅蓮の球体を使徒達の体内へと仕込んでいる。
『愚かな使徒に爆炎の裁きを。バレッテーゼ・フレア!』
チュドドドドドドドッ!!!
忍の言葉をキーに数多くの使徒達が体内から爆散する。
『花火にしちゃあ、品がねぇな』
自分がやっておいて酷い言い様であるが、実際その通りなのと、誰もが目の前の使徒を殺すのに集中しているため、誰も気に留めていないが…。
「害獣の一匹如きが随分な口を利きますね」
新たに現れた使徒達の群れに包囲される忍。
『あぁ? 誰に向かって言ってるんだ?』
「あなたにですよ。もう1人のイレギュラー!」
包囲網から一斉に放たれた分解砲撃は中心に位置する忍目掛けて殺到するが…
『ふっ…』
忍が翼で自身を包み込むのを見て、防御を固めたかと考える使徒達だが…
『顕現。"獄帝"!』
翼が漆黒に染まり、その翼が崩壊すると、翼の中から白い縞模様に漆黒の体毛の虎が出現し、漆黒の足場を作りながら空を移動し、使徒の1体に飛び掛かる。
「なっ!?」
『人形のくせに、随分と人間らしい表情をするじゃねぇか?』
驚愕に見開かれた目と表情の使徒を見て忍が冗談交じりにその頭部を噛み砕く。それと同時にその頭を噛み砕いた使徒の体を踏み台にして別の使徒に飛び掛かる。
「くっ…!」
それをかろうじて回避する使徒だが…
シュッ! ガチッ!!
尻尾の先から闇が溢れ、尻尾の先が延長したようにも見える長い尾でその回避した使徒の胴を捕まえる。
『そのまま死ね』
地上に落ちる反動を利用し、その使徒を頭から地面に叩き付け、自身は上手い具合に着地していた。
『ガオオオオオオオオオッ!!!』
戦場に今度は虎の咆哮が響き渡る。
ちなみに連合軍も作戦通りに動いており、聖歌隊による使徒の弱体化や、使徒を地上に墜とすアーティファクトで地上戦に持ち込んだりして連合軍は使徒達と死闘を繰り広げていた。さらにはハジメの考案した『人類総戦力限界突破』もあって互角以上に渡り合っていた。
さらに時間が経ち、制空権の奪取のために竜人族も遂に出陣する。
『流石に壮観だな』
"10体もの鬼を従えた純白の九尾の狐"の姿…すなわち『武鬼』の状態となった上に武天十鬼全てを召喚することが出来た忍が地上の使徒達を屠りながら、空の光景を見上げると、そう感想を漏らした。
『こっちも負けてられんなぁ!!』
武天十鬼を戻すと、空へと跳躍し…
『顕現。皇龍』
白銀の龍鱗が美しい東洋龍が顕現し、空を駆ける。
『さぁ、テメェらを"支配"しよう』
忍の瞳が一瞬煌めき、その視界にいた数体の使徒が動きを止めたかと思えば…
『人形同士で潰し合え』
忍の言葉に動きを止めた数体の使徒が同胞たる使徒に向かって襲い掛かり始めた。
「な、にを…!」
「主の命令は絶対です」
まるで主の存在を上書きされたかのように忍の命令に忠実になる使徒達に同胞の使徒達が困惑する。
「イレギュラー…!!」
『はっ、感情なんてないんじゃないのかよ?』
忍に向けられた敵意に忍は鼻で嗤い、次の覇王となる。
『顕現。雪羅』
瑠璃色と白の体躯を持った鯱となった忍は空間に穴を開け、そこを飛び跳ねるようにして泳ぎながら…
『
飛び跳ねた先の空間を凍結させて使徒達を氷の彫刻にしていた。
『流石に魔力消費が馬鹿にならんな』
空間魔法を使いながらの移動で魔力を消費してしまった忍は次の一手に移る。
『顕現。真祖』
真紅の甲殻と漆黒の体躯を持つ
『いただきます』
「なにを…『ガチュッ!!』…!?」
おもむろに忍は使徒の首に食らいつき、使徒の体内に宿る魔力を吸い尽くす勢いで貪る。
「がぁっ!?」
『流石は無限の魔力タンク。お前1人で賄えそうだ』
忍が使徒の魔力を貪ってる合間も攻撃されているのだが、傷を負ったそばから回復してしまう驚異の再生能力を発揮していた。
『ぷはぁ~、ご馳走様でした』
やっと魔力の補給が完了した忍は、そのまま使徒の首を噛み千切り、しっかりと絶命させてから他の使徒に投げつけた。
『さぁて、次行こうか!』
その場で羽ばたき、使徒に向かおうとした時だ。魔物の第二軍と使徒数千体が追加でやってくる。が、それだけではない。
「『壊劫』」
その言葉と共に大地が魔物と共に消えた。
「--『壊劫』--『壊劫』」
三度響いた女の声と、消滅した魔物達に戦場が唖然とする中…
「やほ~☆ ピンチになったら現れる、世界のアイドル、ミレディちゃん見参ッ!! あはは~、最高のタイミングだったねぇ! 流石、わ・た・し♪ 空気の読める女! 連合のみんな~、惚れちゃダ・メ・だ・ぞ?」
巨大なゴーレムと、その肩に乗ったちっこい人型(乳白色のローブとニコちゃんマークの仮面装備)が出現したのだ。そのゴーレム達の登場に連合の時が止まる中…
『ミレディばあちゃん!』
その正体を知る忍が大声を上げた。
「誰がばあちゃんだ! 私は永遠の17歳なんだから、そこんとこ気を付けてよね! って、そんなこと言うのは…」
忍が巨大ゴーレムの空いている方の肩へと移動し、その姿を獄帝のものへと変化させて着地する。
「……………………ごー、ちゃん…?」
『姿はな。だが、中身は俺だ』
「あ、覇王君。ってことは全部集まったんだね? 『絶禍』」
『あぁ、真なる覇王に大手ってところだ』
「そっか。うん、最期にごーちゃんとまた会えて嬉しいな。『崩軛』」
『そうか』
そんな会話をしながらも2人は、重力魔法と闇の力で魔物を屠り続けていた。その姿は歴史の闇に埋もれてしまった古の覇王と解放者を彷彿とさせるものだった。
そんな中、1000体もの使徒が連合の攻撃を無視して聖歌隊を標的として一斉に降下した。
『顕現。覇狼!』
それを見て忍が神速を用いて聖歌隊の頭上に陣取り…
『今見せよう。"真なる覇王"の姿を!!』
叫んだ瞬間、忍の体に更なる変化が起きる。その肉体が盛り上がっていき、巨躯となって聖歌隊を覆う結界をも覆うような巨体となり、その姿は狼の頭部、虎の胴体と後ろ脚、狐の前足と九尾、背中に鯱の背びれ、飛竜と不死鳥の変則的な4対8枚の翼、龍の鱗のような鎧といった
『ウォオオオオオオオオ!!!!』
そして、咆哮一発と共に口から膨大な魔力を放ち、1000体もの使徒を迎撃する。
『なんと…!』
「紅神君…!」
が、全ての使徒を迎撃出来た訳ではなく、何百という使徒が忍の巨躯に大剣を突き刺していた。
『ぐぅぅ!!!』
それに苦しみながらも再生能力や氷河期を用いて使徒達を駆逐していき、聖歌隊を守る。
だが、使徒はそんなことなどもう構うものかと、数の暴力で連合軍を蹂躙しようと行動を開始する。そして、銀の魔力が収束していくのが見え、竜人達や香織が収束に集中して動かない使徒達を駆逐していく。
それでも使徒達の収束は止まらない。滅びの閃光が放たれようとする。
『させるかぁああああああ!!!!』
限界突破を発動し、魔力の底上げを行った忍が口の中に魔力を収束させ、再度ブレスを放つ準備に入った。
『(白崎さん、守りは頼む!)』
香織に防御を任せるのと同時に、銀の閃光が放たれ、忍もまた前進してブレスを放っていた。
ゴオオオオオオオオオオオッ!!!
銀の閃光と特大ブレスが衝突し、その余波が周囲に多大な被害をもたらそうとする。
「『不抜の聖絶』ッ!!」
その被害を最小限に留めようと香織もまた専用アーティファクトで障壁を展開していた。障壁外にいる忍の肉体には多大なダメージが残るものの、それでも使徒達の攻撃の手を緩めない。
そうして数秒か、数分か…長いようで短い時間が過ぎていき、耐えきった忍達の前には…
「我等、神の使徒は無限」
本当に無限に湧き出るような使徒達を見て連合の誰もが、絶望に顔を沈めるが…
『諦めるかよ。なにせ、俺の親友は…最強なんだからな』
そう言った直後だ。フッと霧散する銀の光と、カクンッと力の抜けた使徒達の群れが見えた。
『やったのか、ハジメ!』
「ハジメ君、ユエ、みんな…」
忍も香織もボロボロの体で上空に現れた神域に向かって飛びだそうとした時だ。
「彼等のことは任せて。皆に愛されて幾星霜、このミレディちゃんに、ね☆」
そうしてミレディが神域へと飛び立っていった。
ミレディが飛び立った後、世界の崩壊を前にして誰もが空を見上げる中…
『皆さん、絶望する必要などありません! あそこには、あの人がいるのです! 今、この瞬間も、あそこで悪しき神と戦っているはずです! 使徒が堕ちたのも、空の世界が壊れていくのも、悪しき神が苦しんでいる証拠です! だからっ、祈りましょう! あの人の勝利を! 人の勝利をっ! さぁ、声を揃えて! 私達の意志を示しましょう!』
愛子の言葉が戦場に響き渡る。
『勝利をっ!』
リリアーナが…
『勝利をっ!!』
ガハルドが…
『勝利をっ!!!』
カムが、アドゥルが、アルフレリックが…いや、戦場にいる全ての者が雄叫びを上げる。
そして、シアとティオが、雫達が光輝を連れてそれぞれ神域から帰還してくる中……遂に虹色のオーロラの狭間から深紅の波紋が広がるのが見えた。
『わ、私達の、勝利ですっ!!』
それが見えた愛子がそう言っていた。
『ォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
戦場に、否、新たな世界に人々の爆発したような歓声が響いた。
『終わった、か…』
ボロボロの体を横たえさせ、忍また元の姿へと戻っていく。
「あとは…帰るだけだな…」
世界が煌めく中、空を見上げて忍は一言、そう漏らしていた。