もう1人のイレギュラーは反逆の覇王   作:伊達 翼

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第五話『化け物コンビ』

ハジメと忍が奈落へと落ちて早十日が経とうとしていた。

 

ハジメはあれから生死の狭間を彷徨っていたが、錬成した穴の先にあった『神結晶』という激レアで魔力が結晶化したものから滴る高純度の魔力水『神水』によって生き永らえていた。

そうして孤独の中、己一人しかいない状況で助けを求めようと誰も来ず、クラスメイトにも裏切られたと思い始めていた。

だが、そんな些事を乗り越え、ハジメの心境は一変していた。

一週間が過ぎた辺りからその意識が変革していき、生きるために"敵は殺す"という絶対の掟を持って生き抜くことを誓っていた。

 

そうしてハジメは行動を起こした…。

 

魔物を喰らうことで飢餓感を抑え込むという…人というよりも獣の所業を以って…。

 

魔物を喰らい、神水を飲んで己の肉体が変質するのをわかっていても、ハジメは生きるために魔物を喰らい続け…そして、奈落にあったいくつもの鉱石を用いて試行錯誤を繰り返して武器…大型のリボルバー拳銃『ドンナー』を生み出して、己の左腕を喰らった爪熊へのリベンジを果たす。

 

魔物の肉を喰らったハジメのステータスは見る見るうちに上がっていったのだった。

 

………

……

 

一方の忍はというと…

 

「栄養失調になるぅ~」

 

あれからほどとんど水しか口にしておらず、かなり疲弊していた。

というか十日以上も水のみで生き抜いてること自体が奇跡だろうか?

 

「いや、マジでどうすっかな…」

 

その割になんか余裕が見えそうな気もしないでもないが…。

 

そんな時…

 

ズドンッ!!

 

グァアアアアア!!?

 

何やら聞き覚えのない…いや、聞いたことのある音と獣の絶叫が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!?」

 

それに驚き、忍はバッと飛び起きると…

 

「今のは…まさか、銃声?」

 

狼と銃ををモチーフにした作品が好きな忍にとっては心躍るものがあったが、今はそれどころじゃない。

 

「こんな異世界の地下で銃声……もしかして、親友か?」

 

そう思った忍は自然と銃声と絶叫の聞こえた方へと駆け出していた。

 

「失せろ!!」

 

こちらに近付いてくる魔物を覇気によって遠ざけながら走る。

 

そして…

 

「はぁ…はぁ…」

 

久々の全力疾走に肩で息をする忍が見たのは…

 

「あむ、ぐむ…相変わらずまっじぃな…」

 

爪熊の毛皮を剥ぎ取り、その肉を貪ってる親友の姿があった。

白髪で左腕喪失、雰囲気や眼光などもかなり様変わりして変貌した姿で、だが…。

 

「は、ハジ、メ…?」

 

その様子に顔を引き攣らせながら忍は親友の名を呼ぶ。

 

「あ?」

 

ハジメの鋭い眼光が忍を射抜く。

 

「忍か? そういや、一緒に落ちてたっけ」

 

さりげなく忍の存在をシレッと忘れてた宣言をされてしまった。

 

「おいおい、親友を忘れるなんて酷いじゃないか……てか、お前…その姿…」

 

そう言って忍がハジメに近寄ろうとすると…

 

チャキッ…

 

「………………」

 

ハジメがドンナーを忍に向ける。

 

「やっぱ、銃か。錬成で造ったのか? てか、親友に銃を向けるなって…」

 

ハジメからの尋常ではない殺気に忍もたじろいでしまう。

 

「答えろ、忍。お前は…俺の"敵"か?」

 

「おいおい…洒落になってねぇって…」

 

「いいから答えろ」

 

ハジメの問いに忍は…

 

「OK。俺はハジメの敵じゃない。むしろ味方だと自負してる。あの時、お前を助けるために橋を走ったしな。ま、嫌なもんも落ちる時に見えたが…」

 

両手をホールドアップさせてそう答えていた。

 

「こんな見てくれになった"俺"の味方だと?」

 

「おぅふ…一人称も変わってやがる。よっぽどのことが起きたらしいな…」

 

「そう言うお前は今まで何してた?」

 

ギロッと睨むハジメに…

 

「俺か? 水源あったからそこに布陣して水だけで生活してたぜ? お前を捜すことも考えたが…ちとこの階層の魔物がヤバくて遠出が出来なかったってのもあるがな。あと、極力動かないようにしてたしな。あんま動くと体力やら何やらが奪われそうだったしな」

 

忍はそう答えていた。

 

「ただの水だけでって…お前、大丈夫か?」

 

その言葉にさしものハジメも同情の視線を向ける。

 

「ハッハッハッ、全然大丈夫…『ぐぅ~』…じゃねぇよ」

 

はぁ、と肩をがっくりと落とした忍はもう空腹ですとお腹が主張してるくらいにやつれていた。

 

「お前、よく生きてたな」

 

改めてハジメは忍の生命力に感嘆した。

 

「まぁ、何か知らんが、技能が一つ増えたからな。そのおかげで魔物は寄り付かせなかった」

 

「ほぉ?」

 

「なんか、古の覇王がどうたらとか大迷宮の深部で待ってるとか変な幻聴も聞こえてな…」

 

それを聞き…

 

「(頭)大丈夫か?」

 

なんとなくイントネーションでわかった。

あ、これ…危ない奴に言う台詞だ、と…。

 

「ハッハッハッ、親友に痛い人見る目された」

 

ハジメなら何かしらフォローしてくれると信じてただけに地味にショックだったようだ。

 

「つか、親友よ。お前さん、魔物喰ってたけど…そっちこそ大丈夫なのか?」

 

「もう慣れた」

 

「そっすか…」

 

親友が思いの外、野生児みたいなことになって忍は遠い目をした。

 

「つか、魔物を喰らうとステータスが爆上がりしたぞ? それに魔物の固有魔法も取り込めたし、詠唱や陣もいらずの魔力操作も出来るしな」

 

「え、マジで?」

 

「ただ、普通に魔物の肉喰うと死ぬが…」

 

「じゃあ、お前はなんで平気なんだよ!?」

 

「神水…ほら、図書館で調べてた時に一緒に見たろ? 高純度の神結晶から溢れ出す魔力の液体だよ。それ服用して肉体改造みたいなことした」

 

「あ、だからそんな体格が良くなってんのな…」

 

ハジメの体格が妙に良くなってることに気付いてた忍はその理由を知ってただただ驚いていた。

 

「お前も喰うか?」

 

そう言って纏雷で微調整して焼いた爪熊の肉を差し出す。

 

「マジかよ、親友。喰ったら死ぬかもしんない肉を勧めるのか? 確かに腹ペコではあるが…」

 

「一回喰えば問題なくなる。味は保証しないがな。安心しろ、ちゃんと神水を分けてやる。一回分だけな」

 

「おぅ…親友が鬼畜になってらっしゃる」

 

そんなハジメの言葉に忍は凄く悩んでる。

 

「あ、そうだ。親友、お前のステータスを見せてくれ」

 

「あん?」

 

「そんな無作為に喰って得た技能を駆使するよりも計画的に得た方がよくね? この階層で親友が喰った魔物の技能を…」

 

そんな忍の提案に…

 

「ちっ…その手があったか。だが、俺は俺の邪魔する奴を殺して糧にする。選り好みしてるとその内死ぬぞ?」

 

ハジメは至極真っ当そうなことを言う。

 

「うむむ…そう言われると返す言葉がない」

 

ぐぅ~~

 

と腹の虫も魔物と言えど肉の匂いに余計に鳴り響く。

 

「………………」

 

「やれやれ…ほらよ」

 

忍の微妙な表情にハジメは焼いた爪熊肉を忍に向かって放り投げる。

 

「ほわっ!?」

 

それを慌てて掴むと…

 

「背に腹は代えられんか。神水もプリーズ」

 

「お前はいつからエセ外国人になった?」

 

仕方ねぇな、とハジメも石で出来た試験管を一本放り投げる。

 

「サンキュー。じゃ、俺も人外の仲間入りしますかね」

 

「誰が人外だ、誰が」

 

「ハッハッハッ」

 

「笑って誤魔化すな」

 

そんなコントを繰り広げつつも…

 

「いざ、未知なる扉へ!」

 

ガブリ!!

 

そう言って忍は勢いよく爪熊肉にかぶりつき、一口が大きかったのか豪快に咀嚼して呑み下すと…

 

「ゴクゴクッ」

 

すかさず試験管から神水を一気に煽る。

 

その瞬間…

 

ドクンッ!!!

 

「がああああっ!?!?!?」

 

それから数十分間、忍はその場で尋常でない激痛にのたうち回った。

その横でハジメは普通に食事したり、錬成したりして時間を潰していた。

 

そして…

 

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

 

やっとこさ激痛から解放された忍は大の字で寝たままステータスプレートを見た。

 

-----

 

レベル:8

天職:反逆者

筋力:200

体力:250

耐性:200

敏捷:350

魔力:300

魔耐:200

技能:七星覇王[+覇気]・魔力操作・胃酸強化・風爪・言語理解

 

-----

 

「おぉう…マジか…」

 

忍は一気に三つも技能を得たこととステータスの上がり具合に驚きを隠せないでいた。

ステータプレート持ったまま両腕を広げると…

 

「はぁ…これで俺も人外の仲間か」

 

「別に生き残るための糧だ。その過程で人外になろうが、生きて帰れりゃいいんだよ」

 

ハジメの言葉を聞き、忍は顔をハジメに向けた。

 

「帰れるのか?」

 

ただ、それだけ聞く。

 

「少なくとも俺はその方法を探すつもりだ。生きて生きて生き抜いた先で、な…」

 

「…………そっか…」

 

忍は顔を天井に向け…

 

「俺もな。狼の群れに囲まれた時、生きて帰りてぇって強く思った」

 

ポツリと囁くように呟いた。

 

「…………………」

 

ハジメは何も言わなかったが、忍は語るのをやめなかった。

 

「そしたら技能が増えたんだよ。多分、最初からあったあの技能は俺の心境次第か、何らかの条件で解放されてくんだろうなって予想はしてる。その鍵は…この迷宮の深部にある。そう考えてる。確か、ここを含めて七大迷宮とか言われてたよな? しかも俺の技能は七星覇王…なんか関係があるはずだと今なら確信出来る。だけどよ…俺一人じゃどうもダメだ。だからさ、親友…俺も…」

 

そこまで忍が言うと…

 

「断る」

 

ハジメがキッパリと言い放つ。

 

「え、えぇ~…まだ最後まで言ってねぇのに…」

 

ちょっとやるせなさを感じさせる表情で忍はハジメを見る。

 

「お前の都合なんぞ知るか。俺は俺の道を行く。故郷に帰るための手段を探す旅にそんな理由でついてこられても困る」

 

「俺だって本気で帰りてぇんだけど?」

 

「そこは信じてやる。だが、武器もないお前は足手纏いだ」

 

ド直球に投げつけられた言葉に…

 

「いや、まぁ…そうかもだけどよぉ」

 

忍も困ったように頬を指で掻く。

 

「旅は道連れ世は情け、って言うしさ」

 

「知るか」

 

取り付く島もない、とはこのことか…。

 

「じゃあ、勝手についてくわ」

 

開き直って勝手に同行する宣言をした。

 

「なに?」

 

「元々、俺はあのクラスの生徒じゃねぇし? 別に思い入れもないし、親友を助けようと勝手に動いた結果がこれだしな。その親友はこんな感じになっちゃってるが、放っておけるほど俺の友情も脆くないので、勝手についてく。異論は受け付けません」

 

よっ、と腕をバネにして立ち上がる忍は…

 

「体が軽いな。これも魔物を喰った影響かね?」

 

そんなことを言って軽く体を動かす忍に…

 

「はぁ…お前も大概変人だよな」

 

微かに笑みを浮かべたハジメはそんな風に言っていた。

 

「お前さんの親友だからな」

 

「どういう意味だ?」

 

ドンナーを忍に向けながら頬をピクつかせるハジメ。

 

「ハッハッハッ、気にしたら負けだぜ? あと、他に喰いもんない?」

 

久方振りに食べた肉…不味かったものの、食えるようになったのなら他にも喰いたそうだった。

その切り替えの早さにハジメは肩を竦めた。

 

その後、近くにいた蹴りウサギと二尾狼をご馳走になり、忍はステータスを向上させて技能も習得していった。

ただ、技能として得た魔物の固有魔法の使い方はハジメがイメージ次第だと言うので、喰った個体とは別の個体との実戦でコツを掴むことにした。

これもハジメが魔物を瞬殺したせいであり、忍はなんかどっと疲れた感じになっていた。

武器無しでも戦える忍にハジメは微妙な顔をしたそうな…。

 

ちなみに忍のステータスは…

 

-----

 

レベル:17

天職:反逆者

筋力:450

体力:500

耐性:400

敏捷:650

魔力:450

魔耐:400

技能:七星覇王[+覇気]・魔力操作・胃酸強化・風爪・天歩[+空力][+縮地]・纏雷・言語理解

 

-----

 

こんな感じになった。

ハジメと比べると若干上方補正が掛かってるように思える。

そこは初期ステータスの差だろうか?

 

ただ、魔力光が真紅となったハジメと異なり、忍の魔力光はちょっと変則的な虹色(白銀、瑠璃、真紅、黄金、漆黒、純白、紅蓮の7色)のままだった。

髪の色も若干黒が残っていて黒が混ざった白髪みたいな感じになっており、紫色だった左の瞳は真紅へと変わっているくらいの変化に留まる(それでも十分な変化だが…)。

それと魔物特有の赤黒い線も走っている。

 

これでめでたく化け物コンビの誕生である。

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