ヒュドラを倒し、ハジメがぶっ倒れた後…
ゴゴゴゴゴゴ…!!
ヒュドラが守っていたであろう扉が独りでに開いた。
「「…………………」」
それに対し、忍とユエは扉の奥から"まだ何か出てくるか?"と警戒していたのだが…
シーン…
一向に何も出てくる様子はなかった。
「とりあえず、入ってみるか?」
「……ん」
忍がハジメを担いで扉の中に入り、ユエもそれに続いた。
そこで2人が見たのは…
「……反逆者の住処」
広大な空間に住み心地に良さそうな三階建ての住居があった。
「こいつはまた…」
「……凄い」
その空間には何故か"太陽"があった。
正確には円錐状の物体が天井高く浮いていて、その底面に煌々と輝く球体が浮いている。
僅かに温かみも感じ、蛍光灯のような無機質さを感じないが故に"太陽"みたいと感じていた。
奥の壁に当たる部分には一面の滝が流れていて耳に心地いい音が聞こえてくる。
壁の天井から大量の水が流れていて、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいた。
さらに川の近くには畑と思しきものもり、家畜小屋的なものもあり、緑も自然豊かな感じだ。
ちなみにこの扉の奥の部屋の広さはちょっとした球場くらいの広さがあったりする。
あくまでも忍が感じた感覚で、だが…。
「ほぇ~」
「………………」
そんな小さいながらも穏やかな光景に忍は変な声を漏らし、ユエも驚いた様子だった。
「………とりあえず、ハジメを寝かせて回復を待つか…」
「……それは私に任せて」
気のせいか、ユエのハジメを見る目が狩人のそれに見えた。
「あ、うん。看病は任せた」
それを察し、忍もハジメの身を売った。
そうしてハジメを担いだ忍とユエは住居の中へと入り、一階にあったベッドルームを見つけてハジメをベッドに寝かせて忍は早々に退室した。
ユエの眼がマジで獲物を狩る狩人の眼をしてたからだ。
「さてはて、親友の操は……まぁ、無理だろうな」
そんなことを言いつつこの住居の探索を開始する。
一階はベッドルームの他、暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレがあり、奥の方に行くと一旦外に出てすぐのとこに露天風呂的な風呂があった。
しかもライオンもどきの彫刻があり、そこからお湯が出る仕組みになっているようだ。
次に二階に向かうと書斎や工房らしき部屋があったが、書棚も工房の中の扉も封印されているらしく開かなかった。
残る三階は部屋が一つあるだけだった。
如何にもな雰囲気のある扉を前にここはハジメ達と一緒に来た方がいいだろうと判断し、一旦一階まで降りる。
「あ、ハジメの荷物…」
そこで思い出したように忍は住居から出てハジメの荷物を回収しに行った。
もう残り少ないだろう神水を作る神結晶やら荷物を確保して扉の奥へと戻り、少し考えてからベッドルームの前まで行くと…
『……ふふ………むちゅ…はむ…』
「………………」
なんか聞いてはいけないものを聞いた気がして即行で回れ右してリビングに向かった。
「親友は…絶対に食われてる…」
とりあえず、ユエが出てくるまで待とうとリビングのソファで寝ることにした。
しかし、その見通しは甘かった。
外の太陽の光がまるで月明かりのように優しくなり、夜と錯覚するように天井一面が暗くなる。
「専門家じゃねぇけど…こりゃかなりの技術の粋を注ぎ込んでるんだろうな…」
そんな昼と夜の変化にリビングの窓から感嘆の声を上げる。
しかもユエは未だベッドルームから出てこない。
「あ~…気まずい…」
同級生の…それも親友のエロシーンなぞ想像したくないとばかりに忍はボヤく。
「というか、この場合…親友は
ユエの背格好を思い出しながらそんなことを考える。
しかし、年齢的には遥か上だ。
それを考慮すると一概に
「……ふむ、難しい問題だ。ま、本人達が気にしてないなら問題ないか」
結論、外野は温かく見守ろう。
ということにしたらしい。
その後、ようやっと出てきたユエは…何故かシーツで体を隠し、妙に肌がツヤツヤしてる気もしないでもなかったが、忍は気にしないようにしてハジメの荷物から神結晶をユエに渡してハジメのことを頼んでいた。
ユエは『任せて』とばかりに胸を張り、神結晶と共にベッドルームに戻ってしまい…まるで天岩戸の如く出てこなかった。
忍はもう何も言うまい、とリビングのソファで爆睡した。
流石に疲れもあったのだが…心労も少なからずあったのだろう。
ともかく、これで攻略は完了したと考えつつもハジメが起きたらどんな言い訳しようか、と眠る前に考えたのだった。
………
……
…
それから丸一日が経ち、ハジメが目覚めた。
目覚めたのだが…もう色々とアウト、と言ってもいいような気がしてならなかったようだ。
目覚めたハジメはこの住居にあった服装に着替えていた。
ちなみにユエは何故かカッターシャツ一枚だったが…。
やっとベッドルームから出てきた親友達に忍が適当に挨拶をしたのだが…
「テメェ、忍! 俺の体を売りやがったな!」
「はて、何のことかさっぱりなんだが?」
ハジメが問答無用で殴りにかかると、忍はシレッとした様子で避ける。
「目覚めたら朝チュンとかどういうことだ!」
「はっ! それは惚気か? 俺への嫌味か? この
「おい、待て! なんか今のおかしくねぇか!?」
「いや、何もおかしくはないだろ?」
そんな風にギャーギャー騒ぐ2人だったが…
「ともかく、三階に行こうぜ? 如何にも怪しいですって部屋があったからな」
「入んなかったのか?」
「まぁ、全員揃った方がリスク少ないかなって……あ、ちなみに二階には書斎とか工房とかもあったぞ。書棚とかは封印されてたが…」
しっかり情報は共有しておくことにした。
未だにハジメが殴りにかかってるが…。
「個人的に風呂があったのも嬉しかった。流石にまだ入る気にはならなかったが…」
「なんでだよ?」
「もし何も知らずにユエさんが来てみろ。俺の首が(物理的に)飛ぶ」
忍が風呂に入らなかったのは身の危険を感じたからだそうだ。
「まぁ、天岩戸の如く部屋から出てこなかったけどな」
「おい…それってどういう…」
「まぁ、本人に聞いたら?」
そして、ずっとベッドルームに閉じこもってハジメを"看病"していた張本人はというと…
「……ふふ……」
妖しく微笑みながら舌なめずりをしていた。
それで察せ、ということだ。
それを見てハジメはブルリと体を震わせたとか…。
「早く三階に行こうぜ~」
ヒラリとハジメの拳を避けると、忍は先に階段へと向かう。
「ちっ…」
と舌打ちしながらハジメも渋々といった具合に階段を登り、それをユエも追う。
「ほら、見てみろよ。如何にもだろ?」
三階の奥の部屋に続く扉を指して忍は大袈裟なリアクションを取る。
「確かにな。中はまだ見てねぇんだよな?」
「あぁ、ここは全員で行った方がいいと思ってな」
忍の直感的な部分がそう囁いたのか、単に警戒してなのかはわからないが、忍の表情は真剣だった。
「……開けるぞ?」
「……ん」
「あぁ…」
そして、開け放たれた扉の先にあった部屋には…
中央には直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が刻まれていた。
それはもう、一つの芸術のように見事な幾何学模様である。
それともう一つ。
魔法陣の向こう側にある豪奢な椅子に腰掛けた白骨化した骸があった。
その骸は黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っており、その右手の指には指輪、左手には白銀の宝玉を持っていた。
まるで誰かをここで待ってるかのような骸の佇まいに3人は疑問を抱いた。
「……怪しい……どうする?」
ユエが言葉を発すると…
「まぁ、調べないと何にもならんしな。ユエと忍はここで待ってろ」
ハジメが一歩部屋の中へと入り、魔法陣の中へと踏み込む。
すると…
カッ!!
ハジメが魔法陣の中へと入ると共に白い光が爆ぜるように部屋を満たす。
「「ハジメ!?」」
光に目が眩んだユエと忍がハジメの名を呼ぶと…
「あ、あぁ…大丈夫だ。だが…」
光が収まり、前方を見ればそこには黒衣を纏った青年がいた。
よくよく見ると青年は骸と同じオーブを纏っているように見えた。
『試練を乗り越え、よく辿り着いた。私はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えば、わかるだろうか?』
3人が驚いたように目の前の青年を見る。
『あぁ、質問は許してほしい。これはただの記録映像のようなものでね。生憎君の質問には答えられない。だが、この場に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いてほしい……我々は反逆者であって反逆者ではないということを…』
そこから語られたオスカーの話は驚愕のものだった。
ハジメや忍が聖教教会から聞いた話とも、ユエが知ってる反逆者の話とも異なっていたからだ。
曰く『狂った神とその子孫たちの戦いの物語』
神代の少し後の時代。
世界は争いで満たされていた。
人間、魔人族、亜人達が様々な思惑の元、戦争を繰り返していた。
だが、一番の理由は"神敵"だったからだ。
そんな中、そんな果てのない戦争に終止符を打たんとする者達が現れた。
当時『解放者』と呼ばれていた集団だ。
彼らには共通する繋がりがあった。
それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であり、そのためか解放者のリーダーはある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。
神々は…人々を駒とし、世界を盤面に見立てた遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。
解放者のリーダーは神々の暴挙が許せず、志を同じくする仲間を集めた。
彼等は『神域』と呼ばれる神々のいると言われる場所を突き止めた。
解放者のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人を中心に彼等は神々に戦いを挑んだ。
しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。
神は人々を巧みに操り、解放者達を世界に破滅をもたらす神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのだ。
その過程にも紆余曲折はあったが、結局解放者達は守るべき人々に力を振るうことが出来ず、人々の手によって討たれていった。
その際、解放者達は『反逆者』のレッテルを貼られたのだ。
最後まで残ったのは中心の7人とその7人と契約していた"7体の獣"だけ。
世界に敵を回し、彼等はもはや自分達では神を討つことは出来ないと判断した。
そして、契約した獣と共にバラバラに大陸の果てへと逃げ延び、そこに迷宮を創って潜伏することにしたのだ。
試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れるのを願って…。
オスカーの長い語りが終わると…
『君が何者で何の目的でここに辿り着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っていてほしかった。我々が何のために立ち上がったのか…。君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすために振るわないでもらいたい』
そう語るオスカーの眼は真剣だった。
『最後に、我々と契約していた獣について話そう。彼等は、それぞれが"覇王"と呼ぶに相応しい高潔にして孤高の獣だ。もし、彼等…覇王の魂を持つ者に遭遇したのなら授けてほしいものがある。私が持っている宝玉だ。魂とは別に彼等が生前持っていた能力を封じている。覇王の魂も持つ者以外が手にしたとしても何も反応はしないようになっている。だが、覇王の魂を持つ者が手にすれば…彼等の能力が具現化する。その力もまた、悪しき心を満たすために使わないでもらいたい。その者が悪しきと判断すれば宝玉を壊してくれても構わない。そうすれば能力は失われる』
その言葉を聞き、ハジメはチラリと忍を見た。
忍もそれがわかっているのか、骸の持つ宝玉を見ていた。
『話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを…』
そう締め括り、オスカーの記録映像はスッと消えた。
それと同時にハジメは頭がズキズキと痛む感じを我慢していた。
「ふぅ…」
「ハジメ…大丈夫?」
ハジメが息を吐いたのを見てユエが話し掛ける。
「あぁ、問題ない。にしても、なんかどえらいことを聞いちまったな」
「親友、どうするよ?」
忍も視線をハジメに向けて尋ねる。
「どうもしねぇよ。だいたい、勝手に召喚して戦争に参加しろなんて神だぞ? そんなん無視だ、無視。この世界がどうなろうと知ったことじゃねぇしな。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだろ?」
そんなハジメの言葉に…
「ハッ、違ぇねぇ」
忍は同意するように笑った。
「………………」
「ユエは、気になるのか?」
ユエの反応を見てハジメが聞いてみると…
「私の居場所はここ……他は知らない」
そう言ってハジメの手を取って寄り添う。
「そうか…」
少し照れくさそうな表情をするハジメに…。
「ごちそうさまで…」
やれやれといった感じに忍が肩を竦める。
「あ~…それとなんか新しい魔法………神代魔法ってのを覚えたみたいだ」
照れ隠しにハジメはそう言っていた。
「覚えたみたいってどういうこったよ?」
「なんつーか…この魔法陣から頭に直接覚えさせられたみたいな感じだな」
その言葉に…
「……大丈夫?」
ユエが心配そうにハジメを見る。
「おう。しかもこの魔法、俺のためにあるような魔法だ」
「「どんな魔法(だ)?」」
2人からの同じ問いにハジメは…
「え~と…生成魔法だな。魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成出来るんだ」
そう答える。
その答えに目を丸くしたのはユエだった。
「……アーティファクト、作れる?」
「そういうことだな」
「マジかよ……アーティファクトのバーゲンセールか?」
ユエの言葉とハジメの肯定に忍も驚いた様子になる。
「お前らも覚えたらどうだ? なんか魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうの言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」
そう言うハジメだが…
「……錬成、使わない…」
「右に同じく」
ユエと忍はそういうのは使えないのだ。
「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代魔法だぞ? 覚えておいて損はないんじゃないか?」
「……ん、ハジメがそう言うなら…」
「ま、確かにこういうのって使わなくてもあるだけでなんか意味ありそうな気はするしな」
そう言ってユエと忍もそれぞれ魔法陣の中に入って生成魔法を習得した。
魔法陣の中に入った瞬間、オスカーの映像がリピートされたが、3人とも無視した。
「どうだ?」
「……ん、覚えた。けど、アーティファクトは難しい」
「だな~」
ユエと忍は微妙な表情だった。
「とりあえず、ここはもう俺らのもんだし、あの死体は片付けるか」
「……ん、畑の肥やし…」
「いや、アンタら…死者に鞭打つなよ…」
この中で唯一(?)の常識人が親友とそのヒロインに苦言を呈す。
その後、忍の軽い説教でちゃんとしたお墓(と言っても畑の端に埋めて墓石を立てただけのシンプルなもの)を作って供養させました。
埋葬を済ませた後、ハジメはオスカーが指に着けてた指輪と左手に持っていた宝玉を確保し、書斎へと向かう。
指輪には十字に円が重なった紋様が刻まれており、それが書斎や工房にあった刻印の紋様と同じだったためである。
宝玉を確保したのは忍に頼まれたからである。
少し考えを咀嚼する時間が欲しいらしい。
そして、書斎を調べると…
「ビンゴ! あったぞ、ユエ、忍!」
「んっ」
「うっし」
3人から歓喜の声が上がる。
つまり、地上に出る方法が書かれた設計図を見つけたのだ。
三階の神代魔法を習得させる魔法陣はそのまま地上にある魔法陣と繋がっているらしい。
ただ、オルクスの指輪を持っていないと起動しないように作られているようだ。
その他、工房にも色々なアーティファクトや素材類が詰まっていることが判明し、ハジメの眼が妖しく光った。
「……ハジメ、これ」
他のところを探っていたユエがハジメに何やら一冊の本を持ってきた。
「うん? これは…」
オスカーの手記のようで、かつての仲間と覇王と呼ばれた獣達との日常を綴っていた。
そこには他の6人の迷宮に関することも書かれていた。
「つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入ると?」
「……かも」
「お約束過ぎんだろ…」
手記によればオスカー同様に他の6人の解放者達の迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意があるということが書かれていた。
但し、どんな魔法かまではわからなかったが…。
「……帰る方法、見つかるかも」
ユエの言葉にハジメと忍は顔を見合わせた。
「だな。これで今後の方針も決まった」
「地上に出て他の迷宮を攻略する、だろ?」
「あぁ!」
「んっ」
神代魔法を習得ていけばいずれ帰還のヒントが得られるだろうと考えたハジメと忍は他の大迷宮の攻略を目標にした。
書斎での探し物を終え、一行は一度リビングまで降りた。
「ふむ…」
ソファに座ったハジメが思案顔になる。
「……どうしたの?」
ユエが気になってハジメに尋ねると…
「ユエ、忍。しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは山々だが…せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては申し分ない。他の大迷宮を攻略するにしても、ここで可能な限りの準備をしておきたい。どうだ?」
そんなハジメの提案に…
「俺はいいぜ。その宝玉のこともあるしな」
「……ん、ハジメと一緒ならどこでもいい」
忍はやはり覇王に関して考えを纏めたいらしい、ユエに関しては完全にハジメと一緒にいたいからだろう。
そうして3人は可能な限りの準備を行うことにした。
ただ…ハジメがユエに食べられることなんて場面もあり、忍は非常に居づらくなったが…。